B日程 - 日本私立大学連盟

日本私立大学連盟平成23年度FD推進ワークショップ(新任専任教員向け)
パネルディスカッション(B日程)【速記録】
講師:上杉めぐみ 氏(愛知大学法学部助教)
出井
雄二 氏(明治学院大学心理学部准教授)
山
貴希 氏(東京歯科大学歯学部助教)
司会:耳野
健二 (本ワークショップ運営委員、京都産業大学教育支援研究開発センター副センタ
ー長、法学部教授)
司会: 平成23年度FD推進ワークショップ新任専任教員向け、ここからはパネルディスカッション
です。私はコーディネーターの京都産業大学の耳野健二です。よろしくお願いします。
報告者の3名は、昨年この会議に参加し、その成果を自身の教育で生かしている方々です。
ワークショップで何を学んだか、どのように実践しているかをお話しいただき、皆さんの参考
にしていただきたいと思います。1人15分ずつのお話の後、質疑応答があります。このワーク
ショップはフレンドリー、双方向、楽しくやるという趣旨なので、どうぞ気軽に、忌憚のない
発言をお願いします。
報告は、愛知大学法学部の上杉めぐみさん、明治大学の出井雄二さん、東京歯科大学歯学部
の山 貴希さんの順です。では、上杉さん、よろしくお願いします。
□ 参加後の変化と現在の問題意識
愛知大学の上杉です。よろしくお願いします。
昨年、私は先輩教員や保護者から、「教員を辞めたほうがいい」とまでの授業評価を受け、「どう
すればいいのか」という状態でこの研修に参加しました。私は法学部で民法を担当しています。民法
は司法試験や公務員試験で出ることから、必修ではありませんが、全学年の学生が履修しています。
法学部2年生340名の授業を持っていましたが、研修に参加する前、前期の授業評価結果は、5段階
中2.9、「授業を受けてよかった」という見解が33%という悲惨な結果でした。
しかし夏休みにこの研修を受けた後、後期の評価は6割近くが「受けてよかった」と、大きく改善
されました。本日は、研修を受けて私が行った授業改善の内容について話したいと思います。
1.参加後の改善点
1)レジュメについて
授業のレジュメは、ネット上で事前に配布するようにしました。単位取得だけが目的で授業に関
心のない学生は、私語で授業を妨害します。事前配布すると、単位目的の学生は授業に出席せず、
意欲のある学生の環境を保全することになります。また受講生が予習することにもつながり、より
質の高い授業が展開できました。
また、レジュメの情報量についても考えました。前期は情報を詰め込んでテキストのようにした
ところ、学生は「ここに書いてあるから何も書かなくていい」と、授業中はテレビを見ているよう
な状態でした。そこでレジュメの情報量を少なくしたところ、今度は板書を写すのに必死になって
授業を聞けなくなりました。現在は重要な語句だけを穴埋め形式にしたレジュメで、必要な部分は
学生が自分で書くということで落ち着きました。
2)授業の進め方
難しい法律の条文は読むのも嫌だという学生、また法律を勉強したいわけではないが法学部に入
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パネルディスカッション(B日程)【速記録】
学したといった学生が多くいます。彼らに関心を起こさせるため、講義テーマに関連する具体例を
提示するよう心がけています。私の失敗談や、新聞に載っている事例など身近な例に絡めると、習
った内容と併せて授業後に学生同士で話し合ったり、質問に来たりするようになりました。
また六法を読み上げさせたり、発言者に加点する等、ノートを取る以外の作業にも力を入れるよ
うにしました。最初は加点目当てだった学生からも、だんだんと「法律が楽しくなった」という意
見が聞かれるようになりました。限られた学生だけにならないよう、イエスかノーの問題で挙手を
させるようにもしています。動作が入ることで眠気にも効くそうです。
また「休みを入れないと頭が混乱して集中力が続かない」という意見があったので、適度な休憩
を取るようにしています。最もいいのは、授業のテーマに関連する雑談です。雑談ができない場合
は自分の失敗談やテレビの話題で、目安は授業開始後1時間です。眠気が覚めると同時に、受講生
との距離が縮まるという効果があります。前期の授業評価ではよく「高圧的な態度が嫌だ」と書か
れていましたが、雑談を入れたところ、お姉さんのように慕われるようになり、授業もアットホー
