認定NPO法人アムダと協働する 有機農業技術相互研修制度事業 実施

平成 26 年度自治体国際協力促進事業(モデル事業)
認定NPO法人アムダと協働する
有機農業技術相互研修制度事業
実施報告書
岡山県真庭郡新庄村
認定特定非営利活動法人アムダ
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1.事業実施に係る経緯
平成 22 年新庄村村議会において「アジア有機農業プラットフォーム推進条例」が制定
された。これをきっかけに、新庄村内ではこれまで以上に村をあげて有機農業に取り組ん
でいる。一方、岡山に本部を置き、アジア各地で多くの活動経験を持つ NGO、認定特定非
営利活動法人アムダ(以下、AMDA とする)が、平成 23 年に新庄村野土路地区で有機農
業プロジェクトを開始した。これは、AMDA が実施してきた様々な医療支援活動を通じ「安
全、安心な食」が健康な体を作るだけでなく「安全、安心な食」には付加価値が付き、貧
困地域の生活向上や労働意欲の向上につながることに着目して始められた事業である。
「食
は命の源」をコンセプトに、アジアへの有機農業の技術移転を目指している。
平成 25 年度「自治体国際協力促進事業」の助成を受けて、新庄村は AMDA と協働でイ
ンドネシア研修生 2 名を招へいし、研修を実施した。研修終了後に研修生は、インドネシ
アで有機農業を展開している。また村内では研修生の招へいを通して、村民の国際貢献へ
の興味と関心が増したことをきっかけに、
、
アルバニア共和国特命全権大使の来村やアジア
8 カ国の代表が集まる国際会議
(アジア相互扶助災害医療ネットワーク会議、
AMDA 主催)
の開催など、国際的な事業が村内で企画される機会が増えた。
以上のことから、平成 26 年度はさらなる相互の経験・研修交流を目指したプログラム
を立案・実施することとなった。
2.事業の目的
本事業は以下の5点を目的とする。
①アジアの開発途上国への有機農業の啓発と普及
②アジアの開発途上国の人びとの健康増進と生活向上支援
③新庄村に既存する有機農業技術の発展育成
④新庄村への交流人口を増加
⑤新庄村における産業の振興
本事業は、新庄村の「アジア有機農業プラットフォーム推進条例」に基づき、新庄村と
AMDA が協働して実施した。
3.事業実施内容
(1)新庄村へのフィリピン研修生の招へいと研修の実施(平成 26 年 6 月~11 月)
フィリピン共和国(以下、フィリピンとする)の
AMDA 現地協力団体「フィリピン農村再建運動(以
下、PRRM とする)」の推薦で、ルソン島在住の農業
指導者ティルソ・アジョバ・マルティレツ氏とホセ
リト・タンバロ氏を研修生として新庄村に招へいし、
有機農業の研修を実施。田植えから収穫までの 6 月
から 11 月までを研修期間とした。研修地となった
AMDA 野土路農場(岡山県真庭郡新庄村野土路地区)
籾殻薫炭づくりをする研修生
での有機・アヒル水稲同時作農業を用いた稲作をは
右から、研修生のマルティレツ氏、タンバロ氏。左端
はシタミ AMDA 野土路農場長。
じめ、村内の有機農業技術者らの協力を得て、野菜
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作りや堆肥作りなどの研修を行った。有機農業の基礎となる土壌分析や施肥設計、土づく
りの材料となる籾殻薫炭作りや堆肥舎づくりなどの研修も取り入れた。2 名の研修生はフ
ィリピンでは有機農業の指導者という立場にあり、多角的農業をはじめ様々な有機農法に
ついて経験があった。そこで、AMDA 野土路農場内に、フィリピンでの有機農業技術を紹
介するためのお米や野菜の栽培試験区を設け、それと AMDA 野土路農場の農法を比較検
討するなど、相互に学びとなる研修を行うことができた。また、新庄村アジア有機農業連
