橡 よりよい学校スポーツが行われるために

 よりよいスポーツ指導が行われるために
∼学校スポーツ及び社会スポーツの
スポーツの高度化及び大衆化との関係∼
商学部 早川 武彦ゼミ
741221 福島 浩展
1
目次
序章・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
第1章 スポーツ指導の現状・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2
第1節 スポーツ指導の必要性
第2節 スポーツ指導の歴史と現状∼学校スポーツの指導について
第3節 スポーツ指導の歴史と現状∼社会スポーツの指導について
第2章 スポーツ指導論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11
第1節 スポーツ指導の基礎理論
第2節 個人の実力を向上させるための指導
第3節 相手に勝つための指導
第4節 練習
第5節 チームづくり
第6節 知識以外の要素
第3章 今後の対策・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・23
第1節 問題点の分類
第2節 問題点に対する今後の対策
終章・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・29
注・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・30
図表・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・31
文献目録・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・42
序章
現在の日本のスポーツ界では、世界のレベルに到達していない種目が数多いと考えられ
る。1998 年のサッカーワールドカップフランス大会では、日本代表が本大会初出場を果
たしたが、一次リーグ3戦全敗という結果に終わり、世界との差を痛感することになった。
その原因は、競技人口や歴史的な背景、更にはその国の文化や国民性等にまで、様々な原
因が考えられるが、それらの内の一つに、優秀な指導者の不足という点が挙げられるだろ
う。実際にこの大会で日本代表を率いた岡田武史前監督は、「日本のサッカーが世界の一
流レベルになるためには、
(中略)
『指導者の育成』と『若手の育成』しかありえない 1)」
とまで言っている。
また、私自身も様々なスポーツを経験してきたが、現在になって考えてみると、あまり
良い指導者に恵まれなかったように思う。私だったらこう教えたのに、こう教えられたら
もっとうまくなっていたかも知れないのに、と思うことが多くある。これらの経験から、
現在のスポーツ指導者を巡る環境には、様々な問題点があるのではないか、と考えたこと
が、私がこのテーマを卒業論文のテーマにしようと思った、一番の理由である。そして、
スポーツ指導者に関する問題点を、様々な角度から、深く掘り下げてみようと考えたので
ある。
その後、研究を進めるうちに、スポーツ指導に関する問題点は、私が最初に感じたよう
な競技力向上に関するものに限ったことではないことが明らかになってきた。その為、少
し範囲を広げ、競技スポーツだけでなく、その他多くのスポーツに関して、スポーツ指導
2
に関する問題点を広く考察することにした。
この論文では、第1章でスポーツ指導の現状と題し、スポーツ指導の必要性やスポーツ
指導に関する歴史について、学校スポーツ(中学校・高等学校における運動部活動)と社
会スポーツ(競技スポーツ・地域スポーツ・生涯スポーツ)の2点から論じていく。スポ
ーツをこのように2つに分けたのは、スポーツ指導について書かれている多くの文献がこ
のような分け方をしており、この方法が論文を進めていく上で妥当と考えたからである。
また、現在、スポーツの世界においては、スポーツ科学技術の進歩に伴うスポーツの高度
化(専門化)という縦の広がりと、スポーツの大衆化(生活化)という横の広がりが起こ
っている(図1参照)
。そこで、学校スポーツ・社会スポーツの中で、スポーツの高度化
と大衆化がどのように関わってくるのかについて、常に注意を払いながら問題点をあぶり
出していく。
続いて第2章では、スポーツ指導論と題し、スポーツの指導そのものについて論じてい
く。ここでは、スポーツ指導者が知っていなければならない知識と、それ以外の要素につ
いて、各項目に分類して、論じていく。
最後に第3章では、今後の対策と題し、第2章で述べたスポーツ指導が効果的に行わ
れる為に、第1章で抽出した問題点についての具体的な対策について論じていく。
3
第1章 スポーツ指導の現状
日本のスポーツを巡る諸環境は、第二次世界大戦後、劇的な変化を続けてきた。それに
伴って、スポーツ指導者を巡る環境も、同様に変化を見せてきている。この章では、スポ
ーツ指導者に関する戦後からの歴史と、現在の状況について述べていくことにする。その
際、戦後から、教育において大きな役割を果たしてきた学校のスポーツ指導者(主に運動
部活動)と、最近、その必要性が大きく取り上げられている社会スポーツの指導者に分類
して、それぞれに関する政策を見ていくことにする。それに先立って、スポーツ指導者が
何故必要なのかという根本的な問題について述べた後、
これらの歴史と現状を探っていく。
第1節 スポーツ指導の必要性
スポーツ指導者は何もスポーツの実力だけを高める為にスポーツを教えるわけではない。
社会に出てから必要な挨拶・言葉づかい・上下関係等をスポーツを通じて教えたり、自分
が経験してきた事を少しでも多く伝えたりできることも、スポーツ指導者が必要な大きな
原因である。スポーツ指導者とは、スポーツ実践者が持っていないものを与える為に、ス
ポーツ実践者が欲するものを与える為に、スポーツ指導者足りえるのである。
スポーツ指導者が必要とされる原因は、非常に広範囲にわたっていると考えられる。そ
れでは、スポーツ指導者の必要性を、年代別に挙げていくことにする。
1)0歳∼12 歳(小学校6年)頃
この頃の子供の特徴は、発育と共に神経系が発達し、集中力が長続きしない状態である。
この頃は、スポーツに触れさせ、好きにさせると同時に、特定の種目がある場合はその種
目の基礎的な技術の習得を目指す必要がある。また、子供に夢を抱かせてあげることも必
要である。
2)13 歳(中学校1年)∼18 歳(高等学校3年)頃
この頃の子供の特徴は、体格や体力が充実し、アイデンティティーの確立が見られる。
この頃は、特定の種目の実力を伸ばし、五感を養い、また、人格の形成も行わなければな
らない。
3)19 歳∼
この頃は、体格や体力がピークから衰退へと向かう。この頃は、特定の種目でハイレベ
ルで活躍すると同時に、健康の維持・ストレスの発散など、多様なニーズに応える必要が
ある。
第2節 スポーツ指導の歴史と現状∼学校スポーツの指導について
学校スポーツの指導者とは、体育授業を指導する体育教師と、運動部活動を指導する顧
問教師に大別することができる。彼らに関する問題点は、これまで文部省が告示してきた
学習指導要領や、関連する法律、また、教育委員会に対する多くの通達の中に、垣間見る
ことができ、問題点は運動部活動の方に集中している。そこで、これまでのこれらの法的
な文面の中から、運動部活動に関する記述を項目別に歴史を追って見ていき、その後、現
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在抱える問題点について述べていくことにする。しかし、私立の学校は必ずしもこの通り
ではない事を予め断っておく。
1.これまでの歴史
1)運動部活動の学校での位置づけに関する記述
1947 年3月に『教育基本法』・『学校教育法』が公布され、6月には、文部省が『学校
体育指導要綱』を定める。ここでは、部活動は選択科目の「自由研究」に位置づけられ、
自主的・自治的な運営を理想とし、生徒が積極的に参加する機会を与える為に設けられた。
戦後あらゆる物資が不足する中で、スポーツは野球を中心として、爆発的に普及すること
になる 2)。
しかし、自主的・自治的ではなく、放任された運動部における生徒の暴力的な行動や不
行為が一部に起き、1957 年5月の『中学校、高等学校における運動部の指導について』
(初
等中等教育局長通達)では、部活動を生徒の自主的活動ではなく、学校教育の一部として
十分な指導を行うように、そして、短時間に練習効果の上がるように指導するように求め
られた。更に、運動部の技術的なコーチの外部への委託についても述べている。
1960 年代には高度経済成長の下、スポーツへの浸透策がとられ、国民のスポーツ要求
を実現する運動も台頭した 3)。そして 1964 年の東京オリンピックでの成績不振を受けて、
体力強調政策を生み出すことになる。1968 年 11 月には『中学校、高等学校における運動
クラブの指導について』(文部省体育局長通達)が出されており、その中で、指導が行き
届かない場合があったので、運動クラブの責任者などによる指導組織を確立し、協力して
指導の徹底を図るように求めている。
しかし、1968・69・70 年に、小・中・高の『学習指導要領』
(文部省)が相次いで告示さ
れたが、その中で「クラブ活動」なるものが設けられ、小4以上の全生徒必修として教育
課程の中に組み込まれた。しかし、指導者・施設については言及されておらず、共に不十
分な状態であった。一方、
「部活動」に関する記述は消えてしまったが、実際には学校に
存在し、学校が全て面倒を見ていた為、位置づけは非常に曖昧になる。1969 年7月に出
された『児童生徒の運動競技について』(文部省体育局長通達)では、学校教育活動とし
ての対外運動競技と、学校教育活動以外での運動競技という識別がなされ、部活動は学校
教育活動以外とされ、位置づけは更に曖昧になる。この頃から、部活動の社会体育への移
行論が吹聴され始める 4)。1972 年に開かれた日本教職員組合第 36 回大会では、日本教職
員組合も学校から部活動を切り離すことに賛成してしまった 5)。
1977 ・ 78 年に告示された『学習指導要領』でも、部活動の記述はなく、1979 年4月の
