1034 慢性疲労症候群の診断,検査法の進歩 慢性疲労症候群のマーカー 加速度脈波を用いた評価法 山口浩二 The evaluation of fatigue by using acceleration plethysmography Kouzi Yamaguti Department of Physiology, Graduate School of Medicine, Osaka City University Abstract We evaluated the fatigue of patients witih chronic fatigue syndrome by using acceleration plethysmography. The changes in the acceleration plethysmography were relatively dominant in the sympathetic nervous system from the viewpoint of the autonomic nervous system, and the fluctuation in the time-series data of the acceleration plethysmography was decreased from the viewpoint of chaos or complexity system. We found the relation between the level of fatigue and the changes in acceleration plethysmography. Therefore, the acceleration plethysmography might be usefu1 for the evaluation of fatigue. Key words: acceleration plethysmography, autonomic nervous system, chaos, maximum entropy method 誤りが増えたり,多重注意が困難となり,疲労 はじめに 感が現れる.疲労を評価するということは,こ 慢性疲労症候群(chronic fatigue syndrome: れらパフォーマンスの低下を評価するのか,疲 CFS)は,ウイルス感染などを契機に,健康に 労感を評価するのかという問題がある.産業衛 生活していた人に発症する原因不明の高度の全 身倦怠感を来す症候群で,微熱,咽頭痛,関節 生の現場ではパフォーマンス低下が問題となる が,日常臨床の現場では,疲労感の方が問題と 痛・筋痛などの身体症状や,思考力・集中力低 なる.‘疲れた’‘しんどい,だるい’といった疲 下,抑うつなどの精神症状,睡眠障害などの症 労感は,ややもすると‘気合’で何とかするべき 状が長期にわたり持続することで健全な社会生 ものと考える人も多く,的確な評価が難しいの 活を送れなくなるものである.診断基準上,日 が現状である.ましてや一般臨床検査で異常を 常生活に支障を来す高度の疲労が存在すること 認めないCFSでは,高度な疲労であるか否かの が必要条件となっている.CFS以外にも疲労を 訴える疾患は多数あるが,高度の疲労か否か, そこで疲労感をいかに評価するかが重要とな 判断そのものが困難となっている. 疲労を訴える患者の疲労を客観的に評価するこ る.疲労・疲労感そのものが存在し,それに量 とは難iしい. 的な性質があることについては,疑いのない事 一般的に,疲労すると反応時間が遅延したり, 実であるが,‘疲労’を医学の対象とするために 大阪市立大学大学院医学研究科システム神経科学学外研究員 0047-1852/07/¥40/頁IJCLS Presented by Medical*Online NiPPon Rinsho Vol 65, No 6, 2007-6 1035 は,疲労を測るところがら始めなければならな そこで,これらの欠点を克服し,脈波の定量 い. 的な解析を目的に,DPG波形の二次微分波形 現在,疲労感の評価法としては,痺痛などの である加速度脈波(APG)が提案2)された.微分 主観的症状でも用いられるVisua1 Analogue という数学的操作は,バイパス,ローカットフ Scale(VAS)があるが,個体間変動や個体内変動 ィルターとしての性質を有していることから, が大きく,必ずしも再現性が良好でないなどの 基線が明瞭になると同時に安定し,DPGの原 問題点がある.