感度から見たELISA 感度から見たELISA

感度から見たELISA
群馬大学名誉教授
株式会社シバヤギ技術顧問
若
林
克
己
1
まえがき
ELISAをおこなう研究者にとって,ELISAキット提供者
が意図したキットの性能を充分に発揮させることは最も
基本的な問題です.
その中で,検体を余裕をもった測定感度で
測定できることも期待される性能の つです.
測定できることも期待される性能の一つです.
この PPT は測定感度に関連する要因について検討し,
使用者のご理解を得,必要な要件の実行をお願いするた
めに解説としてご提供するものです.
2
抗原と抗体との結合について
イムノアッセイは抗原と抗体の結合に基づいている
抗原と抗体の結合反応は可逆反応である.
Ag + Ab ⇔ Ag-Ab
(Ag:抗原、AB:抗体)
Ka(結合定数) =[Ag-AB]/[Ag][Ab]
[ g
] [ g][ ]
あるモル濃度の抗原と抗体を混合して結合反応が平衡に達した時、
結合物の濃度と遊離の抗原、抗体濃度の関係は上の式のようになる
(抗原、抗体がそれぞれ1価であると仮定、単純化した系)
結合物の解離の方向から見れば
Kd(解離定数)=
一般的に抗体の Ka は
1/Ka
1010~1011M-1 である
(Kdでいえば10~100pM
となる)
今後,親和性についてはもっぱら解離定数 Kdを使用します.
Kdは小さいほど親和性が高いことになります.
3
抗体と抗原との結合量
体
結合
Kd: 解離定数
H 抗原初濃度
H:抗原初濃度
R:抗体初濃度
b 結合量(濃度)
b:結合量(濃度)
前提条件
抗原、抗体、共に一価と仮定
溶液状態で反応が行われるとする.
溶液状態で反応が行われるとする
前ページの反応式を抗原と抗体の初濃度をそれぞれ,H及びRとし,
結合量をbとして書き直し 結合量bを計算する方程式を作ると
結合量をbとして書き直し,結合量bを計算する方程式を作ると,
このように2次方程式の解を求めることになる.
4
抗原、抗体の濃度と結合率の関係を試算してみる
結合率 %
抗原-抗体濃度と結合率
Kd = 1 pM の場合
100
90
80
70
60
50
40
30
20
0.98 4.55
10
8.39
0
0.01
0.1
96.89
90.49
72.88
38.2
1
10
抗原=抗体濃度, pM
100
抗原と抗体を同じ濃度で反応させた時の両者の結合率をグラフにしたもの.
解離定数は1pM 結合定数にすれば1012M-1と仮定して計算した.
解離定数は1pM,結合定数にすれば10
と仮定して計算した
高濃度すなわち解離定数の100倍程度では90%ほどの結合率.
濃度が下がり,解離定数と同じくらいにまで低下するとわずか38%,その10分
の1では8%になってしまう.このことがイムノアッセイの泣き所でもある.
低濃度の抗原を効率よくキャプチャーするには,結合反応が可逆反応であることを
利用して,たとえば抗体の量を大きく増やしてやればよい.
5
ELISAの特徴
●ELISAでは大量の抗体を固相
化し、低濃度での結合率の低下
防止を意図している。
防止を意図している
● ELISAでは結合抗原を検出
す
するための抗体を酵素標識する。
抗体 酵素標識す 。
●サンドイッチ結合は抗原を二
か所で認識することになるので
測定 特異性が優れ
測定の特異性が優れている。
6
●酵素による立体障害を防ぐ目的で検出抗体を小分子Biotinで標
●酵素による立体障害を防ぐ目的
検出抗体を小分子
標
識し、これと非常に高い親和性(Kd=10-15M)のある蛋白Avidin
を酵素標識して結合させることも多く行われる。検出抗体に
Biotinを多く結合させたりする増幅効果で感度の上昇も期待され
る.
7
Biotin:分子量244.3.
どの細胞にも存在する一種の成長因子で,
ビタミンB複合体のひとつで、ビタミンHとも呼ばれる.
