ケーススタディー ｜ Case Study 伊藤園が「ポケモンGO」自販機を展開 売り上げが大幅に増加 自社の自動販売機をゲーム「ポケモンGO」に登場するスポット「ポケストップ」に設定し、大幅な売り上げ増を実現。 今後も、ゲームの世界観を守りながらポケストップに設定する自販機の数を増やし、さらなる売り上げ拡大を目指す。 「当 社の自動販売機を『ポ 契約を締結。2月10日から、全国の自 ン向けゲーム「Ingress」だった。 ケストップ』にしたと 販機のうち約1800台と、子会社を通 IngressはポケモンGOの前身に ころ、売り上げは大幅 じて展開するコーヒーチェーン店 当たるゲーム。利用者が緑と青のチ 「タリーズコーヒー」の一部の店舗 ームに分かれて陣地を奪い合うもの こう明かすのは伊藤園自販機部販 を、ポケストップや利用者同士で戦 で、現在もコアなファンを引きつけ 促課の有野元詞課長だ。有野氏の言 う拠点の「ジム」に設定した。その成 続けている。I n g r e s sもポケモン うポケストップとは、スマートフォ 果が早くも表れ始めている。 GOと同様に、リアルの世界で特定の に増加した」 ン向けゲームアプリ「ポケモンGO」 に登場するスポットのこと。ポケモ ポケGOに先駆けIngressを活用 場所に近づくことでゲーム上のアイ テムを得られる。 ンGOはAR（拡張現実）を活用した コンビニエンスストアなどとの競 伊藤園はポケモンGOに先駆けて、 ゲーム。スマートフォンの持つ位置 争が激しく、低迷する自販機市場。 2015年からこのIngressを使った取 情報と連動しており、リアルの世界 この立て直しは、自販機事業を展開 り組みを進めてきた。アイテムを得 でポケストップに設定されている場 する多くの飲料メーカーの頭を悩ま られるスポットに自販機を設定した 所に実際に近づくことで、ゲーム上 せている。伊藤園も「この10年はず ほか、販促キャンペーンもこれまで4 のアイテムを得られる。駅や神社、 っと苦戦していたものの、有効な策 回実施している。キャンペーンは、 道路脇に建立された銅像などが、ポ を打ち出せていなかった」 （有野氏） 。 対象となる自販機で対象商品を購入 ケストップとして設定されることが 最大の課題は「そもそも自販機の すると、ゲーム上のアイテムなどが 多い。 前にすら来てもらえない」ことだっ もらえるといったもの。 伊藤園は、ポケモンG Oを開発す たと有野氏は言う。この状況を打開 このキャンペーンは大きな成果を る米ナイアンティック、そしてポケ するきっかけとなったのが、ナイア 上げている。 「その日の朝に自販機 モン（東京都港区）と公式パートナー ンティックの開発するスマートフォ に補充した対象商品が、夕方には既 に欠品ということが、至るところで 「Ingress」を活用し た伊藤園のキャン ペーン 発生した」 （有野氏） 。また、アイテム を取得したいゲーム利用者の多く が、実際に自販機の近くまで足を運 び、ついでに飲料を購入するという 行動を取っていることも、売り上げ の増加につながっている。 この事象に対して、有野氏以上に 驚いたのが営業担当者だ。目立たな い場所にあった自販機の売り上げが 突然、伸び始める。その事実によっ て、身をもってIngressの効果を実 10 感した。売り上げに直結する成果か た。入念な下準備をした上で、約 ら、社内でもより積極的にIngress 1800台をポケストップやジムとして を活用しようという機運が高まって 設定した。 いった。 ポケストップに設定する自販機の こうした最中、有野氏はポケモン 数の拡大にも慎重だ。営業担当者か GOの開発が進んでいることを知る。 らは、自分の担当する自販機をポケ Ingressでの成功体験があったため、 ストップに設定したいという声がひ 営業担当者からは率先して活用した っきりなしに届くという。しかし、 いという声が寄せられた。それは有 安全性やゲームバランスを考慮する 野氏も同じだった。 と、すべてをポケストップに設定す ただ、ポケモンG Oは提供が始ま ることはできない。 ってすぐ、希少なポケモンが現れる そこで、審査のために自販機ごと 地域に人が殺到するといった社会現 に申請書を提出してもらうようにし 象を引き起こしていた。自販機は住 た。設置場所の写真や付近の交通量、 宅地や道路脇に設置されていること 正確な緯度経度情報などを審査し、 も多い。その自販機をポケストップ さらに360度のパノラマ画像を見ら に設定した場合、そこにゲーム利用 れる「Googleストリートビュー」な 合わせが増えている」 （有野氏） 。 者が集まって、近隣の住民に迷惑を どを使って、1台ずつ設置場所を確認 今後はIngressでも実施してきた、 かけたり、自動車との接触といった している。もしポケストップとして 販促キャンペーンの展開を視野に入 危険な事故を引き起こしたりする恐 適さなければ、設置場所のオーナー れる。ただし、活用する上で注意す れがあった。実際にこのような事態 に、近隣に迷惑をかけない場所に移 べきは、 「ゲームの世界観を崩さない が起こったら、伊藤園のブランドの 動することは可能かを打診する。こ こと」と有野氏は言う。 毀損につながりかねない。 のような配慮をしながら拡大を進め 例えば、Ingressとの取り組みで ている。 は、 「XMプロファイラー」というゲ ポケモンGOの活用を始めてから ームと連動した専用の機械まで開発 そこで安全性の確保を優先した。 まだ2カ月程度だが、 「ポケストップ した。全国で4カ所に設置されてい ポケモンG Oの活用に先駆けて、ま やジムに設定した自販機の対前年比 るこの機械は、伊藤園のロゴなどが ずは既にIngressと連携している自 販売数量は、他の自販機と比較して 印刷されておらず、しかも自販機で 販機の設置状況を改めて洗い出し 大幅に増加している」 （有野氏）。運 すらない。あくまで、ゲームをより た。ゲームと位置情報を連動してポ 営する上では、ポケモンG Oの攻略 楽しむための機械だ。こうしたゲー ケストップにするには、自販機が設 サイトなどを参考にしながら、希少 ムの世界観を投影した機械を開発し 置されている場所の正確な緯度経度 なポケモンが出現する地域の近くに て利用者を高揚させることが、ブラ 情報が必要になるため、そういった ある自販機は品切れを起こさないよ ンドのファン作りや売り上げ貢献に データもそれぞれの自販機を担当す うに営業担当者に呼びかけて、販売 つながると見る。 る営業担当者を介して取得した。 機会の損失を防いでいる。 ポケモンG Oとの取り組みでも、 こうした調査を進めた結果、既に 売り上げの増加だけではなく、自 ゲームの世界観を反映した企画を 撤去されていた自販機や、場所が移 販機の新規設置場所の開拓にもつな 実施して、自販機のさらなる売り上 動されてポケストップには適さなく がっている。 「本企画の発表後、伊藤 げ拡大につなげたい考えだ。 なった自販機などを候補から除い 園の自販機を設置したいという問い 活用に当たっては安全性を重視 ポケモンGOのユーザーに設置場所を知って もらうため、自販機をポケストップに設定 （中村 勇介） 2 0 17. 0 5 日経デジタルマーケティング 11
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