第3章 廃自動車におけるクローズドリサイクル 3−1 意図的なクローズドリサイクル 3-1-1 バンパーのリサイクル バンパーのリサイクルは各メーカーを中心に進められており、リサイクルシステムもそ れぞれに確立されている。 ・トヨタ1)2) 販 売 店 回 収 バンパー 部品共販店 ・ ・ 再生会社 メーカー PP 再生会社 メーカー 分別 バンパー集荷場 ・ ・ ・ TSOP バンパー ・ エンジンアンダーカバー ランゲージトリムなど 図 3−1 トヨタのバンパーリサイクルフロー 販売店で修理のために交換されたバンパーを全国で一ヶ月あたり約 32,000 本(110t)回 収し、自動車の樹脂部品などへリサイクルしている。 トヨタは従来まで分解が困難とされていた、バンパー補修時に使われていた分子結合の 強いウレタン塗膜やパテを分解する技術を開発し、1997 年 6 月以降市場から回収した TSOP バンパーは全て新車バンパー材料としてリサイクル可能になった。 リサイクル材はトヨタで新材とブレンドし(割合不明) 、RAV4などのバンパーによみが える。 ・日産3) 販売 修理店 回 収 (販売会社サービス) フットレスト リサイクル バッテリーカバー ・ 図 3−2 日産のバンパーリサイクルフロー 修理のために交換されるバンパーを販売会社サービス経由で回収し、リサイクルして再 生させた材料を部品に使用している。 21 ・ホンダ4) 再生工場 収 バンパー材料 分別 回 再生工場 販売 修理店 分離 ウォータースクリーン スプラッシュガード エバポレーターケース バンパースチフナー ・ フューエルホースジョイ ントプロテクター 図 3−3 ホンダのバンパーリサイクルフロー 日本の自動車会社としてはじめて使用済みバンパーの回収を始めた。ホンダは塗装バン パーを塗膜除去や塗膜剥離処理を必要とせずにバンパーへリサイクルする技術を開発し、 補修用バンパーとしての生産を開始している。 従来の再生バンパーでは再生材料を一割程度しか使用できないという限界があったが、 ホンダは使用済みバンパーの再生材料をバージン材で挟み込む独自のサンドイッチ製法と、 高密度なポリエチレンの添加で強度を上げることにより、約 35%まで再生材料を使用する ことを可能にした。 3-1- 2 バッテリーのリサイクル5)6) バッテリーのリサイクルは、有害物質である鉛の回収を目的として、電池工業会の指導 のもとにリサイクルシステムが確立されている。 販売店などで無料回収されたバッテリーは、一定量たまると収集運搬業者によって鉛再 生精錬業者に運ばれる。鉛再生精錬業者で再生された再生鉛は、蓄電池メーカーで新しい バッテリーに再利用される。 「蓄電池メーカー各社は、使用済み自動車用鉛蓄電池の回収責任主体として回収に積極的 に関与し、排出見合いを回収し、回収見合いの再生鉛を購入する」という蓄電池メーカー の協力を元にした方針である。 以上が鉛のリサイクルフローを簡単に見たものであるが、リサイクルを適法に、そして 可能な限りローコストであることを求めて、業許可の問題を考えた委託契約の関係を結ぶ 「蓄電池メーカーが排出事業者となる下取り方式」となっている。 この方式は、バッテリー販売店が無償下取りした使用済みバッテリーを、蓄電池メーカ ーが流通逆ルートで収集回収し、排出事業者として処分業者(中間処理業者としての鉛再生 精錬業者)へ引き渡す(処分を委託する)ことである。 このシステムとその処理の委託契約の関係は資料3‐1,3‐2に示すとおりである。 廃棄物処理法においては基本的には各販売店が排出事業者となり下取りした使用済みバ ッテリーを排出することを求めていると考えられるが、販売店数(全国約 20 万店)と鉛精錬 業者数(全国 19 社)の関係や、各排出事業者には管理責任者(有資格者)の設置を要すること 22 等々、きわめて困難な事柄であり、販売店または卸店をメーカーの排出拠点と位置付け、 メーカーが排出事業者として自らの排出拠点としての販売店・卸店から排出することとし たものである。 21 3−2 結果的なクローズドリサイクル シュレッダーダストの1台あたりの発生量は 160 ㎏である。7) このことを基準に廃自動車の構成材料のうちどれだけがクローズドリサイクルされている のかを算出していく。 下の図3−4,図3−5は二つの資料をもとに作成したシュレッダーダストの組成の割 合の円グラフである。 