薬剤師生涯研修における E-ラーニングの現状と将来展望

薬剤師生涯研修における E-ラーニングの現状と将来展望
特定非営利活動法人
医療教育研究所
○朝倉正彦、遠藤浩良
【目的】 医療の一翼を担う薬剤師が職責を全うするためには生涯研修は必須のものとい
えるが、一部の先進的取り組みをしている薬局や薬剤師を除けばメーカーによる製品説明
会などが中心になっている場合も多く、全体的には望ましいレベルに達しているとは言い
難い。
生涯研修の取り組みについて薬剤師の一層の自覚が求められるが、反面、生涯研修を受
講しやすくするための環境の整備を急ぐ必要もある。この観点から過去 3 年にわたって
我々が運営してきた E-ラーニング薬剤師生涯研修の現状を示し、その果たすべき役割につ
いて考察する。
【方法】 医療教育研究所の E-ラーニング薬剤師生涯研修受講者の登録情報や受講履歴の
データベースの解析を行った。(調査時期 2006 年 1 月~4 月)また、一部については 2005
年 9 月に実施したアンケートの結果を示した。
【結果】 2006 年 3 月末時点での継続中の受講者数は約 3000 名、男女比は 1:1.85、勤務
先は 72%が調剤中心の保険薬局、15%が病医院である。講義のコマ数(30 分1コマ)は
131 コマで、一ヶ月間の受講時間は 30 分~5 時間が 70%を占めた。最近最も受講が多いの
はジェネリック医薬品について製剤面や社会的側面を総合的に解説した 14 コマよりなる
講義である。
受講感想としては、“自分のペースで進められる”、“30 分1コマなので短い時間の有
効活用が出来、また集中力を持続できる”など E-ラーニングの特徴を挙げるもののほか、
“受講することによって学習意欲が湧いた”、“勉強する喜びを感じた”等の声も多く、
E-ラーニングによって初めて研修の機会が得られ、生涯研修の重要性を認識することに結
びついていることが伺われた。一方、要望点としては、新規講座の拡充を望むものが一番
多く、ついで図表の印刷を可能にする、通信回線の安定性や OS の問題などシステム関係の
改善を望む、などの声があった。
【考察】 E-ラーニングは対面教育に比べて教育効果の点で劣る面が多いのは否定できな
いが、他の研修形態との組み合わせなどにより、大きな教育効果を期待できるものである。
E-ラーニングで効果をあげるためには視覚、聴覚に訴えるなどの E-ラーニングの特徴を活
かすとともに、業務に役立つコンテンツをタイムリーに配信していくことに加えて、集中
力を維持できる長さで1コマを完結させる、などの工夫が必要である。
【結論】 E-ラーニングは、研修時間の確保が難しい薬剤師に生涯研修の機会を開くもの
である。短期間に広範囲且つ多数の受講生に均質な研修を実施する手段としては不可欠の
もので、特に新卒者に一斉に行う生涯研修の導入研修などへの活用が期待できる。
後発医薬品処方応需に向けて
―シロップ剤の配合変化調査―
株式会社ナカジマ薬局
帯広
○竹中美貴、野田かおり、島崎幸恵、冨田陽、福光唯人、中島久司
【目的】
今年の診療報酬制度改定により処方箋に『後発医薬品への変更可』欄が新設され、患者
様の医療費の軽減に直接つながるようになり、薬剤の選択の幅が広がった事で、薬剤師は
患者様が先発医薬品と後発医薬品を選択する際に適切な情報提供を行なう必要がある。し
かし、後発医薬品は先発医薬品に比べて使用実績が少ない為、経験的データが少ないもの
もある。また添加物・基剤などの化学物質が異なるものもあり、性質が全く同一であると
はいえない可能性も考えられる。
そこで当薬局ではシロップ剤の配合変化における安定性について検討を行った。患者様
により良い情報提供と品質保証を行なう為、後発医薬品の配合変化を調査しその評価を行
ったので報告する。
【方法】
当店にて処方頻度の高いシロップ剤8品目を選定した。
アスベリン・メプチン・ムコソルバン・ムコダイン・トランサミン・ペリアクチン・ザジテン・レフト-ゼ
その比較対象となる後発医薬品8品目を選定した。
アスワ-ト・カテプチン・ムコセラム・ムコトロン・トラネキサン・シプロアチン・メラボン・塩化リゾチ-ム
調剤時に混合する頻度の高い24通りの配合を、室温(24℃)と冷所(5℃)で2週間
観察し、外観・pH・味・臭い・沈殿物の5項目について配合変化を調査した。
【結果】
