体位変換前の口腔内吸引は成人ICU患者のVAP発 生率を低下させる可能性がある: 臨床比較試験 • 講習会などで、体位変換前に口腔内の吸引をす ることでVAPの予防ができると強く推奨する場 面を多くみかける • が、推奨の元となる論文は2008年に行われた1 本の前後比較試験のみである • 今回は、この論文を詳細に振り返ってみる Introduction • ICU患者の半数は人工呼吸療法を受けており、 かつ、人工呼吸器関連肺炎(Ventilator associated pneumonia:VAP)による死亡率 29.3%と高く重要な課題である • VAP発症のメカニズムのひとつに口腔内細菌の 誤嚥があげられる • 体位変換前に口腔内を吸引することで、口腔内 からの誤嚥・VAPを防ぐことができるのではな いか Method • 前後比較研究 • 48床の台北市内のICU(年間1860人の入院、73.4%の 人工呼吸器割合) • 24時間以上、人工呼吸を受ける患者を対象とした • 最初の4ヶ月間(7-11月)に入室した患者をControlと した。口腔内の吸引は、気管吸引の後に行った。2ヶ月 間はプロトコルに慣れる期間とし、その後の4ヶ月間 (3-6月)を介入群とした。 • 介入群では、体位変換の前にカテーテルを口腔内に挿入 し、60-80 mmHgで10秒間吸引した。 Method • VAPは喀痰培養で細菌が検出された状態とした。 • 肺炎の徴候や症状があった場合、通常の気管吸引による 喀痰を細菌培養に提出した。培養の結果、細菌が検出さ れない場合や、真菌の場合は培養陰性とした。病原菌が 培養された場合、陽性とした。 Results • コントロール群で手術 患者、制酸剤(H2ブロ ッカー等)投与が多い • 介入群で糖尿病患者が 多い • コントロール群で早 期VAP発症が多い • VAP発症RR(relative Risk):0.32 (95%CI 0.11-0.92, p<0.05) • コントロール群で人 工呼吸日数やICU滞 在期間が長い ベースラインデータで差のあった項目が VAP発症に与える影響を多変量解析で評価。 これらの項目に、統計的に有意な影響はない コントロール群内 比較 コントロール群のみで、 VAP群でエアロゾル療法 が多い コントロール群のみで、 VAP群で再挿管が多い コントロール群のみで、 VAP群で死亡率、人工呼 吸期間、ICU在室日数が 多い 介入群内比較 • VAP発症した患者のみを比 較するとコントロール群で 死亡率が高い(介入群での 生存機会1.5倍(95%CI 1.13-1.99) • 同じくVAP発症した患者の みを比較、人工呼吸期間や ICU滞在日数が短い。 早期VAPに関連する 喀痰培養で検出された病原体 介入群で早期VAPに関連する 病原体の検出が少ない Conclusion 結論として、本研究は体位変換前の口腔内吸 引はVAPを減少させる効率的な方法であるエ ビデンスであることを示した。この手技は簡 便であるため、標準的な看護ケアとしてルー チンに行うことを推奨する。 私見 • VAP判定基準が曖昧である • 前後比較試験にも関わらず、VAP発生率に対する 交絡因子の調節が行われていない(多変量解析が 行われておらず、純粋な介入の効果は不明) • 少なくともこの研究結果だけをもって、「VAP予 防に対する標準的な看護ケアとしてルーチンに行 うことを推奨する」ことには違和感を覚える • なぜコントロール群のみで早期VAPになると予後 が悪いのかは不明 筑波大学附属病院 ICU 筑波メディカルセンター病院 救急診療科 櫻本秀明 阿部智一先生 監修
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