小児細菌感染症2 小児科学 長井健祐 1.肺炎 肺炎は感染性、非感染性の種々の病因によっておこる肺の炎症の総称である。 (1)病因と疫学 肺炎の病原微生物 ウイルス:RS (Respiratory-syncytial)、パラインフルエンザ、麻疹、ア デノ、インフルエンザ、水痘、サイトメガロ、SARS 細菌:黄色ブドウ球菌、肺炎球菌、A 群レンサ球菌、インフルエンザ 菌、腸内細菌(クレブシエラ、緑膿菌)、レジオネラ、結核 その他:肺炎マイコプラズマ、ニューモチスティス・カリニ、トキソプラ ズマ、真菌、クラミジア、コクシエラ 基礎疾患を持たない小児の肺炎の病原 細菌性 <1mon 1-3mon 3mon-5yr 5yr GBS 肺炎球菌 肺炎球菌 肺炎球菌 肺炎球菌 黄色ブドウ球菌 黄色ブドウ球菌 A 群レンサ球菌 大腸菌 インフルエンザ菌 A 群レンサ球菌 リステリア インフルエンザ菌 Gram 陰性桿菌 ウイルス性 その他 RS RS RS インフルエンザ サイトメガロ サイトメガロ パラインフルエンザ アデノ パラインフルエンザ インフルエンザ 麻疹 インフルエンザ アデノ EB アデノ 麻疹 クラミジア・トラコマティス 肺炎マイコプラズマ 肺炎マイコプラズマ 肺炎クラミジア 免疫不全における肺炎の病原 細菌性 Gram 陽性菌 リステリア菌、コリネバクテリア菌 Gram 陰性菌 緑膿菌 その他 結核菌、非結核性抗酸菌 非細菌性 ウイルス ヘルペスウイルス(CMV、VZV、HSV、HHV-6)、アデノウイルス 真菌 アスペルギルス、カンジダ、ムコール 原虫 ニューモシスティス・カリニ (2)肺の感染防御機構 鼻咽腔、期間における吸気の加温、加湿、濾過 分泌物の吸引を防ぐ喉頭蓋反射 下気道から異物を排出する咳嗽反射 気道上皮の線毛運動と IgA 抗体 肺胞の大食細胞 免疫 リゾチーム、グリコプロテイン、インターフェロン、補体、免疫グロブリン、 好中球、リンパ球 気道常在菌叢による病原微生物過増殖抑制 ウイルス感染などにより、上記の防御機構に破綻をきたした時、肺炎が 惹起される。市中感染の場合、ほとんどの場合、ウイルス性上気道炎が 先行する。細菌性肺炎は、細菌感染気道分泌物の気管への吸引が誘 因と考えられている。菌血症、敗血症による血行感染もあるが、まれで ある。 (3)病態生理 原因微生物の感染に伴う炎症で、肺胞あるいは肺胞間質に炎症性細胞 浸潤が起こり、微生物と炎症細胞の反応によりさまざまなサイトカインが 産生される。その反応として発熱などの全身症状とともに、局所に浸出 液、線維素析出、出血などを認め、そのためにガス交換が障害される。 回復に向かうと線維素を主体とした生成物の融解と吸収が起こり、治癒 に向かう。 (4)臨床症状 発熱、咳嗽、喀痰、胸痛など。呼吸困難(多呼吸、補助呼吸—鼻翼呼吸、 陥没呼吸)、起座呼吸、呼吸不全(チアノーゼ、呻吟、あえぎ)。 (5)胸部理学的所見 胸部聴診では、水泡性ラ音の聴取(湿性ラ音)、呼吸音減弱、打診での 濁音化など。急性細気管支炎では、呼気性喘鳴、呼気延長が著明であ る。 (6)検査 画像検査 肺炎が疑われる場合―胸部正面、側面単純 X 線を撮影する。胸膜炎の 合併が疑われる場合、側臥位正面撮影を行う。腫瘍、出血などとの鑑 別が必要な場合は、CT 検査を行う。 細菌性肺炎は、主として単独、複数の区域、肺葉に限局する肺胞性肺 炎像を呈する。