1.乳房炎抵抗性遺伝子の同定 杉本真由美 ((独

座長(山田):それでは第14回動物遺伝育種シンポジウム「動物における疾患の遺伝的
コントロール」を開始したいと思います。今回の座長は理化学研究所の間先生と京都大学
の山田が勤めさせていただきます。
1.乳房炎抵抗性遺伝子の同定
杉本真由美
(
(独)家畜改良センター技術部)
(杉本先生略歴紹介)
(杉本先生講演)
質疑応答
山田:栃木で臨床をやっております、磯動物病院の山田と申します。非常に面白いデータ
を示していただきありがとうございます。確認なのですが、初産牛の振り分けをする時に
体細胞数だけで割り当てていますね。それは臨床型乳房炎の牛ではないということですね。
杉本:はい
山田:そうしますと、確かに先生がおっしゃいますように、体細胞数というのは一つの臨
床的な乳房炎の判断の基準になるのですが、いわゆる臨床型乳房炎というのは細菌感染だ
けではないですね。主に細菌感染があったときの体細胞数が増加している中身をみてみる
と、だいたい好中球になっているわけです。体細胞数の多い牛の中には、実際体細胞数自
体が多い牛というのがあるのですから、多分お示しになられた罹患牛というのは高体細胞
数の牛のことをおっしゃられていたと思うのですが。
杉本:それは臨床型の牛です。
山田:最初の選択のところに関して、あのデータだけみますと、臨床の乳房炎にかかりや
すい牛かどうかではなく、体細胞数が高い牛かそうでない牛ということしか区別してない
と思うのですが。そこで、その体細胞数の多い牛の、体細胞の中身の分布、すなわちどう
いう細胞が出てきているかを確認されたかどうかという点が一つです。いわゆる潜在型乳
房炎にもいろんなタイプが有ります。あきらかに臨床型ではないのであれば、いわゆる、
潜在型乳房炎であって、治療の対象にならない乳房炎です。中身の細胞の種類の確認をさ
れたかどうかということです。それから初産の牛を調べていらっしゃいますけども、その
牛がそのあと実際に乳房炎を発症したかどうかを、追跡調査をされたかどうかということ
もを教えていただきたいです。
杉本:はい。このサンプルにつきましては、まず検定事業で行っている毎月一回、定期的
に SCS を測定したものの10回分の初産時の平均のデータを使いました。ですので、この
データは非常にたくさんあるデータから抽出してきた訳で、それらの牛がそれぞれその後
どのような経過を辿ってきたかどうかは追跡しておりません。ですから、臨床型乳房炎を
発症したかどうかは確認していません。しかし、最後のほうに示しましたように、乳房炎
発症率、これは十勝の獣医さんが実際に治療をしたかどうかの乳房炎発症率なのですが、
今回初産牛、つまり二歳齢以下の SCS のデータの高い低いで遺伝子をとってきたにもかか
わらず、臨床型乳房炎に対する効果は、二歳齢以下でなく、三歳齢以降でこのように差が
みられることから、やはりこの辺が SCS を使って遺伝子をとってきたことと、臨床型乳房
炎とのギャップを示しているのではないのかと私は考えています。
山田:その二つを結びつけるのは確かに、状況的にみるとそうかという気もするのですが、
実際検査をして、病気の牛で検査結果が高かった、あるいは低かったというのと、高い牛
が必ず発症するかということは別のことです。ですから、やはり、所在の牛の追跡調査を
行って、その牛が将来三歳以降でも発症率が高いか低いかとうデータを示していただかな
いと、このデータとさっきのデータと結びつけるのはちょっと無理が有るのではないと思
います。
杉本:その点ですが、現在、家系を作出しているところです。30頭という、少ない頭数
ですけども、これらは同じ牧場で飼って、その間に毎日 SCS を測定して、しかも乳房炎に
発症しているかどうかカリフォルニアマスタイテステストを行っています。実際に臨床型
の乳病炎を発症するかどうか、それから実際に SCS のデータと結びついているかどうかが、
この実験を行えば、ある程度分かるのではないかと思います。
山田:それからもう一点、LPS を使ってらっしゃいましたけど、全部の細菌が LPS を出す
訳ではないと思うので、あくまで一つの指標として用いているだと思います。ご存知のよ
うに乳房炎というのは環境型の乳房炎と伝染型のものと大きく二つに分かれますし、病体
自体がかなり違います。臨床型になるとかなりのバリエーションになる訳ですね。そうい
う点でもこの実験にかなり期待はしていますが、臨床にフィードバックするときにもうす
こし、一回大きな視点で検討していただけたらいいのではないかと思います。大変興味深
いお話ありがとうございます。
杉本:ありがとうございます。
座長(山田)
:そのほかなにかありますでしょうか。
北川:大変面白いお話ありがとうございました。岐阜大の北川と申しますが、獣医もして
おります。今の質問に関連すると思うのですが、乳房炎の病原体にもいろいろなものが有
ると思うのですが、カビだとか細菌もそうですが、それらに関係ない感受性と考えた方が
よろしいのですか、それとも病原体ごとに感受性が変わるのでしょうか
杉本:そうですね、その辺に関してはもうすこし詳しく実験しないといけないと思います。
北川:なんとなく感受性があるということは理解できるのですが、病原体によって発症が
あったりなかったりすることも考えられます。また、先ほどの臨床型のお話もそうですが、
原因は山ほどあり、しかも体の弱い牛がいる等、動物側にもいろいろと原因が有ると思う
のですが、その辺りに関してはどうお考えですか
杉本:そうですね、この FEZL を同定した過程というのが、SCS でとってきて、全く原因
菌も臨床型かも関係なくとってきた遺伝子ですので、その効果が、細菌感染の臨床型乳房
炎にどれだけ効果を及ぼすかを示すのは難しいと思います。
北川:そうなると乳房炎ではなくて、体細胞数の増える対立遺伝子と思えばよろしいです
ね。
杉本:はい、ですが途中で実験をお示ししましたけども、実際インビトロの実験で LPS、
これも大腸菌ぐらいしか持っていないものですけども、それで感染を起こすと発現量が上
昇して、しかもその一番下流にはサイトカインが効いてくることから、サイトカインが効
いてくるような感染症に対してはある程度抵抗性を示すのではないかと思います。しかし、
