えひめ地域政策研究センター 設立1 0周年記念講演会講演録 えひめ地域政策研究センター 設立1 0周年記念講演会講演録 地域主権改革と地方政府のあり方 地域主権改革と地方政府のあり方 野村総合研究所顧問 東京大学公共政策大学院客員教授 増田 皆さん、こんにちは。ご紹介をいただきました増田寛 也と申します。 寛也 も政権交代が行われて、それまで地方分権、地方分権と いっておりましたが、今は地域主権改革とよくいわれて いるわけでありますが、これが今後どうなっていくのか、 本日の会は、えひめ地域政策研究センターが設立1 0周 皆さま方にとりましても大変ご関心の深いことだと思い 年を迎えての、記念すべき会であるとお聞きをしており ますので、これについて少なくとも私が知り得るような ます。加戸知事さんのお声がかりでできて1 0年というこ ことはお話申し上げたいと思っております。 とでございますが、その記念講演会の場にお招きを頂き まして、私にとりましても大変光栄に思っております。 そしてあと、地方自治は、先ほどお話にございました とおり、民主主義を学ぶ最良の学校だといわれておりま 先ほどの知事さんのお話にもございましたが、全国知 すが、それは基本的には代議制、二元代表制といわれて 事会に私が岩手の知事として参加をしておりました際に いますが、一人ひとりの県民・市民の代表として、首長 は、加戸知事さんにいろいろな面で大変ご指導いただき さん、知事や市長であったり、あるいは議員さん、議会 ましたし、それから私もかつて旧建設省、現在の国土交 の構成員としての議員さんを選んで、それぞれの代表を 通省の役人をやっておりましたんですが、霞が関の大先 選んで、そこで物事を決めていくという仕組みにしてい 輩にも当たる加戸知事さんでございます。 るわけです。しかし、どうも鹿児島の某、某といいなが ら阿久根市と申し上げますが、阿久根市の市長さんです 私は、今日ここでお話するときに、知事さんや麻生理 とか、名古屋の市長さんですとか、それぞれ少し中身は 事長さんがこの場におられるということを全然知りませ 違いますが、リコール運動があの地域で起きておりまし んで、大変プレッシャーでもございますが、だいたい時 て、この代議制についていろいろ疑義も出てきていると 間を3時ぐらいまで頂いて、地方自治についての基本的 ころでもございます。これは、その制度論まで及ぼして なお話を申し上げたいと思っております。ちょうどくし いくことがいいのかどうかという問題にもなりますけれ くも1 4日に民主党の代表選挙があります。これは国政上 ども、そういったホットな話題もありますので、この二 の話でございますが、報道でもご覧のとおり、たとえば 元代表制のあり方、そもそも首長、あるいは議会という 一括交付金をどうするとか、地方自治に今後大きく関係 ものは、どういう立場で住民の代表として行動していく するようなことが話題になっております。いずれにして べきなのかといったようなことも少しお話し申し上げら 2 0 1 0 No. 2 調査研究情報誌 3 えひめ地域政策研究センター 設立1 0周年記念講演会講演録 地域主権改革と地方政府のあり方 れればと考えております。 に照らしてみてどう評価されるのか。その理念とか考え 方というのは大変尊い崇高なものでありますし、私も大 お手元に簡単な内容ですが1枚のレジュメを用意して 賛成なのですが、しかし理念を表す政策手段としてはい あります。それから、それに続きまして関連の資料をい かがかと。最後に出るべき国がいきなり全国一律で1 3, 0 0 0 くつか用意してございますので、それをご覧いただきな 円という現金給付をばらまきますかと。そこに非常に違 がら私の話を聞いていただければと思います。 和感を覚えるわけです。少子化は大変深刻ですし、子育 てを支援する、保育をうんと応援していくなんていうこ まず1番初めのところに「地方自治の原則」と書いて とは、今まで非常に薄かったわけですから、そこをもっ あります。これはご案内のことだと思いますが、私は大 ともっと厚くしていきたいという気持ちは持っておりま きな原則というのは3つあるのではないかと思います。 す。 1つは補完性、それから近接性の原理。脇に「自助−共 助−公助」と書いてありますが、要は自助が物事すべて しかし、皆さま方もおそらくそうだと思いますが、ま の基本である。