動物による健康効果 May 2012 Vol.39

May 2012 Vol.39
動物による健康効果
病院長 渡辺 泰章
“ 動物と暮らすことは人の健康にとっ
てとても良い ”と言われていることは、
皆さんはよくご存じのことかと思います。
これは海外で研究、発表されたことです
が、私たちは共に暮らしている動物と触
れ合っていることによって、実感できて
いることだと思います。このメカニズム
は、人の自律神経(自己の意思でコント
ロールできない神経系です)には交感神
経と副交感神経があり、副交感神経側が
活性化することによって、交感神経の逆
作用として気分がリラックスした状態と
なり、消化が活発になったり、心拍や血
AMCーNYの院長(友人) Dr.Phill Foxと共に
(ニューヨークセントラルパークにて)
圧が安定し、血中の中性脂肪などが下が
るという効果がでるのです。
毎年多額の税金が医療費に費やされ、それが年々増加している現実と、日本の高齢化社会が
訪れていることは明らかです。そこで高齢者が動物を飼うことによって、副交感神経の活性化
によって病気予防や病気の回復にも役立ち、高齢者が健康的に長寿生活を送ることができる、
ということがはっきりしている事から、国はもっと積極的に動物の飼育に対する補助をするべ
きだと考えます。
よく高齢者の方から、“ 動物は飼いたいのだが、自分が先立ってしまったら困る ”という話
を伺いますが、私自身の経験からは、それは本当に稀なケースであること、逆に動物との別れ
によって、飼い主が自分の生涯を閉じてしまうケースの方がより多いのです。また、万一のケー
スにおいても、社会がその動物を受け入れるシステムを造る事が必要であります。私自身もこ
れからの仕事の一つとして、この分野に力を注いでいきたいと考えております。
来る8月 24(金)∼ 26 日 ( 日 ) 千葉県幕張メッセにて『interpets ∼人とペットの豊か
な暮らしフェア』で「人に与える動物の効用」について催しがございますので、宜しければぜ
ひご参加ください。私も8月 26 日 ( 日 ) 参加して参ります。
高齢猫の二大疾患
センター病院 院長 中村 睦
最近では獣医療の進歩などにより猫の
寿命は非常に伸びています。一般的に 7
才齢を過ぎるころから生活習慣病が進み
始め、10 才齢からは高齢期に入ります。
高齢猫における代表的な疾患に慢性腎
不全と甲状腺機能亢進症があります。
慢性腎不全は、腎臓の組織の障害が進
行し、慢性的な腎臓機能の低下を引き起
こす疾患のことです。10 才齢以上の猫
の約 8%、15 才齢以上の猫の約 15%
で発生すると言われています。腎臓に発
生する病気や腎臓機能を悪化させる原因
は様々ありますが、多くが加齢と深い関連性があるとされます。症状は飲水量や尿量の増加、
食欲・元気低下や体重減少、嘔吐などを認め、さらに慢性化すると高血圧症(慢性腎不全をも
つ猫の 2/3 に認められる)や貧血を引き起こすこともあります。一般的に腎臓機能の 70%
以上の障害がないと症状も出ないことから、高齢期では定期的な血圧測定や血液検査、尿検査
などを受け、腎不全を患っているかどうかを調べることが必要と思われます。腎臓に引き起こ
された傷害は元の状態には戻せませんが、慢性腎不全は適切な治療によって何年もの間、良好
な生活の質を維持することができます。
甲状腺機能亢進症は甲状腺ホルモン(様々な代謝に関わるホルモン)の過剰分泌が引き起こ
す疾患で、高齢猫にもっとも多い内分泌障害です。甲状腺ホルモンの分泌過剰には甲状腺の過
形成や腫瘍の発生が関わることが多いですが、その根本原因は分かっていません。しかし加齢
や食餌内容(ヨウ素の含量)などが危険因子と言われています。症状は過食、行動の変化(活
発さの亢進、攻撃性の増加など)、体重減少、多飲多尿などが認められます。さらに、この疾
患は高血圧症や心臓病、腎不全の悪化を引き起こすことがあります。診断には特徴的な臨床症
状に加え、血液中の甲状腺ホルモンを測定することが必要です。治療には主に抗甲状腺薬を使
用し、ホルモンの過剰分泌を抑制するようにします。
高齢猫においては慢性腎不全、甲状腺機能亢進症の両方の疾患を患っていることも少なくあ
