ゼロからはじめた新聞活動 - 北海道高等学校文化連盟新聞専門部

第5回新聞指導研究会資料(H21.1.6)
ゼロからはじめた新聞活動
~稚内・江差での顧問生活~
北海道江差高等学校教諭
岩
間
洋
之
1.稚内高校定時制での顧問時代
(1)夜間定時制に新聞はいらない!?
平成11年4月、日本最北端の稚内高校定時制で教員生活がスタートしました。夜間定時制で教
職員9名、全校生徒数約40名の小さな学校でした。当時は必修クラブというものがあり、部活動
はゼロ(平成12年度から必修クラブがなくなり、部活動としてバドミントン部が設立 )。学習の
方は 、どちらかと言えば勉強嫌いな子が多く 、授業も全日制のようなスタイルは難しい状況でした 。
そんな状況でしたが、当時は形式上、生徒会の外局として稚内高校定時制に「新聞局」と「放送
局」がありました。赴任したばかりの私は 「チャンスがあれば新聞づくりをしたい」 という思いを
密に抱いていました。しかし、そんな思いは 赴任して1ヶ月もしないうちに吹き飛ばされてしまい
ました 。
なんと、平成11年4月下旬に開かれた 生徒総会で外局(新聞局など)の廃止が決定 されてしま
ったのです。ここ10年近く外局に局員がいなく、全く活動されていないというのが理由です。赴
任してすぐだったせいもあり、外局が廃止されるなんて知らされておらず、生徒総会当日に初めて
聞かされました。
「チャンスがあれば…」と思っていた矢先の出来事に、かなりのショックをうけました。生徒総
会で承認された以上、言ってもしかたがないことは十分にわかっていましたが、当時の生徒会顧問
に不満をぶつけました。返ってきた言葉は 「定時の生徒は何もできないから 」「能力的に厳しいで
しょ」 というものでした。
(2)一教師の卒業文集
実際に授業・学校行事など学校全般を通して、当時の赴任校は落ち着いているとは言えない状況
でした 。私自身も赴任当初の意欲が段々と薄れはじめ 、
「 定時制で新聞をつくるのは厳しいかも… 」
「次の学校に行ってからにしようかなぁ」と思いはじめていました。そんななか、平成11年が終
わろうとしていた年の瀬に、一冊の分厚い本が自宅に送られてきました。
その本のタイトルは 「邂逅(かいこう)~一教師の卒業文集~」 というもので、 元札幌啓成高校
新聞局顧問の故加藤定明氏 からのものでした。読んでいくなかで、高校時代の私自身のこと、加藤
先生と語った新聞づくりのことなどが思い出され、今の自分があるのが、この加藤先生(新聞)と
の出会があったからであると改めて気づきました。
稚内高校定時制に赴任して1年… 。「もう一度初心に戻ってやってみよう」。そんな思いで平成1
2年の新年を迎えました。
(3)定時制新聞部が設立
平成12年4月から1年生の担任を持ち、その甲斐あってか、
クラスで新聞に興味のありそうな生徒に声をかけ、稚内高校定時
制に新聞部が立ち上がりました。1年前に生徒総会で廃局となっ
た新聞局を、 平成12年10月の生徒総会で「新聞部」として復
活 させることができました。当時は 生徒2名。予算ゼロ、部室ゼ
ロのスタート でした。
いざ活動をはじめたものの、初めて新聞を作る者ばかりで、定
時制という時間的制約もあり、なかなか編集作業は進みませんで
した。そんなとき、参考となり大いに役立ったのが、札幌啓成高 ▲全道大会の分科会で司会する稚内高校
定時制の生徒(中央)。
校新聞の縮刷版です。これも数年前に加藤先生から頂いたもので
した。記念すべき創刊号が、部設立から4ヶ月ほどした平成13年2月に発行することができまし
た 。「定時制に新聞は根付くのか… 」。そんな不安を抱きながらの発行でした。
ちなみに創刊号の内容は、予餞会(学校祭のない稚内定時制ではこれが最大の行事)に向けての
生徒の取り組み、生徒会執行部の準備の様子を大きく取り上げました。
(4)生徒のがんばりを応援
