高山市大新町越中街道地区における新旧共存型歴史的市街地の街並み

7299
日本建築学会大会学術講演梗概集
(中国) 2008年 9 月
高山市大新町越中街道地区における新旧共存型歴史的市街地の街並み形成に関する研究
その2 都市計画道路による壁面線の後退状況と前面空間の使われ方
正会員
正会員
街並み
高山市
伝建地区
越中街道
○大道
野原
亮*
卓**
都市計画道路
新旧共存型
1.研究の背景と目的
本研究は、高山市大新町越中街道地区の街並みの現状
と課題を扱った「その1」の続報である。
高山市下二之町大新町伝統的建造物群保存地区保存計
画において伝統的建造物と位置づけられている建物は、
土蔵、Ⅰ種町家、Ⅱ種町家合わせて 23 棟存在する。その
越中街道地区では、昭和 29 年に越中街道の拡幅1が都市
うち 9 割(21 棟)がセットバック距離 2.0 未満であった。
計画決定されて以来、道路境界から建物をセットバック
特に、Ⅰ種町家、Ⅱ種町家は 20 棟全てがセットバック距
させて建て替えることが多くなった。かつては揃ってい
離 2.0m未満であり、当地区の伝統的な町家は道路境界に
たであろう壁面線は所々で後退し、歴史的な街並みとし
近い位置で壁面線が揃っていることがわかる。
ての統一感は段々と損なわれてきてしまった。
伝統的建造物と位置づけられていない建物は、Ⅲ種町
平成 16 年、大新町越中街道地区を含む形で下二之町大
家、Ⅳ種町家、その他の建物の 3 種類に分類される。24
新町伝統的建造物群保存地区が定められ、同時に都市計
棟存在するⅢ/Ⅳ種町家は、意匠上は伝統的な要素を継
画道路が撤廃された。これをきっかけに、地元の街並み
承しているものの、8 割強(20 棟)が 2.0m以上セットバ
保存会を中心に街並み再生の気運が高まってきた。今後
ックして建てられている。伝統的な意匠を継承していな
街並みのあり方を議論しながら描いていくことになるが、 いその他の建物は、34 棟中 21 棟が 2.0m以上セットバッ
その際には途切れ途切れの壁面線に対する考え方や前面
クしている。これらの建物は都市計画道路の計画線近く
空間の使い方の検討が重要となる。
に壁面線を設定して建てられることが多く、数棟が連続
本稿では現時点での壁面線の状況と、前面空間の用途
して同程度セットバックしている部分も見受けられる。
を分析し、越中街道地区の街並み再生に関して考察する。 このような場所では、本来の道路境界から数メートル奥
へ下がったところで共通の壁面線が形成されており、伝
2.大神町越中街道地区における街並みの特性分析
2-1.セットバックの状況
まず 2008 年4月の現地調査2に基づいて、大新町越中街
統的な街並みとは違う位置で新たな街並み景観を生み出
している。
道地区における町家のセットバックの状況を見てみるこ
2-3.前面空間の使われ方
建物がセットバックして建てられている場合、前面空
とにする。現地を目視して、前面空間を駐車スペースと
間の使い方が街並み景観に大きく寄与する。目視による
して利用している事例が多く見受けられたため、横向き
現地調査で大新町越中街道地区の前面空間の用途を確認
に駐車スペースを確保できる 2.0m、縦向きに確保できる
したところ、(a)前庭(b)屋外駐車場(c)屋根付き駐車場の3
4.0mを境として、越中街道沿道のセットバック状況を分
つに分類できた。(表2)
類した。
(表1)
(a)前庭は、更に(a-1)前庭のみ(a-2)駐車場併設に分類で
越中街道沿道全 81 棟のうち、2.0m以上セットバックし
きる。駐車場の有無に注目すると、(a-2)駐車場併設及び
ている建物は合計で 43 棟あり、その割合は 5 割を超えて
(b)屋外駐車場(c)屋根付き駐車場の合計 41 棟が駐車場有り
いる。中でも、3 割以上(28 棟)が 4.0m以上セットバッ
に該当し、セットバックしている 43 棟の 9 割以上、全 81
クしている。伝統的な町家の壁面線は 0.5~1.5mのセット
棟の 5 割以上を占める。街並み再生を検討していく過程
バックでほぼ統一されており(図1)、2.0m以上のセット
で、駐車場をどこに、どのように確保するかが景観上重
バックは従来の壁面線が途切れ、奥へと後退しているこ
要になってくることがわかる。
とになる。5 割以上の建物で壁面線が後退している状況は、
街並み再生に向けての大きな課題の1つである。
(b)屋外駐車場(c)屋根付き駐車場のうち縦列駐車形式の
ものはそれぞれ 4 棟、2 棟確認できた。セットバック距離
が 4.0m未満でも、縦列駐車形式で家の前に駐車スペース
2-2.建物様式とセットバック距離の関係
次にセットバック距離を、前稿で示した建物様式の分
類ごとに整理する。(表1)
を設けており、越中街道地区では家のすぐ近くに駐車場
を確保するニーズが大きいと推測できる。
一方、(a-1)前庭のみも 2 棟と僅かではあるが確認できた。
Study for Streetscape Planning in the Historic District Coexisting Old and New Type
of Buildings, the Ecchu-street Area, Takayama City.