ムな雰囲気で進められるようになりました。
3)パワーポイントの活用
当初はとにかく情報を伝えたい一心で30枚ほど作っていましたが、学生から「ついていけない」
「面白くない」と言われ、試行錯誤の結果、50∼60ポイントの文字で18枚程度に落ち着きました。
また授業後にネットで公開するようにしました。授業では情報量の制限で書けなかったこともネッ
トなら書き加えられるので、欠席した学生にも対応できます。
4)任意アンケートの実施
授業の難易度、授業の進め方、パワーポイントの量、板書の見やすさ、要望等の項目で毎授業ご
とにアンケートをしました。メリットは受講生の要望がすぐに把握できる点、デメリットは、集計
が大変なことです。最初はクレームを付けたい学生が多く100枚程度出されていたものが、最後に
は20枚程度に減りました。学生の要望に応えられたということではないかと感じています。
また、受講生からの要望には、授業後にコメントを公表するようにしました。これにより受講生
は「対応してくれている」と満足し、授業が安定していったと感じます。「モニターの色が暗い」
「レジュメに間違いが多い」といったものから、だんだんと「先生はワンピースのほうがかわい
い」というものが出るようになり、それを見た学生が「あの先生の授業は楽しそうだ」と感じて、
関心の高い学生を増やすことにつながったと思います。
2.現在の問題意識
パワーポイントで示す重要部分には瞬時に反応するが、口頭でする用語の説明等には反応しない
という学生が増えてきており、テストもあまり良くないということがわかりました。彼らをどうす
ればいいかを今、考えています。
また300名超のクラスということで、ただクーラーの部屋にいたいというだけの学生もいます。
そこで私語をした場合は20点減点としたところ、ある程度効果はありましたが雑談も盛り上がらな
くなってしまいました。私語対策で有効なものがあれば教えていただきたいです。
私からは以上です。ご静聴ありがとうございました。
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司会: ありがとうございました。引き続き、出井雄二さんの報告です。よろしくお願いします。
□ 「よい授業」「よい授業者」について考える 小中学校の経験から
明治学院大学の出井です。私はもと小中学校の教員ですので、研究者というよりは授業をしてきた
立場からお話したいと思います。
1.昨年度のFD推進会議を振り返って
昨年この会議に参加しましたが、非常に楽しかったです。模擬授業でいただいたコメントは、今
でも心の支えになっています。「指されるかもしれない」という学生の立場の緊張と不安も実感し
ました。また、一番の収穫は、娘の先生と偶然この場で出会ったことです。親として挨拶するうち、
「これだけの学費を支払っているのだから、しっかり頼むよ」という保護者の思いに気づきました。
2.授業、授業者について考える
1)私自身の大失敗の例
これは小学2年生の体育の授業ですが、10秒間の映像の中に問題点が三つあります。一つ目は子
どもの発達が劣っていることです。2年生なのにまったくボールが投げられません。二つ目は、そ
の投げ方を見て、指導者である私が笑っていることです。非常によくありません。三つ目は組織の
問題で、子どもの問題が放置されていたことです。実はこの子は左利きで、どちらで投げていいか
わからず、右手で投げていたのです。1年生のときの先生はどう指導していたのか。短い映像です
が、現在の教育が抱える問題点が入っています。
2)よい授業、悪い授業の特徴
よい授業に共通していえることは、子どもが意欲的に活動し、確かな成果が得られる、あるいは
狙いが達成されることだと思います。私はたくさんの先生の授業を見てきましたが、よい授業者に
共通しているのは、授業の狙いが明確で、様々な授業のスタイルを柔軟に適用することです。子ど
もに何を身に付けさせたいのかがはっきりしており、その達成のために、適切な授業方法を選択で
きる先生です。特徴としては、話が短く、身振り手振りがあり、絶えず「あなた、いいですよ」
「ダメですよ」とフィードバックして、子どもにとって話がわかりやすい先生ということです。
一方、悪い授業はその逆です。私は初任者研修の担当者をしていましたが、悪い授業には次のよ
うな特徴があります。何を言っているのかわからない、話が長い、身振り手振りがない、ほめない。
