株式市場における総合商社の企業価値とは?

株式市場における総合商社の企業価値とは?
日本貿易会のセミナーで、野村証券/成田康浩氏からの有益な講義があり非常に興味深か
ったものを採録させて頂き、当面の総合商社業界の内容を各社からの数字分析比較を行っ
た。
一般的な企業価値とは、自己資本、配当、CF、利益成長力があるが、証券会社では、ROE
(株主資本利益率)と PBR(株価純資産倍率)の水準でバリュエーションを評価する。総
合商社のビジネスモデルは、トレード型から投資型へ変化している。投資ファンドは預り
資産と投資リターンで見るが、総合商社を見る時には、自己資本と純利益が重要となる。
結果として ROE(=純利益÷自己資本)が重要と考える。投資ファンドとの違いがシナジ
ー効果だとすれば、「常に投資リターンは市場を上回るはず。」「投資案件のリターンは注視
される。」
しかし、経営者と投資家の認識ギャップが拡大している印象がある。「時間軸の差」「ポー
トフォリオ経営に対する問題意識」
株式市場が注目する ROE にはピークアウト感
商社の ROE や ROA は 2012 年 3 月期をピークに低下傾向があり、事業環境の悪化や格付
けが引き下げられる中、資本戦略により改善期待も低下している。またマーケット平均と
の ROE 比較でも平均を下回る状況が続いている。ROE のマーケット平均との差が縮小、
逆転する中で PBR の格差は大きく開いた状態で、バリュエーションの上昇には ROE の改
善が必要。
株式市場からみた商社:事業環境はよくない
商社各社の状況
1.近年は資源価格の下落もあって過去の投資案件での巨額の減損計上が続いている。
2.2017 年 3 月期以降は減損損失の反動はあるが商品市況の低迷もあって資源分野の利益
水準は低い。
3.企業によっては追加的な減損リスクは依然として残る。
4.非資源分野は資源分野の落ち込みを支えてきたが、トップラインは 2016 年 3 月期にピ
ークアウト。
5.円高や新興国の景気鈍化により非資源分野も事業環境が悪化
6.格付けの引き下げが続いたこともあり、各社の投資戦略は FCF の黒字化を目指す慎重
なものになっている。
7.環境悪化により資金創出力が低下する中、各社の新規投資は強みを持つ分野に絞り込
みを行っている。
8.商社業界のトピックとしては伊藤忠商事の純利益の躍進、背景が注目されている。
株式市場からみた商社:課題も多い
商社に対する株式市場の期待と課題認識
1.商社のこれまでの投資リターンに対する失望感は大きい。
2.事業環境の悪化もあって ROE の改善期待が低下しており、必然的に株主還元期待が高
まる。
3.何が過去の投資リターンが低い要因分析や対応策の発信がされていないのも不信感に
つながっている。
4.各社が強みを持つ分野に注力することで利益成長格差が広がる可能性がある。
5.住友商事や丸紅では財務体質の改善や負債の低減を最優先課題としており、利益成長
率は低下している。
6.伊藤忠商事は CITIC、CP グループとの協業で生活消費関連分野の伸張を図る。
7.三井物産は資源価格の低迷下でも既存開発案件に加えて新規案件の獲得に動く?
8.三菱商事のトレード型⇒事業投資型⇒事業経営型への移行は上手くいくか?
丸紅や住友商事の減損リスクは相対的に高い?
