サニタリー管溶接継手の自動溶接化への取り組み

技術・製品の紹介
サニタリー管溶接継手の自動溶接化への取り組み
1.はじめに
3.自動溶接機の改良と溶接適用範囲
ファインケミカル分野のサニタリー配管は,定期的な洗
3.1 自動溶接機の改良
浄を行うために,分解,洗浄および組立が容易にできるよ
溶接継手の組み合わせは,パイプ同士,パイプと継手お
うに管端にフェルール継手というフランジを使用してい
よび継手同士である.今回の改良は,連続する継手同士の
る.また,配管分岐部は,液よどみを防ぐために許容分岐長
溶接を目的とした.これは複数の継手が連続する組み合わ
さ(デッド・レグ)を 6D 以内(主配管の中心軸から分岐
せが多く,現状の溶接ヘッドの形状では溶接が適用できな
配管内径 D の 6 倍以内の長さ)に抑えている .このよう
いからである.改良ポイントは溶接ヘッドの厚みと幅の最
に,サニタリー配管は継手と直管接合部の直管長さが短い
小化およびクランパ,タングステン電極ホルダおよびシー
という特徴がある.そのため,現在,市場にある自動溶接機
ル板の形状検討である.
では,ある程度の直管長さを必要とするため,継手形状に
(1) 溶接ヘッド
1)
よっては溶接の困難な箇所が生じている.
当社では,この溶接の困難な箇所の溶接施工については,
難易度の高い手溶接および既製品の購入により対応して
きた.しかし,この対応方法には問題点があり,手溶接に
溶接ヘッドの厚み,横幅を小さく加工した.
(2)溶接クランパ
3 種類のクランパを製作した.
(3)タングステン電極ホルダ
よる施工は,自動溶接のような裏波ビードの再現性が低く,
3 種類の電極ホルダを製作し,角度および位置をそれぞ
平滑な裏波ビードの形成は難しい.また,既製品の購入は
れ変更できるものとした.
コストアップにつながる.
今回,この問題点を解決するにあたって,全ての継手の
自動溶接化を目的とし ,自動溶接ヘッド(以下,溶接ヘッ
(4)シール板
ローネックティー+フェルールの溶接の際に使用する
特殊なシール板を製作した.
ドという)等をメーカーと検討し改良を行い,JOB への
早期適用を図った.以下に,その概要を紹介する.
2.自動溶接機の選定とその概要
自動溶接機は,当社の所有する半導体関連建設工事にて
おもに配管サイズ 15A∼150A の溶接を行うアストロアー
ク,アストロポリスードおよびチューブサイズ 1/8” ∼
3/4”とパイプサイズ 15A∼50A の溶接を行うケージョン,
社外リースであるパイプエース(日立ビアメカニクス製)
a.全体図
図1
の 4 機種より選定した.当社所有の 3 機種は適用予定の配
b.溶接ヘッド
パイプエース構成
管サイズと合わないものがあったり,海外メーカーとの調
整に時間がかかりすぎる等の理由により対象から外し,パ
イプエースを改良することとした.
ヘッド
ハウジング
タングステン
電極ホルダ
パイプエースは,固定管自動ティグ溶接機であり,溶接
シール板
電源と溶接ヘッドにより構成され,溶接電源にて溶接条件
を制御し,溶接ヘッドにて溶接を行う(図1).開先をヘッ
ドハウジングで覆い,その中にシールドガスを流してその
雰囲気中でリングギアに取り付けられたタングステン電
極を開先に沿って回転させ溶接する.溶接ヘッドの構造を
図2に示す.溶接方法はティグ溶接であるが,溶加材を使
リングギア
クランパ
用しないノンフィラー溶接を行うため,開先形状は I 形開
先で,ルートギャップは 0 である.
38・サニタリー管溶接継手の自動溶接化への取り組み
図2
溶接ヘッド構造
TAKADA TECHNICAL REPORT
Vol.14
2004
3.2 溶接適用範囲
分が長いため,表1中のd②が溶接不可能な組み合わせで
ローネックティー+フェルールやティー同士等,約 40
あるように複数の継手が連続する形状では,溶接が適用で
種類の組み合わせについて検討および溶接実験を行った.
きなくなる.また,今回検討していない組み合わせが発生
各組み合わせの溶接可能箇所の一例を,表1に示す.
した場合は設計段階で溶接可否の検討が必要である.
配管サイズが 1.5S 以下のものはフェルールのつばの部
今回の改良により,一部を除きフェルール継手との組み
合わせの溶接が可能となった.また,もっとも困難であっ
表1 溶接可能箇所一例
組み合わせ
a
b
(●:溶接可)
c
d
①
②
①
8A
10A
15A
1S
1.5S
2S
2.5S
3S
3.5S
4S
10A*8A
15A*8A
15A*10A
25A*8A
25A*10A
25A*15A
40A*25A
50A*25A
50A*40A
65A*40A
65A*50A
80A*50A
80A*65A
100A*50A
100A*65A
100A*80A
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1Sの①以外可能
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図3に溶接可能になった継手の組み合わせ例を示す.
①
②
配管サイズ
たローネックティー+フェルールも溶接可能になった .
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①以外可能
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①以外可能
①②以外可能
①以外可能
①②以外可能
①②以外可能
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①以外可能
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①以外可能
1Sの①②以外可能 1Sの①②以外可能
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①以外可能
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①以外可能
4.成果と課題
改良後に行った医薬関連工事の施工では,図4に示すよ
うに手溶接と比較して溶接ビードが平滑で,最低限のビー
ド幅を均一にでき,溶接入熱を低く抑えられるため,溶接
ひずみも少ない.また,溶接の再現性も高く,溶接による焼
けもないなど品質面で大きな成果を上げることができた.
しかし,全ての継手の自動溶接化を目的とし改良を進め
たが,いくつかの組み合わせについては適用不可が判明し
た.また,下記の項目についても今後の課題となった.
(1)形状によって溶接クランパおよびタングステン電極
ホルダの交換に要する準備時間の増加.
(2)バックシールドジグの入れ替えおよび置換に要する
時間の増加.
(3)2 次,3 次プレハブ時に発生にする組み立て手順の制限
と時間の増加.
これらについては,今後,施工方法を改善し,バックシー
ルドガスの効率的な置換方法の検討などの対策が必要で
ある.
a.ローネックティー
b.ティーとレジューサー
5.おわりに
今まで,半導体関連の建設工事を中心に適用したアスト
ロアーク,アストロポリスードおよびケージョン,核燃料
再処理施設にて適用したチューブウエルダーならびにス
テンレスライニング溶接に適用した当社開発の自動溶接
機「TA-1」などにより品質の高い自動溶接を行ってき
た.今回の改良により,ファインケミカル分野でもパイプ
c.レジューサーとフェルール d.エルボとフェルール
図3
溶接可能になった溶接継手一例
エースによる自動溶接適用範囲の拡大により,当社の自動
溶接化が一段と進み,品質向上につながった.今後は,施工
方法の改善や諸問題の解決を行い,更なる品質向上と作業
手溶接ビード幅(5㎜)
の効率化を目指す所存である.
高嶋
浩樹(メンテナンスサービスセンター)
参考文献
自動溶接ビード幅(3㎜)
1)西野:高田技報,バリデーション「新しい概念と手法」の
紹介(3)pp.56-59(1992)
図4
手溶接と自動溶接の溶接ビード幅比較
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