2013 100円ショップの しくみと経営戦略 ―ダイソー、キャンドゥ、セリア、ワッ ツを例に― 藤津ゆか 駒澤大学経営学部経営学科4年 2013/01/01 ✿もくじ✿ 1. はじめに(100円ショップを取り上げた理由と問題意識) 2. 100円ショップの安さの秘密 3. それぞれの会社概要と業績 4. 各社の特徴※ 5. まとめ・感想 1.はじめに(100円ショップを取り上げた理由と問題意識) 今、100円ショップという小売業態が、多くの消費者の支持を得て、デフレ経済時 代に快進撃を続けている。 「こんなものまで100円!」という驚き、感動、意外性と、 「一つ100円なら」という気軽さを与える100円ショップは100均(ヒャッキン、 百円均一ショップ)の愛称で、主要顧客層としての30代以上の主婦だけでなく、多く の生徒や学生などの若者を集客し、SC(ショッピングセンター)、商店街などににぎわ いをもたらしている。 大手の100円ショップは、創業者が1960年代、当時発展を続けていたスーパー マーケットなどの軒先を借り、トラック1台分の台所用品や日用雑貨などを100円均 一で、期間限定のイベント(催事)として販売する移動店舗から始まったところが多い。 そこからやがて自前の店舗を持ち、チェーン展開し、新しい小売業態として歩んできた。 その100円ショップだが、長引くデフレの中で、「100円」という価格の優位性が薄 れているということが現状としてある。 同業内の競争激化に加え、大手スーパーやコンビニエンスストアのプライベートブランド (PB=自主企画)商品の台頭が挙げられる。大手スーパーやコンビニエンスストアの PB 商品には100円未満の商品も多く、例えば、イオンの PB「トップバリュ」では68 円の台所用品や58円の学習帳など一定の品質を備えた低価格商品が年々増えている。 また、イオン、セブン&アイホールディングス、ユニーの大手小売り3社の PB の合計 売上高は2012年度、1兆3000億円強と5年前から倍増する見込みである。この 中でこれからも持続的な成長をするためには、戦略の立て直しが必要となってくる。100 円ショップが値段だけで顧客を引き付けられる時代は終わった。これからは100円以上の価 値を感じる商品でないと売れなくなっているのである。 そこで、今回私は、100円ショップが100円の商品をどのように売って利益を上げている かを知って、業界全体がどのような問題点を抱え、何を改善しなければ生き残っていけない のかを知りたいと思ったことがこのテーマを選択したきっかけである。 100円ショップの仕組みと経営戦略について、大手4社(ダイソー、セリ ア、キャンドゥ、ワッツ)を例にあげ、比較していこうと思う。 2. 100円ショップの安さの秘密 参考文献:徹底解剖100円ショップ―日常化するグローバリゼーション―(2004) アジア太平洋資料センター編 ここでは、100 円ショップがなぜ 100 円で販売できるのかについて説明していく。 大まかに書くと次の 6 つである。一つ一つ細かく解説していく。 1. 粗利率が高い 2. 3. 4. 5. 大量生産、仕入、大量販売 海外(特に中国)での安価な生産 流通コストが低い 広告・宣伝費がほぼゼロ 6. 社員数が少ない(=人件費の削減) 1.粗利率が高い 100 円ショップは、商品単価が 100 円なので、一点当たりの利益額は少ない。しかし 比率で言うと、100 円ショップ各社の売り上げに占める粗利率は平均 31.9%で一般専門 小売店の平均に比べると高い。(2000 年度の専門店業種別経営指標『流通年鑑 2002』よ り) これは平均粗利率であり、商品によってこの比率は著しく異なる! 利益が 10 円の商品もあれば 60 円の商品もある! 品数が多く、バラエティーに富んでいることが大事なので一部にはほとんど利益がない 商品も存在する。 (例)100 円ショップの土鍋とマグカップ 土鍋:原価高い↑ マグカップ:原価安い↓ つまり、 利益率が高い商品(=原価が安い)商品が一緒に売れれば、利益率が低い商品(=原 価が高い商品)も 100 円で売って儲けが出るしくみになっている。 (極端に書くと、原価が 120 円のものがあっても、原価 1 円のものが一緒に売れれば儲 けが出る) ダイソーは商品原価が「1 円~120 円」だと記述されている。 ※消費者からみると「お買い得商品」と「お買い損」な商品が混在している。 