第27号 発行|2011年11月 2011年度

日本比較政治学会ニューズレター 第27号 2011年11月
日本比較政治学会
ニューズレター
Japan Association for Comparative Politics
*2011年度研究大会報告
*企画委員会から
*2010年度決算
*2011年度予算
*2011年度総会報告
No. 27 November 2011
*理事会報告
*先端研究の現場から (5)
*共同研究のフロンティア (5)
*会員の異動
*事務局からのお知らせ
2011年度研究大会報告
2011年6月18日(土)・19日(日)に、第14回研究大会が北海道大学において開催されました。
セッションは共通論題のほか、分科会が5、自由企画が6、自由論題が6となり、参加者が200名を
超える盛会となりました。各セッションの企画担当者ないし参加者の方に報告・議論の要旨をま
とめて頂きましたので、以下に掲載致します。
第1日
6月18日(土)
午後1:30~3:30
古賀会員は、戦後オーストリア自由党の中
で、党首ハイダーが党組織にしばられず、自
由党の政策位置を自由に動かせるようになっ
たのはなぜかという問いに政党間関係から答
えた。すなわち、ハイダーは政権参加の可能
性を放棄し、既成政党を標的にポピュリスト
的言辞を駆使してクライエンテリズムを享受
できない/できなくなった有権者を獲得し、
選挙で勝利した。そうして、人事で子飼いの
人物を重要ポストにつけ、党内基盤を固めた
のである。
作内は、従来大衆政党として分類されてき
た戦間期カトリック政党の多様な組織変容を
政党間関係から説明した。第一次世界大戦ま
でほとんど組織を持たなかったカトリック政
党は、大戦直前には多様な組織に改革されて
いたが、それは選挙で対立する諸勢力との競
合関係と、政府レベルで中道に位置するカト
リック政党の他の与党との関係とから説明で
きる。
以上の報告に対して、
討論者の網谷会員は、
政党組織研究の意義を確認した上で、その意
義が個別の研究にどのように反映されうるの
かという観点から、全体・各報告者に質問を
行った。特に、党規約が持つ制約要因と、当
初の意図を超えた新たな党内権力構造とまで
踏み込んだ記述の必要が指摘された。その後、
政治学的道具立てとして政党組織研究が持つ
射程が議論された。(作内由子)
◆自由企画1「政党間関係と政党の組織変容」
司会・討論:網谷龍介(津田塾大学)
報告:安武裕和(名古屋大学・院)
「スウェー
デン型保守主義の形成過程―院外
政党主導の統合戦略―」
作内由子(東京大学・院)
「戦間期オラ
ンダにおけるカトリック政党の政党
組織変容―柱状化時代の政党間関
係―」
古賀光生(立教大学)
「政党支持流動期
における「リーンな組織」のインパ
クト―ハイダーのオーストリア自由
党の組織(再)編成の意義について
―」
本企画では、西ヨーロッパの政党組織変容
について、社会構造から導かれる単線的な発
展論ではなく、その多様な変化を政党間関係
の視点から説明しようと試みた。
安武会員は、第一次世界大戦前のスウェー
デンで保守主義政党が自由主義政党と対立し
組織化した過程を描いた。この組織化は選挙
対策にとどまらず、理想とする国家像の衝突
の一環でもあった。すなわち、自由主義政党
の志向するイギリス型の階級対立的な二大政
党制に抗して、保守主義政党は国民的な政治
体制を志向し、分権的で多様な利益を包摂す
る議会外政党組織を作り上げたのであった。
1
日本比較政治学会ニューズレター 第27号 2011年11月
◆自由企画2 東南アジアコーカス「現代東南
アジアにおける政治安定と経済危機」
―」
中村文子(東北大学)
「ジェンダー・イ
ッシューをめぐる地域ガヴァナン
スの可能性―規範企業家としての
EUとASEANのトラフィッキングに
対する地域的対策を比較して―」
マスロー セバスティアン(東北大学・
院)
「東アジアと欧州の地域主義に
おける国内政治要因―地域国家と
しての日本とドイツの比較―」
討論:勝間田弘(早稲田大学)
司会:中西嘉宏(アジア経済研究所)
報告:岡本正明(京都大学)
「ポスト・スハル
ト期の安定化の政治」
玉田芳史(京都大学)
「タイ式民主主義
の限界と不安定化」
鈴木絢女(福岡女子大学)
「マレーシア:
一党優位体制下の秩序と安定」
討論:片山裕(神戸大学)
この企画は、
東南アジアからインドネシア、
マレーシア、タイの3カ国を選び、ここ15年ほ
どの間に生じた政治体制の変動・動揺を把握
し、それが1997年のアジア通貨危機の影響を
どのように受けていたのかを比較検討するこ
とを狙っていた。経済危機が波及した地域の
うちで、最も甚大な政治的打撃を受けたイン
ドネシアについて、岡本報告は、体制どころ
か国家の崩壊すら懸念される状況から抜けだ
して安定を回復し、民主化も進めた鍵が、細
分化の政治と均衡の政治にあることを明らか
にした。それは自治体の細分化と、首長選挙
における正・副首長候補が異なる民族・宗教・
地域から選ばれることによって、軋轢が顕著
に緩和されたことを指している。アジア通貨
危機の震源地のタイでは、政治は当初は1997
年憲法の可決や地方分権の加速といった影響
を受けたにとどまり、打撃が尐なかった。し
かし、10年ほど後になって政治が大混乱に陥
った理由を、玉田報告は、王制に政治への介
入を許容してきたタイ式民主主義が、政治の
民主化に伴って破綻を来しつつあることに求
めた。マレーシアでは、危機への対応をめぐ
る政権内部の激しい対立が、強力な野党の出
現を促し、州レベルでの政権交代をもたらし
た。鈴木報告は、同国の政治体制が動揺しな
がらも堅持される理由として、選挙をはじめ
とする既存のゲームのルールを守り続ける誘
因が、与党のみならず野党にも共有されてい
ることを明らかにした。討論者の片山会員は
個別報告への的確なコメントを行い、3報告に
共通して経済生活やビジネスへの配慮が不足
していると指摘した。30名あまりの来聴者を
得た会場からは、川中会員、戸田会員、池内
会員、宮城会員、戸澤会員、恵木会員、浅見
会員らから、
外国投資、
地方分権、軍隊、ASEAN、
王室、大衆運動などいった点について質問が
出され、活発な討論が行われた。(玉田芳史)
◆自由企画4「東アジアとヨーロッパのリー
ジョナリズムと公共空間」
司会:山本啓(山梨学院大学)
報告:山本啓「ヨーロッパと東アジアのリー
ジョナル・ガバナンスの枠組み―公
共圏の構築という課題とその可能性
2
本セッションでは、ヨーロッパと東アジア
のリージョナリズムの相関性をめぐって三つ
の報告が行われ、それぞれにコメントがつけ
られた。山本啓報告では、EUが閉じたリージ
ョナリズムにもとづいてトランスナショナル
なガバナンス政体を実現しているがいまだ「ガ
バナンスの赤字」が解消されていないこと、上
方分権化と下方分権化による機能的な波及と
OMCによるダウンロード、アップロード双方
向の政策ネットワークを形成していること、
ボーダーフルな「市民的公共圏」の形成からボ
ーダーレスな「市民的公共圏」の形成への転換
がトランスナショナルな「ヨーロッパ公共圏」
とその「市民」(demoi)を形成していくべき
ことが強調された。だが、東アジアでは、EU
を理念としながらも、むしろセカンド・ベス
トとして、経済的なリンケージによる「開かれ
たリージョナリズム」を志向していく必要があ
ることがきわだたせられた。
中村文子報告では、EUのDaphneプログラム
による人身売買の取り組みを事例として、EU
というアンブレラの下での規範普及にはリー
ジョナル・アドボカシー・ネットワーク(RAN)
の形成による内面化が必要であり、トランス
ナショナルな市民社会の育成とデモクラティ
ック・ガバナンスの向上による「民主主義の赤
字」の解消をめざすべきであることが強調され
た。
セバスティアン・マスロー報告では、1997
年のアジア通貨危機と2010年の欧州ソブリン
危機を事例として、ヨーロッパ、東アジアの
両方において、グローバル化による金融リス
クや脆弱化を回避していく「規制的地域主義」
(regulative regionalism)の形成が必要である
こと、外的な危機によって政治的アクターの
連携編成が変化し、オープン・モメントが与
えられることで新たな政策アイディアが生ま
れること、危機によって新たなリージョナリ
ズムの形成が促されるが、その軌道は中心国
家の指導的な役割に規定されることが強調さ
れた。
勝間田弘コメントでは、EUとASEANでは、
トランスナショナル政体と加盟国との関係が
まったく逆の関係になっていること、ASEAN
の場合には加盟国の下にASEANがあるため政
体としての権威づけが問題になること、
自律、
力能、知識/情報に着目しつつリージョンの比
日本比較政治学会ニューズレター 第27号 2011年11月
較研究を促進していく必要があることが強調
された。
(山本啓)
した政府の対応により実現したのであった。
これらの報告に対して、討論者の小川会員
は福祉政治研究における「説明対象」と「説
明要因」の切り分けの必要性と困難性を指摘
し、田中会員はそれぞれの報告に対して「家
族政策の定義」、「家族政策を説明する変数」、
「家族政策における経路依存性」を明確化す
るよう求める討論を行った。報告や討論を通
じて、
「家族政策」の理解が深まり、研究対象
としての面白さを再認識させる有意義なパネ
ルとなった。(稗田健志)
◆自由企画6「家族政策の比較政治学」