炎症性物質の肺胞内貯留は空気で満たされた気管支を 際立たせ、air bronchogram を認める。 ウイルス性肺炎は、主として間質性肺炎像を呈し、病変は両肺野にびま ん性に広がる。気管支壁の炎症性変化を伴う場合、tram line、cuff sign を認める。マイコプラズマ肺炎は、多彩な肺炎像、すなわち肺胞性、間 質性肺炎像、あるいは両者の混在を呈する。 カリニ肺炎の初期は、両側肺に淡い間質性網状陰影を、進行とともにス リガラス状陰影を呈する。 炎症反応検査 細菌、真菌などによる肺炎では、急性期炎症反応として、赤沈亢進、 CRP 強陽性、白血球増多と核の左方移動などを認める事が多い。ウイ ルス感染やクラミジアによる肺炎では、炎症反応に乏しい場合が多い。 マイコプラズマ感染症では、白血球数の変動は乏しいが、CRP 上昇や ESR 亢進などの炎症反応を認める場合が多い。 血液ガス分析 呼吸不全やガス交換障害があれば、動脈血酸素分圧低下、動脈血炭 酸ガス分圧上昇、動脈血 pH 低下などを認める。 微生物検査 喀痰の肉眼的性状観察(Miller&Jones の分類) 喀痰培養—洗浄喀痰より細菌が純培養状にあるいは 106~107/ml 以上 検出された場合有意、喀痰の塗沫標本の Gram 染色(Geckler の分類) 染色法 Ziehl-Neelsen 染色(結核菌、非結核性抗酸菌)、Gimenez 染色(レジオ ネラ菌)、 PAS 染色、Grocott 染色(真菌:アスペルギルス)、Giemsa 染色、トルイ ジンブルーO 染色(ニューモシスティス・カリニ) 培養検査 小川培地(結核、非結核性抗酸菌)、サブロー寒天培地(真菌)、PPLO 培地(マイコプラズマ) 微生物抗原検査(アデノ、RS、インフルエンザウイルス、A 群レンサ球菌、 レジオネラ、結核菌など)、ペア血清を用いた抗体検査(マイコプラズマ、 クラミジア、その他のウイルスなど) (7)治療 全身管理—心拍、呼吸、体温のモニタリング、輸液など 補助療法—酸素吸入、呼吸器管理(人工換気) 抗微生物薬療法 細菌—抗生物質 一般細菌:ペニシリン、セフェム系抗菌薬 マイコプラズマ、クラミジア、レジオネラ:マクロライド系抗菌 薬 結核菌:抗結核薬(イソニアジド:INH,リファンピシン:RFP、ピラジナミ ド:PZA) ニューモシスチス・カリニ:ST 合剤、コクシエラ:テトラサイク リン ウイルス:抗ウイルス薬(インフルエンザ:オセルタミビル、サイトメガロ ウイルス:ガンシクロビル、水痘:アシクロビル) 合併症の治療:膿胸—排膿ドレナージ 胸腔穿刺-前および中腋か線上の第4~6肋間で、肋骨上縁に沿って 穿刺する。 *肺化膿症 細菌性肺炎でも肺実質が壊死に至り、空洞 cavity を形成し、膿性の浸 出物の貯留が認められる場合、肺化膿症(lung abscess)と呼ぶ。 原因となる病原体としては、黄色ブドウ球菌、肺炎球菌などの Gram 陽 性菌が主体であるが、慢性疾患のある患者では、大腸菌や緑膿菌などの Gram 陰性菌により発症する場合もある。また、バクテロイデスなどの嫌気 性菌も病原菌として重要である。胸部 X 線、CT で液面像を伴う空洞を認め るとき、比較的容易に診断される。 病原菌の診断には、経気管支吸引法や、経皮的吸引法による喀痰や 空洞の内容液の検査を行うが、低年齢児では技術的に困難なこともある。 治療は、適切な抗菌薬と状況によりドレナージや肺葉切除など侵襲的 方法を取ることもある。 2.