鉄骨骨組を増築した既存鉄筋コンクリート造建築物の地震応答性状

鉄骨骨組を増築した既存鉄筋コンクリート造建築物の地震応答性状に関する研究
SeismicResponse of Existing Reinforced Concrete Building Strengthened by Addition of Steel Frame System
藤井研究室 0824036 伊東賢治
0824126 神島隆裕
0824176 島村崇宏
1.目的
近年,学校教育においても新しい教育方法や多様な学習
計画が取り入られ,新築される学校校舎においては,従来
Y5
S
造
部
分 Y4
接合部
5000
のいわゆる一文字型とは異なる,かなりフレキシブルな空
間計画がなされる例も増えてきた.このような状況にあっ
て,耐震改修に際しても耐震的な性能向上のみならず,こ
の機会を捉えた教育・学習環境の改善も同時に行いたいと
のニーズも聞かれるようになってきた 1).しかしながら,
増築による建築物の耐震改修設計を行うための具体的な
2000
Y3
既
存
Y2
R
C
造
部
分
Y1
2500
7000
4500
4500
X1
設計指針がないのが現状である.
本研究では,鉄骨架構を増築して一体化した既存鉄筋コ
4500
X3
X2
4500
(a)平面図
550
ート造が平面的に混在した建築物の地震応答を検討する.
600
ンクリート造建築物を対象として,鉄骨造と鉄筋コンクリ
1500
2.検討建築物
2.1 既存鉄筋コンクリート造建築物
検討対象とするのは,図 1 に示す学校校舎を想定した 4
階建て RC 造建築物である.柱断面は,Y1 構面と Y2 構面
×600mm,スラブ厚さは 120mm である.Y1 構面に高さ
4500
X1
4500
X2
高は 3200mm,耐震壁は厚さ 150mm である.建築物の使
1500
3200
1500
3200
3500
4500
X3
4500
X4
X5
(b)Y1 構面軸組図
用コンクリートの設計基準強度は 18N/mm2.使用鉄筋は,
550
600
柱主筋は Y1Y2 構面が 8-D22,Y3 構面は 8-D19 である(両
2600
方とも SD30:sσy=343N/mm2).柱帯筋は 2-9@
200(SR24:wσy=294N/mm2).建築物の単位床面積当たり
の重量は,11.8kN/m2 とする.Y3
3200
1500
は 550×550mm,Y3 構面は 450×450mm,梁断面は 300
1100m の腰壁が付いている.梁のスパンは 4500mm,階
X5
X4
3200
2600
3200
2600
3200
2600
3500
構面(北側)の腰壁・
垂れ壁は撤去し,鉄骨造による増築を行う.
2.2 増築部
柱は一般構造用角形鋼管 300×300×9(BCP235)
,梁
4500
は H 型鋼 350×175×7×11(SN400)を使用することに
した.増築部と既存部分の水平力の伝達はY3構面とY4
X1
4500
X2
構面の間の床で行うと仮定する.
4500
4500
X4
X3
X5
(c)Y2 構面軸組図
3.耐震診断
300
350
3.1 鉄骨架構の増築による改修設計
補強前の耐震性能を 2 次診断により評価した.本建築物
3200
α4=35.4°
は,1 階と 2 階で Is 値が,0.381 となった。またバランス
3200
をとるために,1 階から 4 階まで鉄骨ブレースを用いるこ
α3=35.4°
とにした.
増築後の目標 Is 値は,
2 次診断での Is 値が F=1.0
3200
α2=35.4°
のとき 0.7 以上となるようにした.増築部の重量は、単位
3500
床面積当たり 7.84kN/m2 と仮定する.鉄骨ブレースは二
α1=37.9°
重鋼管ブレースを用いた.1 階と 2 階は,φ273.1×12
(mm)
,3 階と 4 階はφ135.0×7(mm)
,軸力管は両方
4500
4500
X1
X2
4500
4500
X3
X4
とも(STKN400B)を使用することにした.図2にブレ
(d)Y5 構面軸組図
ースの配置を示す.