予餞会準備を紹介したあとは、次号で予餞会当日の紹介、そして卒業式・入学式に合わせて新聞
を発行しました。年間に発行できる号数は少なかったですが、 大きな行事に合わせてコツコツと発
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行 していくことで、生徒・教職員の認知は少しずつ広がっていっ
たような気がします。平成13年度には名寄支部大会、全道大会
にも参加できるようになりました。校外にも取材の足を伸ばせる
ようになりましたが、編集の基本は、 定時制でがんばっている仲
間を応援し 、学校生活を有意義なものにしたい というものでした 。
校内だけではなく、支部・全道で数多くの仲間と交流できたこ
とは、新聞部員にとって大きな糧になりました。特に全道大会で
旭川商業定時制の生徒に出会えたことは、同じ定時制で学ぶ部員
にとっては特に嬉しかったようです。私自身も同じ定時制生徒が
がんばっているという意味で、旭川商業定時制新聞からたくさん
の勇気を頂きました。
▲全道大会(室蘭大会)で稚内高校定時
制の生徒と記念撮影。
(5)次の指導者にバトンタッチ
気がつけば稚内高校定時制に丸7年勤務しました。うち5年半を新聞部の顧問として携わること
ができました。どの部活動にも言えることですが、新聞も例外なく顧問の影響が大きいです。学校
体制によって複数の顧問をつけることは難しいと思いますが、 新聞が継続して発行するためにも、
ぜひ職場内で賛同者を見つけてほしい と思います。私が転勤する前の年は、 白山悟先生(現稚内高
校定時制新聞部顧問)を顧問に迎え入れ一緒に新聞をつくりました 。その甲斐あって、私が転勤し
た今でも、稚内高校定時制新聞が発行され続けています。なお、白山先生のユニークな指導方法と
優れた編集技術については、昨年度の本研究会で紹介されています。北海道高等学校高文連新聞専
門部のホームページ( http://www.shinbun.hokkaido-c.ed.jp/) に資料があります。ぜひご覧下さい。
2.江差高校新聞局での顧問生活
(1)新聞局は委員会制
平成18年4月、稚内高校定時制から現在の勤
(12月末現在 )
「江高新聞」の年間発行状況
務校である江差高校に転勤となりました。本校は
桧山管内の中心校で 、現在4間口 。教職員43名 、
全校生徒約400名の学校です。
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部活動は運動系を中心に活発です。外局(新聞
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・図書・放送)があり、私は赴任してすぐ、運動
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部の顧問とかけ持ちで新聞局の顧問となりました 。
平成18年度
平成19年度
平成20年度
ただ、どこの学校にも言えることですが、最近は
生徒会活動そのものが停滞しつつあり、私が赴任したときは、本校の 外局活動も活発なものとは言
えない状況 でした。外局とは名ばかりで、 各クラスから1名以上選出する委員会活動(強制的) に
なっており、さらに、前期・後期で局員を新たに選出するシステムになっています。私が赴任した
ときは、 新聞そのものは発行されていない状況 でした。
(2)現在の活動状況
そんな状況のなか、局員の中で興味がありそうな生徒数人に
声かけをし、赴任した平成18年夏ごろ、パソコンで編集した
B4版の「江高新聞」を発行することができました。7月中旬
に学校祭があったので、夏休み前の全校集会当日に学校祭の紹
介を中心とした新聞を発行しました。江差高校に赴任して初め
ての新聞でした。
赴任してもうすぐ丸3年になろうとしていますが、現在でも
委員会制というシステムの中で、新聞局はほぼ毎日のように活