『児童・生徒の運動競技について』(文部事務次官通知)でも、先程と同様の分類がなさ
れた。この頃は、学校教育活動内外の競技会への参加が増加した部活動が加熱化しており、
一方では、指導者や施設条件の整わないクラブ活動は、学校教育活動内にも関わらず、学
校のお荷物と化していた。その為、公立中学校では、クラブ活動を部活動で代替させると
ころも多くなっていた。
これらの問題点や、1992 年9月からの学校週5日制の導入を踏まえて、1989 年3月に
現行の『学習指導要領』が告示された。この中で、クラブ活動の部活動による代替が正式
に導入されることになる。これにより、部活動が多くの県で強制加入制へと移行され、ま
5
た、教師の全員担当制が実質化した 6)。しかし、本来教育課程としてのクラブ活動と自
主的活動としての部活動が一緒になってしまった為に、それぞれの抱えていた諸問題が混
沌の状態になってしまう事になる。
そして 1998 年1月には、
『中学校及び高等学校における運動部活動について』
(文部省
体育局長通知)の中で、運動部活動への強制参加を禁止し、また、練習日・練習時間を適
切に設定するように求め、更に外部指導者の協力の条件整備や、地域との交流の推進を求
めている。
2)部活動の対外試合・部活動の指導に関する記述
1948 年3月の『学徒の対外試合について』
(文部省体育局長通牒)では、教育関係団体
が主催し、小学校は校内、中学校は宿泊を要しない範囲、高校は地方大会にとどめ、対外
試合よりも遥かに重要なものとして校内競技に重点が置かれていた。
しかし、1954 年4月の『学徒の対外競技について』
(通達)では、中学校は府県大会を
原則とし、個人競技では、世界的水準に近い者は全日本大会への参加を認めた。また、高
校の全国大会を年1回とする等、一気に緩和されることになった。これは、1952 年のオ
リンピック復帰以降のスポーツの高度化への期待が、当時未発達であった地域スポーツで
はなく、学校の部活動に持ち込まれたことが原因である 7)。更に、1957 年5月の『学徒
の対外運動競技について』
(文部事務次官通達)では、中学校は都府県内の競技会を原則
としながらも、宿泊を要しない小範囲の競技会はOKとされ、また、高校生との国際大会
への参加も一部認められた。
その後、1964 年の東京オリンピック開催を控え、日本の競技力向上が叫ばれるように
なり、1961 年6月の『学徒の対外運動競技について』
(通達)では、中学校生徒の宿泊を
容認し、水泳競技においては、全国大会や国際大会への参加規制を大幅に緩和した。また、
教育関係団体のみが主催していた競技会も、関係競技団体との共同開催を認めるようにな
り、競技団体の発言力が増していく。
前出の 1969 年7月の『児童生徒の運動競技について』では、部活動の曖昧さが指摘さ
れる中、部活動は教育活動以外の運動競技でありながら、学校教育活動内外の大会の両方
に参加した。また、学校教育以外の運動競技における教育関係団体以外の主催参加も大幅
に緩和された。これらの矛盾に対する予防策として、青少年運動競技中央連絡協議会が 12
月に『児童生徒の参加する学校教育活動外の運動競技会の基準』を出し、中学生の全国大
会を行わず、選抜全国大会を1回と規定した。しかし、学校教育活動内外でそれぞれ年1
回、計2回の全国大会となり、地方・地域大会も倍増する結果となってしまった。更に、
1979 年4月の『児童・生徒の運動競技について』でも、中学校の全国大会を年1回、高
校の全国大会を年2回と認めた。しかし、これは文部省が関わるものに限ったことであり、
実際には学校教育以外での大会もあったことから、結局はかなりの試合数になってしまっ
た。
現在ではその傾向は更に進み、1994 年1月に出された『中学生の国民体育大会への参
加について』(文部省体育局長・文部省初等中等教育局長通知)では、4種目に限り、中
学3年生の国体への参加を認めている。1988 年のソウル五輪での敗北が原因である。
1985 年4月に定められ、1997 年4月に改正された『地方スポーツ振興費補助金(体育・
6
スポーツ振興事業)交付要項』(文部大臣裁定)の中では、学校体育実技認定・指導事業
(運動部活動外部指導者活用・研修事業、運動部活動指導者研修等)において補助対象経
費の3分の1以内、中学校・高等学校スポーツ活動振興事業(都道府県が行う県・ブロッ
ク・全国大会)において定額等の額を国が補助し、地方の体育・スポーツの振興に寄与す
ることが定められている。
3)部活動顧問の報酬に関する記述
1950 年4月の『一般職の職員の給与に関する法律』
(給与法)の中で、部活動は特殊勤
務手当の対象として規定されていた。1962 年6月の『特殊勤務手当の運用について』
(人
事院規則)の時点では、人事院が定める対外運動競技等において、泊を伴うものおよび終
日の場合1日 1700 円、部活動において休日と土曜日に4時間程度の場合1日 1200 円と規
定されている。
1969 年の前出『児童生徒の運動競技について』によって部活動の位置付けが学校教育
活動以外とされるのに伴って、1971 年5月の法律『国立及び公立の義務教育諸学校等の
教育職員の給与などに関する特別措置法』では、教職調整額(給与の4%)を支給するこ
とによって特殊勤務手当を運用せず、時間外部活動指導は教師の業務から外された。しか
し、実際には部活動は活発に行われていた為、1971 年 12 月に『人事院規則9−30(特殊
勤務手当)の一部改正等について』を出し、人事院が定める対外運動競技等において、泊
を伴うものおよび勤務を要しない日等に行うものの場合1日 1200 円と規定した。1962 年
時よりも少なくなってしまったことになる。
その後、細かい部分での改正は何度も行われたが、基本的な金額は変わっていなかった。
しかし、1989 年の前出『学習指導要領』による学校教育活動内への部活動の復活を経て、
1994 年1月に更に改正され、人事院が定める対外運動競技等において、泊を伴うものお
よび勤務を要しない日等に行うものの場合1日 1500 円になっている。また、正規の勤務
時間以外において4時間程度の場合 750 円が支給されることが新たに定められている。
2.現在の状況
上記に定められた法律等は、保健体育審議会 8)等によって度々行われてきた調査と、
それを基にして作成される報告・答申の内容によって、改正を繰り返してきている。ここ
では、主に 1997 年9月に発表された『生涯にわたる心身の健康の保持増進のための今後
の健康に関する教育及びスポーツ振興の在り方について』(保健体育審議会答申)と 1997
年 12 月に発表された『運動部活動の在り方に関する調査研究報告書』
(中学生・高校生の
スポーツ活動に関する調査研究協力者会議)の内容をもとにして、現在の部活動指導の状
況を探っていくことにする。
1)生徒、及び指導者(顧問)の目的
中学校・高等学校において、運動部活動に入部してくる生徒の目的は、表1の通りであ
る。また、運動部顧問が部活動を指導する上での目的は、表2の通りである。
表1・表2によると、現在の部活動においては、個人によって、その目的が非常に広範
囲に渡っており、スポーツの高度化(主に勝利を目指す)に属する人と、スポーツの大衆
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化(主に楽しむ)に属する人が一つの部活動の中に混在している事になる。また、「全員
加入で仕方なく」入部している生徒がいることも見逃すことはできない。つまり、単にそ
のスポーツを楽しみたくて、もしくは、嫌々部活動に入部した生徒が、過度な練習を課せ
られたり、よりレベルの高い練習を求める生徒が、レベルの低い生徒に合わせなければな
らず、満足のいく部活動ができなかったりと言うような状況が生じるのである。
2)指導者(顧問教師)の状況
中学校・高等学校において、顧問の配置、及び就任状況は、表3・表4の通りである。 表
3において、「全教員が当たることを原則としている」学校は、中学・高等学校共に約半
分にのぼっている。つまり、部活動の指導をしたくない教師が、強制的に指導を強いられ
ている場合が考えられる。実際、運動部活動の指導について、
「やりがいを感じない」教
師が、中学・高等学校共に1割程いる。
ちなみに、運動部を何人の教師(外部指導者を除く)で指導しているかを教師に聞いた
ところ、中学校で 64.3%、高等学校で 77.6%が「複数で」指導していると答え、中学校
で 35.7%、高等学校で 22.4%が「一人で」指導していると答えている 9)。
また、教師が現在指導している種目の指導経験年数は表5の通りである。
表5によると、指導経験年数が3年に満たない教師が、中学・高等学校共に全体で約3
割に達している。また、私の中学時代の経験では、その種目の指導経験のみならず、プレ
ー経験すらない教師が指導にあたっているケースも少なくなかった。つまり、その種目の
知識が不足している、更に、スポーツ指導そのものの基本的知識が不足している教師が、
運動部活動の指導を行っている場合が、少なからずあることが考えられる。これは、場合
によってはかなり危険な状態である。特に、怪我に対する知識が無い場合、生徒が取り返
しのつかない障害を患ってしまう確率が非常に高くなってしまう。これは、責任を問われ
てしまう教師にとっても、障害を患う生徒にとっても、不幸なことである。
これらのことを踏まえて、教師の指導上の悩みは、表6・表7のようになっている。
表6・表7によると、中学・高等学校共に、上位3項目(「校務が忙しくて思うように
指導できない」
「自分の専門的指導力の不足」
「施設・設備等の不足」
)の値が高くなって
いる。
3)部活動の活動日数・時間数
運動部生徒の学期中の活動日数・時間数と運動部顧問の学期中の指導日数・時間数は、
表8・表9・表 10 ・表 11 の通りである。
これらの表を見ると、生徒の活動日数・時間数に比べて、教師の活動日数・時間数の方
が、圧倒的に少ないことが分かる。つまり、生徒が活動している場に、教師がいない時が
あるということである。これでは、適切な指導が行われる訳がない。
3.問題点の整理
1・2の内容から、現在部活動指導における問題点は、以下のようになる。
1)運動部活動の高度化と大衆化の矛盾(勝利至上主義的な考え方に基づく行き過ぎた活
