子宮がん・卵巣がんの受診から診断、 治療、経過観察への流れがわかります。 1 子宮がん は じめに 子宮がんは発生する部位により子宮 ない治療法の開発に努めてきました。 頸がんと子宮体がんに分類されます。 診断 同じ子宮に発生するがんであるにもか 子宮頸がん かわらず組織型、進行様式、治療法は 1.子宮頸部細胞診 まったく異なるため、別個のがんとし 主に子宮がん検診で行われている検 て治療法を選択する必要があります。 査です。子宮頸部表面全体を擦りその 我々は以前より手術療法・放射線治 部分の細胞を採取し、顕微鏡でがん細 療・化学療法を併用して根治を目指す 胞や前がん病変の有無を検査します。 集学的治療を行ってきました。当科は 2.子宮頸部拡大鏡検査(コルポス 子宮頸がんおよび体がん治療ガイドラ コープ) インの作成にも関わっており、国内の 細胞診で異常が出た場合、コルポス 標準治療の確立に向け貢献してきまし コープという拡大鏡で、子宮頸部粘膜表 た。また、国内の代表的がん治療施設 面を拡大して観察します。異常があれ と共同して新しい抗癌剤療法の開発試 ば、その部位より組織検査を行います。 験(多施設共同臨床試験)にも多数取 3.子宮頸部組織診(生検) り組んでいます。 子宮頸部の一部を採取し顕微鏡で検 九州大学病院では、婦人科、放射線 査します。組織診はより精密な検査 科、病理学部門の専門医が、光学医療 で、前がん病変である異形成の程度(軽 診療部、検査部、手術部、薬剤部、看 度・中等度・高度)や、がんの進行度 護部などの協力を得て、子宮がんの診 (上皮内がんや微小浸潤がん・浸潤が 断と治療を包括的かつ集学的に行って ん)を診断します。 います。以前は一般的に、がんを治す 4.子宮頸部円錐切除術 ためであれば患者さんの生活の質 子宮頸部円錐状に切除して検査しま (QOL:quality of life)を損ねても構 す。病変が奥にあり組織診のみでは診 わないという考えが支配的でした。当 断が不十分な場合や、がんが疑われて 科では、かねてよりがんを単に治すだ も上皮内がん・微小浸潤がん・浸潤が けでなく、患者さんのQOLも損なわ んの判別がつかない場合等、主として 2 Uterine Cancer 検査目的で行います。また異形成や上 を子宮鏡検査(内視鏡検査)とともに 皮内がんの場合には本手術が治療とな 行うこともあります。 る場合もあります。通常短期入院で行 3.画像診断 います。 組織診で子宮体がんと診断された 5.画像診断 ら、病巣の大きさと拡がりを調べます。 組織診で子宮頸がんと診断された 内診と各種の検査(超音波検査、CT検 ら、 病巣の大きさと拡がりを調べます。 査、MRI検査など)を行い、がんが子 内診と各種の検査(膀胱鏡検査、直腸 宮の筋層や頸部まで浸潤していない 鏡検査、胸部X線検査、尿路造影検査、 か、遠くに転移していないかについて CT検査、MRI検査など)を行い、がん 調べます。 が近くの組織に浸潤していないか、遠 くに転移していないかを調べます。 子宮体がん 1.子宮内膜細胞診 主に子宮体がん検診で行われている 検査です。子宮内腔に細長い器具を挿 入して子宮内膜の細胞を採取し、顕微 鏡でがん細胞や前がん病変の有無を検 査します。 〈子宮頸がんの進行期分類(日産 婦2011、FIGO2008) 〉 Ⅰ期:がんが子宮頸部に限局するもの (体 部 浸 潤 の 有 無 は 考 慮 し な い)。 ⅠA期:組織学的にのみ診断できる 浸潤がん。 Ⅰ A 1 期:間 質 浸 潤 の 深 さ が 3 mm以内で、広がりが 2.子宮内膜組織診(生検) 7 mm を こ え な い も 子宮内腔に細長い器具を挿入して子 の。 宮内膜の一部を採取し、顕微鏡で検査 I A 2 期:間 質 浸 潤 の 深 さ が 3 します。組織診はより精密な検査で、 mmをこえるが5mm 前がん病変である子宮内膜増殖症の程 以 内 で、広 が り が 7 度、体がんの悪性度(グレード)を診 mmをこえないもの。 断します。外来での検査では診断が難 IB期:臨床的に明らかながんが子 しい場合、入院して麻酔下により広範 宮頸部に限局するもの、ま 囲な組織検査(子宮内膜全面掻爬術) たは臨床的に明らかではな 3 子宮がん いがIA期をこえるもの。 IB1期:病巣が4cm以内のも の。 IB2期:病巣が4cmをこえる もの。 か、膀胱、直腸粘膜を侵すもの。 ⅣA期:膀胱、直腸粘膜への浸潤が あるもの。 ⅣB期:小骨盤腔をこえて広がるも の。 Ⅱ期:がんが子宮頸部をこえて広がっ ているが、骨盤壁または腟壁下 1/3には達していないもの。 ⅡA期:腟壁浸潤が認められるが、 子宮傍組織浸潤は認められ ないもの。 ⅡA1期:病巣が4cm以内のも の。 