暮らしを運ぶ日本の大動脈

 四面環海の日本では、国内の物資輸送でも船が積
また、国内の他の輸送機関であるトラックや鉄道
極的に活用され、港と港を結んで海上輸送する内航
などに比べて、長距離・大量輸送に優れているのも
海運が活躍しています。
内航海運です。陸上輸送と比べ二酸化炭素の排出量
内航海運は鉄鋼や石油、セメントなど国内の産業
も少ないため、トラック輸送からエネルギー効率の
基礎物資の約 8 割以上を輸送しています。さらに、
よい内航海運へ、貨物輸送を振り替える「モーダル
私たちの暮らしに身近な新聞用紙などの紙材、生鮮
シフト」が進められています。最近では、より環境
食品や牛乳など、さまざまな物資がその製品輸送に
にやさしく経済的な電気推進船(スーパーエコシッ
適した船によって運ばれています。
プ)も就航しています。
一方、内航海運は災害時にも重要な役割を果たし
日本列島の大動脈を航行する内航海運は、さまざ
ます。東日本大震災の際も、内航船が救援物資を被
まな面で私たちの生活を守る役割を果たしているの
災地にいち早く輸送しました。
です。
内航海運の活躍
暮らしを運ぶ日本の大動脈
※
▲
スピーディーな荷役で雑貨輸送に
活躍するRORO船
※は巻末「海運用語集」参照
※
主要品目別内航輸送量(2010年度)
輸送機関別にみる国内貨物輸送トンキロ(2010年度)
出典:国土交通省「交通関連統計資料集」
石灰石・原油等非金属鉱物 36,263
内航
自動車
20.2%
39.5%
55.8%
(1,799億トンキロ)
(2,541億トンキロ)
石油製品 41,359
航空
0.2%
23.0%
(10億トンキロ)
鉄道
特殊タンク船
自動車専用船
211(322)6.0%
セメント専用船
369(140)10.5%
セメント 16,831
13.3%
砂利・砂・石材 5,549
9.4%
合計
3,502
(5,357)
その他貨物船
1,723(3,482)
49.2%
(204億トンキロ)
化学薬品・肥料・その他 9,814
96(20)2.8%
土・砂利・石材専用船
249(408)7.1%
4.5%
鉄鋼等金属 23,907
内航海運の船別船腹量(2012年)
石炭 2,567
5.5%
3.1%
1.4%
4.1%
輸送用等機械 7,435
その他 36,173
油送船
853(985)24.4%
2012年3月31日現在/単位千総トン ( )内は隻数
出典:国土交通省海事局
数値については四捨五入しているため、合計と内計が一致しない場合がある。
20.0%
単位:100万トンキロ %は国内全輸送量に占める割合
出典:「内航船舶輸送統計総括表」平成22(2010)年度
SHIPPING NOW 2012-2013
日本海運の現況と課題
国際競争条件の均衡化に向けて
▲各国の原料生産地と日本の生産拠点をダイレクトに結ぶばら積み船
外航海運企業は、世界単一市場の中で熾烈な国際
しかしながら、諸外国の制度は外国籍船を含むす
競争にさらされています。
べての船舶を対象にしており、わが国の制度と比べ、
このため海運主要国では、自国海運企業、自国籍
きわめて有利な条件であることから、わが国におい
船の国際競争力維持の観点等から、税制をはじめと
ても対象の拡充についての検討がなされ、現在、一
する様々な海運政策を講じています。
定の要件を満たす外国籍船にも拡充する方向で準備
特に 1990 年代後半から、トン数標準税制(船舶
がすすめられています。
のトン数に応じて法人税額を決める制度)の導入が
わが国外航海運企業活動の国際競争条件が、諸外
世界で相次いだため、わが国においても 2008年に日
国と真に同等となるための努力が続けられています。
本籍船を対象とする同税制の導入が決定されました。
