土壌汚染に関わる不動産鑑定評価上の運用指針Ⅱ 平成16年10月 (社)日本不動産鑑定協会 調査研究委員会 基準検討小委員会土壌汚染対策ワーキンググループ -1- はじめに 平成14年12月に暫定的なものとして発行した「土壌汚染に関わる不動産 鑑定評価上の運用指針Ⅰ」(以下「運用指針Ⅰ」という。)は、土壌汚染を価 格形成要因から除外して鑑定評価を行う場合等を明らかにし、その際に不動産 鑑定士及び不動産鑑定士補(以下「不動産鑑定士等」という。)はどのような 調査を行うべきかについて主として扱った。 今回の「運用指針Ⅱ」は、「運用指針Ⅰ」を発行した後1年半を超える運用 実態と、昨年実施した社団法人日本不動産鑑定協会主催の「運用指針Ⅰ」に関 する研修会等で提出された数多くの質問等から明らかになった諸問題を踏まえ て、その内容を再検討し鑑定評価実務上の対応で不明瞭であった箇所を整理し たものである。 また、本運用指針Ⅱは、土壌汚染に関する調査に係る不動産鑑定士等の専門 家としての責任の範囲について、広く社会一般の理解を得ることも企図するも のである。 社団法人 日本不動産鑑定協会 調査研究委員会 基準検討小委員会 土壌汚染対策ワーキンググループ -2- 1.不動産鑑定士等による独自調査とその意義等 不動産鑑定士等は不動産の鑑定評価に当たり、評価対象となる土地につい て、運用指針Ⅰに記載した不動産鑑定士等による独自調査(以下「独自調査」 という。)を行わなければならない。なお評価対象地について、土壌汚染対策 法に基づく土壌汚染状況調査または専門機関による同等以上の土壌汚染調査 (以下「土壌汚染状況調査等」という。)が既に行われている場合はこれを活 用できるが、独自調査は別途行う。 独自調査は、鑑定評価上の土壌汚染の存否の端緒の確認を行うためのもの である。したがって、独自調査の結果により、土壌汚染の存否の端緒を確認 できなかったとしても、実際に土壌汚染が絶対的に存しないことを証明する ものではない。また、存否の端緒を確認できたとしても、土壌汚染が存する ことを証明するものではない。 以上のように独自調査の意義と、独自調査は汚染がないこと(あるいは存 すること)を証明するものではないことを、独自調査の結果及びそれに基づ く判断とともに、鑑定評価書に明記する。独自調査の内容、結果を記載した 資料等については鑑定評価書とともに保管しなければならない。 2.土壌汚染の状態の把握と鑑定評価実務上の対応 (1) 既存の土壌汚染状況調査等がある場合 ア.土壌汚染が存しないことが判明している場合 土壌汚染状況調査等により評価対象地に土壌汚染が存しないことが判明 している場合には、もともと土壌汚染が存しなかったことが同調査により 判明した場合と、土壌汚染が存したが汚染の除去等の措置により存しない 状態になった場合がある。いずれの場合も土壌汚染は価格形成要因から除 外して評価を行う。 なお、このような場合であっても、土壌汚染が存したが汚染の除去等の 措置により存しない状態になったような場合については、心理的嫌悪感等 による価格形成への影響を考慮しなければならない場合があることに留意 しなければならない。 イ.土壌汚染が存することが判明している場合 土壌汚染状況調査等により評価対象地に土壌汚染が存することが判明 している場合については、現時点では不動産鑑定士等だけで除去等の措置 -3- 費用の算定を行うことは非常に困難であり、専門機関による見積りを活用 して鑑定評価を行う。 この際、鑑定評価書に当該見積りの概要及び判定等の内容を記載しなけ ればならない。徴した見積書等は鑑定評価書の付属資料として添付すると ともに保管しなければならない(このような場合の具体的な評価の実務の 進め方について、今後、事例の収集・分析を通じて経験知を積み上げてい くことが喫緊の課題である。)。 なお、以下のような場合もありうるが、現時点ではあくまで上記の対応 が原則となる。 ① 想定上の条件を付して鑑定評価を行う場合 「土壌汚染による減価がないものとして」という想定上の条件を付 加して鑑定評価を行うことができる場合もある。ただし、基準の定め るとおり、実現性、合法性、関係当事者及び第三者の利益を害するお それがないこと、の3要件を満たす、例外的な場合に限られる。安易 に想定条件を付すことは慎まなくてはならない。 ② 合理的な推定による場合 現時点では相当困難であるが、今後土壌汚染の調査及び汚染地の鑑 定評価に係る経験が積み重ねられるにしたがい、合理的な推定により 鑑定評価を行うことが可能な場合も生じると考えられる。 (2) 既存の土壌汚染状況調査等がない場合 上記(1)以外の場合においては、専門機関による土壌汚染状況調査等がな されておらず、土壌汚染の有無についての専門家の判断は不明である。不動 産鑑定士等は、独自調査により土壌汚染の存否の端緒の有無を調査し、価格 形成要因とするか否かを判断する必要がある。 なお、抵当証券等不特定多数の投資家等に影響を及ぼすような鑑定評価の 場合には、端緒の有無に関わらず、専門機関の調査を行うべきである。 ア.土壌汚染の存否の端緒がない場合 独自調査の結果、土壌汚染の存否の端緒が確認できない場合、土壌汚染 が価格形成に大きな影響を与えることがないと判断できれば、当該事項を 価格形成要因から除外して鑑定評価を行う。 -4- その際には、価格形成要因から除外すると判断するに至った経緯、内容 を鑑定評価書に明確に記載しなければならない。 イ.土壌汚染の存否の端緒がある場合 独自調査の結果、土壌汚染の存否の端緒が確認できる場合、不動産鑑定 士等は鑑定評価の依頼者に対し、独自調査の意義と内容を説明した上で、 調査結果を報告し、専門機関による土壌汚染状況調査等を行った上で鑑定 評価を行うべきである旨を説明しなければならない。 さらに、端緒を確認した場合、不動産鑑定士等は鑑定評価の依頼目的及 び市場参加者の観点から当該要因に関する価格への影響の程度をできるか ぎり明確に把握し、評価対象地の価格形成に大きな影響を与えるか否かを 判断しなければならない。この判断について結論に至った経緯、内容を鑑 定評価書に明確に記載しなければならない。 なお、端緒があり、専門機関の調査が行われない場合、独自調査と市場 分析だけによって価格形成への影響を判断できない場合もありうるが、こ の場合は鑑定評価は行うべきではない。不動産鑑定士等のみの判断で価格 への影響が著しく小さい等判断し、鑑定評価を行う場合は、周到な独自調 査と十分な市場分析が必要なことはいうまでもない。 3.不明事項に係る取扱い及び調査の範囲の記載 既存の土壌汚染状況調査等がなく、また鑑定評価の過程で改めて専門機関 に調査の依頼ができなかった場合等、土壌汚染の有無の状況について、不動 産鑑定士等による独自調査だけをもとに価格形成への影響を判断したときに は、鑑定評価書の必須記載事項である「鑑定評価上の不明事項に係る取扱い 及び調査の範囲」としても土壌汚染状況調査等がなされていない旨及び不動 産鑑定士等が行った独自調査の範囲と内容を明確に記載しなければならない。 土壌汚染状況調査等の内容が対象土地の鑑定評価を行う上では十分でなく、 その点を独自調査を含む不動産鑑定士等の判断で補った場合等も同様である。 -5-
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