ⅡA2期:病巣が4cmをこえる もの。 ⅡB期:子宮傍組織浸潤の認められ るもの。 〈子宮体がんの進行期分類(日産 婦2011、FIGO2008) 〉 Ⅰ期:がんが子宮体部に限局するもの。 ⅠA期:浸潤が子宮筋層1/2以内 のもの。 ⅠB期:浸潤が子宮筋層1/2をこ えるもの。 Ⅱ期:がんが頸部間質に浸潤するが、 子宮をこえていないもの。 Ⅲ期:がんが子宮外にひろがるが、小 骨盤をこえていないもの、また Ⅲ期:がんが骨盤壁にまで達するも は所属リンパ節へ広がるもの。 の、または腟壁下1/3に達す ⅢA期:子宮漿膜ならびに/あるい るもの。 ⅢA期:腟壁浸潤は下1/3に達す るが、子宮傍組織浸潤は骨 盤壁にまでは達していない もの。 ⅢB期:がんが骨盤壁にまで達して いるもの。または明らかな 水腎症や無機能腎を認める もの。 Ⅳ期:がんが小骨盤腔をこえて広がる 4 は付属器を侵すもの。 ⅢB期:腟ならびに/あるいは子宮 傍結合織へ広がるもの。 ⅢC期:骨盤リンパ節ならびに/あ るいは傍大動脈リンパ節転 移のあるもの。 ⅢC1期:骨盤リンパ節陽性のも の。 ⅢC2期:骨盤リンパ節への転移 の有無にかかわらず、 Uterine Cancer 傍大動脈リンパ節陽性 ますが、将来の妊娠を希望され、子宮温 のもの。 存が必要な場合は子宮頸部円錐切除の Ⅳ期:がんが小骨盤腔をこえている みで経過をみることもあります。単純 か、明らかに膀胱あるいは腸粘 子宮全摘出術では次図のように子宮頸 膜を侵すもの、あるいは遠隔転 部支持組織を子宮にごく近い部分で切 移のあるもの。 断し、腟壁はほとんど摘出しません。 ⅣA期:膀胱ならびに/あるいは腸 粘膜浸潤のあるもの。 すなわち良性の子宮筋腫などに行う子 宮摘出の方法と大差ない、身体に優し ⅣB期:腹腔内ならびに/あるいは い術式で治療できます。閉経後であれ 鼠径リンパ節転移を含む遠 ば、同時に両側の卵巣、卵管も切除しま 隔転移のあるもの。 す。リンパ節の摘出を行う場合もあり ます。大きくおなかを切らずに、腹腔 鏡を用いて手術を行う場合もあります。 外 科的治療 卵管 子宮頸がん 子宮 上皮内がん 子宮頸部レーザー蒸散術または子宮 頸部円錐切除術を行います。 子宮底 卵巣 卵管采 子宮頸部 子宮底 卵管 外子宮口 子宮 腟 ⅠA2期 卵巣 卵管采 子宮頸部 準広汎子宮全摘出術を行います。こ の術式は子宮頸部支持組織の切除範囲 外子宮口 腟 が単純子宮全摘出術と後述の広汎子宮 全摘出術の中間の術式で、基靭帯の一 ⅠA1期 部および少量の腟壁を子宮とともに切 原則として単純子宮全摘出術を行い 除します。よって、広汎子宮全摘出術 5 子宮がん で認めるような排尿困難をきたすこと 卵管 は少ない術式です。 子宮 ⅠB1期〜ⅡB期 子宮底 広汎子宮全摘出術を行います。本手 術では次図のように、子宮頸部支持組 卵巣 子宮頸部 卵管采 織を骨盤壁に近いところで切断し、 腟、 基靭帯(排尿神経を含む)を広く切除 外子宮口 腟 し、同時に骨盤リンパ節の郭清および 傍大動脈リンパ節の生検を行います。 そのため術後に排尿困難(神経因性膀 子宮体がん 胱)が生じたり、足がむくんだり(リ 単純子宮全摘出術、両側付属器摘出 ンパ浮腫)することがあります。当院 術が基本術式でそれに加えて、正確な では靭帯切除の際、可能な例では排尿 進行期決定のため、骨盤および傍大動 関連神経を残す「神経温存術式」を積 脈リンパ節の郭清または生検を行いま 極的に行っています。開腹後、最初に す。組織型によっては腸を覆っている 行う傍大動脈リンパ節の生検で転移が 脂肪の網(大網)を切除することもあ 明らかな場合、術式を変更したり、そ ります。お腹の中に病気が拡がってい のまま閉腹して放射線治療に移行する るような場合は腸管切除も含め、卵巣 ことがあります。また、ⅡB期の場合 がん根治術に準じた拡大手術をするこ は手術療法でなく、放射線療法を選択 ともあります。また、初期子宮体がん することもあります。 に対しては腹腔鏡を用いた低侵襲手術 当院では、1)初期の浸潤子宮頸が を行っています。 んの患者さんに対して将来の妊娠を可 能とする広汎ないしは単純子宮頸部摘 出術(トラケレクトミー)や、2)骨 内 科的治療 盤リンパ節の摘出を最小限にするため 子宮がんは主に、子宮頸部にできる のセンチネルリンパ節検査などの国内 子宮頸がんと体部にできる子宮体がん でも少数の施設でしか行われていない の二つに分けられます。基本的には別 最先端の医療に取り組んでいます。 の悪性腫瘍として治療されています。 6 Uterine Cancer 卵巣がんに比べて化学療法の効果は低 され、今後、放射線療法に替わり得る いと考えられており、手術療法以外で 可能性があります。