また,VASは,自記式・自己申 波形と比較して,より多くの明瞭なピークが認 告式のため,各種問診票と同様の問題点も残し められ,それらのピークを用いた波形のパター ている.疲労感のような主観的なものを量的な ン認識や測定が可能となった.現在,生理機能 ものとして評価する手法としては,VASを用い との関連や血行動態の研究が進められている. た方法ぐらいしかなく,今まで,‘疲労’を客観 的に評価する手法を持ち得なかったため,‘疲 2.加速度脈波の基本波形 労’が医学の対象となり得なかったのではない APGの波形は,図1に示すように, a, b, c, かと思われる. そこで,本稿では,今まで定量化手法を持ち d,e波の5つの成分から成っている.これら波 高データは,指尖部の検出器への接触圧力の影 合わせていなかった疲労という現象に対して, 響を少なからず受けるため,測定に細心の注意 加速度脈波を用いた疲労定量化の試みについて を払うことが必要であり,各メーカーともこの 紹介することとする. 検出器の構造に工夫を凝らしている.更に最近 1.加速度脈波(acceleration plethysmogra- phy:APG)とは? はa,b, c, d, e波の波高といった各パラメー タを単独で用いるのではなく,これら個別のパ ラメータから計算される複合パラメータである 心臓から拍出された血液は,脈動を伴う脈波 波形指数(waveform index)一1,一IIが用いられて となって末梢に伝播される.そして,脈拍や血 いる3).これら複合パラメータは,a波に対する 圧といった血行動態,細動脈の性状変化などの 比を取ることにより,指尖部における接触圧に 生理的条件によって脈波は修飾される1).つま よる影響を回避している.更に近年の研究で, り,脈波は心臓から末梢血管に至る血行動態に 関する多くの情報を含んでいるのである.現 加齢により波形指数が減少することや,動脈硬 化などの血管老化度をよく反映していること3) 在,脈波検査で広く臨床応用されているのは, も明らかにされており,住民検診などで生活習 動脈内圧の変化で生じた血流の容積変動を検 出する容積脈波である.特に,指輪容積脈波 慣病早期発見の目的で利用されている. 計は,装置が簡単なことより多くの分野で利用 3.加速度脈波のa-a間隔 されている.容積変動を検出するこの手法は, APGのa-a間隔(図1)は,心電図によるR-R ヘモグロビンの吸光度変化から血流変動を測 間隔,すなわち,心拍の評価と生理学的にはお 定するものである.この指油容積脈波(digital おむね同様の意義を有している.心電図におけ plethysmography:DPG)は,測定部位付近の動 るR-R間隔では,その変動係数(R-R間隔の標 脈圧脈波を反映していることも明らかにされて 準偏差をその平均値で除し,百分率で表したも おり,主に末梢血液循環動態や自律神経機能を の)やR-R間隔の時系列データを高速フーリエ 反映する検査として臨床的に用いられている. 変換などの周波数解析(スペクトル解析)したも 機器自体の構造が簡便で,測定も非侵襲的な反 のを用いて,自律神経機能が評価されている. 面,基線が不安定で,単調な波形のため,評価 心拍変動係数は,加齢や心不全のときに低下4) 可能な情報量に乏しいことが欠点とされてきた することが知られており,心拍変動のゆらぎの (図1). 減少を示している.また,各種自律神経作用薬 Presented by Medical*Online 1036 日本臨林65巻6号(2007-6) 10,000 ↓ o 一10,000 容積脈波 鮒 一20,000 60,000 wtwfi a a-a 間隔 a 50,000 40,000 30,000 20,000 e 10,000 c 加速度脈波 0 -10,000 d -20,000 waveform index 一 30,000 -40,000 I m一 d/a 一 b/a b II = c/a一 b/a -50,000 0.o O.5 1.0 1.5 2.0 (sec) time 図1 容積脈波と加速度脈波 を用いたR-R間隔の周波数解析から,0.15Hzま がないにもかかわらず,複雑な振る舞いが生じ での低周波成分(low frequency:LF)は主に交感 る現象6)のことである.つまり,一見複雑な現 神経機能を反映(一部副交感神経機能を含む)し, 象が,多数の因子による複雑な規則をあえて適 0.15Hz以上の高周波成分(high frequency:HF) 用せずとも,少数の因子による単純な規則から は副交感神経機能を反映5)していることが明ら でも生成し得るような系のことである.