(様式9) 立命館大学 学外研究成果報告書 2011 年 5 月 31 日 立命館大学長 殿 所属: 経営 学部/研究科 職名: 准教授 氏名: 横田明紀 印 このたび学外研究を終了しましたので、下記のとおり報告いたします。 所属長承認 印 研 究 課 題 企業情報システムの運用と保守作業に関する研究 申 請 区 分 ■ 学部研究科人数・予算枠内 □ 学外資金・セメスターごと人数枠内 滞在先国名 ■ 国外のみ □ 国内のみ □ 国内_ヵ月、国外_ヵ月 (複数ある場合は 全て記入してく ださい) オーストラリア連邦 研究期間 2010 年 4 月 1 日 ~ 2011 年 3 月 31 日 ( 期 研 究 日 程 ① 概 間 2010 年 4 月 ~ □ 役職者別枠 □ 助教 滞在都市名 2011 年 3 月 メルボルン 要 ② 年 月 ~ 年 月 ③ 年 月 ~ 年 月 12 ヵ月間) 研究機関名 Department of Information Systems, Faculty of Science, The University of Melbourne 1.実施状況:研究方法や受入研究機関との関係なども含め、上記研究日程概要に即して実施した事柄を具体的に記述してください。 ■2010 年4 月から2010 年8 月まで 本学外研究では企業情報システム,特に統合基幹業務(ERP: Enterprise Resource Planning)システム(以下,ERP)を対象 に,企業での ERP の活用とそれによって生じる便益(Benefit)について,メルボルン大学での Shanks 教授および Seddon 教授らと共に,世界的な食品メーカーであるケロッグ社(Kellogg),クラフト社(Kraft)のCIO(Chief Information Officer)に 対するインタビュー調査を実施し,ERP の運用開始からの時間の経過と共に,各企業が「ERP からどのような便益を得て いるのか」,「ERP 導入以前と比較してどのような業務の効率が改善されたのか」について分析を行った。また,これら 受入研究機関での共同研究の他に,上記2 社に対して,学外研究期間での研究課題であるERP の「運用と保守」について, これまで実施された保守の内容および保守が必要となった要因に関する追加調査を実施した。 ■2010 年9 月から2010 年12 月まで 9 月と12 月に豪州ブリスベンで開催された国際学会World Computer Congress (WCC) 2010,およびThe Australasian Conference on Information Systems (ACIS) 2010 に参加した。また,12 月9 日にマレーシアで開催されたAsia Pacific Industrial Engineering and Management Systems (APIEMS) 2010 で研究報告を行った。 ■2011 年1 月から2011 年3 月まで これまでメルボルン大学で行ってきた調査を基に, 2011 年8 月4 日から7 日にアメリカ合衆国ミシガン州デトロイトで 開催されるAmericas Conference on Information Systems(AMCIS)2011 での研究報告用の予稿執筆を行った。この予稿は 既に査読を通過し,8 月6 日に報告を行う予定である。 ■学外研究期間を通じて 受入研究機関での研究グループOASIS (Organisational Aspects of Information Systems)のメンバーとして毎週開催さ れた研究会および各種セミナーへ参加をさせてもらった。加えて,学部および大学院授業への参加,修士論文の査読委員を 行い,受入研究機関および各教員との継続的で良好な関係構築とともに,メルボルン大学での研究会,授業,論文審査の水 準を実感し,今後の研究・教育に関する大きな参考となった。 1 (様式9) 2.成果の概要: 今回の研究成果の概要を上記の実施状況に則して具体的に記入してください。 [2500~3000字程度] 1. 保守作業の分類と件数の推移 ERP での保守作業と作業内容を表 1 で示すように 6 つに分類した。 表 1 保守の作業内容と分類 保守分類 (1) 調整的保守 (2) 適応的保守 (3) 拡張的保守 (4) 予防的保守 (5) ユーザ支援 (6) 外的関係 保守作業と作業内容 ・補正プログラムの適用 パッケージ・ベンダーから供給されるパッチ(補正)プログラムを適用することによる不具合の修正 ・トラブルシューティング ユーザから報告された不具合に関する問題解決 ・新しいオブジェクトの適用 パッケージ・ベンダーから供給される新しいデータベース構造やプログラム,レポートなどのオブ ジェクトの導入 ・設定変更と検証 システムの設定変更(コンフィグレーション)と検証作業 ・改良と機能向上 企業が置かれている状況に対応するためのシステムの改良や機能の向上 ・ユーザ管理 利用者の追加と削除,または権限の変更 ・インターフェイスの調整 追加機能やサブ・システム,他ベンダー・システムと結合するためのインターフェイスの調整 ・バージョンアップ パッケージ・ベンダーから提供された新バージョンの性能評価,導入の計画,および導入の実施 ・機能の追加と拡張 システムの性能を高める新たな機能の追加開発とシステム能力の拡張 ・稼働状況の監視 システムの平均応答時間,ファイルサイズ,バックアップ,エラーログなど,システムの稼働状況 の監視 ・ユーザ・トレーニング システムの利用と活用に必要となる知識や技術の習得を目的とした,利用者に対する教育とトレー ニングの実施 ・ヘルプデスク 日常的なシステムの運用や利用に関する利用者からの質問への対応 ・パートナー企業との協働 パッケージ・ベンダー,コンサルティング企業,SI 企業などのパートナー企業および外部の取引 先企業との協働 ・パートナー企業からソリューションの引出 パートナー企業に対するシステムの問題点・不具合箇所の報告,およびパートナー企業からソリュ ーション(解決法)や対応策の引出 調査企業で ERP 運用開始から 60 ヶ月間に実施されたこれら 6 つの保守分類ごとの保守作業の件数の推移には,共通 して次の 3 つの傾向が確認された。 第 1 傾向期 (運用開始直後から概ね 15 ヶ月目) 第 1 傾向期は運用開始直後から概ね 15 ヶ月目までの期間で,特にこの期間ではユーザ支援が他の保守分類と比較し て非常に高い頻度で発生している。しかしながら,5 ヶ月目から 15 ヶ月目にかけて,すべての保守分類で保守作業の 件数が急激に減少しており,このような件数の推移から,第 1 傾向期は安定運用への移行期と考えられる。 第 2 傾向期 (概ね 16 ヶ月目から 36 ヶ月目) 第 2 傾向期は概ね 16 ヶ月目から 36 ヶ月目までの期間である。この期間ではすべての保守分類で保守の発生頻度は 低く,保守件数の増減の変化も小さく,ほぼ一定の頻度で推移していた。この期間に最も高い頻度で発生する保守分 類は予防的保守であることからシステム稼働状況の監視が重視されており,このような件数の推移から第 2 傾向期は 安定した ERP の運用が行われている期間と考えられる。 第 3 傾向期 (概ね 37 ヶ月目から 60 ヶ月目) 第 3 傾向期は概ね 37 ヶ月目から 60 ヶ月目までの期間である。この期間に ERP のバージョンアップや機能の追加 および拡張が実施されている。また,こうした拡張的保守や適応的保守の実施に関連し,ユーザから報告された不具 合に対する問題解決を行う調整的保守,システムの稼働状況を監視する予防的保守,ユーザからの問い合わせ対応お よびシステムの利用に必要な知識や技術の習得を行うユーザ支援,実際に ERP の設定を行うコンサルティング企業や 氏 名 2 横田 明紀 (様式9) SI 企業および情報交換を行う取引先企業との外的関係が必要となり,必然的にすべての保守分類で保守件数が増加し ている。このような件数の推移から,第 3 傾向期は ERP に対する機能の拡充を行い,システムの機能拡張や性能向上 が図られる期間であると考えられる。 2. 保守活動の分析 2.1. 主成分得点による保守活動の考察 運用段階での時間経過とともに重視された保守活動の変化を解明するために,60 ヶ月間の運用期間に対し 6 つの保 守分類を変数とした主成分分析を行った。分析の結果,2 つの主成分が抽出され,各主成分を次のように解釈した。 第 1 主成分: 安定運用活動 第 1 主成分では「ユーザ支援」および「予防的保守」の固有ベクトルの値が大きく,それら 2 つの主成分負荷量は 主成分得点との強い正の相関を示していた。特に,「ユーザ支援」は最も固有ベクトルの値が大きい保守分類となっ ていた。対照的に「拡張的保守」の固有ベクトルの値は小さく,主成分得点との相関も非常に弱い。したがって,第 1 主成分はシステムの性能改善やバージョンアップ,および新たな機能の追加・拡張が主な活動ではなく,ユーザに対 する教育とトレーニングの実施,およびユーザからの問い合わせ対応を中心に,システム稼働状況を監視することで 障害の発生を事前に察知し,回避することが主要な保守活動であると推測した。ユーザ支援および予防的保守は ERP の長期安定した運用を遂行するために不可欠な保守であり,第 1 主成分を「安定運用活動」に関する保守活動と解釈 した。 第 2 主成分: 改善活動 第 2 主成分では「拡張的保守」の固有ベクトルの値が大きくなっている反面,第 1 主成分で主要な保守となってい た「ユーザ支援」の固有ベクトルは大きく負の値に反転していた。このことから,第 2 主成分は,第 1 主成分での安 定運用活動とは対照的に,バージョンアップや機能の追加・拡張などの拡張的保守を中心とした保守活動であると推 測した。したがって,第 2 主成分を「改善活動」に関する保守活動と解釈した。 2.2. 主成分得点による保守活動の考察 第 1 傾向期 (運用開始直後から概ね 15 ヶ月目) この期間では第 1 主成分の主成分得点が大きく正の値を示す期間が長く,かつ,運用開始からの 60 ヶ月間で最も得 点が高くなる期間を含んでいた反面,第 2 主成分の主成分得点は大きく負の値を示していた。