第22回 葛飾糖尿病医会 参加者の感想と講演の

第22回
葛飾糖尿病医会
参加者の感想と講演の要旨
平成18年3月31日(金)東京都葛飾区 葛飾シンフォニーヒルズにて肥満と糖尿病を外科治療
からアプローチいたしました。外科医師・栄養士・ソーシャルワーカー・患者さんの講演の後、肥満症
の第一人者宮崎滋先生の司会の元、活発な質疑応答がなされました。糖尿病の講演会では異色のテーマ
でしたため、医療費改正前夜の慌ただしさの中、金曜日にもかかわらず遠方からの参加者を含め多数が
集いました。
さて、日本でも超肥満者が増え、その多くが糖尿病を合併しています。肥満症治療の一つとして“2006
年日本肥満学会治療ガイドライン”でも認められる外科手術があり、ブラジルのマラドーナ(元サッカ
ー選手)がやせたのがこの手術です。笠間和典先生は腹腔鏡下胃バイパス手術の技術を持つ数少ない一
人で現在 86 症例手がけています。この手術を始めたきっかけはある肥満患者さんから熱心に手術を依
頼されたためです。手探りで始め、海外での研鑽を積み、現在のサポートチームをも作り上げました。
手術だけではシンデレラストーリーは生まれません。
2004 年に国際肥満外科治療学会が東京で行われたとき、アメリカの看護師さんが熱心に術後の患者グ
ループによる精神的サポートを訴えていたのが印象的でした。外科治療の手段は手術ですがソーシャル
ワーカー・栄養士をはじめとするチーム医療が重要です。
当院にも超肥満の患者さんが複数いらっしゃいます。患者さん自身はこの治療をどう考えるでしょう
か?実際に手術を受けた患者さんの体験談からは何が患者さんにとって満足のいく医療であるか考え
させられました。血糖値も改善され、肥満はやはり多くの疾患を生む元凶との思いを強くしました。
肥満治療をどのようにお考えでしょうか?「食べなきゃ良いのに」とだけ思っているのでしょう
か?「日本でも肥満外科治療をやってるの?」とおっしゃった方もいます。肥満患者と向き合うと
き、少しでも知識の引き出しが増えることを願っています。
プログラム
開会の辞
嬉泉病院 院長 須藤 祐司先生
「日本減量外科治療センターでの減量外科治療
堀江病院外科部長 笠間和典先生
「栄養士の試み、ソーシャルワーカーの術前術後指導、患者さん体験談」
堀江病院 管理栄養士 樺澤小百合先生 同 ソーシャルワーカー 中里哲也先生 患者様
3 「質疑応答」 司会 コメンテーター 東京逓信病院 内科部長
宮崎 滋先生
1
2
1. 「日本減量外科治療センターでの減量外科治療」 堀江病院 外科部長 笠間和典先生
脂肪吸引、脂肪摘出は含めない。肥満手術とは
胃の縮小を伴う手術である。アジア人の手術適応は、
糖 尿 病 他 合 併 症 を 2 つ 以 上 持 つ BMI 3 2 以 上
(Asia-Pacific Bariatric Surgery Conference 2005)。
ちなみに加藤内科クリニック患者955人の平均BMI
は 24.3kg/m2 、BMI32kg/m2以上は 3.5%の33人、女
性が 73%を占める。
手術を受けた日本人は昨年 5 月までで 40 人、女
性が 80%、BMI35~61。治療不適合は摂食障害など
精神疾患を持つもの。
手術適応
• 米国 1991年 NIH、2004年 ASBS
– ①BMI40以上 ②BMI35以上で肥満に起因する合併症
を持つもの
• Asia-Pacific Bariatric Surgery Conference 2005
年3月
アジア人の適応
– ①BMI37以上 ②BMI32以上で糖尿病をもつもの、また
は糖尿病以外の肥満に起因する合併症を2つ以上持つも
の
Bariatric surgery: Asia-Pacific perspective.
Obes Surg. 2005 Jun-Jul;15(6):751-7.