当科では若年の浸 は放射線治療などが主として行われて 潤子宮頸癌症例に対して、妊孕性温存 いました。しかし最近では、新しい抗 を目的とした子宮頸部摘出術(トラケ がん剤が開発され化学療法も比較的効 レクトミー)を行っていますが、術後 果があることがわかり、特に子宮体が に追加治療を要する場合、放射線療法 んでは積極的に行われるようになって は卵巣機能を廃絶するため、原則とし きました。 て化学療法を選択しています。 A.子宮頸がんに対する化学療法 B.子宮体がんに対する化学療法 子宮頸癌に対する治療は、卵巣癌お 子宮体癌は比較的早期に発見される よび子宮体癌と異なり、化学療法はい ことが多く、手術療法のみで根治でき まだ一般的ではなく、放射線療法が主 る例も多い疾患ですが、Ⅲ、Ⅳ期の進 体です。しかし、広汎子宮全摘出術後 行例では術後の追加療法が必要となる に骨盤への追加照射をすると、リンパ 場合もあります。歴史的に欧米諸国で 浮腫、腸閉塞などの重篤な合併症を引 は術後療法として放射線療法が行われ き起こすことがあり、化学療法の利点 てきた経緯があり、放射線療法が選択 が近年、注目されています。化学療法 されることも多かったのですが、日本 としてはブレオマイシン+ビンクリス では多くの施設で化学療法が行われる チン+マイトマイシン+シスプラチン ようになってきました。化学療法とし 併用療法(BOMP療法)やブレオマイ てはアドリアマイシンとシスプラチン シンをペプレオマイシンに変更した の有用性が報告され、アドリアマイシ POMP療法などが行われることがあ ン+シスプラチン併用療法(AP療法) りますが、放射線療法を凌駕する有効 が行われていました。その後はパクリ 性は報告されていません。しかし、最 タキセル+カルボプラチン併用療法 近、子宮頸癌に対してパクリタキセル (TC療法)がAP療法に対して治療効 +カルボプラチン療法(TC療法)を行 果が劣らず、毒性もAP療法に比べ軽 い、放射線療法のような有害事象なく 度であることが知られるようになり、 同等の治療成績が得られることが報告 最近ではTC療法が選択されることが 7 子宮がん 多くなりました。実際に我々の施設で 対する放射線治療の効果は高く、手術 も子宮体癌に対してはTC療法を行っ 療法に匹敵する治療成績が得られてい ています。若年者の子宮体がんで子宮 ます。しかし、それぞれの治療方法に 温存の希望がある方には、がんの組織 は利点と欠点があり、治療法の選択に 型の分化が良く、ごく早期である場合 際しては検討が必要です。当科では治 に限り、黄体ホルモンを内服してがん 療前に一度入院して頂き詳しい検査を を治療するホルモン療法を行っていま 行った後、その患者さんにとって手術 す。良く効けば子宮を摘出することな 療法と放射線治療のどちらがより良い く治癒できることがあり、妊娠して出 か、十分に検討してから患者さんとも 産された方もいます。 相談のうえ治療法を決定しています。 治療は原則的に外部照射(体の外か 放 射線治療 ら放射線を照射)と腔内照射(子宮腔 内および腟内に線源を挿入して照射) 子宮がんに対する放射線治療は長い を組み合わせ、1ヶ月半から2ヶ月か 歴史を有しており、その有効性は広く けて照射を行います。抗がん剤の一つ 認められています。一方で、消化器症 であるシスプラチンの毎週投与を併用 状(腹痛、下痢、下血)、皮膚障害、骨 した同時化学放射線療法は、主治療で 髄抑制などの色々な副作用も知られて ある放射線治療の効果に抗がん剤の上 おり、むやみに放射線治療を行うこと 乗せ効果が期待でき、放射線治療単独 はしません。放射線治療は基本的に照 より有効とされています。当科でもこ 射野内のがん細胞にしか効果がないの の治療法をいち早く取り入れて治療を で、他の治療法である化学療法や手術 行ってきました。 療法と巧みに組み合わせて活用してい 手術後の病理組織検査で、子宮外へ く必要があります。ここでは、子宮頸 の病巣の広がりやリンパ節転移が判明 がんと子宮体がんに対する放射線治療 した場合に行う追加の放射線治療を術 について概説します。 後照射と言いますが、近年では抗癌剤 による術後化学療法を行うこともあり 1.子宮頸がん 子宮頸がん(特に扁平上皮がん)に 8 ます。再発の場合も化学療法と放射線 治療のいずれか(場合によっては手術 Uterine Cancer 療法も考慮されます)が選択されます また、手術後の病理組織検査で子宮 が、どちらを選択するかは患者さんご 外への病巣の広がりやリンパ節転移が とに十分に検討して、相談のうえ決定 判明した場合に、術後照射を行うこと されます。 があります。