炭素材料の物理・化学修飾から 新しい物性・機能を引き出し, 炭素元素の新たな構造形成を導く 信州大学繊維学部 素材開発化学科 無機素材化学講座 (大学院工学系研究科 博士前期課程 素材開発化学専攻;博士後期課程 材料工学専攻) 1. 研究室の概要 てきました。謝意も込めて研究トピック毎に,括弧 私達の研究室は,繊維学部に初めての応用無機化 内に現在の状況を列挙します。主要研究設備とも言 学系の教育研究を担当する無機素材化学講座が設置 えるフッ素化反応ラインに必要な高純度フッ素ガス された昭和 63 年に発足しました。平成 6 年以降は 3 はダイキン工業(株)から供給していただいており 名のスタッフ(東原秀和教授,沖野不二雄助教授, ます。 川崎晋司助手)で講座を運営してきましたが,今年 2.1 グラファイト,フラーレン,カーボンナノチュ 度 4 月から川崎助手は名古屋工業大学へ助教授とし ーブのフッ素化学と電気化学 て栄転されました。講座は,理・工・繊維の 3 学部 グラファイトのフッ素化学と層間化合物(GIC) の教員で構成する区分制の大学院工学系研究科博士 は私達の研究の基礎ですが,O2AsF6 とグラファイト 前期課程 素材開発化学専攻,後期課程材料工学専攻 との反応による stage 1-C14AsF6 の生成,stage 1-GIC に属して,大学院生の教育研究に当たっています。 とグラファイトとの反応による stage 2- C28AsF6 の生 図 1 が 16 年度の講座のメンバーですが,卒論生 7 成,挿入種の面内構造とナノスペース等,ステージ 名,博士前期課程院生 14 名,後期課程院生 2 名の一 構造の生成機構に迫る面白い結果が得られています。 人一人が,ささやかでも“only one”のテーマを持って フラーレン C60 は,本邦企業が ton 単位の生産体制 研究に取組んでいます。 を整備したことから,実用化の機運が高まってきま した。1 atm の単体フッ素と C60 との反応温度を全反 2. 研究内容,共同研究・プロジェクト研究 応過程で厳密に制御することにより,単一相の 本講座の研究は,炭素材料のフッ素化学と電気化 C60F48 の合成方法を最近確立できました。一方,単 学から出発しましたが,これが発展して現在ではナ 層カーボンナノチューブ(SWNTs)の高機能化とい ノ炭素材料の物理・化学修飾から新しい物性・機能 う観点から,SWNTs のフッ素化反と生成フルオロチ を引き出すとともに,炭素元素の新たな構造形成を ューブ CFx(x < 0.5)の構造と性質について,体系 導くことを目指して,以下のような研究に取り組ん 的な研究を進めています。先ず明らかにされた興味 でいます。研究の多くは,内外の多くの研究者・機 深い結果は,先端閉口及び先端開口単チューブでは, 関との共同研究やプロジェクト研究として実施され フッ素化反応の進行プロセスが全く異なることでし 図1 2004 年度の研究室のメンバー た。先端開口チューブでは,チューブの外表面と内 ら均一固相反応で放電が進行し,起電力が放電率 x 表面の両サイトでフッ素フッ素化が起こります。図 とともに変化します。フルオロチューブのラマンス 2 にレーザーアブレーション法で作製・精製した高 ペクトルと電気化学的挙動から,異なる x 毎に CFx 純度の先端閉口単層カーボンナノチューブ自立膜 の電子状態の解明を進めています。( 産業技術総合 (チューブ直径 1.2-1.5 nm)と単体フッ素 1 atm, 研究所ナノテクノロジー研究部門・主任研究員 200 で フ ッ 素 化 し て 生 成 し た フ ル オ ロ チ ュ ー ブ 弘道博士,信州大学工学部 CF0.48 の TEM 像を示します。高結晶性のバンドル構 田地域知的クラスター創成事業分担課題 ) 造とチューブ構造が保持されたままフッ素化されて, 2.2 ナノダイヤモンドのフッ素化学とトライボロジ 格子定数 a = 1.74 nm が約 2 nm に増大し,その増大 ー 片浦 遠藤守信教授,長野 ・上 値は,チューブ表面の C-F 結合の生成によるチュー 高圧衝撃法で生成する“ナノダイヤモンド”は,粒 ブ径の増大にほぼ匹敵します。図 3 にリチウム電池 子径 5 nm のナノダイヤモンドの凝集体(粒子径 40 の 正 極 と し て 100 % 放 電 し た フ ル オ ロ チ ュ ー ブ µm)です。フッ素修飾によって表面エネルギーを下 CF0.48 の STEM 像を示します。フルオロチューブ げることによって凝集を解き,フッ素修飾 5 nm ナ CF0.48 では,LiF と CF0.48-0.48x (0.0 x 1.0)を生成しなが ノダイヤモンドの作製を進めています。図 4 に表面 フッ素処理ナノダイヤモンドの TEM 像を示します。 