そして自助でできないことを共助、互助 ずは手段として共助を徹底的に支援するようなことがもっ ともいいますが、共助で補っていく。そして、共助でも とあっていいんではないかということですね。それから、 解決できないようなことを公助で。公助っていうのは、 公助をするにしても、まず市町村の現場でのサポートと 基本的には税金を使ってそれを解決していくということ いうのをもっともっと大事にしていくべきではないか。 です。自助が基本にある。自分や家族で物事を解決して それをやり尽くした後、最後に国のセーフティーネット いく。それが難しいものを共助でやり、共助でできない として現金給付というのはあったらいいと思いますが、 ことを公助でやるというのを俗に補完性の原理といわれ しかし今までの国の出方、現金給付っていうのは、もし ておりますが、これが非常に重要です。その公助といい 国が出るとすれば全額国庫負担が原則だったはずであり ましても、今の日本の自治体は二層制といわれておりま まして、この子ども手当、ご承知のとおり1人1 3, 0 0 0円 すが、まず基礎自治体としての市町村がある。それに対 配るにしても、2兆3, 0 0 0億円だったですか、国全体とし して広域自治体としての都道府県がある。ですから、そ てはかかって、そのうちの6, 2 0 0億ほどは地方負担を取っ の公助の中でも「ニア・イズ・ベター」といいますが、 てしまっている。国の財布が乏しいからということなの 身近な自治体、身近な政府がまず中心であるべきだと。 でしょうけれども、国がそこまでの必要性があるという そして、最後の最後に国が出てくるべきだと。これを近 のであれば、全額国がやればいいと思いますし、地方負 接性の原理とも呼び替えております。この自助を補完す 担を取るのであれば、むしろ自治体がもっともっと共助 るものとして共助、共助を補完するものとして公助、そ を応援していったほうがいいのではないか。どういう仕 してその中でも近い政府から物事を考えていくという補 組みで子育てを応援するかっていうのは、1番身近な自 完性の原理と近接性の原理というのが地方自治の大原則 治体がよく知っているはずですから、そこをもっともっ の第1番目に出てくるのではないかと考えます。 とサポートするということが大事。それをやり尽くした 後に、なおかつ国が最後のセーフティーネットとして必 分かりやすい例でいいますと、例の子ども手当という 要であれば出てくればいいんではないかと思います。 のがあります。これは国の政策ではありますが、今年の 4 6月から市町村の協力を得て行われている。先ほど地方 子育て支援の NPO だとか、あるいはお母さん方のグルー 自治の原則といいましたが、これは国政にも通ずる原則 プっていうのは、おそらく愛媛県でもあちこちにいろい だと思っておりまして、しからば子ども手当がこの原則 ろあると思うのですが、もっとそういう人たちを支援し 2 0 1 0 No. 2 調査研究情報誌 えひめ地域政策研究センター 設立1 0周年記念講演会講演録 地域主権改革と地方政府のあり方 ていくということがいいのではないかと思います。この すから、行きましたら分けるダストボックスのようなと 自助、共助、公助、一時期自治体が随分税収が豊かだっ こにちゃんと写真があって、従業員の人たちが迷わない た時期もありますし、何か公的なこと、公共の分野のこ ようにということをやっていました。各家庭にそこまで とはもう税金で自治体に、あるいは国にお願いして、そ お願いすれば本当に徹底するのでしょうが、とてもそこ こで解決してもらおうという風潮が国民の間に随分広がっ まで守っていただくということはかえって難しい。私は たのは事実だと思います。ですが、そういったことをも 岩手から引っ越しをして東京に住んでいますが、私が住 う一度きちんと整理し直すということが大事ではないか んでいる区は、家内に聞きましたら8種類の分別をして と思います。 いるということで、ちゃんとそのための写真入りのパン フレットが配られています。 もう1つ言いますと、ごみの分別は、この松山市でも 行われていると思います。