講師:信州大学医学部付属病院 消化器外科 石曽根 聡医師 2012 年 11 月 29 日開催 セミナーの冒頭で石曽根 聡先生は、統計を示しながら大腸がんの患者は年々増 加しており、原因は食生活の欧米化にあると説明されました。つまり、欧米で暮 らせば大腸がんになる確率は非常に高まるわけです。大腸がんは、男性のがん死 亡の第 3 位、女性のがん死亡の第 1 位です。罹患率は、現在男性の 12 に1人、女 性の 15 人に 1 人、2020 年には男女ともに罹患率の第 1 位になるだろうといわれ ています。 50 歳になると罹患数は急激に増え始めます。ところが、罹患数に対して、死亡数 は半分ほどですので、早期発見であれば治る確率も高いがんです。 食生活の欧米化について少し説明します。赤身の肉やソーセージやベーコンとい った加工肉、過量の飲酒は確実にリスクを高め、喫煙は大腸がんに罹患する可能 性を高めます。生活習慣としては、肥満、過体重、内臓脂肪はリスクを確実に高 めるキーワードです。反対にリスクを減らすためには、運動、野菜・果物といっ た食物繊維の摂取、にんにく、牛乳、カルシウムの摂取が有効です。 大腸がんの発生は、以下の 3 つに分類されます 1. 腺腫のがん化(多段階発がん)…正常粘膜→良性ポリープ(腺腫)→がん 2. デノボがん…当初からがんとして発生、早期に進行がんに至る。 3. 遺伝性大腸がん…家族性大腸ポリポージス・遺伝性非ポリポージス性大腸がん (常染色体優勢遺伝:修復機能に関わる遺伝子がもともと異常) <ポリープについて> 大腸の表面から内腔に飛び出したイボのようなもので 良性: 「腺腫」 、 「過形成」 → 腺腫はがんになる可能性があります。 悪性: 「がん」 大腸ポリープの約 8 割が良性。1 ㎝以上になるとがん化することが多い。 腺腫性のポリープは、がんになるまでに 7~10 年かかりますが、全てのポリープ ががんになるわけではありません。 1 <大腸がんの好発部位> 14% 20% 直腸にがんが多く発生するのは? 便に接触する時間が長く、便に含 28% まれる刺激物にさらされることが 原因だとされています。 38% 直腸:38%・S 状結腸:28%・下行結腸 14%・上行結腸 20% <進行度による症状の出現> ・早期がん:どのがんにおいてもほとんど症状がない。 ・進行がん:進行していても無症状であることが多い。 しかし、さらに進行すると症状が出現します。 具体的には血便、腹痛、便通異常など。 症状の出やすさは・・・ 右側の結腸<左側の結腸・直腸 <大腸がんを治す方法> 1.内視鏡手術 4.放射線治療 2.手術 3.抗がん剤治療 2 <がんの深達度>…がんが大腸の壁のどこまで入り込んでいるか? OLYMPUS お腹の健康ドットコム HP より <がんのリンパ節転移> 大腸に在るがん細胞から、腸管傍リンパ節、中間リンパ節、主リンパ節へと転移していき ます。 <大腸がんの遠隔臓器転移> がんが原発巣から他の臓器に‘飛び火’すること ・血行性の転移…血液の流れに乗って肝臓や肺、骨や脳に転移 (大腸からの血液は一旦 肝臓へ戻るので。 ) ・腹膜転移…大腸の壁を破って、腹腔内に転移 (散らばる。) 3 <大腸がんの進行度> ステージは、①深達度、②リンパ節転移、③遠隔転移と腹膜転移の状況 に基づいて分類 *ステージⅢa: 3 個以下のリンパ節に転移 *ステージⅢb: 4 個以上のリンパ節に転移 BRAVE CIRCLE の HP より <大腸がんの 5 年生存率>…治る目安 ・早期がん…ステージ 0:94.3%、ステージ1:90.6%、ステージ 2:81.2% ・リンパ節転移…ステージ 3a: 71.4%、3b 56.0% (ステージ 3 以上は再発が多い) ・他の臓器に転移あり…4:13.2% <大腸がんの治療方針> 京都大学医学部消化管 外科の HP より 4 <内視鏡的ポリペクトミーと粘膜切除術> 内視鏡的ポリープ切除術 内視鏡的粘膜切除術(EMR) 水を入れて持ち上げる。2 ㎝くらいまでのポリープ 大腸がん治療ガイドラインの解説 <大腸がん手術の基本> 1. がんの部分を切除する 2. がんが周りに浸潤している可能性のある部分を切除する。 3. 