司会:近藤康史(筑波大学)
報告:稗田健志(早稲田大学)
「政党競争空間
の再編成と保育政策―先進工業十
八カ国における家族向け公的現物給
付支出の計量分析―」
千田航(北海道大学・院)
「家族政策に
おける子育て支援と両立支援―フラ
ンスの乳幼児受け入れ給付をめぐっ
て―」
福島都茂子(関西大学)
「人口減尐問題
とフランスの家族手当制度の発展過
程(1932-38年)―社会保障から国
家安全保障へ」
討論:小川有美(立教大学)
田中拓道(一橋大学)
◆自由論題1「米ロ・核大国における政治参
加の変容」
司会:塩川伸明(東京大学)
報告:宮田智之(東京大学・院)
「アメリカに
おける公共政策研究機関の現状とそ
の要因―「学生不在の大学」型シン
クタンクの停滞―」
油本真理(東京大学・院)
「現代ロシア
における政党と選挙民動員メカニ
ズム―市場経済移行下の「社会契
約」に着目して―」
石川葉菜(東京大学・院)
「監視のため
の政治参加―アメリカにおける社
会保障政策転換期の分析―」
討論:上野俊彦(上智大学)
庄司香(学習院大学)
本企画では、分析手法を異にする三つの報
告を通じて、比較政治学において「家族政策」
を研究する意義を探った。まず、稗田会員の
報告は、保育政策を「新しい社会的リスク」
向け社会政策の典型として捉え、それの近年
の変化に政治的党派性が影響しているのかど
うかを探った。二次元政党競争空間での配置
から政党の保育政策に対する政策選好を導出
し、時系列国家間比較データの計量分析によ
って仮説を検証するものであったが、分析結
果から左派リバタリアン政権と左派権威主義
政権とでは公的保育支出の変化に与える影響
が異なっていることを明らかにし、脱工業社
会化の下での政党システムの変容を福祉国家
再編の議論に結びつけて分析する必要性を主
張した。
千田会員の報告は、フランス家族政策を事
例に、家族政策の持つ「子育て支援」と「仕
事と家庭の両立支援」という両方の機能を析
出した。また、フランスで2004年から実施さ
れている「乳幼児受け入れ給付」の分析を通
じて、多様な女性のライフスタイルの選択を
支援しながらも、仕事と家庭の両立に向けて
模索するフランス家族手当の現状を明らかに
した。
福島会員の報告は、現在にまで至る戦後フ
ランス家族手当制度の基礎を作った1930年代
の二つの立法を取り上げ、
「人口減尐問題」へ
の対処という側面を共有しながらも、この二
つの法規の成立要因が大きく異なることを明
らかにした。1932年の立法は「社会保障」拡
充の一環として家族手当を初めて国家制度化
した法規であるが、実はこの32年法のあとに
フランス家族政策はしばらく停滞する。その
後の充実した家族手当の実現にむしろより重
要な役割を果たした「38年デクレ」は、人口
減尐を「国家安全保障」上の危機として認識
自由論題1では、アメリカとロシアにおける
広義の「政治参加の変容」を扱った。まず、
宮田智之会員(東京大学)から、
「アメリカに
おける非イデオロギー系シンクタンクの「停
滞」
」と題して報告があり、1970年代からイデ
オロギー系シンクタンクが急増する一方、非
イデオロギー系のそれは伸びていない状況に
あり、資金源やネットワークの観点から、そ
の背景要因が検討された。次いで、油本真理
会員(東京大学・院)の報告、
「現代ロシア政
治における政党と選挙民動員メカニズム―市
場経済移行下の「社会契約」に着目して―」
では、2001年に結成された巨大与党によって
特徴づけられるロシア政治を「統一ロシア」
体制と名付け、その成立理由の解明が試みら
れた。具体的には、ウリヤノスク州における
地方行政府選挙マシーンが有権者の動員に果
たした役割の検討が中心である。3つ目の報告
は石川葉菜会員(東京大学・院)による「政
治参加と政治的帰結との間についての実証分
析―アメリカにおける社会保障政策転換期を
事例として―」である。貧困者の「政治参加
のパラドックス」
(政治的資源が乏しく、政治
による富の再配分が必要にもかかわらず、政
治参加の程度が低い)について、各州の貧困
家庭一時扶助(TANF)政策を対象として、州
間比較、時系列比較により計量的な検証が試
みられた。
3
日本比較政治学会ニューズレター 第27号 2011年11月
これらの報告は当初より相互の関連性を持
って企画されたわけではないが、専門とする
地域を越えた討論は新しい視角をもたらした。
上野俊彦会員(上智大学)から、ロシアにお
いては「イデオロギー」という言葉にはセン
シティブな響きがあること、貧困層の投票率
が高いことなど、興味深い違いが指摘された。
庄司香会員(学習院大学)からは、ロシアに
おける巨大与党の成立過程だけではなく、オ
ルタナティブが生まれない状況の不自然さを
解明する必要性が指摘された。フロアからも
多数のコメントが寄せられ、
「かつては考えら
れない組み合わせ」のセッションではあった
が、盛況の内に終えることができた。
(上神貴
佳)
イ)について、その援助パターンを提示した。
また、その背景を国内・国際要因を組み合わ
せて説明し、各国の行動の多様性と変化を明
確化した。
これらの報告について杉浦功一会員がコメ
ントをし、因果関係の実証的分析が十分か、
諸概念の関係が適切かなどを問い質した。フ
ロアからは、小野耕二会員が民主化支援を形
式的にではなく実態的に把握する必要を指摘
し、加茂具樹会員が民主主義支援の概念につ
いて質問するなどした。会場には20数名の熱
心な参加者があり、刺激的な質疑応答が交わ
された。
(大矢根聡)
6月18日(土)
午後4:00~6:00
◆自由論題2「民主化支援と外部アクター」
◆分科会A「資源外交の比較政治」
司会:大矢根聡(同志社大学)
報告:市原麻衣子(ジョージワシントン大学・
院)「民主主義支援と日本―公共概
念の影響―」
近藤久洋(東京国際大学)「「新興ドナ
ー」の多様性と起源」
坂部有佳子(早稲田大学・院)
「民主化
及び国家建設への取り組みと政治
的係争の発生」
討論:杉浦功一(和洋女子大学)
司会:池内恵(東京大学)
報告:山田真樹夫(オクスフォード大学・院)
“Solving the Oxymoron: Resource
Diplomacy of Resource-Exporting
State”
白鳥潤一郎(慶應義塾大学・院)
「資源
外交の構図―第一次石油危機前後
の日本を中心に―」
鈴木一人(北海道大学)
「欧州の「資源
外交」は成立するのか?―地域統
合と資源外交の戦略的矛盾―」
このセッションの報告は、開発や民主化、
内戦終了後の安定をめざす発展途上国につい
て、途上国政府の能力や、外部アクターとし
ての日本や新興ドナーがどのように関与し、
影響を及ぼしているのか検討した。報告は、
それぞれに新鮮な問題設定と分析方法を備え
ていた。まず、坂部有佳子会員の報告「民主
化および国家建設への取り組みと政治的係争
の発生」は、先行研究を丹念に検討した上で、
内戦終了後の国内秩序に関して、政治的暴力
を暴動とゲリラ戦、政府危機、革命行為に細
分化し、それらに対して国家の行政能力と軍
事力、それを補完する外部アクターの財政支
援と強制型ミッションなどがいかに作用した
のか、生存時間分析によって説得的に検証し
た。その結果、政治的暴力の形態毎に政府の
抑制効果が意外に異なっていることを示した。
市原麻衣子会員の報告「民主主義支援と日本
―公共概念の影響―」は、日本による民主主
義支援が途上国の国家セクターを対象とし、
市民社会セクターを支援していない点に着目
し、その要因を考察した。市原会員はインタ
ビューと参与観察によって、日本では途上国
の規範を尊重する傾向があると指摘し、公共
ガバナンスの概念分析によって、日本の公共
圏概念が政府志向的であると論じた。近藤久
洋会員は、報告「新興ドナーの多様性と起源」
において、従来の援助慣行を阻害しがちだと
される新興ドナー(中国とインド、韓国、タ
「資源外交」という、日本ではかなり人口
に膾炙しながら、概念も射程も明確にされて
いるとは言えない対象に、比較政治学によっ
てアプローチする第一歩を模索するパネルと
なった。まず山田報告では、資源外交の分析
概念の整理が中心となったが、資源輸入国を
対象とするのではなく、あえてペルシア湾岸
産油国の資源輸出国を対象に、資源輸出国に
関しても資源外交という分析視角を適用する
ことが可能かという問いかけに答えるものと
なった。通常の資源輸入国による資源外交を
「国家の資源へのアクセスとエネルギー安全
保障を高めることを意図した外交活動」とす
る定義を参照し、山田は資源輸出国の側にも
輸入国との相互依存関係から、概ねこの定義
を援用できる外交が行われており、その際に
は「需要の安全保障」という概念を導入する
ことで有効に分析ができると提案した。日本
のペルシア湾岸産油国へのエネルギー供給の
依存は広く知られているが、逆にペルシア湾
岸産油国からも中国・韓国を含むアジアの需
要への依存があることが指摘された。白鳥報
告では、日本の資源外交を(1)資源開発、
(2)消費国間協調、
(3)南北問題の三層構
造として把握する視点を示したうえで、各層
の間の連関を検討していった。そこから、第1
次石油ショック前後の日本の資源外交におい
4
日本比較政治学会ニューズレター 第27号 2011年11月
て最も重視されていたのは消費国間協調であ
り、資源開発と南北問題への取り組みはそれ
と矛盾しない範囲で進められたと結論づけら