絡推進協議会や多くの村内にある任意団体さらには村民の協力を得て、報告会の実施、地
域のお祭りへの参加などを実施した。研修地は新庄村内に留まらず、県内外にも足を運ぶ
幅広いものとなった(農業研修一覧参照)
。
【農業研修一覧】
月
研修実施内容
・ 草刈り機モア使用方法の研修
・ 刈払い機安全講習
・ ミミズ堆肥作り(マルティレツ氏
の指導)
6 月 ・ 発酵液肥作り(マルティレツ氏の
指導)
・ 土壌分析と施肥設計
・ 島根県立農林大学校視察と交流
・ 出雲農林高校視察
・ 是松農園視察、バイオガスと液肥
生産方法の視察
・ 岡山県立高松農林高校視察
・ 案山子づくり研修
・ 島根農林大学校視察受け入れ
7月
・ 新庄村クールオカヤマフェスイベ
ントにて野菜販売実習
・ 天満屋岡山店野菜の実演販売、市
場での販売の状況についての研修
・ 農業指導普及センター農業見学会
・ 小祝式有機農業理論と施肥技術に
ついての講習
・ アヒル収穫と食肉加工場への移送
・ 有機農家多田農園見学
8月
・ 島根県立農林大学校視察
・ 夏野菜の収穫と出荷作業
・ 野菜圃場の整地(トラクター実習)
・ 施肥設計と大根の種まき
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土壌分析を学ぶ研修生
試薬を使って土壌に含まれる肥料分を測定するのは初めて。
フィリピンでは国の機関だけが行っていることを日本の農
家は個人で行っていることに驚いたという研修生。
島根農林大学校視察受け入れ
生徒約 40 名が訪問、研修生がフィリピンでの有機農業に
ついてのプレゼンを行い、ミミズ堆肥の紹介とフィリピン
の立体農業について紹介した。
・ 里山農園視察、大規模有機農家の
堆肥作りと土作りについて視察
・ 稲田牧場和牛飼育研修
・ 農丸園芸直売所、野菜の実演販売
・ 西山林業茸栽培見学
9月
・ 稲刈り(ひめのもち、こしひかり)
、
乾燥調整作業
・ 白菜の植え付け
・ 第 2 回国際医療貢献フォーラム
(岡山県・AMDA 共催)
(タンバ
ロ氏が人材育成について発表)
・ 広島ジーンバンク視察
・ チームビルディング研修(タンバ
ロ氏による指導)
10 月 ・ 養蜂農家見学、蜂蜜の収穫体験
・ 新庄村秋のがいせん桜祭り出店
・ 精米、袋詰め、出荷作業研修
・ 天然酵母パン屋見学
・ 高松農業高校にて研修報告会
・ 牛糞堆肥生産実習
・ 加工食品(大根キムチ)作り研修
11 月 ・ 風人の祭り出店 、お米の販売
稲田牧場和牛飼育研修
和牛の餌の種類や配合、糞の堆肥化について研修を行っ
た。稲田氏が和牛 2 頭から事業開始したと知り、研修生
メルティレツ氏も小さな規模で始めてみたいと話した。
広島県ジーンバンク視察
種子の保存方法や種とりの仕方を聞き、-20 度の冷凍庫も体
感し、とても感心している研修生。
(2)フィリピンルソン島への有機農業指導者派遣(平成 27 年 2 月)
AMDA 野土路農場および新庄村、岡山県内外で研修を受けた研修生 2 名は帰国後、日本
での研修成果をフィリピンの農家に共有している。研修内容の浸透とさらなる相互理解の
ため、2 月下旬に新庄村から坂本英典氏(稲作専門)
、鈴木一成氏(野菜専門)
、AMDA 職
員浅田歩の計 3 名の有機農業技術者が、フィリピンのルソン島を訪れた。2 月下旬のルソ
ン島は乾季で直接的な稲作指導は難しく、主に有機農業の基本となる土づくりに必要な太
陽熱養生処理や、わらの堆肥化促進の方法などのワークショップを計 3 回行った。乾季は
毎年 12 月から 5 月までのおよそ 6 か月間で、田植えは行われない。地域農家や農家指導者
たちとワークショップを通して技術を伝達し、有機農業についてお互いの情報交換を行っ
た。その際、農家指導者たちから、2 国の農業の相違点やフィリピンの農業について尋ね
られた。ワークショップには研修生他、20~40 名の農家が参加し、毎回積極的な質問が飛