炭酸固定やカルボキシル基転移反応に関与する酵素の
補酵素として作用するのでCoenzyme Rともいう.
脂肪酸 糖代謝に関与
脂肪酸、糖代謝に関与し、欠乏すると皮膚炎になる.
欠乏すると皮膚炎になる
肝、腎、膵、イースト、ミルクなどに多く存在する.
体内ではほとんどが側鎖のカルボキシル基とlysine の εε-アミノが結
アミノが結
合したビオシチン(biocytin) の形でタンパクと結合している.
8
Avidin:生の卵白から単離された塩基性糖タンパク質で
分子量は約68 000である
分子量は約68,000である.
鳥類、両生類の卵管で作られる.
4 個の本質的に同じアミノ酸128個からなる単鎖(N端アラニン,
個 本質的に同じアミノ酸128個からなる単鎖(N端アラ
C端グルタミン酸)のサブユニットで形成される.
熱処理や放射線照射で破壊される.
熱処理や放射線照射で破壊される
Avidinはビオチンと結合し、ビオチンを不活性化する.
それぞれのサブ
それぞれのサブユニットは1個のビオチンを結合できる.
トは1個のビオチンを結合できる
解離定数 Kd=10-15M(抗体よりもはるかに強い親和性である).
9
ELISA の標準曲線
-縦、横軸共に対数スケールの場合-
両対数方眼紙を用いると標準点は縦、横、共にほぼ等間隔に並びマ
両対数方眼紙を用
ると標準点は縦 横 共にほぼ等間隔に並び
ニュアル計算が可能となる. パソコンなどを使った回帰計算もよ
くフィットするようになる.
低濃度領域と高濃度領域でやや勾配が小さくなっていることに注意!
10
ELISAの測定感度に関連する要
因を列挙してみると
○
低濃度領域での測定精度
○
抗体の親和性
○
固相化抗体量の増加
○
低濃度での結合反応の低下
○
エッジ現象
○
非特異的吸着
○
増幅効果
(赤字は低下要因)
11
○ 低濃度領域での測定精度改善
低濃度でのバラツキの大きさは
実用的測定感度に大きく影響する
12
RIAでの放射能のバラツ
キと測定値のバラツキ
●RIAでは各標準点での放射能
の標準偏差の平均値に対する割
合(CV)は2~3%で
合(CV)は2
3%で、それほど
それほど
大きく違わない(左の黒丸グラ
フ).
●しかしこのバラツキを測定値
●しかし
バラツキを測定値
のバラツキに換算すると、右の
白丸グラフのように低濃度領域
では非常に大きくな てしまう
では非常に大きくなってしまう.
これは標準曲線の勾配が低濃度
領域では小さくなっているため
である.
である
●RIAでは、抗体、標識抗原、
標準品/検体の全てについてピ
ペットのバラつきが影響しそれ
らのバラつきが累積して測定値
のバラつきとなる.更に放射能
測定 バラツキが加わる
測定のバラツキが加わる.
13
ELISA での吸光度の絶対的、相対的バラツキ
●吸光度の絶対的バラツキは吸光度とともに増大するが吸光度に対
●吸光度
絶対的バラツキは吸光度とともに増大するが吸光度に対
する相対的バラツキは逆に減少する.しかし相対的バラツキの範囲
はそれほど大きくならず、せいぜい 2 倍程度である.
SD and CV of Absorbance (10Replicates assay)
0.04
3
0 035
0.035
2.5
2
0.025
0.02
1.5
0.015
SD
CV%
0.01
0.005
0
CV, %
SD of absorbbance
S
0.03
1
0.5
0
2.48
1.29 0.61 0.28 0.15 0.09 0.07
Absorbance of each Std point
0.06
ELISAでは標準品または検体を加える過程にのみピペットのバラ
ツキが影響する.他の試薬は大過剰に加えるため,ピペッティン
グの影響は少ない.RIAよりも有利な点である.