この場合、術後追加療法 放射線照射の方法として、特に有用 として放射線治療と化学療法のいずれ と考えられる場合は、コンピュータの が良いかについて、患者さんごとに全 助けを借りて腫瘍のみに放射線を集中 身状態やそれぞれの治療法の副作用等 して照射する強度変調放射線治療 を総合的に検討して決定していきます。 (IMRT)や、がん組織に直接放射線源 を刺入する組織内照射が行われること もあります。 臨 床研究 当施設では以下の項目に関する臨床 2.子宮体がん 研究を行っています。 子宮体がんに対する治療法の第一選 択は外科手術です。これは、子宮頸が んに比べ放射線感受性が低いと考えら れることが関係しています。しかし、 1.子宮がんに対する集学的治 療および先進的治療の開発 集学的治療とは手術療法・化学療法・ 高齢や合併症などの理由による手術不 放射線治療などを併用して根治を目指 能例に対しては放射線治療が選択さ す治療のことで、当施設では以前より、 れ、その有効性が認められています。 婦人科悪性腫瘍(外陰癌、腟癌、子宮頸 根治的放射線治療は、全骨盤外部照射 癌、子宮体癌、卵巣癌、卵管癌、腹膜 (体の外から放射線を照射)と腔内照 癌、絨毛性疾患など)に対する集学的 射(がんの存在する部位の子宮腔内お 治療の開発に取り組んできました。例 よび腟内から照射)を組み合わせるこ えば子宮頸がんに対しては“手術療法+ とがほとんどですが、子宮頸がんの放 同時化学放射線療法あるいは化学療法” 射線治療のように標準的照射方法の指 を、子宮体がんに対しては“手術療法+ 針は確立しておらず、患者さんごとに 多剤併用化学療法”による集学的治療を 全身状態の評価を考慮し照射法を検討 行い、対外的にも良好な結果を得てい しています。 ます。また国内の代表的がん治療施設 9 子宮がん と共同(多施設共同研究)して、新しい 汎子宮頸部摘出術(トラケレクト 治療法の開発に取り組んでいます。子 ミー) 宮体がんに対する腹腔鏡手術について 4)骨盤リンパ節郭清術後に生じる下 は健康保険が適応される施設基準を満 肢リンパ浮腫に対する予防法およ たしており、平成26年より初期の病変 び発症時の複合療法 に対して腹腔鏡下根治手術を行ってい 5)子宮頸がん手術時のリンパ節摘出 ます。また、先進医療申請を目指して の縮小による術後下肢リンパ浮腫 子宮頸癌に対する腹腔鏡下広汎子宮全 回避を目指したセンチネルリンパ 摘出術、子宮頸がん・子宮体がんに対 節検査併用手術 するロボット手術も行っています。 6)将来の妊娠を希望する子宮体癌前 がん病変あるいは早期体がんの患 2.患者さんに優しいQOL重視 の子宮がん治療の開発 7)有効な治療法の無い進行再発子宮 以前は一般的に、がんを治すためで がんの患者さんに対する、がんと あれば患者さんの生活の質(QOL: の共存による延命を目指したがん quality of life)を損ねても構わないと 休眠化学療法 者さんに対する黄体ホルモン療法 いう考えが支配的でした。当施設では 8)より低侵襲な手術を目指した子宮 かねてより、がんを単に治すだけでな 頸がん・子宮体がんに対する腹腔 く患者さんのQOLも損なわない治療 鏡下手術、ロボット手術 法の開発に努めてきました。 などに取り組んでいます。 具体的には、 1)子宮頸部前がん病変に対するレー ザー手術 3.子宮がんの病態解明や治療 法に関する前臨床研究 2)子宮頸がんに行う広汎子宮全摘出 当施設が長年培ってきた形態病理診 術後の排尿障害を軽減する神経温 断学の手法に加えて分子生物学的手法 存術式 を導入し、新たな婦人科がんの病態解 3)将来の妊娠を希望する子宮頸がん 明に取り組んでいます。今までも、遺 の患者さんに対して、子宮頸部の 伝的にがんになりやすい体質、がんが みを摘出する腹式単純あるいは広 浸潤や転移をしやすい性質および血管 10 Uterine Cancer 新生を誘導しやすい性質、抗癌剤治療 頂いて治療法の有効性や安全性を調 に耐性となる新しい分子機構の解明な べ、より良い治療法を確立するための どを行ってきましたが、加えて最近で 研究のことです。子宮がんに対する臨 は臨床応用に向けた新たな研究も推進 床試験は、主に手術療法に関するもの しています。 と抗がん剤を用いた化学療法、免疫療 具体的には、 法に関するものがあります。 1)子宮体がん幹細胞の生物学的特性 の解析とヒストン脱アセチル化阻 害剤などを用いたがん幹細胞に対 する特異的治療法の開発 2)当施設で命名した新規がん関連分 子RCAS1の婦人科癌における生 物学的機能の解明 1.手術療法に関するもの 1)妊孕性温存を希望する子宮頸が ん患者に対する子宮頸部摘出術 (トラケレクトミー) 近年、未婚あるいは未産婦の子宮頸 がん症例が増加してきており、妊孕性 3)当施設で命名した新規がん関連分 温存手術の確立が必要となってきてい 子NECC1遺伝子の絨毛癌ないし ます。