第1回 環境ビジネス戦略フォーラム レポート 平成 21 年 2 月 10 日、ホテルグランヴィア大阪において「第 1 回環境ビジネス戦略フォーラム」が開催されました。 このフォーラムは、5~10 年度の環境ビジネスの創出を目指し、ゲストスピーカーと受講生が議論しながらビジネスアイ デアを煮詰めるとともに、その創出・作成プロセスで、受講生同士およびゲストスピーカーとの人脈を形成することを目 的に開催されるものです。 今回はゲストスピーカーとして、慶應義塾大学経済学部の細田衛士教授を迎え、資源循環ビジネスに関するビジ ネスアイデアについて熱心な討論が繰り広げられました。テキストは、「資源循環型社会-制度設計と政策展望-」 (細田衛士 著,慶応技術大学出版会(2008))。受講者はあらかじめテキストの該当箇所を勉強し、それぞれのビジネ スアイデアを作成し議論に望みました。 <ゲストピーカー:細田衛士教授> <フォーラムの様子> 当日は代表として2名の受講者(今回は浜田氏と田中氏)がビジネスアイデアのプレゼンテーションを行い、その後 ディスカッションを行うという形式で進められました。なお、今回の参加者は以下の通りです (受講者) 赤澤 賢一 氏 (大栄サービス株式会社 代表取締役社長) 片淵 則人 氏 (株式会社興徳クリーナー 営業部) 芝原 誠二 氏 (株式会社近江物産 本社営業部 部長) 田中 靖訓 氏 (近畿環境興産株式会社 常務取締役統括本部長) 浜田 篤介 氏 (株式会社浜田 代表取締役) 吉見 勝治 (アルテ・シエンツァ 代表) (ファシリテータ) 杉田 英樹 氏 (ゼータコンサルティング株式会社 代表取締役) (事務局) 高田 愛三 氏 (資源リサイクルシステムセンター 常務理事・事務局長) 細田教授より開講の挨拶 開講の挨拶として、細田教授より以下のようなコメントを頂きました。 新たに勉強したり議論したりすることにより、お互いにインスパイアされる部分が必ずあるはず 表現することやコミュニケーション能力は実社会においても非常に重要な能力 ワンウェイのレクチャーではなく、議論する中で新しいものを生み出していきたい 本フォーラムは試行錯誤の段階でこれから形ができていくものだと思う 浜田氏プレゼンテーション -リチウムイオン電池の資源循環マーケットの構築- まず、(株)浜田 浜田氏より、「リチウムイオン電池の資 源循環」に関するビジネスアイデアがプレゼンテーション されました。 リチウムイオン電池の潜在資源性と潜在汚染性につい て述べた後、小型電子機器用リチウムイオン電池、電気 自動車用リチウムイオン電池それぞれのリサイクルモデル や、家庭用発電補完としてのリチウム電池活用など、実デ ータも交えつつ分かりやすく紹介して頂きました。 さらに、資源循環のためのポイントとして、電池の規格化, デポジット機能の確立(資金ストックシステムと回収システ <プレゼンテーション中の浜田氏> ムの確立),中古品流通・バッテリーバンク機能の確立,リ サイクル機能の確立 などを挙げ、動脈産業と静脈産業 が生産物連鎖を繋げてこのようなポイントを実現することにより、リチウムイオン電池のリサイクルシステムを確立するこ とができるという内容でした。 田中氏プレゼンテーション -新たな技術・システムを活用したハイパワードマテリアル回収システム- 次に、近畿環境興産(株)田中氏から、「新たな技術・シ ステムを活用したハイパワードマテリアル回収システム」の アイデアがプレゼンテーションされました。ハイパワードマ テリアルとは、物質一単位あたりの効用水準が従来のもの と比較して格段に高く、資源生産性向上に大きく寄与す る物質・素材を意味します。 具体的には、高純度リン酸回収,フラットパネルディス プレイリサイクル,食品残渣リサイクルシステムについての ビジネスモデル案を提示するととともに、さらには、「時間」 という価値を考慮することにより、再生資源の製造と使用 における時間的・空間的ギャップを解消していこうという、 <プレゼンテーション中の田中氏> 「ハイパワードマテリアルオプション取引市場の開設」に ついて斬新なアイデアを紹介頂きました。以後、これらのプレゼンテーションをたたき台として、資源循環ビジネスを推 進するためにはというディスカッションが展開されました。 総合ディスカッション 廃棄物の持つ潜在資源性を顕在化させるためには、以下の式が成り立つ必要があります。 P-PR>0 PR-P<PE (PR:資源抽出費用 P:抽出した資源の価値 PE:適正処理費用) この前提に立って、リサイクルビジネスを促進するためには ・P を大きくする ・PR を小さくする ことが必要になります。