18-7 肛門に極めて近い下部直腸がん

18-7 低位直腸がん手術における肛門温存療法の開発に関する研究
主任研究者 国立がんセンター中央病院 森 谷 冝 皓
研究成果の要旨
本研究では、標準治療では永久人工肛門を要する直腸切断術の適応となる外科的肛門管および近傍の
超低位直腸癌例に対し、新たに肛門機能を温存する治療法について検討した。これまでの検討で、新しい
手術法である肛門括約筋部分温存術について解剖学的および臨床病理学的にその可能性について確認
された。本年度の研究では、共通プロトコールを作成して各施設の倫理委員会の承認後に本手術法に関す
る多施設協同の臨床試験が開始された。前半の登録例の検討では手術関連死亡も認めず、治療完遂率
(根治切除下の肛門温存率)は 100%であり、後半の症例登録が進行中である。現在までに 66 例の登録が行
われている。本治療法の安全性の向上と適応拡大のため解剖学的および病理組織学的検索、ならびに術
中洗浄細胞診も検討された。肛門括約筋の局所解剖が明確になり、また肛門・肛門管洗浄によりがん細胞
散布の危険性の低下することが確認され、また適応拡大の可能性も示された。術後排便機能障害のメカニ
ズムが動物実験モデルと臨床例で明確にされつつあり、障害に関与する因子として術前放射線化学療法、
内肛門括約筋切除量、性別、などが挙げられた。排便機能障害改善策では、バイオフィードバック療法や、
付加手術の posterior repair の有用性が示唆された。これらの治療法の開発により、超低位直腸癌に対する
究極的な肛門温存手術の確立が期待される。
研究者名および所属施設
研究者名
森谷 冝皓
齋藤
典男
望月
英隆
白水
和雄
前 田 耕太郎
幸田
圭史
所属施設および職名
国立がんセンター中央病院 特殊
病棟部 部長
国立がんセンター東病院 手術部
長
防衛医科大学校 第一外科学講座
教授
久留米大学医学部 外科学 教授
藤田保健衛生大学医学部 外科
教授
帝京大学ちば総合医療センター
外科 教授
研究報告
1 研究目的
本研究の目的は、従来の標準手術では永久人工肛門を
伴う直腸切断術の適応となる肛門に極めて近い下部直腸が
ん(肛門管がんを含む)症例に対し、可能な限り肛門機能を
温存するための新しい手術法の確立にある。本邦の専門施
設において、下部直腸癌の 20%近くの症例に直腸切断術が
実施されているのが現状である。そこで永久人工肛門を回
避し得る、新しい肛門温存手術の確立と新しい術式の腫瘍
学的および機能的な妥当性、また術式の安全性を検証する
ことが重要となる。今年度の主な研究計画は、新しい肛門機
分担研究課題
肛門括約筋温存術の適応拡大と術後肛門機能評価法に
関する研究
肛門括約筋部分温存術の適応・手術手技の確立と予後の
研究
肛門温存療法適応例の選択基準の確立に関する研究
低位直腸がん手術における肛門温存療法の開発に関する
研究
肛門温存療法に関する解剖および手術手技の研究
肛門温存手術における術後排便障害の発症機序に関す
る基礎的、臨床的研究
能温存の手術法である内肛門括約筋切除(ISR)を主とした
肛門括約筋部分温存手術を臨床的に評価することにある。
検討項目は〔A〕共通プロトコールによる内肛門括約筋切除
(ISR)を班員各施設で実施し、この共同臨床試験により本手
術法の外科的、腫瘍学的安全性の確認、および術後の肛
門(排便)機能の評価、および術後 QOL 調査などを行う。
〔B〕ISR を主とする肛門括約筋部分温存手術の適応と限界
について解剖学的視点を含めて検討するとともに、本法の
適応拡大の可能性について病理組織学的検索や、術前補
助療法の果たす役割についても検討する。また、手術法の
改良についても様々な視点から検討する。〔C〕術後の排便
機能障害についてその詳細を臨床例で分析するとともに動