それは実験で確認した訳ではないので、この時点ではなんともいえません。
北川:ありがとうございました。
座長(山田)
:それでは間先生
間:理化学研究所の間と申します。大変にすばらしいお仕事で感服いたしました。メカニ
ズムの点でいくつか質問がございます。まず、どんな菌でということが一番重要だと思う
ので、そこを調べられたらいいと思いました。次に局在は12G と13G で実際それに違
いを認められたかどうかです。
杉本:その実験のデータはお示ししませんでしたが、どちらも核の中に局在していること
は確認しています。
間:それでは、次は12G と13G は SEM5A に対する結合の親和力、例えば結合している
か否かについて違いが見られたかどうかという点です。先ほどのメカミズムですと、ロイ
シンのところがロイシンジッパーモチーフを形成していて、そこが DNA に対する結合に重
要な部分で、13G ではその結合力が落ちているということなのか、それとも細菌の感染
によるアップレギュレーションが12G よりも13G が大きいのかということが重要かと
思ったのですが、その点について教えていただけたらと思います。
杉本:そうですね、結合の強さについてはいろいろと実験したのですが、差は認められま
せんでした。ですから、同じように結合するのではないかと思います。
間:それでは転写活性化の量だけが変わったということでしょうか。
杉本:そうです。
間:そうしますと、どの細菌の感染で転写活性が上がるのかということを実験された方が
いいと思います。
杉本:はい、しかし今回は LPS を使った実験しか行っていないので、その点についてはお
答えできません
座長(山田)
:他に質問はありますでしょか。それでは私の方から一点質問があります。
先ほどのメカニズムのことですが、感染に際しては LPS 以外のものも有ると思いますが、
それらが Tol like レセプターからシグナルが伝わって最終的に IL8 までいくという、そ
の細胞は胸腺の上皮なのか、あるいは免疫を担当するようなマクロファージのような細胞
なのか、どちらでしょうか。
杉本:わたしが実験で使った細胞は乳腺から樹立された東北大の麻生先生からいただいた
細胞ですので、実際にマクロファージなどを使って実験はしていませんので、他の細胞の
ことについては分かりません。
座長(山田)
:ほかに有りますでしょうか。それでは時間の方も来ましたので、杉本先生
ありがとうございました
2.MHCをマーカーにした牛白血病抵抗性牛作出に向けた育種戦略
間
陽子
(理化学研究所分子ウィルス学特別研究ユニット)
(間先生略歴紹介)
(間先生講演)
質疑応答
座長(山田)
:では国枝先生
国枝:岡山大学の国枝です。すばらしい発表ありがとうございました。特に最後のところ
にありましたが、私たちも色々な病気の遺伝子を調べている時に、それが他の経済形質と
関連しているかどうかということ、したがってそれを排除していいものなのかというのは
常に気になっているところです。非常にクリアなデータを出していただいて、MHC の特
定のアリルを集団から排除することが可能と思います。経済形質の関連を詳しく調べてい
る点は非常に感銘いたしました。別の質問ですが、私が常に感染症に対する対応で気にな
っていることが今回の発表でもありましたように、感染とその後のウィルスの増殖、この
場合は白血球の増多ということもありますが、そして発症に至る過程で、実際にその病気
の蔓延を防ぐためにはどの段階が一番重要なステップなのかという点です。例えばウィル
スが感染しても、発症はせずにウィルスを撒き散らしてしまうような動物が残ってしまう
としたら、例えば鳥インフルエンザなどでも非常に問題になると思います。感染を抑える、
発症を抑える、あるいは癌化を抑える、それらの中で何が一番重要なのかという点につい
てご意見を伺いたいと思います。
間:まず、最も大切なことは予防です。感染しなくなるようなら、それは最善の解決策だ
と思います。しかし、例えばウシの白血病の場合は、ワクチンはできないけれど、発症す
るリスクはすごく低いわけです。ですからインフルエンザのように一気に病気を起こして、
一気に終わるというようなものは、抵抗性を作る時の概念として、感染しなくなる抵抗性
を作ることがベストです。ワクチン開発により、感染しなくなるということがベストチョ
イスです。しかし慢性感染症ではそれができないので、そのために次にどうするかという
ことになります。この時に抵抗性のウシを作るということは、先生がおっしゃっている通
り重要な問題です。ウィルスを撒き散らすわけです。発症はしないけれどもずっとウィル
スを持ち続ける、慢性感染症の病原体を持ち続ける、ということは次に感染するイベント
のリスクを上げるということです。しかし、何百頭に一頭しか発症しないのであれば、そ
れは対応策として有用ではないかと思います。ワクチンができないというのが最大のデメ
リットなので、そのようにすることも一つの重要な防御策であると思います。
国枝:すると感染は例えば飼育管理の衛生化というようなことで対応して、なおかつ感染
しても発症しないウシを作るという遺伝育種戦略をとるということが重要であるとこと
でしょうか。
間:ですから環境要因で抑えられるものは抑えればいい、ウシの白血病なら直検とか針刺
しとかを最大限に少なくすればリスクは少なくなると思います。
国枝:わかりました。どうもありがとうございます。
座長(山田)
:時間も押し迫っていますが、もう一つぐらい質問を受けたいと思います。
山田:栃木の磯動物病院の山田と申します。現場でいつも非常に白血病には苦しめられて
いるので、ありがとうございました。育種の効果については生産性まで検討したデータ、
非常に興味深いものをお見せいただいたのですが、乳牛の方についてはどの辺まで解明さ
れているのか教えていただければと思います。
間:肉牛とホルスタインでは正常のアリル頻度の分布が著しく異なり、例えば先ほどの発
症に関する MHC-DRB3*1601 アリルはホルスタインではレアなアリルであるため、異な
るアリルを探す必要があります。現在我々はホルスタインにも研究を広げており、そのこ
とを解明していこうと考えています。多くのホルスタインの発症牛もおりますので、今後