世界船腹量に占める日本商船隊の割合(2011年)
日本商船隊の構成の推移(各年央)
■隻数の推移
■船腹量の推移
外国用船
世界船腹量
億
万総トン
10 4,308
100%
IHS統計による
100総トン以上の貨物船
2,128
日本籍船
日本籍船
95
735
2006
全体2,223隻
2,214
92
2,555
2,428
1 2,034
約12%
(2,000総トン以上の外航貨物船)
出典:IHS(旧ロイド船級協会)「WORLD FLEET STATISTICS」
国土交通省海事局
SHIPPING NOW 2012-2013
2,623
2,808
788
119
1,011
10,829
11,840
1,119
2011
10,092
10,880
2010
136
9,781
10,499
2009
2,742
2,672
718
107
8,582
9,309
2008
2,535
日本商船隊
億
万総トン
727
98
2,653
8,153
全体8,888万総トン
2007
2,306
外国用船
10,915
12,034
出典:国土交通省海事局 (注)対象船舶は2000総トン以上の外航貨物船
▲
安全運航支援センター
▲
▲船舶を護衛する護衛艦
ソマリア沖・アデン湾に赴く
海上自衛隊を見送る
船舶の安全運航の確保は、海運会社にとって当然
城設備を設置するなど、商船における自衛対策等が
の責務であり、また事故等に起因する環境破壊を防
功を奏したものとみられています。
ぐための最重要課題でもあります。わが国外航海運
しかしながら、海賊事件はさらに凶悪化するとと
は、国民生活に不可欠な物資を安定的に輸送してい
もに、各国艦艇による護衛・哨戒活動が及ばないイ
くため、国土交通省をはじめとする関係省庁や、さ
ンド洋およびアラビア海の全域にまで拡大していま
まざまな国際機関と連携し、安全運航の徹底に努め
す。
ています。
このため、欧州諸国を含む多くの国々が、公的も
ソマリア沖・アデン湾において航行中の船舶を襲
しくは民間の武装保安要員の乗船を許容するように
撃する海賊事件は依然として頻発しており、2011
なっていますが、日本籍船では民間人による武器の
年は前年 (219 件 ) からさらに増加し 237 件にのぼ
所持が禁止され、武装保安要員を乗船させることが
りました。
できません。
一方、同海域における 2011 年のハイジャック件
日本の海運会社は、日本籍船とその乗組員の安全
数は、2010 年の 48 件から 28 件へと大幅に減少し
を確保するため、公的もしくは民間の武装保安要員
ました。これは日本の海上自衛隊をはじめとする各
を乗船させることができるような措置の導入・実施
国海軍による海賊対処のための活動や、船舶内に篭
を求めています。
SHIPPING NOW 2012-2013
安全運航への取り組み
船舶の安全運航確保と海賊対策の推進
環境問題への取り組み
安定輸送と環境保全の両立へ
長距離・大量輸送に適した外航海運は、最も地球
ュールに配慮しつつ低速で航行することで燃料消費
に優しい輸送モードですが、世界経済の成長にとも
量とCO₂ 排出量を抑える運航上の工夫を行ったり、
ない、国際的に物流量の増大が見込まれているため、
太陽光や風力などの再生可能エネルギーを利用した
CO₂ 等の温室効果ガス
(GHG)の排出増加など地球
次世代の船舶を開発するなど、さまざまなGHG排出
環境への負荷が懸念されています。国際海運からの
削減対策を実施しています。
GHG排出削減は、海上輸送で世界経済を支え続けて
このほか、船の構造や設備などの国際基準を満た
いる海運業界の責務といえます。船舶からのGHG排
していない基準以下船(サブスタンダード船)の排除、
出削減対策については、国際海事機関