どのくらいの種類で分けてい いずれにしても、この補完性、近接性の原理というこ るのか私ちょっと分かりませんけれども、これは公助で とですが、もちろん多くの事柄は税金を使って、公助と ごみを処理していくということではなくて、むしろ自治 いうところで適切に処理されていかなければならないと 体サイドで、公の側で各家庭の自助をお願いして、そこ 思いますが、これから政策をいろいろ組み立てるときに、 で一時的に分けていただくことなのだろうと思います。 特に国のほうにこのあたりはきちんと理解してもらいた ごみというのは、リサイクルに回せるものもそうではな い。いきなり公助でやるというよりも、本当に自助でお いものもごちゃごちゃに出てくるので、それで最後焼却 願いできるとこがないのかどうか、あるいは共助で解決 処分するしかないわけで、一時期そういうことがずっと できるところがないのかどうか、そういった発想を持っ 行われていたのですが、それではどんどん増えてくるの て、本当にこれから限りある財源を最後の最後まで有効 でリサイクルに回せるものは回そう。そのことが、結局 に的確に使っていく、こういう考え方が大事だろうと思 は焼却量を減らして、環境問題にもいいということで、 います。 ある時期から行政のほうで各家庭にお願いをして、まず 出すときに分けてくださいと。これ行政のほうで全部分 地方自治の2番目の原則っていうのは、首長と議会に け始めたら、これはこれでまた大変なことになるわけで よる二元代表制。これも皆さん方よくご案内のことかと すから、各家庭に自助をお願いするということですね。 思いますが、もう一度繰り返しますと、住民の代表・有 それも多分いきなりいっぱい種類を分けるというのは抵 権者の代表というのは、一方で知事や市長がその代表を 抗感があるので、どの地域でも3種類とか4種類ぐらい しておりますが、もう一方で議員が構成している議会が から始めたのではないかと思います。 もう一方の代表である。そして、それぞれが住民の代表 として議会の場でいろいろと丁々発止議論を積み重ねて 企業名を挙げて恐縮ですが、茨城県守谷市にあるアサ いく。この住民を代表するものが2つある、二元的に代 ヒビールの工場。ここは廃棄物をゼロにするということ 表されるということで、二元代表制といっているわけで をうたい文句にして、徹底的に分別をしている、そうい す。ですから、ときには両者の意見が違うこともあり得 う工場でありましたが、何年か前に行きましたとき徹底 る。もちろん同じ住民が選挙で選ぶ場合に、まったく違 的に2 6、7種類の分別をしていました。9 8%から9 9%ま う意思表示をするというのは考えにくいので、多くの事 で、出てくるものは全部リサイクルに回す。あと本当に 柄について同じ方向で選ぶのだろうとは思いますが、た 1∼2%、それもさらにさらに少なくするように今努力 だ制度とすれば違う選挙で選ばれるわけですから、ねじ 中と言っておりましたが、さすがに2 6、7種類の分別で れも当然あり得るし、そういう意見が違うことを選ばれ 2 0 1 0 No. 2 調査研究情報誌 5 えひめ地域政策研究センター 設立1 0周年記念講演会講演録 地域主権改革と地方政府のあり方 た政治家同士がいろいろ議論して、議会の場で物事を決 あって、本国が突然膨大な税金を掛けて、それで植民地 めていく。もちろんすべてが議会でというよりは、そう の住民が怒って、翌年それを廃止にもっていった。独立 でない場でもいろいろ丁々発止議論するということもあ 前にいろいろいざこざがあったのですが、そのときの有 るわけですが、それにしても片方が考え方を修正する。 名な言葉で「代表なくして課税なし」という言葉があり それが、擦り寄ったり、お互いが譲歩したりといろんな ました。あの代表っていうのは、アメリカの場合には議 形態があると思いますが、とにかく政治家として政治的 会。議会での審議なくして、そういった税金を掛けると な判断をしながら1つに意見をまとめ、そして有権者・ いうのは許されない。向こうは、やはりこういった場合 納税者の皆さま方に対して、1つの結論を見せていく。 には議会が代表であるという意識が大変強かったといわ これが二元代表制による政治だと思います。 れております。そんなこともあって、向こうの州政府、 あるいは市政府、いろいろな地方政府がありますが、議 制度の前提とすれば、首長の権限と議会の権限と、役 会の独立性というのが非常に強いといわれておりますが、 割がそれぞれ違うわけですが、基本的には対等・平等で、 日本の場合には制度的に首長に予算の提案権を独占させ そしてお互いに、特に議会は首長の出すいろんな議案を るという制度になっております。 