動や指導の改善・運動部活動と国際競技力の向上の関係・教科体育や地域スポーツとの関
8
係の整理)
2)運動部活動の日数・時間数・事故責任報酬等の教師の負担
3)顧問教師の指導力不足への対応
4)施設の整備
5)外部指導者
これらの問題点の中には、過去の保健体育審議会答申や中央教育審議会 10) 答申等で
再三指摘されてきた問題も数多くある。つまり、部活動に関する問題点は、その大部分が
改善されぬまま、現在まで放置されてきているのである。
これらの問題点に対する対策については、第3章で述べていくことにする。
第3節 スポーツ指導の歴史と現状∼社会スポーツの指導について
第2節では、学校スポーツの指導の歴史と現状について述べてきたが、第3節では、社
会スポーツ(競技スポーツ・地域スポーツ・生涯スポーツ)の指導者について法的な文面
の中から、第2節と同様に関係する記述を歴史を追って見ていき、その後、現在抱える問
題点について述べていくことにする。記述の中には、スポーツ指導者の育成と共に、スポ
ーツ施設の充実についての記述も数多く含まれているが、ここでは敢えてスポーツ指導者
の部分だけを取り上げることにする。
1.これまでの歴史
まず、1927 年8月に、
「アマチュアスポーツの統一組織としてスポーツを振興し、国民
体力の向上を図り、スポーツ精神を養うことを目的 11) 」
(第3条)として、日本体育協
会(文部省体育局競技スポーツ課所管)が設立された。この中では、事業内容として、国
民スポーツの指導者等の国民スポーツ振興事業の実施、競技力向上の為のコーチの育成、
スポーツドクターの養成等が記されている。また、1957 年4月には、
『地方スポーツの振
興について』(文部省通達)の中で、体育指導委員の設置について言及している。
その後、スポーツ振興委員会や保健体育審議会がスポーツ振興のための法的措置を望む
答申・要望を相次いで発表し、1961 年6月にようやく『スポーツ振興法』が公布された。
この中では、「国及び地方公共団体は、スポーツの指導者の養成及びその資質向上のため、
講習会、研究集会等の開催その他の必要な措置を講ずるよう努めなければならない。
」(第
11 条)とし、「市町村の教育委員会に、体育指導委員(非常勤)を置く。
」
(第 19 条)よ
う定め、「都道府県が行うスポーツの指導者の養成及びその資質の向上のための講習に要
する経費」
(第 20 条第3項)の2分の1を国が補助することを規定している(その後4回
改正)
。その後、1962 年4月には、スポーツ教室開設費の補助も開始された。
1968 年8月には、
『体育功労者及び社会体育優良団体表彰実施要項』
(文部大臣裁定)
の中で、決められた基準を満たしたスポーツ指導者等に対して、表彰を行うことが定めら
れた(その後、数度改正)
。更に、同年 11 月には、
『スポーツ功労者顕彰規定』
(文部大臣
裁定)も定められた。
1976 年6月には、
『教員研修事業費等補助金(体育指導者海外派遣費補助)交付要項』
9
(文部事務次官裁定)が定められ、「都道府県等における体育の指導的立場にある者を海
外に派遣し、諸外国の学校体育・社会体育の現状及び体育研究施設等を調査し、我が国の
体育・スポーツの振興方策について研究させる等」
(第2条)のために要する経費(渡航
費・滞在費)の一部(定額)を補助することが決められた。
1978 年4月には、
『スポーツ功労者等派遣指導事業について』
(文部大臣裁定)の中で、
スポーツ功労特別指導委員(前出「スポーツ功労者顕彰規定」の基準を満たす等、諸条件
を満たすもの)を文部省が経費を負担して、都道府県が主催する研修・実技講習に派遣し、
スポーツ指導者を対象にした指導を行うことが定められた。
1985 年4月の『地方スポーツ振興費補助金(体育・スポーツ振興事業)交付要項』
(前
出)では、スポーツリーダーバンク事業(スポーツ指導者発掘・登録等)において補助対
象経費の3分の1以内、スポーツプログラマー養成事業において3分の1以内、スポーツ
活動指導者講習会において2分の1以内、地域における強化拠点整備事業(競技力向上の
ためのジュニア層の選手の発掘等)において2分の1以内等の額を国が補助し、地方の体
育・スポーツの振興に寄与することが定められた。また、同年 12 月の『日本体育・学校
健康センター法』
(文部省)の中では、
「優秀なスポーツの選手若しくは指導者が行う競技
技術の向上を図るための活動又は優秀なスポーツの選手が受ける職業若しくは実際生活に
必要な能力を育成するための教育に対し資金の支給その他必要な援助を行うこと。」(第
20 条第1項1−3号)と定められている。
1987 年1月には、
『社会体育指導者の知識・技能審査事業の認定に関する規定』
(文部
省体育局長通知)が定められ、「スポーツの特定の種目に関する指導に係る知識及び技能」
(第1条第1項)と「スポーツに関する相談活動及び基礎的かつ共通的なスポーツ活動の
指導に係る知識及び技能」
(同)について、一定基準を満たす者を審査・証明し、認定す
ることを決定した。これにより、社会体育指導者が資格として認められるようになった。
また、1988 年には、文部省の機構が改革され、スポーツ課が生涯スポーツ課と競技スポ
ーツ課に分けられた。
1990 年2月には、
『社会教育指導事業交付金に係る「社会体育指導者派遣事業」の運用
について』
(文部省体育局長通知)の中で、国が都道府県に対し定額の交付金(社会体育
指導者への給与費)を助成して、社会体育指導者派遣事業が適正に運用されるように規定
した。翌 1991 年3月には『スポーツ振興基金助成金交付要綱』
(文部大臣承認)の中で、
スポーツ団体選手強化活動(強化合宿等)
、選手・指導者スポーツ活動(海外留学等)
、ス
ポーツ団体大会開催、国際的に卓越したスポーツ活動(世界記録への挑戦等)に対して定
額の助成金を交付することを定めている。
1996 年3月には、
『社会体育指導者の知識・技能審査事業の認定に関する規定の実施に
ついて』(文部省体育局長通知)(1987 年1月の『社会体育指導者の知識・技能審査事業
の認定に関する規定』の改正版)が出され、社会体育指導者の細かい区分等が示された。
この内容については、第3章で詳しく述べることにする。
2.現在の状況
上記に定められた法律等は、学校スポーツに関するものと同様に、保健体育審議会等に
よって度々行われてきた調査と、それを基にして作成される報告・答申の内容によって、
10
改正を繰り返してきている。ここでは、主に 1994 年に実施された、
『体力・スポーツに関
する世論調査』
(内閣総理大臣官房広報室)と 1997 年9月に発表された『生涯にわたる心
身の健康の保持増進のための今後の健康に関する教育及びスポーツ振興の在り方につい
て』(前出)の内容をもとにして、現在の社会スポーツ指導の状況を探っていくことにす
る。
1)スポーツを行う理由
1994 年の『体力・スポーツに関する世論調査』(内閣総理大臣官房広報室)によれば、
過去1年間に運動・スポーツを行った理由、行わなかった理由は、表 12 ・表 13 の通りで
ある。
表 12 によると、スポーツを行う理由(目的)は運動部活動と同様に、多岐にわたって
いることが分かる。また、表 13 によると、指導者がいない為、運動・スポーツを行わな
かったと答えた割合が、1%である。
更に、運動やスポーツのクラブや同好会に加入していると答えた者(16.2%)に対し、
加入した動機を聞いたところ、「指導者がいるから」と答えた者は、 9.5%にのぼってい
る 12) 。約1割の人が、スポーツ指導者の存在が直接加入の動機になっている。
2)指導者の状況
1996 年4月現在、文部大臣認定の社会体育指導者の有資格者は、約 74000 人に達して
いる。また、体育指導委員は、約 55000 人である。
また、独自に社会体育指導者資格を認定、登録している市区町村は、表 14 ・表 15 の通
りであり、登録人数は、表 16 の通りである。
この他にも、文部大臣の認定は受けていないが、民間の体育団体・スポーツ関係団体等
で、スポーツ指導者資格認定制度がある。
また、主要公共スポーツ施設におけるスポーツ指導者の配置状況は、表 17 のようにな
っている。
3)スポーツ指導者を望む声
市区町村立体育館・プール・テニスコート等の公共スポーツ施設、及び、フィットネス
クラブ・スイミングクラブ・テニスクラブ・ゴルフ練習場などの都市型の民間スポーツ施
設について、何か望むことを聞いたところ、公共スポーツ施設においては、指導者の配置
を望む声が約 10%、民間スポーツ施設においては、指導者の資質の向上を望む声が、約
5%に上っている 13) 。
また、スポーツをもっと振興させるために、国や地方自治体に今後どんなことに力を入
れてもらいたいかを聞いたところ、表 18 のようになった。
表 18 によると、スポーツ指導者の養成と答えた者が約4割もおり、これだけの人が、
スポーツ指導者の必要性を感じていることになる。
11
更に、日本のスポーツの競技力向上について、公的な援助として何が必要かを聞いたと
ころ、図2のようになった。
約3分の1の人が、コーチ、トレーナーなどの指導者の養成が必要と答えている。
これにより、日本の競技力向上(高度化)に対しても、スポーツの振興(大衆化)に対
しても、スポーツ指導者が必要だと考えている人は、非常に多いことが分かる。
3.問題点の整理
1・2の内容から、現在社会スポーツ指導における問題点は、以下のようになる。
1)学校スポーツ(運動部活動)との関係の整備
2)スポーツの高度化(国際競技力向上)に対する適切な指導システム、指導者の配備
3)スポーツの大衆化(生涯スポーツ)に対する適切な指導者の配備
4)スポーツ指導者資格の認定制度と社会的価値の向上
5)施設の整備
12
第2章 スポーツ指導論
さて、第1章では、日本におけるスポーツ指導の現状について述べてきた。今後、問題
点について述べる前に、まず、そもそもスポーツ指導とは何なのかについて触れておく必
要があるだろう。ということで、この章では、スポーツ指導論そのものについて論じてい
くことにする。尚、この章は、嶋田出雲著『スポーツ・コ−チ学』
(不昧堂出版、1998 年)