シュレッダーダストの組成(重量%) 繊維 15% ガラス・土 砂・金属 など不燃 物 24% 紙・木 など 5% ゴム類 7% 繊維類 15% ゴム 7% ガラス 7% ハーネス 5% 非鉄金属 4% 木 3% 鉄 8% 発泡ウレ タン 16% 樹脂 33% 図 3−4 廃車ダストの組成 紙 2% シュレッダーダスト組成1) 図3−5 プラス チック類 49% シュレッダーダスト組成27) この2つの図をまとめて以下の図3−6を作成した。 シュレッダーダストの組成(重量%) ゴム ガラス 紙 7% 木 7% 鉄 2% 3% 8% 繊維 15% 発泡 ウレタン 16% 24% 非鉄 4% ハーネス 5% プラスチッ ク類 49% 樹脂 33% 図 3−6 シュレッダーダスト組成3 このグラフをもとに廃自動車一台あたりに含まれる自動車材料の重量を次のように算出 した。 22 ・廃自動車一台あたりのシュレッダーダスト量…160 ㎏ ・プラスチック類…160・0.49=78.4 78.4 ㎏ …160・0.33=52.8 52.8 kg 発泡ウレタン…160・0.16=25.6 25.6 kg 樹脂 ・繊維…160・0.15=24.0 24.0 kg ・木 …160・0.03=4.8 4.8 kg ・紙 …160・0.02=3.2 3.2 kg 11.2 kg ・ゴム…160・0.07=11.2 38.4 kg ・ガラス・土砂・金属など…160・0.24=38.4 ガラス …160・0.07=11.2 11.2 kg 鉄 …160・0.08=12.8 12.8 kg 非鉄 …160・0.04=6.4 6.4 kg 8.0 kg ハーネス…160・0.05=8 −① シュレッダー処理後だけでなく、全体的な廃車処理過程で発生する廃棄物の材料構成は 以下の図3−7の通りである。 廃車から発生する廃棄物の材料構成(%) 廃自動車一台 その他 17% 繊維類 13% プラスチッ ク 30% 廃棄物 ガラス、土 類 40% リサイクル シュレッダーダスト その他 160kg 図 3−7 廃自動車の廃棄物組成4) 図3−8 次に廃自動車一台あたりの廃棄物量を算出する(図3-7,3-8参照)。プラスチック類は、 ほとんどがリサイクルされず、シュレッダーダストとなるものと推測し、廃棄物構成材料 の 30%を占めるプラスチックが、①より 78kg になると考え、 78/0.3=260 で、 廃自動車一台あたりの廃棄物量は、260kg とする。 22 図3−4より材料それぞれの重量を算出した。 ・廃自動車一台あたりの廃棄物発生量…260 ㎏ ・プラスチック…260・0.3=78 78kg ・ガラス・土類…260・0.4=104 104 kg ・繊維類 33.8 kg ・その他 …260・0.13=33.8 44.2kg …260・0.17=44.2 ‐② この全体的な廃棄物の量とシュレッダー処理後に出る廃棄物の量を比較してみる。 プラスチックは①と②両方ほぼ 78 ㎏であるため、ほとんどシュレッダー処理後に発生す るものと考えられる。 ②のガラス・土類に相当するものは①ではガラスだけだと考えると、 104 ㎏‐11.2 ㎏=92.8 ㎏ となり、かなりの部分がシュレッダー処理以外の解体などの作 業の時に発生することが推測される。 繊維類は、33.8 ㎏‐24 ㎏=9.8 ㎏で、これも3分の1ほどはシュレッダー処理以外の過 程で発生していると推測される。 ②のその他は①では、鉄・ハーネス・非鉄・ゴム・木・紙に当たると考えた。 44.2 ㎏‐(12.8+8+6.4+11.2+4.8+3.2)㎏=‐2.2 ㎏となり、多少ずれがあるがおそらく シュレッダー処理後に発生するのが大部分であると推測される。 以上の結果から下の図3−9を作成した。 廃自動車の廃棄物組成 金属・紙・ 木・ ゴム 17% プラス チック 30% 4% 繊維 13% ガラス・土 ガラス 類 4% 40% 9% ガラス・土 類 36% 図 3−9 廃自動車の廃棄物の発生別組成 *図3−9の外側の円で有色地の部分はシュレッダー業者から排出された廃棄物の量を 表し、白地の部分はそれ以外で発生したことを表す 23 下図は小型乗用車の原材料構成の割合を示した円グラフである。以下の図から、自動車 一台あたりの構成材料の重量をそれぞれ算出する。 '92年 小型乗用車原材料構成比(%) 非鉄 8% プラスチッ ク 7.3% ガラス2.8% 繊維・ゴ ム・木材 その他 4.7% 4.9% 鉄 72.3% 図 3−10 小型自動車の材料構成比4) 廃自動車一台あたりの重さは、廃棄物量が 25%で 260 ㎏より、260・100/25=1040 ・廃自動車一台:1040 ㎏ ・鉄 …1040・0.723=751.92 751.9 ㎏ ・非鉄 …1040・0.08=83.2 83.2 ㎏ ・プラスチック…1040・0.073=75.92 75.9 ㎏ ・ガラス…1040・0.028=29.12 29.1 ㎏ ・繊維・ゴム・木材…1040・0.047=48.88 48.9 ㎏ ・その他…1040・0.049=50.96 51.0 ㎏ −③ このそれぞれの材料の値③から廃棄物となるものの値②をひいて、リサイクルされてい る量を算出する。 ・鉄…751.9‐12.8=739.1 ・非鉄…83.2‐(8+6.4)=68.8 739.1 ㎏のリサイクル 68.8 ㎏のリサイクル ・プラスチック…75.9‐78.0=‐2.1 ‐2.1 ㎏ すべて廃棄物 このプラスチックの値にずれが生じた理由としては図3−9は 92 年のものであり、その 後作られた自動車については、プラスチックの原材料に占める割合はおそらく増加してい ると推測されるので、そのことが関係していると考えられる。 ・繊維・ゴム・木材…48.9‐(33.8+11.2+4.8)=‐0.9 ‐0.9 ㎏ すべて廃棄物 ・ガラス…29.1‐(11.2+x)=17.9‐x 17.9‐x㎏ ・不明(土砂含む)…51.0‐(92.8‐y)=‐41.8+y ‐41.8+y ㎏ 24 −④ ガラス分と不明分はガラス・土類の割合がはっきりしていないためあいまいな答えにな っているが、次に述べるリサイクル先のことからもガラスはほとんどリサイクルされてい ないと考えられる。不明分でマイナスが大きくでたのもこのことに関係すると考えられる。 また、土砂は、調べていないため確かではないが、もともとの材料ではなく使用中に付着 したものではないかと推測され、このためマイナスになったと考えられる。 次の表3−1は資料3−41)をもとに材料を基準として、作り直した表である。この表 とこれまでの計算から、最終的に自動車から自動車へとクローズドリサイクルされている 割合を明らかにして行く。 表3−1 鉄 ボディー トランク ホイール ボンネット ドア クルマ部品・一般鉄製品 エンジン 再びエンジン(中古) サスペンション 一般鉄製品 トランスミッション アルミ ホイール サスペンション アルミ製品 トランスミッション ラジエーター 銅 エンジン ラジエーター 銅製品・エンジン(アルミ鋳物強化材) ワイヤーハーネス 砲金インゴット シート クルマの防音材 樹脂 バンパー バンパー・内装部品・工具箱など ガラス ウィンドウ タイルなど ゴム タイヤ セメントなど 貴金属 触媒コンバーター 触媒コンバーター オイル ギヤオイル ボイラー焼却炉の助燃油 鉛 バッテリー バッテリー アルコール 冷却液 ボイラー焼却炉の助燃油 発泡ウレタン 繊維 エンジンオイル ・鉄 鉄は主にクルマの部品か一般鉄製品になっていることがわかる。また、この表から、シ ュレッダー業者のところから出た鉄が車の部品か一般鉄製品になっているので、シュレッ ダー業者の所で回収された鉄が主であるということになる。 鉄に関しては聞き取りからもう一度自動車にリサイクルされている割合が 80%であるこ とがわかった。9) 731.9・80/100=591.28 25 鉄のうち 591.3 ㎏がもう一度自動車にリサイクルされている。 よって −⑤ ・非鉄金属 アルミについては、全てアルミ製品としか記されていないので、ほとんど自動車には戻 らないものだと推測した。 銅はエンジンのアルミ鋳物強化材として使用される場合もある。 貴金属は重量にするとわずかだが、触媒コンバーターに再利用されている。 鉛も重量にするとわずかだが、バッテリーに再利用されている。 ・プラスチック類 発泡ウレタンがクルマの防音材とあるが、これはシュレッダーダストをリサイクルした 場合であるのでほとんどの場合埋立て処分される。 樹脂は主に使用段階において発生したものがクルマの一部に再利用されている。 ・ガラス タイルなどとあるが、これもシュレッダーダストをリサイクルした場合のことであると 推測される。自動車には再利用されていないことがわかる。 ・繊維・ゴム・木材 繊維はシュレッダーダストをリサイクルした場合、車の防音材になる。ほとんどの場合 は埋立て処分されると考えられる。 ゴムはタイヤで、タイヤのところで述べたが、更生タイヤやマテリアルリサイクルで再 びタイヤとして再利用される部分もわずかだがある。 ・その他 オイル・アルコールはリサイクルされるとしてもサーマルリサイクルであることがわか る。 以上のことから、リサイクルされているもののうち、もう一度自動車にリサイクルされ るものはほとんど鉄で、他のものはわずかに過ぎないということがわかった。 鉄のクローズドリサイクルが廃自動車全体にいえるとして、リサイクルされるもののう ちもう一度自動車に戻るものの割合は、 591.3/(1040‐260)・100=75.8076923 約 76%であることが分かった。 より −⑥ また、これは廃自動車全体でいくと、 591.3/1040=0.568557692 より 約 56.9%であることが分かった。 −⑦ この結果から、次項の円グラフ図3−11を作成した。 26 廃自動車の原材料の行方 車以外へのリサ イクル 14.2% 1.2% リサイクル 埋立て 非鉄 8.0% 鉄 72.3% 埋立て プラスチック類 7.3% ガラス 2.8% 繊維 4.7% リサイクル 埋立て 埋立て リサイクル その他 4.9% 埋立て リサイクル リサイクル 車へのリサイクル 56.9% 図3−11 最終的な廃自動車原材料の行方 *図3−11で、外側の円の有色地の部分はリサイクルを表し、白地の部分は埋立て処 分を表している 以上のことを、資料3−3より、シュレッダーダストが廃自動車の重量の 20% にあたると考えて計算していくと次のようになる。 廃自動車一台あたりの重量…160/0.2=800 800kg 廃自動車のリサイクル率は 75%であるので、 廃棄物量…800・0.25=200 200kg この場合、計算を続けていくと、例えば廃棄物中のプラスチック量は 60kg とな り、シュレッダーダストに含まれるプラスチック量 78.4kg よりも大幅に少なく なってしまうという矛盾が生じる。このようなことから上記で述べたこととは違 う結果が得られることになり、これは今後の課題である。 27 3−3 まとめと課題 バンパーのリサイクルを見てみると、メーカーがリサイクルしやすいように原材料を開 発したり、リサイクル技術を開発したり、リサイクルルートを確立するといったように、 生産段階からリサイクル先まで考えたシステムをつくっていることがわかる。このような ことが、自動車全体についても行われるべきだと考える。 バッテリーのリサイクルシステムはリサイクルを念頭において構築されたもので、適正 な取引をしているところが理想的なシステムであると考える。 廃自動車の構成材料のうちどれだけがクローズドリサイクルされているのかについては、 結果的に全材料のうち自動車にもう一度リサイクルされているものの大部分は鉄というこ とになったが、これは、自動車の大部分が鉄でできているということのためであると推測 される。その他の材料については、こまごまとした取り組みは行われているが、大々的で ないため、常に一定量がリサイクルされていないと考えられる。それぞれの材料のリサイ クルについて鉄ならこれといったことがあるように、決まったリサイクル先があれば、も っとリサイクル量は増えるのではないか。 参考文献 1)トヨタ自動車株式会社:自動車と環境、28 ページ、1998 年 2)トヨタ自動車株式会社:TOYOTA Technical Review Vol.48 No.1、4,5 ページ 3)日産インターネットホームページ http://www.wnn.or.jp/wnn-tokyo/eco2/nissan/nissan3.html 4)ホンダインターネットホームページ http://www.honda.co.jp/home/esg/kankyo/72/72.html 5)電池工業会:使用済み自動車用鉛蓄電池のリサイクルについて 6)日本蓄電池工業会:鉛リサイクルプログラム、1998 年鉛年間大会講演集、 15−20 ページ 7)豊田メタル資料 8)クリーン・ジャパン・センター:リサイクルキーワード 経済調査会、1997 年 9)豊田通商資料 28 第3版、76 ページ、
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