れた。鈴木報告では、EUの共通の資源外交の
試みを、主要な政策文書を網羅的に検討して
浮かび上がらせた。加盟国のエネルギー政策
の差異が極めて大きいことや、重点を措かれ
る「資源」が時代によって大きく移り変わる
ことから、実効性や安定性に限界があるもの
の、通商や規制の分野でのルール作りを資源
供給国と行うことを中心にEUとしての資源外
交とみなせる対象が存在している点が示され
た。会場からは、1975年の6カ国サミット等、
日本が加わった先進国間外交の枠組みの成立
時点におけるエネルギー問題の重要性や、経
由国を分析の対象に組み入れる必要性の指摘
など、活発にコメントが寄せられ、資源外交
というテーマと各報告論文への高い関心が認
められたが、比較の基準をより明確にして分
析を進める必要性も指摘され、パネルの構成
と議論の収斂に課題を残した。
(池内恵)
奈川大学など)から、
「対決と妥協の境界線:
1975年憲政危機を教訓とするオーストラリア
の尐数政権運営モデル」と題する報告があっ
た。国政レベルにおける尐数政権の出現と無
所属議員との個別議案連合は新しい現象であ
るが、90年代以降、州レベルにおいて同様の
事例が増えていること、与党が過半数の議席
を得られない上院の存在が憲政の危機をもた
らし、その再来を回避するべく実践が積み重
ねられてきたことなど、ウェストミンスター・
モデルとして捉えられがちな同国の政治を別
の側面から描き出した。
討論の空井護会員(北海道大学)からは、
ウェストミンスター・モデルによる権力の民
主的な統制について、その意義を強調するコ
メントが提出され、政権形成、政策追求、得
票の最大化、これらを相互に関連する政党間
競争と捉えることの重要性が指摘された。報
告者からのリプライを経て、盛況の内にセッ
ションを終えることができた。
(上神貴佳)
◆分科会C「権威主義体制存続のメカニズム」
◆分科会B「二大政党と尐数政党の組み合わ
せによる政権運営―英独豪の比較検討―」
司会:川中豪(アジア経済研究所)
報告:大串敦(大阪経済法科大学)
「支配政党
統制の限界か?―統一ロシア党によ
る猟官制の分析―」
浜中新吾(山形大学)
「ハイブリッド型
権威主義体制における与党支持構
造―エジプト・シリアの比較分析
―」
鷲田任邦(慶應義塾大学)
「優位政党の
生存と資源配分の政治学」
討論:中村正志(アジア経済研究所)
司会:上神貴佳(高知大学)
報告:高安健将(成蹊大学)
「保守・自民連立
政権と動揺するウェストミンスタ
ー・システム」
安井宏樹(神戸大学)
「ドイツにおける
大政党と小政党による政権運営」
杉田弘也(神奈川大学)
「対決と妥協の
境界線:1975年憲政危機を教訓と
するオーストラリアの尐数政権運
営モデル」
討論:空井護(北海道大学)
本分科会では、民主化の第三の波のあとに
残った権威主義的な体制において、どのよう
なメカニズムに基づいて支配体制が維持され
ているのかを明らかにしようとするものであ
った。特に優位政党の役割に注目し、その政
府の公的資源の分配、地方政治家のコントロ
ールなどを、異なる地域、異なる方法で検証
する、という形で報告が進められた。
大串報告は、ロシアを取り上げ、事例を詳
細に検証するなかで、パトロネージ型の優位
政党が抱える統制強化と集票能力の低下とい
うトレードオフの問題を提示した。ロシアの
統一ロシア党は、従来、地方で有力な政治基
盤を持つ地方知事を取り込むことにより、地
方支配の強化を確保してきたが、2009年の地
方知事任命方式の変更により、政党による有
力知事の排除が進み、支配政党の統制が強化
されながらも、地方での勢力基盤の侵食が進
むという問題を抱えた。
浜中報告は、これまで頑強な権威主義体制
として議論されてきた中東の政治体制を取り
上げ、特に、それが崩れ去ったエジプトと、
依然として強固な支配体制を維持しているシ
分科会Bでは、タイトルにあるような連立政
権の構成を経験している英独豪の比較検討を
試みた。まず、高安健将会員(成蹊大学)か
ら、
「保守・自民連立政権と動揺するウェスト
ミンスター・モデル」と題して、2010年総選
挙の結果、長らく単独政権を続けてきたイギ
リスにおいて連立政権が誕生したことの意味
を広い視点から捉え直す試みが報告された。
二大政党制が空洞化し、有権者の信頼をつな
ぎ止めることが困難になってきたことを背景
として、選挙制度や上院の改革など、従来か
らの逸脱とも考えられる国家構造の変革が進
行しているとの重要な知見が示された。次い
で、安井宏樹会員(神戸大学)から、
「ドイツ
における大政党と小政党による政権運営」と
題して、
「小連立」の形成と運営をもたらした
制度的要因やジュニア・パートナーとなる政
党の交渉力に関して報告があった。後者につ
いては、交渉において競合する他の小政党の
有無により、その影響力は変動するとの興味
深い指摘がされた。最後に、杉田弘也会員(神
5
日本比較政治学会ニューズレター 第27号 2011年11月
リアを比較し、中東における優位政党崩壊の
条件を探った。世論調査に基づく計量的な検
証から、エジプトはムバラク政権崩壊以前か
ら、すでに大衆からの支持を調達する構造が
崩れており、体制崩壊に進む民衆の示威行動
の発生はタイミングの問題であったことを示
した。
鷲田報告は、優位政党体制を観察すること
が出来る国々を、計量的な手法を使って比較
することで、優位政党体制を支える条件を探
った。そこで提示されたのは、優位政党によ
る公的資源の集票効果を左右する条件として、
経済水準、経済格差、集票を行う競争環境な
どが重要な意味を持つことであった。
さらに、
権威主義のみならず、民主主義体制における
優位政党の問題までも射程に議論が組み立て
られた。
討論の中村会員からは、三つの報告が権威
主義体制の理論的な流れのなかでどのような
位置にあるかについて解説と確認がなされ、
フロアからも、民主主義体制における事例を
含め、優位政党を議論することの意味につい
て、コメント、質問が提起された。
(川中豪)
を取り締まる検察制度の独立性を高める改革
が進んだことを説明した。政治腐敗の取り締
まりを望む国民の期待を背負って誕生した民
進党政権であるが、民主化後に分割政府が常
態化した台湾の政治構造の下、検察制度の改
革は難航を極めた。政党政治の力学を巧みに
利用した改革派検察官が「法院組織法」改正
を実現に導いたことが明らかにされた。
最後に箕輪報告は、メキシコの地方レベル
の治安対策に焦点を当てて、民主主義の「質」
の1つの要素である「応答性」の決定要因を
分析した。治安対策の「成果」と「政策の策
定」の2つの指標を用いて、首都メキシコ市、
ハリスコ州、ヌエボ・レオン州を比較考察し
た結果、与党への支持が安定している首都メ
キシコ市とハリスコ州においては政府の応答
性は低い一方、政党支持が流動的なヌエボ・
レオン州では応答性が高くなることが示され
た。
モデルや分析枠組みの精緻化、台湾の検察
制度の制度改革を支持する政治家の動機や制
度の経路依存性、メキシコの治安対策に対す
る国民の認識や応答性の向上を試みる政治家
の動機等について、フロアを交えて活発な議
論が展開された。
(高橋百合子)
◆分科会D「政権交代とその政治的帰結」
司会・討論:高橋百合子(神戸大学)
報告:濱本真輔(日本学術振興会)
「政権交代
の団体-政党関係への影響―日本
の事例―」
松本充豊(天理大学)
「分割政府下の政
党政治と検察制度の独立性―台湾
における政権交代と政治腐敗問題
に関する一考察―」
箕輪茂(上智大学)
「民主化と政府の応
答性:メキシコにおける地方政府
の治安対策」
◆分科会E「ナショナル・アイデンティティ
への新たなアプローチ」
司会・討論:成廣孝(岡山大学)
報告:田辺俊介(東京大学)
「ナショナル・ア
イデンティティと政治意識の関連構
造の国際比較―政党支持と政治的
右派・左派との関連に着目して―」
中井遼(早稲田大学・院/日本学術振
興会)
・東島雅昌(ミシガン州立大
学・院)
「新興民主主義国における
ナショナル・アイデンティティの
変化―選挙と政党システムによる
効果―」
三上了(JICA研究所)
「自己正当化され
たエスニック・ボーティングの起
源─アフリカ4カ国における政治
意識調査から─」
討論:木村幹(神戸大学)
本企画では、長期にわたる一党支配体制か
らの政権交代後、どのような政治的変化がみ
られたのかについて、日本、台湾、メキシコ
の事例に関する3つの報告が行われた。
濱本報告は、2009年の民主党政権への政権
交代の前後で、団体-政党関係がどのように
変化したのかを考察した。国際比較および時
系列比較の結果、政権交代前、自民党が団体
と接触する頻度は他党を大きく引き離してい
たこと、そして補助金斡旋や行政上の便宜を
期待する団体は自民党と接触する傾向がみら
れたこと、しかし、行政へのアクセスや情報
源等は野党と接触する団体にも平等に与えら
れていたことが示された。政権交代後は、民
主党が団体と接触するルートに変化がみられ、
また民主党支持が強い地域で、利益団体は中
立化(民主党と自民党に同じ行動を)する傾
向が示された。
松本報告は、
「黒金政治」が浸透する台湾に
おいては、政権交代を契機として、政治腐敗
本分科会では、計量的手法を用いてLarge-N
の分析を行っている研究者に、ナショナル・
アイデンティティに関連する形で自由に問題
を設定して報告してもらった。先進国、中東
欧を中心の新興民主主義国、アフリカと報告
