解 説 8Kスーパーハイビジョン放送が採用 MMT」の 「 新開発の伝送技術 特長と役割 現在の世界各国のデジタル放送で、1994年にMPEG*1 において標準化された多重化方式で ある「MPEG-2 TS*2」が採用されている。MPEG-2 TSでは、映像と音声、データなどの情 報は、1つのストリームに多重されて放送される。8K放送では、放送波に加えてFTTHやケ ーブルテレビ、モバイル通信などのさまざまな伝送路を通じて、放送と通信が連携する高 度なサービスが検討されている。これを実現する新たな多重伝送技術として、MMT(MPEG Media Transport) を採用した放送システムの開発がNHK放送技術研究所(技研) で進む。 その状況を「今月の表紙」欄で紹介した。さらに表紙に登場してもらったNHKの青木秀一 氏に、MMTについて詳しく聞いた。(文:吉井 勇・本誌編集長、資料提供:NHK) 国際規格に進んだ「MMT」 新しい多重化伝送 (メディアトランスポー ト)技術の検討が始まったのは、2009年に ロンドンで開催されたMPEG(Moving Pictures Experts Group) のワークショッ プである。当時、映像の圧縮技術として HEVCの検討が進んでいたことや、通信 によるリッチコンテンツ配信への関心が 高まっていたことから、IPをベースにし 2015年6月/ ITU-R勧告 BT.2047 MMTを用いた放送システムの国際規 格を承認。 北米の次世代地上放送規格 「ATSC 3.0」 MMTとDASH/ROUTEを採用。9月 のCandidate Standard(候補版)発行 に向けて作成中。 る「多重」、伝送(放送)時の「信頼性」 の3つの機能を提供するのがトランスポ ート技術である。 送信段階では「同期」→「多重」→ 「信頼性」という順で信号処理を行う。 受信段階では、誤り検出によって「信頼 性」を確認し、 「多重」信号を分離した ITU-T勧告 H.721 IPTV端末(STB)の基本モデルに MMTを記載。 後、タイミングを再度「同期」させている。 〔図1〕にあるように、コンテンツ配信 システムは「コンテンツレイヤ」と「伝送 た新たな多重化技術が必要とされてい このように国際連合の専門機関である国 路レイヤ」の2つに分けて考えられ、映 た。 際 電 気 通 信 連 合(ITU: International 像・音声等のデータを、機能的かつ効 MMTの規格化状況を国内、海外で整 Telecommunication Union)の無線通信部 率的に伝送路に乗せる役割を担ってい 理すると以下のようになる。 門(ITU-R) と電気通信標準化部門(ITU- るのが、トランスポート技術なのである。 T)の両部門で国際規格化が行われてい 世界各国のデジタル放送におけるトラ る。まさに放送と通信の両分野で共通に ンスポート技術は1994年に標準化された 使われる標準規格であることがわかる。 「MPEG-2 TS」方式で、その特徴はす 2014年3月/ MPEG-H Part 1: MPEG Media Transport 国 際 規 格ISO/IEC 23008-1とし て MMTを承認。 2014年7月/ ARIB標準規格STD-B60 MMTを用いた放送システムの国内規 格「デジタル放送におけるMMTによ るメディアトランスポート方式」を策定。 2015年2月/ MPEG-H Part 13: MMT実装ガイドライン MMTを実装するための参考情報。 べての情報を1つのストリームに多重し トランスポート技術の 機能と役割 ていること。放送という安定した単一伝 送路では、MPEG-2 TSの持つ、1つの 放送の番組(コンテンツ)は、映像と ストリーム(放送波)に情報を多重するメ 音声、データなどで構成される。映像と リットを発揮できる。 音声等のタイミングを合わせる「同期」 ところが8Kなどの次世代放送では、 と、映像や音声等を一つの信号にまとめ 通信も積極的に利用してコンテンツを提 *1 MPEG:ISOの下部組織でデジタル動画の圧縮技術等の標準化を行っている団体。 8 10-2015 *2 TS:Transport Streamの略で、映像や音声、データなどの個別のストリームを、アプリケーションや伝送路の種類によらずに共通の信号形式で扱い、 1つのストリームとして伝送するもの。 運びやすいように小分けにした情報の小包である「TSパケット」 (188バイトの固定長)が連続した信号列で構成。
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