14
ELISA では吸光度のバラツキは測定値にどう反映するか
●吸光度が2%増加したと仮定した場合の
増
各標準点での測定値増加率試算 (レビス ラットインスリン
S タイプ)
RIA と比べて、ELISAにおける縦軸,すなわち吸光度のバラツキは低濃度領
域でも測定値のバラツキに対する影響ははるかに小さい しかし標準曲線の中
域でも測定値のバラツキに対する影響ははるかに小さい.しかし標準曲線の中
間に比べ、低濃度領域と高濃度領域では大きくなる傾向があり,最低濃度では
ほぼ2倍に増幅される.
STD濃度
吸光度
計算値
吸光度2%↑
計算値
⊿%
0.1
0.063
0.1004
0.06426
0.1047
4.28
0.25
0.105
0.2496
0.1071
0.2572
3.04
0.5
0.199
0.5018
2.034
0.5124
2.11
1
0.426
0.9977
0.4345
1.0159
1.82
2.5
1.173
2.5119
1.1965
2.5612
1.96
5
2.206
4.9683
2.25
5.0902
2.49
10
3.558
10.0479
3.629
10.4286
3.79
ピペットの選択,ピペッティングの手法の改善で低濃度のバラツキを
出来るだけ小さくすることが感度アップのカギである.
15
○ 抗体の親和性
高親和性の抗体選択の必要性
16
●RIAでは抗体の親和性は測定感度に大きく影響する
Kd が大きい(低親和性)と結合率は下がり、標準曲線は右に移動し測定感度は悪くなる.
が大きい(低親和性)と結合率は下がり 標準曲線は右に移動し測定感度は悪くなる
つまり親和性が低いと標準品添加による抗体への結合増大効果が大きくなるからである.
Ag:標識抗原濃度
17
ELISAにおいて固相化抗体濃度を
10000pMと 定にした時,
10000pMと一定にした時
解離定数と抗原結合量との関係を試算してみたのが
次の表です.
す
すなわちELISAの標準曲線に相当します.
標準曲線 相当
す
この場合とりあえず,抗原と抗体はどちらも
溶液状態 反応すると仮定し
溶液状態で反応すると仮定しています.
ます
実際には抗体が固相化されているので結合量はその影響を受けます.
これについては後で解説します.
18
抗体の親和性と抗原結合量
Std. 1 Std. 2 Std. 3 Std. 4 Std. 5 Std. 6 Std. 7
Solid
S
lid
Ab
Kd
10pM
20
40
80
160
320
640
Std. 8
Std. 9
1280
2560
10000
9.901 19.802 39.60
100 99.0% 99.0 99.0
79.20 158.39 316.73 633.24 1265.51
99.0 99.0 99.0 98.9
98.9
2526.2
98.7
10000
9.708 19.416 38.83
300 97.1% 97.1 97.1
77.65 155.27 310.39 620.16 1237.63
97.1 97.0 97.0 96.9
96.7
2462.02
96.2
10000
9.090 18.179 36.35
1000 90.9% 90.9 90.9
72.68 145.26 290.12 578.59 1150.05
90.9 90.8 90.7 90.5
89.8
2266.86
88.5
10000
7.691 15.379 30.75
3000 76.9% 76.9 76.9
61.45 122.73 244.74 486.56
76.8 76.7 76.5 76.0
961.04
75.1
1869.97
73.0
44.999
999 9.995
9 995 19.98
19 98
10000 10000 50.0% 50.0 50.0
39.92
39
92 79.68
79 68 158.72
158 72 314.88
314 88
49.9 49.8 49.6 49.2
619.54
619
54
48.4
1198.41
1198
41
46.8
19
前ページの表を両対数グラフで表現した。解説は次ページ
20
両軸を対数で表現すると
それぞれの標準曲線は平行線に近くなり
感度の差は平行線の水平距離で示されます.
感度の差は平行線の水平距離で示されます
親和性が100倍違っても
標準曲線は1段(2倍)右方向(感度の悪くなる方向)に
平行移動する程度です.
すなわち固相化抗体量がたっぷりある状態で,
親和性
親和性がある程度以上高ければそれほど影響は大きくない
程度以 高
影響
ということになります.(Kdとしては1000pM以下)
このことは親和性の低いモノクロ ン抗体を使用するのに
このことは親和性の低いモノクローン抗体を使用するのに
有利です.