要は何をしているのかわからない授業です。
面白いのは初任者と指導力不足教員が似ていることです。年配でも子どもの指導ができない先生
は初任者と同じです。ただ初任者は改善されますが、指導力不足教員は改善の意欲がありません。
自分を変えようとせず、ワンパターンです。職員室の机や教室が乱雑なのも特徴です。頭の中も身
の回りも整理整頓ができないのではないかと思います。
3.授業改善の手立て
私は一昨年まで小中学校の教員で大学の授業は未経験ですから、いろいろと手立てを考えました。
一つは学生からの授業評価です。楽しかったか、理解できたか等を毎時間評価してもらうように
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しています。5点満点で、最終平均4.6点でしたので「まあできたかな」と思っています。むしろ
2回目の評価で平均4.9点だったのが逆にプレッシャーになり頑張れました。
授業ごとの点差もあります。授業ではいつも話し合いの場を設けているのですが、テーマについ
て議論の余地のあるときは高評価、「先生のおっしゃる通り」と議論の余地がないときは低評価に
なる傾向のようです。
また、私はいつもワイヤレスマイクを手に教室をぐるぐる回りながら授業をします。後ろのほう
でDSをしたりする学生がいますが、要はその防止です。「書けてる?」などと声をかけてプレッ
シャーを与えます。学生の様子は後ろから見るとよくわかるのです。
あるベテランの老教師は、絶えず教室を動き回りながら、常に「書け」「聞け」「調べろ」と何
かをさせます。「何やってるんだ」「そこは違う」とひたすらしゃべり、たまにほめます。授業ス
タイルとしては古いのですが、常に緊張感があり、結果としてよい授業です。
もう一つの工夫は座席指定です。受講者数が103人だからできるのですが、毎回違う学生が座席
を決めて、レジュメと一緒に座席表を配ります。私が座席表を手に教室をうろうろすれば、学生は
「先生が何かチェックしている」となります。私もどの生徒かすぐわかるので、いい効果がありま
す。
4.まとめ
私が授業で意識していることは、メリハリと、何らかのフィードバックをすることです。授業は
まず書かせて、書いた後にグループで話し合い、発表という流れです。加点があるので結構手を挙
げてくれます。発表の後は全員で拍手します。
私は、大学におけるよい授業とは何かを、常に考える続けることが必要だと思います。また、
悪い授業を反面教師として「これだけはしない」ということを考えながら授業をしています。以上
で私の報告とします。ありがとうございました。
司会 :ありがとうございました。続いて、山 さんの報告です。
□ 昨年度の会議に参加して感じたこと
東京歯科大学の山 です。大学院で歯科麻酔学を4年研究した後、現在は口腔超微構造学講座で、
顕微鏡で見た細胞・組織について教えています。
昨年の会議で、色々な質問をしたところ、「よくしゃべる」ということで今回のパネリストに選ば
れたようです。個人的な感想からくる偏った意見が出るかも知れませんが、その部分は聞き流してい
ただけると助かります。
1.昨年度の会議に参加して感じたこと
教員は基本的に苦悩しているということを感じました。大学から言われて研修に来たという方が
ほとんどだと思いますが、それは力を付けてほしいと大学側に思われているということであり、去
年に一緒になった先生方は、基本的にやる気のある方ばかりだと感じました。小中学校等の教職員
を経て大学の専任になった方、研究を経て専任になった方、純粋な新任教員と、立場は色々違う方
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がたくさんおり、いずれもやはり悩んでいらっしゃるようでした。また新任でない教員も常に模索
しているようです。
2.新任教員の苦悩
新任教員の悩みを分析すると、次の四つが挙げられました。1)学生の質が下がっているのでは
ないかということ。皆さんも感じていると思います。次に、2)授業評価が自分の評価と直結する
のはどうなのかということ。3)そもそも教育があまり好きではない、得意ではないということ。
もともと研究がメインの先生も多くいると思います。さらにこれらをクリアして授業を受け持つ段
階で、4)わかりやすい授業とは何かという悩みが出てきます。
1)学生の質が下がっている?
