1.委 託 事 業 名 : 2.委託事業者名: 中山間地での滞在型観光商品の開発 (井川地域へのノルディックウォーキングツアー) 委託団体:GymstickJapan 株式会社 連携団体:静岡市井川観光協会 連携大学:静岡県立大学 経営情報学部 助教 国保祥子 3.研究成果概要: ①研究の概要と目的 本事業の対象地域である井川地区は、静岡市中心市街地から約 60km の大井川源流域オクシズに位 置し、井川ダムを懐に南アルプス連峰や大日峠、井川峠などに囲まれた自然豊かな地域である。当地域 は、在住人口の減少(1960 年 5,574 人現在は 631 人)などの問題を抱える典型的な中山間地である。 本産学共同研究委託事業では、フィンランドのナショナルトレーニングセンターを母体とする Gymstick Intenational Oy.の総販売代理店としてヨーロッパ型の健康増進プログラム導入と器具の販売を主たる事業 としている GymstickJapan 株式会社が主体となり、井川地区がヨーロッパアルプス南方のイタリア・ドロミテ地 区と立地類似性が高いことに着目し、彼地で普及しているノルディックウォーキングを利用した観光ツアーを 企画することで井川地区における地域課題の解決策を提案することを目指した。 ドロミテ地区は世界自然遺産に登録され、その自然景観は多くの登山愛好家を魅了し多くの登山客を誘 致しており、ドロミテ山麓地域をカバーするノルディックウォーキング専用コースガイドブックには、距離、高低 差、景観のバラエティ溢れた 56 のコースが写真とともに掲載されている。 ノルディックウォーキングは近年ヨーロッパを中心に 1000 万人以上の広がりを見せ地域の健康課題の解 消や高齢化対策、エリアコミニケーションの醸成ばかりでなく観光地への導入が進み交流人口拡大に寄与 している。ノルディックウォーキングは、他のスポーツと比べてプレイヤー同士のコミュニケーションが取りや すいため、地域住民と観光客の交流が生まれやすい。そのためノルディックウォーキングを取り入れたツア ー商品の開発によって、地域の活性化と交流人口の拡大が実現できるのではないかと考えた。 また、本事業では、共同研究連携大学である静岡県立大学経営情報学部国保祥子助教に専門家の立場 から、観光商品の開発がどのように中山間地の活性化に繋がるのか、どのような観光商品にすることでより 効果的に活性化が実現できるのか、に関する調査と提言を行って頂いた。また事業の前提となる地域活性 化課題に対して、「島根県海士町の事例」を参考に地域に欠落する世代の大学生に訪問してもらい地元住 民(老若男女)に与える影響や彼らからの井川に対する反応やアイデアなどを聞き取り、将来の方向を探る こととした。 ②事業の成果 事業終了時点の本事業の具体的な成果は次の通り。 ・大学生を対象とした全 4 回のモニターツアーを実施、のべ 20 名が参加。 ・住民及び県内外大学生を対象にしたノルディックウォーキング体験機会を延 8 回実施、計 100 名弱が 参加した(含リバウエル井川での開催実績) ・12 月に住民を対象にした指導者養成講習会を実施、「県民の森」「白樺荘」「オートキャンプ場」「民 宿」関係者ら 8 名が参加した。 ・当該地域で 21 名がノルディックウォーキング用ポールを購入、日常的にノルディックウォーキングを実 施している ・現在、指導者養成講習会参加事業主体が、合計 30 セットのノルディックウォーキング用ポールの購入 を検討している。 ・井川地区では毎年 11 月に「井川もみじマラソン」が開催されている(本年度は台風の影響で中止)が、 来年度以降は「井川もみじノルディックウォーキングイベント」も検討されている。 11 月に開催されたノルディックウォーキング講習会 ③研究機関の果たした役割と研究成果 静岡県立大学経営情報学部の国保祥子助教は、GymstickJapan 株式会社が委託された「中山間地 での滞在型観光商品の開発(井川地区のノルディックウォーキングツアーの商品化)」の研究にあたり、 本開発商品の事業機会の調査を担当した。具体的には、全 4 回のモニターツアーを実施し、どのような 滞在型観光商品向けの要素が井川地区に存在するのかを確認した。 本委託研究の目的及び内容は、「静岡市の中山間地を活性化するために、中山間地を訪れる動機と なる戦略的な取り組みを行い、滞在型観光客の増加を目指す新たな魅力ある観光商品を開発する」で ある。組織マネジメントを専門とする国保助教は、この目的に沿って、観光商品の開発がどのように静岡 市の中山間地の活性化に繋がるのか、どのような観光商品にすることでより効果的に活性化が実現で きるのか、に関する調査と提言を行った。 滞在型観光商品の企画において、どのような年代層をそのターゲット顧客として設定するかは意見が分 かれた。井川地区をはじめとする中山間地は少子高齢化が進んでいることから、井川に欠落している若 い世代(10 代後半~20 代)が井川地区に足を運ぶきっかけとしての商品を企画した方がいいのではな いかと考え、今回は事業の趣旨を鑑みて「中山間地の活性化」を主目的に据え、中山間地域が活性し やすい若い世代に足を運んでもらうために戦略的な観光商品を行うこととした。 