4.E型肝炎ウイルスの肥育豚への汚染経路解明を 目的とした野生動物

4.E型肝炎ウイルスの肥育豚への汚染経路解明を
目的とした野生動物のHEV保有状況調査
○沖村容子(宮城県保健環境センター
微生物部)
髙橋由理(宮城県保健環境センター
微生物部)
阿部美和(宮城県保健環境センター
微生物部)
植木
洋(宮城県保健環境センター
微生物部)
佐藤由紀(宮城県保健環境センター
微生物部)
菅原優子(宮城県保健環境センター
微生物部)
御代田恭子(宮城県保健環境センター
【目
微生物部,宮城学院女子大学非常勤講師)
的】
E型肝炎は,E型肝炎ウイルス(以下 HEV)に汚染された水や食品などの摂食により感
染・発症する急性肝炎である。E型肝炎の死亡率は同じく経口感染するA型肝炎の 10 倍と
いわれ,妊婦では 20%に達することもある。HEV はこれまでに肥育ブタなどからの検出例
は報告されていたが,近年,野生イノシシやシカ肉の喫食による集団感染事例でも確認さ
れたことから HEV が広く浸淫している可能性が推測され,食品由来感染症としても注目さ
れている。特に肥育ブタの HEV 感染経路は明らかにされておらず食の安全安心の観点から
解明が急がれる。今回我々は,肥育ブタへの HEV の汚染経路の解明を目的に,分子疫学的
手法を用いて野生動物の HEV 保有状況調査を行った。
【方
法】
調査材料
平成 20 年度は平成 20 年 11 月から 12 月にかけて,県内に生息している野生イノシシ
の肝臓 16 件と糞便 12 件および野生シカの肝臓 7 件を,平成 21 年度は平成 22 年 2 月に
野生イノシシの肝臓 14 件と野生シカの肝臓 7 件を採取した。検体は,検査開始時まで
-80℃で保存した。なお,野生イノシシは県南部で野生シカは県東部で捕獲し,解体時に
臓器を採取した。野生イノシシの糞便は県南部の山野で採取した。
検査法
予め直径 0.2mm のステンレスビーズ 2 個を入れたチューブに野生イノシシまたは野生
シカの肝臓,約 0.1gを切り出して入れ 10 倍量の蒸留水を加えた。細胞破砕機で
4,500rpm 1 分処理し臓器を破砕後,10,000rpm 10 分遠心した上清をウイルス抽出液と
した。糞便については同様に蒸留水を用いて 10%乳剤を作成後,10,000rpm 10 分遠心
した上清をウイルス RNA 抽出液とした。ウイルス遺伝子の抽出は QIAamp Viral RNA Mini
Kit (QIAGEN)を用いて行った。HEV 遺伝子の検出は,国立感染症研究所の武田らのE
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型肝炎検査マニュアルに準じて行った。すなわち,ウイルスの構造タンパクをコードし
ている ORF2 の一部の領域を増幅するために設計された HEV-F1,HEV-R2 を 1st PCR
用プライマーとして用い,HEV-F2 と HEV-R1 を Nested PCR 用プライマーとした。PCR
によって得られた増幅産物をアガロースゲルで電気泳動後,エチジウムブロマイドで染
色し紫外線照射下で増幅産物の有無を確認した。なお,増幅産物が確認された場合は,
ABI310 で増幅産物の塩基配列を決定し,ClustalX でアライメントし,NJ 法で系統解析を
実施した。
【結果及び考察】
表 1 に今回の調査結果を示す。平成 20 年度と同 21 年度に採取した野生イノシシの肝臓
合計 30 件と平成 20 年度に採取した野生イノシシの糞便 12 件および平成 20 年度と平成 21
年度に採取した野生シカの肝臓合計 14 件からは,RT-PCR 法で HEV 遺伝子は検出されな
かった。しかし,我が国では平成 15 年 4 月の兵庫県において野生シカ肉の生食を原因とす
る HEV による食中毒事例が発生し,平成 17 年 3 月には福岡県で野生イノシシ肉を喫食し
た 11 名中 1 名がE型肝炎を発症し,ウイルス遺伝子検査でイノシシ肉との因果関係が確認
された事例も報告されている。一方,我々はこれまでに県内の肥育ブタを対象に 2 回にわ
たり HEV の浸淫状況調査を実施した。平成 17 年度に行った調査では,と畜検査時に肉眼
所見で肝臓に病変が認められたブタ 30 頭を対象に,HEV 遺伝子の検出を今回と同じ
RT-PCR 法で行ったが遺伝子は検出されなかった。さらに平成 18 年 8 月から平成 20 年 1
月に行った調査では,県内養豚場 46 農場の肥育ブタ 230 頭(各農場 5 頭ずつ)を対象とし
同じ方法で検査を行った結果,調査対象の 46 農場中 3 農場(6.5%),肥育ブタ 230 頭中
3 頭(1.3%)から HEV 遺伝子が検出されており,分子疫学的解析の結果,遺伝子型はす
べて日本土着型であるⅢ型であった。このように今回の調査では HEV 遺伝子は確認されな
かったが,過去に行った調査では HEV 遺伝子が検出されており県内にも HEV が浸淫して
いることが明らかになっている。
近年県内では野生シカやイノシシによる農作物被害が多発しており,大きな問題となっ
ている。ヒトの生活圏へ野生シカや野生イノシシが入ってくることにより人獣共通感染症
に感染する機会が増えることが懸念される。今回の調査では野生シカと野生イノシシの肝
臓からは HEV 遺伝子が検出されなかったが,今後も継続した調査が必要である。さらに,
農場内でのブタからブタへの HEV の感染においても汚染経路を特定し,感染予防策を講ず
ることが急務と考える。
本研究を行うにあたり多大なご協力をいただきました,宮城県食肉衛生検査所長
壽郎氏に心から感謝いたします。
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谷津
表1.HEV 遺伝子検査結果
検体数
検体
平成20年度
平成21年度
HEV遺伝子検出数 陽性率(%)
肝臓
16
14
0
0
糞便
12
0
0
0
肝臓
7
7
0
0
野生イノシシ
野生シカ
【経費使途明細】
抽出キット(キアゲン QIAamp Viral RNA Mini Kit
増幅キット(キアゲン One Step RT-PCR Kit
50 回×2 箱)
100 回×1 箱)
遺伝子解析用キット(ABI Big Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit
50,400 円
55,650 円
107,100 円
100 反応×1箱)
泳動用アガロース(ニッポンジーン
ローディングバッファー(タカラ
100g×1 個)
10 倍液
1ml×10 本入り×1 箱)
11,529 円
9,555 円
PCR チューブ(BM 0.2ml 用ミックス 100 個×10 包×1 箱)
6,300 円
スタンダードチップ(クオリティ 110 1000 本×3 箱)
4,221 円
マイクロピペットチップ(ART 1000μl 100 本×8 包×3 箱)
マイクロピペットチップ(ART 20μl
27,720 円
96 本×10 包×1 箱)
8,526 円
マイクロピペットチップ(ART 10μl 96 本×10 包×2 箱)
19,194 円
合計
300,195 円
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