の対象は分かれたが、各々が国際比較データ
を用い単独で比較政治学を展開した。個別地
域の個別事例が並ぶセッションの多い比較政
治学会においてはそれ自体価値のある試みだ
ったと思われる。田辺報告は日韓独3カ国国民
のナショナル・アイデンティティの構造およ
び、政党支持との連関をみるものであった。3
6
日本比較政治学会ニューズレター 第27号 2011年11月
カ国におけるナショナル・アイデンティティ
のあり方の共通性と相違があきらかにされる
とともに、政党支持との関連においても興味
深い指摘がなされた。中井・東島報告では、
サーヴェイ実施時期と国政選挙までの時間と
いう従来あまり使用されなかった変数を用い
て、ナショナリスト政党の働きかけによって
選挙が近づくほどナショナル・アイデンティ
ティが強化され、その効果は選挙ナショナリ
スト政党の議席規模に応じて拡大するという
ことが明らかにされた。三上報告ではアフリ
カを対象に実施されたサーヴェイデータを用
い、民族意識の強化をもたらす社会心理学研
究等における代表的先行仮説について検証す
るものであった。民族を基準にして投票する
という意思表明を従属変数として使用するな
ど、デリケートな操作を要する問題について
最大限ケアしようという努力が印象的であっ
た。いずれの報告も皮相な計量的テクニック
に淫することなく、データが持つ限界やバイ
アスに自覚的であろうとし、かつ実質理論的
にレリヴァントな研究を追求しようという誠
実な学問的努力の賜物であった。討論では木
村会員から、記述的方法を中心とする研究と
の協働の必要など総括的な問題が指摘された。
筆者は比較政治学における計量的方法の意味
や限界についての一般的な問題のほか、操作
化の方法や内生性の問題など技術的な細部に
ついてコメントした。フロアからもいくつか
質問やコメントが寄せられ、活発な応答が行
われた。
(成廣孝)
第2日
6月19日(日)
様々な政治体制を生み出していること、しか
しながら常にアフリカにおける民主主義の優
等生とされるボツワナにおいても、レヴィツ
キィらが分類するように「競争型権威主義」
の一類型にとどまることを質的な分析を通じ
て示した。久保会員は、民主主義の質を「選
挙によって選出された公職者が権力を行使す
る際に受ける抑制・監視の程度」と定義し、
1989年以降の体制転換によって民主化し
たバルカン諸国は、フリーダムハウスによっ
て「選挙民主主義」と位置づけられてはいる
ものの、そこで樹立されている体制は民主主
義の質という点で低いといわざるを得ないこ
とを、セルビアを事例にして示した。曽我会
員は、フォーマルモデルと計量分析による多
国間比較をおこない、民主制と官僚制の間に
は、為政者と市民双方の利害が絡み合う結果
として双方向の影響があり、両者の関係は単
純な線形ではなく、経済発展や政府規模を条
件とする微細な関係となっていることを示し
た。民主主義の程度と官僚制の質は関係はあ
るが、前者が改善すれば後者も改善すること
もあれば、
そうならないこともあるのである。
討論者の網谷会員からは、民主政と善き統
治の関係、政治体制を連続的に理解すべきか
どうか、質に関する測定の難しさに加え、社
会経済的パフォーマンスの重要性が指摘され、
恒川会員からは、報告者に対する個々の質問
に加え、量的研究と質的研究の双方が重要で
あること、
「質」の判断には価値判断が入らざ
るを得ないことを研究設計上どうクリアする
かという難問がある点の指摘がなされた。民
主主義の質を正面に据えておこなったセッシ
ョンであったが、質を議論する課題の多さが
明らかになると同時に、選出者である有権者
と被選出者である政治家の関係以外に、裁判
所や官僚制、選挙管理委員会などの非選出機
関が果たす役割の重要性がこのセッションで
浮き彫りになったと考えられる。(大西裕)
午前10:00~12:00
◆共通論題「現代民主主義の再検討」
司会:大西裕(神戸大学)
報告:遠藤貢(東京大学)
「アフリカにおける
「民主化」経験の再検討」
久保慶一(早稲田大学)
「ポスト共産主
義国における民主主義の質―バル
カンの事例を中心に―」
曽我謙悟(神戸大学)
「官僚制と民主主
義―計量分析による多数国比較を
通じて―」
討論:網谷龍介(津田塾大学)
恒川惠市(政策研究大学院大学)
6月19日(日)
午後2:00~4:00
◆自由企画3「新しい社会的リスクへの対応
―比較の中の日本―」
司会:小林良彰(慶応義塾大学)
報告:辻由希(立命館大学)
「ケアの社会化を
めぐる二つの政治過程―日本型福祉
レジームの再編における<家族>像
の対立―」
徳久恭子(立命館大学)
「日本型生産レ
ジームにおける継続性と変化―高
等教育と積極的労働市場政策―」
渕元初姫(法政大学)
「スコットランド
における福祉国家の再編―地域社
会からのレスポンス―」
討論:新川敏光(京都大学)
今年度の共通論題は、多くの途上国で民主
主義が当たり前の政治のあり方になる中で、
先進国、途上国ではやや性格は異なるものの
共有する部分の多い民主主義の質について、
実証、理論の両面で討論し、今後の研究の進
展に寄与することを企図しておこなわれた。
まず、遠藤会員は、アフリカにおける「民
主化」経験を改めて検討し、
「民主化」は民主
主義と権威主義の狭間にあるグレーゾーンの
7
日本比較政治学会ニューズレター 第27号 2011年11月
当日のセッションでは、冒頭に司会者より
企画の意図として、
「今や世界的にみると、二
党制が珍しいタイプないしフォーマットの政
党システムとなったのはなぜか、そもそも二
党制は形成されにくいのか、あるいは存続し
にくいのか、二党制に変化をもたらす要因は
何かについて、比較分析のためのフレームワ
ークづくりが可能であるのか否か、その可能
性を考えたい」との発言があり、その後、西
川賢会員より「米国の二党制:現状の分析」、
木暮健太郎会員より「カナダにおける政党シ
ステムの変化」という報告がなされた。
西川報告では、米国の二党制がとり上げら
れており、二党制の形状が変化したというよ
りも、二党制の中身が変化を遂げてきている
ことを、とりわけ、共和党の保守化が米国政
治のあり方に大きな影響を及ぼしたという点
に注目して、検討がなされた。続く、木暮報
告では、2011年5月に行われたカナダの総選挙
の結果をふまえ、同国の二党制の変容につい
て、二党制から多党制へ、多党制から二党制
へと変化を遂げてきたことが論じられた。
討論にあたっては、
米国とカナダのように、
小選挙区制で二党制とされる事例とは異なる
観点から、比例代表制で多党制となっている
ヨーロッパ政治の研究を専門とする荒井祐介
会員と渡辺博明会員から比較の視座にもとづ
くコメントや質問がなされた。とりわけ、荒
井会員は、政党システム研究と政党組織研究
の今後の展開の可能性について、
渡辺会員は、
今の時代に政党システムの比較研究を行う意
味とは何かという点に関して、問題提起がな
された。
討論者からの質問やコメントに加え、
フロアの参加者からの質問やコメント、2名の
報告者による建設的な議論が行われた。本セ
ッションの議論を通じ、政党システム研究お
よび政党研究において、今後さらに検討され
るべき数多くの論点が抽出されたように思わ
れる。(岩崎正洋)
脱工業化の進展とともに人々の生活保障を
支えてきた雇用と家族の安定が揺らぎ、新し
い社会的リスクが顕在化した先進福祉国家は、
それへの対応を迫られてきた。日本もその例
外ではなく、性別役割分業家族に委ねられて
きたケアの社会化、生産レジームにおける教
育の役割と制度の再編、そして地域コミュニ
ティの福祉供給機能の再構築といった課題に
向き合っている。本企画は、そのような新し
い社会的リスクへの政策的対応とその政治過
程の一端を明らかにすることを意図して企画
された。
辻会員は、ケアの社会化政策をケア労働の
社会化とケア費用の社会化という二つに分類
した後に、介護保険制度の導入と児童手当の
拡充という二つの事例を取り上げ、政策アジ
ェンダ化、政策連合の変容、新しい政策案を
正当化しようとするアイディア間の対立とそ
こで示された家族像を分析した。
徳久会員は、労働市場における中核労働者
と周辺労働者との二極化の一層の強化、若年
失業の増加、教育による格差の再生産という
問題が指摘されるにも関わらず、日本型生産
レジームが脱工業化経済に対応するために必
要な教育と労働市場の関係の再編を遂行でき
ない理由を制度的補完性に起因する生産レジ
ームの頑健性から説明した。
渕元会員は、スコットランドの地域評議会
についてのフィールドワーク調査をもとに、
福祉レジームの再編にあたり市民社会の役割
が再評価される以前から活動してきた地域評
議会が、現在では地域問題の発見や討議、地
域の各団体間のネットワーキング、政治的指
導者の育成等を通じ、市民社会そのものの活
性化という役割を担っていることを指摘した。
また新しい社会的リスクへの対応として社会
的包摂パートナーシップの実践例を紹介し、
そこで地域評議会が担う役割の可能性と限界
について検討した。
討論者の新川会員からは、政治過程の分析
枠組、新しい社会的リスクと福祉レジームの
関係、市民社会概念の精緻化について質疑が
なされた。また司会者の小林会員も日本政治
の観点から質問し、フロアからは因果関係の
説明に関して質疑がなされ、議論が行われた。
(辻由希)
◆自由論題3「統合とアイデンティティの比
較史」
司会:田口晃(北海学園大学)