りません。早期診断が可能な疾患なので、最低年 1 回、出来れば年 2 回の定期的なヘルスドッ
クを受けられることをお勧め致します。
猫の癌について
動物癌センター長 野口 美加
今回はネコちゃんの腫瘍学についてお話さ
せて頂きます。
近年ネコを取り巻く環境の改善や、医学の
進歩などにより高齢化が進んできております。
それに伴って癌のケースも非常に増えてきて
おります。一言で癌といっても様々な種類が
あり、その種類によって発生部位や症状、治
療法、予後等が異なります。ですから、ヒト
と同様にきちんと診断をつける事が重要であ
り、きちんと診断がつくことによって、癌と
共存していける可能性も高くなってきます。
ネコで特に多い癌の種類としては、リンパ
腫です。この病気は複数の臓器や器官で発症
するため症状も様々で、他の動物と異なり1
歳以下の若齢のネコでも高齢のネコでも発生
するという癌です。この癌はイヌでも発生しますがタイプが異なり、イヌで多くあるのは下顎
や脇などの体表のリンパ節が侵されてボコボコに腫大するタイプですが、ネコでは殆ど無く、
最も多いと言われているのが消化器型リンパ腫と言われるタイプです。また、ネコの場合は猫
白血病ウイルスや猫エイズウイルスの感染により6倍のリスクがあると言われていますが、イ
ヌではウイルスの関与はありません。また、これは共通して言えることですが、家庭でのたば
この煙は 3.2 倍のリスクと言われています。そしてこの癌は唯一、化学療法に反応する可能
性がある種類です。
次にネコに多い癌としては扁平上皮癌です。この癌は主に口腔内や頭部に発生し、骨にまで
浸潤する悪性度の高い癌です。特に口の中のタイプでは大きくなって発見される事が多いので、
場所がら完全に摘出する事が難しいのですが、最初の症状としては食事中の違和感や、飲水に
血が混じるといった症状がありますので、この初期の段階で気がつけば、手術で完全切除出来
る可能性もあります。また、定期的な歯科検診も有効です。
勿論悪性度も高いので再発、転移のリスクも高いのですが、外科的切除が出来れば、長期で
の生活の質が十分維持できる癌の一つです。
イヌとネコで悪性度が違う腫瘍の一つに肥満細胞腫があります。内臓にできたタイプでは両
者とも悪性ですが、
皮膚にできたタイプであればネコでは良性で、
イヌでは悪性の癌となります。
また、悪性癌である骨肉腫は、イヌでは特に悪性度が高いのですが、ネコでは手術で完全切除
ができれば再発や転移の可能性が非常に低いと言われています。このようにイヌとネコでは全
く違う形態をとる癌もあります。
現在では医学の進歩がめまぐるしく日々変化しておりますので、癌という敵がしっかり把握
でき、治療できれば、心疾患や腎疾患などと同様な慢性疾患とあまり変わらないようにも考え
ております。今後とも、
皆様に信頼できる世界水準の情報と、
私達の基本信念であるコンフォー
トケアー(愛情のある医療)を提供できますよう、なお一層の努力を致して参ります。
猫の投薬の方法
重症患者看護センター長 山本 美咲
病気を治したり緩和したりするため
には、殆どの場合、内服薬の服用が必
要です。薬を飲むということは私たち
人間にとっても厄介なもので、時間や
飲み合わせ等の色々なルールを守るこ
とや、決して好ましいとは言えない味
に頭を悩ませることがあります。動物
の場合は、薬の必要性を理解して自分
で飲むことはできないため、病気を治
す・緩和するためには何とか飲んでも
らえるような工夫や努力をしてあげな
ければなりません。
薬には色々な種類があり、その形状も様々で錠剤・液体・粉末・カプセル等に分かれますが、
与え方は大きく分けると二通りです。1つは直接口に投与する方法で、もう1つは何かしら食
べ物と一緒に ( 混ぜて ) 自分で食べさせる方法です。
口やその周辺に痛みや何か問題がある場合、若しくはひどく怯える・怒る等で性格上どうし
ても口を開けることができない場合に後者の方法をとりますが、この時に使用する食べ物は、
主食以外が好ましいです。ネコでは特にそうですが、薬に気付いて食事自体受け付けなくなる
ことが多いためです。投薬用の補助食品や人間が食べる物の中で匂いの強いもの等、ご相談時
には具体的な提案もしております。