チェックするということが基本原則だろうと思いますが、 議会は議会で独自にさまざまな条例も提案できるわけで それが故にといいますか、やはり予算を持っているの すから、政策形成に非常に深くかかわっているというこ は非常に大きな権限であり、権利でありますので、議会 とです。ただ、日本の制度の大きな特色は、予算に絡む の議員も地域の住民からこの予算を認めてほしいとか、 案件というのは、首長だけが提案できる。これは各国の そういったことが日常的にいろいろ陳情としてあるわけ 制度によってだいぶ違っていまして、たとえばアメリカ ですから、だんだん首長のほうに近くなっていって、そ は二元代表制や三権分立が非常に徹底しているというこ れで時にはそういった予算の審議が、きちんと議会がチェッ とで、司法権まで州ごとに分権されているという国であ ク機能を果たしていないといわれるのは、予算の提案権 りますが、アメリカは、たとえば連邦議会、予算は議会 が首長側に独占されているといった事情によるところが が提案をして議会が決めています。一見、大統領が予算 大きいであろうと私は思います。 を提案して、それを議会が審議して決めるように見えま す。というのはオバマさんがいつも年の初めに膨大な予 いずれにしても、それが日本の大きな特徴で、首長圧 算教書、オバマさんをはじめ歴代の大統領が膨大な予算 倒的優位といわれますが、たとえば夕張市、名前を挙げ 教書というのを議会に出していますが、あれは参考図書 て恐縮ですが、分かりやすい例として、今全国で唯一財 という位置付けで、ルールとすればその参考図書を議会 政再生団体になって、まさに会社で言えば倒産した、そ 側も見ながら、しかし原案を議会でつくって、そして最 ういう自治体になっているわけで、市民生活もサービス 終的には議会が予算を決めると、こういうしくみですね。 が大変低下して逼迫しているわけです。これは大昔の市 日本とはそのあたりはだいぶ違う。 長さんですが、メロン城をつくったり、遊戯施設をつくっ たり、市財政の身の丈を超えるさまざまなことを事業と 6 あそこは歴史をさかのぼれば、イギリスの植民地時代 して行った。これに大きな原因があるわけですが、その に例のボストン・ティー・パーティーとかボストン茶会 予算をきちんとチェックしなかった議会にも大きな問題 事件とかいわれた事件がありました。本国のイギリスが があるし、もちろん北海道庁とか当時の自治省の責任も 東部の植民地に課税をするというので植民地の住民が怒っ 大きいと思いますが、しかしじゃあ市民の人たちが完全 て、茶箱を海に投げ捨ててしまった。印紙法というのが な被害者かといえば、今の人たちにとってみればきつい 2 0 1 0 No. 2 調査研究情報誌 えひめ地域政策研究センター 設立1 0周年記念講演会講演録 地域主権改革と地方政府のあり方 ですが、住民・有権者と約束をして、それを当選のあか つきには実行していくと、こういうことです。 次に、左側、国政の場合で、これは議院内閣制。今日 は、こちらのことを言うのはこの場面だけにしますが、 こちらは選挙が1回きり。今年の7月に参議院選挙行わ れました。去年の8月3 0日には衆議院選挙があって政権 交代したわけですが、こちらは国民が国会議員を選挙で 選ぶ。そして、選ばれた国会議員が大多数は国会で活動 するし、その中でごく一部が内閣に入って総理大臣以下 各大臣、政務三役を構成していく。こういうことで、国 言い方かもしれませんが、そういう市長や議員を選んだ 会議員が選ばれるというとこだけに住民との接点がある 市民の皆さん、そしてそういうことをずっと見過ごした ということであります。ですから、パーティ・マニフェ ままでいた市民の皆さま方にもやはり大きな責任を感じ スト、党のマニフェストっていうのが、1つそこで存在 ていただかないといけないとも思います。 するということです。 今のことは3点目のことにつながっていくのですが、 先ほど、地方自治の第3原則のところで直接民主制の 3番目の大原則が住民自治と直接民主制。ここが国政と ことを言いました。国政との1番大きな違いはこの点で は大変大きな違い。そして、先ほどの夕張などもまさに す。