トップの決断

FROM THE PUBLISHER
——太田 進——
トップの決断
日本が今後、本気で観光に力を入れていこ
関係者の驚くほど手厚い出迎えの後に5台の
うとするのであれば、より柔軟性のある考えを
ロールスロイスでブルジュ アル アラブへ。同
持って積極的なプロモーションを行なっていか
じ話にドバイの関係者は
「ぜひやらせてほしい。
なければならない。前例にとらわれず、大きな
何でも協力する」とトントン拍子で話が決まっ
決断ができるか。これは国だけでなくわれわ
たそうだ。
れ事業者にとっても重要なことであろう。
D 氏はハリウッド系の映画のアシストをする
某日、D 氏とトム・クルーズは国土交通省に
仕事で長く日本に滞在しているアメリカ人。
『ラ
タクシーで乗り付けた。当時の国土交通大臣
ストサムライ』はじめ多くの成功を陰で支えて
であった北側一雄氏にノーアポイントメントで
きた実績を持つ同氏は、日本はこういった話
面会を試みたのだ。そこには民放 4 社のカメ
がどれだけ日本の観光に貢献するかに対する
ラもついてきていた。急な来訪者に一時騒然と
理解がない、とよくぼやいている。
なったが、結果として大臣との面会となった。
『冬のソナタ』が大流行し、多くの日本人が韓
北側大臣はトムを大歓迎し、D 氏とトムはカ
国に行った。中国映画の『狙った恋の落とし
メラが回っている前で映画『ミッション:イン
方。
』の舞台となった東北海道に、多くの中国
ポッシブル 3』の撮影で東京都庁の使用を要
人がやってきた。映画の効果がどれほどある
請。北側氏はその場で撮影の協力を承諾した。
のかというのは、想像に難しくないはずだ。
これは、実際にあった出来事である。ネタ
最近になって、やっと安倍晋三総理が「そ
ばらしをすれば、D 氏は北側氏をよく知ってい
ういった対応のための公益社団法人をつくって
た。しかし、通常のアポ取りをすれば、密室
みてはどうか」というアイデアを出したそうで、
の中で形式的な話しかできないであろうと判
少しずつ前進はしているようだが、他国との歴
断。事前に「明日の〇時にトムを連れて行く」
然とした差には不安を抱かざるを得ない。
と伝えておき、あえてカメラが回っている前で
これはマネジメントにも無関係な話ではない。
承諾をさせたのだ。しかし、その後北側氏が
何か案件が寄せられたときに、そのリターンを
辞任をしてしまい、この話は実現しなかった。
見積もり、判断できる能力やセンスを持ってい
その後、トムの「もう一案ある。ドバイでや
るかが、結果として大きな違いを生む。トップ
りたい」という話を受け、D 氏はトムと共にト
マネジメントは、ときに大局的な視点を持ち、
ムの自家用ジェットでドバイへ。そこでは政府
決断ができることも重要なのである。
ー 2015.7.10 ー
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