そして、すべて 100 円だから、評判になった特定の商品を買いに入った客が別の商品に 目をとめて衝動買いをするケースは多い。 ※店の作りを魅力的にすればその可能性は大きくなる!! こうして、トータル 31.9%の粗利率が確保されている。 ちなみに・・ 大創産業とキャンドゥの 100 円の中身(2000 年 3 月期)【単位:%】 商品原価 営業経費 営業利益 ダイソー 64.4 24 11.6 キャンドゥ 68.9 27.4 3.7 『商業界』2001 年 11 月号より ダイソーは非常に営業利益が高いことがわかる。 2.大量生産、仕入、大量販売 粗利率を高くするためには、製造原価を安く抑えなければならない。 つまり、安く大量に仕入れなければならない。 それが可能である主要な仕入れルートを大きく分けると 4 つに分類される。 ① 国内の大手メーカー品を仕入れる ② 中小メーカーから直接仕入れる ③ 国内の専門卸業者から仕入れる ④ 自社ブランド ナショナルブランドと呼ばれる、有名大手メーカーの商品を仕入れる。 (例)トンボ鉛筆の文房具、ハウス食品のカレールー、日東紅茶のティーバック このルートは食品に多い。 実はスーパーでも 97 円で売っていたり、100 円ショップ用に量を少なくしていた りするケースもある。 さらに・・ (今は比率が少なくなったが)大量の在庫を抱えた大手メーカーの製品を安く仕入 れることもある。 たとえば、賞味期限が残り 1 か月となり、通常のスーパーでは売りにくくなった加 工食品を大量に仕入れ、包装だけ変えて短期間で売る、というケースもあるようだ。 ②中小メーカーから直接仕入れる 国内の中小メーカーから 100 円ショップ用に製造した商品があって、それを直接仕入れ るというケース。 これらのメーカーはひとつの 100 円ショップ企業にだけ卸している場合と、複数に卸し ている場合がある。 (だから例えばダイソーで見た商品がキャンドゥにあったりすることがある) (例)化粧品類、食器、台所用金属製品など ③国内の専門卸業者から仕入れる 小規模な 100 円ショップや地域限定的な 100 円ショップに多いようだ。 専門卸業者の例として静岡県吉田町に本社を置くスルガという会社が挙げられる。 株式会社スルガについて 100 円ショップ企業との取引で売上の79%を占めている。 (ダイソー33%、キャンドゥ11%、セリア10%など) おもな商品は、100 円ショップで売れているポーチ等の袋物やアイディア商品で、100 円ショップとともに急成長してきた。 90 年 3 月にサンリオの版権を購入し、キャラクター製品の生産を開始している。 製造は委託していて、 「縫製品など 60%が中国、樹脂製品は国内の工場で」作られてい る。(ファブレス・メーカー) 国内の工場というのは、不況で本業の注文が減った静岡県内の自動車部品や電気部品工 場が受注しているそうだ。 このような日本の地方企業が、コンピュータを駆使して商品をデザインし、製造は 日本国内であれ中国であれ構わないという姿が 100 円ショップを成立させている。 (例)クリスマスツリーなどの季節的なスポット商品 ⑤ 自社ブランド ダイソーは商品の80%が自社ブランドである。 (商品数が8万品目なので6万4千品目が自社製品になる計算。) キャンドゥは 02 年段階で35%。 自社製品といっても国産品よりも輸入品のほうが多い。 倉庫は持っているが、工場は持っていないため、 国産品も輸入品も中小メーカーの工場に発注して作らせるOEM生産 をしてい る。 自社ブランドといっても、ダイソーは商品企画自体メーカーによって持ち込まれたも のである場合があり、自社で商品設計すら行っていない商品も存在する。 この自社ブランドの多さがスーパーなどとは決定的に異なり、利益率を大きくして いる要因であるといえる。 ●仕入れ価格をぎりぎりまで抑える● 100 円ショップ各社は仕入れに際して、ぎりぎりまで価格を抑えようとするので、メ ーカー側は相当に苦しい額で受けざるを得ないようである。 それでも、不況で資金繰りが厳しい中小メーカーの工場は、製造ラインを遊ばせてお くよりは、安くとも 100 円ショップ向けの製造に応じる。また、100 円ショップ向けで あると大量の注文が出るから一般小売店に対してより安い単価での納入にも応じる。 ダイソーの場合、十万から百万個単位で大量購入している。 これがかなり無理な単価での仕入れを可能にしている。 