そこで当科では標準治療として は子宮体癌がん化機構における関 子宮摘出を要する子宮頸がん症例のう 与の解明 ち妊孕性の温存を強く希望する症例に 4)子宮がんにおける細胞老化の機構 解析 対し、病巣を含んだ子宮頸部のみを摘 出後、子宮と腟を吻合して再建する腹 などに取り組んでいます。以上の取り 式単純子宮頸部摘出術ないしは腹式広 組みをもとに、当施設では今後も難治 汎子宮頸部摘出術を行っています。 性悪性腫瘍に対する新しい治療法の開 発や、個々の症例に対して最も適切な 2)腫瘍径2cm以下の子宮頸がん 治療を提供する個別化治療の開発に取 ⅠB1期に対する準広汎子宮全 り組んでいきたいと思っています。 摘術の非ランダム化検証的試験 (JCOG1101) 臨 床試験 臨床試験とは、患者さんにご協力を 子宮頸がんⅠB1期に対する標準手 術は広汎子宮全摘出術ですが、この術 式には合併症が多いことが知られてい 11 子宮がん ます。ⅠB1期の中でも早期のものに に比較的多量の抗癌剤投与をさらに行 対して、体に優しく合併症の少ない準 うと副作用のみが強く出てしまい、治 広汎子宮全摘出術を行っても現在の標 療の継続が困難となることが考えられ 準治療である広汎子宮全摘出術に劣ら ます。そのためこのような場合、1回 ないかどうかを検討します。 の投与量を減らして分割投与すること で副作用を軽くし、治療を続けること 2.化学療法に関するもの 1)局所進行子宮頸がん根治放射線 で病気の進行を長期間抑制することを 期待する治療法(がん病巣と共存して 療法施行例に対するUFTによ QOL良く延命を目指すがん休眠療法) る補助化学療法のランダム化第 を試みています。この治療法では、一 Ⅲ相比較試験(GOTIC-002) 定量のユーエフティ内服に加えるイリ 子宮頸がんの標準治療の一つであ ノテカンの1回点滴投与量を患者さん る、同時化学放射線療法による根治治 自身の副作用に基づき増減し、2週間 療の治療成績をより向上させるため、 毎に投与しています。 根治治療後、経過観察群と経口抗がん 剤であるUFT補助化学療法群との間 で有効性と安全性を比較検討していま す。 3.免疫療法に関するもの 1)局所進行子宮頸がん根治放射線 療法施行例に対するZ-100第Ⅲ 相アジア共同試験 2) 進行・再発子宮頸癌に対するテー 進行子宮頸がんの標準治療である同 ラード・イリノテカン/ユーエ 時化学放射線療法による根治治療の治 フティ併用化学療法(個別化投 療成績をより向上させるため、放射線 与イリノテカン/ユーエフティ 治療中にZ-100投与群と非投与群との 併用化学療法) 間で治療成績に差があるかどうかを比 従来の化学療法では十分な効果が期 待できなかった場合には、通常のよう 12 較検討しています。 卵巣がん は じめに Ovarian Cancer び発症時の複合療法 などに取り組んでいます。 卵巣がんは非常に多くのタイプ(組 九州大学病院では、婦人科、放射線 織型)に分類されるため、それぞれの 科、病理学部門の専門医が、光学医療 組織型に応じた治療法を選択する必要 診療部、検査部、手術部、薬剤部、看 があります。我々は以前より手術療 護部などの協力を得て、卵巣がんの診 法・化学療法を併用して根治を目指す 断と治療を包括的かつ集学的に行って 集学的治療を行ってきました。また、 います。 国内の代表的がん治療施設と共同し て、新しい抗癌剤療法の開発試験(多 施設共同臨床試験)にも多数取り組ん でいます。 診断 卵巣腫瘍には良性、境界悪性、悪性 以前は一般的に、がんを治すためで (がん)の3種類があり、その診断は原 あれば患者さんの生活の質(QOL: 則的に病理組織検査で行われます。こ quality of life)を損ねても構わないと のため手術前に癌の診断をするには、 いう考えが支配的でした。当研究室で 腫瘍の一部を採取しなければなりませ はかねてよりがんを単に治すだけでな ん。他臓器のがんでは手術前に腫瘍か く、患者さんのQOLも損なわない治 ら直接組織を採取できるものもありま 療法の開発に努めてきました。具体的 すが、卵巣はお腹の中(腹腔内)にあ には、 る臓器で周囲には小腸、大腸、子宮な 1.有効な治療法の無い進行再発婦人 どがあり、直接針を刺して組織を採取 科悪性腫瘍の患者さんに対する、 することは困難です。またうまく採取 がんとの共存による延命を目指し できても悪性(がん)であった場合に たがん休眠化学療法 は、針を刺したことでがん細胞を腹腔 2.卵巣癌治療に用いられるタキサン 内にばらまくことになります。