活躍する三洋化成グループのパフォーマンス・ケミカルス 84 複写機用ポリエステル系 トナーバインダー 笹田信也 画像薬剤研究部ユニットマネージャー [ 紹介製品のお問い合わせ先 ] 当社別所事業本部 情報産業部 1938 年に、C.F.Carlson によ ④転写(トナーの記録紙への転移) 上・低騒音化などに対する多くの って代表的な電子写真法である ⑤定着(トナーの記録紙への融着) 改良がなされてきた。 Carlson 法が提唱されて以来、複 ⑥クリーニング(感光体の洗浄) 1990 年代に入ってデジタル技 写機の技術は開発、発展が続いて この Carlson 法はゼログラフィ 術が進歩したのを契機に、事務用 いる。 ー法と命名され、1960 〜 70 年 普通紙複写機(PPC 複写機)の Carlson 法は以下の6つの基本 代の開発発展期に、大きな期待の 多機能化(印刷時の編集機能のみ プロセスから成る [ 図1]。 なか急速に普及したが、画質では ならず、ファクシミリ、スキャナ ①帯電(感光体へ一様に電荷付与) 銀塩写真の技術進歩に及ばず、特 ー、プリンターなど複数の機能を ②露光(光像照射で静電潜像形成) 殊用途のみの適用にとどまってい 兼ね備えた複合機の登場) 、カラ ③現像(トナーの静電潜像への付 た。しかし、長い年月を経て小型 ー化、プリンターのパーソナル化 着) 化・高速化・高画質化・信頼性向 が進行してきた。 これら、PPC 複写機やプリン ターの高性能化を支える重要な要 ❶帯電 素としてトナーの性能向上は欠か ❷露光 + +++ せない。 + + ❻クリーニング ▪トナーの役割と構成 + ❸現像 一般にトナーとは着色用の微粒 感光体ドラム ❺定着 子である。電子写真法において、 除電器 トナーは、露光プロセスによって 感光体表面に形成された静電潜像 + ヒートローラー + ++ 記録紙 ++ + + ❹転写 て、記録紙上に画像を可視化する :トナー の構成と主な性能について表1に まとめた。 表1●トナーの構成と比率および性能 トナーバインダー 比率 (質量%) 非磁性トナー 磁性トナー 80 〜 90 45 〜 50 着色剤 5 〜 15 ― 磁性粉 ― 45 〜 50 0 〜 5 0 〜 5 1 〜 5 1 〜 5 0.1 〜 4 0.1 〜 4 ワックスなど 荷電制御剤 流動化剤 材料である。トナーには非磁性ト ナーと磁性トナーがある。トナー 図1● Carlson 法によるプロセス構成 材 料 を現像・転写・定着プロセスを経 主な性能 粘着性、定着性、摩擦帯電性 着色性、摩擦帯電性 ▪トナーバインダーに求められ る性能 表1 に示すとおりトナーの約 磁性 45 〜 90%はトナーバインダー クリーニング特性、耐オフセット性 で占められる。したがってトナー 帯電安定性、極性決定 の性能向上はトナーバインダーの 流動性、クリーニング特性 性能向上といっても過言ではない。 三洋化成ニュース ❶ 2010 春 No.459 トナーはそのつくり方によって 高温 けられる。本稿では世界で広く使 用されている粉砕トナー用トナー バインダーについて求められる性 能を記載する。 ヒートローラー温度 [ 定着特性 ] トナーは加熱および加圧によっ て溶融し、記録紙の繊維に浸透し たのち、固化することで定着が完 了する。その際、トナーバインダ ーは加熱による溶融、冷却による 固化の性能を左右する重要な役割 を有している。定着方法としては、 高速化・安全性などからヒートロ ーラー定着が主流である。この定 ホットオフセット 定 着 コールドオフセット 粉砕トナーとケミカルトナーに分 ヒートローラー トナー 記録紙 圧力ローラー 低温 着工程で問題となってくるのがオ フセット現象であり、これらを防 図2●オフセット現象の模式図 がなければならない。 ヒートローラー温度が低すぎる ●アルコール成分 不十分となり、トナーの記録紙へ CH3 R1 場合、トナーバインダーの溶融が − H−OCHCH2−O m の浸透が不十分となるため、画像 が欠落するコールドオフセット現 象を生じる。一方、ヒートローラ ー温度が高すぎる場合、トナーバ インダーの浸透後の固化が不十分 R1 (A) −C− −O−CH2−CHO−H n CH3 HO−R2−OH (B) ●酸成分 (C) HOOC− −COOH HOOC−R3−COOH (D) となり、トナーの定着が不均一と なるため、記録紙の画像に濃淡を R1:H , CH3 R2:C2H4∼C6H12 R3:アルキルまたはアルケニル 生じるホットオフセット現象が起 こる [ 図2]。 図3●ポリエステル系トナーバインダーの代表的組成 [ 耐熱特性 ] PPC 複写機やプリンターの内 ナーバインダーの帯電特性は、特 性の要望が強まってきている。 部では、ヒートローラーなどから に高湿度下における電荷の維持と 着色剤である顔料や染料を細か 熱が発生するため、熱によるトナ いう観点で重要となる。 く均一に分散すること、素早く溶 ーの流動性の低下・凝集を防がな [ 機械的特性 (樹脂強度)] 融して混ざること、および定着表 ければならない。 トナーは、現像槽内で摩擦帯電 面が平滑になることがトナーバイ [ 摩擦帯電特性 ] させるため、常に機械的負荷を受 ンダーに要求される。 感光体にトナーを載せるため、 けている。長期間の使用に耐えう [ 環境対応 ] 感光体上の電荷と反対の電荷をト るためには、十分な樹脂強度がト トナーバインダー生産時の揮発 ナーにもたせ、制御する必要があ ナーバインダーに求められる。 性有機物(VOC)抑制や原料に有 る。