しかも、100 円ショップは(卸売業者も含め)、基本的に現金仕入れであり、大量に現金 で仕入れてくれるのだから。メーカーにとってはありがたい存在ということである。 だが、同時に、大量の注文を短期間で仕上げるには、長時間の残業など非人道的な働き 方を強いられる。100 円ショップに納入しているメーカーにはこのようなしわ寄せもき ている。 3.海外(特に中国)での安価な生産 ダイソー:自社ブランドのうち約70%が海外製品 セリア:輸入品比率50% キャンドゥ:ほぼ同様だと思われる 100 円ショップ向け商品は原価が安いので、大量生産ができないと割に合わない。 だから、インドネシアなどよりも、機械化がある程度されていて、大量に生産ができる 中国のほうが安くつく。 4.流通コストが低い 第一に、流通経路が、一般小売店の場合と異なる。 大手の 100 円ショップ企業の場合は、工場から末端の店舗に直接運ばれるか、倉庫にい ったん入るだけで、卸売業者を通さない。 それが、スーパーや他の小売店の商品に比べてかなり安くできる理由の一つである。 第二に、輸送コストが違う。 上海から神戸などへの船賃は 40 フィートコンテナで 300 ドル程度である。 そこで、たとえばダイソーの場合は、神戸港で陸上げされた商品はそのまま東広島市の 倉庫に運ばれ、そこで国産品と合わせて各店舗へ送り出される。 単品での輸送をしないことも国内輸送コストの削減につながっている。 5.広告宣伝費がほぼゼロ 100 円ショップはそのコンセプト自体が宣伝となっているから、新規開店時を除いては ほとんど広告を打たない。スーパーに比べると広告・宣伝費はゼロに近い。 そして、雑誌等のメディアやネットで取り上げてもらえるので、勝手に宣伝してもらえ る。 6.社員数が少ない(=人件費の削減) 100 円ショップは、売り上げ規模に比べて従業員数と正社員数がきわめて少ない。 理由としては、値札をつける手間がかからないし、販売や売り上げの計算も楽だから人 手をぎりぎりまで減らすことができるからだ。 最大手のダイソーでも従業員は一万人、正社員数はなんと 400 人。 また、100 円ショップは商品知識がほとんど求められないので、パート・アルバイト職 員を多く雇用している。 100 円ショップの従業員に占めるパート比率は94%と非常に高い。 多くの店舗が店長以外はパート・アルバイト職員だけだ。ダイソーの場合は正社員の地 域担当者が数店に一人ということもある。 3.それぞれの会社概要と業績 (参考:各社ホームページと「徹底解剖 100 円ショップ―日常化するグローバリゼーション ―」) 企業名 ダイソー 資本金 27億円 本社所在地 東広島市 セリア キャンドゥ ワッツ 12 億 7833 30 億 28 百万 4 億 4,029 万 万円 円 円 岐阜県大垣 東京都新宿区 大阪府大阪市 単体:833 店 806 店舗 市 国内店舗数 2,680 店舗 1,067 店舗 (すべて直営) 舗 連結:833 店 舗 直営店舗数 非公表 海外店舗数 658 店舗 フランチャイズ店舗数 970 店舗 非公表 97 店舗 従業員数 10,000 名 6,202 名 3,779 名 正社員数 400 名 362 名 910 名 93 名 3,415 億円 93,634(百万 630 億 19 百 112 億円 円) 万円 売上高 6. 563 名 まとめ・感想 100円ショップが、なぜそのような価格設定で利益を上げられるのか仕組みを理解す ることができた。なかでもいかにコストを抑えるかが重要だと感じた。論文には載せら れなかったが、100円ショップが今抱えている問題、たとえば、「品揃えの限界が来 ていること」 、 「顧客の購買行動が宝探し的な衝動買いから日用品などの目的買いにシフ トしてきていること」 、 「価格以上の価値を実感してもらうための店づくり、商品づくり」 、 「取り扱い商品が似てきているので、各社の特徴をどう打ち出していくのか」、 「スーパ ーなどの100円ショップ以外の競合とどう戦うのか」 についても調査の中で資料を集めるうちに考えることができた。今回感じたのは、デー タを集めただけで安心しないで、集めた大量のデータからどこを抽出し、それを使って どう分析するのかが重要だと思った。 最後に、 3年間ご指導くださった先生をはじめ、ゼミの皆様に感謝します。 皆がいたから、私はここまでやってくることができました。
© Copyright 2024 Paperzz