PR は主に技術条件によって能動的に対応可能な部分ですが、一般的に P は資源価格によ って一義的に決まり、供給側(リサイクル業者)はコントロールできないと考えられがちです。そこで、今回は主に資源 価値:P を如何にして大きくするかという点でディスカッションが進められました。 基本アイデアとしては、 製品規格の統一(電池等) ※ 直接リサイクル業者がコントロールできる部分ではないが、動脈側の企業と連携 することにより規格の統一化が進めば確実にリサイカビリティーは上昇する。 デポジット制の積極的な導入 ※ 現状では難しいのではとのコメントもありました。 使用権(サービサイジング)の活用 などが挙げられ、これらの制度化が課題だという意見が出されました。ただ、法的に付加価値を付けることは現状で は非常に難しいのではという意見もありました。 さらに、 現状の廃棄物処理は情報の非対称性が問題であり、適正な情報開示、情報交換を行うことにより需給ギャップを 埋められる可能性がある。 ロジスティックは上流と下流をコントロールできる力を持っており、リサイクルビジネスの中で重要なポジションにな りうる。 動脈を含むネットワークを如何に構築できるかがキーとなる。動脈側にも、自分たちで資源を確保していこうという メーカーは出てきており、向こうがパートナーと考えてくれるよう立場を高める必要がある。例えば、コンソーシア ムを作るのは一つの手段 などの意見も出されました。このような動きの中から、資源価値:P に対する付加価値を生み出していけるのではとい う期待が持てる、非常に有意義なディスカッションになりました。 また、細田教授からはプレゼンテーション技法に関するコメントもあり、受講者はしばし大学生に返ってレクチャーを 受けることができました。 歓 談 16 時から 20 時という長丁場の討議でしたが、あっという間に時間がたったというのが実感でした。討議の後は、場所 を代えての歓談。先生を囲んで、ディスカッションの続きから、ここには書けない話まで・・・ 大いに盛り上がった歓談 になりました。 以 上 (文責:吉見 勝治) 第1回環境ビジネス戦略フォーラム ファシリテーターコメント ゼータコンサルティング株式会社 杉田英樹 環境戦略フォーラムが始まりました。細田教授をお迎えした第 1 回目のセッションは、今後のフォーラムの方向 性を示唆する大変有意義な内容でありました。 細田教授は国や企業といった単体(=アクター)と、制度全体(=レジーム)の関係でシステム全体を捉えるア クター・レジーム分析を用いて環境問題を研究されています。企業経営を考える上では、自社の技術やビジネス モデルといった「個」の問題ばかりを考えがちですが、関与する他社を含めた全体のシステムの構想が必要であ ることを示唆しておられます。この、「個」と「全体」の両面を考えるという視座が、当フォーラムでは大変重要だと 思います。第 1 回目のお二人のレポートは、まさにこのことを踏まえたものでした。 また、細田教授は、ご著書の中で「技術」「市場」「制度」のアプローチの必要性を説かれています。技術は 個々の企業の取り組みが主となるでしょう。制度設計もまた別の政策立法検討の場があるとすれば、当フォーラ ムの焦点は「市場」に当てられるべきでしょう。収益期待をドライブとした売り手と買い手の動機づけで、バリュー チェーン全体の価値を形成する仕掛けこそが、検討されるべきだと考えます。「個」の動機付けと「全体」のシス テム設計が重要なのです。 そのような観点で、第 1 回目のディスカッションを振り返ると、新たな全体システムを作り上げようとするとき、ど のような企業をパートナーとして巻き込んだらよいかという検討も必要であると考えます。例えば電池のリサイクル システムに関しては、だれがシステムに参加する動機を持ち得るか。電気自動車のバッテリーをオープン企画に することを誰が喜ぶか。電気自動車の技術はほぼ電池の技術に集約されると言ってもよく、大手自動車メーカー は、覇権をとるべく技術開発に多額の投資を行っています。電池を独自技術の範疇にしておくことが競争優位 上有効であれば、リサイクルを前提としたオープンなシステムにおいそれと乗ってくることは考えにくいでしょう。 むしろ、動力源がエンジンからモーターに変わることで増加が予想される新規参入自動車メーカーなどとスキー ムを構築することも考えられるのではないでしょうか。 誰を、どんな企業を巻き込むかを考えることは、企業家としてのネットワークを広げるという当フォーラムの目的 にもかないます。今後のセッションで、さらにメンバー各社の視野が広がることを期待しております。 以 上
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