緊急に研究を進めて行きたいと思っております。
山田:よろしくお願いします。ありがとうございます。
座長(山田)
:そのほかよろしいですか。それでは順番に。
小松:畜産草地研究所の小松です。非常に面白く、育種で実際に応用性のある牛を作るの
に非常に大きな意味を持つ研究だと思います。そこで実際にこれからの白血病にかかりに
くい牛を作る時には、抵抗性遺伝子の集団における遺伝子頻度などを考えていかないとい
けないと思うのですが、具体的にこれから実際に抗病性の牛を作るために行える戦略につ
いてはどのようなことをお考えでしょうか。
間:まず第一に、日本の種雄牛については全頭 BoLA-DRB3 もしくは DQA をタイピング
すべきだと思います。抗病性アリルと罹病性アリルをきちんと掌握するということです。
雌牛については、簡易タイピング法でもいいので大まかにでも調べておくことが必要です。
そこからわかったことに基づいて、次にすべきことは、感受性のアリルはホモで病気にな
りますが、片側が抵抗性であればいいということですから、種雄牛の中から感受性のアリ
ルをホモでものは持つものを少しずつ育種戦略ではずし、抵抗性のものを持つものを増や
すということが重要です。また、MHC というのは免疫の基盤をなすものであり、重要な
ポイントは多様性が必要ということです。ホモだと多様性がなくなるために免疫が弱くな
る可能性があり、ヘテロであることが重要です。その兼ね合いということになりますが、
抵抗性の遺伝子がいくつもあるわけですから、ホモにならないようにそういうものを必ず
片方持つような戦略で静かに育種を進めていくことが重要です。ですから種雄牛をまず全
部タイピングしたらいいのではないかと思います。
座長(山田)
:それでは奥の方。
尾崎:水圏センター養殖研究所の尾崎と申します。大変興味深い発表ありがとうございま
す。2点ほどお伺いしたいのですけども、今回は MHC クラスⅡについての相関関係の解
析ですけれども、クラスⅠについても同じような戦略で仕事をされていったかどうかとい
うことと、耐病性アリルのハプロタイプをホモで持つものとヘテロで持つものに関してあ
まり差が見られなかったことに関して、どのような考察をされているのかということを教
えていただけたらと思います。
間:今回 MHC クラスⅡを戦略として選んだのは、クラスⅠの領域はタイピングが非常に
難しいことによります。まずクラスⅠの領域にはペプチドを噛み込んで提示する MHC 分
子が複数ある上に、多型に非常に富んでいて、しかも他の疾患に関わる遺伝子も密に連鎖
しているため、そこが例えば遺伝子座だとわかっても、クラスⅠ分子である可能性は非常
に低いということになります。ところがクラスⅡ領域の大部分はクラス II 分子をコード
する遺伝子であるため、そこが遺伝子領域だとわかれば、大抵はクラスⅡが原因である可
能性が強いと考えられています。それとタイピング法もクラスⅡのほうがすごく発達して
いたので、我々はまずクラスⅡから始めました。ウィルス感染症というのはもともとクラ
スⅠが重要であると言われているので、クラスⅠを調べるべきだと思いますが、現在タイ
ピング法が作られていないため、牛の場合にクラスⅠの実験が直ぐにはできないので、ま
ずクラスⅡから始めました。クラスⅠはウィルスに対する CTL に重要ですので調べるべ
きだと思っています。
抵抗性に関しまして差が出なかった理由は、抵抗性アリルの頻度が非常に低いためにそれ
をホモで持つ個体数はもっと少なくなります。一方、感受性アリルは頻度が高いので発症
との関連性については今回ははっきりしたデータがでています。今後サンプルを増やして
もっと検討していきたいと思います。
尾崎:ありがとうございました。
座長(山田)
:時間もかなり押していますのでよろしいでしょうか。間先生どうもありが
とうございました。
3.ブタの MHC ハプロタイプと抗体産生
安藤麻子(東海大学医学部)
、今枝紀明(岐阜県畜産研究所)
、
北川 均(岐阜大学応用生物科学部)
(安藤先生略歴紹介)
(安藤先生講演)
質疑応答
座長(間):安藤先生、私の方からひとつ。先ほどのホモになっている個体は免疫応答性
が低かったですね。その前のプラズマ肺炎とか豚丹毒でもホモ個体で低かった言うことで
すが、ホモ個体であっても生き残っていくということが、それらの免疫応答の低いことと
何か相関があるのでしょうか?
安藤:ホモでも生き残っていけるということについて、どの程度ホモになったことで特定
のいくつかの抗体産生が、今回 3 種ぐらいしか調べてないわけですけれど、生存に関わ
っているかといったようなことは今回のデータだけではなんとも言えないので、今後、ホ
モになった場合に他の外来抗原に対する応答性や他の免疫関連遺伝子との関連や、発現や
多型との関連というのを調べていかないとわからないと思っています。
北川:一緒に研究している岐阜大学の北川です。今の質問に対して追加です。僕が言うよ
り今枝さんの方がいいかもしれないですけど、いまのホモの豚、抗体産生の低い豚という
のは、どうも病気になりやすくて生存率がちょっと低いようです。完全には致死ではない
のですけれども、どうも抵抗性が弱いのではないかというようなデータが出ていますので、
ホモというのはちょっと弱い豚ではないかと思います。
座長(間):免疫が弱くて病気になりやすいということですね。
北川:病気になりやすい、あるいは、他の原因でなぜか死んでしまう場合が多いというデ
ータがありますので、そこも関わっているのではないかと思います。
座長(間):その他には?杉田先生どうぞ。
杉田:同じ質問かもしれないですが、ハプロタイプの 27.30 というのは、いままで淘汰さ
れずに残ってきているということは、例えば家畜の場合は病気になったら全部淘汰すると
いうようなことがあるので、淘汰されずに残っていて、自然の豚、猪でではなくなってい
るということでしょうか?
安藤:なくなっているかもしれないですね。
座長(間):山田先生お願いします。
山田:今回、相関解析に用いられたのが抗体産生能ということは、抗体産生能に関与して
いるのは SLA の中でもクラスⅡのリージョンの遺伝子ということになるのでしょうか?
