長寿薬ポリピルの出現、市販とその時代背景について

長寿薬ポリピルの出現、市販とその時代背景について
共通教育科 教授 室橋郁生
3 種類の降圧剤、高コレステロール治療薬(スタチン)、アスピリン、葉酸の 6 種類の合
剤が疾患発症を高率に予防することが発表されました。心血管疾患はないものの、高血圧
などの危険因子をひとつ有する対象に臨床研究が行われました。その発表された病気の予
防効果をまとめて以下のグラフに示します。
出典:Lancet 373: 1341-1351, 2009
1 錠にこれら数種類の効果を詰め込んだ長寿薬とも言われるのが「ポリピル」です。ポリ
ピルの内服で心筋梗塞、脳卒中の 8~9 割が予防されるそうです。検証の結果、その効果が
再確認されました。現在、インド・へルスケア(株)が製造・販売しています。1 日 1 回朝食
後に 1 カプセルを内服します。
1 箱 30 カプセル入りが日本円に換算すると 2,150 円ですが、
現在は在庫切れのようです。ちなみに日本国内では市販されていません。
降圧剤で高血圧が改善すると内臓の病気が予防されます。スタチンで明らかに心筋梗塞
が予防されます。アスピリンは血栓症の最良の予防、治療薬です。また、大腸がんの発症
と死亡率を 4 割減少させました。埼玉県の坂戸市では女子栄養大学と連携して葉酸入りパ
ンを販売して効果を上げています。
このように、マルチ・ビタミン薬は興味深いと思います。古くよりカルシウムやセレ二
ウムなどのミネラルにはがんをはじめとする疾患予防効果が実証されています。地域の土
壌で欠乏しているミネラルや地域で欠乏しがちなマルチ・ビタミン、マルチ・ミネラル補
充は大変興味深く、関心の高い方も多いのではないでしょうか。
しかし、高齢者では、アスピリンは胃潰瘍、腎障害、出血を誘発するなどの副作用の可
能性もあります。大腸がんの予防目的でビタミン E を投与したのに、逆に明らかに有意な
大腸がんの増加がみられて治験を急遽中止した例もあります。
それにしても、この多忙な時代ゆえに長寿薬を 1 日 1 カプセル内服して健康を維持する
というのは、あまりにも短絡的思考というふうにも思えます。
日光を浴びて、ミネラルたっぷりの美味しい水を飲んで、家族や友人らと大勢で朗らか
に過ごす時代はもう不可能でしょうか。国立がんセンターが薦めるがん予防のための食事
は、1 日 30 品目の食品摂取を、とされています。多種類の食物栄養素の摂取による抗酸化
作用と多品目摂取により発がん性があるものが混ざっていても薄まって、がんの発生率を
抑えると考えられます。要は、海のものと山のものをバランスよく摂取することが大切で
す。
私たち人間は、自然界に約 2,000 種類存在する食物栄養素のほとんどを自分で作ること
ができず、自然界から頂いて生きています。自然に感謝して自然を大切にして生きるとい
う健康法が大切ではないでしょうか。