-Part2. The Effect of Urban Road Authorized in City Plan in the Ecchu-street Area
―643―
Akira DAIDO, Taku NOHARA
従来の大新町越中街道地区の街並みには道路に面して前
表1 建物様式ごとのセットバック距離
庭を確保する習慣はなく、新しいタイプの街並み景観と
言える。
3.まとめ
大新町越中街道地区では非伝統的建造物を中心に5割
土蔵
Ⅰ種
Ⅱ種
Ⅲ種
Ⅳ種
2.0m未満
1
15
5
2
2
13
38
46.9%
2.0m以上4.0未満
0
0
0
8
1
6
15
18.5%
4.0m以上
2
0
0
6
5
15
28
34.6%
合計
3
15
5
16
8
34
81
100.0%
合計
割合
43 棟
53.1%
表2 セットバック部分の用途分類
2.0m
以上
2.0m 4.0m 4.0m
未満 未満 以上
以上の建物が 2.0m以上セットバックして建てられており、
分類
前面に駐車場を構えているケースが多い。壁面線が途切
れ、駐車場が露出することで伝統的な街並みの雰囲気が
(a)前庭
(a-1)前庭のみ
(a-2)駐車場併設
阻害されている一方、前庭が設けられたり、同程度セッ
(b)屋外駐車場
(b-1)普通
(b-2)縦列駐車
トバックした建物が連なる部分で小単位の街並みが形成
(c)屋根付き駐車場
されるなど、新たな特徴が生まれつつある。街並み再生
に向けては、これらの新たな特徴を活かしていくことが
他
0
0
街並み
全体に
対す る
割合
合計
2
1
0
4
2
5
2.5%
6.2%
0
3
14
17
21.0%
0
4
0
4
4.9%
16.0%
(c-1)普通
0
2
11
13
(c-2)縦列駐車
0
2
0
2
2.5%
43
53.1%
合計
駐車場有り
41 棟
50.6%
棟
重要となってくると考えられる。
【参考文献】
1) 高山市教育委員会、「高山
旧城下町の街並み
下二之町・大新町
地区伝統的建造物群保存対策調査報告」、2003 年 3 月
1
2
都市計画道路片野松本線
現地調査では側溝の中心から壁面までの距離をセットバック距離
として計測した。壁面が一部出ていたり、引っ込んでいたりした
セットバック
距離(m)
場合は、道路境界に近い方を壁面位置と見なして計測した。
図1 建物様式ごとのセットバック距離ヒストグラム
表3 越中街道沿道建物の用途・様式・セットバック距離・用途一覧
図2 越中街道沿道
セットバック距離分類図
No .