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18-7 低位直腸がん手術における肛門温存療法の開発に関する研究
物実験モデルを用いて Neorectum を含んだ排便障害を解
明し、これらの機能障害に対する改善策を検討する。上記
に示した研究計画により、新しい肛門温存手術の確立を目
指すものである。
2 研究方法
〔A〕共通プロトコールを作成し、各施設の倫理委員会の承
認後に、各施設で協同臨床試験を開始し、症例を集積する。
術式の安全性、およびアンケートを用いた術後排便機能や
QOL を調査する。また人工肛門閉鎖に伴う合併症について
も検討する。〔B〕直腸切断術による切除標本を用いて本手
術法に関連する組織の局所解剖を行い、また腫瘍進展に
ついても病理組織学的に検討する。また、術前放射線科学
療法併用例について臨床病理組織学的検討を行う。〔C〕ラ
ットの外来神経離断の実験モデルを作製し、排便機能障害
のメカニズムを解析する。臨床例では、Biofeedback therapy
による排便機能障害の改善や付加手術の効果も検討する。
3 研究成果
〔A〕Intersphincteric resection(ISR)を主とした肛門括約筋部
分温存による新たな肛門機能温存手術が確立され、標準手
術の一つとして成立し得るかどうかを検討するため、共通プ
ロトコールにより各施設で共同臨床試験が開始された。プロ
トコールは国立がんセンターの倫理委員会で平成 17 年 3
月に承認され、その後本班員各施設においても順次承認が
得られ、症例の登録が可能となった。平成 119 年 2 月までに
66 例が登録され、現状では手術関連死亡を認めず、臨床
試験は進行中である。本臨床試験の概要を図 1 に示す。
本臨床試験の前半の 30 例では手術の安全性を確認し、前
半での主な評価項目は治療完遂率(肛門温存率)、
Mortality、および Morbidity とした。前半で本臨床試験が継
続可能と判断された場合、続いて追加の 60 例を登録して合
計の 90 症例に対して解析を行う。主な評価項目は 3 年局所
無再発生存率、3 年無再発生存率、肛門使用率および術後
排便機能、QOL 評価、などとしている。術後排便機能に関
し て は 経 時 的 ( 3 、 6 、 12 、 24 ヶ 月 ) な ア ン ケ ー ト 調 査 、
Kirwan’s grade、Wexner score、などを用いることにした。ま
た QOL 評価は、Short From36(SF36)を用いて調査すること
とした。前期登録の 30 例の結果では、手術関連死亡率は認
められず、また治療完遂率(根治切除下での自然肛門温存
率)は 100%であり、本臨床試験を継続することが決定された。
手術関連合併症発生頻度は 36%であり、吻合部縫合不全
と骨盤内膿瘍が多い結果であった。重篤例は 4 例(13%)に
認められ、その主な内容は血栓と術後出血であった。本手
術自体による平均出血量は 840ml、平均手術時間は 6 時間
であった。肛門吻合における再建法は Straight 吻合が 80%
と主であった。
〔B〕本術式の安全性、および適応と限界について、直腸切
断術の切除標本による病理組織学的検索を行うとともに、術
中の細胞診、一時的人工肛門閉鎖に伴う合併症、および本
術式の臨床における実際の適応拡大などについて検討した。
まず低位直腸がんに対する究極の肛門温存療法としての
ISR を行うための解剖学的基礎として、内肛門括約筋、連合
縦走筋にていて解剖学的に検討した。昨年度の計測に加
え今年度は男女差などを検討し、内肛門括約筋および連合
縦走筋の長さ、厚さには個人差が大きいことが明らかとなっ
た。昨年度の計測により図 2 の結果が得られている。今回の