安藤:今回、クラスⅠ、クラスⅡの個々の遺伝子について、ランダムな豚の集団で特定の
アリルと抗体価との相関が高いかそれぞれ調べるというような形の調べ方をしていない
ので、つまり SLA が固定された豚を使っているので、クラスⅠが効いているか、クラス
Ⅱが効いているかということについてはなんとも言えません。少なくとも今回お話した2
種類のハプロタイプについてはどちらかを持っているということが効いているというこ
とは確かだと考えていますが、相関する遺伝子については申し上げられないということで
す。
座長(間):時間もございますので、安藤先生ありがとうございました。
4.ニワトリ MHC 領域の多様性データベースの構築と感染症研究への応用
椎名
隆
(東海大学医学部)
(椎名先生略歴紹介)
(椎名先生講演)
質疑応答
座長(間):それでは、会場の方から何かご質問等ございませんでしょうか。万年先生お
願いします。
万年:神戸大学の万年です。興味深いご講演ありがとうございました。教えていただきた
いのですが、BG、BL、BF のところが非常に組み換えが低いということをおっしゃって
いたと思うのですが、この機構としては物理的に組み換えが起こりにくいのか、それとも
組み換えが起こった結果、生存的な点で残らないのか、について教えていただきたいと思
います。単純に考えれば、MHC 等では組み換えを起こして多様性を高めた方が得なのか
なと素人的には考えたのですが、そのあたりをお教えいただければと思います。
椎名:組み換えが起きたら確かに MHC の方は多様性が増えるのですが、その反面、人の
MHC の場合は連鎖不平衡というものが見られます。その理由としましては、ある抗原を
クラスⅠが持っていて、クラスⅡがあるタイプを持っていると、バランシングセレクショ
ンがかかるということが考えられます。要するに、クラスⅠがこの型を持っていて、クラ
スⅡではこの型を持ってないと生活環境では有利に働かないということです。そういった
ものは淘汰されてしまって、有利なものは残るという風に今までは考えられていました。
ニワトリの場合は、確かに全体が BG から BF までの間で60kbという非常に短い領域
であるという物理的な理由ももちろんあります。ただ、そのような短い距離であっても、
実際、その観察値から見ますと連鎖不平衡が見られるわけです。やはり、先生の言われた
物理的な問題と、このようなバランシングセレクションがかかっているということの両方
のですね。ただその証拠については、まだ私の方では確認しておりません。
万年:ありがとうございました。
座長(間):他に何かありますでしょうか。
山本:広島の山本です。BG の配列の類縁関係を見た図で、セキショクヤケイの B21 を
見ていますが、他のはたぶん全部 B システムがホモの系統を使っているのですね。しか
し、ショクヤケイの B21 というのはたぶんホモではないと思うのですが、どんなセキシ
ョクヤケイなのしょうか。
椎名:この材料については、2004 年のゲノムプロジェクト、ゲノムシークエンスが発表
された後に非常に論議が起きていまして、実は使った個体というのが、コンジェニック系
なのですが、その前の段階で白色レグホンと一緒に飼っていて、混ざっていて、部分的に
セキショクヤケイを反映しているゲノム領域もあれば、白色レグホンを反映しているゲノ
ム領域もあるということのようです。我々はセキショクヤケイの B21 型を決定したわけ
ですが、白色レグホンの配列ではないかというと、それをそうだという根拠もないようで
す。ただ、聞いた話で申し訳ないのですが、東南アジアのある先生が、ネイティヴなセキ
ショクヤケイを捕まえて、その MHC 型を調べると、確かにニワトリの B21 と 100%マ
ッチしたということですので、おそらく、今の家禽化されたニワトリとセキショクヤケイ
ではあまり大差はないだろうと我々は考えています。BG の方は、そこに 10~20 個の遺
伝子があるとしまして、バッククローンによるマッピングは終了しています。ただ中身は
全くまだ見ていない状態です。ですから、先生が言われたとおりに、その領域がすべてホ
モで持っているのか、それともヘテロなのかということについては今のところ分かりませ
ん。実際にそこのシークエンシングが近いうちにスタートしますので、その時に明らかに
なっていくのかと思います。
座長(間):では、時間もございますので、この辺で終わりたいと思います。ありがとう
ございました。
5.水産分野における耐病性形質のマーカー選抜育種研究
坂本
崇
(東京海洋大学海洋科学部)
(坂本先生略歴紹介)
(坂本先生講演)
質疑応答
国枝:サカナでは耐病性育種というのはすでに実用化されていて、昨日食べたお刺身も
もしかすると耐病性のヒラメだったかと思うと感慨深いものがあります。一点、質問さ
せてください。先ほど間先生にも質問したことですけれども、このようなウィルスの感染
に対する抵抗性のサカナが単にウィルスに感染して病気を発症しないというだけなので
あれば、そのようなアユを環境中に放流する事によって、むしろそのウィルスの感染を集
団中に広めるというようなことが危惧としてあります。この場合は感染に対して抵抗性が
あるのか、それとも発病に対して抵抗性があるのかということは非常に重要なファクター
であると思うのですが、その点についてお伺いできますでしょうか。
坂本:これまでの耐病性のアユの系統の解析では、注射ですとか、菌の液に漬け込むよう
な形で感染実験を行っているのですが、耐病性の魚は速やかに体の中の菌を排除して無く
しているということはわかっています。ですから積極的にばら撒くという状態ではなくな
っているだろうと思います。しかも一緒に他のサカナを飼っていても死ぬ事がそれほどな
く、発症することもないということもあり、たぶん大丈夫であろうと思います。もちろん
もっと気をつけないといけない問題ではあると思います。
座長(間):そのほかにフロアのほうからどなたか質問ございませんでしょうか?それで
は 25 分遅れになっておりますので、このへんで先生の発表をしめたいと思います。大変
ありがとうございました。
総合討論
座長(山田)
:それでは、スライドの総合討論の 1 と 2 の項目について進めていきたいの
ですが、まず、1 についてそれぞれの動物種のゲノム解析の状況、公開および利用という
ことについて、それぞれの動物種の専門の先生方、とりわけ MHC に絞られた部分でよく
知られている人もいると思うので、それぞれの先生方に、どんな状況なのかを説明してい
ただくことから始めようと思います。最初にウシということになりますが、国枝先生か、
杉本先生に現状をまず説明していただいて、MHC に関しては竹島先生に、という形で進
めたいと思います。ゲノム解析がどの程度進行しているかはそれぞれの種で違います。僕
も今日初めて知ったのですけども、ブタについても2009年に全ゲノム配列が公開され
るかもしれないということです。ウシとニワトリはほぼ終わっています。竹嶋先生、MHC
に関して何かありますでしょうか。
竹嶋:理研の竹嶋です。ウシのゲノム全体のことについてはあまりよく知らないのですが、
一応全部終わっているとは聞いています。MHC に関しては、論文を読む限りでは、20
06年に MHC のクラスⅡB という一番先頭の、23番染色体の先端の方にある、クラス
Ⅱの一部が非常に詳細に解析されています。そのほか、クラスⅡA、クラスⅢの方は、少
しは解析が進んできているのですが、クラスⅠに関してのゲノムのシークエンスというの
はたぶんほとんどまだ公表されていないのではないかと思います。ゲノム全体のシークエ
ンスで NCBI の方には少しずつ増えてきてはいますが、MHC の遺伝子のつながりがどう
いう風になっているのかというのはまだまだわからない状況ではないかと思います。
座長(間):ありがとうございました。
椎名:今の点に少し追加ですけれども、最近ウシの MHC 領域のゲノム配列を解析してみ
ますとかなりのミスアッセンブリーが見られるので、それを直していかないと、まだ真の
ウシの MHC 領域の配列は得られないのかなという印象があります。
座長(山田)
:ウシの NCBI の SNP データベースに入っているのもありますね。という
ことは、あれはミスリーディングという可能性もあるということですか?