非線形 かにされており,低周波成分/高周波成分の比 的なダイナミクスのため,複雑な振る舞いをし, (:LF/HF)が自律神経機能を示している.心電図 長期的には予測不可能となるが,適切なモデル R-R間隔の場合と同様に,APG a-a間隔の変動 を作れば短期的には予測可能なものである. 係数や周波数解析で得られた:LF/HFも同様の 近年の研究で,自然界の多くの現象,例えば 気象や気候変動,気体・液体などの流体の流れ, 意義を有していると考えられている. 4.加速度脈波時系列データのカオス解析 天体の運動や太陽黒点の増減などの現象がカオ スであることがわかっている.医学生物学領域 a.カオスとは? では,ニューロンの発火や,脳波,心電図,音 一般的に‘カオス’とは‘決定論的’システム自 声などの生体時系列データや,あるいは感染症 体が有する‘非線形性’に起因して,確率的要因 の患者数の増減(流行状況)といった現象がカオ Presented by Medical*Online NiPPon Rinsho Vol 65, No 6, 2007-6 1037 スとしての性質を有していることも明らかにさ を取る.したがって,相関次元が非整数で,か れている.そして,カオスであることの結果と つ,最大リアプノブ指数が正であることがカオ して,その系は,‘ゆらぎ’をもち,特に生物に スと判断するために必要6)なのである. おいては,この‘ゆらぎ’の存在により,外因に よる状況・環境の変化に柔軟に対応できるとさ 5.加速度脈波時系列データの最大エン トロピー法に基づくゆらぎの評価 れている. 現在,時系列データにカオス解析が用いられ 時系列データの周波数(スペクトル)解析では, る理由には2つある.1つは,複雑な現象の背 医学生物学領域では長らく高速フーリエ変換が 後に潜む単純な規則を解明し,背景の力学系に 多用されてきた.そもそもフーリエ解析は,無 ついてのモデルを構築するためで,もう1つは, 限長の連続データであることが数学的前提であ 一見予測不能であるかのような複雑な振る舞い る解析手法である.しかし,医学生物学領域で を示す現象でも,カオスであれば,短期的には 得られる現実の時系列データは有限長で,ある 予測可能であるという特性があり,近未来の予 サンプリングレートで記録された離散データで 測を行うという実用上のためである.カオス理 ある.しかも,得られた有限長の時系列データ 論に基づく,複雑系時系列データの評価は,単 は,しばしばかなり短時間で,少なくとも無限 純な時系列パラメータの統計量を基にした解析 長のデータからはかけ離れている.そのような 手法と比較し,背景の力学系の微妙な相違を検 時系列データに対して,窓関数の概念を持ち込 出できる手法であり,従来の評価法では,その み解析しているのが高速フーリエ変換という手 差異を検出困難であるような疲労という現象で 法である. も何らかの変化を検出できる可能性があると考 一方,近年,周波数解析の新しい手法として え,APG時系列データにカオス解析を適用した. 注目されている最大エントロピー法(maXimum b.カオス解析の具体的な手法 entropy method:MEM)は,短時間の離散時系 カオス解析の具体的な手法は,一般的に,自 列データの解析に適したものである.最大エン 己相関関数がゼロまたは最初に極小値を取る トロピー原理と呼ばれる普遍的な原理を用い, 値から埋込遅延時間を求め,Grassberger- 解析する時系列データに特別な構造を仮定した Procaccia法により相関積分を計算し,それよ り,持ち込んだりしない点に特徴がある. り相関次元を求め,埋込次元を決定する.得ら れた埋込遅れ時間,埋込次元にて,Takensの 疲労評価のため,その都度,長時間のAPGの 計測が必要となるようであれば実用的とはいえ 埋込定理7}に従い,相空間への埋込みを行い, ない.短時間の時系列データから疲労を定量す 最大リアプノブ指数を決定するという手順で行 ることが求められるため,今回,著者らは周波 われる.詳細は成書6>を参照して頂きたい.著 数解析の手法として,MEMを用いた. 