動し、新聞を定期的に発行 しています。学校祭や球技大会とい
▲江差高校の新聞局員。
った校内行事、高体連・高文連などの活躍ぶり、環境、地域といった社会問題などを取り上げ、可
能な限りタイムリーに発行することを心がけています。
私が赴任した平成18年度は、年間発行回数は7号ほどでしたが、平成19年度には年間に17
号にまで増加し、 平成20年度は12月末現在で29号を
発行するなど、年間発行回数は飛躍的に伸びました 。発行
回数だけではなく、なにより 生徒・教職員の間に新聞が少
しずつ認知されれるようになった のが嬉しいです 。さらに 、
今まで強制的にクラスから選出されていた新聞局員が、年
々、 自ら希望する者、前年度から引き続きやる者が増える
ようになり、今年度の継続率(昨年度から引き続き新聞局
員をやっている生徒の割合)は60%を超えています。
▲生徒への配布のほか、校内の一角に掲示され
ている「江高新聞 」。
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(3)江差高校新聞局の概要
<編集方針>
「楽しく 」「正しく 」「美しく」
<紙面を通して>
平成20年度新聞局員数
◎頑張っている仲間たちを応援します
◎校内・社会問題について提起します
◎学校生活を楽しく・有意義にします
※後期
1年
2年
3年
小計
男子
1名
0名
4名
5名
女子
7名
8名
1名
16 名
合計
21名
<新聞局の組織図>
取材班 ─記事全般の取材・編集(活動日:毎週月・水・金)
◎局長 ○副局長
江
差
高
校
新
聞
局
企画班 ─企画特集・編集(活動日:毎週火・木)※土曜日も可
◎編集長
論説班 ─局説・コラム(活動日:不定期
写真班 ─カメラ(活動日:不定期
※自宅可)
※取材日)
デザイン班 ─四コママンガ・イラスト(活動日:不定期
※自宅可)
調査班 ─アンケートの集計等(活動日:不定期)
情報班 ─生徒会執行部の情報収集(活動日:随時)
遊撃班 ─スクープ・ネタ探し(活動日:随時)
<最近の活動状況・大会結果>
(平成19年度)
・江高新聞発行 年間17号発行
・支部研修会参加(7月) ※函館
・支部コンクール【手書き・ワープロ部門】 優秀賞
・全道新聞研究大会参加(10月)※釧路
・全道新聞コンクール【手書き・ワープロ部門】 優秀賞
・支部研究会参加(11月) ※グリーンピア大沼1泊2日
(平成20年度)
・江高新聞発行 年間29号発行(平成20年12月末現在)
・支部研修会参加(5月) ※函館
・支部コンクール【手書き・ワープロ部門】 総合賞
・全道新聞研究大会参加(10月)※夕張
・全道新聞コンクール【手書き・ワープロ部門】 優秀賞
・支部研究会参加(11月) ※グリーンピア大沼1泊2日
▲企画会議で話し合われたメモ書き。
<予算>
平成18年度…0円
平成19年度…3,000円
平成20年度…147,000円(写植新聞印刷代含む)
▲江差高校新聞局員による取材の様子。
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3.顧問として心がけていたこと
(1)局(部)員をどう確保するか
(2)予算・機材をどう確保するか
(3)局(部)室をどう確保するか
(4)読者(生徒)の理解をどう確保するか
(5)職場の理解をどう確保するか
(6)どんな新聞をつくりたいのか
(1)局(部)員をどう確保するか
・部員が少なくて困っている
↓
1人に声かけするより、2人ペアに勧誘する方が入りやすいです。他校の新聞を見せるなど新聞
の具体的なイメージを与えてみては…。また、中学生対象の学校見学会、対面式などで新聞を発
行してPRしてみては…。継続的な新聞発行そのものがPRだと思います
・委員会制は生徒の意欲に差があって活動しづらい
↓
委員会制は常にゼロではない。かならず局員がいます。部員不足と比べたら条件はいい!?
