臍(へそ)で茶が沸かせるか? 備中高松城を水攻めにし、鳴かぬホトトギスを無理やり鳴かせ、懐の熱で草履を温めた秀吉で も、臍の熱で直接茶を沸かすことは不可能です。水が高地から低地へ向かって流れ、沼地につく られた高松城を囲ったように、熱も高温から低温に向かって流れるものであり、その逆は決して 起こりません。しかし、それは、低温と高温しかない場合であり、第 3 の熱源があれば、低温か ら高温への熱の移動も可能になります。つまり、環境を第3の熱源として用いることにより、臍 で茶を沸かすことも可能となります。 ●○ペルチェ効果とゼーベック効果○● ペルチェ素子と呼ばれる素子に電流を流すと温度差が生じます。また、この素子に温度差を与 えると、今度は起電力が発生します。前者をペルチェ効果、後者をゼーベック効果と呼びます。 ペルチェ素子は半導体からできていますが、電流を流すと光を発する発光ダイオードや光を当て ると起電力が生じる太陽電池もこの仲間と考えてよいでしょう。 ●○熱電変換器○● 右図はゼーベック効果を利用した熱電変換器です。氷と湯の 温度差によって発電し、ファンが廻ります。最近では、体温と 気温の温度差で発電し、それを電源とした腕時計もあります。 臍と環境の温度差で発電し、その電力を用いれば、熱い茶を 沸かすことも、水を冷やして氷を作ることも原理的には可能と なります。 ●○エクセルギー○● 聞きなれない言葉ですが、有効エネルギーのことです。そし て、エクセルギーが含まれる割合を、そのエネルギーのエクセ ルギー率といいます。力学的エネルギーや電気的エネルギーは エクセルギー率 100 パーセントのエネルギーですが、熱源から 放出される熱エネルギーは、熱源の温度が高いほど、エクセル 熱電変換器 ギー率は高くなります。人間一人の出す熱と 100Wの電気ヒー ターが出す熱を比較すると、熱の量としては等しくなりますが、人の熱では、電気ヒーターのよ うに、直接茶を沸かすことはできません。電気ヒーターの熱はエクセルギー率が高く、人の熱は エクセルギー率が低いことになります。臍で茶を沸かすためには、臍の熱からエクセルギーを抽 出しなければなりません。エクセルギーを抽出したあとの、役に立たないエネルギーの捨て場所 が環境です。煎じ詰めれば、高温の物体でも、低温の物体でも、高圧の物体でも、低圧の物体で も、環境と非平衡にあるものは、全て、多少なりともエクセルギーを持つことになります。 担当学生:小瀬良啓一、山川慎悟 講師:後藤信行
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