「人間情報論入門 B」(H17.10.7,2 回目授業) 担当 酒井 非対面コミュニケーション はじめに (1) 人-人:対面型(face to face).コミュニケーションの基本的形態 (a) バーバル・コミュニケーション (b) ノンバーバル・コミュニケーション ・身体動作:視線,ジェスチャ,身体接触,顔面表情など ・プロセミックス:人間の空間行動.例:対人距離 密接距離(45cm 以下),個体距離(1.2m以下) 社会的距離(3.6m以下),公衆距離(3.6m以上) ・物体:服装,化粧,眼鏡など. いくつかの制約あり:距離,時間,対象,記録性,心理的緊張感など (2) 人-機械-人(Computer-Mediated Communication; CMC):非対面型. 例:テレビ電話,Web,携帯電話,…など 人間 メディア 人間 図1:CMC のコミュニケーションの形態 CMC の背景-情報機器の発展 (a) モバイルコンピューティング かばんやポケットに機器を入れて持ち歩く.例:ノートパソコン,携帯電話 (b) ウェアラブルコンピューティング 身体に装着.例:帽子型,眼鏡型,ヘッドホン型,腕時計型,など 特色-ハンズフリー,常時オン (c) ユビキタスコンピューティング いたるところで,無線通信・無線インターネット環境 特色-コンピュータを持ち歩く必要がない 例:みあこネット(Mobile Internet Access in KyotO) -公衆電話のインターネット版 CMC の物理的な利便性 CMC によるいくつかの制約の解消(表 1) ・コミュニケーションの利便性が大きく高まる ・利便性により損失する側面-例:距離の制約の解消=場所の共有が困難 ・個々のメディアに特有の特徴-従来のメディアも普及しつづける要因 CMC の心理的魅力 ①自己表現の容易性 対面-相手の反応を見て伝達内容を抑制する可能性 1 CMC-自分の気持ちを抑制せずに伝達しやすい 例:・メール ・電子掲示板での会議-対面会議より非対面会議の方が、均一に参加者が発言 ②人間関係の維持 「対面対話の苦手な人が,CMC をより多く利用する」のか? -調査データ(川上、2001)に基づくと,Yes or No(表 2) データから読みとれることは? → 携帯電話での通話とメールの伝達内容(図 1) -利用目的:「道具的」から「自己充足的」に変化 ③新しい人間関係の形成 従来の形成過程:対面で出会う→対面・非対面で関係性を深める 現代の 1 つの形成過程:非対面で出会う→対面・非対面で関係性を深める 非対面での人間関係形成の特徴 ・匿名性-自分と相手の素性を隠せる ・関係の取捨選択性-自分の思惑で関係性をコントロール可能 CMC の問題点 1.情報過多と時間的切迫感 Web,電子掲示板,電子メールでの情報は膨大 送信者・受信者ともに,即時の返事を要望 仮説「メディアの普及により孤独感が高まる」(諸井、2000) 2.フレーミングと情報発信のモラル フレーミング-議論が感情的になり,相手を誹謗・中傷 対面会議<電子会議<匿名の電子会議 生じやすい原因の1つ-「社会的手がかり」のなさ 3.情報格差 年齢、学歴などにより情報リテラシのレベルに差がある インターネットを利用しない理由-「特に必要を感じない」がもっとも高い コンピュータのスキルの有無-情報リッチと情報プアの発生 4.テクノストレス テクノ不安症:ハイテクに対して恐怖感や不安 テクノ依存症:ハイテクに過度に依存・集中した生活 CMC の実際例に関する研究 ・オンラインカウンセリング(柿井,1997) ・Web 日記(川浦,1999) などなど 小レポートテーマ例 ・携帯電話の利用について、どんな点が魅力的か? 2 参考文献 ・川上善郎(2001)「対面コミュニケーション」東京大学社会情報研究所編『日本人の情 報行動』東京大学出版会,161-169. ・松尾太加志 1999『コミュニケーションの心理学』ナカニシヤ出版 ・みあこネット:http://www.miako.net/ ・中村巧(2001)「携帯メールの人間関係」東京大学社会情報研究所編『日本人の情報行 動』東京大学出版会,285-303. ・坂元昂 2002『メディア心理学入門』学文社 表1:CMC によるいくつかの制約の解消(松尾(1999)を参考に改正) メディアの種類 距離の制約 対象の制約 時間の制約 対面 × × × 手紙 ○ × ○ 固定電話 ○ × × 携帯での通話 ○ × × 携帯でのメール ○ ○ ○ PC でのメール ○ ○ ○ PC でのホームページ ○ ○ ○ 移動性 ○ ○ × ○ ○ △ △ 記録性 × ○ × × ○ ○ ○ 豊饒性 ○ × × × × × ○ 同時性 ○ × ○ ○ △ × × 表2:会話時間とメディア利用量の関係(川上(2001)を一部修正 話す時間 電話回数 電話時間 10 分未満 10.1 4.5 10 分以上 90 分未満 11.6 7.9 90 分以上 12.1 8.2 0 携帯電話回数 4.8 4.1 6.6 10 20 30 手紙回数 メール回数 テレビ時間 パソコン時間 2.5 3.3 203.6 18.6 3.2 4.0 182.3 34.9 3.4 6.0 166.7 44.0 40 50 60 70 80 (%) 待ち合わせなどの約束や連絡 待ち合わせ訪問などの急な変更 音声 メール 相手や自分の居場所の確認 仕事上の報告、連絡、相談 その時あった出来事や気持ちの伝達 とくに用件のないおしゃべり 予約・注文 帰宅の連絡 図 1:携帯電話での通話とメールの伝達内容(中村(2001)より引用) 3
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