び交った。
さらに期間中、ルソン島内で PRRM が運営しているミミズ堆肥工場を視察し、有機農業
を行いながらも収穫量を増やすためのより良い方法について協議を行った。
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【渡航スケジュール】
行程
2/20 大阪⇒マニラ(空路)
マニラ⇒バタアン州⇒ヌエバエシハ
2/21 州(陸路)
農場視察、打ち合わせなど
ヌエバエシハ州マパンパンにて日本
の食文化紹介
・ どぶろく作りと天ぷら作り
2/22
ヌエバエシハ州カラバラバアンにて
有機農業指導
農場の視察
乾季で水を汲む動力ポンプのない農家は稲作を行うことが
できない。粘土質の土壌は一度乾いてしまうと水を含みにく
いこともわかった。
・ 土壌酸性度チェック
・ 太陽熱養生処理ワークショップ
有機農業勉強会
・ アイガモ農法、太陽熱養生処理、わら
処理について紹介
2/23
・
フィリピンの複合農業の学習
PRRM の研究所視察
・ ミミズ堆肥製造工場
2/24
2/25
2/26
ヌエバエシハ州⇒マニラ(陸路)
坂本氏帰国
マニラ⇒ナガ(空路)
ワークショップのための打ち合わせ
南カマリネス州バアオにて PRRM ダ
ンテ氏の農場視察
イリガ市有機農業研修農場視察
イリガ市長表敬訪問、有機農業につい
ての意見交換
バアオにて複合農業についての学習
南カマリネス州バラタンのマルティ
レツ氏の農場にて有機農業勉強会
太陽熱養生処理
透明ビニルマルチを使った抑草効果と土壌改良法を紹介。
・ 有機農業、わら処理について紹介
・ 土壌酸性度チェック
・ 太陽熱養生処理ワークショップ
2/28
ミミズ堆肥大規模生産農家視察
ナガ空港⇒マニラ(空路)
PRRM 事務所訪問
環境浄化活動エンジニアと面会
3/1
マニラ⇒大阪(空路) 日本帰国
2/27
有機農業勉強会
地域の農業リーダーたちに太陽熱養生処理やアイガモ農
法について紹介。フィリピンの複合農業について学習し
た。
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4.事業実施中に発生した問題点と解決策
日本への招へい中、水田の水管理について、研修生と野土路農場の方法の違うことが問
題となった。解決策として、フィリピンでの水管理を実践してもらうため一枚の水田の中
に、小さな畦を設け、異なった水管理を行うことにした。結果的には、大きな差異は見ら
れず、農法は地域の環境に合わせて実感することが重要であると実感できた。
またフィリピンでの研修中、土壌改良のためにカルシウム資材が必要となったが日本と
違って農業資材店に行っても手に入らないと判明した。解決策としてフィリピンで手に入
るカルシウム資材は何か、タンバロ氏たちと相談し、市場で貝を購入しその殻を一度焼い
て砕いてから使用する予定となったが、準備に予想以上に時間がかかったため、代案とし
て養鶏をしている農家から卵の殻を入手し、カルシウム資材として使用した。
5.成果
本事業へ参加した研修生 2 名とワークショップへの参加者の感想を本事業の活動成果の
一部として以下に紹介する。
研修生・タンバロ氏からの感想 -------------------------
日本での研修で日本の技術力の高さや、農業の機械
化に驚かされました。土壌分析や、顕微鏡で微生物を
見たことも初めての経験でした。
その他、
新庄村の方々
との日々の交流や生活を通して、日本の文化や習慣、
気候を肌で感じることができました。日本では農業を
教える学校があり、教育レベルの高さ、素晴らしさを
感じました。フィリピンと日本では技術や設備の他、
気候の違いはありますが、学んだ有機農業の知識と経
研修生・タンバロ氏
験を活かして今後も有機農業の指導をしていきたいと
平成 26 年秋農産物の実演販売