口を開けて直接投与する方法では、固形物を飲ませた後には必ずスポイト等で水を飲ませ
ることが重要です。これは食道に入ったものをしっかりと流し込むために必要なことで、実際
に海外では数匹のネコでの報告がありますが、カプセル入りのある種の薬を水無しでそのまま
与えたところ、3 ∼ 9 日後に嚥下困難や吐出・喉の詰まりなど症状をみせるようになり、内
視鏡検査で食道炎や食道狭窄を確認したというものです。こういった薬物誘発性食道障害を防
ぐためにも、正しい投薬方法で与えることが大切なのです。
自宅で治療をするということは、ネコだけでなく他の動物にとっても大変望ましいことで、
リラックスできる環境では治療効果も上がります。より良い自宅ケアができますよう、少しで
もお力になれたらと思います。投薬がうまくいかない方は、実際にモデルの犬猫で投薬練習を
無料でトレーニング体験できますので、投薬に関するご相談がございましたらいつでも声をお
かけ下さい。
呼吸困難の猫
獣医師 久我 美保子
なかには家と外の出入りの自由な猫達も
いますが、最近の都会では100%室内生
活という暮らしぶりの猫達も増えてきてい
ます。また猫は、犬のように飼い主さんと
一緒に散歩や運動をして自ら呼吸器に負担
をかける機会もほとんどありません。比較
的徐々に悪化する呼吸器病をその猫が持っ
ていても、マイペースにさらにゆっくりの
んびりと生活することで呼吸器に負担を掛
けまいとして症状を隠してしまい飼い主さ
んの目が誤魔化されてしまうことも多いよ
うです。また呼吸器の病気であっても猫は
あまり咳をしませんし、余程でない限り口
をあけて辛そうに呼吸(開口呼吸)をする
こともめったにありません。いよいよ切迫した呼吸困難になると元気や食欲がなくなることは
もちろんですが、猫は横に寝転ぶことは辛くなり、いわゆる犬座姿勢(犬のお座りの姿勢)や
祈りの姿勢(前足を立ててうずくまった伏せの姿勢)で首をのばし、開口呼吸や早い複式呼吸
を繰り返し、じっと動かなくなります。そして多くの飼い主さんが「この子の息すごく辛そう
」と気がついた時は、その猫の呼吸器病はかなり深刻になっている可能性があります。
このように呼吸困難に陥っている猫達が病院へ連れてこられた場合は、第一に私たち病院の
スタッフはなるべくストレスのない方法で迅速に酸素療法を開始します。また呼吸困難に陥っ
ている猫は、とにかく呼吸が辛く不安になっていることが多いので大概の場合、抗不安薬を投
与して落ち着かせてあげます。
猫の呼吸困難を引き起こす病因は様々です。呼吸による空気の流れ(気道)は、まず鼻や口
の中から始まり、次に喉の辺りの気管、そしてその奧の気管支や肺をめぐります。呼吸困難は
これら気道のどこかに病気や外傷が発生することや、胸腔(肋骨に囲まれて肺が膨らむ空間)
に何らかの液体が貯留(胸水・血胸・膿胸・乳び胸等)し、肺が膨らまないことが原因として
多いです。気道の病気では、鼻道や咽頭喉頭の炎症や腫瘍、猫の喘息や気管支肺炎や肺の腫瘍、
また心不全による肺水腫等があります。また呼吸困難になる程の胸腔内液体貯留は、病気の原
因追求と治療のために針を使って抜いてあげないと呼吸は楽になりません。
もし猫の呼吸が変だなと気が付いた時は、なるべく早く動物病院にお連れください。酸素療
法で呼吸状態を安定化させながら、注意深い診察や迅速な検査と診断で治療を開始して、呼吸
困難の猫の息を早く楽にしてあげられるようこれからも努めて参ります。
上部気道の病気
獣医師 武田 絢子
健康な動物は皆、空気を鼻孔から取り込み、
「鼻
腔」
、呼吸器と消化器が交差する「咽頭」
、気管の
入り口であり発声を担う「喉頭」
、リング状の軟骨
でできた細い管である「気管」を通り、肺で酸素
と二酸化炭素の交換し、逆の経路をたどり体外に
排泄するという、“ 呼吸 ”を行っています。この
通り道の事を「呼吸器」
、
特に鼻孔∼気管までを「上
部気道」と言います。この部分に疾患が生じると、
深く、遅い、空気を吸う時 ( 吸気 ) に力が入る呼
吸になり、喘鳴音と呼ばれるような雑音が聞かれ
る事もあります。
上部気道の疾患として最も多いのはリンパ腫等
の腫瘍であり、他にも鼻咽頭ポリープや鼻咽頭狭窄・慢性副鼻腔炎等の炎症性、細菌・ウィルス・
