特集 高機能化を目指す添加剤・配合剤の最前線 シリコーンによる樹脂改質 齋 藤 健 司* はじめに 1.有機樹脂へのシリコーン添加 1.1 シリコーンオイルの添加 1.2 シランカップリング剤の 添加 素と酸素が化学結合で交互に連なった ジメチルシリコーンオイルをコンパ シランカップリング剤は下式に示す シリコーンは有機基の結合したケイ シロキサン結合(≡ Si − O − Si ≡)か ウンディング時のプロセスオイルとし ように,金属や無機物との結合や他の らできているポリマーであり,天然に て配合することで,成形品表面に離型 シランカップリングとの結合で利用さ 存在しない人工化合物である.一般式 性を付与したり,ブリードアウトした れる加水分解基 X と有機材料との相互 RnSiCl4 − n(n = 1 ∼ 3)で 表 さ れ る オ りして成形品の表面滑性や耐摩耗性を 作用や結合に利用される有機官能基 Y ルガノクロロシランの加水分解・縮重 向上させることができる.いずれの場 を 1 つの分子中に持つ化合物である. 合によって製造され,シロキサンの骨 合もシリコーンの表面張力が低く,樹 格,重合度,置換基の組合せによりオ 脂との相溶性が低い性質を利用してい イル,ゴムやレジンの 3 つ形状の製品 る.配合するジメチルシリコーンオイ が製造されている. シリコーンの持つ低表面張力,潤滑 ルの粘度は 1 万∼ 100 万 mm2/s,添加 量は樹脂の 0.1 ∼ 2%が最適である. Y-R-Si(CH3)3 − n Xn (n = 2,3) 有機官能基 Y としてはアミノ基,ビ ニル基,メタクリル基,エポキシ基, イソシアナト基などあり,加水分解基 性,耐熱性,耐寒性などの性質は樹脂 樹脂との親和性が低く,樹脂に導入 改質をするにあたって魅力ある性質で しにくい場合や成形品の塗装,接着な あり,シリコーン製品は次のような目 どの後加工をする場合には,表 1 に示 熱硬化性樹脂の場合は,樹脂の硬化 的で様々な樹脂に利用されている. すような分子の末端や側鎖のメチル基 機構に組み入れられる有機官能基を持 の一部がフェニル基,ポリエーテル基, つシランカップリング剤を選択し,他 アルキル基,アラルキル基などの有機 方,熱可塑性樹脂の場合は,その樹脂 置換基に置き換わった変性シリコーン が持つ官能基と相互作用を示し親和性 オイル 1)が使用される. を向上するような官能基を有するシラ ① 表面滑性の付与(潤滑性,耐摩耗 性の向上) ② 成形性の向上(流動性,離型性, 剥離性) X にはメトキシ基,エトキシ基などが ある. ③ 物性の向上(耐熱性,耐衝撃性, 耐候性,耐薬品性) ④ 電気特性の向上(耐湿性) 表1 樹脂添加用シリコーンオイル ⑤ 難燃剤の助剤 用 途 品 名 成形性向上,表面滑生向上, 耐摩耗性向上 Element14 PDMS 10K-J Element14 PDMS 60K-J Element14 PDMS 100K-J ジメチルシリコーン ペインタブル,成形性向上, 表面滑生向上,耐摩耗性向上 TSF4300 TSF4420 TSF410 メチルフェニルシリコーン アルキル変性シリコーン 脂肪酸変性シリコーン 帯電防止 TSF4452 TSF4400 ポリエーテル変性シリコーン ポリエーテル変性シリコーン 以下に,シリコーンによる樹脂改質 の技術とそのシリコーン製品について 説明する. * Kenji Saito モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ ジャパン合同会社 シランビジネスマーケティング Tel. 03-5544-3100 Fax. 03-5544-3101 72 内 容 プラスチックスエージ 表2 有機樹脂タイプ別推奨シラン製品〈SILQUEST〉シリーズ ○ ◎ ◎ ◎ ○ メトキシ メトキシ メトキシ メトキシ A-1110 A-1120 A-2120 Y-9669 ◎ ◎ ◎ ○ ○ ◎ ○ ○ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ○ ○ ◎ ○ ○ ○ ○ ◎ ◎ ◎ ◎ ○ ○ メルカプト・ スルフィド メトキシ エトキシ エトキシ A-189 A-1891 A-Link599 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ビニル エトキシ メトキシ 2- メトキシエトキシ A-151NTJ A-171 A-172NTJ エポキシ メトキシ メトキシ エトキシ A-186 A-187 A-1871 ○ ◎ ◎ ○ ○ メタクリル メトキシ エトキシ A-174 Y-9936 ○ ○ ◎ ◎ ウレイド エトキシ A-1160 イソシアネート エトキシ メトキシ A-Link25 A-Link35 アミノ ○ ○ ○ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ○ ○ ○ ○ ◎ ◎ ○ ◎ ◎ ○ ○ ◎ ○ ○ ◎ ◎ ○ ○ ○ ○ ◎ ◎ ○ ○ ○ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ◎ ◎ ○ ○ ○ ○ ○ ◎ ◎ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ◎ ◎ ◎ ○ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ○ ○ ○ ◎ ◎ 尿素樹脂 ◎ スチレン・ブタジエンゴム ◎ シリコーン樹脂 ◎ ポリビニルブチラール ○ ポリウレタン ◎ ポリサルファイド A-1100 ポリオレフィン エトキシ ポリエーテル ポリエステル ポリアミド フェノール樹脂 ニトロセルロース ニトリルゴム クロロプレンゴム メラミン樹脂 エポキシ樹脂 セルロース樹脂 製品名 ブチルゴム 加水分解基 アクリル樹脂 有機官能基 樹脂及びエラストマー(◎:優れた効果がある,○:効果がある) ◎ ◎ ◎ ◎ ○ ○ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ○ ◎ ◎ ○ ○ ○ ◎ ◎ ◎ ○ ◎ ◎ ◎ ◎ ○ ○ ◎ ◎ ◎ ◎ ンカップリング剤を選択すると効果的 である. シランカップリング剤の選択におい て,その有機官能基と有機材料との反 応性,親和性を考慮することで,樹脂 の機械的強度,耐熱性,耐水性,密着 性などを改善することができ,表 2 に 示すような幅広い樹脂で使用されてい る. シランカップリング剤は金属,ガラ ス,無機フィラーなどの無機材料と有 機樹脂の両方に親和性を示し,両者を 結合させることに有用である.この例 表面処理なし アミノシラン(SILQUEST A-1100)処理 写真1 ガラスファイバーで補強したウレタン樹脂の破断面の電子顕微鏡写真 として,ガラスファイバーで補強され たウレタン樹脂の破断写真を写真 1 に 示した. のに対して,アミノシラン〈SILQUEST は,ウレタン樹脂がファイバー表面に 無処理品の場合にはガラスファイバ A-1100〉であらかじめ表面処理を施し 層を形成し,樹脂破断が起きているこ ーとウレタン樹脂の界面に隙間がある たガラスファイバーで補強された場合 とが分かる. April 2014 73 ・シリカ,水晶,ガラス 1.3 シリコーン樹脂微粒子の 添加 ・アルミニウム,アルミナ 優れる ・銅 ・ウォラストナイト シリコーン樹脂微粒子〈トスパール〉 ・アルミノシリケート,クレー ・マイカ 良い はシリコーンの特長である撥水性,潤 ・タルク 滑性,低屈折率(1.42)等に加え,一 ・鉄,スチール 選択的 ・ニッケル 般の無機微粒子よりも低比重で,また ・亜鉛 一般の有機微粒子よりも耐熱性に優れ ・鉛 ている. ・炭酸カルシウム(チョーク) この微粒子はメチルシルセスキオキ ・硫酸カルシウム(ジプサム) ・硫酸バリウム(バライト) サン(CH3SiO1.5)からなる架橋したシ ・カーボンブラック(未処理) 小さい リコーン樹脂の構造を持ち,その重合 ・グラファイト 条件を精密に制御することで粒子径が 図1 無機材料に対するシランカップリング剤の効果 揃った平均粒子径の異なる製品(0.7 (表 3). ∼ 10 μ m)が製造されている 1) これは次のようなプロセスで処理さ コンパウンディング時のアンチブロ が形成される. れる.