これはゆとり教育の弊害かもしれません。本来の意図とは異なってしまったゆとり教育によって、
学生は興味のあることは非常に深く追求しますが、興味がないと判断したことはしません。またこ
ちらが示さないと、どこが重要なのか自分で見つけられません。ただ「今の若い者は」論で追及し
ても仕方がないのかなとも思います。私も「学生が勉強しなくなった」とこだわっていましたが、
去年の研修で他の先生方の話を聞き、「このままでは先に進めない。自分の授業のスキルを高める
ほうが自分のためでもあり、また学生のためだ」と考え方を変えました。
2)授業評価=自分の評価?
大学側からすると教員の評価は非常に難しいものだと思います。私の大学の場合、雑誌に論文を
投稿した数などが更新の基準となっていますが、それは研究の評価として数値化が可能なものです。
しかし教育の効果は、非常に数値化されにくいものです。アンケートによる授業評価は、学生が一
定の要件のもとにきちんと評価している事が必要条件であり、やはり教育の評価というのは非常に
難しいと思います。
3)そもそも教育があまり好き(得意)ではない
そもそも教員という職業には、向き不向きがあると思います。人の前で話すのが得意な人、苦手
な人がいるように。実は私も大学院卒業時に、教員になる意思はあまりありませんでした。しかし
部活動の顧問の先生に声をかけていただいて、教員として働いてみることにしました。もちろん大
学院とはまったく違うジャンルの講座だったので不安もありました。しかも、学生時代に興味があ
った教科だったわけでもありません。ただそこは教員として給料をもらうことになった以上、興味
を持たなければいけないと考えました。教育があまり好きではなく、研究をやっていたいと思って
いる人でも、給料を教員としてもらう以上、そこは切り替えて頑張るべきだと思います。
4)わかりやすい授業とはなんぞや?
全員を満足させる講義は無理です。130人全員に「素晴らしい」と思わせる方法はないと思いま
す。学生のレベルによって授業の内容は変わりますし、そもそも講義の目的によって「よい授業」
は違います。歯学部は卒業後、必ず国家試験があります。よって、講義は全部必修制で、前の講義
を履修しないと次に進めないという形です。このように、歯学部では単位制講義の側面と同時に予
備校のような側面もありますから、講義の目的も多種多様な先生方にたいして、私から「これがわ
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かりやすい授業だ」と一概に言えるものは無いと思います。
総論すると教育とは、難しく且つ評価されにくいということがあるとおもいます。1∼2年目は
「じゃあ努力する意味はないのか」と、私自身よく悩んでいました。しかし、それには「否」とい
いたい。
3.会議参加後に取り組んでいること
私の大学での担当は組織学と口腔病理学です。受講生は130人、国家試験が最終目的なので、試
験問題に出そうなことはすべて網羅しなければなりません。かつ単位制ではなくすべて必修です。
出席もきちんと取り、8割なければ即留年です。高校の選択授業で生物をとっていなかった、物理
しか勉強しなかったという素人同然の学生もいます。このような条件の中で行った改善点を紹介し
ます。
1)授業スタイルの説明
私は手を動かさないと覚えられないと思っていますので、レジュメは配らず、スライドを必ず書
き写させます。こういうスタイルであることを、最初にあらかじめ説明しておきます。
2)スライドの工夫
個々のスライドの時間は、学生が書く時間を考えて、これは3分、これは5分というようにあら
かじめ測っておき、それをもとに90分の授業の構成をします。さらに全員が写し終えるまで待つよ
うにしています。フォントは最低32、理想は40以上です。28は見づらくなります。
スライドは見出しのみで、内容は口頭で説明しメモさせます。教科書を丸写しではなく、項目だ
けを抜き出すことで、物事が階層状に分類されていることを理解すると思います。またスライドの
流れは初めての人にはわかりませんから、「次はこういうスライドです」と教えてから次のスライ
ドを映すようにしています。
あとはできるだけ縦型の構成にすることです。目線を横に動かすのは非常に大変で、覚えにくく