用途
44
43
42
41
40
39
38
37
36
35
34
33
32
31
30
29
28
27
26
25
24
23
22
21
20
19
18
17
16
15
14
13
12
11
10
9
8
7
6
5
4
3
2
1
住宅
商業
事務所
住宅
住宅
住宅
商業
住宅
住宅
商業
駐車場
駐車場
住宅
商業
駐車場
住宅
住宅
住宅
住宅
事務所
住宅
住宅
住宅
住宅
住宅
住宅
公共施設
住宅
住宅
住宅
住宅
住宅
住宅
住宅
住宅
住宅
住宅
商業
住宅
住宅
住宅
倉庫
倉庫
商業
*東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻修士課程
**東京大学先端科学技術研究センター助教・工学修士
種別
セット バック
距離(m)
Ⅱ種
Ⅱ種
土蔵
他
他
他
他
Ⅱ種
他
他
0 .9
0 .7
1 .5
1 .2
6 .1
4 .9
5 .1
0 .7
7 .6
1 .8
他
他
6 .0
1 .0
Ⅰ種
Ⅲ種
Ⅰ種
Ⅲ種
他
Ⅲ種
Ⅱ種
Ⅲ種
他
Ⅰ種
Ⅰ種
Ⅰ種
Ⅰ種
1 .2
1 .3
1 .2
3 .2
9 .0
2 .6
1 .4
3 .8
5 .1
1 .3
1 .3
0 .8
1 .1
4 .8
6 .7
3 .0
4 .8
4 .8
1 .0
5 .4
1 .4
6 .2
2 .7
1 .0
2 .4
6 .0
8 .6
5 .2
1 .3
( Ⅳ種)
他
( Ⅳ種)
他
Ⅲ種
Ⅰ種
Ⅲ種
他
Ⅲ種
他
他
他
他
土蔵
土蔵
他
前面空間の用途
屋外駐車場
屋外駐車場
屋外駐車場
屋根付き駐車場
屋根付き駐車場
前庭
屋根付き駐車場
屋外駐車場
屋外駐車場
屋外駐車場
屋外駐車場
屋外駐車場
屋外駐車場
屋外駐車場
屋外駐車場
前庭(駐車場併設)
屋根付き駐車場
屋外駐車場
屋根付き駐車場
屋根付き駐車場
屋根付き駐車場
-
No .
用途
45
46
47
48
49
50
51
52
53
54
55
56
57
58
59
60
61
62
63
64
65
66
67
68
69
70
71
72
73
74
75
76
77
78
79
80
81
82
83
84
85
86
87
88
89
商業
住宅
商業
住宅
住宅
商業
事務所
倉庫
駐車場
住宅
住宅
住宅
住宅
駐車場
住宅
住宅
住宅
住宅
住宅
住宅
商業
住宅
住宅
住宅
住宅
住宅
住宅
駐車場
駐車場
住宅
住宅
住宅
住宅
駐車場
住宅
住宅
助産所
住宅
倉庫
住宅
住宅
住宅
住宅
商業
商業
種別
他
Ⅰ種
他
Ⅰ種
他
Ⅰ種
他
他
Ⅲ種
Ⅲ種
Ⅲ種
Ⅲ種
他
( Ⅳ種)
Ⅲ種
Ⅲ種
( Ⅳ種)
他
Ⅱ種
Ⅰ種
( Ⅳ種)
他
他
Ⅰ種
他
他
Ⅰ種
他
Ⅲ種
Ⅰ種
( Ⅳ種)
他
他
他
Ⅲ種
Ⅰ種
Ⅲ種
( Ⅳ種)
( Ⅳ種)
他
セット バック
距離(m)
前面空間の用途
0 .8
0 .5
1 .1
1 .2
1 .4
0 .5
6 .1 屋根付き駐車場
6 .0 屋根付き駐車場
3 .1 屋外駐車場(縦列)
2 .5 屋外駐車場(縦列)
2 .9 屋根付き駐車場(縦列)
5 .3 前庭(駐車場併設)
3 .6 前庭(駐車場併設)
4 .8 前庭(駐車場併設)
1 .0
2 .9 屋外駐車場(縦列)
4 .4 屋根付き駐車場
1 .0
1 .0
0 .9
4 .8 屋外駐車場
2 .3 前庭
4 .2 屋根付き駐車場
1 .0
3 .9 屋外駐車場
1 .0
1 .3
1 .7 屋根付き駐車場
7 .4 屋外駐車場
1 .3
2 .0 屋外駐車場(縦列)
4 .4 屋外駐車場
2 .1 屋根付き駐車場(縦列)
1 .1
4 .7 屋根付き駐車場
1 .3
3 .1 前庭(駐車場併設)
5 .6 屋外駐車場
1 .2
6 .0 屋外駐車場(縦列)
*Master Course, Dept. of Urban Engineering, faculty of Engineering, Univ. of Tokyo
**Research Associate, Research Center for Advanced Science and Technology, Univ. of
Tokyo, M. Eng
―644―