者らがAPGの時系列データの解析で疲労評価 MEMを用いた時系列データの解析では,横 に用いたカオス関連パラメータは,相関次元と 軸に周波数(Hz)を,縦軸にスペクトラムのパ 最大リアプノブ指数である. ワー値(power spectrum density:PSD)を取っ 相関次元は,背景の力学系を規定している因 てプロットするが,カオスのような決定論的メ 子の数,すなわち自由度に関係している数量で, カニズムを背後に有する系では,縦軸を片対数 値が大きいほど複雑度そのものが高まり,特に で取ると,低周波成分を除く領域が直線的に, 時系列データがカオスであるときには非整数の すなわち指数関数的に減衰(指数スペクトル)す 値を取り,より規則的な振る舞いをしている場 る.更に,乱雑さが少ない,より規則性の高い 合には整数に近い値を取るものである.最大リ 時系列データでは,高周波成分,つまり,‘ゆ ァプノブ数は長期予測不能性を数値化したもの らぎ’が急速に減少するため,この直線的に減 で,時系列データがカオスである場合,正の値 衰する部分の傾きはより急峻なものとなる.一 Presented by Medical*Online 1038 日本臨1休65巻6号(2007-6) 時期,‘1/fのゆらぎ’が注目されたことがあっ II指指尖部を用いて,数回検査を実施し結果が たが,これはPSDの対数表示が対数周波数に 安定したものをもって測定データとした. 反比例するもので,両対数でプロットすると, 直線的に減衰(罧スペクトル)し,周波数が10 また両群とも,主観的疲労感をVASにて自己 申告させ,併せて検者が疲労に伴う日常生活の 倍になると,スペクトルのパワー値が1/10に 障害度をPSにより確認した. 減衰するものである.近年の研究で,かつて APGの測定は,ユメディカ社製APG測定シ 1/fといわれていた時系列データが,実は大局 ステム‘アルテットC’を用い,中心波長940nm 的には指数関数的に減衰するものであることが の反射型赤外光センサーにより,サンプリング 次々と明らかにされており,最近では,この指 レート2msecで2分間計測した.アルテットC 数関数的減衰がカオスの要件の一つ8)となって では,これら得られたデータよりソフトウェア いる. 的にa波の波高,波形指数(waveform index-1 今回のAPGの時系列データを用いた疲労評 価では,得られたAPG時系列データから,約5 秒ごとに切り出した時系列データのMEM解析 により得られたPSDの8-20 Hzにおける指数 スペクトルの傾きの平均値と傾きの変動係数を およびII), a-a間隔変動係数, a-a間隔の周波 数解析(LF:0.02-0.15 Hz, HF:0.15 一〇.50 Hz) が計算される.また得られたAPG時系列デー タより,独自に開発したカオス解析プログラム で相関次元,最大リアプノブ指数を,時系列 もって,疲労評価を行った.つまり,パワース データを用いた最大エントロピー法による周波 ペクトラムの傾きで,ゆらぎの減少を,傾きの 数一パワー値(片対数)グラフの傾きとその変動 変動係数より,カオスとしての非定常性を評価 係数を計算した. できるものと考えた. CFS群と健常者対照群のAPGのa波波高,波 6.C】隠における加速度脈波による 疲労評価 形指数(waveform index-1,一II)について図2に 示す.a波波高は, CFS群279.8±42.1(平均値± 標準誤差,以下同じ)で,健常者群292.2±15.0 大阪市立大学医学部附属病院内に疲労専門外 とCFS群問には有意差を認めなかった(図2-a). 来として全国に先駆けて開設された疲労クリニ しかし,CFS群をPSにより中等症なもの(PS 3 カルセンターに通院加療中で,厚生省研究班の -6)とより高度なもの(PS 7-9)とに分けて検 診断基準にてCFSと診断された20-39歳の患 者のうち,疲労の程度が厚生省診断基準上PS 討すると,疲労の程度のより高度なCFS群で, a波波高が減少(p<0.05)していた.waveform (performance status)で3以上の疲労を有する index-1,一IIについては,ともにCFS群と健’常 者で,喫煙習慣のある者を除外した127人(男 者群との間に統計学的に有意差は認めなかった 性48人,女性79人,平均年齢31.4±5.0歳(標 (図2-b,c)が,疲労の程度別に検討すると, 準偏差))について,APG検査を実施した. 疲労の程度が大きいほど,波形指数は1,IIと 一方,比較対照の健常者群としては,特に基 もに減少する傾向があるように考えられた. 礎疾患のない20-39歳の成人で,患者群と同様 次に自律神経機能をみるため,a-a間隔の変 に喫煙習慣がなく,検査当日に‘疲労’を含む体 動係数,a-a間隔の周波数解析を行った結果 調不良の訴えがなく,かつ検査前日に十分半睡 を図3に示す.CFS群と健常者群との間で脈 眠を取っている者38人(男性16人,女性22人, 拍数には差を認めなかった.a-a間隔の変動 平均年齢29.1±5.4歳(標準偏差))についても同 係数は,CFS群4.83±0.21%,健常者群5.66± 様にAPG検査を実施した. 