もちろん親和性が良いに越したことはないのですが.
もちろん親和性が良いに越したことはないのですが
21
○ 固相化抗体量
22
固相化する抗体の量が少ないと抗原結合量は低下し,測定の感度は低下するが、
ある程度以上多ければ,たとえば 5000pM と10000pM ではこのグラフに
示されるように ほとんど差が無くなる
示されるように、ほとんど差が無くなる.
23
固相化抗体量はある程度以上(ここでは5000pM以上)
多量であることが望ましいと言えます.
固相化抗体の量を増加させるには 精製された抗体分画を
固相化抗体の量を増加させるには,精製された抗体分画を
固相化することでかなえられます.
すなわちIgG画分への精製で抗体タンパク濃度を高め,
すなわちIgG画分への精製で抗体タンパク濃度を高め
更にはアフィニティークロマトによるモノスペシフィック抗体への
精製などにより抗原との結合能力を持つ抗体の純度を高めるのです.
精製などにより抗原との結合能力を持つ抗体の純度を高めるのです
24
○ 低濃度での結合反応の低下
25
今までのお話は溶液での反応を仮定して
計算した場合でした.
計算した場合でした
傾向は分かるにしても,
たとえば溶液中での反応を仮定して計算された標準曲線は
ほとんど直線に見えますが,
先にELISAの標準曲線の例でお示ししましたように
実際にはそうではありません.
抗体が固相化されているときには反応にどのような影響が
出るのでしょうか.
そこで実験してみました・・・・・
26
ELISA では各標準点で実際にどのくらい添
加抗原が固相化抗体にキャプチャーされてい
るのだろうか?
●或る量の抗原を添加した時,それが実際にどの程度固相化
抗体と結合したのかを調 るには,
抗体と結合したのかを調べるには,
一定量の標準品を抗体固相化ウェルに反応させた後,
反応液を他の抗体固相化ウ ルに移すことによ て
反応液を他の抗体固相化ウェルに移すことによって
「反応し残りの抗原量」を測定すれば判明する.
レビスインスリンキットラットT を用いて試してみた.
反応①:通常通り反応
反応②:反応①のBi tin STD 2hr反応後の各STDを
反応②:反応①のBiotin,STD
100μl/wellずつ別のウェル移し、反応させ、
その後は通常通りの測定過程を行う。
27
検量線
各標準点での抗原の
結合量と結合率
30
3.0
反応①
反応②
abs.450(⊿620)n
nm
2.5
2.0
1.5
1.0
0.5
0.0
01
0.1
1
10
●最高添加量(10ng/ml)
での結合率は90%であっ
たが、添加量の減少と共に
たが、添加量
減少と共に
結合率は低下し,最少標準
点では約45%,つまり結
合率は半分となった.
Insulin(ng/ml)
添加量ng/ml
10
5
2.5
1.25
0.625
0 313
0.313
0.156
残渣測定値ng/ml
g
残渣(%)
結合率(%)
結合量ng/ml
g
0.9672
0.8273
0.588
0.4844
0.2868
0.1444
0.086
9.7
16.55
23.52
38.75
45.89
46.21
55.13
90.3
83.45
76.48
61.25
54.11
53.79
44.87
9.03
4.17
1.912
0.7656
0.3381
0.1681
0.07
28
溶液中結合と固相化抗体への結合
結合率 (%)
100
80
60
40
20
0
Std.7 Std.6 Std.5 Std.4 Std.3 Std.2 Std.1
Standard
結合率(%)
溶液中結合理論値
インスリン測定系の場合50ng/mlでプラトーに達する事がわかっている.
これはインスリンの場合約10,000pMに相当する.
すなわち抗体は10,000pM程度が固相化されていると考えてよいであろう.
溶液中で反応すると仮定し,Kd は1000pMとして計算してみると結合率は
赤線のようになる.
この濃度範囲では結合率は抗原濃度が低くても
90%以上で一定になる筈であるが,
実際には黒線のようにインスリン濃度が下がると結合率は減少する.