要は、われわれ国会議員を選べば、あともう国会議 なぜじゃあ市民が立ち上がらなかったかと、こういうこ 員にぜひいい働きをしてくれということを期待するしか とにもなっていくわけであります。お手元に、横長です ない。変な言い方ですが、途中で国会議員がだんだんず が図表が出ていますので、3番目の原則も含めて、今ま れてきておかしくなってきても、それはもうじっと見て で言ったことをご確認いただきたいと思います。議院内 いるしかなくて、次の選挙、これは衆議院の場合には最 閣制と二元代表制(首長制) 、大統領制とも言ったりしま 大4年か、または解散で選挙になることあります。参議 すが、その表があります。右側のほうが二元代表制の概 院の場合には6年間、3年ごとに半数の改選があります 念図でありまして、これは住民がいて、それぞれ別の選 が、いずれにしても1度国会議員を選んでしまったら、 挙で首長と議員を選ぶ。そこが抑制均衡で、首長が提案 あとは国会議員がいろんな行動をするのをずっと見てい する議案を議会が厳しくチェックして、それで首長が暴 るしかない。もちろん世論調査とかでプレッシャーをか 走したり、住民不在になったりすることを議会が防いで けることはできますけれども。あとは次の選挙まで待っ いくし、議会は議会でさまざまな条例も予算を伴わない て、ようやくそこで入れ替えるしかない。 限り提案が可能だと、そういうことだと思います。です から選挙の際には、最近、首長はマニフェストをつくる。 地方自治のほうはそうではなくて、夕張、何で住民が 議員も当然マニフェストをつくろうということが制度的 立ち上がらなかったかと先ほど言いました。途中で首長 にはあり得るわけで、これは議会の場合には会派制を採っ がずれてきた、あるいは議会がだんだんと機能不全になっ ていますので、議員が属する会派でマニフェストをつく てきたら、最後は住民がリコールという手段でその首長 るということかもしれませんが、そういうことがあり得 を失職に追い込むことができるし、議会も解散請求をし る。全国では、そういうことが今行われてきているわけ てリコールが成立すれば、あと投票して過半数が賛成す 2 0 1 0 No. 2 調査研究情報誌 7 えひめ地域政策研究センター 設立1 0周年記念講演会講演録 地域主権改革と地方政府のあり方 れば解散させることができる。要は制度設計として、そ 助の部分をもう一度組み直していくのが大事だと思いま れぞれ選挙で住民の代表を二元的に選ぶわけですが、こ す。地域でみんなで立ち上がって物事を解決していく。 の人たちどうも働きが悪い、おかしなことをやりだした、 ここがきちんと出来上がっている地域なのかどうかとい ずれてきたなと思えば、最後住民が立ち上がる。そして、 うことが、これからの自治の場面では大変重要ではない 正していくということが、最初から制度として予定され かと思います。 ている、そういう制度設計になっているわけであります。 次にレジュメで「原口プランについて」ということを 8 住民が立ち上がるというのが、地方自治の場合には当 書いてあります。民主党政権、これは代表選挙で今度総 然必要になってくる。権利の上に眠っていてはいけない 理が代わるかもしれません。まもなく結果出てしまいま んで、最後は住民がきちんと見ていかなければならない。 すけれども、ただおそらく民主党政権というのはしばら 私も今、まったくの一民間人ですけれども、普段は仕事 く続くであろう。今の地域主権改革というのが続くわけ があります。皆さん方もいろんな仕事があるので、一度 でありまして、この民主党政権の中でつくられた地域主 住民の代表として首長さんや議員さんを選べば、基本的 権戦略大綱というものがございます。お手元の資料の中 にはその人たちにしっかりやってくれよという思いも含 で、横長の大変大きなカラー刷りで横長の図表があると めて選んでいるわけですが、しかし地方自治の場合には 思います。地域主権戦略の行程表(案)【原口プラン】 、 任せっきりっていうのはやっぱり駄目なので、どうもお これが原口総務大臣が考えておられる政権側の地域主権 かしいなという兆候を感じ取ったら、やはり自分たちで 戦略の全体像ですが、ちょうど2 2年度夏、今の時期です よく見て、あまりにもひどければ立ち上がっていく。多 が、2 2年度夏と書いたとこに縦に黄色で地域主権戦略大 分、夕張の場合にはまだまだだいぶ前でしたから、情報 綱(仮称)というものがずっと下まできていると思いま 公開ということもあまりされてなかったので、結局のと す。