三菱商事
AAS 銅(チリ)
投資残高 1400 億
投資額 4000 億
減損 2667(16/3)
投資額 500 億
減損 291(16/3)
ジャックヒルズ鉄鉱石(豪州)
投資残高 200 億
住友商事
セーハアズール地区鉄鉱石(ブラジル)
投資残高 300 億
投資額 1100 億
減損 146(16/3) 623(15/3)
投資額 1200 億
減損 121(16/3) 244(15/3)
投資額 550 億
減損 181(16/3)
投資額 1020 億
減損 140(16/3)
石炭事業(豪州)
投資残高 800 億
エジェン鋼管トレード
買収価格 370 億
シエラゴルダ銅(チリ)
投資残高 900 億
アンバトビー・ニッケル(マダガスカル)
投資残高 1900 億
投資額 2700 億
減損 770(16/3)
投資額 2100 億
減損 925(16/3)
三井物産
AAS 銅(チリ)
投資残高 1100 億
Caserones 銅(チリ)
投資残高 350 億
投資額 1100 億
減損 453(16/3) 123(15/3)200(14/3)
マーセラス・シェールガスとイーグルフォード・シェールオイル
投資残高 2800 億
投資額 3880 億
減損 250(16/3) 390(15/3) 95(14/3)
丸紅
銅事業(チリ)
投資残高 1200 億 超
投資額 1700 億超 減損 360(16/3) 100(15/3)
エネルギー権益(メキシコ、北海等)
投資残高 4000 億
投資額 5200 億
減損 820(16/3) 360(15/3)
投資額 2000 億
減損 200(16/3)
ロイヒル鉄鋼山(豪州)
投資残高 1800 億
○なお、伊藤忠商事の減損はほぼ実施済みとのことで記載なし。
資源分野は各社大きく悪化
2016 年 3 月期は減損の計上もあって資源分野の利益はセクター全体では大幅な赤字となる。
2017 年 3 月期にかけても軟調な展開が見込まれ、利益水準は資源ブーム前の水準まで落ち
込む。
非資源分野にはやや陰りもみられる
2017 年 3 月期は 2016 年 3 月期の一過性の損失の反動もあり、純利益は過去最高益の更新
が続く。一方で、伊藤忠の CITIC からの利益貢献を除けば、新興諸国での自動車販売の鈍
化など陰りは見られる。
非資源分野の売上総利益に伸び悩みがみられる点は懸念材料
非資源分野の売上総利益は円安効果もあって各社増益基調が続いてきたが、2016 年 2Q 以
降伸び悩む。4Q からは円高の悪影響により、さらに軟調な展開になる。
非資源分野の売上総利益
2016 年 2Q 以降は伊藤忠や三井物産を除くと前年同期比で減益幅が拡大。三井物産はメチ
オニン市況が下落したことで 2016 年 2Q をピークに悪化傾向となる。
2016 年 3 月期末の主要国におけるカントリーリスクエクスポージャー(単位:億円)
三菱商事
リスク合計
19,198
株主資本
45,925
対株主資本比率
41.8%
国名
対株主資本比率
ネット合計
チリ
9.9%
4,562
インドネシア
6.5%
2,974
マレーシア
6.1%
2,800
ブラジル
4.7%
2,171
タイ
4.3%
1,994
中国
3.5%
1,589
フィリピン
3.0%
1,358
ロシア
1.4%
622
メキシコ
0.9%
413
インド
0.9%
400
ペルー
0.5%
219
サウジアラビア
0.2%
96
住友商事
7,911
リスク残高合計
株主資本
22,515
対株主資本比率
35.1%
国名
対株主資本比率
ネット合計
インドネシア
8.7%
1,965
中国(含香港、マカオ)
7.8%
1,758
メキシコ
5.0%
1,121
タイ
3.1%
691
マダガスカル
2.3%
527
ブラジル
1.7%
381
南アフリカ
1.3%
369
ボリビア
1.3%
301
ベトナム
1.2%
268
ロシア
1.2%
267
インド
1.0%
219
ウクライナ
0.2%
44
三井物産
リスク合計
20,339
株主資本
33,797
対株主資本比率
60.2%
国名
ブラジル
対株主資本比率
26.3%
ネット合計
8,544
チリ
8.3%
2,799
インドネシア
6.3%
2,115
マレーシア
3.8%
1,298
メキシコ
3.5%
1,189
中国
3.4%
1,152
ロシア
3.1%
1,064
タイ
2.7%
918
インド
1.7%
559
フィリピン
1.0%
334
モザンビーク
0.6%
209
ベネズエラ
0.3%
89
トルコ
0.1%
48
イラン
0.1%
21
丸紅
9,423
リスク合計
株主資本
13,171
対株主資本比率
71.5%
国名
対株主資本比率
ネット合計
25.0%
3,294
インドネシア
7.4%
979
フィリピン
7.1%
933
中国(含香港)
6.4%
843
ポルトガル
5.0%
664
カタール
5.0%
655
台湾
4.7%
616
UAE
3.1%
404
ブラジル
2.4%
320
サウジアラビア
1.6%
208
ペルー
1.3%
177
タイ
1.0%
137
