分光学的および動的光散乱による Acacia(sen)SUPER GUM TM の特性

Foods Food Ingredients J. Jpn., Vol. 211, No.3, 2006
分光学的および動的光散乱による Acacia(sen)SUPER GUMTM の特性解析
Steve W. Cui
a)
Qi Wang
a)
Glyn O. Phillips
b,c)
Barbara Blackwell
d)
John Nikiforuk
d)
a) Food Research Program, Agriculture and Agri-Food Canada
Guelph, ON, Canada
b) Glyn O. Phillips Hydrocolloid Research Centre, North East Wales Institute
Plas Coch Campus, Mold Road, Wrexham, LL11 2AW, UK
c) Phillips Hydrocolloid Research Ltd.
45 Old Bond Street, London W1S 4AQ, UK
d) East Cereal and Oilseed Research Centre, Agriculture and Agri-Food Canada
Ottawa, ON, Canada
要旨
Acacia(sen)SUPER GUMTM は一般的に市販されているアラビアガムを原料とし、それを熟成すること
によって作られる。GPC-MALLS(ゲルろ過クロマトグラフィー-多角度光散乱)分析から、アラビアガ
ム中のタンパク質画分が、熟成の過程で高分子化することが示された。市販アラビアガムの品質が変
動することはよく知られており、食品製造業者に広く受け入れられない原因になっている。アラビア
ガムの品質はアカシアの樹齢やアフリカのサハラベルト地帯における生育場所、土壌の地理的条件の
違いなどによっても異なる。本研究の目的は、アラビアガムを熟成する過程で起こり得る物理的およ
び化学的変化を、核磁気共鳴分析(13C NMR)、フーリエ変換赤外分光分析(FT-IR)、および動的光散乱
(DLS)により検討することである。
研究のための共通試料である Acacia senegal ガム(対照)およびそれを熟成させた試料(FR-2877、
FR-2878、FR-2879、SUPER GUMTM EM1、および SUPER GUMTM EM2)を、NMR、FT-IR、および DLS から解析
した。13C NMR および 2 次元 NMR(COSY)では、いずれの試料間にも化学的相違は認められなかった。1H
NMR も同様の結果であったが、熟成によって平均分子量が 2.5×106 を超える程度にまで増加した試料
では、ウロン酸中のカルボキシル基の脱水に起因すると考えられる変化が観察された。商業用の熟成
試料(SUPER GUMTM E1 および EM2)では顕著な変化はみられなかった。
動的光散乱により、熟成試料は分子サイズが非常に不均一であることがわかった。非常に希薄な溶
液では、粒子径の異なる 2 つの画分に区別することができ、それぞれの粒子径(~20nm と~70nm)は
コントロール(EMO)および SUPER GUMTM 試料(EM1 および EM2)でほぼ同一であった。全粒子に占める
大粒子画分の割合は EMO<EM1<EM2 の順で高く、これは分子量の増加と対応した。アラビアガム濃度
の増加に従って、これら 2 つの粒子画分はそれぞれが独立して凝集体を形成するようであり、これに
Foods Food Ingredients J. Jpn., Vol. 211, No.3, 2006
より新たな 2 つの粒子画分を生じた。熟成処理は大粒子画分の粒子径を有意に増加させた。熟成処理
は分子量を増加させるだけでなく、粒子が凝集しやすくなるように表面の性質を改変することが示唆
された。
試料と実験方法
試料
FR-2876(コントロール)および FR-2877、FR-2878、FR2879(SUPER GUMTM)。これらの分子特性を表
1 にまとめた。表 1 には全体の平均分子量と 2 種類の主成分、すなわちアラビノガラクタン(AG)およ
びアラビノガラクタンータンパク複合体(AGP)画分の平均分子量が記載されている。
測定機器
1H および 13C13C NMR(核磁気共鳴分析):Bruker AMX 500 FT
