複写機用ポリエステル系 トナーバインダー

活躍する三洋化成グループのパフォーマンス・ケミカルス
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複写機用ポリエステル系
トナーバインダー
笹田信也
画像薬剤研究部ユニットマネージャー
[ 紹介製品のお問い合わせ先 ]
当社別所事業本部 情報産業部
1938 年に、C.F.Carlson によ
④転写(トナーの記録紙への転移)
上・低騒音化などに対する多くの
って代表的な電子写真法である
⑤定着(トナーの記録紙への融着)
改良がなされてきた。
Carlson 法が提唱されて以来、複
⑥クリーニング(感光体の洗浄)
1990 年代に入ってデジタル技
写機の技術は開発、発展が続いて
この Carlson 法はゼログラフィ
術が進歩したのを契機に、事務用
いる。
ー法と命名され、1960 〜 70 年
普通紙複写機(PPC 複写機)の
Carlson 法は以下の6つの基本
代の開発発展期に、大きな期待の
多機能化(印刷時の編集機能のみ
プロセスから成る [ 図1]。
なか急速に普及したが、画質では
ならず、ファクシミリ、スキャナ
①帯電(感光体へ一様に電荷付与)
銀塩写真の技術進歩に及ばず、特
ー、プリンターなど複数の機能を
②露光(光像照射で静電潜像形成)
殊用途のみの適用にとどまってい
兼ね備えた複合機の登場)
、カラ
③現像(トナーの静電潜像への付
た。しかし、長い年月を経て小型
ー化、プリンターのパーソナル化
着)
化・高速化・高画質化・信頼性向
が進行してきた。
これら、PPC 複写機やプリン
ターの高性能化を支える重要な要
❶帯電
素としてトナーの性能向上は欠か
❷露光
+ +++
せない。
+
+
❻クリーニング
▪トナーの役割と構成
+
❸現像
一般にトナーとは着色用の微粒
感光体ドラム
❺定着
子である。電子写真法において、
除電器
トナーは、露光プロセスによって
感光体表面に形成された静電潜像
+
ヒートローラー
+
++
記録紙
++ + +
❹転写
て、記録紙上に画像を可視化する
:トナー
の構成と主な性能について表1に
まとめた。
表1●トナーの構成と比率および性能
トナーバインダー
比率
(質量%)
非磁性トナー 磁性トナー
80 〜 90
45 〜 50
着色剤
5 〜 15
―
磁性粉
―
45 〜 50
0 〜 5
0 〜 5
1 〜 5
1 〜 5
0.1 〜 4
0.1 〜 4
ワックスなど
荷電制御剤
流動化剤
材料である。トナーには非磁性ト
ナーと磁性トナーがある。トナー
図1● Carlson 法によるプロセス構成
材 料
を現像・転写・定着プロセスを経
主な性能
粘着性、定着性、摩擦帯電性
着色性、摩擦帯電性
▪トナーバインダーに求められ
る性能
表1 に示すとおりトナーの約
磁性
45 〜 90%はトナーバインダー
クリーニング特性、耐オフセット性
で占められる。したがってトナー
帯電安定性、極性決定
の性能向上はトナーバインダーの
流動性、クリーニング特性
性能向上といっても過言ではない。
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トナーはそのつくり方によって
高温
けられる。本稿では世界で広く使
用されている粉砕トナー用トナー
バインダーについて求められる性
能を記載する。
ヒートローラー温度
[ 定着特性 ]
トナーは加熱および加圧によっ
て溶融し、記録紙の繊維に浸透し
たのち、固化することで定着が完
了する。その際、トナーバインダ
ーは加熱による溶融、冷却による
固化の性能を左右する重要な役割
を有している。定着方法としては、
高速化・安全性などからヒートロ
ーラー定着が主流である。この定
ホットオフセット
定
着
コールドオフセット
粉砕トナーとケミカルトナーに分
ヒートローラー
トナー
記録紙
圧力ローラー
低温
着工程で問題となってくるのがオ
フセット現象であり、これらを防
図2●オフセット現象の模式図
がなければならない。
ヒートローラー温度が低すぎる
●アルコール成分
不十分となり、トナーの記録紙へ
CH3
R1
場合、トナーバインダーの溶融が
−
H−OCHCH2−O
m
の浸透が不十分となるため、画像
が欠落するコールドオフセット現
象を生じる。一方、ヒートローラ
ー温度が高すぎる場合、トナーバ
インダーの浸透後の固化が不十分
R1
(A)
−C− −O−CH2−CHO−H
n
CH3
HO−R2−OH (B)
●酸成分
(C)
HOOC− −COOH HOOC−R3−COOH
(D)
となり、トナーの定着が不均一と
なるため、記録紙の画像に濃淡を
R1:H , CH3
R2:C2H4∼C6H12
R3:アルキルまたはアルケニル
生じるホットオフセット現象が起
こる [ 図2]。
図3●ポリエステル系トナーバインダーの代表的組成
[ 耐熱特性 ]
PPC 複写機やプリンターの内
ナーバインダーの帯電特性は、特
性の要望が強まってきている。
部では、ヒートローラーなどから
に高湿度下における電荷の維持と
着色剤である顔料や染料を細か
熱が発生するため、熱によるトナ
いう観点で重要となる。
く均一に分散すること、素早く溶
ーの流動性の低下・凝集を防がな
[ 機械的特性
(樹脂強度)]
融して混ざること、および定着表
ければならない。
トナーは、現像槽内で摩擦帯電
面が平滑になることがトナーバイ
[ 摩擦帯電特性 ]
させるため、常に機械的負荷を受
ンダーに要求される。
感光体にトナーを載せるため、
けている。長期間の使用に耐えう
[ 環境対応 ]
感光体上の電荷と反対の電荷をト