した 製剤が引き起こす重篤アレルギー がって、明らかな転移がある場合など 反応を予防する薬剤の臨床試験 を除いて卵巣がんは手術前に診断する 3.骨盤リンパ節郭清術後に生じる下 ことは困難で、さまざまな検査から総 肢リンパ浮腫に対する予防法およ 合的に悪性の可能性が高いのかどうか 13 卵巣がん くは術後に行う病理組織検査で初め 3.腹水細胞診検査・胸水細胞診 検査 て、良性か悪性かの診断がつくことに 腹水や胸水が溜まっている場合に を推定してから手術を行い、術中もし なります。 は、これらを一部採取してがん細胞の 有無を調べて、手術前に卵巣がんの診 1.画像診断 断がつく場合があります。 超音波検査・CT検査・MRI検査等の 画像診断で腫瘍の大きさや特徴を検査 4.術中迅速組織診 します。良性卵巣腫瘍の場合は腫瘍の 手術中に行う組織検査で、手術で取 内容が漿液・粘液・血液などの液体や れた卵巣腫瘍を瞬間的に凍らせて、顕 脂肪等が中に溜まって、袋状に腫れて 微鏡で検査できる標本に加工し、がん いることが多いのに対し、卵巣がんの 組織の有無を検査します。当院ではこ 場合には液体の他に充実部と呼ばれる の検査を行い、手術内容(術式)を最 固まりの部分が認められることが多い 終決定しています。 のが特徴です。また腹水や胸水の有無 や転移巣の有無等、癌の拡がりも調べ ます。 5.術後組織診 手術時に摘出した卵巣、子宮、大網、 リンパ節等を術後に顕微鏡で詳しく検 2.腫瘍マーカー 査し、がん病巣の有無や拡がりを診断 卵巣腫瘍が良性か悪性かの推定に腫 します。まれに、術中迅速組織診の内 瘍 マ ー カ ー の 血 液 検 査 は 有 用 で す。 容が、術後組織診で変更になる場合が CA125、CA19-9、CEA等が主な腫瘍 あります。つまり、手術中は良性もし マーカーで、これらが異常に高値の場 くは境界悪性と診断されていた腫瘍 合には悪性の可能性が高くなります。 が、術後に悪性(がん)に診断が変わ 腫瘍マーカーは診断にも有用ですが、 る可能性は低頻度ながらあります。 治療前に高値を示した腫瘍マーカーは 治療中・治療後も繰り返し検査して、 〈卵巣がんの進行期分類(日産婦 治療効果の判定や再発のチェックにも 2014、FIGO2014) 〉 利用します。 Ⅰ期:がんが片側あるいは両側の卵巣 14 Ovarian Cancer だけにとどまっているもの。 ⅠA:がんが一側の卵巣に限局する 下。 ⅢA1:転移最大径10mmを 超える。 もの。 ⅠB:がんが両側の卵巣に限局する ⅢA2:後腹膜リンパ節転移の有 無にかかわらず、骨盤外 もの。 に顕微鏡的播腫を認める ⅠC:がんは一側または両側の卵巣 に限局し、以下のいずれかを 認めるもの。 もの。 ⅢB:後腹膜リンパ節転移の有無に ⅠC1:手術操作による被膜破綻。 かかわらず、最大径2cm以 ⅠC2:自然被膜破綻あるいは被 下の腹腔内播種を認めるも 膜(外層)表面への浸潤。 の。 ⅠC3:腹水または腹腔洗浄液の ⅢC:後腹膜リンパ節転移の有無に 細胞診にて悪性細胞が認 かかわらず、最大径2cmを められるもの。 超える腹腔内播種を認めるも Ⅱ期:がんが一側または両側の卵巣に 存在し、さらに骨盤内への進展 を認めるもの。 ⅡA:がんが子宮ならびに/あるい は卵管に及ぶもの。 ⅡB:がんが他の骨盤内臓器に進展 するもの。 Ⅲ期:がんが一側または両側の卵巣に 存在し、さらに骨盤外(上腹部) の。 Ⅳ期:腹膜播種を除く遠隔転移を認め るもの。 ⅣA:胸水中に悪性細胞を認めるも の。 ⅣB:実質転移ならびに腹腔外臓器 (鼠径リンパ節ならびに腹腔 外リンパ節を含む)に転移を 認めるもの。 の腹膜播種ならびに/あるいは 後腹膜リンパ節転移を認めるも の。 ⅢA1:後腹膜リンパ節転移のみ を認めるもの。 ⅢA1⒤:転移最大径10mm以 外 科的治療 卵巣がん根治術 手術により可能な限り病変を除去す る主たる目的と、正確に進行期を決定 15 卵巣がん する副次的目的で行います。 単純子宮全摘出術、両側付属器摘出 術、大網切除術が基本術式であり、進 内 科的治療 上皮性卵巣がんは他のがんに比べて 行期決定のため、骨盤リンパ節郭清、 化学療法(抗がん剤治療)が効きやす 傍大動脈リンパ節郭清(時に生検)を い種類のがんであると言われていま 行います。虫垂切除術も行うことが多 す。卵巣がん化学療法において、現在 く、その他お腹の中に病巣があれば、 標準治療とされているものはパクリタ 徹底的な摘出を目指します。そのた キセル+カルボプラチン併用療法(TC め、卵巣がん根治術は腫瘍減量術とも 療法)です。 呼ばれますが、残存腫瘍の大きさを1 cm以下にすることを目標とします。 卵巣癌に対する化学療法は大きく分 けて以下の4つに分類されます。 これは残存腫瘍が小さければ小さいほ ど、手術後の化学療法(抗がん剤治療) 1.