1- 【情報技術と法・裁判】 インターネット上の名誉毀損

【情報技術と法・裁判】
◇インターネット上の名誉毀損への対応◆
インターネット上の掲示板,SNSなどに,名誉毀損に当たる書き込みをされた場合,
書き込んだ者は匿名の場合がほとんどでしょう。
今回は,このような場合に,書き込みをした者に対して法的にどのような対応ができ
るのか,整理しておきたいと思います(なお,今回は,そもそもどのような場合に名誉
毀損となるのかについては,割愛します)。
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検討すべき法的措置
書き込みをした者(発信者)が特定できれば,その発信者に対して,損害賠償請求
や,民法723条を根拠とする名誉回復措置請求などを検討することになります。
問題は,請求の相手方とする発信者を,どう特定するのか,です。
法的な請求をする以上,ある程度客観的な裏付けが必要です。「こういうことを書き
込むのはあの人しかいない!」といった推測を根拠とするわけにはいきません。
そのために,「発信者情報開示請求」という制度を使う必要があります。
2 発信者情報開示請求の方法
(1)発信者情報開示請求の流れ
発信者情報開示請求は,通常,次のような手順で行うことになります。
①
掲示板等の管理者を調べる
↓
② 管理者に対して,発信者情報開示請求をする
(通常,掲示板サイトでは個々の発信者の情報は取得していないため,これで
判明するのは経由プロバイダまで)
②’管理者に対して,発信者情報開示請求の訴訟提起または仮処分の申立てを
する
↓
③ 経由プロバイダに対して,発信者情報消去禁止の仮処分の申立てをする
↓
④ 経由プロバイダに対して,発信者情報開示請求をする
④’経由プロバイダに対して,発信者情報開示請求訴訟を提起する
↓
⑤ 特定された相手方に対して,差止,名誉回復措置(謝罪広告など),損害賠
償請求等の訴訟を提起する
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以下,いくつかの点について,補足説明をします。
(2)掲示板の管理者の調べ方
①で管理者を調べるには,まずWebサイト上に管理者が明示されているかを確
認します。
管理者が明示されていない場合は,Webサイトのドメイン名から,管理者の連
絡先を調べます。ドメイン名とは,
「http://www.○△□×.jp」などのような文字列で,
インターネット上の住所のようなものです。
Webサイトのドメイン名がわかっていれば,「Whois検索」というものを利
用して,管理者の連絡先などを調べることができます。
(3)経由プロバイダとは?
②~④にある「経由プロバイダ」(プロバイダ=)とは,掲示板サイトなどに書き
込みをした者が,書き込みの際にインターネットに接続するのに利用した,インタ
ーネット接続事業者のことです。
有名なプロバイダとしては,例えば,固定回線のOCNやYahoo!BB,携
帯電話回線のNTTドコモ,au,ソフトバンクモバイルなどがあります。
掲示板サイトなどでは,管理者側は,通常,書き込みの日時(タイムスタンプ)
や書き込みをした者のIPアドレスは把握できますが,書き込みをした者の氏名や
住所の情報は把握していません。
書き込みをした者の氏名や住所を特定するためには,書き込みをした者が利用し
た経由プロバイダに対して,さらに発信者情報開示請求をする必要があるわけです。
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実際上の制度の限界
一方で,発信者情報開示請求の制度には,次のように,いくつかの限界があること
が指摘されています。
(1)アクセスログの保存期間
まず,経由プロバイダ側での,通信記録(アクセスログ)の保存期間の短さです。
そもそも,法律上は,プロバイダにはアクセスログの保存義務がありません。ほと
んどのプロバイダでは,アクセスログの保存期間は1ヶ月~6ヶ月程度だといわれ
ています。保存期間が経過してしまうと,経由プロバイダに対して発信者情報開示
請求をしても,「アクセスログ消去後のため,回答不可能である」との結果に終わっ
てしまうことになります。
(2)IPアドレスによる特定の限界
また,経由プロバイダに対する発信者情報開示請求で特定できるのは,IPアド
レスに対応する「契約者」の氏名・住所にとどまります。そのため,インターネッ
トカフェから書き込みがされたような場合には,書き込みをした者の特定は困難に
なってしまいます。
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(3)裁判手続の管轄地
前記のとおり,発信者を特定するためには,複数回の司法手続が必要になる可能
性があります。
このときの裁判管轄は,基本的に,相手方(管理者や経由プロバイダ)の所在地
になります。多くのプロバイダは,東京などの大都市圏に所在しているため,被害
者が地方在住の場合は,負担が大きくなります。
そもそも技術的には,インターネット上の行動は,常に一定の通信記録が発生するた
め,現実世界での行動よりもむしろ匿名性を維持しにくいともいわれています。
しかし,上記のような限界から,実際に名誉毀損と思われる書き込みをした者を特定
できるかどうかは,時間との勝負という側面があります。
そのため,もしもインターネット上での名誉毀損の被害を受けた場合には,早期に専
門家にご相談いただくことが重要になります。
(注)本コラムは,個別の事案についての結論を保証するものではありませんので,具
体的な事案について疑問がある場合には必ず専門家にお尋ねください。
〒848-0041 佐賀県伊万里市新天町615-1
弁護士法人いまり法律事務所 弁護士 圷悠樹【文責】
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