29
添加濃度と結合率との関係
●結合率は添加濃度の対数に比例する
結合率 添加濃度
数
例す
第 因
第1因子
結合率=0.1244Ln(x)+0.075
結
結合率,%
添加インスリンの結合率
100
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
0.1
1
添加インスリン濃度 ng/ml
添加インスリン濃度,ng/ml
10
説明は次ページ
30
結合率を添加抗原濃度の対数に対してプロットすると
ほぼ直線的な関係があるのが分かります.
つまり固相化されて運動しない抗体に対して
抗原だけが自由運動をして抗体と結合するという
ハンディキャップを示しています.
仮にこれを結合抑制の第1因子と呼ぶことにします.
31
とすると,キャプチャーされた抗原に対して
酵素標識抗体が結合する場合にも同じ現象が
生じていいはずです.
固相化抗体に結合した全ての抗原に酵素標識アビジンが
結合しているなら,
結合しているなら
酵素活性(吸光度)/結合抗原量 = 一定
となる筈ですが計算すると一定にはなっていません.
ここでも当然結合抑制が働いているのです.
も当然結合抑制 働
る
す
これを第2因子と呼ぶことにしましょう.
32
結合抗原あたりの吸光度、すなわち吸光度率も添加抗
結合抗原あたりの吸光度
すなわち吸光度率も添加抗
原量の対数に比例する (説明前ページ) ・・・第2因子
添加抗原量と吸光度率
添加抗原の最高濃度を吸光度率100%としている.
12
1.2
y = 0.1641Ln(x) - 0.0724
2
R = 0.9073
吸
吸光度率
1
0.8
0.6
0.4
0.2
0
10
100
1000
添加抗原
添加抗原, pM
M
33
添加抗原量と吸光度との標準曲線をシミュレートするには抗原抗体反応式
から得られた値に結合効率低下第1 因子を掛けて結合量を補正し,更に単
位吸光度 吸光度率(結合効率低下第2 因子)を掛けなければならない.
位吸光度x吸光度率(結合効率低下第2
因子)を掛けなければならない
シミュレーションと実際
10
Abs.
1
Simulated
Observed
0.1
0.01
0.156 0.3125 0.625
1.25
2.5
5
10
標準 濃度
標準品濃度,ng/ml
実際にラットインスリンTキットについて,
固相化抗体
固相化抗体10000pMと解離定数1000pMの組み合わせでの添加抗原0.156~10ng/ml
と解離定数
の組み合わせでの添加抗原
即ち27~1724pMの範囲で溶液状態での結合量を計算し,それに結合率低下因子1と
添加抗原量10ng/mlの吸光度(pMあたりに換算したもの)を掛け,
更に結合効率低下因子2を掛けて計算した標準曲線と実際の標準曲線を重ねて見た.
両曲線は良好な重なりを示した.
34
○ エッジ現象
エッジ現象の予防は感度改善への道のひとつ
ジ現象
防 感度改善
道
と
35
Edge
g 現象(
現象(Edge効果)
g 効果)
ウェルプレートの外周部にあるウェルが周囲の温度
の影響を受けて他のウェルより反応が進行(あるい
は遅延) してしまう現象
原
因
●ウェルプレートや試薬類が充分室温化
されていない(冷蔵庫から出してすぐ使
用)
●室温になっていても外部熱源(人体も
含めて)からの輻射、伝導で熱が伝わる
●エアコンの冷風/温風があたる
●陽の当たる窓際で測定
●冬季の朝測定室が冷え切っていると室
温化に時間がかかることに気付かない
36
Abs . 4500( ⊿ 620)nm
m
初心者のエッジ現象
0
初心者と熟練者が同じ測定キットを使用して
ブランクと標準曲線を比べたものである.初
心者には
心者にはエッジ現象が現れ標準曲線の低濃度
ジ現象が現れ標準曲線 低濃度
領域は使用に耐えない.
このことが唯一の原因とは言えないにしてもピペッ
ティングの際プレートに手を触れないことが望まし
い.