なります。極力、改行を使って横に長くならないようにしています。
3)私語対策
私語対策として、学生を名指しで指名し、質問しています。130人もいるので、名前を覚えたり
するのが非常に面倒なのですが、極力そうするようにして、できない時は服装の特徴などで指名し、
必ず個人に質問します。そうしないと学生は積極性を出しません。また起立させることで注目を浴
び、気が引き締まります。
日本人は個人を特定しないと動かないという特性があるとおもいます。学生は「自分が教員に見
られている」、「自分のことを教員が把握している」と思うと授業をよく聞くようになります。1
対1の関係があると思えば、学生は興味を持ってくれやすくなりますし、学生との関係性の向上に
もつながります。
4)学生を集中させる
集中力を90分持たせるのはとても難しいと思います。講義を4ブロックに分けて、切り替えさせ
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るということもしましたが、間の時間が大きすぎて効率が悪くなりました。今は45分を2ブロック
に分けて、途中で小ネタを入れたりしています。
また後半15分に差し掛かる前に、簡単に国家試験形式の質問をするようにしています。「今、習
っていることがこういう国家試験に出ます」というエサを与えて学生を釣っているわけです。評価
するわけではなく、単にレクレーションとして取り入れていますので、講義の途中に挟むものは、
雑談やストレッチでもいいと思います。
あとは声を大きくすること、パソコンの画面ばかり見ないことです。胸のピンマイクは姿勢によ
って声を拾わなくなるので気をつけるようにしています。それから眠そうなのか、話が面白くない
のか、ヒマそうなのか、学生の顔をよく見ながら講義します。寝ている学生は1回だけは名指しで
起こすことにしています。学生に興味を持たせる為、社会のトレンドを組み込んだり、身近なもの
から講義に導入していくということもしています。
5)授業評価アンケートの活用
授業評価は可能な限りすぐ反映させるようにしています。私の授業評価は、昨年の本研修に参加
した経験をもとにスライドを大きく変えたところ、点数が上がりました。今後も評価を見ながら改
善を続けたいと思います。ただアンケートで大事なのは、学生に真剣に書いてもらわなければいけ
ないということです。学生は好き嫌いで書きます。私は一度間違えて授業中に携帯電話を鳴らして
しまったことがあるのですが、その時のアンケートは携帯の着信音など授業に関係ないことばかり
でした。これでは授業評価になりません。アンケートをとる際には、学生に対し、教員が真剣に授
業を作っていること、君達のことを考えているということを伝えて、きちんと記入するようお願い
することが大事だと思います。
最後に皆さんにしてほしいことがあります。自分の講義をビデオで撮ってみるということです。
声がきちんと聞こえているかなど、自分で評価してみると非常に参考になります。
この会はとてもアットホームな雰囲気ですし、自分の思っていることをどんどん発言していいと思
います。まずは自分達の講義を良くすることです。学生の評価がよくなれば、それだけ授業も楽しく
なりますので頑張っていただきたいと思います。
<
質 疑 応 答 >
司会: ありがとうございました。それぞれ人柄のにじみ出る、素晴らしい報告でした。フレッシュ
な気持ちで一生懸命に授業を考えている様子が強く伝わりました。
ここからはパネルディスカッションです。同じような疑問や問題を抱えて、悩んだり、考
えあぐねている方、たくさんいると思います。率直に、忌憚のない質問をぶつけてください。
質疑: パワーポイント使うことが前提になっているようだが。
上杉: 最初に学生にアンケートで板書とどちらがいいかをアンケートした。受け持ちが300人を超
えることもあり、パワーポイントを使っている。ただこちら側の一方的な授業になりかねず、
必ず使うべきかというと疑問。
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出井: 板書だと字が下手なのが気になるのと、かなり大きく書かないと後ろのほうは見えないので