の内容をもとにして、それぞれの項目について私自身の考えを補足し、若干の修正を加え
ている。
第1節 スポ−ツ指導の基礎理論
スポーツとは、幅広いものである。現在でも、その枠組みははっきりしていない。一般
に言われる言い方としても、
「プロスポーツ」と「アマチュアスポーツ」
、
「個人スポーツ」
と「チ−ムスポーツ」
、
「競技スポーツ」と「健康スポーツ」
・「障害者スポーツ」等、様々
な分類の方法がなされている。ここでは、全てのスポーツに共通する、スポーツを指導す
る上での基礎的な知識について述べていくことにする。
1.スポーツの特性と本質
序章でも述べたように、スポーツの世界では、スポーツ技術の高度化と専門化という縦
の広がり、それに、スポーツそのものの大衆化と生活化という横の広がりが生じている。
しかし、スポーツの特性と本質は同じである。嶋田出雲は、スポーツの特性と本質につい
て、次の6点を挙げている 14) 。
1)遊戯性(遊び、楽しみ、気晴らしの要素が存在する。
)
2)競争性(勝ち負けの要素が存在する。
)
3)技術性(技術の習得・上達が望まれる。
)
4)規則性(一定のルールが存在する。
)
5)社会性(仲間、仲間意識が必要である。
)
6)創造性(文化であり、芸術的要素が存在する。
)
スポーツ指導者は、スポーツの持つこの特性と本質について知っておく必要がある。そ
の上で、スポーツ指導者は自分が指導する種目の特性と本質についても知っておく必要が
ある。例えばサッカーならば、ボールは体の腕以外の部分で扱い、ボールをゴールに入れ
ることで得点を競う、ということである。これらは、指導者が指導方針を決めるのに役立
つものであるし、特にスポーツに初めて接する子供などに対しては、必ず教えなければな
らない事でもある。
2.スポーツの価値と効用
次に、スポーツ指導者は、スポーツの持つ価値と効用を理解しておく必要がある。スポ
ーツの持つ価値と効用は、大きく分けて以下の3つに分類できる。
1)人間の基本的欲求の充足
2)人間の身体機能への好影響
13
3)精神的・社会的・教育的・政治的・その他の面での好影響
スポーツ指導者は、これらの価値と効用をスポーツ実践者が享受することができるよう
な指導をしなければならない。そうでなければ、スポーツ実践者がスポーツを続ける理由
は何もなくなってしまう。例えば、意図も分からず、楽しくもない練習をさせて無駄にス
トレスを溜め込むだけの指導は良い指導とはいえないし、過度の練習を強要させて将来的
に体を壊してしまうようなことはあってはならない。また、スポーツには秀でていても、
社会に適応できない人間を育成してしまっては意味がない。
3.スポーツ指導の目的
スポーツ指導には、指導するに足るだけの目的が存在する。具体的にどのようなことか、
第1章で述べたことを基にして、考えられる例を挙げてみる 15) 。
1)スポーツを好きにさせる。
2)人よりも上手にする。
3)夢と希望を抱かせ、それを実現させる。
4)試合に出場し、勝利する。
5)ストレスを発散させる。
6)身体・精神を鍛え、健康を維持する。
7)見る力・感じる力を養う。
8)考える力を養う。
9)スポーツを通して、人格を養う。
(フェアプレー,協調性)
この他にも、スポ−ツ指導の目的は数多くあるかもしれない。スポーツ指導者は、スポ
ーツ実践者がどんな目的を持ってスポーツを行っているのかを正確に把握し、スポーツ実
践者の目的を達成することができるような指導をしなければならない。
スポーツ指導者は、まず、これらのことを知っておく必要がある。人にものを教えると
いうことで、教育学の知識は必要である。その上で、実践者の目的に応じて、この後に述
べる指導の項目の比重を変化させていくことが重要である。
第2節 個人の実力を向上させるための指導
前節においてスポーツを行う目的について触れたが、ここでは、スポーツ実践者が必ず
抱く目的である自分自身の実力の向上についての指導の話を進めていきたいと思う。ここ
では、あくまで個人の実力の話のみで、対戦相手の存在はないものと予め定義付けしてお
く。
1.スポーツ実践のシステム
個人がスポーツを行っていく上で、必要な要素は何であろうか。ここで少しばかり例を
挙げてみる。サッカーの技術には素晴らしいものを持っていても、持久力が無い為に30
分しか満足に動けない選手がいる。一方、技術は拙いが、優れた持久力を生かして90分
間グラウンドを走り回る選手がいる。この場合、どちらの選手が実力が上と言えるだろう
14
か。また、野球において、ホームランを打たれた後ボロボロに打たれ続けてしまうピッチ
ャーと、ホームランを打たれてもその後粘り強く投げ続けるピッチャーの違いはどこにあ
るのか。これらのことを考えると、スポーツの実践力(実力)には様々な要素がありそう
である。大きく分けると、次の6点が挙げられる 16) 。
1)基本力
2)技術力
3)体力
4)精神力
5)知力
6)その他
1)の基本力を中心にして、2)∼6)の要素が複合的に絡みあって、スポーツ実践の
能力となっていると考えられる。2)∼5)までは後で詳しく述べることとして、ここで
は、1)の基本力と6)のその他について若干の説明を加えることとする。基本力とは、
その人が持って生まれた身体的能力や、運動センスのことである。嶋田は、スポーツ適性
として、次の5つに分類している 17) 。
1)形態的適性(スポーツ体型)…身長・体重等
2)知的適性…予測能力等
3)運動適性…平衡性・柔軟性等
4)精神的適性
5)知覚的適性…リズム感・視力等
6)のその他とは、自分自身の身体以外の要素である。例えば、サッカーのスパイクや、
野球のグラブ、アイスホッケーのスティック等の用具・道具類がこれにあたる。
スポーツ指導者は、スポーツ実践者一人一人の基本力(スポーツ適性)を見極めた上で、
2)∼5)までの要素をバランス良くレベルアップさせなければならない。基本力には個
人差があり、また上達の速度にも個人差はあるため、2)∼5)の指導の比重は、一人一
人によって当然異なる必要がある。また、用具・道具類についても個人の体格や上達の程
度を見て、適切なものを選ぶように指示する必要がある。
2.スポーツ技術論
スポーツ実践における要素のうち、ここでは、2)の技術力を高めるための指導につい
て述べていくことにする。スポーツにおける技術とは、単にサッカーのパス・ドリブル・
シュート,野球のバットスイング・スローイング等であるだけでなく、スポーツでの場面
場面で発生する様々な課題を最も効果的に達成するために行われる身体操作法である。ス
ポーツの各種目別の技術についてはここでは触れず、一般的な技術指導に必要な知識と方
法について述べていくことにする。
スポーツ技術は、幾つかの身体運動から成り立っている。よって、スポーツ実践者は、
運動に関する一般的な力学の法則を理解しておく必要がある。スポーツに関わる力学の法
則とは、均衡(balance )・運動(motion)・力(force )の3要素である 18) 。また、
ニュートンの運動法則や、振り子の原理、てこの原理などの科学的な基礎知識も必要にな
ってくる。更に、体のどの部分を使って運動をするかというような、医学的な知識も必要
15
である。スポーツ指導者は、これらのことを理解した上で、技術指導にあたるわけだが、
技術には、スポーツ実践者の神経や筋肉、骨格や発育の状況によって個人差があり、心理
状態によっても変化するため、まず一般的な基礎技術を教え、その後、その人の体力的・
精神的特性に合致した技術指導をしていくのが得策である。技術の習得の速い人と遅い人
のそれぞれの指導や、個性を伸ばす教え方等も、この方法で説明できる。また、技術上達
の段階についても個人差があるため、それぞれの段階に応じた適切な技術指導が必要であ
る。基礎技術も儘ならないうちから応用技術を教えても、上達が遅れるだけである。
次に、スポーツ技術の指導をしていく上での具体的なチェックポイントを挙げてみる。
スポーツ指導者は、以下の事柄を常に気にしながら指導を進めるべきである 19) 。
1)フォーム
2)リラクゼーション
3)スピード
4)パワー(力の入れ方)
5)タイミング
6)正確性
7)スポーツ・ビジョン(動体視力、周辺視力など)
8)筋肉運動感覚
最後に、スポーツ技術指導の進め方について述べておくことにする。技術指導は、以下
の4つのサイクルで進めていくのが普通である 20) 。
1)demonstration (手本を見せる)
2)explanation (言って、聞かせる)
3)execution (やらせて、褒める)
4)repetition(繰り返す)
スポーツ技術は、
スポーツ実践者が最終的にどの程度のレベルに到達できるかを決める、
重要なポイントである。そのため、スポーツを始めた段階でどれだけ基本をしっかりと教
わるかが重要になってくる。あくまで、基本に忠実であることが必要である。独創性のあ
る技術は、基本ができていてこそなのである。
3.スポーツ体力論
スポーツ技術が幾つかの身体運動から成り立っていることは先程述べた。と言うことは、
高い技術を身に付けたいと思えば、それを実行できるだけの運動力、つまり、体力が必要
となってくる。ここでは、スポーツ実践の要素の内、3)の体力を高めるための指導につ
いて述べていくことにする。スポーツ体力とは、技術を発揮させるための力である行動体
力(スピード、パワー、スタミナ等)と、怪我の予防や、環境の変化などに対して病気を
予防する防衛体力に分けられる 21) 。スポーツ指導者は、この両方を同時に高めるよう
な指導をしなければならないが、私自身の経験からすると、指導者は、行動体力を高める
ことに片寄りすぎて防衛体力を高めることを疎かにし、その結果、肉離れを起こしてしま
ったりするケースがよくあるように思う。過度の体力トレーニングが原因で体を壊してし
まうようなことは、スポーツ指導者として重大な過失である。スポーツ指導者には、医学
や、栄養学の知識も必要である。
16
また、体力は、自分が行う種目によって、必要な筋肉などが異なってくる。その為、ス
ポーツ指導者は、基礎的な体力をつけるための指導はもちろんのこと、指導する種目に必
要な要素が何なのか、その為には体のどの部分(内臓や筋肉)を集中的に鍛える必要があ
るのか、その為にはどのようなトレーニングをする必要があるのかを知っておかなければ