百日咳(Pertussis, whooping cough) 特有の咳そう発作を特徴とする急性気道感染症である。母親からの移行抗体がな いので、乳児期早期から罹患するが、生後6か月未満では死亡する危険性も高い。 (1)原因 Gram 陰性菌である百日咳菌(Bordetella pertussis)の感染による。感染 経路は、鼻咽頭や気道からの分泌物の飛沫感染である。病因として、毒 素と吸着因子があり、前者には百日咳毒素(PT)など、後者には線維状 赤血球凝集素(FHA)などがある。 (2)症状 潜伏期:通常 7~10 日間。 カタル期(2週間):かぜ症状で始まり、次第に咳の回数が増えて程度も 激しくなる。 痙咳期(約 2~3 週持続):特徴ある発作性けいれん性の咳(痙咳):短い 咳が連続的に起こり、続いて、息を吸う時に笛の音のようなヒューという 音が出る(レプリーゼ:Reprise,whoop )。発熱はないか、あっても微熱程 度。顔面浮腫、点状出血、眼球結膜出血、鼻出血などが見られることも ある。乳児期早期では、無呼吸発作からチアノーゼ、けいれん、呼吸停 止がみられる事がある。 回復期:激しい発作が次第に減衰し、時折忘れた頃に発作性の咳が出 る。全経過約 2~3 カ月で回復する。 (3)合併症 脳症(原因不明)、肺炎(細菌の二次感染の場合が多い) (4)診断 臨床検査値:リンパ球優位の白血球増多を認める。 急性炎症反応(CRP、ESR)は一般的に上昇しない。 培養:鼻咽腔培養―Bordet-Gengou 培地が用いられる 血清抗体価の上昇:百日咳抗体(東浜、山口株)ペア血清で4倍以上の 上昇、抗 PT 抗体、抗 FHA 抗体 (5)治療 マクロライド系抗菌薬(エリスロマイシンなど)を2週間使用する。 (6)予防 3種混合ワクチン(DPT) 3.A群溶血性レンサ球菌感染症 A群溶血性レンサ球菌(化膿性レンサ球菌、Streptococcus pyogenes)は、Gram 陽 性球菌で細胞壁由来の群特異的多糖体によりA群に分類され、血液寒天培地上β 溶血環がみられる。表層タンパクである M 蛋白の抗原型により病原性に差があり、腎 炎を起こしやすい型がある。菌体外毒素には、発赤毒と溶血毒があり、溶血毒である streptolysin O の抗体(antistreptolysin O、ASO)が診断に有用である。 (1)臨床像:咽頭扁桃炎を呈する。初発症状は、発熱、咽頭痛、しばしば腹 痛を来たす。咽頭、扁桃の発赤腫脹を伴い、口蓋の点状出血班や扁桃 の浸出物を認めることがある。病初期には、舌の白苔、腫脹、充血を認 め、やがて白苔がとれ、イチゴ舌を呈する。発疹(粟粒大の小丘疹、毛の う部に一致した小結節、ザラザラした感じあり)や顔面の紅潮、鼻腔の周 囲に口囲蒼白がみられる事がある。合併症として、急性糸球体腎炎、リ ウマチ熱があり、感染後1-3週で出現することがある。 感染様式:ヒトからヒトへの鼻咽頭分泌液の直接飛沫感染。ときに接触感 染を起こす。 (2)診断:咽頭培養でのA群溶血性レンサ球菌の分離、迅速抗原検索での 抗原検出、血清 ASO 値、血清 ASK 値、抗 DNase 値測定による血清学的 診断 (3)治療:ペニシリン系抗菌薬の内服(10-14 日間)、ペニシリンアレルギーが ある場合は、マクロライド系薬の内服
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