パワーポイントを使っている。パワーポイントに入りきれない部分はレジュメを作り、なるべ
く書かせるようにしている。
山 : 私も字が汚いから主にパワーポイントだ。黒板授業のメリットは、学生が板書をする時間が
取れることと、教員の慣れ親しんだスタイルであることだが、逆に言うとそれ以外にプラスは
ないと思う。個人的には板書は味があって好きだが、板書でできることはパワーポイントでも
工夫すればできる。さらに視覚素材を多用したりするのであれば、学生を引き付けるという意
味からもパワーポイントのほうがいい。スピードが速くて学生が書けないという難点もあるが、
効率を考えれば板書の欠点を改善できるパワーポイントがいい。
質疑: 単位目的の学生が来ないというのはどういう意味か。
上杉: 半必修であることから、法律に興味のない学生が半数以上いる。以前はレジュメを入手した
いだけの学生が授業の前半で頻繁に出入りするので、他の学生の気が散るという問題があった。
しかし、レジュメをネットで入手できるとなると、途中退席の学生はほとんどなくなる。また
以前は残り10分という時間にやってくる学生もいたが、それもなくなった。
質疑: ディテールまでかなり書いたレジュメなのか。
上杉: 項目だけだ。目次的なレジュメになる。
質疑: 項目だけのレジュメで満足する学生もいるのか。
上杉: 項目どころかレジュメを入手するだけで満足、安心するという学生がかなりいる。ネット上
で入手できるようにすれば、「休んでいたのでレジュメをください」という学生に対応する煩
わしさもなくなる。
質疑: パワーポイントの量は18枚とのことだが、90分全体で18枚か、それともパワーポイントで説
明する時間はその一部ということか。
上杉: 授業の説明で使うのは15枚程度で75分相当。最後の15分は学生同士で発展問題を考える時間
にしており、これに3枚使う。考える時間は10分程度だ。
質疑: 騒がしい学生を来ないようにするというのは理解できるが、一方で教員としてその対応はど
うなのか。
上杉: 履修している学生全員が興味を持つ授業が望ましいとは思うが、すべての学生が満足する授
業はできないと考えた場合、その中で何を一番大事にすべきか。1年半という短い経験の中、
今は勉強したい学生の環境を保つことに主眼を置いている。5年後、10年後に考え直し、興味
のない学生も勉強できる環境を作りたいとは思う。
山 : 全員が興味を持つ授業は無理だとは言ったが目指していないわけではない。歯科大では全員
が歯に興味を持ってしかるべきだが、歯よりもダンスやヒップホップに興味のある学生はいる。
彼らの歯に対する興味を好きなものに対する興味以上に持たせるのは、努力をしても無理だと
いう意味。皆が興味を持つように教員が頑張るのを否定するものではない。
出井: 私の場合、300人規模なら右手に竹刀を持つような威圧的な授業になるだろう。しかし学生
が興味を持つように我々が努力することは必要であり、また学生に対し教員が威厳を持つこと
も大切だ。
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山 : 威厳はとても大事だ。世代の違う学生は、我々には得体の知れない生き物。威厳を持って接
することと距離を近づけることを同時にしなければいけない。怒鳴るのでなく叱る。感情的に
ならずに、理論的に叱って威厳を保つのも大事だ。とても人間力が問われる。
質疑: 授業の最後のアンケートは、授業内容の理解度を問うものなのか、それとも声の大きさ等、
授業の進め方に関するものなのか。
出井: 学習内容のまとめを書かせる欄と、要望を書かせる欄の両方ある。出されたコメントは次の
時間のレジュメに回答と一緒に紹介し、フィードバックするようにしている。
上杉:授業の難易度、進め方、パワーポイントの量、板書の大きさを、「多い、少ない、ちょうどい
い」等の3段階評価で答えてもらっている。しかし難易度を「ちょうどいい」としながら、テ
ストは出来が悪いということもあり、直接関連することにはならないようだ。他にフリー項目
欄がり、時間がなく説明できない質問等にコメントで回答している。
山 : 私の大学では、適切な速さやわかりやすさ等、授業そのものに対しての回答を、マークシー
