1A01 宇宙教育センターにおける水ロケット DVD 制作について

1A01 宇宙教育センターにおける水ロケット DVD 制作について
○三浦政司,和田豊,勝身俊之(総研大),遠藤純夫, 秋葉倫子(JAXA宇宙教育センター),
石井信明(JAXA),石井雅幸(千代田区立九段小),百瀬一郎(武蔵野市立第四中)
The Production of DVD for water-rocket
Masashi Miura, Yutaka Wada, Toshiyuki Katsumi (SOKENDAI), Sumio Endo, Tomoko Akiha
(JAXA/SPACE EDUCATION CENTER), Nobuaki Ishii (JAXA/ISAS), Masayuki Ishii (Kudan elementary
school) and
Ichiro Momose (The fourth Musashino municipal junior high school)
Key Words: Water-rocket, Space education, Educational tool, Hands-on
Abstract
JAXA SPACE EDUCATION CENTER produced the DVD and manual for water-rocket educators. Concept of this
production is to show easy and safe instruction of the water-rockets and launchers. In this report, the new type
water-rocket and launcher are introduced and contents of the DVD and manual are summarized.
1.水ロケット DVD 制作の背景
水ロケットは小中学校の理科で教えられる水と空
説書を目指して、水ロケット DVD および指導者用マ
ニュアルを制作した。
気の性質や作用反作用などの事柄と宇宙ロケット技
術を結びつけることができる恰好の教材であり、子
2.水ロケットおよび発射台の開発
供たちの人気も高い。近年、学校教育や社会教育の
2-1
現場などでは一部の自主的な教諭によって水ロケッ
トを用いた指導が行われてきている。さらに今年度
水ロケット
水ロケット DVD および指導者用マニュアルの制
作にあたり、図1のような水ロケットを開発した。
からは小中学校の教科書に「水ロケット」の項目が
加わることになり、今後ますます教育現場に取り入
れられていくことが期待される。
一方、水ロケットの形や製作方法には様々なもの
があり、水ロケットに関する書籍も多数出版されて
いるが、どれも水ロケットの作り方の解説にとどま
り、子供たちに安全で確実な水ロケットの打ち上げ
を指導するための解説書はまだない。そのため教育
図1.水ロケット
現場からは、これさえ読めば安心かつ効果的に指導
この水ロケットはスカートの部分にクリアファイ
することができるというマニュアルや専門家の視点
ル、フィンの部分に下敷き、クッションとしてゴミ
からのアドバイスなどを要望する声があがっている。
また、宇宙教育センターには国外からの水ロケット
袋を使用しており、身近で手に入る材料のみを使っ
て作成できる。表1にこの水ロケット1機を作るの
に必要な材料をあげた。また、従来水ロケットに用
に対する問い合わせも多い。そこで宇宙教育センタ
いられているのは円錐形のノーズであるが、この水
ーでは、指導者が水ロケットについて正しく理解し、
ロケットでは丸型のノーズを採用した。水ロケット
子供にわかりやすくかつ安全に指導できるような解
の速度領域では円錐形でも丸型でも空気抵抗がほと
んど変わらないため飛行距離にはほとんど影響ない。
工店で購入できるものを材料とし、複雑な構造を避
さらに、円錐形ノーズの水ロケットでは打上げるご
け、大人が簡単な道具を用いて製作できるよう大部
とにノーズ部分がつぶれて修理しなければならない
が、この水ロケットではその必要がなく、回収後す
ぐに打上げても問題ない。連続打上げによってノー
分に木材を使用した。また、簡単な機構で任意の打
上げ角度に設定できる上に、安全性の面からどの角
ズの耐久性も確認したが、見た目にも変形はなく、
度でも転倒しない構造となっている。そして、適度
飛翔安定性にも問題は確認されなかった。
な長さのガイドレールを設けることで、発射台から
また、この水ロケットでは、フィンの取り付け方
を工夫している。子供が水ロケットを作成する際に
一番困難なことは、真っ直ぐにフィンを取り付ける
ことだが、まずスカートにフィンを取り付けてから
飛び出すロケットの姿勢安定性の向上を図っている。