椎名:位置があんまり確定されていないまま、SNP として登録されているだけだと思い
ます。人の場合でも、今 dbSNP に、1400 万 SNP が登録されていますが、その中で集団
間の比較に信用して使えるものは、半分しかないですね。そう考えますとウシの配列がま
だ、確定していない状態での SNP では、それが本来の位置を反映しているのかというの
は少し疑問に思っているところです。
国枝:国枝です。その点に関連してあくま私の感想ですが、ヒトのシークエンスが出て、
マウス、イヌ、ニワトリ、ウシが出てといってもあくまでラフなドラフトと思います。や
はり今、椎名先生がおっしゃったように、どこの段階でゲノム全部のシークエンスのデー
タが確定したかというのは、なかなか難しい問題で、決定したと言われているものでもか
りラフなドラフトだけで、実際調べてみると、内部でインバーションやミスアレンジメン
トがあったりしますので、まだあくまでラフなものだという前提で、考えた方がいいかと
思っています。
座長(山田)
:それではブタについて、安藤先生お願いします。
安藤:ブタについては講演でだいたいお話ししたように、MHC 領域に関しては一応一つ
のハプロタイプについては全 SLA 領域について、シークエンスが 2.7Mbp についてされ
ていますが、やはりハプロタイプによって遺伝子の数、特にクラス I 遺伝子の数が違うと
いうようなことがわかっています。これらのことがクラス I の遺伝子の機能にどの程度関
わっているのかということは今後の課題ですので、やはりひとつのハプロタイプのゲノム
配列が出たからと言って、これだけ多型性のある MHC 領域の場合は、それですべての話
が解決済みというようことにならないという考えを持っております。
座長(山田)
:それでは、ニワトリについて椎名先生お願いします。
椎名:ニワトリのゲノムは、全体的に言いますと、結構決定されていて使いやすいかなと
思いますが、MHC 領域に絞りますと、MHC の B 領域についてはほとんど決定しており
ますが、その他の領域については全く分かっていません。部分的な配列がドラフト配列で
は出ています、そのつながりがまだ分からないということがあります。多型解析の方はど
うかといいますと、細道君の方が調べてくれたのですけども、ニワトリはヒト、マウスに
ついで 3 番目に SNP 数が登録されている数が多い生物種です。ですから、そういう多型
解析の方では、非常に充実してきています。近い将来、おそらく来年初頭くらいに SNP
データベースの Bild3が公開される予定になっており、1 年に 1 回くらいのペースで多
型情報が更新されるという形で、非常に積極的に行われています。
座長(山田)
:最後に魚類について、広い範囲の種が扱われているという意味でも、坂本
先生お願いします。
坂本:たぶん椎名先生たちもニジマス等でも調べられていると思いますので、そちらの方
がよろしいかと思われますけども、ゲノム解析はフグだけで、まだ計画は他には無いです
ね。MHC に関しては魚類では比較的調べられてきてはいるのでしょうが、それ以外はあ
んまり目立ったものないですね。
座長(山田)
:今の先生方のコメントを踏まえて、何かフロアの方からご質問ありません
でしょうか。それでは 2 の課題の、遺伝的コントロールのために原因遺伝子、責任遺伝
子を同定する際の、ゲノム情報を踏まえた上での問題点等についての議論を始めたいと思
いますが、これまで MHC と MHC でないお話がありましたが、まず、MHC の方から進
めたいと思います。MHC では、先ほど LD が非常に長くて連鎖解析ではなかなか難しい
けれども、ケース・コントロールスタディでやれば、なんとかいけるというような話があ
りましたが、椎名先生、安藤先生からなにかコメントありましたらお願いします。ケース・
コントロールスタディを行えば原因遺伝子がとれるのか、間先生のようにバイオケミカル
にペプチドの反応等の実験を行っていくというような、免疫学的あるいは生化学的な実験
の裏付けも必要となるのか、それらの点についてコメントをお願いしたいのですが。
安藤:間先生のようにいろんな機能を見ていくということはやはり非常に重要だと思いま
す。MHC の遺伝子そのものが本当に疾患の感受性、抵抗性に関係しているのか、それと
も近くの遺伝子が真の疾患遺伝子かということが、昔からヒトの MHC 領域で言われてき
ました。やはりひとつずつの相関があった遺伝子に関して、その相関がどういうメカニズ
ムで生じているのかというような研究が重要と思います。それから、本当に MHC 遺伝子
そのものが関係しているのか、それとも近くの遺伝子の関与があるのかどうか、真の疾患
遺伝子が近くにあるのかどうかというようなことは、近くのマーカー等を用いて詰めてい
かないといけないと思います。
椎名:問題点としては、先ほど説明しましたけれども、LD が長いことと、多型情報がま
ったくなかったということですから、多型情報をまず充実させるということでした。先ほ
ど最後に述べましたけども、ニワトリBのマレック病と関係している遺伝子が、実は SNP
多型ではなくてインデル(挿入欠失)多型だったわけです。そこで、そのようなインデル
多型を、追いかけようとすると、単なる SNP マーカーやマイクロサテライトマーカーで
はだめで、リシークエンシングによって、感受性ハプロタイプのものと抵抗性ハプロタイ
プのものを決定したわけです。そういう地道なシークエンシングを行うことによって、わ
かったわけです。それと、そういうリシークエンシングを行うメリットとして、SNP と
いうのはメジャーな頻度を持っているものが見えくるわけですが、レアリルというのもを
捕まえようとする場合にはこのようなリシークエンシングを行わなければいけないので
はないかと思っています。実際ヒトの場合でも、これからパーソナルゲノム時代に入りま
すけども、千人規模、1万人規模でシークエンシングで多型を検出していこうということ
ですので、私もニワトリでやっていこうと思っております。
座長(山田)
:杉本先生の研究は MHC ではないですけれども、実際に免疫性の疾患に関
わるような遺伝子をとらえてきましたが、免疫性の疾患に関わらず動物遺伝研では精力的
にポジショナルクローニングをされていますので、その点について何か問題点とかありま
すでしょうか。
杉本:ウシの場合は、やはり、数百頭レベルで感染実験を行うというようなことはまった
くできないわけですので、やはり、サンプルをどのように集めてくるかが一番重要かと思
います。ですから、どうしても一般農家から、病気に強いウシ、弱いウシいうように選ん
で集めて、ゲノム解析をすることになりますので、いかに均一なコントロール集団と、病