標準品系列のウェルには発色試薬を最後に加えるよ
うにするのも一案.
1
2 3 4 5 6 7 8
Well pos ition A‐1 to H1
9
S tandard curves obtained by 2 operators
10
A bs 4550( ⊿ 620) nm
初心者では上の写真のようにプレートを指で
し かりホ ルドしてしまうことが多く 体
しっかりホールドしてしまうことが多く,体
温が指の近くのウェルに伝わって反応を進行
させてしまう(特に発色試薬添加中). 初心者
は試薬添加に時間が掛かるので尚更影響が大
きくなる.
0.16
0 14
0.14
0.12
0.1
0.08
0.06
0.04
0.02
0
Blank absorbance obtained by 2
operators
1
0.1
0 01
0.01
10
100
1000
10000
Insulin concentration, pg/ml
37
○ 非特異的吸着
Blankの吸光度増加
ELISAにおけるもっとも重要な点の一つは
標識抗体の非特異的吸着である.
標識抗体の非特異的吸着である
これによってブランクや低濃度領域の吸光度を増大させ
測定感度 悪 さ
測定感度を悪化させてしまうのである.
う
38
検出抗体の修飾
による吸着低下
IgG ⇒ F(ab’)2,
Fab’
その対策としては,酵素標識抗体の
吸着しやす 部位を除去し しまう
吸着しやすい部位を除去してしまう
こと.
すなわち,Fc と呼ばれるheavy chain
の部分を酵素処理で切り取り,
F(ab’)2とするか,さらにヒンジの部分で
2分してFab’としてから酵素標識を行って
分
酵素標識 行
使用することである.
洗浄による吸着低下
もうひとつ手軽に効果を上げる方法としては洗浄回数を増やすことである.
強く洗浄するのは固相化抗体をはがしてしまう恐れがあり好ましくない.
優 く 繰り返 を増やす とが大切 ある
優しく,繰り返しを増やすことが大切である.
次ページにその実例を示す.
39
Absrob
bance ⊿450(620)) nm
Washing repetition and blank absorbance
(Mean & SD)
0.180
0.160
0 140
0.140
0.118
0.097
0.120
0.100
0.080
0.060
0 040
0.040
0.020
0.000
例1
Washing 4 times
1
Washing 8 times
Assay kit: Mouse insulin ELISA KIT (U-type)
Difference of mean absorbance: p<0.065 Difference of variance:p<0.1
洗浄回数を緩やかな洗浄液の添加と共に回数を倍にした時
洗浄回数を緩やかな洗浄液の添加と共に回数を倍にした時,
ブランクの吸光度は確実に低下する.
更にバラツキが有効に小さくなることが期待される.
40
Abssrobance, 450⊿6220nm
0.1200
Washing repetition on blank absobance
(mean&SD)
0.1020
0.1000
0.0880
0.0800
0.0600
0.0400
0 0200
0.0200
0.0000
Washingg 4 times
1
例2
Assay kit: Rat TSH ELISA KIT
Washingg 8 times
Difference of mean absorbance: p
p<0.03 Difference of variance: pp<0.25
緩やかな洗浄回数の増加は必ずしもすべての洗浄過程で行う必要はなく,
標識抗体を加えて反応させた後の洗浄過程で行えばよい.
標準曲線の他の部分ではこのような効果は殆ど見られない.
41
○ 増幅効果
低濃度領域でごく少量しか結合していない抗原を効率よく検出する
ことは高感度測定の必須条件である.
Biotin-avidin系の採用 (前出)
酵素の選択と可視光⇒蛍光
基質の変換効率が良い酵素と,基質の選択.
基質に関しては.可視光色素を形成する基質よりも蛍光色素を形成
する基質の方が検出効率は,はるかに優れている.
 D-galactosidase
galactosidase
4-methylumbelliferyl--D-galactoside
2 it h l  D l t id
2-nitrophenyl--D-galactoside
Horseradish
o se ad s peroxidase
pe o dase
3-(4-hydroxyphenyl)propionic acid
42
これまでのまとめ その1
○
低濃度領域での測定精度
ELISA はRIA と比べると低濃度領域でははるかに測定精度が優れている.