さらには、簡単な構造にもかかわらず切り離し可能
であることから省スペース化が実現でき、収納・運
スカートを本体に取り付ける方法を採用することに
搬が容易である。費用はおよそ 3000 円、作業時間は
よってその問題を解決した。
2時間程度で工作することができる。
表1.水ロケット1機分の材料
炭酸用ペットボトル
2本
塩化ビニル板またはアクリ
10cm×20cm
ルの下敷き
クリアファイル
1枚(A4サイズ)
油粘土
約50g
ゴミ袋
45ℓ 用1枚
ビニールテープ
1巻
3.水ロケット DVD および指導者用マニュアル
3-1
水ロケット DVD
水ロケットの工作や打上げの手順の解説は、文字
や静止画の図だけでは分りにくい。そこで工作や打
上げの手順を解説した DVD を制作した。約30分の
動画の中で、2-1で述べた水ロケットの工作方法
の解説と、打上げ場の設営から打上げの手順までを
詳細に解説した。また、石井助教授(JAXA/ISAS)を案
内役として、水ロケットを真っ直ぐ高く飛ばすため
2-2
の注意点を分りやすく解説している。さらにメッセ
発射台
水ロケット用の発射台は何種類か市販されるよう
ージや本物のロケットの映像なども用いて、指導者
が水ロケットを教育に採用する動機づけとなるよう
になった。しかし、市販されている発射台にはガイ
な作品に仕上がった。なお、工作方法や打上げ手順、
ドレールのないものがほとんどであり、狙った方向
工夫点などは次に述べる指導者用マニュアルに沿っ
にロケットの姿勢を安定させて打上げることは難し
たものとした。
く、安全だとは言いがたい。そこで、安全を考慮し
姿勢を安定させる4本のガイドレールをもつ図2の
ような発射台をベニヤ板と角材で製作した。
3-2
指導者用マニュアル
水ロケットを教育に取り入れる意義の提示から始
まり、水ロケットや発射台の作成、打上げ場の設営
や打上げ手順などを注意点とともに詳細に解説した
指導者用マニュアルを制作した。小中学校における
指導案の例や水ロケットが飛ぶ原理の詳細な解説も
含んでおり、子供たちが安全にかつ真っ直ぐに高く
水ロケットを打ち上げられるようにするための注意
点が指導者に分りやすく伝わるように工夫した。こ
のマニュアルは、DVD とセットで配布する予定であ
る。
図2.発射台
この発射台は、材料の入手を含め製作が容易で、
4.大学院生の制作への参加について
今回のDVD及び指導者用マニュアルの制作には
安全性に優れると共に、機能的であることをコンセ
宇宙科学研究本部の大学院生が携わり、その中心的
プトに設計されている。街の 100 円均一店や日曜大
な役割を担った。制作の中で大学院生たちは、JA
XAの教職員や小中学校の教諭などと共同で作業を
するという貴重な経験を得ることができ、議論を行
うなかで幅広い知識や多角的な視野を身につけるこ
とができた。また、与えられた条件の中で水ロケッ
トや発射台を設計製作するという作業を通して、試
行錯誤すること、工夫すること、協力することなど、
もの作りにおける基本的な姿勢を学ぶことができた。
さらに飛翔実験や推力実験、性能計算を行うことで、
宇宙科学の分野で研究を行っていくうえで大変有用
となる実験手法や計算方法なども身につけることが
できた。このように水ロケット DVD および指導者用
マニュアルは、それ自身が小中学生の教育に貢献す
るだけでなく、その制作を通して大学院生の効果的
な教育にもつながることとなった。さらに今回の活
動の中で大学院生たちの宇宙教育に対する関心や興
味が高められ、宇宙教育という大きな観点から見て
も大きな成功を収めることができた。
5.水ロケット DVD 応用編について
今回の水ロケット DVD および指導者用マニュア
ルは、水ロケットの最も基本的な内容を扱っている。
しかし水ロケットには、パラシュートをつけたもの
や複数段のものなど、様々な発展型が考えられる。
今後、教育現場の指導者がそのような応用的な内容
を取り扱う機会も増えてくると考えられる。そこで、
宇宙教育センターではそのような応用的な内容を扱
った水ロケットDVD応用編の制作も検討している。
6.まとめ
水ロケット教材と、これを使った教育が教育現場
に広く取り入れられることを考え、指導者のために
水ロケット DVD および指導者用マニュアルを制作
した。その中では、水ロケットが子供たちにどのよ
うな思いや願いを抱かすことができるのか、どのよ
うな力を育てることができるのかそのヒントをいく
つか紹介した。多くの指導者がこの DVD およびマニ
ュアルを見て、子供たちがロケットエンジニアとし
て安全に気をつけながら水ロケットに夢をのせた活
動ができるプログラムを創出することができれば幸
いである。
なお、今回制作した水ロケット指導者用マニュア
ルは JAXA 宇宙教育センターのホームページにて 11
月中旬より無料で配布する予定である。