真菌の感染症、嘔吐物が鼻咽頭に残る事による異物、歯根膿瘍等の歯牙疾患、先天性等があり、
中でも真菌の感染症は、最近日本でも認められており注意が必要な疾患です。
猫に感染する真菌には土壌に存在するアスペルギルスやハトの糞や腐敗植物に存在するクリ
プトコッカス、また珍しいものとして感染猫との接触でヒトにも感染するスポロトリクム等が
あります。これらは、真菌胞子を吸引したり、皮膚の傷から侵入したりする事で感染し、さら
に血液を介し多臓器に感染が波及するものもあります。症状としては鼻汁やくしゃみ、鼻出血
だけではなく、同時に皮膚病変や鼻腔から眼窩と呼ばれる眼球の奥の部分等に感染が波及し、
肉芽腫ができ、眼球の突出が認められたり、視神経を介して神経症状が認められたりします。
上部気道の疾患の診断には、眼底の検査を含めた身体一般検査や、血液中の真菌や抗体を検
出する検査、さらには麻酔をかけた状態での口腔チェック・頭部レントゲン検査・鼻腔内の内
視鏡検査、特に CT は有効な検査の一つで、場合によっては鼻腔内の一部組織を摘出し病理検
査を行う必要があります。
猫は犬と異なり、飼い主とともに運動をしない為呼吸困難の症状に気づかない場合も多くあ
ります。皮膚の脱毛や眼球の突出等、一見呼吸器の疾患とは思えない症状も、命にかかわる疾
患が隠れている可能性がありますので、普段から猫の様子を観察し、何か不安な事がありまし
たらお早めにご相談ください。
猫の糖尿病
獣医師 中谷 早希
糖尿病にはⅠ型糖尿病とⅡ型糖尿病の2種類が
あります。
Ⅰ型糖尿病は犬で見られる疾患ですが、
原因の多くはインスリンを分泌している膵臓のβ
細胞が自己の免疫反応により破壊されてしまう事
です。猫の糖尿病の多くは人と類似しており、Ⅱ
型糖尿病といわれています。
Ⅱ型糖尿病の特徴は、
インスリンの感受性低下(抵抗性)と分泌能の低
下を原因とし、肥満や食事などの生活管理が大き
なリスク要因となっています。
猫は本来肉食獣ですので、食事中の炭水化物よ
りも蛋白質をもとに必要とする血糖を維持しています。ですから、過剰な炭水化物の摂取に代
謝的に対応していないのです。その為、食事療法として高蛋白低炭水化物の食事、もしくは高
繊維の食事で肥満を管理する事が重要となります。
更にインスリン抵抗性を引き起こしている内分泌疾患として、副腎皮質機能亢進症がありま
す。実際、この疾患の猫の約 80% で糖尿病を併発しています。副腎皮質からは異化作用(糖
や蛋白質、脂肪の代謝)に関わるコルチゾールという重要なホルモンが分泌されています。副
腎皮質機能亢進症に罹患した猫では、異化作用が亢進し、糖代謝が盛んになり体内で糖が合成
される為、インスリンに対する抵抗性が高まるというわけです。また、同じく異化作用に関わ
るホルモンである成長ホルモンの過剰分泌の結果生じる先端巨大症や、猫の内分泌疾患で最も
多い甲状腺機能亢進症もインスリン抵抗性の一要因とされています。
糖尿病の治療にはこれら併発疾患の治療も同時に行う必要があります。またインスリン抵抗
性の鑑別には、実際に毎日治療を行うご家族による正確な手技、体重や飲水量・尿糖のモニター
なども有用で、まさに飼主の協力なくしては治療が困難となってしまう疾患です。まずは、予
防の為、適切な食事内容・回数・量による日々の生活管理を行う事が非常に重要ですが、もし
治療が必要となった際には、自宅ケアでの不安やちょっとした症状の変化などいつでも病院に
ご相談下さい。
和田 育子
クラブ統合のお知らせ
今月よりクラブ AMC はクラブ VCJ と統合されました。いずれの会員様にも同じ特典
がご利用頂けます。
CAPP活動
当院では、
人と動物との絆を大切にしたふれあい活動、
コンパニオンアニマルパートナー
シッププログラムを、川崎市のライフコミューン武蔵小杉にて定期的に行っております。
参加ご希望の方は、どうぞスタッフまでお問合せください。
輸血治療が必要な動物の為の、
献血のご協力を宜しくお願い致します。
献血ボランティア猫
レ オ君 1歳♂
キンバ君 1歳♂
生まれた時から毎日ずっと一緒の仲良
し兄弟です。
6月は虫歯月間:動物の歯の健康に、より留意して頂きたく、6月を虫歯月間とし、6月は歯科治療
を特別料金にてお受け頂けます。詳しくはスタッフまでお問合わせ下さい。