(IMO)
におい
老朽化した船舶を環境に影響を与えずに解体するた
て検討が行われており、関係条約の改正を行うなど
めのシップ・リサイクル方法の検討なども行われて
着実に成果を上げています。
います。
また、それぞれの海運会社としても、運航スケジ
海運業界は、今後も船舶による環境負荷の低減に
※
※
向けたルール作りや技術開発、さまざまな工夫を続
地球環境保護のための海運の対策
けることにより、地球環境保全に貢献していきます。
船体形状の改善
プロペラ・船尾形状の改善
船体重量の軽減
※は巻末「海運用語集」参照
省エネの推進と
地球温暖化対策
省エネ・低公害エンジンの開発
地球に
優しい海運
タンカーの二重構造化
サブスタンダード船の排除
シップ・リサイクルの促進
海洋環境の保全
海洋での排出物規制
安全な船底塗料の使用
航路環境整備の促進
▲
2012年竣工予定ハイブリッド
自動車専用船(商船三井)
タンカーのダブルハル化
1トンの貨物を1km 運ぶために必要なエネルギー (2008年度)
航空(国内線)
21,072
自家用自動車
営業用自動車
シングルハル
ダブルハル
原油
原油
10,734
外板
内板
燃料タンクの二重構造化
2,128
従来型
内航海運
543
鉄道
437
単位:キロジュール/トンキロ
出典:「交通関連統計資料集」
SHIPPING NOW 2012-2013
燃料タンク
新型
バラストタンク 燃料タンク
船員育成への取り組み
グローバルに活躍する
優秀な海技者を育成
▲次世代の優秀な日本人船員の確保に向けて
職務体制
(注)
総乗組員24人の場合
▲日本の海運会社では外国人船員の育成に努めている
一等航海士 二等航海士 三等航海士 甲板部員6人
機関長 一等機関士 二等機関士 三等機関士 機関部員6人
船長
通信長
事務部員3人
▲最新の高機能操船シミュレータ(商船三井)
安全運航を達成し、維持するためには、船舶の運
プをとる能力が期待されています。
航に直接関わる優れた船員(海技者)
の育成は欠かす
他方、外国人船員も日本商船隊にとっては欠かせ
ことのできないものです。将来の優秀な日本人船員
ない存在です。海運各社は世界各国の商船系大学と
を確保するため、日本の海運会社は国や海事教育機
提携、海外に船員養成施設を設置し、外国人船員を
関と協力し、中学生を対象としたガイダンスの実施
将来の幹部候補として、積極的に養成しています。
など、さまざまな活動を展開しています。これから
船上での定期的な事故対応訓練、陸上での最新の
の日本人船員には海上現場の中核としてだけではな
シミュレータを利用した研修を実施し、高い技術力
く、グローバルで活躍する、海運界でリーダーシッ
と安全運航への意識向上を図っています。
SHIPPING NOW 2012-2013
ヤクタート
ランゲル
モスクワ
ハリファックス
ボストン
ケベック
モビール
ニューオーリンズ
ダラス
ヒューストン
マイアミ
サンファン
プエルトケツアル
アカジュトラ
コリント
グアム
セブ
トラック
カガヤン
ブエルトカベヨ
カルタヘナ
クリストバル
ブエナベンツラ
マジュロ
ポナペ
タラワ
マンタ
マカパ
ムングバ
マナウス
ラエ
ホニアラ
アピア
パゴパゴ
アボットポイント
ワイラ
マタラニ
アリカ
スパ
ニューカレドニア
イキケ
エデン
メルボルン
ジーロング
ブリスベーン
ニューキャッスル
カルデラ
グアヤカン
バルパライソ
サンアントニオ
シドニー
ポートケンブラ
オークランド
コロネル
ウェリントン
ナピア
リッテルトン
ポートチャルマーズ
四面環海である日本は海で世界中とつながってい
見えないライフラインに乗って船で運ばれてきます。
ます。
また、原料や部品の調達から、生産や販売、さら
凡