管理栄養士:今まで考えたことがなかった分野の話でびっくりしています。術後のストレ
スは相当と思っていましたが、患者さんからそれはないと聞き不思議に思いました。
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薬剤師:手術内容が具体的でわかりやすかったです。
医師:一般には肥満とともに合併症を起こす率が高くな
り術死率も上がると思います。経験的に肥満のある人ほ
ど皮下膿瘍を形成する率が高いようです。また、肺塞栓
も多い印象を受けます。
医師:今まで知らなかったテーマで驚くことばかりです。
看護師:病的肥満の治療において内科的治療は95%以
上失敗に終わり Ope だけが有効性が確立されているとい
うことなので、もっと肥満のリスク、影響を広く一般の
方に理解して頂く必要があると思いました。外科治療に
ついても噂程度しか知らなかったので実際手術の様子な
ど映像を見てわかりやすかったです。知り合いも Ope に
ついてネット検索しており、関心度は高いと思います。
無記名:現代の日本では食べるものに不自由しない状態ですが肥満という形で死亡率が増
えていることが具体的な数字から分かりました。健康的に食事を摂取することの難しさ、
外科的治療の有用性を知ることができました。
看護師:内科的治療と違い外科で肥満治療を行う場合、患者の強い意志で Ope に挑まなけ
ればならないと思います。Ope による改善率は高いけれど悪いものを取り除くのとは違い、
今後の QOL をあげるためで、手術はその手段であると思いました。手術の技術向上とと
もにチームケアの成果が出れば興味深いものだと思います。
看護師:肥満外科治療が糖尿病患者にも有効であったとのデータは、初めて知りました。
看護師:身近な問題ですが難しい。肥満は「れっきとした病気」であると再認識しました。
人間が豊かさを求めたゆえの病気、いかに日頃の生活から気をつけていくか考えていきた
い。また肥満患者さんに知識としてお話しできるよう、もっと知りたいと思いました。
薬剤師:肥満が致死につながる。外科治療で合併症が劇的に改善され、大変驚いた。内科
との連携体制も必須と感じました。
管理栄養士:肥満は内科、というイメージが変わりました。治療の方法が増えるのは大切。
腹部に脂肪がたくさんあるので手術は大変難しいのではと思います。
管理栄養士:欧米でこのような手術があると話題になった時は批判的に見ていましたが、
日本での治療効果を見て考えが変わりました。
看護師:手術効果の大きさにまず驚きました。今の医療費を考えると治療の必要な患者さ
んや家族の方に知って頂けば、日本経済に与える影響も大きいだろうと思いました。
栄養士:開腹術ではなく腹腔鏡下で出来ることに驚きました。内科的治療より肥満による
合併症の改善率が高く、患者さんの QOL が上がると理解しました。
栄養士:現在超肥満の患者さんがいるので具体的なお話が大変参考になりました。
栄養士:整形外科では高度肥満の患者さんが多いです。
看護師:肥満の(内科的)従来法による治療は時間がかかり、しかも難しいが外科治療は
効果が早く確実である。驚きです。
2. 「 栄 養 士 の 試 み 、 ソ ー シ ャ ル ワ ー カ ー の 術 前 術 後 指 導 、 患 者 さ ん 体 験 談 」
堀江病院 管理栄養士 樺澤小百合先生、ソーシャルワーカー 中里哲也先生、患者様
胃体積は 1500ml から 20ml に激減する。検査入院で手術の適合性を判断する。例:呼吸器疾患があり、
治療後に手術と決まった患者さんが1ヶ月後に26kg体重増加して来院したため減量に対する意識が低いと
見なし、不適と判断された。堀江病院ではもう一度生きるという意味のRENASCER ヘセナ(ポルトガル
語)という名の患者会により患者同士の交流を通し治療効果を持続させている。
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管理栄養士:患者さん中心の活動内容が勉強になりました。減量継続の動機付けと患者さ
んに主導権を持ってもらい、それをサポートするのが医療者の役目と考えています。肥満
は一概に患者さんのせい、努力不足と決めつけ攻めるのは間違いと思います。
医師:先端医療支援のご努力に驚きました。国内では
サポートグループ参加者のほうが術
social worker の方の特性がまだまだ認められない面も
後体重減少率が高い
多く、これからの行政の理解が欲しいところです。
40%
医師:チーム医療の良い例を教えて頂き、大変ありが
たいと思いました・
20%
看護師:内科的な食事療法でも食生活改善は難しいの
に術後胃の機能低下・容量低下で絶対的に食生活が変
0%
化するので、そのことに対する理解とサポートにはか