こうした対照的な主成 分得点の傾向から,運用開始直後の段階である第 1 傾向期において,安定運用活動が特に重視されている反面,改善 活動に関する保守の重要性は低いと考えられる。 第 2 傾向期 (概ね 16 ヶ月目から 36 ヶ月目) この期間では第 1 主成分および第 2 主成分の両主成分得点に大きな変動は見られなかった。また,各主成分の主成 分得点が 0(ゼロ)に近い値で推移しており,安定運用活動も改善活動も重要な保守活動とはなっていない。こうした主 成分得点の推移から,第 2 傾向期では ERP の安定運用が行われている期間であると考えられる。 第 3 傾向期 (概ね 37 ヶ月目から 60 ヶ月目) この期間では第 2 主成分の主成分得点が大きく正の得点を示していたことから,改善活動が重視された期間と考え られる。また,第 1 主成分と第 2 主成分の主成分得点が対照的であった第 1 傾向期とは異なり,第 3 傾向期では第 1 主成分の主成分得点も第 2 主成分の主成分得点に追随して増加または減少する傾向が確認された。このことは,改善 活動にともない安定運用活動が必要とされていることを意味している。しかしながら,第 1 傾向期と比較して第 1 主 成分に関する主成分得点は低く,第 3 傾向期での安定運用活動は改善活動に対する補助的な保守活動であると考えら れる。 情報の一元化を図り,瞬時に経営状態を把握するために,多くの企業で ERP 導入が進められている反面,導入企業 は保守に対して必ずしも積極的ではない。しかしながら,保守には人,資金,設備など多くの経営資源が必要であり, かつ,求められる経営資源は保守の作業内容により一様ではない。保守に対する適切な経営資源の割り当てと,安定 した ERP の運用を効率的に達成するには,長期に及ぶ運用段階を計画することが重要である。本学外研究において ERP 導入企業に共通した保守の傾向を捉え,統計的な分析を加えることで ERP 運用段階の各期で必要性の高い保守 活動の内容と,その活動の重要性を分析することにより,ERP の保守に関する一般的な傾向(トレンド)を明らかにす ることができた。 氏 名 3 横田 明紀 (様式9) 3.研究成果の公表:今回の研究成果公表の状況と予定を具体的に記入してください。 既 発 表 テーマ □ 企業情報システム運用における保守活動 ■ の分析 □ □ 発表形態 出版社/掲載誌、巻号/学会名等 刊行/発表年月日 著書 論文 学会発表 『経営情報学会誌』経営情報 学会, 第 19 巻第 1 号 2010 年 6 月 The 11th Asia Pacific Industrial Engineering and Management Systems (APIEMS) Conference 2010 2010 年 12 月 9 日 著書 An Investigation of Maintenance □ 論文 Activities on ERP System ■ 学会発表 □ □ □ □ □ □ □ □ □ 著書 論文 学会発表 著書 論文 学会発表 著書 論文 学会発表 執 筆 中 ・ 発 表 予 定 テーマ □ □ Maintenance Trends in ERP Systems ■ □ ■ 保守作業の分類に関する調査 □ □ 保守作業の傾向に基づく企業情報システ ■ ムの特性分析 □ □ □ □ □ □ □ 発表形態 出版社/掲載誌、巻号/学会名等 刊行/発表予定年月 著書 論文 学会発表 著書 論文 学会発表 著書 論文 学会発表 著書 論文 学会発表 著書 論文 学会発表 Americas Conference Information Systems(AMCIS)2011 2011 年 8 月 6 日 on 立命館経営学 執筆中の為未定 経営情報学会 執筆中の為未定 構想計画中 「運用と保守」 に関する分析と共に, 学外研究先でのShanks教授およびSeddon教授らとの研究テーマとしていた, 「ERP からどのような便益を得ているのか」に関する点については,現地での調査を行ったが,まだ十分に分析が完了していない。 Shanks 教授およびSeddon 教授らは,ERP 導入が企業に与える便益はDavenport[2002]が指摘するようにERP の運用開 始直後から得られるのではなく,一定期間,運用開始前より低迷もしくは低下する期間があることを指摘している。今後, 分析を進める中で,具体的にどのような便益がどの程度の期間,低迷もしくは低下するのかについて明らかにしていきたい。 加えて,保守と便益との関係についても同時に分析を進めたい。また,昨今,話題にされることが多くなったクラウドコ ンピューティングなど,近年,企業の情報システムの所有と運用の形態が大きく変化しつつある。保守と運用,およ び情報システムからの便益に関する研究を進めることで,今後,企業での情報システムの所有と運用形態に関する 1 つの指針を設計したいと思う。 氏名 横田 明紀 R O 受付 提出期限:帰着後 2 ヶ月以内 提出先: 各リサーチオフィス ★ 本書式は、研究部ホームページにて公開します。 4
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