84kb - 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構

会議報告
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ける原位置試験(以下、釜石原位置試験)の成果
はじめに
について、国内外の専門家を交えチェック&レビ
動燃事業団(現:核燃料サイクル開発機構)は、
1989年(昭和63)より10年間にわたって、釜石鉱
ューを行い、第 2 次取りまとめへの具体的な反映
方針を確認した。
以下、
「市民報告会」
「国際ワークショップ」に
山の坑道を利用した原位置試験を実施した。当原
位置試験は、深部地質環境に関する地層科学研究
ついて、その概要を報告する。
の一環として、既存の地下坑道を利用した調査試
市民報告会
験により、結晶質岩盤及びそこに含まれる地下水
の特性とそこで起こっている現象を把握・理解す
8 月23日(日)14時∼16時30分に、釜石市市民
ること、機器を含めた調査試験技術の適用性の確
文化会館で開催された「市民報告会」には、当初
認・開発を目的としたものである。
の予想を大きく上回る総勢 2 5 0名の参加があり、
平成10年 3 月25日釜石市、日鉄鉱業株式会社及
立ち見が出るほどの盛況ぶりであった。
び動燃事業団の三者間で原位置試験終了の現場確
動燃事業団、坪谷隆夫理事と青木和弘釜石事務
認と、「釜石鉱山における原位置試験終了に係る
所長から10年間にわたる地元の方々の協力に対す
確認書」の調印を行い、本試験がすべて終了した。
るお礼の挨拶の後、野田武義釜石市長、小野崎敏
そこで今回、御協力いただいた釜石市をはじめ
釜石鉱山株式会社社長からは、釜石市の地元を代
とした周辺市町村の皆様に感謝の気持を表すとと
表して御挨拶をいただいた。
もに、その成果を理解していただくために、平成
それに続いて、釜石原位置試験の歩みと、その
10年 8 月23日、釜石市市民文化会館で「市民報告
成果を紹介するために、動燃事業団が作成した
会」を開催した。なお、報告会開催にあたっては、
「十年を振り返って」と題する映画を上映した。
動燃事業団の山川稔総括主任研究員より「釜石
釜石市、日鉄鉱業株式会社、釜石鉱山株式会社の
鉱山での研究でわかったこと」と題して釜石原位
後援をいただいた。
また翌日には「国際ワークショップ」を釜石市
置試験の研究成果が報告された。地下深部はどう
陸中海岸グランドホテルで開催し、釜石鉱山にお
なっているのだろう?地下深部で何が起きている
写真1 市民報告会
写真2 ワークショップ
サイクル機構技報 No.1
1998. 12
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会議報告
注4
のだろう?という観点から、地下水の生いたちや
ス(BGS )の 7 カ国・9 機関に及ぶものである。
地震が地下深部の岩盤や地下水に与える影響等、
また、翌日午前中には、釜石鉱山坑内見学を行っ
釜石原位置試験で得られた成果をわかりやすく報
た。
告したものであった。市民からは、地下水の年代
このワークショップでは、主に釜石原位置試験
が約3 , 0 0 0年と判定した根拠、地下水の中に酸素
の後半の 5 年間に実施した下記のタスクの成果に
がないというのは一般的な現象なのか、といった
ついて報告、議論がなされた。
質問が寄せられた。
・タスク 1
釜石原位置試験の研究成果報告に続き、東京大
・タスク 2
深部岩盤における掘削影響領域の評
価
学海洋研究所の平朝彦教授より、
「日本列島の誕
生- 動く海洋底と大地の物語 -」と題した講演が行
深部岩盤の地質環境特性の把握
・タスク 3
われた。この講演では、プレートの運動により付
結晶質岩中の水理・物質移行に関す
る研究
加体が大陸を形成したこと、さらに大陸の縁辺に
・タスク 4
割れ目帯の密封技術の適用性の評価
ある日本列島は付加体からなることが紹介され
・タスク 5
地震に関する調査研究
た。この講演に対し、最初の陸地(パンゲア)の
最初に全体セッションで、地層処分研究開発成
形成についての質問があり、最初の陸地は火山で
果の第 2 次取りまとめの概要、第 2 次取りまとめ
あったと考えられると回答された。
に反映する釜石原位置試験結果の位置づけについ
ての報告が行われた。その中で、釜石原位置試験
この報告会では、原位置試験の意義や市民報告
の成果を、第 2 次取りまとめに反映するにあたっ
会の報告内容についての感想を知るために、参加
て、実測データ、モデル及び調査技術の 3 つの観
していただいた方々にアンケートをお願いした。
点に注目していることが示された。
回答を寄せていただいた173人分の結果は次のとお
次に以下の 4 つのセッションに分かれ、上記各
りである。全体的に好意的な回答が多かったが、
タスクの成果の報告、及び意見交換が行われた。
原位置試験に対して不安があるとの回答も少なく
最後に再び全体セッションにおいてワークショッ
なかった。
プの総括を行った。
本報告会の内容は「よく理解できた」
「少し
①
セッション1
理解できた」が、全体の 8 割
報告会等市民への情報提供の必要性は「必要
②
である」154人
①
報告会は、原位置試験に対する市民の不安解
③
掘削影響領域のモデリングと評価(タスク 2 )
坑道掘削による岩盤の力学的挙動とモデル化
(掘削影響領域概念モデル)
、坑道掘削による坑