結論として、ノルディックウォーキングツアーの商品化にはまだ多くの課題が残される。しかし井川地区に おいてノルディックウォーキングのツアー客を受け入れるための下地づくりは進んでいること、また滞在型 観光商品の開発が当該地域にとってプラスの影響をもたらす可能性があること、の 2 点が確認された 左から井川湖渡船 中学3年生、参加者顔合わせ、下段左井川大仏祭り、絵本の郷、民宿ふるさと ④期待できる地域への波及効果 研究の結果、上述の通りノルディックウォーキングツアーの商品化にあたっては、まだ多くの課題が残さ れる。しかし井川地区においてノルディックウォーキングのツアー客を受け入れるための下地づくりは進ん でいること、また滞在型観光商品の開発が当該地域にとってプラスの影響をもたらす可能性があることが 確認された。 本年度の取り組みを通じて、井川地区の地元住民にノルディックウォークはかなり浸透しており、ノルディ ックウォークを目玉にした観光商品開発の素地はできたといえるだろう。しかし一方で、観光商品として地 域外から人を呼ぶためには、環境整備が必要である。具体的には、①コース整備、②ガイド兼インストラク ター養成、③輸送手段の整備、そして④広報という課題がある。まず本年度の訪問で確認された立地条 件や風景といった差別化要因を観光客にアピールできるコース整備を行う必要がある。同時に、コースを ただ歩くだけではなく、ノルディックウォークで歩きながら井川の歴史や観光スポットを紹介してくれるガイド 兼インストラクターを育成し、地元の人とのふれあいという思い出を持ってもらってリピートにつなげることと、 地元に雇用機会を生むことが期待できる。SL やアプト式列車は魅力だが、公共交通機関を使って井川 地区に入ってしまうと現地での移動の足が無く非常に不便なので、観光タクシー等の移動の足を提供す る必要がある。本年度のモニターツアーを通じて一貫して聞かれた意見が、いったん訪れてみると良さが よくわかるが、訪問前に認知できるような明確な目玉がないということであった。地域外から観光客を誘致 するためには、観光の目玉となる何かを設定して広報するか、あるいは目玉に頼らない地道な口コミマー ケティングを行うかが必要となる。なお今回のモニターツアーを通じて口コミが効果的であること、定期的 にツアーを開催すること(次回の訪問機会が予測可能であること)が重要であるということが確認できた。 もう 1 つは教育効果である。大学の中にいると少子高齢化といった社会問題を教科書以外で感じること は少ないが、今回現場を訪れたことで、例えば高齢化が進むと力仕事が出来る人が少なくて困るのだ、と いうリアルな感覚を得られたようである。今の学生は頼りにされることが嬉しいようで、12 月の訪問のように 何か具体的な仕事を頼むと張り切ってやってくれる。また商業的にしつらえられた観光地に慣れているの で、地域の風習や人間関係に入り込むという経験が却って新鮮で楽しいと感じるようである。一方で、少 子高齢化の進む井川地区には義務教育以上の教育機関がなく、中学を卒業すると皆村を出て、都市部 で寮生活をしながら高校に通う。そして地区内には雇用がないことから、卒業後も都市部に留まらざるを 得ないケースが多く、結果として地区内には 20 代 30 代の世代が極めて少ない。65 歳以上(高齢者比 率)が 54.8%と過半数であるのに対して、40 歳未満はわずか 15.7%(2010 年度)である。ロールモデルが 身近にいないことから、中学生たちは「自分の 10 年後 20 年後がイメージできない」と語っている。そういっ た若い世代のロールモデルを外から補完することで井川の若年層に対する教育効果が見込めること、ま た中高年層にとっても若い世代と接点を持つことで今までにない視点に気付けたり、新たなチャレンジに 対する意欲がわいてきたりという効果が見込めることが確認できた。 ⑤まとめ このように学生と井川住民の交流に関するニーズが高いこと、ノルディックウォーキングを中心にした観光 ツアー商品の可能性が存在することは確認できた。 また、地域に欠落する若い世代の学生たちが訪問することも相互の教育的観点も含め地域活性化に有効 であることが確認できた。 今後のノルディックウォーキングの観光商品化への課題は①コース整備、②ガイド兼インストラクター養成、 ③輸送手段の整備、④広報の 4 点を含めた環境整備である。 地域を活性化する学生たちを呼び込む為の課題は、きっかけ作りと価格弾力性である。学生たちは行き たい気持ちと時間があるかもしれないが、社会人に比べて可処分所得が少ないため、継続的な交流機会 を作るためには、何らかの形で支援する必要がある。 以上 *今回の取組みを通じた大きな財産は、活動に参加して頂いた方々の井川地域の潜在価値に対する気 づきやノルディックウォーキングという新しい習慣が浸透しつつあることなど、変化の兆しのである意識変容と 行動変容の一助となれたことです。 ご協力、ご支援いただいた方々に深く感謝しています。
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