検討では表 1 に示すように、女性では男性に比較して歯状
線から肛門側の内肛門括約筋の長いことが判明した。また
女性では男性に比較して内肛門括約筋の全長が長い傾向
にあった。この結果は、本術式による術後排便機能にある程
度の影響を及ぼすものと推察された。また最大厚とその部
位、および連合縦走筋の厚さには、性差を認めなかった。
次に術中の肛門操作時におけるがん細胞散布の予防に関
する細胞学的検討を行った。ISR 施行にあたって問題となる
術中のがんの散布に関する予防として、I式直腸内洗浄用
肛門鏡を使用して術中の直腸内洗浄を行い、その洗浄効
果を細胞診により検討した。ISR を施行した16例に対して、
手術開始前に経肛門的に綿棒を用いて腫瘍肛門側の細胞
診を2回行い(術前)、腹側の直腸剥離操作終了後、腫瘍口
側に鉗子を掛けた後(洗浄前)、経肛門的に I 式洗浄器を用
いて 2000ml の洗浄を行った後(洗浄後)、直腸を剥離し直
腸断端をたばこ縫合閉鎖する前(閉鎖前)、直腸肛門の剥
離操作終了時(剥離後)、直腸摘出後腹側より肛門への
5000ml の洗浄試行後(骨盤洗浄後)に細胞診を行った。
papanicollou 染色を行い、2回の細胞診とも癌細胞が認めら
れるのを(+)、1回のみ認められるのを(+-)、癌細胞が認めら
れない場合(-)として判定した結果、 術前の細胞診では、13
例中 9 例(69%)が(+)であった。直腸剥離後の洗浄前では 16
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18-7 低位直腸がん手術における肛門温存療法の開発に関する研究
例中 15 例(94%)が(+)で、洗浄後には(-)が12例(75%)、(+-)
が 3 例(19%)、(+)が1例(6%)となり、閉鎖前には(+-)が1例、(+)
1例、剥離後と骨盤洗浄後には 16 例全例で(-)となった。こ
のことより洗浄で遊離癌細胞は減少し、さらに肛門剥離時の
清拭操作により遊離癌細胞は消失することが明らかになっ
た。この結果は、十分な洗浄により本術式の肛門操作時の
がん細胞散布の予防が可能と考えられた。
また ISR などにおける経肛門的な超低位吻合においては,
吻合部の安静をはかるために一時的な人工肛門の作成が
必要であり、その閉鎖時の合併症は無視できない。人工肛
門閉鎖術(SC)は比較的低侵襲の手術であるが術後に重篤
な敗血症を起こす症例を時に経験する。さらに、術後に原
因 不 明 で 重 篤 な 敗 血 症 を 起 こ し 、 bacterial
translocation(BT)が疑われる症例を時に経験する.SC の術
後感染性合併症の発生状況を調査してその特徴を明らか
にし、合併症の有無に影響を与える因子、手術手技の影響
の強い SSI を除いた non-SSI と BT の発生に影響を与える因
子について検討した。以前の SC112 例(回腸 80 例,結腸 32
例)について調査した。
(1) 合併症発生率:感染性,非感染性合併症発生率は
32%,21% で 1 例 が 敗 血 症 で 死 亡 し た ( 死 亡 率 0.9%).SSI
19%,non-SSI 17%,SIRS 11.6%,BT 疑い(原因不明の 38℃以上
の熱発を伴う敗血症) 7%。(2) 単変量解析にて SC 術後の感
染症発生の有無と年齢,性別,BMI, stoma 造設腸管, 人工
肛門期間, 術前リンパ球数, 術前アルブミン値, 手術時間,
ドレーンの有無,ステロイド使用の有無,術前化学療法の有
無との有意な関連は認めなかった。一方、人工肛門閉鎖術
切除標本の肛側断端径/口側断端径(萎縮率)は感染症合
併・非合併例の順に 71.9±3.2%vs.82.6±3.0%#、術中出
血量は 114.2±27.5g vs.61±10.0g#と有意差が認められた.