なりのご苦労があると思いました。Ope 前肥満に対す
る自己の気持ち、病院受診への思い、そして Ope 後の気持ちの変化。貴重な声が聞けて良
かったです。
無為名:肥満治療による合併症の改善に驚きを感じました。患者さんの QOL が向上した
ことが想像できました。
看護師:機能的に食べたくても食べられなくなる Pt に対する栄養指導が具体的でわかりや
すかったです。本人任せになる「食べることを減らす」ということでなく、
「食べられない
現実」に Pt が「どう向き合うか」導く指導が大切と思いました。
その他:実際手術を受けた患者さんが明るくなり、痩せられたことをうれしく思っている
ことが分かりました。不安はなかったと話していましたが術前術後のサポートも良かった
のだと思います。
その他:同じような立場の患者さんやその家族の方が一緒に行動できるグループがあるこ
とは素晴らしいと思います。
看護師:栄養士・ソーシャルワーカーのサポート体制と役割を聞けて参考になりました。
看護師:消化器疾患術後の食事はもともと難しいのに「食
欲」のコントロールも含め食事内容を考えるのは大変な
ことです。医療者と患者さんの連携が良く、いいなあと
思います。一貫した治療の大切さを感じました。
養士:患者さんの意識の持ちようが大切。
無記名:患者さん同士が集まり、語り合い支え合うこと
が大切。他の疾患でも重要。
薬剤師:入院期間の短さに驚きました。フォローの大切さ、チーム医療の必要性を知りま
した。ソーシャルワーカーさん、患者会の今後の発展を期待します。
看護師:治療を受けた患者さんが生き生きとお話される姿を見て感動しました。
栄養士:体験者としてのお話とコメントが感動的でした。これからの人生を明るく前向き
に過ごされますよう願っています。
看護師:チームで協力し治療効果を上げることは参考にしたいです。専門職の働きかけで
患者さんの治療に対する姿勢や知識が変わります。羨ましく思いました。
栄養士:術後の栄養管理はタンパク質確保が重要と思いました。通常では1~1.2g/kg が本
当に必要か疑問に思っています。
栄養士:患者さんからも医師からも必要とされている栄養指導が大変刺激となりました。
患者さんとの信頼関係を築くことの大切さを実感し、今の医療に欠けているところである
と思いました。
手術を受けた患者さんの手記より
私はこれまで痩せるために3回教育入院をしましたが1年もたずにリバウンドをしてし
手術後1ヶ月
手術後3ヶ月
参加した人
手術後6ヶ月
手術後1年
不参加の人
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まいました。糖尿病の薬を飲み始めたのは3年程前になります。高血圧の薬もあり、全部
で7種類飲んでいました。膝と腰が痛く外出もほとんどせず、夜もあまり眠れないためか、
日中もぼーっとして横になって、メリハリのない生活でした。家族から睡眠時に無呼吸が
あると言われ暗い毎日でした。 略
一泊入院検査を終え、今まで最高の BMI・年齢で
あることを聞きました。前の病院からは「このままではいつ死んでもおかしくない」と言
われていたので家族に「万が一のことがあっても悔いが残らない」と話し、手術の同意を
得ました。 略
薬は4種類に減り、糖尿病の薬も2つから1つになり HbA1c は 9.1%
から 5.2%になりました。昨年4月に手術を受け、約1年で 36kg 減りました。今後も自分
のペースで続けて行きたいと思います。
会場からの質問に答えて:術直後の患者さんが空腹感を訴えないのは胃バイパス術をしたためにグレリン
濃度が低下し、空腹感が無くなるのかもしれないとの笠間先生よりコメントあり。
3. 「質疑応答」
東京逓信病院 内科部長 宮崎 滋先生
管理栄養士:実際の話、現場での話が聞けてよかったです。各分野の見解が刺激的でした。
正解は一つでなく患者さんによって治療も選択すべき。大変有意義な会でした。
薬剤師:肥満が悪いことは分かっていましたがこれを解消することでかなりの合併症が治
癒すること、なかでも糖尿病が治癒することは驚きであった。また病気の治療には患者を
含めたチーム医療の重要性を再認識した。
看護師:データ的に手術適応でも、患者様自身の治療への姿勢、精神面で不適な場合もあ
ると言うことでアナムネ、説明で十分見極めることが重要だと思いました。
看護師:
「もう一度生きる」という意志を持って本人の QOL をあげるために関わる看護は
他の疾患の看護と違う達成感があると思います。改善した患者さんの喜びはみんなでがん
ばった喜びと共感できました。
看護師:このテーマへの関心の高さを感じました。
栄養士:どんな手術でもしないほうが良いが、内科的治療が困難な場合、手術による治療
方法もあると知りました。
看護師:斬新な話を興味深く聞かせて頂きました。
Q 自己負担の金額は?