思います。
研修生・マルティレツ氏からの感想 ----------------------
一番印象に残っているのは、米ヌカを発酵させてバ
イオガスを取り出している農家が日本にいたことです。
フィリピンでは、大量のココナツの殻が未利用資源と
してあるので、これからバイオガスを取り出せないか
と考えています。また和牛飼育も勉強になり、2 年後
くらいには 2 頭の牛から飼育を始めてみようと考えて
います。
多くの有機農業を行っている人々と出会い、言葉を
研修生:マルティレツ氏
AMDA 野土路農場のアヒル農法の田んぼにて
超えて同じ情熱を感じることができました。
ワークショップに参加したフィリピンの農家の方からの感想 -----------
「これまで植物が何でできているのか知る機会はなく、土壌改良をする方法も知らなか
6
った」
「今回はワークショップで実際に土の酸性度を測り、地元にある材料を使って一緒に
土壌改良を行ったので、とてもわかりやすかった」といった感想の他、他地域の農家指導
者フェリックス・シルヴァ氏は「今度は自分の地域の他の農家たちにも同じように指導し
てほしいのでタンバロ氏を招待して、再度講習を行ってもらおうと思う」と話した。
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研修生 2 名は研修期間終了時に新庄村内で活動報
告会を開催し、多くの村民に研修内容や今後の方向
性を示唆する機会となった。
研修生は帰国後、PRRM での報告会をはじめ、地
域の農家指導者として、有機農業を継続し気候や環
境が異なるフィリピンで学んだことを如何に実施で
きるか模索している。
フィリピンへの新庄村からの農業技術者派遣は、
活動報告会
研修生の現状を把握し、問題を解決する糸口を提示
新庄村、AMDA からの研修修了証が授与された
する非常に良い機会となった。今後日本の農業者が
フィリピンの有機農業に理解を示し、継続した農業交流を築くきっかけとなるだろう。農
家参加型のワークショップを実践したことで、現地の状況や資源に合わせた土壌改良法を
提示できた。地域の農家指導者たちも強く興味や関心を示し、今後の継続した取り組みが
期待できる。また派遣者は新庄村内で活動報告会を実施し、今後より一層有機農業を通し
た国際交流に村民の協力と理解を得られるよう働きかける予定である。
6.今後の展望
フィリピンでは、これから太陽熱養生処理が取り入れられていく予定である。今後も、
研修生から毎月活動報告が届くので、その効果を検討する。また、相互に農場の現状を報
告し合い、お互いに向上することを目指している。フィリピン派遣者と研修参加者は、
Facebook というソーシャルネットワークシステム(SNS)を利用しており、容易に連絡を
取り合うことができるため、継続した土壌改良や野菜栽培の支援を行っていくことが期待
できる。単に有機農業の実践にこだわるのではなく、収穫量の増加や収穫物の品質を追求
し、住民の健康増進も視野に入れた有機農業の発展に寄与していきたい。
7.他の自治体の参考になると思われる点
新庄村の持つ公共性や住民とのネットワークと、アムダの持つ専門性や草の根レベルで
の支援体制という特性が連携することで、それぞれの特色を生かした「自治体と NGO が
連携した事業」の実施が実現した。本事業は今後の国際的な有機農業の技術交流を考える
上で、自治体と NGO との連携が有効であるということを示唆した事業となった。
人口 1000
人未満の小さな自治体が特性を生かした発展を目指し、国際協力を実現するために、アジ
アとの有機農業連携が重要な役割を果たしている。村内外の国際交流を通じて、住民の向
上意欲の活性化や地域振興を促すと共に、国際貢献につながったと考える。
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