(平均±標準誤差, #p<0.05 )。 (3) 単変量解析で non-SSI
の有無と有意な関連が認められたのは切除腸管断端の肛
側絨毛高/口側絨毛高(絨毛萎縮率)、陰窩萎縮率および
前回緊急手術の有無であった。また、絨毛萎縮率と陰窩萎
縮率の間に有意な相関が認められた。多変量解析すると絨
毛萎縮率のみが non-SSI 合併と感染症非合併症例の間で
有意差を認めた(66.4±7.0%vs.81.5±2.3%※)。(4) BT 発
生の有無に関しては単変量解析で絨毛萎縮率,陰窩萎縮率、
前回緊急手術の有無および手術時間で有意な関連があり、
絨毛萎縮率、前回緊急手術の有無および手術時間で多変
量解析を行うと、絨毛萎縮率のみが BT 症例と感染症非合
併症例の間で有意差を認めた(55.1±2.8%vs.81.5±2.3%
#)。(平均±標準誤差, ※p<0.05, #p<0.01)。このように人工
肛門閉鎖術は感染性合併症発生率が高く、その原因として
肛側腸管の萎縮と術中出血量が risk 因子として解析された。
また、萎縮は BT の発生にも関与していた。
次に実際の臨床において、本手術法の適応拡大がどのよう
に推移しているかについて以下の方法を用いて分析した。
①本研究班参加 7 施設に、2003 年および 2004 年の下部直
腸癌(リンパ節郭清を伴う cur A の根治術を施行した腫瘍主
占居部位が Rb または腫瘍下縁が Rb にかかる直腸癌症例)
に対する採用術式と治療方針に関してアンケート調査を施
行した。②臨床症例で、ISR の適応が検討され 13 例の臨床
データ、画像データを供覧し、ISR の適応があると判断する
か、ないと判断するかを、平成18年度第2回班会議の出席
者に無記名で回答して頂き、検討した。
アンケート調査結果:①手術術式 2003 年は、全 7 施設で
対象症例が 240 例であった。施行された手術術式は括約筋
温存術 176 例(73%)、腹会陰式直腸切断術 53 例(22%)、骨盤
内臓全摘術 5 例(2%)、Hartmann 手術 6 例(3%)であった。また
括約筋温存術 176 例中、ISR が施行されたのは 7 施設 64
例(括約筋温存術の 36%)であった。2004 年は、7 施設で対象
症例が 293 例であった。施行された手術術式は括約筋温存
術 210 例(72%)、腹会陰式直腸切断術 49 例(17%)、骨盤内臓
全摘術 7 例(2%)、Hartmann 手術 6 例(2%)であった。また括約
筋温存術 210 例中、ISR が施行されたのは 7 施設 71 例(括
約筋温存術の 34%)であった。②手術術式の適応に関して
術前深達度診断並びに腫瘍下縁の歯状線からの距離(DL)
と括約筋温存術の適応に関しては、SM では DL0cm で 6 施
設、DL1cm では 7 施設が適応としていた。MP では DL0cm
で 5 施設、DL1cm では 6 施設、DL2cm では 7 施設が適応と
していた。A1/A2 では DL0cm で 4 施設、DL1cm では 4 施
設、DL2cm では 5 施設、DL3cm では 6 施設が適応としてい
た。③経時的変化に関して 症例数のみでは ISR の症例数
は増加しているものの、括約筋温存術、ISR の施行割合は
横ばいであった。また、施設により括約筋温存術、ISR の適
応基準は多少異なり、実際の施行割合も異なることが判明し
た。
〔C〕術後の排便機能障害について動物実験モデルと臨床
例を用いて解析し、以下の成果が得られた。ラットを用いた
外来神経を切離した下部大腸では、術後 1 週間で同部位の
腸管運動の亢進や、人間での multiple evacuation に類似す
る排便障害を認めた。つまり下部大腸に分布する外部神経
を切離することで、その脱神経大腸の運動が非切除群に比
べ有意し亢進し、術後排便に変化が生じることを示した(図
3、表 2)。
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18-7 低位直腸がん手術における肛門温存療法の開発に関する研究
さらに、この運動の異常は時間がたつにつれて軽減してくる
が、その機序としては初期に運動を亢進させていると思われ
る、腸管内のアセチルコリンの分泌亢進が時間とともに治ま
ってくるのが原因なのではなく、アセチルコリンの分泌には
大きな変化はなく、むしろ腸管運動を抑制する神経伝達物
質であるNOの分泌が亢進するため、相対的に運動能の抑
制がかかってくることが実験結果から明らかとなった。このこ
とは人においても認められる術後の時間にともなった排便機
能の回復機序と関連性があると考えられた。さらに、直腸癌
の局所再発などで切除された新直腸を病理組織学的に検
索すると、新直腸として使われた脱外部神経のS状結腸に
は、壁内神経の量は新鮮なS状結腸と変わりがないが、自
律運動をつかさどるとされるCajal細胞数は通常のS状結腸
と比べて有意な減少を認め、このことと脱神経後の運動能の
変化が関連している可能性を示した。