トと自由記入欄で回答させている。授業の理解度を聞きたい場合は講義ごとの小テストを行う。
授業内容と授業評価アンケートは別物と考えるべきだ。生化学が嫌いな学生は生化学の授業を
低く評価するように、内容が難しい授業の評価は低くなる。何を目的としたアンケートなのか
を学生にはっきり示さなければ効果はない。
質疑: 質問すれば加点する方式にしたところ、つまらない質問、授業を聞いていると思えないよう
な質問が出る。何かいい方法は。
上杉: 私の場合、具体的トラブルを例題に、その日学んだ条文を当てはめるとどのような答えが出
るかを聞く場合もあれば、「これは第何条か」という問いで基礎学力を付けさせることもある。
1∼2分は考えなければならないような質問をしている。加点方式は一部学生から「不公平」
「恥ずかしくて手を挙げられない」という不満が出るので、その不満に気丈に対応できる先生
におすすめする。
質問: 少人数の授業や演習形式の授業についての意見を。
山 : 小グループの授業は、それだけ教員数が必要になるが効率はいいだろう。注意点は、授業へ
の参加度の差が大人数よりも大きくなることだ。教員は、加点の機会を均等に与える等、公平
性に気をつけなければいけない。またより多くのマンパワーが必要となる。本学の場合は、臨
床系講座の教員やティーチングアシスタントに協力してもらっているが、やはり足りない。
出井: 体育の実技では、アシスタントの先生と2人で25人の授業している。確かにじっくりとでき
るがマンパワーが必要だ。
上杉: 少人数授業は39人を持っている。発表は、技術を身に付けさせる意味もあってパワーポイン
トでさせるようにしている。その後、参加者全員に必ず発言させ、最後は小さなグループで検
討し、その結果を提出させる。次の授業で各グループの検討結果を学生同士で批評させ合う。
教員よりも学生からの指摘のほうが効果があるようだ。大変ではあるが教育効果は高い。
質疑: 授業だけでは対応できない、個別の進路アドバイスや相談に教員はどこまでかかわるべきか。
山 : 授業の中での相談は、授業のことのみにすべきだ。対応できないと思うのであれば、大学側
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に相談し、複数の教員で対応する体制にしたほうがいい。本学の場合、学生課のほかに各学年
5人の教員が、相談事や総合的な質問を受ける窓口になっている。一方、個々の教員のほうが
話しやすいという学生もいるので、目安箱の設置や、何でも話せる少人数での食事会等を考え
ているところだ。
出井: 私も学校のシステム上の問題と考える。私の学科では学級制を取り、担当教員が年に2回面
談をしている。私は着任したばかりで何もわからないので、自分では答えず「その問題ならあ
の人に」という旗振り役をしている。
上杉: すべてに対応するのは不可能だ。学内には専門家がおり、そちらに回すように通知されてい
る。そのほうが教員の負担も減る上、学生にも有効な手段が見つかる。
山 : ただ、たらいまわし感を感じると学生はつらい。感じさせないような学内システムが必要だ。
一人の教員に相談がたくさん来るのは、その大学でのシステムが機能していないのではないか。
問題意識も含めて、その事案を共有することが皆のためになる。
運営委員長:
メンタルの問題は教員のFDで解決できない。教員は医者でもカウンセラーでもない。
熱くなりすぎて教員自身が潰れてしまう例もある。冷静に対処すべきだ。
パワーポイントの問題は皆さんの言うとおり。ただ条件があり、教室の大きさ、配布資料の
あるなし、配布資料がある場合でもその分量で違ってくる。FDで研究対象にしている人もい
るが諸説ある。一般的には、あまりに文字情報を詰め込むと読めなくなるとされている。
板書の利点だが、文字が残るということが挙げられる。私も字は汚いが、大きく、しっかり
書いていれば学生から不満は出ない。
司会: ありがとうございました。パネルディスカッションはここまでです。今日の話を参考に、今
後に活かしてほしいと思います。最後に報告の3名に拍手を。ありがとうございました。
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