荷電制御剤によって、ある程 [ 色再現性 ] 害物質を使用しないなど環境負荷 度の帯電制御は可能であるが、ト カラー化の進行に伴って色再現 物質の低減が求められている。 三洋化成ニュース ❷ 2010 春 No.459 活躍する三洋化成グループのパフォーマンス・ケミカルス 複写機用ポリエステル系トナーバインダー ▪ポリエステル系トナーバイン ダーの特長と構成成分 高 トナーバインダーとしてはポ 従来品 リエステル系、スチレン/アク ポリオレフィン系などがあるが、 主に利用されているのはポリエ 架橋度 リル系、エポキシ系、ウレタン系、 従来品 ステル系とスチレン/アクリル ポリエステル(H) 系である。 近年は省エネルギー化のため に、ヒートローラーに与える熱 量を少なくしたり、ローラーの 温度コントロールの頻度を少な ポリエステル(H) 低 分子量 低 高 図4●当社ポリエステル系トナーバインダーの構造(模式図) くしたりしている。これらに伴 いローラーの温度が少々変動し ても、低温域から高温域までの 当社ポリエステル系 トナーバインダー 幅広い温度で定着することが要 低分子量 ポリエステル(L) 求されている。この問題解決に は、トナーバインダーの分子量 やガラス転移点(Tg)を下げ低 高分子量 ポリエステル(H) 粘度化を図ること、低温域です ばやく溶融して記録紙に十分浸 透させることが有効である。し かし、Tg を下げることは先に述 べた耐熱特性を低下させるので、 定着特性と耐熱特性とを両立す 低 分子量 高 図5●当社ポリエステル系トナーバインダーの分子量分布(模式図) る技術が必要となる。 ポリエステル系トナーバイン ルジオール(B)など、酸成分とし い温度で定着させるためには低 ダーは主鎖にベンゼン環を有す てテレフタル酸(C)や低級アル 温域で低粘度であること、高温 ることから分子鎖が剛直で、ス キルまたはアルケンジカルボン 域ではローラー側に付着させな チレン/アクリル系に比べて低 酸(D)などを重縮合反応して得 いためトナーバインダーの貯蔵 分子量化が図れるので、溶融粘 られる [ 図3]。 弾性率を上げ、高弾性化するこ 度を低下させることができ、低 ▪当社ポリエステル系トナーバ とが必要である。このため開発 温定着性、色再現性が向上する。 インダーの特長 品の検討に当たり、以下のこと これらのことから、ポリエステ 当社は、省エネルギー化、高 を実施した。 ル系は省エネルギー化、カラー 速化、環境対応を満足させるた 低温域で低粘度、高温域で高 化が進行する時代の流れにマッ め、トナーのさらなる定着特性 弾性を発現させる最適な樹脂を チしたトナーバインダーといえ 向上、機械的特性向上、有害物 得るため、従来の架橋型ポリエ る。 質低減を目指して高性能の粉砕 ステル樹脂と比較して、高分子 ポリエステル系トナーバイン 型ポリエステル系トナーバイン 量で緩く均一な架橋構造のポリ ダーはアルコール成分として、ビ ダーの開発を進めている。 エステル(H)[図4] と架橋構造 スフェノール A のアルキレンオ [ 定着特性の向上 ] をもたない低分子量のポリエス キシド付加物(A)や低級アルキ 低温域から高温域までの幅広 テル (L) を開発し、両者を最適に 三洋化成ニュース ❸ 2010 春 No.459 活躍する三洋化成グループのパフォーマンス・ケミカルス 複写機用ポリエステル系トナーバインダー と比較して、より高分子量で緩く 高 高 均一な架橋構造とすることで樹脂 開発品 強度が高くなり、機械的特性が向 従来品 上した [ 図 7]。 貯蔵弾性率 粘度 (Pa・s) (N/cm2) [ 有害物質の低減 ] 近年、スズ系化合物について法 規制が強化されている。当社では、 早くからポリエステル樹脂の重合 触媒をスズ系からチタン系に変更 し、開発をおこなっている [ 図8]。 低 低 50 60 70 80 90 100 110 120 130 140 150 160 170 180 190 200 温度 (℃) また当社の開発品は熱分解温度が 高いため、ヒートローラー周辺に おける VOC 低減効果も見込まれ 図6●粘度および貯蔵弾性率と温度との関係 る [ 図 9 ]。 40 ▪今後の取り組み 開発品 従来品 35 今後、カラー化対応のためさら なる低温定着性改良、高画質化の 樹脂強度 30 改良を行い、当社の粉砕型ポリエ ステル系トナーバインダーのより 25 いっそうの高性能化を図っていく。 (MPa) 20 参考文献 15 1)『電子写真技術の基礎と応用』コロ 10 1,000 10,000 100,000 数平均分子量 図7●樹脂強度(折り曲げ試験による最大応力)と分子量の関係 ナ社 2)『複写機ハンドブック』社団法人日 本事務機械工業会 3)『電子写真』日本画像学会 4)『高分子薬剤入門』三洋化成 組み合わせること [ 図5] で、従 できた [図6 ]。 来品より低温域で低粘度、高温域 [ 機械的特性向上 ] で高弾性の樹脂を設計することが 従来の架橋型ポリエステル樹脂 100 O Sn R1 ℓ スズ系触媒 Ti R Ti R3 2 チタン系触媒 熱重量変化率 %( ) O 95 90 85 開発品 従来品 80 50 100 150 200 250 300 350 400 450 500 温度 (℃) 図8●触媒の構造 (模式図) 図9●熱重量変化率と温度の関係 三洋化成ニュース ❹ 2010 春 No.459
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