今回の条件下では、先発医薬品群・後発医薬品群・先発医薬品+後発医薬品群のそれぞ
れのシロップの配合には有意な変化はみられなかった。後発医薬品の混合調剤は外観・pH・
味・臭い・沈殿物の5項目において変化は見られず、特に問題はなかった。
【考察】
今回の調査では外観・pH・味・臭い・沈殿物の 5 項目において変化は見られなかったが、
配合含量を測定できなかった為、先発医薬品と後発医薬品の配合における同等性を検証す
るまでには至らなかった。しかし、配合変化等のデータが少ない後発品シロップの配合を
調査する事で今回の 5 項目においては結果を見出す事ができた。また、先発品と後発品で
は味、外観色の違いが見られるものもあり配合変化に限らず、それらの情報提供も行う必
要性がある。今後も、後発医薬品における配合変化等の品質調査を実施し、より効果的な
薬物治療を患者様に提供する為にその結果を活用していきたいと考える。
医薬品採用の考え方
-新薬から後発品の採用までー
新潟大学医歯学総合病院 薬剤部
○坂爪重明、笹原一久、外山聡、佐藤博
【はじめに】 当院では、2000 年 3 月より薬事委員会の機能として新規採用申請医薬品に
関して薬剤使用評価(Drug Use Evaluation;DUE)を導入し、適正使用を図っている。特
に新薬に関しては、重篤な副作用が懸念される医薬品を対象に副作用発現の傾向分析、臨
床上の注意点の明確化、場合によっては使用基準等を設定し、継続的な調査を行って医薬
品の適正使用に努めている。また、後発品においても、独自の評価基準を設け、その選定
に当たっている。今回は DUE のシステム、後発品評価基準および当院でのそれぞれの運用
例について概説する。
【DUE システム】 (1)新規採用申請から事前資料提出:新規採用申請医薬品についてイン
タビューフォーム、海外文献、成書、専門雑誌、MEDLINE、メーカーからのヒアリング等に
より、有効性・安全性・経済性などについて調査(主に薬剤師)を行う。その調査内容を
薬事委員会に事前資料として提出し、採用の可否を審議する。(2)薬事委員会:提出された
新規採用申請薬剤に関する事前調査をもとに、その薬剤の採用あるいは DUE の可否につい
て審議が行なわれる。処方を指導医、専門医および認定医に限定する場合もある。(3)使用
後調査および調査結果の検討会:DUE 対象医薬品に対して、半年あるいは 1 年を目途に調
査し、有効性・安全性などについて評価を行なう。
【後発品評価基準】 2004 年度に作成された国立病院機構のチェックリストを参考に、当
院のアンケート結果も踏まえて独自に作成した。チェックリストは、品質、供給、情報提
供、経済性、リスクマネジメントという5つのジャンルに分けられる。
【運用例】 (1)DUE:スタチン系高脂血症治療薬アトルバスタチンの使用基準(新規服用
患者に対して 3 ヶ月間に月 1 回 CPK、肝機能検査、医師登録制)では 3 ヶ月間に月 1 回 CPK、
肝機能検査を行なっていない新規服用患者は、使用基準施用前 35 例中 11 例(31.8%)に対
して、施行後 2 年間で 191 例中 5 例であった。また、使用基準が遵守されていない患者は、
施用前 35 例中 24 例(65.7%)に対して、施行後 2 年間で 191 例中 33 例(17.2%)であっ
た。また、CPK 上昇および肝機能低下に関する有害事象において、その発現が 1 ヶ月以内
に認められたのはアトルバスタチンで 21 例中 9 例(42.9%)であった。現在も DUE を継続
中である。(2)後発品評価:補正用塩化カリウムプレフィルドシリンジ(他製剤と識別する
目的でリン酸リボフラビンナトリウムを使用)の申請に際し、リン酸リボフラビンナトリ
ウムが光によって分解されるにもかかわらず、その遮光対策をシリンジ本体に施していな
いことに着目し、光安定性試験を行なった。その結果、光量によっては著しく品質が劣化
することが判明した。この製品の後発医薬品メーカーに包装変更を要求している。
【まとめ】 医薬品が有効性・安全性ともに優れ、かつ経済的であれば、患者にとってこ
の上ない事である。しかし、現実には、理想的なものは少ない。また、患者から見れば、
先発品も後発品もない。そのためには、新薬から後発品までしっかりとした評価システム