ならない。次に、主な体力トレーニングの方法を挙げておく。
1)筋力トレーニング(ウェイトトレーニング等)
いわゆる筋トレ。ジムなどで、器具を使って行うベンチプレス・スクワット等が代表的。
2)全身持久力トレーニング(インターバルトレーニング等)
5分間走・ 10 分間走等の持久走の事。間に休憩を挟み、何本か繰り返す。
3)パワートレーニング
体に負荷をかけながらのトレーニング。瞬間的な力を身に付ける。
4)スピード・パワートレーニング
体に負荷をかけながらのトレーニング。正しいフォームを身に付ける。
5)総合的体力トレーニング(サーキットトレーニング等)
多種のトレーニングを連続して行う。
6)敏捷性トレーニング
スタートダッシュの練習等で、瞬間的なスピードをつける。
7)平衡性トレーニング
マット運動や、片足立ち等によって、身体の重心のバランスを高める。
8)柔軟性トレーニング(ストレッチング)
股割り等を毎日続けることによって、身体を柔らかくする。
9)リラクゼーション・トレーニング
身体を脱力させて、ダラーッとした状態にさせる。緊張を解き、怪我の予防にも繋がる。
10)リズム・トレーニング
音楽等を用いて、リズム・テンポ・タイミングを憶えさせる。
11)防衛体力トレーニング
試合の時間、気候条件等に合わせて練習する。
12)スタミナ・トレーニング
ジョギング・持久走等のこと。筋持久力をつける。
13)グリコ−ゲン・ローディング
食事によるもの。試合前にパスタやバナナを食べること等。
14)コンディショニング
全体的な身体の疲労状態をチェックし、トレーニングの質量を決定する。
スポーツ指導者は、これらのトレーニングの中から、目的に適した効果的なトレーニン
グをバランス良くさせる必要がある。
4.スポーツ精神論
スポーツをする際に、技術力と体力が重要な要素であることは既に述べた。しかし、た
とえ優れた技術力と優れた体力を有していても、それらの能力をコンスタントに発揮でき
17
るだけの精神的な強さがない限り、優秀なプレーヤーとは言えない。よく、スポーツ選手
を評して、プレッシャーに弱いとか、萎縮してしまうとか、プレーに波がある等といわれ
るのは、この精神力が劣っていることを指し示す表現である。
それでは、スポーツ精神力とはどのようなものだろうか。嶋田は、以下の6つのカテゴ
リーとして捉えている 23) 。
1)行動力の原点としてのスポーツ精神力(意欲・意思、自主性、規律性)
2)ゲ−ムの場でのスポーツ精神力(集中力、自信、決断力、緊張の制御等)
3)練習の場でのスポーツ精神力(集中力、自己練磨、根性等)
4)チーム・メンバーとしてのスポーツ精神力(責任感、競争心・協調心、信頼感等)
5)スポーツ各種目に望まれるスポーツ精神力
6)ベテランと初心者のスポーツ精神力
スポーツ指導者は、これらのことを念頭に入れて、一人一人の性格を把握した上で、練
習メニューを作成したり、試合に起用したりするべきである。もちろん、個人によって指
導法は異なる。欠点を補うような指導が望ましい。具体的な指導方法としては、プラスイ
メージでプレーするようにさせたり、プレッシャーのかかる状況を想定してプレーするよ
うにさせたりというような、イメージトレーニングが中心になる。そして、賞賛と叱責・
激励(フォローアップ)と説得(カウンセリング)を繰り返し行っていくことが必要であ
る。もちろん精神論を指導する為、心理学の知識も必要である。
5.スポーツ知力論
スポーツとは、当然身体の運動であるが、働かせるのは手や足に限ったことではない。
頭も働かせることが必要である。スポーツにおける知力とは、自分が行う種目のルールの
理解、これまでに述べてきた技術力・体力・精神力を高めるための練習方法の理解、また、
状況判断や読みの能力である。また後に述べるような作戦・戦術の理解も重要な要素であ
る。
これらを指導する方法は、ルールや戦術を単純に覚えさせる他、どのような動きをすれ
ばよいかなどのイメージトレーニング、考えさせながらの試合観戦等が挙げられる。スポ
ーツ指導者は、頭と体を同時に働かせるということを、スポーツ実践者に常に意識させる
ような指導が必要である。
第3節 相手に勝つための指導
スポーツにおいて、味方と敵が存在し、そこに勝敗が関係してくれば、試合に勝利する
ことは、スポーツの最終的な目標の1つである。そして、現在のスポーツには、常に勝敗
が絡んでくるのが現状である。そこで、相手に勝つために何かしらの策を練ることが必要
になってくる。もし、実践する種目が優劣を決する競技ではなく、純粋に己の実力を向上
させるだけの種目の場合、この項目は必要ない。
勝つ為の何らかの策とは、個人やチームが効率的、合理的に最大限の効果を発揮して相
手に負けず、勝つ為に如何に準備し、如何にプレーを計画的に行うかという事で、戦略・
戦術・作戦がこれにあたる。そして、戦略・戦術・作戦を駆使することによって、体力・
18
技術の差を補うことができ、また、体力・技術が優れていても、試合では能力を潰されて
しまったり、コンビネーションが噛み合わなかったりする事があるのである。特に、実力
(ここでいう実力とは、個人の技術・体力・精神力・知力面での実力)が拮抗している個
人・チーム同士の戦い(例えば、プロのレベルや国の代表レベル)では、最終的にこの戦
術の理解度が勝敗の原因になることも多く、監督という指導者がマスコミの餌食にされる
ポイントは、多くが試合でのこの部分である。スポーツ競技は選手と選手だけの戦いに見
えるが、実は指導者と指導者の戦いでもあるのだ。
さて、それでは、戦略・戦術・作戦をもう少し具体的に見ていくことにする。
戦略とは、試合への総合的な準備・計画・方針・運用の方策の事である。チーム作りの
長期的な設計図・マスタープラン、試合展開のデザイン・モデルがこれにあたる。例えば、
7試合のリーグ戦があった場合、個人、またはチームの状態をどこでピークに持っていく
か、試合中どの時間帯に攻撃的・守備的に戦うかということである。
戦術とは、相手に勝つ為に個人やチームの持つあらゆる能力を最も合理的に活用する技
術、相手を負かす為の手段、戦いの駆け引き、個人の戦いの方策の事である。つまり、戦
略を達成するための具体的な手段、方法、技術である。例えば、攻撃的・守備的に戦う際、
具体的にどのように攻撃・守備をするか、フォーメーションはどうするかということであ
る。そして、マスタープランを実現させるための材料を整え、同時に個人・チームの試合
展開に必要な個人の実力を強化しなければならない。
作戦とは、試合における攻撃手段の順序、戦術の使い方、一対一の方法、行動の計画で
ある。即ち、マスタープランを踏まえて、整備された材料を如何に組み立てるかであり、
準備された個人の実力の効果的、効率的な使い方である。例えば、数ある戦術のうち、ど
の時間帯にどのような戦術を使用するか、その為に、誰を起用するかということである。
3者の関係は、まず大まかな戦略を立て、その為に数多くの戦術を用意し、それを踏まえ
て作戦を練るという具合である。戦略から作戦へいくにしたがって、細かい部分の話にな
る。
スポーツ指導者は、この3者の関係を理解し、自己の戦力・相手の戦力を分析した上で、
相手に勝つ為の最善の戦略・戦術・作戦を立てなければならない。その為には、戦略・戦
術・作戦の種類を数多く知っていて、その中から最善のものを選択する必要があり、また、
そもそも試合とは何なのかというような戦いの本質や、勝負に勝つ要訣とはどのようなも
のかということも、知っておく必要があるだろう。更に、戦略・戦術・作戦を立てる際に
は、無理な要求をしても意味がない為、あくまで個人・チームの実力に合わせ、実現可能
な中から最高のものを使わなければならない。
とはいうものの、試合において戦略・戦術・作戦を徹底させ過ぎるのも問題である。多
少は選手に任せる部分もないと、予測不可能な事態が起きた場合、選手は全く対応ができ
なくなってしまう。この事は、1998 年サッカーフランスワールドカップの予選・本戦時
にも指摘されている。
第4節 練習
19
スポーツをする上で、個人の実力を高めたい、相手に勝ちたい等の目的を実現するため
には、当然練習というものをする必要がある。単に楽しむという目的のみの為ならば、練
習をする必要は無いと言う意見もあるかもしれない。しかし、試合形式でスポーツを楽し
んだりすることも、もしくは試合そのものまでも、スポーツをすることは全て練習の一部
であると考えることもできる、と私は考える。
それではまず、練習をすることによってどのような効果が得られるのかを挙げていくこ
とにする 24) 。
1)運動の視覚的イメージ化
2)運動の筋肉運動感覚的イメージ化(力、スピード、方向、高低等のコントロール)
3)運動の知覚的イメージ化の変容
4)運動の反応の質的変容
5)運動の自動化
このように、1∼5段階までの効果(上達)が得られることになる。
また、練習は「量」×「質」×「意欲」によって、その成果の値が変化する。スポーツ
指導者は、この3点を十分考慮して練習を行う必要がある。例えば、練習の「質」の充実
は当然として、いくら「量」を増やしたとしてもスポーツ実践者の「意欲」が伴っていな
ければ、成果は低くなってしまうことになる。
「質」と「意欲」の値の上昇の為には、ス
ポーツ指導者がどのような練習をどのように行うか、という指導技術が必要になってくる。
ここで、練習を指導する上での効果的なポイントを紹介する 25) 。
1)ヤーキーズ・ドットソンの法則(課題の与え方)
:何故その練習を行うのかを説明し、
「質」を向上させる。
2)命名効果(イメージの記号化)
:練習に名前を付けることによって記憶の手助けをし、
「質」を向上させる。
3)リボーの法則(整理・記憶)
:練習した内容をノート等に整理して、記憶させ、「質」
を向上させる。
4)即時確認の原理(指示の与え方)
:記憶が薄れる練習後ではなく、練習中にいちいち
指示を与え、「質」を向上させる。
5)セガルニク効果(中断効果):練習を途中で中断してしまうことによってインパクト
を与え、考えさせることによって「質」を向上させる。
6)順序効果:最初に応用練習から始めて、目的意識を明確にし、「質」を向上させる。
また、練習の順序(内容)を変化させることによって、飽きを無くし、「意欲」を増大さ
せる。
7)ピグマリオン効果(期待効果)
