日本語の特性

日本語のたのしさ、難しさ
・ ことばの変遷
昔、奈良時代まではやまとことばを使っていました。その後、遣唐使を中心とした人々
によって中国の書物が日本へ運ばれ、音声だけの言葉だった日本語を借りて書く独自のシ
ステムを作り上げたのです。奈良時代末期にできた歌集「万葉集」に使われている万葉が
なというものは、いまでいうかなづかいではなくて漢字の音を借りて国語の音を表した文
字です。例えば「皮留久佐乃皮斯米之刀斯」これは難波宮跡で見つかった木簡に記された
万葉かなで「はるくさのはじめのとし」と読みます。これは後
にひらがなやカタカナ
のもとになりました。
室町時代の末期には西洋のことばがはいってきて日常に使われました。オランダ語のゴ
ム、ビ−ルやポルトガル語のパン、タバコこれらは漢字をあてはめて日本語のようになっ
ています。江戸時代の末期から明治にかけて黒船の到来とともに欧米のことばがはいって
きて、そのままカタカナ書きであらわす外来語となりました。
戦後、本来の外来語と日本製カタカナことばが巷にあふれ、今では新聞紙上にも普段の
会話の中にもカタカナことばの使われない日はありません。
・ 文字の種類
現在世界で使われている文字には「表音文字」と「表意文字」があります。ひらがな、
カタカナ、アルファベットのように一字一字が音をあらわす「表音文字」
。漢字のように一
字一字がそれぞれ意味を表す「表意文字」
。
私たちが日本語の文章を書くときは漢字、ひらがな、カタカナ、ロ−マ字など多種類の
文字を使います。世界のほとんどの国では表音文字、表意文字のどちらかひとつを使うの
に対して、日本のようにその両方を使って文を書く国は他にはないと思います。
ひとつのものを表現する時に幾つの表現力を持っているかというのは、その国の言葉の
豊かさと能力を証明すると言われています。私たちはこうした多種類の文字を使って文章
を書くことで、ことばの意味だけでなくそこに含めた気持ちも表すことができます。日本
語はなぜ豊かなのか。幸せなことに、日本人は母国語を迫害されたりなくしたりしたこと
がありません。それ以上に外から来た言葉も自分たちのものにしています。
・ 語彙の多さ
日本語は語彙が非常に豊かです。特に自然に関することばの多彩なことが特徴です。た
とえば雨についても春雨、五月雨、梅雨を始め数え上げればきりがありません。そしてま
た擬態語や擬音語もあって実に賑やかです。自然のことばが豊かなのは大切な文化遺産と
いえます。
・ 文末決定性
日本語の構造は主語、目的語、述語と並んでいます。しかし、そのいずれにも修飾語が
前に挟まることが多く、述語までの距離が離れている感じがします。それで「日本語は終
わりまで聞かないとわからない」といわれています。肯定か否定かだけでなく過去か現在
か未来か、断定か推量かなど最後に示されることがよくあります。
欧米語では、まず「何がどうした」が示された後それ以外のことが続きます。日本語で
は「何がどうなって、だから何だ」となって、周辺がぼんやりと語られるなかで最後にパ
ッと謎が解けるようなことが往々にしてあります。
・ 文法的構造
主語の省略
修飾語
助 詞
日本語、特に話し言葉は主語を省略することがよくあります。
日本語には修飾語が多いのでこまかい表現ができます。
副詞や形容詞は文の中心構造を作るものではありませんが、内容をより
詳細に伝達する働きがあります。
「て」「に」「を」「は」「の」「が」たった一字ですが使い方で意味が変わる
ことがあります。
「ここではきものをぬげ」
・・・・
「ここで履物を脱げ」と読めばよいが「こ
こでは着物を脱げ」と読むとちょっと物騒な感じです。そう考えると漢字
は便利なものです。
・日本語の表記
私たちが文章を読むとき、必ずしも一字一字を追っているわけではなく言葉として
認知しているといえます。意味の上で重要なことばは漢字で書かれていることが多い
ので、漢字を拾って読むと大体の意味が分かります。かなばかりの文よりも、漢字か
なまじりの文のほうが一般に読みやすく理解しやすいといわれています。
漢字について
同音異義語
同訓異字
特別な漢字
読み方
漢字は意味があって作られています。
同じ音で意味の違う語(てんか;「天下」「添加」「点火」など)
同じ音で違う字(きく;「聞く」「聴く」「効く」など)
日本独特の漢字(国字)特別な読み方;「五月雨」(さみだれ)
音読みと訓読みがあるが、音読みには二つまたは三つの読み方があり
ます。漢字は昔中国から伝わりましたが、その伝わった時期によって
読み方に違いがあります。例えば「行く」は訓読みでは、いくと読む
が音読みでは、こう ぎょう 又は、あん ともよみます。
おくりがな
漢字の意味を補う。動詞、形容詞のように活用するものはその部分か
ら送る。例「生きる」「明るい」「表す」「起こる」「落ちる」「終わる」
「書く」の活用
未然
書かない
連用
書きます
終止
書く
連体
書く
命令
書け
かな使い
句読点
原則は「じ」「ず」を使う。二語の連合と同音の連呼の場合は例外。
(「みそづけ」「つづく」「はなぢ」など)
長音;「おとうさん」「おかあさん」「とおい」「こおり」
句点「。」 文の終わりにつける。
読点「、」文の切れ目に打つ。つける場所を誤ると意味がかわってしま
うことがあります。
・ 日本語の話しことばの特徴
日本人の古い考え方として多くを語らないことが美徳のように思われていました。
「以心
伝心」とか「阿吽の呼吸」などのことばもあります。
たった 17 文字のなかに多くの感情をこめて、読む人の解釈にゆだねる「俳句」はもっ
とも日本人的な省略の文学といってもいいかと思います。
「短歌」や「俳句」をつくる時は、
文字の数に決まりがあるので助詞の使い方をよく考えます。「が」「の」は同じ場面に使い
ますが意味が少し違います。また「を」と「に」も同じことがいえます。
「いわし雲 ふわりシ−ツに取り込みぬ」シ−ツ「を」とすれば取り込んだだけ。「に」
としたので、シ−ツをいわし雲ごと取り込んで夜はその上に眠る、という想像です。
「上下の 葉の平行に椿餅」葉「が」とするより「の」のほうが趣があります。
・ 言語能力
話し言葉は表情や手振り身振りで相手に言いたいことやニュアンスも伝えることができ
ますが書き言葉は文字がすべてです。相手の話を理解して音から文字を連想します。話し
言葉は、話し手と聞き手が同じ場所にいるので、声や話し方で気持ちを伝えることができ
ます。また、聞き手を意識して敬語や方言を使ったり、
「これ」や「その」などの指示の言
葉を使うことができます。一方書き言葉は、書き手と読み手とには距離があります。した
がって特定の読み手を意識しない時は共通語、また指示の言葉を使うと誤解することもあ
るので具体的な書き方をします。言った言葉はその場限りですが、書いたものは残ること
を考えて注意しましょう。