を構築し、様々なデータからそれを評価し、患者を守っていくことが肝要と思われる。
降圧薬の先発医薬品から後発医薬品への切り替え
における臨床的評価
東北大学大学院薬学研究科臨床薬学講座1)、仙台逓信病院薬剤部2)
東北大学大学院薬学研究科医薬開発構想寄付講座3)、仙台逓信病院内科4)
東北大学 21 世紀COE'CRESCENDO'5)
○小原拓1),5)、高橋将喜2)、高橋則男2)、高橋武2)、豊岡朝子2)、小林寛子2)
大久保孝義3),5)、斉藤真一郎4)、今井潤1),5)、田所慶一4)
【目的】 近年、国民医療費・患者負担額の増大に伴い後発医薬品の果たす役割が注目さ
れている。また、今年度より後発医薬品への変更を可能とするチェック欄が処方箋に設け
られ、後発医薬品の使用が急増していると考えられる。しかしながら、後発医薬品に関す
る情報は、生物学的同等性の評価や製剤学的差異、経済的評価に関するものが多く、日常
診療に基づいた臨床的有用性に関する情報は圧倒的に不足している。そこで今回、仙台逓
信病院において先発医薬品(カルスロット)から後発医薬品(マニジップ)へ切り替えが
行われた塩酸マニジピンについて臨床的有用性の評価を行った。
【方法】 本調査はカルテ調査に基づく、後ろ向き調査研究である。塩酸マニジピンに関
して先発医薬品から後発医薬品へ切り替えの行われた患者 37 名中、先発医薬品および後発
医薬品をそれぞれ 6 ヶ月間服用継続し、かつ本調査に同意の得られた 21 名において、切り
替え前後の患者の有害事象の発生・服薬コンプライアンス・外来血圧値等を比較した。
【結果】 切り替えの行われた患者 37 名のうち、後発医薬品の 6 ヶ月間服用継続率は 89%
であり、後発医薬品中止の原因となる重篤な有害事象は認められなかった。先発医薬品お
よび後発医薬品をそれぞれ 6 ヶ月間服用継続した患者において、切り替え後、服薬コンプ
ライアンス(94⇒93%)、外来血圧値(収縮期/拡張期 138/79⇒137/78 mmHg)に明らかな
変化は認められなかった。
【考察・結論】 本調査の結果、塩酸マニジピンの後発医薬品と先発医薬品に明らかな差
は認められなかった。この原因の一つとして、仙台逓信病院における後発医薬品の選択基
準が充実していたことが考えられる。しかしながら、変動性の大きい血圧を外来血圧で評
価しているため、今後家庭血圧を用いた検討も必要である。
【展望】 本調査は後ろ向き調査であるため多くの限界を有するものの、後発医薬品を適
正に使用する上で非常に有用な情報を提供することが出来る。後発医薬品の適正使用の普
及のためには、後発医薬品の有効性・安全性に関する情報の充実が不可欠である。短期的
には、各施設において同様の評価を行い、後発医薬品に関する共有可能なデータベースを
構築することが急務である。長期的には、日常の薬物治療における長期使用を通して明ら
かとなってくる問題(新薬との相互作用等)の有無を充分注意してフォローしていく必要
がある。そのためには、メーカーに依存しない、薬剤師独自の薬剤の評価システムが構築
され、採用薬剤に関する臨床的評価が薬剤師業務のひとつとして確立されることが望まれ
る。
薬剤師間情報交換・研修システム(アイフィス)による
医薬品適正使用・育薬
東京大学大学院薬学系研究科 医薬品情報学講座1)、同情報学環2)
○堀里子1)、三木晶子1)、大谷壽一1)、澤田康文1),2)
【目的】 薬物治療の質と安全性を確保するためには、市販後の医薬品適正使用やリスク
マネジメントが重要となる。特に、処方チェックや投薬ミスの防止、薬物治療の最適化等
において薬剤師の果たすべき役割は大きい。薬剤師の資質向上のためには、ヒヤリハット
事例を学んだり、投薬ミスの阻止や薬物治療の最適化に貢献するといった経験を積むこと
が非常に重要である。しかし、医療現場で勤務する薬剤師にとって、そのような事例に巡
り会う機会はさほど多くない。さらに、薬剤師は、市販後の医薬品に発生する諸問題を発
見し、解決していく育薬の一端を担うことも期待される。我々は、2000 年より薬剤師の教
育・研修を目的とした「薬剤師間情報交換・研修システム(アイフィス)」を構築・運用して
おり、現在 6,500 名以上の会員を擁している。本研究では、アイフィスを活用して薬剤師
による医薬品適正使用やリスクマネジメント、及び育薬支援を推進することを目的とした。