A 保険外診療(自費診療)です。平成 18 年3月時点堀江病院では 150 万円でした。これ
は他国と比べてかなり安い値段で、米国では 270 万円から 400 万円かかります。インター
ネットで検索した限り、最も安い腹腔鏡下胃バイパス術は南米コロンビアの約 180 万円で
した。手術には機材のほか手術機械の減価償却費、病院の施設費用、人件費、麻酔費、各
種技術料、点滴などの薬代、入院費、食費、検査費用などがかかります。また完全自費診
療ですから、何か手術入院中の合併症があっても、途中で切り替えて合併症の治療費を健
康保険扱いで請求することは出来ません。(混合診療の禁止)たとえば縫合不全の合併症が
おこり、再手術、約 1 ヶ月入院、集中治療を行うなどとなれば保険請求額でも 500 万円近
くになります。6月からは四谷メディカルキューブに移り、腹腔鏡下胃バイパス術が 200
万円、バンドが 170 万円の予定です。
Q 看護師の役割は?
A 手術前後の看護は肥満患者に特有な注意点もあります。患者さんに対する優しい気遣い
や、肥満に対して批判的に見ないこと事などは重要な要素となるでしょう。入院中に一番
接するのは看護師です。看護の基本である思いやりを忠実にまもっていただきたいと思っ
ています。また外来フォロー時にも患者さんの努力を肯定的にみて、力づけてあげること
も重要だと思います。もちろん、すべての検査や手術が滞りや落ち度がなく進行するよう
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に、コーディネイトすることも看護師の仕事だと思います。
Q 体内に残した胃は?検査は?
A そのままです。血流はそのままありますので、変わらず存在します。先日ダブルバルー
ン小腸内視鏡をもちいて検査を行い、2年前手術した患者さんの残胃が観察できました。
Q 患者さんが手術前、オプティファーストにて摂食量を減らす期間と指示量は?
A 超低エネルギー食使用の目的は、少しでも体重を減らし手術時のリスクを軽減するた
めです。使用期間は手術前1ヶ月間。1 日2袋(168kcal)を1食分に置き換え、他2食は
バランスの良い食事を約 400kcal 摂取、1日計 1000kcal を指示。1ヶ月で7~10kg 位減
量してきてくれます。
Q 術後のサポートにかかる費用は?
A 術後の受診に関しての費用は堀江病院で行っていたときには自費診療ということもあ
り、手術費用に定期健診代金も含めていました。
術後のサポート費用は特にいただいておりません。サポートグループ参加も無料ですが年
に一度のクリスマスパーティーには参加費をいただいていました。
Q:薬剤師:カウンセリングに始まるコストは?術後運動制限は?スポーツは?
A:スポーツで避けた方がよいものは、コンタクトスポーツといわれる『ボクシング』『レ
スリング』『柔道』などです。術後にスポーツを楽しんでいる方も沢山いらっしゃいます。
術前に術後の目標の一つがスポーツを楽しむと答える人も多くいらっしゃいます。
今回は特に報告書を長くいたしました。多くの方に読んで頂けたら幸いです。
次回 第23回葛飾糖尿病医会は7月20日(木)「糖尿病教育の外来クリニカルパス」
コメンテータは川井クリニック 川井紘一先生です。ご期待下さい。
文責 加藤則子
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