次 に 術 後 排 便 機 能 障 害 の 改 善 の た め に 、 Biofeedback
therapy(BF)を実施し、以下の結果が得られた。対象は 括
約筋切除肛門温存術(ESR)が施行された症例とし,以下の3
つのグループに分類した。A 群:一時的人工肛門閉鎖前に
BF を行った症例(n=7)。B 群:一時的人工肛門閉鎖後 1 年以
降に BF を行った症例(n=6)。C 群:BF を行わなかった症例
(n=11)。今回用いた BF 療法は以下の手順で行うものとした。
(1)バルーンカテーテルを用い、最大耐容量まで 10ml ずつ
air を注入し、バルーンの脱出を堪える訓練(最大耐容量増
加)。(2)50ml まで air を注入し,肛門を弛緩させ、腹圧をかけ
て排出させる排泄法を体感で習得する訓練。(3)従来のカテ
ーテル法を用いた肛門の収縮、弛緩の訓練。(4)自宅でのト
レーニング(収縮 50 回/日)の指導。
このような BF 療法を2週毎、外来で訓練を行い、4 回を 1 ク
ールとし、この効果についての評価は、直腸肛門内圧検査、
Wexner 分類による便もれの評価項目を用いて行った。
肛門内圧検査の肛門管静止圧では、A 群のストマ閉鎖前に
BF を行った症例がしなかった症例に比べ有意に静止圧が
上がっていた。3ヵ月後には両群間に差はなくなく、A 群は
それ以後の静止圧の上昇はなかった。随意収縮圧や最大
耐容量も同様の結果で、BF で肛門括約筋を運動させたり、
実際に便の通過により、肛門内圧や容量は改善傾向にある
と考えられた。(2) Wexner score は、BF を術後早期から行
ったほうが、行わなかった群に比べてストマ閉鎖後も早い改
善を見せ、6ヵ月後では有意に score の改善が認められた。
これらの結果からバルーン法により残存外括約筋のみなら
ず挙筋を含めた骨盤低筋の強化により随意圧の上昇が得ら
れたものと考えられた。また BF 療法経過の過程においてバ
ルーンの排出量の増加が見られたことから、貯留・排出能の
改善もひとつの要因と考えられた。
次に肛門括約筋部分温存手術後に排便機能障害が遷延
する症例が実在するため、この機能障害に関与する因子を
解析し、改善のための新たな付加手術を検討した。本手術
後にStoma closureを受け 1 年以上経過した 67 症例を検討
した結果、排便機能障害に関与する有意な因子として①術
前放射線化学療法、②内肛門括約筋全切除(Total ISR)、③
男性、の 3 因子が判明した。またRestiing pressureの低い症
例も、排便機能低下に関係した。また機能改善のための付
加手術としてPosterior anal canal repair≒Posterior
sphincter repair手術をpilot的に 6 例に付加した。その結果、
本手術を付加した群のResting/Squeeze圧は 103/225 ㎝H 2 o
と有意な上昇を確認した。本手術を付加しない群の
Resting/Squeeze圧は 47/138 ㎝H 2 oであった。Stoma closure
後 3 ヶ月でのwexner Scoreは付加(+)群:8.2(Mean)、付加(-)
群:11.9(Mean)であり、付加(+)群で良好な傾向を認めた。今
後、さらに症例を重ねて検討すべき必要性を認めた。
4 倫理面への配慮
I. 肛門括約筋部分温存術の臨床応用に際し、以下の項
目について説明し、十分な理解と希望および承諾の得ら
れた症例に本法を実施した。
①根治性について標準治療であ る直腸切断術に比較
して、本法では根治性の劣る可能性もあること。放射
線化学療法を術前に行うこともある。②術後排便機能
について直腸切断術では永久人工肛門か必要で、新し
い術式では一時的人工肛門を必要とし、一時的人工肛
門閉鎖の手術を必要とする。③十分に満足する排便機
能は保証できず、一時的人工肛門から永久人工肛門と
なる可能性もあること。④新しい術式であり、長期的
な腫瘍学的、機能的予後が判明していない。⑤患者の
人権・プライバシーは保護され、治療の選択は自由であるな
ど。
II. 過去 の切除標本を用いた研究では、いずれも切除標
本より作製したプレパラートによる retrospective study であ
り、倫理的に問題はないものとした。
III. 動物実験に関しては、各施設にお ける動物実験倫理
委員会の承諾を得て実施した。
IV. 「個人情報の保護に関する法律」に関して、本研究にお
いても個人情報の 取り扱いには十分配慮した。
研究成果の刊行発表
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18-7 低位直腸がん手術における肛門温存療法の開発に関する研究
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日本語論文
1. 上原圭介 、 森谷冝皓 、他、仙骨合併骨盤内臓全摘術
-直腸癌局所再発に対する拡大手術-, 消化器外科
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