:スポーツ実践者に期待をかけて、
「意欲」を増大させ
る。
8)クレスビー効果(アメ効果):スポーツ実践者を褒めたり、何かを賭けたりして「意
欲」を増大させる。
9)雰囲気効果:スポーツ実践者が自発的に、真剣に練習に取り組む雰囲気を作り、「意
欲」を増大させる。
「やらされる」のではなく、「自ら進んでやる」のが理想である。
10)スモール・ステップの原理(問題解決の技法)
:問題解決をさせる際に、いきなり
20
答えを言ってしまうのではなく、ヒントを与えて、最終的にはスポーツ実践者に答えを導
き出させる。
次に、練習には具体的にどのような方法があるのかについて、述べていくことにする。
多くの場合、練習は過去の練習を踏襲したものに留まり、斬新な練習は生まれにくい。こ
れは、スポーツ指導者が大した知識を持たずに練習に臨んでいる為に起きる例である。こ
こで、考えられる練習の方法を紹介する 26) 。
1)全体練習法と部分練習法
.全体練習法(ゲーム・マッチ等、試合方式の練習)
.部分練習法(シュート・パス・ドリブル)
.純粋部分練習法
.漸新部分練習法
.反復部分練習法
.全体・部分練習法
2)集中練習法と分散練習法(休憩の入れ方)
3)系統性(究極のシュート)・統合性(パス&シュート)
・一貫性(両方)練習法
4)変化練習法(徐々にレベルを上げていく)
5)個人・グループ・全体練習
6)目的練習(経過ではなく、最終的な目的を徹底させる)
7)機軸練習(試合の中で、特に重要な点を徹底する)
8)約束練習(決め事を作る)
9)得意技練習(自由な発送・ひらめき・想像力を養う)
10)ルート練習(目的の実現の為に、異なったアプローチをする)
11)失敗練習(故意に失敗する)
12)作戦練習
13)イメージ練習(イメージ・トレーニング)
14)机上練習(ビデオを用いたミーティング等)
15)練習時間
スポーツ指導者は、これらの中から幾つかの練習を抜粋して、一回の練習メニューを作
成することになる。この時、最終的な目標を設定して(例えば、一年後の大会)
、まず年
間の練習計画を作り、一ヵ月、一週間の練習計画を考慮した上で、一回の練習メニューを
作成するのが望ましい。一回一回の練習に関連性が何も無くては、上達はあり得ない。更
に、練習場所・施設、気候等の外的要因も十分に考慮した上で、できる範囲での最も成果
の上がる練習が必要である。
第5節 チームづくり
ここでは、前節の内容を踏まえ、チーム全体の指導論についての話を進めていくことに
する。スポーツ活動の大部分は、個人種目であっても多くの場合、チームという形を取っ
て行われる。もし、スポーツ指導者とスポーツ実践者が一対一でレベルアップを目指す(教
え子が一人の)場合には、チームは個人として考えることにする。
21
スポーツ・チームとは、チームリーダー(指導者・キャプテン)の下、共通の目標・ル
ールを持った、性格・実力の異なる個人の集まりである。その中で、理想のチームとは、
性格・実力の異なる個人が一致団結し、同じ時間を共に過ごし、楽しみや苦しみを共有し
て、共通の目標の実現の為に全員が努力しているチームである。ここで重要なのは、共通
の目標がどのようなものかという事である。多くのチームは、試合に勝利する事が最大の
目標であるが、中には皆でスポーツを楽しむ事が最大の目標である人もいる。非常に強い
チームがあったとしても、一人でも目標の異なる人がいるチームは、理想的なチームとは
言えない事を、ここで敢えて記しておく。
多くのチームは、試合に勝利する事が目標であると前提した上で、スポーツ指導者は、
いわゆる「強いチーム」を作る必要がある。ここで、強いチームとはどのようなチームで
あるかを挙げていく 27) 。
1)優秀な指導者が存在している。
2)雰囲気が良く、活気・熱気にあふれている。
3)効率の良い練習をしている。
4)行動が迅速である。
5)モティベーションが高いレベルで統一されている。
6)競争(厳しい)と強調(楽しい)の調和がとれている。
7)軸となる実践者が存在する。
8)全体の底上げと、強い部分のバランスが取れている。
9)OBを含めた、上下関係が良い。
10)特徴がある。
(良く走るチームとか)
11)規律・挨拶・チーム意識・まとまり等、人間のモラルが高い。
スポーツ指導者は、これらの項目をより多く実現すべく、チームを指導していかなけれ
ばならない。
第6節 知識以外の要素
この章では、スポーツ指導者に必要な「知識」について主に述べてきた。ここに述べた
事を全て知っているスポーツ指導者は、殆ど皆無に等しいであろう。しかし、スポーツ指
導者は、実際に指導の現場に向かう前に、本や講習会等でできるだけの知識は得ておくべ
きである。また、自分の知らない分野(例えば、医学的知識等)がある場合は、詳しい人
物と共同で指導にあたったりする事も必要である。
とはいえ、これらの「知識」を全て知っていれば、優秀な指導者という訳ではない。知
識を有していることは、スポーツ指導のほんの一端に過ぎないとも言えるのである。それ
では、知識の他にスポーツ指導者に必要とされる要素とはどのようなものか、考えられる
ものを順に述べていくことにする。そして、これから述べる事は、スポーツ指導者として
の要素だけでなく、教師として、上司として、先輩として、そして親としても必要な、ご
く人間的な事でもある。
1)熱意・誠意・創意
22
スポーツ実践者を指導する際には、熱意があることが大前提である。やる気の無いスポ
ーツ指導者は、指導する資格は無い。とはいえ、自分の事を犠牲にしてまでもスポーツ指
導に時間を裂く程の熱意は必要無い。自分の時間の中で、できうる限りの努力をすべきで
ある。また、スポーツ実践者に対して誠意を持って指導にあたることも必要である。全て
の人に平等で、実力によって差別をするようなことはしてはならない。更に、様々なアイ
デアを考えつく創意も必要である。
2)専門技術・リーダーシップ
スポーツ実践者を指導する際には、彼らを納得させられるだけの何かを持っていなけれ
ばならない。それは、人より遥かに優れた専門技術(巨人:長嶋茂雄)であり、強力なリ
ーダーシップ(中日:星野仙一)である。これらを総称して、カリスマとも言えるかもし
れない。もっとも、カリスマだけでは、優秀な指導者ということは全く言えないのだが。
3)論理性・説得力・問題解決能力
スポーツ実践者を納得させるだけのカリスマが無い(例えば、現役時代に実績の無い)
スポーツ指導者は、それに代わる何かが必要になってくる。そこで、多くの知識に裏付け
された理論(札幌:岡田武史)がその代わりとなるのである。練習内容に対して疑問を持
っているスポーツ実践者を、理論によって説得し、問題解決を図る。特に、上級者相手に
指導をする際には、スポーツ実践者個人個人がそれぞれの考え方(哲学)を持っている場
合が多く、彼らを説き伏せる為にも、これらの能力が必要である。また、2)と3)の両
方を備えている(阪神:野村克也)に越した事はない。
4)自信・絶対的な信頼感
2)と3)に関わってくるが、スポーツ指導者は信用第一である。スポーツ実践者から
の信用を得られなくなったら、スポーツ指導者はおしまいである。その為、スポーツ指導
者はスポーツ実践者に不安を与える事無く、常に自信を持って指導にあたることが必要で、
それはスポーツ実践者の自信にも繋がる。
5)首尾一貫した指導力
4)に関連して、スポーツ実践者の信用を損わない為には、首尾一貫した指導が必要で
ある。言っている事が毎回異なるなどという事は、あってはならない。
6)希望・夢・ビジョン・ロマンを示す能力
スポーツ実践者に対して、目標を設定してあげる事が必要である。その際には、出過ぎ
た目標ではなく、あくまで実現可能な中で最高の目標を掲げてあげる必要がある。しかし、
子供達を教える際には、将来の希望や夢を抱かせてあげる事が必要である。
7)謎
スポーツ指導者は、スポーツ実践者に対して、全てをさらけ出すわけではなく、少しの
謎を残しておくべきである。これによって、両者の間に、程よい緊張感が生まれる。
8)コミュニケーション能力
これこそが、スポーツの指導に関して、最も重要で、最も難しい要素であるかもしれな
い。スポーツ指導者一人一人、また、スポーツ実践者一人一人の性格が異なる為、円滑な
コミュニケーションを保っていくことは大変であるが、自分の知識を正しく伝える為に、
より効果的な指導をする為に、相手とのコミュニケーションが円滑にとれている必要があ
る。
23
また、コミュニケーションをとる相手は、何もスポーツ実践者のみに限ったことではな
い。例えば、スポーツ実践者が子供の場合、彼らの親とのコミュニケーションも大切であ
るし、プロチームや日本代表チーム等の指導者は、マスコミとのコミュニケーションも大
切である。更に、トレーナーや専属ドクター等の、他のスタッフと共に指導を行う際には、
彼らとのコミュニケーションも必要である。
9)経験
優秀なスポーツ指導者になる為には、スポーツ指導者としての成功と失敗を繰り返しな
がら、経験を次に生かしていく事が不可欠である。現在、いわゆる「名将」と呼ばれてい
るような監督も、昔は多くの失敗をしてきたのである。今回はスポーツ指導に必要な知識
について述べてきた為、経験に関しては敢えて触れてこなかったが、これも重要な要素で
あることは間違いない。
24
第3章 今後の対策
第1章では、日本におけるスポーツ指導の現状と問題点の抽出について述べてきた。ま
た、第2章では、スポーツ指導とはどのようなものか、どのようにスポーツ指導をすべき
なのかについて述べてきた。この章では、第2章で述べたスポーツ指導が的確に行われる
為に、第1章で指摘した問題点について、考えられる解決策を探っていくことにする。
第1節 問題点の分類
第1章の第2節、第3節の終わりに、現在のスポーツ指導における問題点を挙げてきた。
これらの問題点を、学校スポーツ(運動部活動)のみに関する問題点、社会スポーツのみ
に関する問題点、両者に関する問題点に分類する。
1.学校スポーツ(運動部活動)のみに関する問題点
1)部活動の日数・時間数・事故責任・報酬等の教師の負担
2)顧問教師の指導力不足への対応
2.社会スポーツのみに関する問題点
1)社会スポーツにおける高度化(国際競技力向上)に対する適切な指導システム、指導
者の配備
2)社会スポーツにおける大衆化(生涯スポーツ)に対する適切な指導者の配備