気の集団を集めてくるかということが重要になります。そのための一つの方法としては大
規模農家の方と親しくなって、そのようないいサンプルを入手することが、一番の近道で
はないかと考えています。
座長(山田)
:坂本先生の方から、これから責任遺伝子を取っていくにあたっていかがで
しょうか。
坂本:水産とひとくくりにするといろんな魚種でやらなきゃいけないのですが、アユのこ
とで言えば、まだまだ基本的なゲノムのデータもありませんので、そのあたりからやって
いくしかないということです。また、魚類全体で言えることですが、受精卵の保存ができ
ないことです。精子の凍結保存もできる種があったりと、できない種があったり、そんな
基礎的なところからやっていかないと、思い描くような研究がなかなかできないという状
況です。
座長(山田)
:何か、フロアの方からこの点に関して、1、2の課題を含めて何かありま
すでしょうか。
座長(間):また、話が戻りますが、ウシの MHC 領域に関しては配列が決められていな
いということが問題ですし、ですからマーカーも選定できない、そういう現状を打破する
ことが、求められています。これほど重要な遺伝子座であり、遺伝子領域でありながら、
各々の遺伝子のタイピングもできないという状況は国際的にも問題ではないかと思いま
す。そういうことに今後どう取り組むかということを、大きな視野で考えていくことも必
要ではないのかなと思いました。あと、椎名先生、データベースの公開はどのようになっ
ているのでしょうか。そういうところも重要かなと思っております。
椎名:データベースの公開は、もちろん考えております。ただ14ハプロタイプのシーク
エンスしかないのですが、今後、発現情報なども含めて早急に行います。また、得られた
データから、いろんな事が調べられる検索機能をつけた状態で、来年ぐらいめどに公開し
たいと考えております。
座長(山田)
:その他なにかありますでしょうか。
竹嶋:今回自分の発表で乳房炎のこと話したのですが、杉本先生のところで乳房炎の連鎖
解析を行ったところでは、23 番染色体の MHC 領域には、特に何にもないぐらい情報が
なく、連鎖という意味では関係がないように出てきたと思うのですが、それは何が原因だ
と思うのでしょうか。DQA1*0101 ハプロタイプ等、他の国でも関連性が指摘されている
こともあるので、何もなということはないんじゃないかなと思っているのですが。どのよ
うにしたら MHC の領域についても解析ができるについてお伺いしたいのですが。
杉本:まず、あのサンプルは、ウォークエイチイーマークの家系由来のサンプルですので、
あの集団の中では、MHC のばらつきがあまりなかったということが 1 つの原因と考えら
れます。他にも世界では乳房炎抵抗性、SCS だけでなく、臨床性の乳房炎の抵抗性のマ
ッピングをしているグループもいますが、今のところ全ゲノムを探して、MHC にマップ
したという話は聞いていませんので、ひとつ原因として考えられるのは、MHC は確かに、
抵抗性には関わっていますが、ゲノム解析でディテクトできるほど、強くはないのかもし
れません。
座長(山田)その他何かご質問がありますか。
神馬:筑波大学の修士の神馬と申します。基本的な質問で申し訳ないんですけども、椎名
先生にお伺いしたいと思います。ゲノムの配列等を、たとえば NCBI 等のデータベース
上に報告するときに、間違った報告はしてはいけないかと思うのですが、配列がこれが正
しいと報告できるくらいの確信をもてる状況というのはどういうものなのでしょうか。た
とえば、その遺伝子をクローニングして報告するとか、正確なエラーのないような PCR
酵素で増やして、それを2、3回シークエンスして確認して、全部が一緒だったら報告し
ていいとか、そういう基準なのでしょうか。
椎名:それは難しくて、ケースバイケースですが、やはり、数回ダイレクトシークエンス
は必要ですね。たとえば MHC のデータベースというのはヨーロッパで作られていて、い
ろいろな生物種の MHC 遺伝子のデータを格納するところがあります。そこにサブミット
するときに、どのような方法で、増幅したかとか、シークエンスは何回やったかとか、ク
ローニングはしたかとか、いろいろな細かい項目があって、一定の基準を満たさないと、
受け付けてくれないというシステムになっています。これは、MHC の遺伝子の場合なん
ですけども、一般的な DDBJ とかに登録した場合とかはそれは自己責任になって、後で
誰かが検証するとそれは間違っていると恥をかいてしまうので、自分で責任もって登録し
ないといけない。要するに、基準がないということです。ヒトゲノムでも、最初の塩基配
列がでたときには、間違がたくさんありまして、今まだそれを直している領域もまだある
という状態ですので、いろんな検証をして登録しなければいけないということだと思いま
す。
神馬:ありがとうございました。
座長(山田)
:安藤先生から、先ほどの件について。
安藤:杉本先生が MHC と乳房炎ではあんまり連鎖がなかったという話をされましたが、
例えばブタでも、先ほど少しお話ししましたけど、メラノーマに関して、昔からのブタの
MHC である SLA と相関があり、特定のハプロタイプに感受性があるというように言わ
れてきたのですが、最近、詳しくゲノムのマイクロサテライトの多型等でみると、SLA
の領域よりも他の複数の領域に相関が高く出ているということがあります。ヒトの場合で
も、他の動物でもそうだと思のですが、いくつかの遺伝子が関与しているような多因子性
の疾患では、SLA はすごく多型が多いので、MHC の領域だけ見た場合には確かに相関が
出てくるけれども、全体でみた場合にはもぐってしまい MHC との相関が見えにくくなっ
てくるということは確かにあると思います。
座長(山田)
:ありがとうございます。1 に関してその他、何か関連した質問ございます
か。演者の中からも何かコメントはありますか。
杉田:JRA の杉田と申します。ここで質問していいのかどうかわからないのですが、MHC
の B のハプロタイプの系統樹を書かれていたと思うんですけども、これをよく見ると、
一番古い時代に多様化が成立しているように見受けられます。0.5%くらいだから、たぶ
ん年代的には 500 万年前か、1000 万年前という時期ですが、たまたま偶然なのか、それ
ともその時に何かがあったのか、人類が生まれるような時だったと思いますが、ニワトリ
の世界で何かあったんですか。あんまり関係ないかもしれないのでわかる範囲でいいので
すが。
椎名:地理的な地殻変動みたいなものはあったのかなと思います。というのは、キジ目に
は、アフリカに住んでいるホロホロ鳥のようなものもいますし、アジアの北東部にいるキ