生活に欠くことのできない穀物や羊毛・綿花をは
には在庫保管からデリバリーまでの企業ニーズに応
例
じめとする生活物資、日本に欠くことのできない原
えるため、日本の海運は効率的かつ的確な物流サー
油や天然ガスなどのエネルギー資源が、今日も目に
ビスの実現をめざし、日々努力を続けています。
セペティバ
アントファガスタ
グラッドストーン
バーニー
カラオ
リオグランデ
モンテビデオ
ブエノスアイレス
マッケイ
ヘイポイント
ラウトカ
サントス
パラナグア
ワイハ
アデレード
グルートアイランド
アードロサン
ダーウィン
ポートヘッドランド
ポートウォルコット
ポートダンピア
ポートカビア
フリーマントル
バンバリー
エスペランス
タウンズビル
ポートモレスビー
レシフェ
サルバドル
ツバロン
ビトリア
リオデジャネイロ
パナマ運河
グアヤキル
コタバル
マカッサル
ロンボク海峡
ベレン
タワウ
タラカン
ポンタン
バリクパ パン
アルバニー
SHIPPING NOW 2012-2013
アトランタ
サイパン
バタンガス
ゴーブ
スラバヤ
セマラン
スンダ海峡
セドロス
ビューモント
ロングビーチ
ルムット
ポンチアナ
バンジェルマシン
ジャカルタ
ポートレイス
レユニオン
クーチン
ペナン
タマタブ
ポートエリザベス
ケープタウン
サルダナ
リチャードベイ
ダーバン
イーストロンドン
ポートサラザール
マラッカ・シンガポール海峡
モンバサ
タンガ
ダルエスサラーム
シンガポール
トリンコマリー
コロンボ
ロスマウエ
ルアンダ
オークランド
ロサンゼルス
ニューヨーク
フィラデルフィア
ボルチモア
ノーフォーク
ウイルミルトン
チャールストン
サバンナ
ジャクソンビル
マニラ
ニャチャン
ホーチミン
アデン湾
ソマリア沖
カンザスシティ
グァイマス
サンダカン
コタキナバル
ダナン
モントリオール
トロント
デトロイト
トリード
シカゴ
サンフランシスコ
基隆
高雄
香港
ハイフォン
バンコク
バブ・アル・マンデブ海峡
釜山
仁川
コルカタ
チッタゴン
厦門
深
バンクーバー
シアトル
ポートランド
クースベイ
エウレカ
上海
寧波
カンファ
チェンナイ
ホルムズ海峡
ドバイ
アブダビ
アビジャン
モンロビア
ラゴス/アパパ
コトノウ
ロメ
テマ
ジェッダ
タコマ
青島
カンドラ
スエズ運河
アバダン
バンダルホメイニ
カーグ
ブシェール
バンダルアバス
ダス島
カラチ
クウェート
ダンマン
ラスタヌラ
バーレーン
ラスラファン
ドーハ
マンガロール
モルムガオ
ムンバイ
バスラ
ポートサイド
ボストーチニー
ナホトカ
ウラジオストック
大連
ピレウス
タンジール
カサブランカ
スチュワート
プリンスルパート
ノボシビルスク
チェリヤビンスク
セブンアイランズ
セントジョン
サンクトペテルブルク
コペンハーゲン
ハンブルク
アムステルダム
ロッテルダム
アントワープ
ウィーン
ルアーブル
ミュンヘン
パリ
チューリッヒ
ミラノ
ジェノバ
オデッサ
トリエステ
フォス
マルセイユ
ポチ
バルセロナ
イスタンブール
リスボン
マデイラ
日本と世界をつなぐ日本の海運
ヘルシンキ
ストックホルム
ゴーテボルク
オスロ
フェリクストウ
サザンプトン
日本と世界をつなぐ日本の海運
日本を中心とする海上物流ルート
プエルトマドリン
生活物資の輸入経路(物・羊毛・綿花・木材等)
エネルギー資源の輸入経路(石油・石炭・LNG・LPG等)
工業原料の輸入経路(鉄鉱石・原料炭・銅鉱石・ニッケル鉱石等)
国際定期航路(製品等の輸入航路)
●この地図は、わが国の代表的な輸出入品目の主な積揚港をもとに、
日本船主協会が作成したものです。
なお、地図の経路は実際の航路ではありません。
ランドブリッジ・サービス
SHIPPING NOW 2012-2013