2010 年度卒業研究 立ち上がれ鉄人 28 号―神戸・新長田地区商店街の活性化プロジェクトの軌跡― 指導教員:澤宗則 0710894D 山口佳子 【目次】 はじめに 0-1 研究目的 0-2 研究方法 第1章 商店街を取り巻く現況 1-1 商店街実態調査報告書による現況把握 1-2 商店街を取り巻く法的環境 1-3 小括 第2章 商店街の抱える問題 2-1 所有と利用の問題 2-2 空き店舗問題 2-3 後継者の育成問題 2-4 小括 第3章 商店街活性化の方策 3-1 地域の状況診断 3-2 地域価値の創造 3-3 小括 第4章 新長田地区商店街についての研究 4-1 新長田地区商店街の歴史・特色 4-2 商店街活性化への取り組み 4-3 新長田商店街におけるフィールド調査 4-4 小括 終わりに あとがき 【研究目的】 現在、日本では「シャッター通り」と呼ばれる商店街が増えるなど、商店街の衰退が進ん でいる。しかし、商店街の衰退は、地域個性の喪失、地元への「馴染み」や「愛着心」の 薄れ、コミュニティの希薄化などにより、未来への大きな財産を失うことを意味している。 そのため、様々な街の個性を残す、もしくは取り戻す作業こそが、今必要とされているま ちづくりである。本論文では、そのような個性あるまちづくりに向けて、商店街の現況や 問題を把握しながら、商店街活性化策を研究することを目的とする。新長田地区商店街に おける調査では、商店街の通行人に対する商店街利用状況と活性化プロジェクトへの評価 に関するアンケート調査(102 人)と、新長田まちづくり株式会社の宍田社長と衰退の進む 商店街の商店主に対し、活性化プロジェクトについてのインタビュー調査などを行った。 【論文要旨】 第1章 商店街を取り巻く現況 ◇商店街実態調査報告書から見る商店街の現況の主な特徴 ①商店街の衰退は、地方都市の「近隣型商店街」 「地域型商店街」において顕著である ②既存の個人商店だけでは、商店街への集客が見込めなくなっている ③「衣料品・身の回り品店等の買い物の場」としての商店街の役割が薄れ、 「飲食をする場」 としての役割が比較的強くなっている ④空き店舗が1つ出現すると、そこから連鎖的に空き店舗が増えるという悪循環が生じる ⑤以前は、商店街の衰退の原因を外的要因に求めていたものの、現在は「魅力ある店舗の 減尐」などの内的要因にも目を向けるようになってきている ◇商店街を取り巻く政策の変遷 2000 年 大規模小売店舗法の廃止 →まちづくり三法制定(大規模小売店舗立地法・中心市街地活性化法・改正都市計画法) 2006 年 改正まちづくり三法(中心市街地活性化法・改正都市計画法の改正) 2009 年 地域商店街活性化法制定 第2章 商店街の抱える問題 ◇所有と利用の問題…店舗の所有者と利用者が一致しているために起こる問題は何か? ①売る物、店舗デザインなどは個々の店舗が決める→商店街全体のコンセプトが無い ②店舗を移動させることができない→店舗の最適配置やゾーニングが行なえない ③家賃と人件費が実質的にかからない→経営努力を怠る原因となる ④店を閉めても自宅として住み続けることができる→空き店舗の増加につながる ◇空き店舗問題…空き店舗が減らない本質的な原因は何か? ①経済的に困っていない場合が多いため、空き店舗の貸出し・売出しをする必要が無い ②「面倒くさい」 「もめごとが嫌い」 「信用できない」「不動産屋は無責任」など、不動産を 扱うことに対してマイナス感情を持っている場合が多い ③賃貸条件や売買条件についての理想が高いと考えられる ④住居として利用していたり、建物の共同権がある等、所有を放棄できない場合がある ◇後継者の育成問題…次世代商店街リーダーの育成の現状 ①次世代商店街リーダーが存在している商店街は1割未満 ②衰退の進む商店街ほど次世代商店街リーダー養成の取組に対し消極的である ③リーダーのタイプには「牽引型」 「人格型」「触媒型」 「奉仕型」などがあり、ふさわしい リーダー像は地域によって、また商店街の置かれる状況によっても異なる 第3章 商店街活性化の方策 ◇地域の状況診断 ①「己=地域特性を知る」…地域特性調査、エリア性格・業種・業態調査、売上・魅力度 向上の状況分析 ②「敵=競合相手を知る」…競争構造調査、集客機能の特性調査 ③「客=消費者を知る」…商圏調査、消費者ニーズの動向調査、商業活性化重点地域 ◇地域個性の創造 ①茨城県つくば市・北条商店街 “米(マイ)コミュニティ構想” ②千葉県千葉市・稲毛せんげん通り商店街 “稲毛あかり祭~夜灯(よとぼし)~” ③東京都品川区・戸越銀座商店街 “商店街のオリジナル商品開発が大成功” ④石川県加賀市・山中温泉南町ゆげ街道 “観光・漆器産業との協調” ⑤大阪府大阪市・空堀地区商店街 “老朽化した町家の再生” 第4章 新長田地区商店街についての研究 ◇新長田地区商店街の歴史 明治時代 兵庫区での重工業の発展を受け、長田区に下請け工場が集積する 昭和時代 国鉄新長田駅の開業、大丸の進出などにより、商業が全盛期を迎える ~~徐々に住民の郊外への移住や工場の海外移転が進み、中心市街地の空洞化が進む~~ 1995 年 阪神・淡路大震災により商店街は壊滅的なダメージを受ける 2000 年 若手商業者たちによる「アスタきらめき会」(のちの神戸ながた TMO)の結成 2008 年 震災から 13 年の歳月を経て、全ての商店が仮設店舗での営業から脱却 ◇新長田地区商店街における活性化プロジェクトの光と影 <「KOBE 鉄人 PROJECT」 ・ 「 『食のまちながた』の推進」の二大プロジェクト> 【効果】 ・駅や鉄人モニュメントから近い商店街では、高い経済効果や客足が増加 ・食品メーカーとのコラボ商品の誕生、B 級グルメイメージの定着 【課題】 ・中心から外れた商店街には効果が表れておらず、依然シャッター通り化が進む ・新長田地区独特の「下町レトロ」の雰囲気が失われる恐れ →活性化策の「選択と集中」 、徹底的な地域分析による地域個性の保全が重要 【主要参考文献】 足立基浩(2010) 『シャッター通り再生計画』ミネルヴァ書房 川端基夫(2008) 『立地ウォーズ』新評論 中小企業庁(2010) :商店街実態調査報告書 中小企業庁(2008) :空き店舗所有者の意識等に関する調査・研究報告書 中小企業庁(2009) :次世代商店街リーダーの養成に係る調査報告書 図:新長田地区商店街の復興へのロードマップ 工業の発展 外国人労働者の 増加 人口増加による 商業の発展 ゴム工業・食品工業 ケミカルシューズ 新長田地区商店街の繁栄 住民の郊外への移住 阪神淡路大震災 →人口減少 工場の海外移転 所有と利用の問題 空き店舗問題 新長田地区商店街の衰退 後継者の育成問題 地域の状況診断 商店街活性化プロジェクト KOBE 鉄人 PROJECT・ 「食のまちながた」推進 駅から近い商店街 高い経済効果、客足の増加 駅から遠い商店街 シャッター通り化の進行 活性化策の「選択と集中」 ・「徹底的な地域分析」が重要 地域の個性を色濃く残す商店街を守る必要性
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