3)スポーツ指導者資格の認定制度と社会的価値の向上
3.学校スポーツと社会スポーツの両方に関する問題点
1)施設の整備
2)運動部活動の学校における教育上の位置付けと社会スポーツとの関係
第2節 問題点に対する今後の対策
ここでは、第1節の問題点に対する今後の対策について、述べていくことにする。
1.学校スポーツ(運動部活動)のみに関する問題点
1)運動部活動の日数・時間数・事故責任・報酬等の教師の負担
運動部活動には、あくまで学校教育活動内で、適切な指導が行われるべきである。よっ
て、週に6・7日というような過度な活動は避けるべきである。行き過ぎた活動量は、生
徒の心身に疲労を蓄積し、事故を引き起こしかねない。また、自分の行っていた種目が嫌
いになってしまい、卒業後にはその種目を行わなくなってしまうという、いわゆる「燃え
つき」の一因にもなってしまう。学生の本分が勉学にあるとするならば、また、週5日制
の意味を考えるならば、週末の部活動は行わず、平日も2∼3時間程度が適切であろう。
これなら、生徒・教師共に、それほど負担にならないし、教師が常に現場にいることも可
25
能ではなかろうか。また、この程度ならば、部活動に対する報酬も、適切な額を支給する
ことができるのではないか。
また、万が一事故が起こった場合の補償制度の確立も必要であろう。これに対しては、
1978 年7月に定められた『全国市長会学校災害賠償補償保険』
(全国市長会)の中で、
「管
理者側の過失の有無にかかわらず市が一定の補償」をすることになっている。補償制度に
関しては、社会スポーツの場合にも、幾つかのスポーツ関連団体が同様の制度を取り入れ
ている。
2)顧問教師の指導力不足への対応
学校の教師は、自分の担当する教科を教えるのが主な目的であるから、運動部活動に対
する専門的知識が不足しているのはいわば当然のことである。
『運動部活動の在り方に対
する調査報告書』
(前出)の中では、
「顧問が実技の指導力を向上させて、生徒のスポーツ
ニーズによりこたえていくことも望まれているところである。
」と述べられているが、私
はこの意見には反対である。怪我の予防等、最低限の知識は必要にしても、実技の指導力
を向上させるのは無理な話である。学校スポーツは大衆化の目的のみの為に活動し、高度
化を求める生徒及び教師に対しては、社会スポーツにその場を移すことが良いと思う。こ
のことに関しては、
後の学校スポーツと社会スポーツの関係の中でより詳しく述べていく。
2.社会スポーツのみに関する問題点
1)社会スポーツにおける高度化(国際競技力向上)に対する適切な指導システム、指導
者の配備
現在では、世界レベルに匹敵する選手を育てる為には、学校スポーツにおいて秀でた実
力を持つ生徒を発掘し、ジュニア期から一貫した指導を行っていくことが求められている。
これは、学校スポーツからは切り離し、社会スポーツの中で行われるべきである。例えば、
平日には学校で大衆化に対応した指導を行い、週末に生徒が望むならば彼らを集めて高度
化に対応した指導を行うとか、平日から高度化を求めるのであれば社会スポーツにおいて
指導が行われるという具合である。
『生涯にわたる心身の健康の保持増進のための今後の健康に関する教育及びスポーツの
振興の在り方について』(前出)の中では、一貫指導のカリキュラムの策定指針が示され
ている。私はこの考え方には賛成であるが、その際に注意しなければならないことがある。
それは、スポーツだけに片寄った人間にしてしまうのではなく、学業や性格等の部分も同
時に育成しなければならないということである。どんなことをしてでも勝てば良いという
のは、世界レベルの選手にとっては必要なことかもしれないが、プレー中とそれ以外の部
分での区別をはっきりと指導する事が必要であろう。
また、指導者は、外国の指導者を起用する等の他に、現在行われている競技力向上指導
者養成事業(後述)の更なる推進と、技術指導者だけでなく、スポーツトレーナーやカウ
ンセラーも同時に育成する必要があるだろう。
2)社会スポーツにおける大衆化(生涯スポーツ)に対する適切な指導者の配備
この問題に関しては、保健体育審議会等による過去の数々の答申の中で、常に同様の表
26
記がされている。『生涯にわたる心身の健康の保持増進のための今後の健康に関する教育
及びスポーツの振興の在り方について』(前出)の中では、
「地域住民が豊かなスポーツラ
イフを実現していく上では、各ライフステージの特性を踏まえた指導のできる指導者の確
保が必要となる。(中略)地域スポーツ振興の推進者、コーディネーターとして欠かすこ
とのできない重要な役割を果たしている体育指導委員については、一層の資質の向上を図
る観点からスポーツ指導者資格を有する者を優先的に任命するとともに、女性のスポーツ
参加を促進する観点から女性の登用の促進を図ることが望まれる。
」と述べている。しか
し、具体的にどの程度の人数が配備されればいいのかという将来の数値目標については、
触れられていない。
3)スポーツ指導者資格の認定制度と社会的価値の向上
1997 年現在、文部大臣の認定を受けているスポーツ指導者要請事業は、財団法人日本
体育協会をはじめとして次の6分野の 48 団体、74 事業に及んでおり、国民のスポーツニ
ーズに対応したきめ細かいものとなっている。
特定の競技種目に関する指導に当たる指導者
.地域スポーツ指導者(スポーツ指導員)…C級・B級・A級
31 競技種目(陸上・水泳・サッカー・スキー・テニス・ボート等)
それぞれの地域においてスポーツ活動を実践しているグループ・スポーツ教室・クラブ
等で、地域住民を対象に特定の種目についての指導を行う。
(スポーツの大衆化に対応)
.競技力向上指導者(コーチ)…C級・B級・A級
32 競技種目(陸上・水泳・サッカー・スキー・テニス・漕艇等)
全国各地でスポーツ活動を実施しているチームやクラブで、特定の種目について、競技
選手の競技力の向上を図る。
(スポーツの高度化に対応)
.商業スポーツ施設における指導者(教師)…C級・B級・A級
6競技種目(水泳・スキー・テニス・ゴルフ・エアロビック・スケート)
商業スポーツ施設(スポーツジム・クラブ等)において、職業として特定の種目の指導
を行う。
競技種目を横断したスポーツ活動の相談・指導に当たる指導者
.スポーツプログラマー…1種・2種
1種は主に各地域において、2種は主に商業スポーツ施設において、運動・スポーツを
これから行おうとする者に対し、相談・スポーツプログラムの提供及び実技指導を行う。
.レクリエーション・インストラクター
地域・職場・学校・福祉施設等で、レクリエーション活動やその活動の組織化・運営等
について指導を行う。
.少年スポーツ指導者…2級・1級
それぞれの地域において、少年のスポーツ活動やスポーツクラブ活動の組織化・運営等
27
について指導を行う。
これらの資格は、それぞれ定められた講習会(もちろん有料)を受講し、検定試験を受
けて認定される。尚、一定の条件を満たす者に対しては、講習・試験の全部・一部の免除
が認められている。
また、最近Jリーグの現役選手・引退した選手が日本サッカー協会公認のサッカー指導
員の資格を得る為に、講習会に参加していることがマスコミによって報じられ、知名度の
上昇につながっていると考えられる 28) 。ここで、サッカー指導員の資格認定の概要を
詳しく見ていくことにする(表 19 参照)
。
表 19 によると、彼等は相当の額の出費をしてこれらの資格を取得する。そしてこの出
費に対して、彼らが体育団体・スポーツクラブ等において指導する際、どの程度の報酬を
得ているのかについては、まだ問題点として指摘されてはいない。しかし、今後、彼等の
人数の増加や社会的価値の向上に伴い、このことが問題になることは大いに予想できる。
今は、スポーツ施設等の職員として、本業として指導を行っているスポーツ指導者(他に
プロスポーツ指導者・代表監督)と、指導活動を副業として行っているスポーツ指導者が
いると考えられるが、今後副業として指導を行っているスポーツ指導者がスポーツ指導者
として生活していけるのか、という問題が考えられるのである。ボランティアに頼るので
はなく、きちんとした報酬を用意することが必要である。そのことによって、これまで学
生時代スポーツを中心に生活をしてきた人間に対しての就職先の選択肢の増加にも繋がる
とも考えられる。
更に、48 団体、74 事業以外のスポーツ種目の指導者の育成はどうするのか、といった
問題も挙げられる。例えば、競技人口が少なかったり、歴史が浅かったりといったニュー
スポーツの指導者である。大抵の場合は、そのスポーツを実践経験した者が指導者となる
為、解決策は現時点では見当たらない。よって、ここでは、今後考えうる問題点として指
摘しておくに留める。
3.学校スポーツと社会スポーツの両方に関する問題点
1)施設の整備
この問題に関しても、指導者の配備と同様に、保健体育審議会等による過去の数々の答
申の中で、常に同様の表記がされている。ここでは詳しいことは述べないが、具体的にど
の程度の施設が配備されればいいのかという将来の数値目標については、指導者の配備と
同様に触れられていない。
2)運動部活動の学校における教育上の位置付けと社会スポーツとの関係
運動部活動に入部する生徒は、様々な目的を持って入部してきている。その中には、高
度化(将来スポーツ選手になる等)を目的としている生徒もいれば、大衆化(健康の為・
楽しむ為等)を目的としている生徒もいる。そして、日本では、競技スポーツ選手(高度
化)の多くが、ジュニア期は学校における運動部活動を中心に活動している。更に、一部
の勝利主義的な考え方に基づく行き過ぎた活動や指導が問題視されている一方、指導者の
28
実技指導力不足に伴って外部指導者の活用が促進されている。
社会スポーツについても同様に、様々な目的を持ってスポーツを行っている。生涯スポ
ーツをすることによって健康の維持・仲間との交流を深める等の目的を持った人がいる一
方、競技スポーツをすることによって国際競技力向上を目指す人もいる。
よって、学校スポーツ(運動部活動)と社会スポーツにおける大衆化と高度化の関係に
ついては、次の3つの在り方が考えられる。
1)学校・地域共に大衆化・高度化の両方を担う(現行)
。
