MRI による膝関節撮像法の検討 ~膝関節腔・十字靭帯~ 東北大学医療技術短期大学部平成 15 年卒業 ○菅原 祐也 金子 桂子 木村 康彦 (Sugawara Yuya) (Kaneko Keiko) (Kimura Yasuhiko) 片倉 千春 (Katakura Chiharu) 東北大学医療技術短期大学部 診療放射線技術学科 大石 幹雄 小倉 隆英 【はじめに】 現在膝十字靭帯の診断には,主としてMRIによって描出された画像が活用されている. しかし,MRIによる膝の撮像法は膝関節の概観もしくは全体像を捉えようとするものであり,十字靭帯その ものに特化しているとはいえない.また,前十字靭帯(ACL)は後十字靭帯(PCL)に比べて細く,断裂多発 部位であるにもかかわらず現在の撮像法でその全長を一枚の画像に捉えることは困難である. そこで,ACLの解剖学的検証を行い,独自の角度設定によるACL撮像法を検討した. 【使用機器】 l MR装置 signa profile (GE横河メディカルシステム社)磁場強度0.2T,クワドラチャ四肢用コイル l Imager FM‐DP3543T (FUJI) なお,実際の画像計測にはPOPネットを介してパーソナルコンピュータ上に出力されたDICOM 画像を用いた. 【測定対象】 測定の対象は,健常男女各10名(年齢18~23)である. 【方法】 (1) 解剖学的基礎測定 ACL は大腿骨外側顆の内側辺縁上方から脛骨前顆に向かって走行している.そのような ACL の走行の 個体差は有意であるのかを調べるために,解剖学的基礎測定を行う.シーケンスには解剖学的な情報が 得やすい T1 強調像を用いる.Axial localizer,Coronal Spin Echo(SE)T1 強調像,Sagittal SE T1 強調像の 順に撮像し正中を定める.次に Axial SE T1 強調像を撮像し,これを位置決め画像とする.最後に ACL の 観察が容易な Sagittal SE T1 強調像を撮像する. 続いて,この得られたSagittal像の中心スライス面の画像で大腿骨-脛骨間距離を測定する.また, localizerに使用したAxial像で大腿骨顆最大横長を測定する. 膝蓋骨 大腿骨 ACL 膝蓋骨 ★ * 脛骨 Fig.1 大腿骨-脛骨間距離(*) 大腿骨外側顆 大腿骨内側顆 Fig.2 大腿骨顆最大横長(★) (2) 基準角の設定と最適描出角度の検討 大腿骨内外顆後面を結ぶ線Lと大腿骨外顆内側縁との為す角を測定し,これを基準角とする.基準角か ら±5度,±10度と角度θを変化させて膝関節の撮像を行う(Fig.3). 基準角+θ 基準角 基準角-θ L L L Fig.3 基準角と振り角θ (3) 画像の視覚評価 得られた画像を放射線科医と整形外科医にて視覚評価を行う.その基準は Table1 のように,Excellent, Good,Fair,Poor,の4つのカテゴリに分類しそれぞれ 3 点,2 点,1 点,0 点と点数化する. Excellent Good 3点 2点 Fair Poor 1点 0点 Table1 1 スライスに ACL の全長が撮像され,かつ,ACL の辺縁が明瞭 1 スライスに撮像されているが辺縁不明瞭,または 2 スライスにまたがる が辺縁明瞭 全長が 2 スライス以上にまたがり辺縁が不明瞭 ACL の同定が困難 【結果】 大腿骨-脛骨間距離と大腿骨顆最大横長を測定した結果(Fig.4),相関係数は男子0.136,女子 -0.242,男女-0.079となった.また,大腿骨外顆内側縁の角度の平均は62.7°であり,基準角は63°とした. 標準偏差は4.05°であった. 大 腿 骨 顆 最 大 横 長 ( m m ) 男子 10 女子 人 数 12 10 60~64 8 8 65~69 6 6 4 55~59 4 2 2 0 55 65 75 y = 0.052x + 3.224(男子) y = -0.1073x + 15.808(女子) 85 95 50~54 105 0 大腿骨脛骨間距離(mm) Fig.4 5 0 ~5 4 角度(°) Fig.5 大腿骨外顆内側縁の角度 視覚評価においては,基準角63°での撮像が高得点を示す傾向にあり,平均点は1.17(73°),1.54 (68°),2.33(63°),1.58(58°),1.33(53°)となった. Kruskal-Wallis検定を行った結果,この平均値 に有意差がみられた.続いて,Bonferroniの修正を加えてMann ‐Whitney検定を行ったところ,63°には他 の全ての角度に対して有意差 がみられた.また,63°以外の 角度の間に有意差はみられな かった. 【実際の画像】 同一被験者による実際の画 像を示す.通常の撮像では ACLの中間部位が明瞭に撮像 されているが,その全長は1ス ライスに存在しない.検討した 63度での撮像では,ACL起始 部から停止部までの全長が1ス ライスに撮像されているのが認 められる. * * * 点 3.0 数 * 2.5 *有意差あり 2.0 1.5 1.0 53 -10 58 -5 63 0 68 5 73 10 角度(°) Fig.6 通常の撮像 検討した角度での撮像 Fig.7 【考察】 大腿骨-脛骨間距離と大腿骨顆最大横長の間に相関はみられない.これはACLの走行部位である大腿 骨-脛骨間に大腿骨内側顆外側顆の大きさは影響しないことを示しており,18~23歳には統一した撮像 法が使用できると考えた. ACLの全長を1枚の画像に撮像するには大腿骨内外顆後面を結ぶ線を基準として63°のスライス面を設 定することが有効であるといえる.ただし,このような撮像を行った場合、obliqeの断面となっているため,読 影の際,オリエンテーションの把握が難しいという短所も存在する.したがって,通常の撮像と併用されるこ とを前提とし,ACL断裂が疑われる症例に適宜追加して撮像することが有効であろうと考える. 【まとめ】 大腿骨内外顆後面を結ぶ線から大腿骨外顆内側縁までの角度は平均62.7±4.05°であり,大腿骨外顆 内側縁付近のこの平面を中心にスライス面を定めるとACLの全長を1枚の画像に撮像することができる. 【参考文献】 須田善雄:関節外傷のMRI.画像診断別冊7骨・関節の画像診断.pp.145-148,秀潤社,東京,(1989)
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