FT-IR(フーリエ変換赤外分光分析):DIGILAB FTS7000
FT-IR
DLS(動的光散乱):Brookhaven BI-200SM ゴニオメーター、
BI-9000AT オートコリレーター(自己相関器)
、BI-APD フォ
トマルチプライヤー(光増倍管)
結果および考察
13
C NMR スペクトル
全ての試料において、13C NMR のデータは Sims ら(2003 年)のデータと一致していた。13C NMR ス
ペクトルは、コントロール(FR-2876)と 3 種類のスーパーガム(FR-2877, FR-2878, FR-2879)でほ
とんど差がなかった(図 1)。
1
H NMR スペクトル
4.5~4.8 ppm の部分のわずかな相違を除き、コントロール(FR-2876)と 3 種類のスーパーガム
(FR-2877, FR-2878, FR-2879)でほとんど差がなかった(図 3)。 FR-2879 において、コントロール
より小さくなったピークを矢印で示している。この 4.6~4.7ppm のピークはβ-D-GlcpA とβ-D-Galp
の H-1 に帰属されている。このことは、熟成による変化はポリマーの側鎖で起きており、主鎖には変
化がないことを示している。また、1H NMR スペクトル測定は 13C NMR スペクトル測定よりも高感度で
多糖類の構造を決定できることを示している。
2D NMR スペクトル(COSY)
COSY スペクトルはコントロール(FR-2876)と 3 種類のスーパーガム(FR-2877, FR-2878, FR-2879)
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でほとんど差がなかった(図 4)。 COSY スペクトルから単糖環の結合が確認できる。
この方法は、スーパーガムの共鳴シグナルの帰属に非常に有効な方法であると思われる。しかしなが
ら、本研究では全てのシグナルを完全に帰属することは試みていない。
FT-IR スペクトル
コン卜ロール(FR-2876)と 3 種のスーパーガム(FR-2877,FR-2878, FR-2879)の FTIR スペクトル
を図 5 に、吸収ピークの帰属を表 3 に示す。800~1200cm-1 の領域は Acacia senegal サンプルに独特
なフィンガープリント領域である(図 5b)。
全ての試料でスペクトルはよく似ており(図 5a,b)コントロールと FR-2877 および FR-2878 には差
がなかった。 しかし、FR-2879 において、わずかなスぺクトルの差異が 600cm-1 付近にみられた(図
5b)。更に、FR-2878 と FR-2879 では 1630~1600cm-1 のピーク(COO-非対称伸縮)の両側にいくつかの
ノイズが見られた(図 5a)。このことは、β-D-GlcpA の COOH 基にわずかな構造変化が起こっている可
能性を示しており、これは NMR の結果とも一致する。
動的光散乱(DLS)測定
NNLS 法と二指数モデルを用いて動的光散乱データを解析すると、スーパーガムはコントロールと同
様に、分子サイズの分布が非常に広いことがわかった。コン卜ロールのアラビアガム(EMO)では、平
均動的水和半径が~20nm と 73nm の 2 つの分子グループから構成されることがわかった。2 グルーブ全
体の平均動的水和半径は 40nm だった。
2 種類のスーパーガム(EM1 および EM2)で、熟成処理により平均動的水和半径加増大した。超希薄
溶液(0.4mg/ml 以下)において、EMO と同様に 2 つの分子サイズ分布が確認された(図 7)。しかし、
大きな動的水和半径を有するグループの相対含有量(表 4)は EMO<EM1<EM2 であり、この順序は熟成
処理による分子量の増加と一致していた。ポリマー濃度が増加(O.1-5.3mg/ml)すると、サイズの小
さなグループの動的水和半径がわずかに増加した。一方、サイズの大きなグループの平均分子サイズ
は 73nm から~170nm へと著しく増加した。つまり、熟成処理はサイズの大きなグループの分子サイズ
を顕著に上昇させることが分かった。サイズの小さいグループの平均動的水和半径は EM1 と EM2 でほ
とんど差がないが、サイズの大きなグループの平均動的水和半径は EM2 の方が大きく、それが EM2 の
全休の粒子サイズを増加させている原因であった。