術後初回化学療法 が良く効くからで、残存病巣を減らす 術後に初めて行う化学療法は寛解導 ために腸管切除や脾臓摘出まで行うこ 入療法と補助化学療法に分けられま ともあります。 す。寛解導入療法とは初回手術の後に がんが進行しており、手術を行って 残存した腫瘍病巣を消失させるために も多くの腫瘍が残ってしまうことが予 行われる化学療法です。補助化学療法 想される場合は、最初に化学療法を行 とは術後に残存腫瘍を認めないもの い腫瘍を小さくしてから手術を行う場 の、再発の予防を目的として行われる 合もあります。 化学療法です。 将来の妊娠を希望される患者さんの 場合、腫瘍の組織型(顕微鏡で見た時 のかたち) と進行期が条件を満たせば、 2.術前化学療法 進行症例で一期的な腫瘍切除が困難 子宮と片方の付属器(卵巣と卵管)の と判断される場合や、合併症のため腫 温存ができることがあります。 瘍減量を目指す手術は侵襲が大きく危 険が伴うと判断された場合などに、手 術に先立って行われる化学療法です。 16 Ovarian Cancer 3.維持化学療法 寛解後に長期生存を目的として行う な分化度が高分化であれば化学療法を 省略することもあります。 化学療法です。しかし、早期癌でも進 若年に多い組織型である悪性胚細胞 行卵巣癌でも有用性の結論は得られて 腫瘍も化学療法の対象で、特に抗がん いません。 剤が良く効くがんです。組織型として 多いのは未熟奇形種、未分化胚細胞腫 4.二次化学療法 などであり、卵巣悪性腫瘍の約5%程 再発時や初回化学療法に抵抗を示す 度を占める稀な腫瘍です。上皮性卵巣 場合に行う化学療法です。二次化学療 がんと異なり、ブレオマイシン+エト 法の選択にあたっては、初回化学療法 ポシド+シスプラチン併用療法(BEP 終了後から再発までの間隔がその奏効 療法)が行われ、70〜80%程度の奏効 率に相関することが知られています。 率が得られると考えられています。 6ヵ月以上の再発であれば薬剤感受性 再発と呼ばれ、初回化学療法と同様の 化学療法で効果が期待できます。一 放 射線治療 方、6ヵ月未満の再発や初回化学療法 現在、卵巣がんに対する治療は手術 で効果がなかったものを薬剤抵抗性再 療法と化学療法を組み合わせて行うこ 発と呼び、こちらは標準的な化学療法 とが主流であり、放射線治療の適応は が確立されていません。様々の抗癌剤 非常に限られています。具体的には、 が試されていますが、いまだ満足でき 化学療法抵抗性の再発卵巣がんなどの る効果を示しているものはありませ 症例において、有効な化学療法が無い ん。イリノテカン、トポテカン、リポ 場合にまれに放射線治療が行われるこ ゾーマルドキソルビシン、ゲムシタビ とがありますが、病巣が局所にとどま ンなどの新しい薬の効果が期待されて る症例に限定されます。また、再発・ います。 転移症例における疼痛緩和を目的とし 術後初回化学療法のコース数は、進 行期やがんの組織型を考慮して行われ て、病巣局所に対する放射線治療が行 われることもあります。 ますが、一般的に6コース行います。 ただし、ⅠA、ⅠB期でかつ組織学的 17 卵巣がん 臨 床研究 当施設では以下の項目に関する臨床 研究を行っています。 いう考えが支配的でした。当施設では かねてより、がんを単に治すだけでな く患者さんのQOLも損なわない治療 法の開発に努めてきました。 具体的には、 1.卵巣がんに対する集学的治 療および先進的治療の開発 集学的治療とは手術療法・化学療 1)卵巣癌に使われるタキサン製剤が 引き起こす重篤アレルギー反応を 予防する有効薬剤の開発 法・放射線治療などを併用して根治を 2)パクリタキセル化学療法時に発現 目指す治療のことで、当施設では以前 した末梢神経障害に対する有効薬 より、婦人科悪性腫瘍(外陰癌、腟癌、 剤の開発 子宮頸癌、子宮体癌、卵巣癌、卵管癌、 3)有効な治療法の無い進行再発卵巣 腹膜癌、絨毛性疾患など)に対する集 がんの患者さんに対する、がんと 学的治療の開発に取り組んできまし の共存による延命を目指したがん た。例えば卵巣がんに対しては“手術 休眠化学療法 療法+多剤併用化学療法“による集学 4)骨盤リンパ節郭清術後に生じる下 的初回治療を行い、再発した場合でも 肢リンパ浮腫に対する予防法およ 積極的な病巣摘出手術に加えて2次、 び発症時の複合療法 3次化学療法を行い、対外的にも良好 などに取り組んでいます。 な結果を得ています。また国内の代表 的がん治療施設と共同(多施設共同研 究)して、多くの新しい治療法の開発 に取り組んでいます。 3.卵巣がんの病態解明や治療 法に関する前臨床研究 当施設が長年培ってきた形態病理診 断学の手法に加えて分子生物学的手法 2.