シランカップリング剤の加水分 シランカップリング剤の各種無機材 ッキング剤として配合することで,フ 解基が湿気や水との反応により活性な 料との反応性は,加水分解した時に生 ィルムが延伸加工される際に添加した シラノール基(SiOH)に変換され,こ じるシラノール基と無機材料の親和 トスパールが凝集することなくフィル の SiOH 基がガラスファイバーの表面 性・反応性が影響する.このため,表 ム表面全体に微細な凸部を形成するた の水酸基と縮合反応で化学的・熱的に 面に水酸基を持つシリカやガラスなど め,微量添加で効果を上げることがで 安定なシロキサン結合を形成する.同 では反応性が高く,逆に水酸基を表面 きる(写真 2).このトスパールは熱 時にウレタン樹脂と反応する有機官能 に持たないカーボンブラックなどでは による変形がないため,特に,高速で 基のアミノ基がファイバー表面に導入 処理効果が小さい.図 1 にシランカッ 機械包装される食品包装用フィルムの される.このアミノ基はポリウレタン プリング剤の各種無機材料に対する効 アンチブロッキング剤として使用され と反応し,両者の界面にウレタン結合 果を示した. ている. 表3 各種トスパールの物性値と電子顕微鏡写真 品 名 XC99-A8808 TOSPEARL TOSPEARL TOSPEARL TOSPEARL TOSPEARL TOSPEARL 120 130 145 2000B 1100 240* 外観 平均粒子径(μ m) 加熱減量(250℃,30min) pH 不定形 白色微粉末 真球状・白色微粒子 0.7 2.0 7.0%以下 3.0 4.5 1.5%以下 6.0 10.0 4.0 5.0%以下 1.0%以下 5.0%以下 7.0 7.0 7.0 7.0 7.0 7.0 7.0 真比重(25℃) 1.32 1.32 1.32 1.32 1.32 1.32 1.32 嵩比重 0.25 0.35 0.36 0.43 0.44 0.66 0.17 屈折率 1.42 1.42 1.42 1.42 1.42 1.42 1.42 95 75 62 58 56 55 84 アマニ油吸油量(ml/100g) XC99-A8808 TOSPEARL 120 TOSPEARL 130 TOSPEARL 145 TOSPEARL 1100 TOSPEARL 240 10μm 74 プラスチックスエージ トスパールは光学用透明樹脂のアク フィルム表層にトスパールの突起形成 リル樹脂,ポリスチレン,ポリカーボ ネートと屈折率の差が大きく,隠蔽性 を持たないため,光拡散剤として高透 過と高拡散を両立させることができ, これらの樹脂にトスパールがごく微量 練り込まれた LED 照明カバーや光拡 散板が製造されている. 表 面 2.シリコーンによる樹脂改質 断 面 写真2 BOPPフィルムの配合されたトスパールの電子顕微鏡写真 2.1 シリル変性有機樹脂 2.1.1 シラン架橋 能なアルコキシシリル基を持つ樹脂を ポリエチレンやポリプロピレンなど 合成することができる.この共重合樹 のポリオレフィン系樹脂は加工性,電 脂は湿気でシロキサン結合の架橋が形 気絶縁性,耐薬品性,機械的性質など 成され,耐候性塗料のべース樹脂とし に優れているが,比較的低温で溶融・ て用いられる. 2) Prepolymer〉を販売している . 2.2 シロキサン変性有機樹脂 アクリル性官能基をもつシロキサン オリゴマーとメタクリル酸エステルの また,トリアルキルシリルメタクリ ようなラジカル重合性のモノマーと共 レートをアクリル系モノマーと共重合 重合させることで,シリコーンの優れ これを改善する方法の一つにシラン させたバインダー樹脂は自己研掃性を た酸素透過性とメタクリル酸エステル 架橋がある.