大阪電気通信大学 視覚情報基礎研究施設学術講演会 2009 年 12 月 4 日 ライフログとその展望 相澤 清晴† †東京大学 情報学環,情報理工学系研究科 〒113-8656 東京都文京区本郷 7-3-1 †[email protected] E-mail: あらまし 何らかの電子的な手段で日常生活の有り様,活動をライフログとして取得することで,体験のデジタル 化とアーカイブ化の道が開ける.そのようなデジタル体験ログを残すことで,今まで何気なく過ごし,見落とした り,忘れたりしてきた情報を活用することが可能になる.本稿では,ライフログに関してその概要を述べるととも に,我々が進めてきた研究のうち,汎用目的指向のウエアラブルシステムとユビキタスホームでのライフログと特 定応用指向の食事ログについて紹介する.また,現在,特定応用に特化したライフログは様々なWebアプリケー ションとして身近なところで始まっている.どのようにライフログの展望を描けばいいのかについても論じたい. キーワード ライフログ,ユビキタスホーム,食事ログ Development of Life Log Technology Kiyoharu AIZAWA† †Dept. of Information and Communication Engineering, University of Tokyo 7-3-1 Bunkyo Tokyo 113-8656 Japan E-mail: †[email protected] Abstract Capturing our activities in our daily life by electronic means leads to digitizing and archiving our personal experiences. Making use of our life log enables us to utilize such information that we usually tend to miss or forget in our daily life. In this paper, we present the status of life log research and our projects that we have been investigating. From the point of views close to our lives, we would like to focus on life log captured by a wearable system and a ubiquitous home, in which we deal with multimedia capture and interactive retrieval for generic purposes, and food log, in which we investigate life log for a specific purpose . Keyword life log, ubiquitous home, foodlog 1. はじめに “レコーディング・ダイエット”なるダイエ ッ ト が 昨 年 来 話 題 に な っ て い る [1].食 べ た も の をメモしていくことでダイエットが始まる.毎 日 食 べ る も の の 量 や 詳 細 の ロ グ を と り( た だ し , 手 書 き メ モ ),い わ ば 可 視 化 す る こ と か ら 始 め る ダイエットである. 生活の有り様のデジタル記録を“ライフログ” と称している.この言葉自身,比較的新しい言 葉であるにも関わらず,現在は一般に耳にする ことも多い.ライフログに関連する具体的な研 究 は ,90 年 代 の 半 ば か ら モ バ イ ル コ ン ピ ュ ー テ ィングやウエアラブルコンピューティングの課 題として散見されるようになり,マルチメディ ア,ユビキタスコンピューティング, データベ ースなども含めたより広い分野の課題として認 知 さ れ て き た [2,3,4].有 象 無 象 の デ ー タ を 集 め てくることで一体何ができるのだろう.ライフ ログのデータは集めだけでは,ただのログであ るが,その活用の道が豊富にある.冒頭のレコ ーディング・ダイエットはそのわかりやすい事 例でもある. 本稿では,ライフログ関係の研究について概 観し,われわれがこれまでに取り組んできたラ イフログの取得と処理に対する取り組みを紹介 し,ライフログのありかたや新しく見えている 課題に対しての展望を述べる. 2.ライフログ研究概観 これまでのライフログ関連の研究は,大きく あ り 方 は ,大 き く 変 容 し つ つ あ る よ う に 思 わ れ る . これについては,4 節で述べたい. 分けて2つのアプローチで進められてきた.