患者さんに優しいQOL重視 の子宮がん治療の開発 を導入し、新たな婦人科がんの病態解 明に取り組んでいます。今までも、遺 以前は一般的に、がんを治すためで 伝的にがんになりやすい体質、がんが あれば患者さんの生活の質(QOL: 浸潤や転移をしやすい性質および血管 quality of life)を損ねても構わないと 新生を誘導しやすい性質、抗癌剤治療 18 Ovarian Cancer に耐性となる新しい分子機構の解明な 床試験は、主に手術療法に関するもの どを行ってきましたが、加えて最近で と抗がん剤を用いた化学療法、免疫療 は臨床応用に向けた新たな研究も推進 法に関するものがあります。 しています。 具体的には、 1.手術療法に関するもの 1)卵巣がんに対するヒストン脱アセ 現在、卵巣がんの手術に関して新規 チル化阻害剤などを用いた新規治 に登録を行っている臨床研究はありま 療法の開発 せん。 2)当施設で命名した新規がん関連分 子RCAS1の婦人科癌における生 物学的機能の解明 3)細胞骨格関連蛋白カルポニンを 2.化学療法に関するもの 1)プ ラ チ ナ 抵 抗 性 再 発・再 燃 Mullerian carcinoma(上 皮 ターゲットとした卵巣がん腹膜播 性卵巣がん、原発性卵管がん、 種に対する遺伝子治療の開発 腹膜がん)におけるリポソーム 4)卵巣がんにおける細胞老化の機構 化 ド キ ソ ル ビ シ ン(PLD) 解析 50mg/㎡ に 対 す る などに取り組んでいます。以上の取り PLD40mg/㎡のランダム化第 組みをもとに、当施設では今後も難治 Ⅲ相試験(JGOG3018) 性悪性腫瘍に対する新しい治療法の開 難治性の卵巣癌、卵管癌、腹膜癌に 発や、個々の症例に対して最も適切な 対するPLD単剤療法の際に標準投与 治療を提供する個別化治療の開発に取 量 と さ れ て い る 50mg/㎡ に 対 し り組んでいきたいと思っています。 40mg/㎡を比較することで、同療法の 最適な投与量を検討しています。 臨 床試験 臨床試験とは、患者さんにご協力を 頂いて治療法の有効性や安全性を調 べ、より良い治療法を確立するための 研究のことです。卵巣がんに対する臨 19 卵巣がん 2)ステージング手術が行われた上 4)進行・再発上皮性卵巣癌、卵管 皮性卵巣癌Ⅰ期における補助化 癌、腹 膜 癌 に 対 す る テ ー ラ ー 学療法の必要性に関するランダ ド・ドセタキセル/イリノテカ ム 化 第 Ⅲ 相 比 較 試 験 ン併用化学療法(個別化投与ド (JGOG3020) 卵巣癌の治療では手術後に抗癌剤治 療を行うことが一般的ですが、病状が セタキセル/イリノテカン併用 化学療法) 進行・再発上皮性卵巣癌、卵管癌、 早期と判明した場合、抗癌剤治療を省 腹膜癌のうち、従来の化学療法では十 略できる可能性を拡げるため、プラチ 分な効果が期待できなかった場合に ナ併用化学療法の必要性の有無を検討 は、通常のように比較的多量の抗癌剤 します。 投与をさらに行うと副作用のみが強く 出てしまい、治療の継続が困難となる 3)進行期上皮性卵巣癌・卵管癌・ ことが考えられます。そのためこのよ 原発性腹膜癌に対する初回治療 うな場合、1回の投与量を減らして分 としての標準的なプラチナ併用 割して投与することで副作用を軽く 化学療法+ベバシズマブ同時併 し、治療を続けることで病気の進行を 用に続くベバシズマブ単独継続 長期間抑制することを期待する治療法 投与例の前向き観察研究 (がん病巣と共存してQOL良く延命を (JGOG3022) 目指すがん休眠療法)を試みています。 進行卵巣癌、卵管癌、腹膜癌の標準 この治療法では、ドセタキセルとイリ 治療は手術と化学療法ですが、術後の ノテカンの1回点滴投与量を患者さん 化学療法に腫瘍の血管新生阻害薬であ 自身の副作用に基づき増減し、2週間 るベバシズマブを加え、化学療法後も 毎に投与しています。 ベバシズマブのみを投与継続すること の有効性と安全性を検討しています。 3.免疫療法に関するもの 1)プラチナ抵抗性再発卵巣癌に対 す る ONO-4538(オ プ ジ ー ボ:抗 PD-1抗体)の第Ⅱ相試験 難治性の再発卵巣癌、卵管癌、腹膜 20 Ovarian Cancer 癌に対して腫瘍への免疫機構を活性化 ソーム化ドキソルビシンもしくはゲム する作用のあるONO-4538の単剤投 シタビン単剤療法に劣らないかどうか 与が、現在の一般的な治療であるリポ を比較検討します。 21 MEMO 九州大学病院がんセンター 22 MEMO 九州大学病院がんセンター 23 24 2016年3月
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