韓国
0.6%
84
オマーン
0.4%
51
パプアニューギニア
0.3%
45
ジャマイカ
0.1%
13
チリ
伊藤忠商事
リスク合計
12,379
株主資本
21,937
対株主資本比率
56.4%
国名
対株主資本比率
ネット合計
38.4%
8,433
コロンビア
5.4%
1,182
フィリピン
3.7%
821
インドネシア
2.4%
518
ブラジル
2.3%
495
ベトナム
1.6%
357
南アフリカ
1.2%
270
ベネズエラ
0.8%
175
アゼルバイジャン
0.6%
128
中国
基礎営業 CF の格差は縮小傾向に
三井物産の減価償却費は相対的に大きく、基礎営業 CF が相対的に高い一因となってきた。
伊藤忠の基礎営業 CF の上位 2 社との格差が縮小している。
商社各社の中期経営計画
各社とも FCF の黒字化を図りつつ利益成長に向けた投資は強みを持つ分野に絞り込み。
株主還元は配当を中心としたものに。(取り消し線は、中期計画期間中に修正されたもの)
三菱商事
(17.3~19.3 期)
成長戦略:非資源分野への成長投資
主体的な事業経営
資源分野は資産規模を一定に保つ
利益目標:親会社株主利益
2020 年頃に非資源分野で 3500 億円
資源分野で 3000 億円(市況により変動)
ROE:
2020 年頃に 2 桁
CF 方針: キャッシュ創出額の範囲内で投資と株主還元
配当方針:17.3 期 60 円/株を下限に累進配当
増配額は柔軟に決定
住友商事
(16.3~18.3 期)
成長戦略:基本的には全部門の成長だがインフラ、金融、輸送機に注力
3 年で 1.0 兆円の新規投資と更新投資
3 年で 1.2 兆円の新規投資と更新投資
利益目標:親会社株主利益
18.3 期で 2200 億円以上
18.3 期で 3000 億円以上
ROE:
18.3 期 9%程度
18.3 期 10%程度
CF 方針: 配当後 FCF を+5000 億円(3 年合計)
配当後 FCF を黒字化(3 年合計)
配当方針:50 円/株を下限に配当性向は 25%以上
三井物産
(15.3~17.3 期)
成長戦略:7 つの攻め筋を中心に成長を目指す。
パイプラインに投資
3 年で 1.25~1.35 兆円+新規投資
3 年で 1.5 兆円+新規投資
利益目標:EBITDA で 17.3 期 5400 億円
EBITDA で 17.3 期 1 兆円
ROE:
17.3 期 5.8%
17.3 期 10~12%
CF 方針: パイプライン投資を除く FCF を還元と新規投資に配分
FCF は黒字化
配当方針:17.3 期 50 円/株
基礎営業 CF の 25%
配当性向 30%(16.3 期は、期初計画の 64 円/株を維持)
丸紅
(17.3~19.3 期)
成長戦略:穀物、インフラ、輸送機を中心に強い分野を伸ばす。
IPP やリースなど、安定収益が見込める分野に投資を集中。
3 年で 1 兆円の投資
利益目標:親会社株主利益
19.3 期 2500 億円
(うち非資源で 2300 億円)
ROE:
10%以上
CF 方針: FCF の黒字化(配当後)
配当方針:配当性向は、従来の 20%→25%以上
伊藤忠商事
(16.3~18.3 期)
成長戦略:CITIC、CP グループとの協業を中心に非資源分野での成長を図る。
利益目標:開示なしだが
親会社株主利益 4000 億円に向けた収益基盤を構築。
下限配当の方針からは年 10%程度の成長を目指す。
ROE:
ROE13%以上
CF 方針: CITIC への投資を除き継続的に FCF を年 1000 億円以上黒字
配当方針:16.3 期 50 円/株、
17.3 期 55 円/株、
18.3 期 60 円/株を下限に
2000 億円までの純利益には配当性向 20%
3000 億円以上には 30%を適用
各社業績が悪化する中でも株主還元策は積極姿勢を維持の方向
各社が増配や配当維持の方針に動いたこともあり、セクターとして還元性向が高まってい
る。17.3 期からの新中計では丸紅が配当性向を 25%に引き上げ、三菱商事も 60 円/株を下
限とする配当方針を発表。
総還元性向の推移(会社計画)
14.3 期
15.3 期
16.3 期
17.3 期予
三菱商事
25.2
43.0
-
38.0
住友商事
26.3
-
83.7
48.0
三井物産
25.5
52.8
-
44.8
丸紅
20.6
42.7
58.5
25.4
伊藤忠商事
23.4
24.3
32.9
24.8
配当利回りでは魅力
セクター平均の 17.3 期配当利回りは 4.2%程度と市場平均との比較で相対的に高い。特に住
友商事や伊藤忠商事の配当性向はセクター内でも高め。
各商社の年間配当利回りの推移
14.3 期
15.3 期
16.3 期
17.3 期予
18.3 期予
三菱商事
3.5%
3.1%
2,1%
3.5%
3.6%
住友商事
3.5%
3.9%
3.8%
5.0%
5.0%
三井物産
4.2%
4.0%
4.2%
4.2%
4.2%
丸紅
3.4%
3.1%
3.4%
3.4%
3.4%
伊藤忠商事
3.8%
3.6%
3.4%
4.6%
5.0%
以
上