【方法】 本システムでは、臨床現場でおきた教育的事例の素材となるナマの事例をイン
ターネットを通じて効果的に収集し、その評価・体系化・加工を経て教育的事例として登
録薬剤師に配信した。さらに、Web サイトでは、配信事例集に加えて、カテゴリー別トラ
ブル事例集、薬剤師情報交換コーナーやアンケートコーナー等も設けた。
【結果・考察】 アイフィスの配信事例集は、「ヒヤリハット」、「処方チェック」、「相互作
用コンサル」、「育薬・医薬品適正使用コンサル」の各コーナーに分類され、既に 290 以上
の事例が提供されている。現場で起こったヒヤリハットや新たな発見が、アイフィスを活
用することで、他の薬剤師にも情報として発信したり、他の薬剤師も経験していることな
のか、現場の声を集約できる点がアイフィスの大きなメリットのひとつである。新たな試
みとして、特に重要度が高く、即時性を要するテーマについては、集中的に事例を収集、
提供するためのカテゴリー別トラブル事例集を開設した。現在は、使用上特に注意が必要
な「インスリン製剤」や「吸入剤」に関するトラブル事例や、現場で課題となっている「医薬品
の包装・製剤変更」「ジェネリック医薬品」に関するトラブル事例のコーナーを設けている。
これにより、実際にどのような問題が現場に存在するかを効率的かつリアルタイムで捉え、
アイフィスを通じてこれらの事例を薬剤師間で共有することで、自らがヒヤリハットを経
験することなく、事前にリスクを予測することが可能になると考えられる。
【結論】 現在、アイフィスでは、このようにリアリティをもった教育用臨床事例が体系
的に蓄積されつつある。今後も、本システムを永続的に運用していくことで、基礎薬学的
知識を薬物治療に活かすための医療薬学的スキルと、現場での問題点を発見し解決するス
キルを兼ね備えた薬剤師養成の研修システムとして、リアルタイムに市販後の新規の医薬
品情報をとらえるシステムとして、アイフィスが活用されることを目指している。
医薬品情報データベース
iyakuSearch の活用
(財)日本医薬情報センター
○蓼沼宏昭
財団法人 日本医薬情報センター(Japan Pharmaceutical Information Center:略称
JAPIC)は 1972 年の設立以来、製薬企業と医療機関との架け橋をモットーに、医薬品に関
する国内外の情報を迅速に収集し、公正な立場で整理・分析を行い、的確で利用しやすい
形の情報に加工し、医療機関や製薬企業に対して、これら安全性および有効性を中心とし
た医薬品情報を提供することによって、国民の健康・医療の向上に寄与することを目的に
活動を行っております。
iyakuSearch は JAPIC が提供する国内外の医薬品情報に関するデータベースで、以下の
情報を提供しております。
1. 医薬文献情報
2. 学会演題情報
3. 規制措置情報(JAPIC Daily Mail 利用者限定)
4. 添付文書情報(医療用・一般用)
5. 臨床試験情報
6. 新薬承認審査報告書
本日は、医薬文献情報・学会演題情報を中心に、iyakuSearch の活用方法をご紹介します。
<医薬文献情報 収録データ>
・収録年:1983 年~現在
・収録件数:300,848 件(2006 年 5 月 10 日現在)
・採択雑誌数:国内 401 誌、海外 14 誌
・更新頻度:月 1 回
データ構成:書誌的事項(標題、著者名、所属機関、雑誌名)、抄録(JAPIC 作成)
キーワード:医薬品名(商品名、一般名、会社名、薬効分類)、疾病名、副作用症状名等
<学会演題情報 収録データ>
・収録年:1993 年~現在
・収録件数:487,393 件(2006 年 5 月 10 日現在)
・学会数:延べ約 4500 学会
・更新頻度:月 1 回
データ構成:書誌的事項(演題、演者・著者名、所属機関、学会名、雑誌名)
キーワード:医薬品名(商品名、一般名、会社名、薬効分類)、安全性、副作用症状名等
JAPIC では会員制度をとっており、会員の方を中心に医薬品に関する情報提供を行って
おりますが、平成 18 年度より従来の医療機関向け会員に加え、新たに診療所・薬局等を対
象とした G 会員を設け、「医療用医薬品集(冊子)」「一般用医薬品集(冊子)」
「iyakuSearch」を無料でご利用いただけるよう会員制度を改正いたしました。