0.26%とCFS群で有意(P<0.05)に減少してい 両群とも検査は,適度な朝食の摂取後で,午 た(図3-a).前記のa波波高や波形指数同様に, 前9時一10時30分頃,空調の効いた室内(25度 前後)で安静座位,閉眼状態で,非利き手の第 統計学的に有意差は認められないものの,疲労 の程度が増強するほど変動係数は低下する傾向 Presented by Medical*Online 1039 NiPPon Rinsho Vol 65, No 6, 2007-6 b. a. NS NS 300 250 選2・・ 鰹150 100 50 灘. 7 ρO FD 4 り0 9臼 - H 一 醤 ㊤ 唱 口 刺口目6唱O>σ口㌧臣 350 α α α α q O. α (mV) NS 繊e 凝 0 0 CFS(全例)PS3-6 PS7-9 健常者 CFS(全例)PS3-6 PS7-9 CFS c. 健常者 CFS NS 卯αβ・αβ脳α3・㎎・㎝ H【1図Φ℃自唱口H』凸哨Φ〉邸≧ NS m 図2 CFS患者と健常者における加速度脈波の 各種パラメータの比較 a:加速度脈波a波波高の比較. b: wav. eform index-1の比較. c:waveform index-Hの比較. いずれも,mean十SEM. CFS(全例):n=127, 0 CFS(全例)PS3-6 PS7-9 健常者 CFS(PS3-6):n=97, CFS(PS7-9):n=30. CFS a. p〈O.05 P 〈 0 05 b. NS 6 m 7 6 翁5 ぎ4 5 ,聡}At と 翁4 ジ3 麟難 臣3 さ geto 2 魯2 1 ,堀 0 CFS(全例)PS3-6 PS7-9 健常者 CFS(全例)PS3-6 PS7-9 健常者 CFS CFS 図3 CFS患者と健常者における加速度脈波を用いた自律神経機能の比較 a:a-a間隔変動係数の比較. b:a-a間隔の周波数解析における低周波成分(LF)/高周波成分(HF)比の比較. も認められた.a-a間隔の周波数解析では, 意(p<0.05:Mann-Whitney検定)に上昇(図3- CFS群,健常者群間にtotal powerには有意差を b)しており,特に疲労の程度が著しい例ほど, 認めなかったが,LF/HFについては, CFS群 LF/HFは増加する傾向も認められた. 2.61±0.44,健常者群0.92±0.10とCFS群で有 カオスパラメータである相関次元,最大リア Presented by Medical*Online 1040 日本臨鉢65巻6号(2007-6) 相 4 果3 …・ 兀 2 p〈O.005 O.08 雪 最大リアプノブ指数 5 b. NS 購 6 {… ⊇ a. T O.06 O.04 欝! O.02 1 難船喋 譲鑑蟻 轟鱒撫繍 i 1 o CFS o.oo 健常者 CFS 健常者 図4 CFS患者と健常者における加速度脈波のカオス解析の比較 a:相関次元の比較. b:最大リアプノブ指数の比較. b. a. NS ユ リム ヨ 0。 α α 一 T 6 4 2 p〈 O.005 一〇.4 o CFS 胃【一酔曽一一一一一「一一P一「一一「一P 8 舶駆∩の山 粕駆(も(N頃ONI◎o)〔【の 一 一 一 欝騨 一襲齢鯉川弊饗鱒七中潜露 偶-o ) o.o T 1 1 CFS 健常者 健常者 図5 CFS患者と健常者における加速度脈波の‘ゆらぎ’の比較 a:パワースペクトル8-20Hzにおける傾きの比較. b:パワースペクトル8-20Hzにおける傾きの変動係数の比較. プノブ指数での疲労評価を図4に示す.相関次 は,CFS患者群で一〇.270±0.004,健常者群で 元は,CFS群4.99±0.13,健常者群4.67±0.07 一〇.240±0.007と有意に急峻化(p<0.005)して と有意差を認めなかった(図4-a)が,個々人の いた(図5-a).傾きの変動係数については,図 データの検討では,CFS患者の相関次元の方が, 5-bに示すとおり,CFS患者群で8.6±0.6,健 より整数値に近い傾向を認め,APGのカオスと 常者群で8.7±1.0と有意差を認めなかった. しての性質が減弱している傾向がうかがわれた. 最大リアプノブ指数については,CFS群0.035 7.