これは今(仮称)が取れて、地域主権戦略大綱とし ころ市民の皆さん方はよく分からなかった部分が正直多 て、参議院選挙の前、6月2 2日に閣議決定という形でこ かったと思いますが、しかし制度的にはそれは許されな の文書が決められました。左側のほうに地域主権戦略会 い。今のように情報公開が進んでいる時代は、余計そう 議から始まって、 〈規制〉関連、 〈予算〉関連、 〈法制〉関 なのだろうと思うわけで、地方自治というのは今見ても 連って書いていますが、これがこの改革の基本文書と考 お分かりのとおり、とにかく最後は住民が立ち上がると えていただいてもいいと思います。この原口プランの中 いうことが制度設計の大前提になっています。そのほか 身を見ますと、左側にいろんな項目書いてあります。今 まちづくりにしても、それからさっきちょっと言いまし 日は中身の説明は省略いたしますが、それぞれの自治体 たような子育ての場面にしても、最後やはり住民の皆さ でもこの文書、皆さま方関心を持ってお読みになってい ん方がいろんな意味で立ち上がる。 るのではないかと思います。 まちづくりで、行政主導で上から面倒を見てもらって 非常に多くの事柄をその中に盛り込んでおりますけれ やられているような地域もあります。しかし、地域のリー ども、私は2つ、この原口プランに欠けている点がある ダーや代表のような人たちがまちづくりに深くかかわっ のではないかと思います。1つは、レジュメに書いてあ て、自分たちでいいまちにしていこうという努力を積み ります住民自治の視点。この住民自治という視点が、大 重ねているところが、いいまちづくりにつながっている 変薄いのではないか。先ほど、地方自治の原則の3番目 と思います。常にそういう住民との間の関係というもの、 に申し上げたのですが、住民自治というのは、最後は住 冒頭、自助、共助、公助と言いましたが、特に自助や共 民が立ち上がる、1歩前に進む。その前への進みやすさ 2 0 1 0 No. 2 調査研究情報誌 えひめ地域政策研究センター 設立1 0周年記念講演会講演録 地域主権改革と地方政府のあり方 をどうやって高めていこうかという観点を持ってないと、 ていうことが1番大事で、うちの自治体はここまできち なかなかうまくいかないと思います。住民が身近な地方 んとしたサービスをやる。であれば、財源が足りなけれ 政府をきちんとコントロールできる。そういったことが ばそこを課税して財源を調達する、あるいは余れば減税 大事だと思うのですが、原口プランには、この住民自治 をしていくというふうに、サービス内容をまず考えてい をできるだけ強化するといったところが、残念ながら入っ く。 「入るを計って出ずるを制す」だったら、これからは てない。これが1つ言えると思っております。 おそらく税収だってうんと伸びない。むしろ減っていく わけですから、当分の間、ただただ否応なしにサービス これは、あとでもう少し触れますけれども、たとえば を削るだけ。もうそれしかないということになってしま 名古屋で今、河村市長が議会をリコールしようと思って、 うのですが、それは自治体としていかがという気がしま 議会のリコールっていうのは住民の権利ですから、住民 す。 が実際に動いているのですが、事実上市長主導のリコー ル運動が行われている。今月の確か2 7日が期限になって それからもう1つ、河村さんの場合にどうかなと思う いたかと思いますが、リコールの署名集めも行われてい のは、リコール自身が、本当は首長が後ろで糸引くよう る。この発端は河村市長が打ち出した1 0%市民減税、こ なものではないなという気がするのと、それを別にして れに議会が反対した。1年限りは認めたのだけれども、 も、リコール成立した上でも来年の4月にどうせ統一選 河村さんが言っているのは恒久減税であって、これに議 挙があるわけです。リコールで解散になってもわずか2 会がなかなかうんと言わないということです。これは、 カ月ぐらい早まるだけということなので、議会とこの1 個別の自治体のことなのでそれぞれの事情があると思い 年ぐらいの間いろいろ丁々発止やったようですが、あま ますが、私は名古屋市のリコール運動っていうのは、パ りにも早く議会との対話を放棄しすぎた。もっと粘り強 フォーマンスだと、市長のですね。どうかと思うのです。 