2)学校は大衆化か高度化のどちらか一方のみ、地域は大衆化・高度化の両方を担う。
3)学校は大衆化のみ、地域は大衆化・高度化の両方を担う。
まず、1)の場合、学校スポーツにおいて高度化・大衆化の両方を担うのは非常に困難
である。一つの運動部活動の中で、高度化を目的とする生徒と、大衆化を目的とする生徒
が混在することはお互いの意識に大きなズレが生じる。もし、学校の中に高度化に対応す
る運動部活動と、大衆化に対応する運動部活動の2つの部があれば良いのだが、それはま
すます不可能であろう。よって、学校スポーツは一つの目的のみに対応していなければな
らない。
次に、学校が高度化のみの目的の為に運営された場合、指導者の実技指導力の不足によ
って外部指導者の活用が必要になってしまう。また、大衆化の目的を持っている生徒が、
その部活動に入部できなくなってしまったり、過度の練習によって学業に支障をきたす事
も考えられる。
よって、私はこの中で、3)が最も理想的な在り方ではないかと考える。これならば、
運動部活動における教師の負担も軽減し、外部指導者に頼ることもなく、最低限の知識で
できる範囲での指導を行うことが可能である。生徒の方も、運動部活動が学業に支障をき
たす事も無く、実力のレベルを問われない環境の中で、大衆化の目的を大いに果たすこと
ができる。一方、高度化を目指す生徒は、社会スポーツにおける競技力強化の中の一貫指
導カリキュラムの中で、思う存分に実力を伸ばすことができる。そして、各年代で社会ス
ポーツを行う者は、各々のニーズに合ったスポーツクラブ・チームの中で、その目的を達
成することができる。
但し、3)の場合では、これまで広く国民に認知され、メディアにも取り上げられるこ
との多かった野球・サッカー・ラグビー・バレーボールなどの全国高校選手権大会(特に
甲子園)のレベルの衰退が予想され、観客が離れてしまうことも予想される。これに対し
ては、学校と地域クラブチームが共に参加できるような大会を作り(例:全日本ユースサ
ッカー)、これまでの大会に代替すれば良いと考える。この場合、高度化を目的とした地
域クラブチームの方が明らかにレベルが高くなってしまうだろう。しかし、全国大会に出
てくる多くの運動部活動チームが高度化を追求し、過度な練習を課して勝ち残ってきたい
わば地域クラブチームの一つと考えるならば、このような形の方がまだ良いのではないか
と思うのである。
ちなみに、『生涯にわたる心身の健康の保持増進のための今後の健康に関する教育及び
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スポーツの振興の在り方について』(前出)の中では、運動部活動と地域スポーツの関係
について、以下のような抽象的で曖昧な意見を述べている。「地域や学校段階等において
多様な実情があることにも配慮し、全体としては、学校における運動部活動の適切な展開
と地域スポーツの一層の振興を図り、両者の連携を図りながら、多様な児童生徒のニーズ
にこたえる環境を整備するという考え方が必要である。その際、外部指導者や地域のスポ
ーツクラブ、民間スポーツクラブの活用などにより、運動部活動と地域社会との連携を深
めていくことが望まれる。また、地域において活発なスポーツ活動が行われており、しか
も学校に指導者がいない場合など、地域社会にゆだねることが適切かつ可能な場合にはゆ
だねていくことも必要であると考える。
」
この文章に関わらず、答申等に書かれた今後の対策についての文章には、このような抽
象的な表現が非常に多かった。このような書き方を続けている限り、半永久的にこれらの
問題点は改善されず、同様の表記がされ続けるのではないか、という懸念もある。1年単
位で目標を示すとか、もう少し具体的な文章で解決策を示すことも必要ではなかろうか。
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終章
戦後日本は、社会スポーツが未整備な中で、スポーツの普及を学校体育に頼らざるを得
なかった。その為、学校スポーツと社会スポーツには指導を含めた多くの問題点が噴出し
ていた。そして近年、ようやく社会スポーツの基盤が整備されてきたように思える。
しかし、スポーツ指導に関する問題は流動的であり、ここに述べた問題点はあくまで現
時点での問題に過ぎず、今後別の問題が生じることも大いに考えられる。日本におけるス
ポーツ体制そのものが確立(どの程度発展すれば確立した状態と言えるのかも議論すべき
問題であるが)するまで、多くの改革が今後もなされていくことであろう。
このテーマで研究を進めていく上で、スポーツに関する団体の数が非常に多く、それら
の関連性が複雑だった為、把握するのが非常に手間取った。論文を書き終わった現在でも、
完全に把握しているとは言い難い。その為、ごちゃごちゃした論文になってしまった。ス
ポーツ指導者という枠組みの中でも、非常に多くの資格が混在していて、どの資格がどの
団体の公認のもので、社会的にどれほどの価値を持つ意義のある資格なのかということも、
いまいち把握し難いという印象を受けた。この論文の製作にあたって、私自身も人並以上
のスポーツ指導者に関する知識を得たつもりでも、そう感じたのである。となれば、ごく
普通にスポーツに接する人にとっては、ますます解りにくいシステムになっているのでは
なかろうか。作業が面倒だったからという訳ではないが、これらの関連団体、及び、スポ
ーツ指導者の資格を、もう少しすっきりとさせることも必要ではないだろうか。
これは余談であるが、2年間スポーツ産業論について勉強してきて、スポーツが「見る
スポーツ」と「するスポーツ」の両面で国民の生活の中で大きな比重を占めるようになり、
更なる広がりを見せる中で、スポーツに関する問題点は、膨大な数に上っていると感じた。
ここはひとつ、日本にもスポーツ省なるものを作り、スポーツにおける諸問題を取りまと
める組織として、機能させることはできないだろうか。欧米では、多くの国で、スポーツ
省が存在するそうである。スポーツに対する国の認識が、日本ではまだ薄いと感じる。日
本が様々な意味でスポーツ大国を目指すのであれば、そのような対策も必要ではないかと
思うのである。
31
文献目録
1.文部省体育局監修『体育・スポーツ指導実務必携(平成 10 年版)
』ぎょうせい、1998
年。
2.嶋田出雲『スポーツ・コーチ学−ストリーム理論とトリー理論による勝利への道−』
不昧堂出版、1998 年。
3.内海和雄『部活動改革−生徒主体への道−』不昧堂出版、1998 年。
4.L.レゲット、綿井永寿監訳『コーチの心得』不昧堂出版、1994 年。
5.資格試験研究会『2000 年度版スポーツの資格オールガイド』実務教育出版、1998 年。
6.
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7.文部省『平成8年度我が国の文教施策』http://www.monbu.go.jp/hakusyo/ 1999 年
1月 25 日付。
8.岡田武史「ワールドカップを戦い終えて」
『論座』朝日新聞社、1998 年 11 月号。
9.平尾誠二『勝者のシステム−勝ち負けの前に何をなすべきか−』講談社、1996 年。
10.浜田昭八『監督たちの戦い』日本経済新聞社、1997 年。
11.http://aulos3.mainichi.co.jp/worldcup/newsJapan/9801/19-01.html 1999 年1月 25
日付。
12.体育社会学研究会編『体育・スポーツ指導者の現状と課題』体育社会学研究五、道和
書院、1976 年。
13.平松携「スポーツ指導者の役割や関わり方に関する研究」
『体育・スポーツ社会学研
究2』体育・スポーツ社会学研究会編、道和書院、1983 年。
14.鈴木守「体育・スポーツ指導者論の成果と課題」『新しい体育・スポーツ社会学をめ
ざして』体育・スポーツ社会学研究 10、体育・スポーツ社会学研究会編、道和書院、1991
年。
15.浅見敏雄など編『現代社会とスポーツ』現代体育・スポーツ体系、第3巻、講談社、
1984 年。
16.浅見敏雄など編『体育・スポーツの振興』現代体育・スポーツ体系、第4巻、講談社、
1984 年。
注
1)岡田武史「ワールドカップを戦い終えて」
『論座』朝日新聞社、1998 年 11 月号、75
ページ。
2)内海和雄『部活動改革−生徒主体への道−』不昧堂出版、1998 年、60 ページ。
3)同上書、61 ページ。
4)同上書、62 ページ。
5)同上書、64 ページ。
6)同上書、69 ページ。
7)同上書、60 ページ。
8)保健体育審議会…1949 年設置。文部大臣の諮問に応じ、学校体育・社会体育・学校
32
保健・学校給食に関する事項を調査審議し、文部大臣に建議する。
9)中学・高校生のスポーツ活動に関する調査研究協力者会議『運動部活動の在り方に関
する調査報告書』文部省体育局『体育・スポーツ指導実務必携』平成 10 年度版、ぎょう
せい、1998 年、2135 ページ。
10)中央教育審議会…1952 年設置。教育に関する文部大臣の最高諮問機関。教育・学術・
文化に関する基本的施策について調査審議し、建議する。
11)『財団法人日本体育協会寄附行為』文部省体育局『体育・スポーツ指導実務必携』平
成 10 年度版、ぎょうせい、1998 年、1301 ページ。
12)内閣総理大臣官房広報室『体力・スポーツに関する世論調査』文部省体育局『体育・
スポーツ指導実務必携』平成 10 年度版、ぎょうせい、1998 年、1638 ページ。
13)同上書、1653 ページ。
14)嶋田出雲『スポーツ・コーチ学−ストリーム理論とトリー理論による勝利への道−』
不昧堂出版、1998 年、16 ページ。
15)同上書、25 ページ。
16)同上書、39 ページ。
17)同上書、63 ページ。
18)同上書、80 ページ。
19)同上書、90 ページ。
20)同上書、 128 ページ。
21)同上書、 129 ページ。
22)同上書、 139 ページ。
23)同上書、 171 ページ。
24)同上書、 230 ページ。
25)同上書、 232 ページ。
26)同上書、 235 ページ。
27)同上書、 269 ページ。
28)
『日刊スポーツ』日刊スポーツ新聞社、1999 年1月 17 日、第7版。
33