Pristine F200 フッ素処理による凝集体の解砕は部分的で 200 nm 程度でしたが,これを分散したテフロン膜の摩擦係 数の著しい低下が確認されました。ナノ炭素研究所 (大澤映二社長)では,湿式ビーズミル法で溶媒分 散系 5 nm ナノダイヤモンドの創製に成功しており, この状態でのフッ素化とそのコンポジット作製,ト 50 nm 図2 50 nm SWNTs (Pristine)と 200℃ 1 atm の F2 処理で生成し た単層フルオロチューブ CF0.48(F200)の TEM 像 ライボロジー機能評価を目指しています。(ナノ炭 素研究所 大澤映二社長,東京工業大学教授 榎敏 明教授) 2.3 ナノカーボンの化学修飾,形態・構造制御と電 気化学的エネルギー貯蔵 多層カーボンナノチューブ(MWNTs)のホウ素ドーピ ングやフッ素修飾,SWNTs の物理的及び化学的手法に よる形態・構造制御と電気化学的リチウムイオン貯蔵 特性,鋳型炭素化法ミクロポーラスカーボン(MPC) の高比表面積の有効利用を目指した非水系および水 溶液系電気二重層キャパシタ(EDLC)について系 統的調べています。最適な化学処理によって SWNTs では 828 mAh/g のリチウム可逆容量,MPC では 509 F/g(水溶液系)の二重層容量が最近の成果です。(東 図3 リチウム一次電池正極として、100%放電した後の単層 北大学多元物質科学研究所 京谷隆教授,富田彰教 フルオロチューブ(CF0.48)の STEM 像。C-F 結合が電気化 授,信州大学 21 世紀 COE プログラム「先進ファイ 学的に還元されて LiF が生成し、もとのチューブにもどる。 バー工学研究拠点」分担課題) 図4 (a) (b) 5 nm 5 nm ナノダイヤモンド(a)と表面フッ素処理(1 atm F2、500℃、10 日間)ナノダイヤモンド(b)の TEM 像。フッ素処理試料では、最表面のアモルファスカーボンが除去されて、ダイヤモンドの格子像が見える。 2.4 CVD法による半導体ダイヤモンド電極の合成 ブの分散性や樹脂との親和性を高め,カーボンナノ とフッ素電解・フッ素製造への応用 チューブを強化材や熱・電気伝導材とした複合材料 ダイヤモンドは典型的な古くて新しい炭素材料と言 の作製を目的としています。目下,PAN 系ないしは えましょうが,“宝石の王様から材料の王様へ”を合い ピッチ系炭素繊維とポリイミドや COPNA 樹脂との 言葉に,沖野助教授を中心に半導体ダイヤモンド薄膜 CFRP へのナノチューブの添加を行っています。 (群 の研究が進められております。図 5 に,BF3 をホウ素 馬工業高等専門学校物質工学科 源としてプラズマ CVD 法で作製したホウ素がドー 京工業大学・応用セラミックス研究所 プされた半導体ダイヤモンド薄膜の TEM 像を示し 授,長野・上田地域知的クラスター創成事業分担課 ます。この電極は HF 溶液中での有機化合物の電解 題) フッ素化用電極として機能し,電位窓が広い事に注 2.6 太田道也助教授 , 東 吉本護助教 SWNTs の新規合成法とフラーレン,カーボン 目して,廃水処理等の環境浄化機能電極としての評 ナノチューブ,ピーポッドの高圧下の挙動 価も進めております。(物質・材料研究機構 物質研 川崎助手(現名古屋工業大学助教授)が高圧化学 安藤寿浩博士,森田化学工業㈱ の専門家であることから,高圧力・高温度に対する 究所・主任研究員 百田邦堯博士) ナノカーボンの物理・化学的特性の変化を原子配列 2.5 ナノ炭素材料の化学修飾および複合材料への応 および電子構造から解明することも私達の研究目標 用 の一つです。圧力は温度とともに熱力学における重 カーボンナノチューブ表面のフッ素化や酸化,表 要な因子であり,化学結合や結晶構造の圧力変化は 面への官能基の導入を行って,カーボンナノチュー 化学的にも極めて興味深く,例えば,SWNTs の 873 K, 13 Gpa 程度の処理で,超高硬度相の生成が期待 できる不可逆的な相転移が見出されております。一 方,量的作製法を目指したメソポーラスシリカを利用 した鋳型炭素化法および CCVD 法によるカーボン ナノチューブの新規合成法にも取り組んでいます。 連絡先: 〒386-8567 上田市常田 3-15-1 信州大学 繊維学部 素材開発化学科 東原秀和 TEL : 0268-21-5392 Fax : 0268-21-5391 E-mail:htohara@ shinshu-u.ac.jp 図 5 BF3 をホウ素源として合成したボロンドープダイ ヤモンド薄膜の SEM 像 URL : http://pmac103.shinshu-u.ac.jp/mukisozai/index.html 炭素材料学会編集室より転載許可 炭素 TANSO 2004 [No. 215] 297-299
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