く、せめて1期の間とことんやった上で、次の選挙のと というのは、だいたい減税っていうのは今までなかなか きに息のかかった人を候補者として立てるのだったらい なされてないのですけれども、もちろん減税っていうの いかもしれませんが、そういう意味ではいかがかなとい があっていいわけですが、何のサービスをやめるってい う気がして、あまりにもけんか腰じゃないかという気が うことが初めにあって、そのサービスをやめるというこ します。 とについて有権者のご理解を得て、そうすればもちろん その部分の予算が余るわけですから、それを減税にする。 しかしここで申し上げたいのは、4年も8年も首長サ そこをまずきちんと問うていくのが順番だと思うのです イドが丁寧に丁寧にいろいろ説いたにもかかわらず、ど が、河村さんの場合には先にもう1 0%減税っていうのが うしても議会の方との折り合いがつかなかった。これは あって、あとからじゃあ何のサービスを止めようかとい 先ほど言いましたように、二元代表制では首長と議会で ろいろ紆余曲折があって、何とかそれに見合うものを見 ねじれが当然あってしかるべき。それをとことん話し合 つけたっていうことで、考え方として順番が逆ではない いで接点を見つけるというのが大前提だと言いました。 かということですね。それが1つ。 この話し合いを絶対放棄すべきではないと思いますが、 最後の最後までお互いに譲れない一線というのがあって、 自治の場合には、よく「入るを計って出ずるを制す」 それを選挙の時期まで待って、有権者がどちらの言い分 ということが言われます。これは、会社経営はまさにそ がいいかというのを選挙の際に判断をして、おかしなほ ういうことが当てはまるのでしょうけど、自治体の場合 うを交代させるというのが原理原則だと思うのですが、 にはむしろ出るほうを、どういうサービスをするのかっ しかしそこまでどうしても待てない。3年ぐらいやった 2 0 1 0 No. 2 調査研究情報誌 9 えひめ地域政策研究センター 設立1 0周年記念講演会講演録 地域主権改革と地方政府のあり方 上でどうしても待てない。市民生活の上でも待てないと で、このあたりはいろいろ考えておかなければいけない いう場合もあるだろう。そのときに、じゃあ3年なら3 と思います。 年たったときにあと手段がないのかというと、現行制度 だとリコールして直接引きずり下ろすということしかな それから2つ目、議会改革の視点が、この原口プラン、 いのですが、それもちょっと極端すぎる。リコールのハー 国が考える分権には、この点が欠けているとこがある。 ドルも相当高い。 これはこういうことです。お手元の、ちょっと細かい字 ですが、3枚目。もうこれも基本のとこなんですが、ちょっ ですから、たとえば首長が発案をして、提案するこの と細かい字で大変恐縮ですが、確認の意味で見ていただ 減税案というのがいいかどうかというのを住民に直接問 きたいなと思いまして、3枚目に地方分権改革推進委員 いただすような、住民投票にかけるようなルートがあっ 会の文書をお付けしております。この地方分権改革推進 てもいいのではないか。今そういうことをやろうと思え 委員会は、今年の3月で活動を終えました。1 9年の4月、 ば、条例つくらなくちゃいけなくて、議会が反対すれば 安倍政権のときにスタートして、福田、麻生政権、そし できないということになっている。いきなりリコールに て鳩山政権のときまで活動して、去年民主党政権の中で いく前の段階で住民投票にかけるようなこと、住民投票 第3次、第4次勧告を出して活動を終えたということで、 をもっと活用できるようなことがあっていいのではない この3年間大変重要な役割を果たしてきた。委員長が伊 かと思います。ただここは意見がいろいろあって、私は 藤忠の社長、会長をやられた丹羽さんという、今中国大 住民投票にかける場合もその結果に拘束されるような重 使となりましたが、あの方が委員長で、実は私が発足当 たい住民投票っていうのはちょっと難しいというか、な 時4カ月ほど委員長代理を仰せつかっていたのですが、 じまなくて、私はその住民投票の結果を参考にするよう 大臣になったのであとは西尾先生に委員長代理を代わっ な、いわゆる非拘束型の形にして、住民投票をもっと活 ていただきました。 用していく。最後決めるときは、あくまでも現行の首長 と議会が議場でいろいろ議論をして決めていく。