と比べると低濃度領域でははるかに測定精度が優れている
しかし現実として低濃度領域では標準曲線の中央部と比べ吸光度でCVは1.5倍,
検体濃度に直すとその2倍,すなわち3倍程度のCVとなる.
○
抗体の親和性
ある程度の高い親和性のある(Kd:1000pM以下)抗体なら影響は少ない.
○
固相化抗体量の増加
ある程度の量(例えば5000-10000pM)が固相化されていれば,影響は少ない.
○
低濃度での結合反応の低下
低濃度での結合反応の低下に伴う標準曲線のたわみ(下に凹)は吸光度から
測定値への変換に際してCVを大きくさせ感度を低下させる 結合低下の原因
測定値への変換に際してCVを大きくさせ感度を低下させる.結合低下の原因
は,キャプチャー抗体が固相化されていること,およびキャプチャー抗体に
結合することで抗原が動けなくなることの二つである.
43
これまでのまとめ その2
○
エ ジ現象
エッジ現象
エッジ現象によりブランクの吸光度が増大し,低濃度標準点の吸光度よりも
高くなり,感度 発揮 れな
高くなり,感度が発揮されない.エッジ現象を極力防止すること.
ッ 現象を極力防 する
やむを得ない場合はブランクの吸光度を無視するかあるいは適当な
数値に変えて計算する (測定値は最低と最高標準品濃度の範囲でしか
保証されないのだから).
)
○
非特異的吸着
非特異的吸着はブランクや低濃度領域の吸光度を不必要に押し上げてしまい
感度低下させる.対策としては,
●酵素(avidin)標識抗体のFc部分を除去した形(Fab’,F(ab
●酵素(avidin)標識抗体のFc部分を除去した形(Fab
F(ab’)2)として使用する
)2)として使用する.
●酵素標識抗体および酵素標識avidin添加-反応後の洗浄を緩和に,
回数を増やして洗浄する.
○
増幅効果
抗原の結合が少量でも検出感度を上げることによって測定感度は改善される.
●基質変換効率の高い酵素を選択する.
●蛍光色素となる基質を選択する.
まとめ終わり
44
45
ELISAでの血清・血漿検体の測定トラブル
トラブル
●血液成分(高蛋白濃度)による固相化抗体への結合反応を遅延・
妨害する可能性がある
●保存料の影響
●麻酔薬の影響
●抗凝固剤の影響
●タンパク・ペプチド分解酵素の影響
●溶血の影響
●乳糜(にゅうび
●乳糜(にゅうび,chyle)の影響
h l )の影響
取り扱い説明書に記されている検体条件を必ず読むこと
検討
●希釈直線性を検討する
線
●添加回収試験を実施する
(高濃度標準液少量を検体に加えてみる.次のページ参照)
対策
●影響を与える原因を探し,取り除く
●血清成分を加えた標準液で血清(血漿)検体との解離を相殺する
46
測定試料の適合性テスト
まず標準溶液の系列を作ります.適当に選んだ代表的試料,たとえば対象群の
試料の一つ,から90l を小試験管に採り分けます
(採った試料の番号を記録しておいてください.仮にNo. Cとします.)
次に標準曲線の最高濃度の液を10l 採って小試験管内の試料に加え,
よく攪拌します.この標準品入りの試料を他の試料と共に測定します.
この測定値を試料
測定値を試料 No. C の
測定結果と比べて見て下さい.
次ペ ジに続きます
次ページに続きます.
47
仮にNo. Cの測定値がAng/mlであったとしますと標準品入り試料
の測定値は,測定精度の範囲内で,
Ax0.9+(最高標準溶液濃度x0.1)ng/mlになっている筈です.
要するに簡単な添加回収試験ですね.
要するに簡単な添加回収試験ですね
あなたの測定試料でこの計算値に近い値が得られれば,シバヤ
ギキ ト 測定系が試料に対して満足に機能して る とが証
ギキットの測定系が試料に対して満足に機能していることが証
明されるわけです.
48
以上で終わります
2009/04/30
49