転移の可能性のある近くのリンパ節を切除する。 <結腸がんの手術> 結腸がんの手術では、切除する部分が多くても術後の機能障害はほとんど起こりません。 がんが 1 ㎝あれば転移を疑い安全な範囲を除去します。他に腹腔鏡下手術の切除術もあり ます。こちらは、早期のがんが対象ですが、傷が小さい、術後の痛みが少ない、食事の開 始が早い、早期社会復帰、癒着が少ない等のメリットがあります。 <直腸がんの手術> 肛門周辺には自律神経がありますので、自律神経を温存させて排尿障害等を防ぐようにし ますが、直腸がんでは大きな手術になることも多く、泌尿器生殖機能に影響を与えること もあります。状態によっては、温存できないこともあり、人工肛門が必要になることもあ ります。 <大腸がんに対する放射線療法> 1. 補助放射線療法…(直腸がんに対して行う) 術後の再発抑制や術前の腫瘍量減量、肛門 温存を目的とする。 *欧米では一般的ですが、日本では一般的な治療ではありません。 2.緩和的放射線療法…切除不能進行・再発大腸がんの症状緩和や延命を目的とする。 骨盤内病変…疼痛・出血・便通障害などの症状緩和 骨盤外病変…骨転移・脳転移・遠隔リンパ節転移などの症状緩和 5 <一般的ながんの薬物療法の目的> 1. がんを体内から消滅させて完全に治すこと…根治治療 2. がんの増殖を抑えて、延命を目指すこと…延命治療 3. がんが原因と考えられる痛みやつらさを減らすこと…緩和治療 4. がんの手術後に再発を抑えること…術後補助化学療法 5. がんを小さくして手術ができるようにすること…術前科学療法 *5 番は最近多い治療法です。 <補助化学療法について> 三期の方 100 人に手術を行った 5 年後 場合、30 人の方は再発もしく 手術だけ は、転移で亡くなってしまう。 Ⅲ期 100 人 再発や転移を防ぐため 100 人全 30 人死 員に補助化学療法を行うが、誰 に再発の可能性があるのかわか 補助化学療法 らないまま抗がん剤が使われて の結果 いるのが現状。今後は腫瘍マー カーで再発の恐れを特定できる 化学療法を Ⅲ期 追加すると 100 人 可能性もあるかもしれません 30 人-α α=7~8人 <薬物療法の進歩> 抗がん剤は今から半世紀程前に開発されました。当時開発された5-FU 系という 薬は現在でも注射と経口薬として使用されています。1970年代以降、 新規抗がん剤であるオキサリプラチンやイリノテカンが開発され、延命 に貢献してきました。2000 年代に入り、がん細胞を活性化させる 特有の因子に作用してがん細胞の増殖を抑制する分子標的薬 が登場しました。ベバシズマブ、セツキシマブ、パニツムマブ などです。正常細胞への影響が少なく、副作用も少ないと 抗がん剤の副作用は依然より 今後の治療効果を期待されています。 も軽くなり、また狙ったがん細 胞のみを破壊する分子標的薬 が使用されるようになり、化学 療法で小さくしてから、手術が できるまでになりました。 これらの薬を組み合わせて治 療を行います。 6 <大腸がんから身を守るために> 生活習慣の改善で大腸がんのリスクは下がりますが、確実な予防法はありません。 ですから、検診による早期発見が大切です。 40 歳以上は毎年、全員受け 便潜血検査 ることが望ましいです。 ・2 日分の便を採って潜血反応の有無を検査 検診を受けられて便潜血で ・40 歳以上の人全員が対象 発見できた大腸がんは 6 割 がステージ 1 です。 便潜血検査 便潜血反応陽性 大腸がん 2~3% 1~2 人 50 人 1000 人 5~7% ~70 人 大腸ポリープ(良性) これは、いずれがんになる かもしれません。 50 歳を過ぎたら、大腸内視鏡検査を一度は受けてください。というのが石曽根医師らのメ ッセージです。 「症状が出る前に検診を受けることが大切です」どの段階で治療を行うかで 治る可能性が異なるからです。今年、検査を受けなかった方は是非来年の検診の予約を入 れましょう。と改めてお伝えしてこの「がん治療セミナー潜入記」を締めくくりたいと思 います。 2012 年 12 月 5 日 7
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