そ の一方は,日常あるいは業務にて操作した情報 3. ライフログへの取り組みの事例として の 蓄 積 で あ り ,生 活 の 中 で 操 作 し た Web,email, 我 々 は ,90 年 代 末 よ り ラ イ フ ロ グ に 関 し て い 各種文書,視聴した音楽映像,会議の記録など が 行 わ れ て き た ( 例 え ば , Forget-me-not[5], MyLifeBits[6]).も う 一 方 の ア プ ロ ー チ は ,日 常 生活の有り様のデジタル化とアーカイブであり, 個人視点で見たもの,聞いたもののデジタル化 を通して,体験ログの取得と処理が検討されて い る (例 え ば ,[7-19]).前 者 は 比 較 的 ,文 書 や デ ータを中心とした記録の側面が強く,後者は, 映像などマルチメディアを利用する記録の側面 が強い. 上 記 の う ち で ,“ Forget-me-not “ [5] が も っ と も初期のシステムであり、研究所内の活動履歴 や 内 容 の 検 索 を 行 っ た .P D A シ ス テ ム で あ り 、 く つ か の 試 み を 行 っ て き た [9,10,12,14,17,18,19]. それらを大きく分けて,取得系の違い(ウエア ラ ブ ル シ ス テ ム / 環 境 型 ),対 象 の 違 い( 特 定 個 人/小数グループ/多数)で図 1 にまとめてみ た.対象としては,個人や家族のマルチメディ ア記録を取得し,汎用目的でのデータ解析,記 録のインタラクティブな検索,提示を中心に進 めてきた.さらに,それらに加えて,ある特定 応用(食事ログ,展示会場)のための検討も進 めてきた.これらのうち,汎用的なマルチメデ ィア日記として,ウエアラブルシステムとユビ キタスホームでのライフログと,特定応用に特 化した食事ログの事例を紹介する. ActiveBadge に よ る ユ ー ザ の 位 置 や 他 者 と の 遭 遇の記録、メール、ファイルの交換履歴、電話 の発着信履歴を記録し、過去のイベントの検索 を 行 っ て い た . ”MyLifeBits”[6]で は 、 さ ら に 網 羅的、多元的に記録を進めている.PCベース の シ ス テ ム で あ り 、ユ ー ザ の 見 聞 き す る 文 書( 手 紙 や メ モ な ど 紙 媒 体 は ス キ ャ ン ま で す る )、電 子 メ ー ル 、 Web, 写 真 、 電 話 、 C D な ど 膨 大 な デ ータを収集し、必要によりマニュアルでのアノ テーションもつけ、ユーザ個人のおおよその活 動履歴とその内容を電子的なデータベースとし て記録し、利用するための取り組みを行ってい る. ライフログの取得システムとしては,複数の センサを有する装着型あるいは携帯型のウエア 図1.我々のライフログのこれまでの取り組み 3.1 ウエアラブルライフログの取 得 と処 理 ラブルなシステムが利用されることが多い.ま ウエアラブルシステムによる長時間データ た,個人が常時携帯する情報機器である携帯電 の取得、データの効率的な検索に関しては 話を利用し,行動履歴をとる試みも進められて [9,10,12,14,18]の よ う な 研 究 を 進 め て き た .映 い る [16]. さ ら に , 家 庭 や 特 定 の 屋 内 な ど 限 定 像検索では,広くコンテンツに基づく検索が議 した環境に埋め込んだセンサを用いるユビキタ 論されてきたが,極めて冗長な生活記録の場合 ス シ ス テ ム も 用 い ら れ て い る [17]. には,コンテンツに基づく手法に十分な機能を なお,これまでのライフログ研究の多くは,生 活の有様のほとんどすべてを取得記録するとい う 意 味 合 い が 強 か っ た よ う に 思 う .ほ と ん ど の 体 験 記 録 が あ れ ば ,個 人 の 生 活 を 振 り 返 っ て の 追 想 や 発 見 等 々 ,汎 用 的 な 応 用 が 可 能 に な ろ う .こ れ ら の ア イ デ ア は , V.Bush が 1945 年 に 描 い た MEMEX(Memory Extension)[20] と い う 着 想 に そ の萌芽をみることができる. そして,現在,生活のデジタル記録というライ フ ロ グ は ,さ ま ざ ま な 形 で の 実 用 が 始 ま り つ つ あ る .そ の 実 用 に 際 し て ,ラ イ フ ロ グ の こ れ ま で の 期待できない. 人の追想と同様に,体験記録の場合には,コ ンテンツそのものよりも状況を表すコンテキス ト が 役 に 立 つ と 考 え ら れ る .こ の た め ,我 々 は , コンテキストに基づく検索の研究を進めてきた. そのために,映像や音声の取得ばかりでなく, 位 置 検 出 の た め の GPS( あ る い は 無 線 LAN), ジ ャイロ,加速度センサを利用した.