ま と め 意(p〈O.005)に減少しており,長期予測不能性 以上のように,CFS群では自律神経系の観点 から評価すると,相対的に交感神経系が優位な が低下しており,この点においてもAPGのカ 状態となっており,それらは,疲労の程度が高 オスとしての性質が減弱している傾向がうかが 度であるほど,より顕著な変化を示していた. ±0.007,健常者Ml O.058±0.004とCFS群で有 また,カオス・複雑系の観点からの疲労時の変 われた. APG時系列データのMEMによる解析の結果 化は,いずれもカオスとしての性質が減弱する を図5に示す.8-20Hzにおける傾きの比較で 方向の,あるいは‘ゆらぎ’が減弱する方向の変 Presented by Medical*Online NiPPon Rinsho Vol 65, No 6, 2007-6 1041 化であり,背景のダイナミクスとして,より硬 慢性疲労を自覚している者の4割強が‘過労’が 直化した状態になっていることが示唆された. 原因であると自覚している.これは疲労による 作業効率低下の可能性を示唆しており,疲労対 おわりに 策は,また産業・労働の現場で重大な関心事に ‘疲労’は,定量性の困難さから,医学の対象 なる.高い生産性を維持するには,労働者の疲 として十分な研究がなされてこなかった.‘痙 労が蓄積し,効率が悪化する前に十分な休養を 痛’のように苦痛度が大きい症状と異なり,‘疲 取らせることが重要である.このような産業衛 労’は‘気合’や‘根性’で克服できるとの考え方 も根強く,‘疲労’の適切な評価法が必要とされ 生の現場で,疲労評価のツールとして,APGは 有用であると考えられる.また,単に生産性の ている.今回,著者らの研究で明らかになった 問題だけでなく,不規則勤務や交替制勤務に従 ことは,指先を検出器にそっと当てるだけで, 事する原子力発電所や大規模プラントなどのオ 疲労が量的なものとして客観的に測定・評価で ペレータ,警備関係者や医療従事者,極度の緊 きる可能性があることが示唆されたことである. 張に曝されて業務に当たる高速大量輸送交通機 病的な疲労感を訴えるCFS患者の疲労だけ 関のパイロットや運転手など,適宜適切に休息 でなく,精神作業による疲労,身体作業による を取らせることで,疲労が原因となる重大事故, 疲労の評価においてもAPGは有効なツールの インシデント,‘ひやり,はっと’事例の防止に 一つになり得ることを既に著者らは報告9)して も道を開くものと思われる. いるが,疲労の客観的な評価で,我々はどのよ うなことを享受できるのであろうか?CFSの 疾病に絡む疲労についても,人口の高齢化に 伴う疾病構造の変化や各種治療法の進歩により, 患者のみならず,疲労を訴える人は多数いる. 疲労に配慮した治療が強く求められるようにな 1999年に実施された厚生省疲労研究班(木谷照 るものと思われる.抗がん剤治療中や,放射線 夫班長)の疫学調査では,国民の約6割が疲労 を感じ,その半数が慢性疲労を訴えている現状 治療中,外科での大手術の後など,従来なら ‘しんどい’のは当たり前とされていたことも, がある.また疲労回復を目的としたドリンク剤, 疲労改善効果に科学的根拠のある治療が見いだ 健康食品,健康器具,民間療法などの商品・療 されれば,患者のQOL(quality of life)を改善し, 法が多数出回り,巨大な市場を構成している現 ADL(activities of daily living)を高め,治療期間 状もある.疲労の客観的評価は,多数の人’々の の短縮などが期待でき,それは最終的には医療 疲労を評価し,多数存在する疲労関連商品・療 費の削減にもつながるものと考えられる. 法のうち本当に有効なものはどれであるのか 明らかにしていくことを可能とする.前記疫学 簡便に,かつ非侵襲的に疲労を定量できる APGは,上記種々の場面での対策に道を開く診 調査によると,慢性疲労を自覚している者の約 断ツールとなるものと考えられる. 4割で‘能力の低下’が自覚されており,同時に 灘文 献 1)吉村正治=脈波判読の実際,p1-7,中外医学社,1968. 2)佐野祐司ほか:加速度脈波による血液循環の評価とその応用.労働科学 61(3):129-143,1985. 3) Takada H, et al: Acceleration plethysmography to evaluate aging effect in cardiovascular system. 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