報告:村上剛(ブリティッシュ・コロンビア
大学・院)
、コンラド・カリツキ(ブ
リティッシュ・コロンビア大学・院)、
ニコラス・フレイザー(上智大学研
究生)「市民権の政治:日本におけ
る旧植民地帝国臣民の法的地位と
その比較」
土倉莞爾(関西大学)「比較政治史の中
のキリスト教民主主義」
立石洋子(前東京大学・院)「国際情勢
と自国史像の変化―スターリン期
ソ連の事例から―」
討論:福田宏(北海道大学)
◆自由企画5「二党制の変容」
司会:岩崎正洋(日本大学)
報告:西川賢(津田塾大学)
「米国の二党制:
現状の分析」
木暮健太郎(杏林大学)
「カナダにおけ
る政党システムの変化」
討論:荒井祐介(東京工業大学)
渡辺博明(大阪府立大学)
8
日本比較政治学会ニューズレター 第27号 2011年11月
本セッションでは、日本・西欧諸国・ソ連
の三つの地域が取り上げられ、歴史的な視点
から国民統合/非統合・宗教・
「自国史」に関
わる諸問題が論じられた。
まず村上=カリツキ=フレイザー報告(以
下、村上報告と記す)では、第二次世界大戦
後の旧植民地帝国臣民に対する国籍問題に焦
点が当てられ、ヤノスキ(Janoski)の制度発
展モデルを用いつつ、特に琉球人・台湾人・
朝鮮人に対する市民権政策が比較検討された。
同報告は、日本の国籍制度をもっぱら血統主
義的な観点から捉える見方に一定の修正を迫
るものであった。続く土倉報告では、イタリ
ア・フランス・ドイツ・ベルギー四カ国のキ
リスト教民主主義が取り上げられ、国によっ
て異なる文脈のなかでキリスト教政治運動が
展開されてきた点が指摘された。さらに同報
告では、各国におけるキリスト教民主主義の
内実が明らかにされ、議会制民主主義・社会
主義・コーポラティズムといった各潮流との
関係性等について比較検討された。最後の立
石報告では、第二次世界大戦前後におけるソ
連の歴史学に焦点が当てられ、非ロシア諸民
族史の変化が検討された。本報告では特に北
カフカースの「英雄」シャミーリに焦点が当
てられ、独ソ戦の勃発や被占領地域における
対独協力者の出現といった過程において、
「自
国史」の位置づけが如何に変化したのかとい
う点が明らかにされた。
以上の三報告を受けて福田会員よりコメン
トがなされた。村上報告に対して、ヤノスキ
のモデルが前提とするタイム・スパンについ
て、土倉報告に対して、社会主義政党との対
抗関係および欧州統合とキリスト教民主主義
の関係等について、立石報告に対して、
「東方」
諸民族と「西方」諸民族などソ連内部におけ
る民族ごとの「自国史」の比較可能性につい
て質問や問題提起がなされ、フロアからの質
問も加えて質疑応答が行われた。(福田宏)
化に向けた圧力がかかるとともに、各国固有
の特徴を維持させる経路依存的な力も働く。
こうした現象をどう理解するか、政治経済学
にとって重要な課題である。
本パネルの二つの報告は、いずれもこうし
た変容を対象としたものである。和田会員は
日本の金融セクターと情報通信セクターを比
較した。前者では開発型国家からネオリベラ
ル規制国家へとパラダイム転換が起こったが、
後者では開発型国家から自主統治へ変化した
だけでありパラダイム転換は生じなかった。
その理由は、金融では顕著な政策の失敗があ
り政治起業家が登場したが、情報通信にはそ
うした要因が存在しなかったことであるとす
る。清原会員はアメリカの情報通信に関する
政策ネットワークを扱った。ネットワーク中
立性をめぐる政策論争において、イデオロギ
ー的対立が顕在化したことにより、ティー・
パーティー運動に代表される多様なアクター
が新たに情報通信政策ネットワークに参加す
る現象が起きた。また、対立していた企業間
の提携が進むなど政策ネットワーク内で変化
が進んでいるとする。
討論者の岡本会員からは、和田会員に対し
て、政策の失敗と政治起業家という二要因の
関係はどのようになっているかなどについて、
清原会員に対して、当該事例の持つ一般性な
どについて質問がなされた。
上川会員からは、
和田会員に対して、日本の金融政策や情報通
信政策を扱った先行研究をどのように評価す
るかなどについて、清原会員に対して、得ら
れた知見の意義はどういったものかなどにつ
いて質問がなされた。報告者のリプライがな
された後、フロアからも多くの質問が提起さ
れ、活発な議論が展開した。政策ネットワー
クや国家・市場関係の変容について、新たな
角度からの理解が深まったと思われる。
(内山
融)
◆自由論題5「新興民主主義国における政治
参加と市民社会」
◆自由論題4「政策ネットワークの変容」
司会:内山融(東京大学)
報告:和田洋典(青山学院大学)
「グローバル
化と開発型国家の変容―日本の情
報通信セクターと金融セクターの比
較分析―」
清原聖子(明治大学)「現代アメリカの
テレコミュニケーション政策ネット
ワークの変容とイデオロギー対立―
ネットワーク中立性の規則制定を事
例に―」
討論:岡本哲和(関西大学)
上川龍之進(大阪大学)
司会:磯崎典世(学習院大学)
報告:長谷川拓也(筑波大学・院)「民主化後
インドネシアの市民運動―西スマト
ラ州における反汚職運動を事例とし
て―」
上谷直克(アジア経済研究所)
・舟木律
子(中央大学)「上からの動員か、
下からの参加か―ラテンアメリカ
の「急進左派」政権下における民
主主義の実践―」
貝田真紀(筑波大学・院)
「現代ロシア
の市民社会―2003年~2004年の福
祉団体の分析を中心に―」
討論:浅見靖仁(一橋大学)
現在、グローバル化、IT化などの環境変化
に伴い、国家と市場の関係や政策ネットワー
クは変容を見せている。特に、各国には同質
本セッションは、民主化後の市民社会、民
9
日本比較政治学会ニューズレター 第27号 2011年11月
主主義パフォーマンスの評価を分析した若手
研究者による3報告で構成された。
長谷川報告は、西スマトラ州の市民社会団
体FPSBによる反汚職運動を事例に、民主化か
ら13年を経たインドネシア市民社会の現状を
考察した。民主化後、FPSBが州議会議員の汚
職問題を追及し、多数を起訴・有罪判決に追
い込んだが、最終的には最高裁で全員が無罪
となった。報告は、その過程を明らかにし、
現在は、地方政治支配勢力が強固なネットワ
ークを再構築し、市民社会団体の影響力はか
つてより低下していると結論づけた。
貝田報告は、ロシアの市民社会を、社会団
体、特に社会福祉団体に注目して、その特徴
を解明しようとした。2003年-2004年に実施
された社会団体調査R-JIGSデータをもとに、
ロシアの社会団体・福祉団体の特徴を描き出
し、
「地域に密着した草の根団体が主流で、政
治とは関わりを持たない自立的な性格、自己
完結型の市民社会を形成」
という仮説を示し、
今後のリサーチデザインを提示した。
上谷・舟木報告は、近年のラテンアメリカ
の「左傾化」に関する先行研究で、急進左派・
ポピュリスト政権として否定的に扱われるボ
リビア、エクアドルを事例に、ラテンアメリ
カ世論調査プロジェクトのデータによって、
国民個人レベルの政治的価値判断や行為を検
討し、先行研究による評価の妥当性を検討し
た。国民の委任型民主主義やポピュリズムへ
の評価、また政治参加の進展などをデータか
ら検証し、先行研究の問題点を指摘した。
報告に対して討論者およびフロアからは、
市民社会という分析概念の定義・有用性、ア
ンケート結果の概念化に際した注意点、デー
タ分析の問題、事例選択の妥当性などについ
て、質問やコメントがなされた。地域も分析
方法も異なる報告であったが、
「民主化」後の
政治体制や国家-社会関係をどう捉えるかと
いう問題を、具体的な事例を通じて検討・議
論することができた。
(磯崎典世)
ルトヘイト期南アフリカの社会保
障制度形成―児童扶養手当政策の
形成・拡大に対するCOSATUの役割
に着目して―」
小坂恕(青森公立大学)
「直接民主主義
に向けた諸問題の研究―市民の政
治満足度向上のために―」
討論:西山隆行(甲南大学)
田中報告では、ヨーロッパ化にともなって
生じる福祉国家の諸制度をめぐる社会的亀裂
の「解凍」を論じるM. Ferreraの議論を手がか
りに、90年代フランスの付加年金改革問題が
検討された。ヨーロッパ化はこれまでの福祉
国家研究が論じてきたような収斂をうみだす
とは限らず、各国の歴史的経験が影響を及ぼ
し続けること、これまで以上に個別的な歴史
研究の深まりが求められることが示唆された。
佐藤報告は、
南アフリカの労働組合COSATU
が労働組合としての顧客である労働者の利害
と必ずしも合致しない広範な社会保障制度の
導入に大きな役割を果たしたことをパズルと
捉え、民主化やグローバル化の進行による一
定の目的の実現および外的環境の変化が
COSATUの影響力を低下させ、これを補完す
るためにCOSATUが変容を余儀なくされた、
ということを明らかにした。
小坂報告は,市民の不満や政治的信頼の低
下を示すデータを紹介し政治学がこれらと真
摯に向き合うことを訴えるとともに、これを
乗り越えるために政治参加を促す試みとして、
Fishkinらによる「討議型意識調査」や報告者
自身による討議実験の試みを紹介するもので
あった。
以上の報告に対して西山・阪野両会員から
は、田中報告における「新しい福祉政治」の
定義上の問題やフランスの事例の位置づけ方
についての疑問点、佐藤報告におけるCOSATU
の活動に関するリサーチ・クエスチョンの設
定の問題点について、小坂報告における政治