熱流を利用 して,環境の移動の検出も効果的に行えること を示している.持ち運ぶセンサという観点から になる)に分類した. 最も現時点でユーザへの負担の少ないもの以下 に紹介したい. 最 終 的 な 分 類 の 精 度 は ,40 時 間 分 の 評 価 デ ー ■ SenseCam と位 置 検 出 [18] 長 時 間 の 稼 動 が 可 能 で ,ユ ー ザ へ の 負 担 も 少 な い シ ス テ ム と し て ,現 在 ,デ ジ カ メ を ベ ー ス タ に 対 し て の 再 現 率 , 適 合 率 と も 82 % , 85% と良好な性能を行えている.本システムのイン タフェースを図3に示す. と し て 作 ら れ た SenseCam [11]( 図 2 )を 用 い , PDA に よ る 無 線 LAN の 位 置 検 出 あ る い は G P S Time stamp を利用した構成の実験を進めている. Eating scene SenseCam に は セ ン サ が 内 蔵 さ れ て お り ,人 感 Walking scene センサ,温度センサ,明度センサ,加速度セン サが内蔵されており時間間隔及びセンサの反 cli ck Shopping scene Shopping scene 応に応じてデジタルカメラが写真を蓄積して click い く . 一 日 , 10 時 間 程 度 の 稼 動 で 4000 枚 く ら いの画像を取得する. 図 3. 要約提示インタフェース. GoogleAPI に よ る 地 理 情 報 も 表 示 3.2 ユビキタスホームにおけるライフログ 家庭での生活は,日常生活の多くの時間を占 める.その常時記録は,生活の有り様の克明な 記録となる.家の中の物事はあまりにも身近な 図 2. SenseCam ため,記録の対象としての価値が低いと思われ るかもしれない.しかしながら,実は身近であ 位 置 検 出 に つ い て は , PDA の 無 線 LAN に よ るために,見ていないこと,気付かないことが る位置検出手法あるいはGPSによる位置検 とても多い.実際,実生活実験では,参加した 出 を 活 用 し た .位 置 検 出 結 果 と 画 像 ,セ ン サ デ 家族からは映像によりはじめて気付いたことが ー タ は タ イ ム ス タ ン プ で 照 合 し ,統 合 し た デ ー あり,永く記録に残しておきたいとのコメント タ に 対 し て ,処 理 を 行 い ,行 動 の 類 別 を 行 っ た . もあった.技術的にも人の行動の解析に繋がる ま ず ,移 動 の 速 度 や そ の 方 向 の 変 化 の 状 況 か ら , 課題として興味深い. 移 動 を 複 数 の カ テ ゴ リ ー に 分 類 し ,さ ら に 低 速 , 静止に関しては,行動の分類を行った. まず, ◆移動速度から 我 々 は , NICT( け い は ん な ) に て 2004 年 3 月に構築されたユビキタスホームでのデータ取 得実験を行い,その処理を進めた.取得データ は ,17 台 の カ メ ラ ,25 台 の マ イ ク ロ ホ ン ,床 の 停 留 ~ 低 速 , 低 速 ( 歩 行 等 ), 中 速 ( 自 転 車 ほ ぼ 全 面 に 18c m 間 隔 で 配 置 さ れ た 圧 力 セ ン 等 ), 高 速 ( 電 車 等 ) サ の デ ー タ で あ る .主 要 な 処 理 を 以 下 に あ げ る . のカテゴリに分類した. さらに, ◆停留~低速の動きに対し,移動軌跡の複雑さ から, 屋外の直線的な移動,屋内の停留的な移動 ( 買 い 物 , 駅 な ど ), 静 止 へ分類した. さらに, ◆静止の状態を,加速度,明度,赤外人感セン ◆床圧力センサに基づく人物の歩行検出・追跡 人物の歩行軌跡のセグメンテーションと セグメントの統合により人の移動の追跡. ◆ビデオハンドオーバー 人 物 の 軌 跡 か ら 求 ま る 位 置 を も と に ,多 数 の カメラ映像からあたかも人が編集したよう な映像クリップの自動生成. ◆キーフレームの抽出 サも併せることで,2-3の特徴的なクラス 人の歩行のアクティビティも考慮した適応 分 類 し ,( 仕 事 , 食 事 , 何 も し て い な い , 横 的なキーフレームの抽出. ◆オーディオからの音源の領域同定 25 ほ ど あ る マ イ ク ロ ホ ン の オ ー デ ィ オ データの強度分布に基づき,領域間の音の 干渉も考慮した位置推定を行う. そのイベントがどのような移動軌跡に対応して い る か ,そ の 際 の 映 像 は ど の よ う に 見 え る か を 再 生 す る こ と が で き ,映 像 に 関 し て は ,人 の 移 動 に あわせて自動的にカメラを切り替えるハンドオ ーバーを行いながら人物を追跡表示できる. ◆映像データからの環境光変化の検出 部 屋 の 明 か り の ON/OFF に 相 当 す る 短 時 間 の照明条件の変化の検出 ◆サマリの提示とインタラクティブな検索 圧 力 セ ン サ デ ー タ の 処 理 ,オ ー デ ィ オ 処 理 結 果 ,映 像 処 理 結 果 の サ マ リ を 提 示 し ,家 や 各 部屋での人のアクティビティや記録データ の 有 無 を 一 覧 で き ,該 当 す る ビ デ オ ク リ ッ プ を見ることのできるインタラクティブな検 索を実現している. 