ビニルトリアルコキシシ 持つ船底塗料に用いられている.この の透明性,機械的特性の両方を持ち合 ランと過酸化物をポリエチレンに混合 樹脂は塗膜表面が海水と接触すると わせたハードコンタクトレンズ用材料 加熱することでビニルシランをグラフ 徐々に加水分解していくことで親水性 が提供されている. ト重合させ,更に成形品を水や水蒸気 化し,水流の力で防汚成分とともに海 また,ポリカーボネートとの縮合反 雰囲気下でアルコキシ基を加水分解縮 水中に溶解するために常に新しい塗膜 応でシロキサン鎖が導入された共重合 合させて架橋させる方法である. に更新され,長期に渡り防汚性を発揮 体は,シロキサン結合の優れた特長に する. 基づく耐寒性,耐候性,成形性,耐薬 流動化をすることで用途が限られてい た. シラン架橋はシロキサン結合で架橋 品性などの新たな特性が付与され,自 させるため,耐薬品性に優れたエラス トマー的な特性を持つ樹脂が得られ, 2.1.3 シーリング材用樹脂 動車・家電製品などの新規用途への展 低・中圧の架橋ポリエチレン電線や温 有機樹脂の両末端とシランカップリ 開が期待されている. 水パイプの製造に応用されている. ング剤の有機官能基とを反応させるこ ところで,シリコーンレジンは反応 とで,湿気架橋するアルコキシシリル基 性官能基の SiOH 基を持つ三次元架橋 2.1.2 アクリル塗料用樹脂 を持つ変性樹脂が合成され,建築用シ 構造のシリコーンであるが,硬化(縮 アクリル系モノマーとメタクリル基 ーリング材のベースポリマーとして広 合反応)させることで耐候性,耐熱性, を持つシランカップリング剤を共重合 く用いられている.当社ではポリウレ 電気絶縁性に優れたバインダー成分と させることで,ポリマー骨格に縮合可 タンをシリル化した変性樹脂〈SUPR+ して利用されている.そのレジン製品 表4 シリコーンオリゴマー製品 製品名 反応基 有効成分 (%) 溶 剤 粘度 (cP) 塗膜硬さ 常温乾燥 メチル系 XC96-B0446 XR31-B1410 XR31-B2733 − SiOCH3 − SiOCH3 − SiOCH3 100 100 100 無溶剤 無溶剤 無溶剤 5a) 20 250 硬い 硬い 中間 ○ b) ○ b) ○ b) メチル・フェニル系 TSR160 XR31-B2230 − SiOH − SiOCH3 60 100 キシレン 無溶剤 20 16 軟らか 中間 ○ タイプ a)mm2/s,b)各製品/ CR15(触媒)= 100 部/ 2 部 April 2014 75 の中で,反応性基としてアルコキシシ 反応性シロキサンなど多岐にわたり, リル基を含有する液状のシリコーンオ 目的や用途に合わせてそれら製品が活 トスパール及び TOSPEARL はモメ リゴマー(低分子量重合体)があり, 用されている.今後,新たに開発され ンティブ・パフォーマンス・マテリア その製品例を表 4 に示した.メチル / る樹脂や要求特性に対応できる最適な ルズ・ジャパン合同会社の商標です. フェニル系オリゴマーは有機樹脂成分 シリコーン製品を提供していく所存で SILQUEST,A-link 及び SUPR+ はモメ との相溶性に優れ,有機樹脂のシリコ ある. ンティブ・パフォーマンス・マテリア ーン変性用中間体として用いられ,塗 料用有機樹脂の耐候性,耐熱性などを 向上させることができる. おわりに 樹脂改質用シリコーンは,シリコー ンオイル,シリコーン樹脂微粒子「ト 引 用 文 献 * * * * ルズ・インクの商標です. 1)モメンティブ・パフォーマンス・マテリ アルズ ホームページ http://silicones.momentive.jp/ 2)Momentive 製品データシート SPUR+ 1015LM SPUR+ 1050MM http://www.momentive.com/ スパール」,シランカップリング剤, 76 プラスチックスエージ
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