不信と直接民主主義の関係など、いくつかの
質問が提出された。その後フロアの参加者に
も順次質問機会が与えられ、小坂報告が推奨
する直接民主主義的方法がポピュリズムにつ
ながる危険性への疑問などコメントが寄せら
れ、報告者との間で直接の応答がなされた。
参加者こそ多くなかったものの、討論の時間
が十分に与えられたことで、有意義なセッシ
ョンになったと思われる。
(成廣孝)
◆自由論題6「グローバル化のなかの市民と
福祉」
司会・討論:阪野智一(神戸大学)
報告:田中拓道(一橋大学)
「連帯は国境を超
えるか?―超国家的福祉レジームの
分析枠組み―」
佐藤光(明治大学・院)
「ポスト・アパ
10
日本比較政治学会ニューズレター 第27号 2011年11月
企画委員会から
2012年度研究大会(日本大学法学部、6月23日(土)・24日(日)予定)
「自由企画」および「自由論題」の募集
①「自由企画」の募集
自由企画は、報告・討論・司会をパッケージにしてご提案頂くものです。
さまざまな共同研究の発表の場として、また自由な研究交流の場として、
自由企画のご応募をお待ちしております。学会のますますの活性化のため、
会員の皆様で企画をご相談の上、グループにてふるってご応募下さい。
②「自由論題」の募集
自由論題は、単独でご報告される会員のための発表の場です。若手会員
の方はもちろん、中堅以上の会員にもご応募いただけることを期待してお
ります。先端的研究や独創的研究をはじめとする、魅力ある自由論題のご
応募をお待ちしております。
いずれも内容のレジュメ(A4用紙1枚程度、ワードファイルもしくはテ
キストファイルにて作成)を2011年12月14日(水)までに、下記宛に電子
メールの添付書類にてお送り下さい。
応募先:企画委員長 仙石 学 E-Mail : [email protected]
③大会参加資格
自由論題の報告者、および、自由企画の報告者と討論者については、会員
に限ります。ただし、入会申請書を研究大会前に提出した非会員は、会員
に準じて大会参加の資格を得ることができます。非会員を含む応募につい
ては、入会申請予定であることを明記してください。
自由企画、自由論題の応募それぞれにつき、企画委員会で採否を決定の
上、お知らせいたします。開催校との関係等でセッション数に制約がある
ため、ご希望に添えないことがある旨、ご了解下さい。また応募が採択さ
れました際には、報告用のペーパーを所定の期限までに必ず提出していた
だくよう、お願いいたします。
自由企画につきましては、企画委員会から若干の変更などをお願いする
場合があります。自由論題につきましては、テーマや採択数によって、企
画委員会の方でセッションの組み方、司会、討論などを決めさせていただ
きます。内容によっては、企画委員会の分科会にて報告をお願いする場合
もあります。
(仙石
11
学)
日本比較政治学会ニューズレター 第27号 2011年11月
2010年度決算
2010年4月1日より2011年3月31日
収入の部
支出の部
摘要
金額
摘要
金額
繰越金
6,240,063 2010年度大会開催費
2010年度会費収入
4,909,000 年報費
雑収入
691,400
1,572,490
728 会報25号費
68,185
会報26号費
88,533
理事会会議費
39,786
編集委員会費
20,000
企画委員会費
20,000
ホームページ維持費
84,000
選挙管理委員会費
85,407
監事交通費
27,040
事務局費
合計
894,536
予備費
8,000
繰越金
7,550,414
11,149,791 合計
11,149,791
一般会計資産
金額
郵便振替口座
2,422,650
通常郵便貯金
5,117,881
現金
9,883
合計
7,550,414
会計監査の結果、上記の収支計算書は適正に表示されていることを認める。
2011年4月16日
日本比較政治学会監事
品田
12
裕
野田
昌吾
日本比較政治学会ニューズレター 第27号 2011年11月
2011年度予算
収入の部
摘要
繰越金
2011年度会費
雑収入
支出の部
金額
摘要
7,550,414 2011年度大会開催費
5,280,000 年報費
10,000 叢書費
600,000
1,800,000
1,000,000
会報27号費
100,000
会報28号費
100,000
理事会会議費
40,000
編集委員会費
20,000
企画委員会費
20,000
ホームページ維持費
100,000
選挙管理委員会費
200,000
監事交通費
事務局費
合計
金額
30,000
1,500,000
名簿費
800,000
予備費
600,000
繰越金
5,930,414
12,840,414 合計
12,840,414
2011年度総会報告
6月19日(日)午後1時より北海道大学にて総会が開催され、唐渡常務理事の開会宣言に続い
て磯崎典世理事を議長に選出し、新川会長挨拶の後、以下の議事が行われました。
1.各種委員会報告
①企画委員会 大西委員長から委員会発足以来
の経緯について説明されるとともに、大会が順
調に進行している旨報告された。
②編集委員会 戸田委員長から年報13号が6月
中に発行された旨報告があった。
③渉外委員会 網谷委員長から学会ホームペー
ジの移行について、今後の方針が報告された。
④選挙管理委員会 竹中委員長から2012年の選
挙管理委員として以下の3名を選任したとの報告
があった。磯崎典世理事(学習院大学)、小嶋
華津子(筑波大学)、河本和子会員(早稲田大
13
日本比較政治学会ニューズレター 第27号 2011年11月
学)。
⑤叢書編集委員会 大串委員長から叢書第3巻
について年内に発行の見込みであると報告され
た。
⑥ニューズレター委員会 渡邊委員長から25号
および26号が発行済との報告があった。
⑦研究大会開催校 宮本理事より、研究大会が
支障なく進行しているとの報告があった。
2.事務局報告
唐渡常務理事より、会員数について前回の総会
以降、27名の新入会と21名の退会者(うち10名
は3年間会費滞納による退会)があり、現時点
での会員総数は669名となった旨報告があった。
3.2010年度決算・会計監査
・2010年度決算について、唐渡常務理事から資
料に基づき説明があった後、監事を代表して野
田昌吾監事から、2011年4月16日に京都大学にて
会計監査を実施し、品田裕監事とともに各種資
料を照合した結果、適正に収支計算書が表示さ
れていることを確認した旨、監査結果の報告が
なされた。
・質疑の受付の後、総会にて決算が承認された。
4.2011年度予算
・唐渡常務理事から資料に基づき、2011年度予
算案の説明がなされ、質疑の受付の後、総会に
て予算が承認された。
5.新任の編集・企画委員長の紹介
・議長磯崎理事より、編集委員長は、慣例に倣
い、現在の企画委員長である大西理事が就任す
るとの紹介があり、「現代民主主義の再検討」
のタイトルのもと公募を行っている旨報告され
た。
・議長磯崎理事より、企画委員長は、これも慣
例に倣い、現在の企画副委員長である仙石理事
が就任するとの紹介があった。
6.2012年度、2013年度研究大会開催校につい
て
・唐渡常務理事から、2012年度研究大会は日本
大学にて、2013年度は神戸大学にて開催予定で
あり、詳細はホームページにて告知するとの報
告があった。なお2012年度研究大会の日程につ
いて、6月16日~17日に開催予定であると総会で
は報告されたが、その後同日程が他学会の開催
日と重なることが判明したため、持ち回り理事
会により、6月23~24日に変更された。
(事務局)
理事会報告
第40回理事会
①前回理事会以降、届出退会者は2名、会費
の3年未納による除名者が10名。新会員11名
を加えて、現時点での会員総数は668名とな
った。
②名簿更新アンケートを学協会サポートセン
ターに委託し、4月15日を締切として実施し
た。
2011年4月16日に京都大学で第40回理事会が
開催されました。
出席:岩崎、大串、大西、大矢根、小川、唐
渡、木村、新川、 竹中、玉 田、戸田、宮本 、
渡邊
委任状:網谷、磯崎、遠藤、加藤、久保(慶)、
久保(文)、国分、仙石、坪郷、待鳥、山本
欠席:酒井
3.2010年度決算と監査結果報告
・品田・野田両監事より、会計書類を綿密に
検査し、収支計算書が適正に表示されている
ことを確認したとの報告があった。唐渡常務
理事による説明の後、理事会として決算を承
認した。
4.ニューズレター委員会から
・渡邊委員長よりニューズレター第26号につ
いて3月に発行された旨報告があり、連載記
事に関する企画案が示された。
・主な討議事項は以下の通りです。
1.新入会員の承認
・11人の新入会の申請があり、申請書を回覧
した上で、全員の入会を承認した。
2.事務局報告
・唐渡常務理事よ り、以下 の報告があった 。
14
日本比較政治学会ニューズレター 第27号 2011年11月
5.大会開催校から
・大会開催校の宮本理事より、大会の準備状
況について報告があった。また参加人数の把
握に必ずしも有効 ではない との理由により 、
各セッション・懇親会等に関する出欠葉書の
パンフレットへの同封は見送った旨説明があ
った。
6.叢書編集委員会から
・大串委員長より、叢書第3巻について、各
章の原稿はすでに集まり、全体的な編集作業
が進行中である旨報告があった。また新川会
長より、4冊目以降も財政事情を勘案しなが