・なかなか活動に集まってくれない
↓
役割を与えると集まります。そこから継続してやる子がいるはずです
・新聞に興味がないので集まってくれない
↓
記事を書くこと以外にも仕事はあります(マンガ・イラスト・写真・集計作業など)
(2)予算・機材をどう確保するか
・予算がないので新聞ができない
↓
紙とペンさえあればできます。0円でも可能
・紙面に写真を入れたいけど、カメラがない
↓
学校で眠っている古いデジカメがあるはずです。場合によってはケータイのカメラも使えます。
ケータイのminiSDなどもカードリーダーで読み込めます
・パソコンがない
↓
情報処理室のパソコンを使ってみてはどうでしょうか。学校に眠っている古いパソコンもあるか
もしれません。専用のパソコンがない場合は、データはUSBメモリに保存。どのパソコンでも
使えるように、ソフトは「一太郎 」「ワード」などを使用。職場でパソコンを買い換える人がい
れば譲ってもらうという手も…
・生徒会予算がつかない
↓
みんな最初は0円です。継続して発行することで周囲から認められるはず…。卒業式号は保護者
の目にも触れるので、卒業式号を継続して出すだけでも周囲の評価はかわってきます
(3)局(部)室をどう確保するか
・編集作業をする場所がない
↓
放課後 、使用していない教室でも十分 。さらに校舎内で使用していない教室・準備室をチェック 。
年度末がチャンスです
※やはり専用の局(部)室があると、生徒のモチベーションは上がります
※本校では図書室内の司書室が新聞局室として活動場所になっています
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(4)読者(生徒)の理解をどう確保するか
・生徒に読んでもらえない
↓
①読んでもらえるような内容を考える。自分たちの仲間が紙面に出ていれば必ず読んでくれるは
ず。シリーズで部活動紹介をするなど、毎回生徒を紙面に載せる工夫をしてみては…
②速報性・継続性を大切にする。学校祭・球技大会・卒業式など大きな行事のときに、タイムリ
ーに必ず新聞を発行すると、読者である生徒は「今回はどんな紙面なの 」「私たちの写真使っ
てね」と期待されるようになります。
※ケータイのHP、掲示板など、情報に関して生徒は敏感なはず。不特定多数ではなく、自分た
ちの生活の中で安心して情報を発信・受信できる高校生新聞は、必ず理解されるはずです
・新聞局員が校内で取材しづらい
↓
最初は「恥ずかしい」という思いが強いと思います。最初の頃は顧問が一緒に取材に行ってあげ
ると局員は安心します。腕章をつけて、常に取材している姿を生徒にアピールすると、周囲の生
徒も取材活動が日常的なものと感じるのでは…。腕章は100円ショップのもので作れます
(5)職場の理解をどう確保するか
・教職員の理解が得られない
↓
①一番難しいところです。1つの方法として、シリーズで先生紹介を掲載するという手がありま
す。取材を受けた先生は、次の先生を紹介するという「笑っていいとも」風につなげてみる方
法があります(本校で採用 )。部活動の大会などを丁寧に掲載すると、部活の顧問の先生方か
らの評価はアップします
②出来上がった新聞を教職員に配布するとき、局員の生徒に直接配布させると効果的です。職員
室だけではなく、事務室・公務補室・校長室など教職員全てに直接配布することが大切です。
配布したときに「ご苦労様 」「すごいね」という励ましの言葉をもらうと、生徒は嬉しいもの
です
(6)どんな新聞をつくりたいのか
上記の(1)~(5)にも大きく関わっていますが、「顧問が生徒と一緒にどんな新聞を作っ
ていきたいのか」 ということを明確にすることが大切だと思います。生徒のニーズ、学校の期待
など様々な思惑の中、顧問と局員がしっかりとした発行目的を持つことが必要です。
他校の新聞から学ぶことはたくさんありますが、他校の新聞全てを真似て作っても意味がない
し、現実的には無理です。 各校、それぞれ生徒や地域の特色というものがある ので、それを十分
に活かした、 各校の特色ある高校生新聞 をつくっていくべきです。そこの学校の生徒や教職員に
愛され、読まれる新聞こそが最も優れた新聞だと思います。
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