3.3 食 事 ログ すべてを記録しようという汎用指向のライ フログに対して,特定の出来事だけ,特定の興 味だけを記録するという特定応用を指向したラ イフログもある.ビジネス的な応用では,会議 のマルチメディア記録,消費電力の記録,個人 的 に は , 日 記 ( ブ ロ グ も ), 身 体 や 運 動 の 記 録 , 移動の記録,日々の写真,ビデオ等々であり, ユーザにとっては,負担が少なく記録できる場 取 得 映 像 か ら の 解 析 結 果 は ,図 4 の よ う な イ ン タ フ ェ ー ス に 要 約 さ れ る .上 の 2 つ の 軸 は 映 像 ,音 響 の デ ー タ の 存 在 を あ ら わ し て お り ,下 の 3 つ の 軸が ,足 踏 み・歩 行の 度 合 ,音 源 ,明 る さの 変 化 といった家の中の活動の概略をあらわしている. 足 踏 み・歩 行 の あ る イ ベ ン ト の 部 分 を ク リ ッ ク し て選ぶと,図 5 のような詳細画面を表示できる. 合が多い. 我々は生活の重要な要素である“食”に特化 し た 仕 組 み を 検 討 し て い る [19]. レコーディン グ・ダイエットは手書きメモであったが,電子 的な手段で食事の記録ができ,食事バランスの 解析ができれば,生活の改善に役立つはずであ る.また,食事を起点として記憶をたどること もあるのではないか. このため,食事画像の記録(ケータイでもデ ジ カ メ で も PDA で も よ い )を 行 い ,画 像 か ら 食 事のバランスの推定を行い,ログの可視化を行 う シ ス テ ム を 構 築 し た( 図 6).シ ス テ ム で は 以 下の処理をおこなう. (1)画像群から食事画像を自動分類する. (2)食事画像に対し,食事バランスガイド [21]の 分 類 に 従 い 主 食 , 主 菜 , 副 菜 等 の 自 動 分 類をおこなう. 食事バランスは,分類は5分類と粗く,その 図 4 家の中の活動の一日のサマリ 量も皿に相当するような量であるSVを単位と し て お り ,詳 細 す ぎ ず ,素 人 に も わ か り や す い . こ の よ う な 分 類 は , food pyramid と し て 世 界 中 に あ る . な お , 1 ), 2 ) と も 自 動 で は あ る が , 誤りも生じるため,インタフェースにて誤りを 容易に修正できるように工夫してある. ( 3 )ロ グ の 活 用 と し て ,記 録 さ れ た 食 事 の 閲 覧,1週間の食事バランスのチャート表示,バ ランスの観点から望まれる食事の推薦といった 処理を行うことができる. 図 7 は,食事カレンダーのインタフェースで ある.月,週,日での表示,バランス推定の一 日ごとの変遷のグラフも表示できるようになっ て い る .( な お , 食 事 ロ グ の 基 本 機 能 は , [22] 図 5 人物の軌跡とハンドオーバー映像 で 利 用 で き る .) え,使う人により,記録のとりかたはまちまち にならざるをえない.広く受け入れられるため には,必要な人が必要な記録をとればよい.た だし,電子的であるので,ばらばらに得られた ものを集約することが可能である.食事ログを はじめとした多様なログを集約し,そのコンテ ンツ処理をすることこそがライフログにとって 本質的に重要である. インターネットのWebアプリケーション で の 様 々 な ロ グ 記 録 は ,徐 々 に 進 み 始 め て お り , 生活の断片を記録するライフログはすでに始ま 図 6. 食事ログシステム っている.手間がかかるかどうかはともかくと し て , い わ ゆ る ブ ロ グ も 該 当 す る し , ”twitter” でのつぶやきの記録(マイクロブログ)や“キ セ キ ”で の ケ ー タ イ で の 位 置 記 録 ,”Run & Walk” では運動の記録がとれる.睡眠時間の記録をと る“ねむログ”といったものまである.ライフ ログを標榜するミログなるものもある.ある規 模のユーザがいることを鑑みれば,これらの特 定応用のログは,すでに受容性が高い.