ら、長期的に出版の機会を考えてほしいとの
発言があった。
7.企画委員会から
・大西委員長より、2011年度大会の企画につ
いて、時間割・題目等に関するニューズレタ
ー掲載のプログラム案からの変更点の報告が
あった。またニューズレター発行後の報告題
目の変更はできるだけ避けるように、今後報
告者にお願いすることになった。
8.編集委員会から
・戸田委員長より、13号の準備状況について
すでに再校段階であり、例年通り5月末に発
行の見込みである旨報告があった。また同委
員長より、2年連続投稿禁止規定について理
事会にて検討するよう提案があり、審議した。
日本比較政治学会年報では特集体制をとって
おり、現実には連続投稿が頻発する可能性は
尐ないことから、現段階では禁止規定を設け
る必要はないとの結論に到った。また共通論
題について決定され次第、ホームページ等で
できるだけ早く告 知するこ とが確認された 。
その他、論文提出取りやめに対するサンクシ
ョン、オンラインジャーナルの発行、自由投
稿論文の募集につ いても意 見が交換された 。
9.2011年度予算案について
・唐渡常務理事より、2011年度予算案につい
て説明があり、審議の後、了承された。なお
ホームページ移転に関する費用として10万円
が予備費に計上された。
10.2012、13年度研究大会について
・唐渡常務理事より2013年度研究大会開催は
神戸大学にてお願いし、すでに同大学の大西
理事より開催校を引き受ける旨内諾を得たと
の報告があり、了承された。また2012年度大
会開催校の岩崎理事から、会場確保など進め
る予定である旨報告があった。
11.各種団体によるシンポジウム等の学会の
後援について
・新川会長より、シンポジウム等に関する学
会への後援依頼への対応について審議するよ
う提案があった。質の高いシンポジウムにつ
いては学会の知名度を高めるとの観点から好
意的な意見もあったが、後援には重大な責任
が伴い企画に関与していないものについて学
会名のみ記載するのは危ういこと、利害や見
解の相違があるシンポジウムを後援すること
は学会の中立性を損ねる虞があること等から
慎重論が多数を占め、原則として後援は行わ
ず、依頼があった場合必ず理事会にて事前に
審議することが決定された。
12.ホームページの運営について
・網谷渉外委員長より、ウェブサイト更新・
メール配信等について報告があった。また来
年3月の国立情報学研究所によるウェブサー
バー提供サービス中止に伴う、ウェブサービ
ス委託先の移転とそれにかかる費用について
調査・検討を進めている旨報告された(事務
局代読)。審議の末、網谷委員長に選定作業
を進めて頂き、次回理事会にて具体的報告を
行うよう依頼する旨決定された。
13.年報の発行部数について
・新川会長より、従来年報発行についてミネ
ルヴァ書房には一括発送の対象部数(契約上
は600部)に対して150万円を支払うというか
たちで契約してきたが、同書房より金額は現
状のまま部数を700部まで増加することが可
能であるが、その際一括発送としたいとの申
し出があった。この場合在庫保管のための諸
費用が発生するものの、会員数の数を基準に
一定数を発送してもらえれば、逐次追加発注
を行うよりも費用節減に繋がるとの説明があ
った。また退会規定との関連で3年以前の年
報については、不要の保管費を発生させない
との観点から廃棄する旨提案があった。以上
について、審議の末、了承された。
なお以上のような運用は、今年度の年報か
ら開始し、契約については更新時にあわせ改
正することとし、秋の理事会で審議すること
になった。
14.兼業に関する委嘱状の発行について
・玉田理事より、大学教員の学会理事就任に
関する兼業の届出に際して、学会からの委嘱
状を大学から求められる事例があることにつ
いて紹介があり、依頼があれば事務局にて対
応することが了承された。
15.次回理事会の日程について
・唐渡常務理事より、次回理事会は北海道大
学における研究大会中の6月19日12時10分か
らを予定している旨提案があり、了承された。
第41回理事会
2011年6月19日に北海道大学で第41回回理事
会が開催されました。
出席:網谷、磯崎、岩崎、遠藤、大串、大西、
大矢根、小川、唐渡、木村、久保(慶)、久
保(文)、新川、仙石、竹中、玉田、坪郷 、
戸田、待鳥、宮本
委任状:加藤、国分、酒井、山本、渡邊
・主な討議事項は以下の通りです。
1.新入会員の承認
・6人の新入会の申請があり、申請書を回覧
15
日本比較政治学会ニューズレター 第27号 2011年11月
した上で、全員の入会を承認した。
2.事務局報告
・唐渡常務理事よ り、以下 の報告があった 。
①前回理事会以降、届出退会者は5名。新会
員6名を加えて、現時点での会員総数は669名
となった。
②名簿アンケートの返送を4月15日で締め切
り、アンケート集計作業が完了した。大震災
被災地の居住会員については配送状況に配慮
して対応した。今後学協会サポートセンター
と作業を進め、7月中には名簿発行の予定。
3.企画委員会から
・大西委員長より、大会参加者数に関する報
告があり、それぞれの企画において活潑な議
論がなされたと報告があった。また仙石学理
事が次期委員長に就任することが報告された。
4.編集委員会から
・戸田委員長より、年報第 13号が先週発行さ
れたことが報告された。また次期編集委員長
の大西理事より、2013年度年報の編集方針に
ついて報告があった。
5.大会開催校より
・宮本理事より、217名の参加者があり、大
会が大過なく進行 している との報告があり 、
協力への謝意が示された。
6.選挙管理委員会から
・竹中委員長より、2012年の選挙管理委員と
して以下の3名を選任したとの報告があった。
磯崎典世理事(学習院大学)、小嶋華津子(筑
波大学)、河本和子会員(早稲田大学)。
7.叢書編集委員会から
・大串委員長より、叢書第3巻について年内
刊行の見込みであると報告があった。
8.2012年度研究大会の日程について
・来年度開催校(日本大学)の岩崎理事から、
開催候補日として2012年6月16・17日と23・
24日とが提示され、16・17日とすることに決
定した。[しかし当日が他学会の開催日と重
なることが判明したため、持ち回り理事会に
より、23・24日に変更することが決まった。]
16
9.2013年度研究大会について
・2013年度研究大会開催校は神戸大学よりす
でに内諾を得ているが、開催校の大西理事よ
り鋭意準備を進める旨報告があった。
10.渉外委員会から
・網谷委員長より、以下の提案がなされ了承
された。①ホームページ移行については、諸
費用と利用状況を勘案した結果、来年度以降
レンタルサーバーとして、さくらインターネ
ットを利用する。
②独自ドメインとして学会略称が入るかたち
で、jacp.or.jpを取得する。
11.ニューズレター委員会から
・渡邊委員長より「研究機関・団体紹介」に
関する新規連載記事の提案がなされ(唐渡常
務理事代読)、承認された。
12.2011年度総会での各種報告の内容につい
て
・唐渡常務理事より総会の式次第の案内があ
り、各委員会の報告内容について確認すると
ともに、事務局は会員数、2010年度決算につ
いて報告し、2011年度予算案について前回理
事会の承認内容に基づき総会に諮る旨説明さ
れ、承認された。
13.その他
・唐渡常務理事より、前回理事会で承認され
た今年度予算案について会報費の通し番号に
誤記があった旨報告され、番号の修正が審議
を経て了承された。
・次回理事会の日程について、事務局より次
回理事会を11月5日(土)14時より日本大学
にて開催すること が提案さ れ、承認された 。
(事務局)
日本比較政治学会ニューズレター 第27号 2011年11月
先端研究の現場から (5)
中所得国ベトナムの「工業化・近代化」の行方を問う
中野 亜里(大東文化大学)
原子力発電所ができたら、こんなに豊かな生活ができる……ロシア資本による原発建設
が進んでいるベトナム南部ニントゥアン省の子供たちは、電気自動車が走る未来都市の夢
を絵に描いている。
その一方、東日本大震災と福島第一原発事故の直後、在京のベトナム大使館は、東北地
方在住のベトナム人留学生を救援することなく、大使館員と家族だけが先に日本から脱出
した。にもかかわらず、ベトナム国内では、
「わが国の大使館は留学生の救援に尽力した」
という主旨のニュースが流された。
今年7月に起こった中国の新幹線事故については、ベトナム共産党・政府系のメディアは
沈黙を守り、一般のインターネット新聞でも1、2日の間に報道が停止された。ミャンマー
のカチン州で、水力発電用のダム建設が中止されたというニュースも見当たらない。福島
第一原発の事故処理に至っては、最先端技術を駆使したロボットが写真入りで紹介される
ことはあっても、現場の作業員の過酷な状況が伝えられることはない。
1人当たりGDPが1000米ドルを超え、中所得国となったベトナムは、2020年には基本的な
工業化を達成することを目指している。しかし、中国と同様、一党体制下で政治的・市民
的自由は制限されており、上記のように情報公開の面でも問題が多い。近年では特に、原
発建設をはじめとする大規模開発をめぐるガバナンス能力が問われつつある。
筆者は、
ベトナム中南部高原における中国企業によるボーキサイト開発に注目してきた。
ベトナムのボーキサイトの確認埋蔵量は、同国政府の発表によれば世界第3位で、その殆ど