ジの仲間もいますし、東南アジアにも、ニワトリの仲間もいます。ということで、地殻変
動とか、気候の変動によって、それまでは新しいハプロタイプは生活に不利だとしても、
それが環境が変わることによって新しいものがどんどんできてきて、その環境が固定する
と、そのハプロタイプが残っていくということを今見ていると、僕は感じています。です
から、1000 万年、時期は正確には何年かわからないですが、その時期になんらかの地球
規模の変動があったのではないかと考えています。
国枝:岡山大学の国枝です。1000 万年という規模はちょっと大きすぎますが、もう少し
短い規模のことを質問したいと思います。先ほど椎名先生が赤色野鶏のハプロタイプを発
表されていましたけども、家禽化の中で MHC ハプロタイプがどう変化してきたかという
ことは、非常に興味あるところです。例えば家畜、家禽化されれば、特定の病気に対して
抵抗性のハプロタイプが選抜されているかもしれないし、逆に野生の環境とは違った優れ
た環境なので、病気に対して抵抗性のハプロタイプが落ちているのかもしれない、そのよ
うなことも考えると、例えば、ニワトリだったら赤色野鶏、豚だったらイノシシのような
野生種のハプロタイプと家畜家禽化されたものを比べた時に、野生にはない特有の組み換
えを起こしているようなハプロタイプがあるとか、固有のハプロタイプがあるとか、そう
いうことがあると非常に面白いんではないかと思います。もちろん、野生種のデータはな
かなか得られないと思いますが、そのようなことに関して何か示唆がありましたら、教え
てください。
椎名:それについては、今回示した赤色野鶏の MHC の配列について少し疑問を持ってい
ますので、野鶏のリシークエンスをぜひやってみたいと思います。それと、現在まで調べ
たもののほとんどが、卵用種ですので、肉用種や他の亜種も調べてみると、今まで知らな
いようなハプロタイプがたくさん出てくる感じがします。これはあくまでも主要な 14 ハ
プロタイプですので、たとえば日本のいろいろな地鶏を調べていくと、もっと多様性を理
解するための研究は広がっていくのではないかと考えています。
座長(山田)
それでは、時間も押し迫っていますので、次課題3の抗病性家畜を作出するためのマーカ
ー遺伝子となりうるかということについて、とりわけ、MHC の領域ですとヒッチハイク、
すなわち MHC 領域にある遺伝子で、ただしクラスⅠ、クラスⅡではないというような遺
伝子が原因遺伝子になっているということがあります。そういった場合でもクラスⅠ、ク
ラスⅡという非常に多型性のある遺伝子をマーカーとして使えるかということについて、
まず MHC について安藤先生あるいは間先生に伺いたいのですが。
安藤:MHC 遺伝子そのものが疾患の発症に関与している場合と、それから、その近傍の
遺伝子が疾患に関与している場合のどちらでも、マーカーとしては MHC の遺伝子の多型
を使うということは可能ではないかと思います。
間:私からも同じ考えです。マーカーになり得ると思います。
座長(山田)
:MHC については、今の先生方のお話のようなことだと思うのですが、そ
れ以外の杉本先生の遺伝子等についてフロアから、何かご質問ありますでしょうか。ひと
つ聞き忘れたのですが、MHC 領域に多型性について、MHC 領域の中でもクラスⅠ、ク
ラスⅡは非常に多型性がありますが、クラスⅠ、クラスⅡ遺伝子以外の遺伝子でも、MHC
領域にあればやはり多型性は高いのでしょうか。
椎名:これについては非常に長くなってしまうので、簡単にお話しますと、MHC のクラ
スⅠ遺伝子とクラスⅡ遺伝子では、その遺伝子自身がいろんなペプチドを提示するという
機能であるため、非常に多型性に富んでいます。しかし、ヒトやチンパンジーの場合です
が、MHC 遺伝子のみならず、その近傍も有意に全体の平均値よりも高い多様度を有して
いることがわかってきました。要するに、MHC を頂点にして富士山の裾野のように周り
の遺伝子の多様性が高いのです。MHC の多型ができるときに、周りの中立あるいは保存
されるべき遺伝子に塩基置換が起きると、MHC にできた多型と、近傍の遺伝子にできた
多型がひとつのハプロタイプとなり、MHC 遺伝子にできた多型が有利に働けば、この多
型も残ってしまうということです。それから、ヒトが、アフリカの森の中から平原に出て
広がるときに、環境の変化によってそれまでは無害だった遺伝子が、有害になってしまい
病気が成立すると考えると、MHC 遺伝子がその疾患を追求するためのひとつのマーカー
になると考えています。ただ、あくまでもマーカーなので、MHC 遺伝子自身が原因とな
る感受性を示す場合もあるし、その近傍にある遺伝子、それが病気の原因になる場合があ
ると考えております。実際ヒトの場合、尋常性乾癬、エリテマトーデスなどの疾患の遺伝
子が、MHC 領域の近傍にマッピングされています。
座長(山田)
:これらのことについて、何か他にご質問ありますか。
座長(間):それでは4番と5番の課題で、今までずっと話題になってきた、MHC を含
めた遺伝子が実際に育種戦略へ応用することが可能なのか、国枝先生からもご質問ありま
したけども、予防や治療の兼ね合いはどうなのか、という非常に重要な問題について最後
にお話をまとめたいと思います。フロアの方から、今日のお話をお聞きになって、実際に
皆さんは育種戦略にこれが応用できるのかどうか、どういう風に感じたのか、ということ
についてご意見ございましたら聞きたいと思いますが。いかがでしょうか。
杉田:JRA の杉田です。昔インフルエンザを研究していたことから言うと、家畜では一
般的にワクチンをうたない方が、正常化の時は早いですね。ウィルスの種類によっては、
たとえば高病原性のインフルエンザや口蹄疫では、その方がいいと農水省の政策ではなっ
ていると思います。逆に言うと、それより強いものを作るのはいかなるものかということ
は、議論になってくるような気もします。その点についてはどのように思われているので
しょうか。
座長(間):ウシの白血病を考えた時に、癌になるかどうかは単一の遺伝子では決められ
ず、複合要因が積み重なって初めて癌になります。それは非常に稀であり確率が低いので、
ウィルスはずっと潜伏していて、撒き散らす要素も低いわけです。単一の疾患の場合は、
ワクチンの開発が可能で、実際にワクチンも投与されると思います。しかし、牛の白血病
はエイズと同じで、cell to cell のトランスミッションにより感染するので、私はワクチン
の開発はおそらくできないと思っています。そうすると、どうやって防御するかというと
隔離、淘汰です。しかし、実際に抑えたにも関わらず、何年か経ってウィルスは再度出て
くるわけです。それではどうすればいいかといえば、やはり家畜の感染を弱めるような遺