図 1-解析対象建築物
X5
4.骨組モデルによる検討
4.1 解析モデル
本研究では,既存 RC 造建築物と増築 S 造建築物を部材
レベルでの平面骨組によりモデル化した.ここで既存 RC
造建築物では剛床仮定が成立するとした.同様に増築 S 造
建築物でも剛床仮定が成立するとした.一方,既存建築物
4
3m/s/s(RC)
4m/s/s(RC)
3
層
5m/s/s(RC)
2
6m/s/s(RC)
と増築建築物との接合部については剛床仮定が成立しな
いものとした.ここで接合部の剛性 kJ としては,Y3 構面
と Y4 構面の間に設置する厚さ 15mm のコンクリート床ス
1/100
1
0
0.01 0.02 0.03 0.04 0.05
最大層間変位(m)
図-2 既存 RC 部分の最大層間変位
ラブのせん断変形を考えて算定すると kJ=1.203×10⁷
kN/m となった.そこで解析ではこの値を基準として 1/2
倍,1/4 倍,1/8 倍,1/16 倍の値を仮定した.なお接合部
4
3m/s/s(S)
は弾性挙動するものとした.RC 造部材の復元力特性は,
4m/s/s(S)
本対象建築物で Y3 構面の腰壁撤去によりすべて曲げ破壊
3
型となったため,修正武藤モデルによりモデル化した.一
層
5m/s/s(S)
方の S 造部材では,座屈等が生じないものとして,ノーマ
2
6m/s/s(S)
ルバイリニアーモデルでモデル化した.各解析モデルの弾
性 1 次固有周期の範囲は 0.333~0.336s である.入力地震
動は東北大学 1978NS を使用した。
最大加速度を 3.0m/s²,
1/100
1 0
4.0m/s²,5.0m/s²になるように入力倍率を定めた.減衰は
瞬間剛性比例型とし,弾性 1 次モードに対し減衰定数 5%
と仮定した.
0.01 0.02 0.03 0.04 0.05
最大層間変位(m)
図-3 S 造部分の最大層間変位図
4
略算値
4.2 解析結果
図-2,図-3 に既存部分 RC 造と増築 S 造部分の最大
基準
3
1/2倍
層間変位をそれぞれ示す.ここで,同図中の結果は接合部
の剛性は基準とした値での結果である.同図より,両者の
最大層間変位に差がほとんどないことがわかる.加えて,
階
1/4倍
2
1/8倍
最大加速度が 4.0m/s²のときに 3 層での層間変形が階高の
1/100 に達していることがわかる.そこで,本研究では最
大加速度が 4.0m/s²において応答変位が限界値に達するも
1
1/16倍
0
のとして考察を進める.図-4 に,接合部の剛性を変化さ
せたときの各階接合部の最大せん断力を文献 3)に基づい
て略算した値で比較して示す.なお入力地震動は 4.0m/s²
500
1000
1500
最大せん断力(kN)
2000
図-4 剛性の違いと各階にかかる力の分布
4
略算値
略算値
(2階)
である.同図より,接合部の剛性を変化させても最大せん
断力はほとんど変化しないこと,並びに文献 3)による略
3
算値は解析結果と概ね対応することがわかる.次いで図-
階
5 に入力の大きさを変化させたときの接合部の最大せん断
2
3m/s/s
4m/s/s
5m/s/s
力を示す.同図より,入力の大きさが大きくなるにつれて
接合部の最大せん断力が大きくなるものの,最も大きくな
る 2 階では文献 3)による略算値が応答値を概ね上回って
1
0
いることがわかる.従って,本検討においては文献 3)に
よる略算値のうち最大値を用いることで接合部の設計用
6m/s/s
500
1000
1500
最大せん断力(kN)
2000
図-5 最大加速度と接合部にかかる力の関係
せん断力を評価できると考えられる.
参考文献)
5.まとめ
1)学校施設の耐震改修に関する調査研究(報告書)
,日本
(1)接合部の剛性を変化させても,接合部に生じる最
大せん断力に差はほとんど見られなかった.
建築学会
2)2001 年改訂版 既存鉄筋コンクリート造建築物の耐震
(2)入力地震動の大きさを大きくすると接合部に生じ
診断基準改修設計指針同解説,財団法人日本建築防災協会
る最大せん断力は増大するが,文献 3)に基づく略算値を
3)既存鉄筋コンクリート造建築物の「外側耐震改修マニ
用いることで,設計用せん断力を評価できると考えられる.
ュアル」―枠付き鉄骨ブレースによる補強―,財団法人
日本建築防災協会,2003 年