道周辺の化学的影響評価(R E D O X調査)の概
消に役立つか「役立つ」115人
原位置試験場が釜石にあったことについてど
要と数値解析結果との比較について報告がなさ
う感じたかは、「日本の将来に必要な研究に貢
れた。また、Dr. G. Backblom 国際特別研究員
④
献できたので良かった」114人、
「処分場につな
は、スウェーデンSKB硬岩研究所におけるトン
がるかもしれないので不安であった」40人
ネル掘削による岩盤の損傷、擾乱についての研
究事例が報告された。
国際ワークショップ
②
当セッションでは、上記研究の一般性等につ
8 月24日(月)9 時∼17時まで、釜石市陸中海
いて議論が行われ、栗橋花コウ閃緑岩に対して
岸グランドホテルで開催された「国際ワークショ
の妥当性及び試験・評価方法の汎用性について
ップ」には、国内外の専門家を主体とする総勢80
確認されたが、地質条件が異なれば他の概念モ
名の参加者があった。
このうち国外の参加機関は、
デルも成立しうるとの指摘がなされた。
注1
フランス(IPSN
、Ecole Polytechnique)
、アメ
リカ(Golder Associates)
、スイス(NAGRA
スウェーデン( U p p s a l a 大学、 S K B
注3
注2
)
、
)、韓国
(Seoul大学)
、カナダ(Laurentian大学)、イギリ
セッション2
結晶質岩中割れ目の地下水流動と物質移行
(タスク3 )
①
栗橋花コウ閃緑岩の透水性割れ目の特性とそ
の水理学的調査・物質移行研究、結晶質岩中の
注1
注2
注3
注4
IPSN : Institut de Protection et de S ret Nucl aire
NAGRA : Nationale Genossenschaft f r die Lagerung Radioaktiver
Abf lle
SKB : Svensk K rnbr nslehantering AB
BGS : British Geological Survey
透水性割れ目遅延特性試験の報告があった。
②
サイクル機構技報 No.1
結晶質岩中における透水性割れ目の特性評価
手法、水理学的な不均質性としてのコンパート
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会議報告
メント構造の概念及び物質移行・遅延特性等、
クショップでの議論の総括が行われた。
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第 2 次取りまとめ(性能評価)に必要となる情
① 深部地質環境の特性は、地下水の移動、pH、
報が取得され、深部地質環境の調査・解析手法
Eh等のデータセットで表すことが可能であり、
が開発できたことが報告された。
第 2 次取りまとめの性能評価に活用することが
できる。
セッション3 ②
釜石原位置試験から得られたデータに基づく
ベントナイト/岩盤系の熱-水-応力(T-H-M)連成
掘削影響領域や透水性割れ目といった現実的な
挙動(タスク 4 )
地質モデルは、ニアフィールド環境の性能評価
T-H-M連成試験の結果とモデル化、ベントナ
①
イト粘土グラウト試験結果を報告した。
②
の信頼性を高めるために有効である。
③
連成試験のT-H-M連成挙動モデル化、ピット
掘削、緩衝材の施工技術、ベントナイト粘土グ
地層処分の技術基盤として整備される。
④
ラウトの適用性評価等について、得られたデー
タの信頼性や成果の一般性についての議論が行
釜石原位置試験の研究成果は、日本における
10年間の原位置試験で得られた膨大な情報の
有効活用、公開の重要性が指摘された。
⑤
われた。
Dr. E. Webb 国際特別研究員より、第 2 次取
りまとめを行った後に、世界の花コウ岩に関す
る国際ワークショップを開催し、花コウ岩の特
セッション4 性を比較検討したいという提案があった。
地震による地下水の流動と化学的特性の影響評価
おわりに
(タスク 5 )
①
②
釜石鉱山における地震時の地下水水質、水圧
市民報告会を行ったことで、10年間にわたって
等の変化の観測結果が示され、地震時の岩盤挙
実施してきた釜石原位置試験の研究成果につい
動特性のうちの岩盤歪み計測結果が報告され
て、地元の方々に理解していただけたと考える。
た。
アンケート結果にもあるように、このような成果
原位置試験の実測データ等を用いた、地震時
を報告していく機会を持つことが重要であり、今
の水圧変化挙動解析例が報告され、地震時水圧
後サイクル機構が調査研究を進めていくうえで、
データサンプリング間隙や岩盤特性や割れ目、
必要なものと思われる。
また国際ワークショップでの、国内外の専門家
歪みに関する情報の取得の重要性が指摘され
からの意見や指摘、議論内容については、今後原
た。
③
フランスI P S Nによるアメリカのサンアンド
レアス断層で行っている地震に関する研究の報
位置試験の研究成果の取りまとめや第2次取りま
とめに反映していく予定である。
告からは、活断層帯での地震動や地殻変動、地下
最後に、釜石原位置試験にご協力いただいた釜
水圧等の観測手法等の貴重な情報が提供された。
石市の方々に、この場を借りて厚くお礼を申し上
げます。
全体セッション
各セッションでの議論が報告され、最後にワー
サイクル機構技報 No.1
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