これら に 加 え て , Flickr な ど の 写 真 , 映 像 の 共 有 サ イ トも利用可能である. 集 約 の 試 み も 始 ま り つ つ あ り ,twitter,Flickr 等 々 複 数 の ソ ー ス を 連 携 し て 提 示 す る“ Swurl”, ” Allofme”, ”life-x”な ど が 現 れ 始 め て い る . た だ 図 7. 食事カレンダー(月表示) 4.展望 ■受容性の高いライフログのために 多くの人に広く受け入れられる“ライフロ グ ”,そ し て ,そ の 活 用 が 重 要 で あ る と 考 え て い る.研究の観点からは,汎用指向のものがこれ まで進められてきた.センサにより常時すべて を記録しようという汎用指向のライフログは, 応用の限界を見極めるうえで重要であるが,ユ ーザへの物理的心理的負担は大きく,必ずしも し,これらのものは連携して表示するといって も,現時点では,時間で並べるにとどまってい る.必要な情報を抽出するためのコンテンツ処 理があることが望ましい. 以上を鑑みると,ライフログのあり方として, 図8のような特定応用の複合体としての形態が 考えられるのではないだろうか.ユーザは欲し い も の だ け 利 用 す れ ば い い .単 な る 集 約 で な く , 適切なコンテンツ処理による情報抽出を行い, それらを連携させ,断片をつなぎ合わせること で単なる組み合わせ以上の可視化ができよう. 現実的ではない.ライフログは,好きな人が必 要なものだけ記録すればいい. もともと,生活の記録は,分散しているもの だった.日記やメモ,写真,ムービー,アルバ ム,伝票等々のように,ばらばらに管理され, 必要な局面で必要なものを探してきた.重要な ことには,個人ごとに,好きなように日記をつ け,写真をとり等々,ばらばらであった.好き なように使えるので,それらは広く社会に受け 図8 受容性の高いライフログのあり方 入れられてきたといえる.いわば,受容性が高 かった. ライフログもデジタル記録になったとはい ラ イ フ ロ グ は ,単 な る 記 録 以 上 に ,健 康 応 用 , セキュリティ応用,エンタテイメント応用など 想定される応用はいくつもあげることができる. したがって,それらに向けての特定応用が検討 されるべきであろう. ■オブジェクトの認識からイベントの認識へ コンテンツ処理の観点からもライフログで は必要とされる課題が変化していると思われる. 類似検索等に求められる映像メディアのコンテ ンツ処理では,これまで,既存の枠組みが適用 され,何らかのオブジェクト認識を目標とする ような課題が設定されていたように思う.しか し な が ら ,ラ イ フ ロ グ デ ー タ の 処 理 に お い て は , 人の体験にとっての重要な要素を扱うことが課 題となる.そのため,オブジェクト(モノ)の 認識以上に,イベント(コト)の認識がより大 きな課題となる.単に短い映像が与えられオブ ジェクトを見つけるという課題でなく,パーソ ナルな長期間にわたるデータが映像やセンサデ ー タ と い っ た 複 合 的 な 形 で 与 え ら れ る .そ し て , そこから,ユーザにとって重要なイベントを認 識するという課題の方が必要である.どのよう なイベントがユーザにとって重要かという指標 も現在のところ極めてヒューリスティックなも のにとどまっている.イベント自体も,複合的 な情報の関係の中に成り立つものでもあり,単 一メディアの解析でなく,センサデータを含む マルチメディアデータの解析が必要となろう. 謝辞 ライフログの研究にともに取り組ん で き た 研 究 室 メ ン バ ー に 謝 意 を 表 し ま す .特 に , タンチャロエン君,デシルバ君,北村圭吾君の 貢献によるところが大であることを付記する. 参考文献 [1] 岡 田 斗 司 夫 「 い つ ま で も デ ブ と 思 う な よ 」 新 潮 新 書 2007 [2] IEEE Multimedia, Special Issue on Capture, Archival and Retrieval of Personal Experiences, Oct. 2006 [3] シ ス テ ム 制 御 情 報 学 会 誌「 体 験 の 記 録 ・ 利 用 と そ の 意 義 特 集 号 」 2006 年 1 月 [4] 人 と 機 械 の ラ イ フ ロ グ コ ン テ ン ツ 研 究 専 門 委 員 会 報 告 書 ,日 本 ロ ボ ッ ト 学 会 ,2007 年 4月 [5] M.Lamming, M.Flynn: Forget-me-not; Int. 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