伝子があればそれを育種選抜としていくことは有効だし、しかもその遺伝子が発症も抑え
られるのなら、なお素晴らしい方向に向かうというのは、リーズナブルではないかと思っ
ています。これは私の考えなのですが、その他フロアの方からありますでしょうか。藤田
先生お願いします。
藤田:大分県畜産試験場の藤田といいます。大分でもこの抵抗性遺伝子を取り入れて、雌
雄牛選抜に応用していこうということで、取り組んでいきたいと思っています。ただ、大
分の場合、抵抗性遺伝子のアリル頻度が非常に少なくて、これで育種していくときにたと
えば多様性をどのように確保していくかということも問題になってきますし、今ある種牛
ではなく、大分のフィールドにある、雌牛の抵抗性遺伝子をどうやって見つけていくかと
かいうことが結構重要かなというのは考えているところです。あと、排除すべき感受性遺
伝子は経済形質との関係はないのではないかということだったんですけど、もし今度抵抗
遺伝子でずっと育種していったときに、抵抗性遺伝子に本当に経済形質との関連性がない
のか、ということもこれからちょっと調べていく必要があると考えています。あと、さき
ほど間先生がおっしゃられたようなことですけれども、ウシ白血病で発症するまでに 10
年、20 年かかりますので、ほんとにこの抵抗性遺伝子で疾病のコントロールがうまくで
きていくのか、そうでもないのかということを、長いスパンで追跡していく必要があると
考えています。
座長(間):その他について、山本先生どうぞ。
山本:抵抗性の系統を作る時に、確かに発症ではなく感染を抑えれば、感染に対する抵抗
性の系統ができればすごくいいとは思うのですが、私の経験でひとつだけ言っておきます
と、ニワトリのマレック病に対する感染試験では、B21 を持っている個体ではほぼ 100%
近く感染はしません。ところが、いわゆる肝移植性の腫瘍細胞で行うと B21 は一番弱い。
すなわち、もしウィルスが変異を起こして感染してしまったら、逆に B21 はものすごく
マレックに弱くなるということです。今は感染しないですが、もし感染してしまえばもの
すごく弱くなります。そこは別のメカニズムがあると思うので、マーカーで選抜するとき
には、一つだけで行ってしまうと、ウィルス側の変異が将来起きた時には大変なことにな
るかもしれません。
座長(間):貴重なご意見ありがとうございました。今のご意見で4、5、6について、
結局、現場が実際に応用しながら、長い時間と労力をつぎ込んで、それが実際に使えるか
どうかについてのデータを蓄積することが極めて重要であるということになるのでしょ
うか。ということで、最後に 6 番の現場との連携、蓄積について、演者の先生方からご
要望や問題点等がもしおありになりましたらお願いします。また、フロアの方からもそう
いうことでご気づきの点について、4、5、6 全部含めてでもかまいませんので、ございま
せんでしょうか。
尾崎:水圏センター養殖研究所の尾崎です。こういった現場と研究とをつなげるような実
験と実習を重ねていく上で、やはり時間が必要です。育種なので、ライフサイクルを回す
ために世代をつなげなければいけないという問題があり、片方で研究を継続していく上で、
お金を継続するという問題もあります。お金の付き方がショートスパンで付くような現状
の中で、うまく回していく方法、あるいはアイデアや知恵があったら、教えていただきた
いのですが。
座長(間):非常に難しい問題で、ここで答えを出すことができるかどうかは別にしまし
て、会場の方からどうでしょうか、国が、こういうことを国策としてどうとらえるか、農
水がどうとらえるか、公的な関係者がどうとらえるかということが、重要なポイントかと
思いますが、杉本先生どうでしょうか。
杉本:それは私もわかりません。
座長(山田)
:今回の間先生のご発表で、そのような現場との連携をしっかりとされてい
ますが、これまでご苦労もあったと思いますが、その点について聞いてみたいと思います。
間:私の所属している研究所は理化学研究所で、元科技庁だったのですが、農水省とも関
係なく、文科省とも関係のない研究所で、いろんな方からサンプルをいただくということ
は、自分の研究を宣伝し、それに与してくる方が現れなければできなかったわけです。そ
れに対して、遺伝育種学会を通じて山形だとか、それから今回、興味をもってくださった
岐阜県、大分県はじめ、様々な先生方が集まってくださいまして、研究ができました。そ
の中で一番思ったことは、私ひとりだけでは全然アイデアもなく、なにもできなかったの
ですが、多くの現場の先生や県の研究所等で頑張られている先生方がほんとにそれを重要
で、何とかしなければ畜産界が危ない、農家の人にとって密接な問題で、農家の人が本当
に困っているという声を、私に届けてくれて、それから共同研究が成立しました。私とし
てはデータの蓄積、現場との連携、そして、現実に日本の畜産を動かしている現場の農家
の方たちの気持ち、そういうものを含めた連携を行っていくことが重要ではないかと考え
ています、そういうことを、こういう学会の場でも、組み立てていけるような連携、グル
ープ作り、仲間作り、そういうことがなされたらもっといいのではないか、共通の気持ち
を持った仲間を多く作っていくことこそが重要ではないのかと感じています。
北川:岐阜大の北川です。今、非常に大事な話をしていただいて、私もそうだと思います。
ただ、もう少し国の戦略として考えると、抗病性、抵抗性の方は放置しておいても有効な
ので残ってきますが、弱い方も大事な遺伝財産じゃないかと思います。もしかするとそれ
らは、別の病気に対しては強い抵抗性を持っているかもしれません。強い方も弱い方も、
せっかくこれだけいろいろな系統がわかってきたのですから、その両方の保存をするのが
国家政策ではないかと思います。ただ強いほうだけ残せばいいのではなくて、いろいろな
系統をきちんと残していくということを考えていかないといけないと思うのですが、いか
がでしょうか。
座長(間):素晴らしいご意見と思います。そろそろ時間になりますので、最後にどなた
かもう一人ご意見等ございましたらどうぞ。
それでは、今回の動物ゲノム解析と新たな家畜育種戦略、動物における疾患の遺伝的コ
ントロールというシンポジウムをこれで終わりたいと思います。今日は、多くの方々の、
演者の方、会場のフロアの方、から最後まで活発なご意見が出たことを本当にうれしく思
います。企画をしていただいた、国枝先生をはじめ関連の先生方、今日私と一緒に座長を
してくださいました山田先生、演者の先生方、そしてフロアの皆様方に深く御礼を申し上
げます。いずれ家畜の世界、動物の世界にこういう育種戦略が成り立ち、色々な意味で畜
産界が発展していくことを願いたいと思います。本日はありがとうございました。