るためには、十分な樹脂強度がト
トナーバインダー生産時の揮発
ナーにもたせ、制御する必要があ
ナーバインダーに求められる。
性有機物(VOC)抑制や原料に有
る。荷電制御剤によって、ある程
[ 色再現性 ]
害物質を使用しないなど環境負荷
度の帯電制御は可能であるが、ト
カラー化の進行に伴って色再現
物質の低減が求められている。
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▪ポリエステル系トナーバイン
ダーの特長と構成成分
高
トナーバインダーとしてはポ
従来品
リエステル系、スチレン/アク
ポリオレフィン系などがあるが、
主に利用されているのはポリエ
架橋度
リル系、エポキシ系、ウレタン系、
従来品
ステル系とスチレン/アクリル
ポリエステル(H)
系である。
近年は省エネルギー化のため
に、ヒートローラーに与える熱
量を少なくしたり、ローラーの
温度コントロールの頻度を少な
ポリエステル(H)
低
分子量
低 高
図4●当社ポリエステル系トナーバインダーの構造(模式図)
くしたりしている。これらに伴
いローラーの温度が少々変動し
ても、低温域から高温域までの
当社ポリエステル系
トナーバインダー
幅広い温度で定着することが要
低分子量
ポリエステル(L)
求されている。この問題解決に
は、トナーバインダーの分子量
やガラス転移点(Tg)を下げ低
高分子量
ポリエステル(H)
粘度化を図ること、低温域です
ばやく溶融して記録紙に十分浸
透させることが有効である。し
かし、Tg を下げることは先に述
べた耐熱特性を低下させるので、
定着特性と耐熱特性とを両立す
低 分子量 高
図5●当社ポリエステル系トナーバインダーの分子量分布(模式図)
る技術が必要となる。
ポリエステル系トナーバイン
ルジオール(B)など、酸成分とし
い温度で定着させるためには低
ダーは主鎖にベンゼン環を有す
てテレフタル酸(C)や低級アル
温域で低粘度であること、高温
ることから分子鎖が剛直で、ス
キルまたはアルケンジカルボン
域ではローラー側に付着させな
チレン/アクリル系に比べて低
酸(D)などを重縮合反応して得
いためトナーバインダーの貯蔵
分子量化が図れるので、溶融粘
られる [ 図3]。
弾性率を上げ、高弾性化するこ
度を低下させることができ、低
▪当社ポリエステル系トナーバ
とが必要である。このため開発
温定着性、色再現性が向上する。
インダーの特長
品の検討に当たり、以下のこと
これらのことから、ポリエステ
当社は、省エネルギー化、高
を実施した。
ル系は省エネルギー化、カラー
速化、環境対応を満足させるた
低温域で低粘度、高温域で高
化が進行する時代の流れにマッ
め、トナーのさらなる定着特性
弾性を発現させる最適な樹脂を
チしたトナーバインダーといえ
向上、機械的特性向上、有害物
得るため、従来の架橋型ポリエ
る。
質低減を目指して高性能の粉砕
ステル樹脂と比較して、高分子
ポリエステル系トナーバイン
型ポリエステル系トナーバイン
量で緩く均一な架橋構造のポリ
ダーはアルコール成分として、ビ
ダーの開発を進めている。
エステル(H)[図4] と架橋構造
スフェノール A のアルキレンオ
[ 定着特性の向上 ]
をもたない低分子量のポリエス
キシド付加物(A)や低級アルキ
低温域から高温域までの幅広
テル
(L)
を開発し、両者を最適に
三洋化成ニュース ❸ 2010 春 No.459
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と比較して、より高分子量で緩く
高 高 均一な架橋構造とすることで樹脂
開発品
強度が高くなり、機械的特性が向
従来品
上した [ 図 7]。
貯蔵弾性率
粘度
(Pa・s)
(N/cm2)
[ 有害物質の低減 ]
近年、スズ系化合物について法
規制が強化されている。当社では、
早くからポリエステル樹脂の重合
触媒をスズ系からチタン系に変更
し、開発をおこなっている [ 図8]。
低
低
50 60 70 80 90 100 110 120 130 140 150 160 170 180 190 200
温度 (℃)
また当社の開発品は熱分解温度が
高いため、ヒートローラー周辺に
おける VOC 低減効果も見込まれ
図6●粘度および貯蔵弾性率と温度との関係
る [ 図 9 ]。
40
▪今後の取り組み
開発品
従来品
35
今後、カラー化対応のためさら
なる低温定着性改良、高画質化の
樹脂強度
30
改良を行い、当社の粉砕型ポリエ
ステル系トナーバインダーのより
25
いっそうの高性能化を図っていく。
(MPa)
20
参考文献
15
1)『電子写真技術の基礎と応用』コロ
10
1,000 10,000 100,000
数平均分子量
図7●樹脂強度(折り曲げ試験による最大応力)と分子量の関係
ナ社
2)『複写機ハンドブック』社団法人日
本事務機械工業会
3)『電子写真』日本画像学会
4)『高分子薬剤入門』三洋化成
組み合わせること [ 図5] で、従
できた [図6 ]。
来品より低温域で低粘度、高温域
[ 機械的特性向上 ]
で高弾性の樹脂を設計することが
従来の架橋型ポリエステル樹脂
100
O
Sn
R1
ℓ
スズ系触媒
Ti
R
Ti
R3
2
チタン系触媒
熱重量変化率 %( )
O
95
90
85
開発品
従来品
80
50 100 150 200 250 300 350 400 450 500
温度 (℃)
図8●触媒の構造
(模式図)
図9●熱重量変化率と温度の関係
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