が中南部高原に集中している。旧南ベトナムの領域に属し、尐数民族が多く住む複雑な政
治状況の土地で、中国企業による大規模なボーキサイト採掘、アルミナ生産のプロジェク
トが進んでいる。
今日の世界的な傾向としては、
鉱物資源産業は社会と環境に負荷を与えることを自覚し、
その責任をとれる体制を整えようとしている。しかし、ベトナムの鉱物資源開発は、党・
政府の政策決定が無批判に実施されるトップダウンの形で進められてきた。ボーキサイト
開発についても、ベトナムと中国の両共産党指導部によって、国民が知らない間に決定さ
れ、ベトナム国会の審議を経ずに着手された。環境影響調査についても、一般市民は情報
から阻害され、適切なリスク・コミュニケーションが実施されていない。
事業の存在を知った市民は、インターネット上のサイトや個人のブログなどを通して政
府に異議申し立てを行ない、知識人たちは専門的見地から計画の不備を指摘し、公開書簡
などで国家指導部に提言を行なった。その圧力に押され、政府は2009年の国会で、改めて
事業に関する報告を行なった。国家の大規模な開発計画に対して、市民レベルから組織的
な批判の声が上がり、政府が説明責任を問われる例はこれが初めてであり、これは同国の
政治における注目すべき変化と言える。
大規模開発に関する情報開示の欠如、責任の所在の不明確などは、冒頭で触れた原発問
題にも通じている。筆者は、開発をめぐる政策決定過程、市民社会からの異議申し立て、
党・政府側の対応を検証し、鉱物資源開発をめぐるガバナンスの問題点を明らかにしたい
と考えている。その上で、ベトナムの「工業化・近代化」に必要なガバナンスとはどのよ
うなものか、すなわち、誰がどのような形で問題解決に参加するべきかを考察したい。最
終的には、開発をめぐるガバナンスに市民が参加することで、今後ボトムアップの政治改
革が進む可能性があるのかどうか見極めたいと考えている。
中国資本による大規模開発は、南シナ海における同国との主権論争とも相俟って、市民
の反中国ナショナリズムを刺激することになった。それは、ベトナム政府の対中国政策、
ひいては共産党体制そのものへの批判につながるため、党・政府側は、批判勢力の指導的
人物の逮捕やインターネットのサイト破壊など、超法規的な手段も含めた様々な統制を図
っている。筆者の現地調査も制限が予想されるが、学術調査にどのような困難が伴うかは、
ベトナム政治の行方を占う一つのバロメータともなるだろう。
(なかの あり)
17
日本比較政治学会ニューズレター 第27号 2011年11月
共同研究のフロンティア (5)
言語政策の比較政治学
今林 直樹(宮城学院女子大学)
ここ10年ほど、フランスの地域に関心を持っている。きっかけは、2000年度に筆者が勤
務する大学の附属研究所で「統合と分離」と題する共同研究を起こしたことであった。
今から50年近く前の1967年、京都大学で桑原武夫を団長とするヨーロッパ学術調査隊が
組織され、フランス、イギリス、スペインの地方を調査したことがあった。その報告は後
に『素顔のヨーロッパ』
(朝日新聞社)と題するエッセー集として出版されたが、一読して
興味深かったのはフランスのブルターニュとスペインのバスクに関するエッセーの数々で
あった。なかでも、スペインのサンタンデールの港で、バスク語が日本語と同源であると
信じる2人のバスク人労働者が、調査者である梅棹忠夫に日本語の単語を手当たり次第に尋
ね、そのうちに「トリ」という日本語を聞いてまったくうれしそうな顔をする、なぜなら
バスク語で「トリ」のことを「チョリ」というのだ、という描写などは、情景が目に浮か
んでくるようで思わず笑みがこぼれてしまう。
前置きが長くなったが、要するに「統合と分離」と題した共同研究は、京大学術調査隊
のフランス特化版であり、フランスの地域、とくにブルターニュやバスク、アルザス、コ
ルシカ、オクシタニーといったエスノ・リージョンを訪ね、その現状を足で、目で、耳で、
そして舌で調査しようというものであった。京大チームと違って私たちに有利であったの
は、1980年代後半以降、欧州統合の進展に伴って、欧州の政治空間が超国家・国家・地域
の三層構造を持つとされ、
「国民国家の相対化」という視点から地域への関心が高まってい
たことであった。とくにフランスの地域についてはエスニシティと結びついたエスノ・リ
ージョンに関心が向けられ、梶田孝道、宮島喬といった先学によってエスニシティやリー
ジョナリズムに関する研究が蓄積されていた。日本におけるフランス研究の裾野は豊かな
広がりと深みを持つようになっていたのである。
こうして、フランスの地域を巡る筆者の旅が始まった。ブルターニュやバスクの諸都市
をまわりながら、筆者に強い印象を残したものが道路標識などにフランス語とともに併記
された地域語の存在であった。それは一見してそこがフランスでありながらフランス語と
は異なる言語を使用する地域であることを見る者に理解させる。もちろん、その程度のこ
とはすでに頭の中では了解済みのことであったが、実際にそれを目にしたときのインパク
トには想像以上のものがあった。
ところで、私たちが共同研究「統合と分離」を立ち上げた2000年、東京・恵比寿の日仏
会館で「フランスの多様性―地域からの視点―」と題する日仏文化講座が開催された。同
講座では上記のエスノ・リージョンに加えてアンティル諸島が取り上げられ、文字どおり
地域からの視点でフランスの言語的、文化的、
歴史的多様性が6名の講師によって語られた。
奇しくも、私たちと同じ問題関心を持った講座がほぼ時を同じくして開催されたのであっ
たが、注意すべきことは、この講座をリードした学問領域が社会言語学であったことであ
る。印象的には、リージョナリズムと同じ地域を考察対象としながらも、より鮮明に言語
問題や言語政策を取り上げた研究が目立つようになったのはこの頃からではなかったかと
思われる。
それ以後、社会言語学関係の研究会などに顔を出すようになり、今でも勉強させてもら
っているが、一方で、政治言語学ないしは言語政治学といった分野が政治学の領域では自
立したものとなっていないことへのモヤモヤ感があり、言語問題や言語政策といった言語
を前面に押し出した研究を政治学の分野でどのように展開できるかという問題意識が常に
頭にあった。2010年度研究大会(於 東京外国語大学)の企画委員を仰せつかった際、そ
の機会に思い切って企画したのが分科会「言語政策の比較政治学」であった。幸い、分科
会は3名の報告者に助けられて盛会のうちに終えることができたが、フロアーからも「言語
問題が比較政治学の分野で取り上げられるのは画期的だ」とのコメントをいただいた。言
い換えれば、
「言語政策の比較政治学」はこれから作り上げていくものだということである。
企画者として、これが言語政治学の地平を広げる好機となっていくことになれば、それに
勝る喜びはない。
(いまばやし なおき)
18
日本比較政治学会ニューズレター 第27号 2011年11月
会員の異動
*この欄はホームページでは公開しておりません。
19
日本比較政治学会ニューズレター 第27号 2011年11月
事務局からのお知らせ
1 2011年6月に開催された研究大会・総会はつつがなく終了することができました。大会開催校の皆様を
はじめ、会員各位の御協力に感謝申し上げます。
2 来年2011年度の研究大会は、6月23日(土)
・24日(日)に日本大学で開催される予定です。まだかな
り先になりますが、ご予定おき頂ければ幸いです。企画・報告の公募については本ニューズレターの11頁
をご覧下さい。締め切りは2011年12月14日(水)です。ふるってご応募下さい。
3 学会会費の納付に際しては、ゆうちょ銀行の振替口座をご利用頂いております。送金先は以下の通り
となっております。
郵便局(ゆうちょ銀行)
・振替口座
00110-6-706352
口座名義:日本比較政治学会
4 今年度の会費をお納め頂いた方には、年報13号と最新の名簿をお送りしております。会費納付済みに
も拘らず、年報と名簿がお手元に届いていない場合は、事務委託先の学協会サポートセンターまでお問い
合わせ下さい。連絡先は以下の通りです。但し、会費の納入確認後、ご送付までに数週間のご猶予を頂い
ております。
〒231-0023 横浜市中区山下町194-502
学協会サポートセンター 「日本比較政治学会」係
TEL: 045-671-1525 FAX: 045-671-1935
E-mail: [email protected]
5 所属、住所、電話番号、メールアドレス等を変更された場合は、学会事務局ではなく、上記の学協会
サポートセンター宛にご連絡下さい。入会および退会を希望される場合、年報とニューズレターの送付に
関するお問い合わせ等も同様です。
その他の件につきましては、学会事務局(京都大学)にご連絡下さい。FAX(075-753-3290)
、電子メー
ル([email protected])をご利用頂ければ幸いです。
日本比較政治学会ニューズレター 第27号
日本比較政治学会
2011年11月
Japan Association for Comparative Politics
〒606-8501
京都市左京区吉田本町 京都大学大学院法学研究科
FAX:
(075)753-3290
Email:[email protected]
ホームページ:http://wwwsoc.nii.ac.jp/jacp/
20
新川敏光研究室気付