そうい この地方分権改革推進委員会の見解というのがいくつ う形にしないと、総論賛成、各論反対のようなものいろ かあるのですが、上のほうが5月3 0日、私がまだ委員長 いろございますし、自治体で安易に住民投票を実施し、 代理していたときの1番最初の文書なのですが、2行目 その意見に拘束されてしまっては大変困るのではないか に「中央政府と対等・協力の関係にある地方政府」とい と、こういう気もしているわけであります。 うことで、今日の私の講演の大きなタイトルにもなって いますが、地方政府という言葉が公式な文書に出てきた 1 0 要は、申し上げたいのは住民自治の視点。リコールの のはこれが初めてなのですが、中央政府と対等・協力と ハードルも高すぎるので、もう少し低くして、首長と議 いう意味合いを余計出していくという意味です。憲法上 会に緊張感を持たせるといったようなことや、もう少し は「地方公共団体」と6文字書いてあります。一般的に 非拘束型の住民投票を活用できるようなといった視点を、 は地方自治体といわれていますが、地方政府と。そして、 住民自治の視点をこの原口プランの中にも盛り込んで、 この地方政府というのは、その次の行に書いてあります そして幅広に検討していかなければいけないと思います。 が、自治行政権のみならず自治財政権、自治立法権を有 例の阿久根市長さんみたいな人が出てきて、議会も開か する完全自治体を目指す取り組み。それから下のほうの ないとかいうことがあって、これじゃあもう強制的に議 1 1月1 6日の文書のほうですが、同じことで1行目、地方 会を開かせるような仕組みを考えようとか、だんだんと 政府の確立は自治行政権、自治立法権、自治財政権、こ 国の統制が強くなるような意見も今一部出てきているの れちょっと順番入れ替わっていますが、いずれにしても 2 0 1 0 No. 2 調査研究情報誌 えひめ地域政策研究センター 設立1 0周年記念講演会講演録 地域主権改革と地方政府のあり方 同じです。自治立法権、自治財政権を有する完全自治体 やるのだという、そこをうんと強調していただきたい。 を目指す取り組みと。そして大きな2段落目のとこです 実は心配しているのは、こういうことは国会議員にとっ から5行目になりますか、 「地方政府の確立には、行政権 てみれば自分たちの権限を奪われるということになる。 の分権だけでなく立法権の分権が不可欠」と。立法権の 国会議員の人たち、分権について、みんな総論は賛成し 分権をやることが必要だということですね。そして、そ ているのですが、いざこれからそういう局面になってく の段落の1番最後のほう、ですから全体からいうと下か ると、本当に協力してくれるかどうか。だいたいみんな、 ら6行目のとこになりますか、 「条例制定権の拡大をはかっ 地方議会にはそんな能力ないと思っている人が多いわけ ていくことは、自治立法権を確立していくことにつなが ですので、そこをきちんと理解してもらった上で、地方 る」と、こんな文書があります。レジュメのほうに書い 議会のほうもそこは努力をして、そして議会としての活 てありますが、原口プランにはこれも足りない。 動を活発化していくと、そういったことが必要ではない かと思います。 議会、特に国会改革の視点が欠けているのではないかっ ていうのは、今のことを言っていまして、分権改革、地 それから、当面の動きということなのですが、今まで 域主権改革っていうのは、どうも霞が関改革とほぼイコー 言いましたような大きな基本原則や原口プランでこれか ルになっていまして、霞が関の各省にはお金や権限がいっ ら進んでいくのでしょうけれども、それでは当面今年、 ぱいある。それを各自治体の二元代表制のうちの一方の この地域主権改革がどう動いていくのかというと、そこ 首長サイドに移していって、自治体の自由な判断の部分 に書いている3点、プラス先ほど加戸知事さんのお話の を拡大する。今までそのことを盛んに言ってきたし、そ 中で3法案の話がありました。これは法案が出来上がっ れに抵抗しているのは中央省庁だ、そこの官僚だという ているのですが、国会が今こういう流動化している状況 ことがいわれていました。これは、もちろんそうだろう なので、なかなか審議日程が分からない。中身について と思いますし、今後もそういうことあると思うのですが、 は、それほど大きな与野党の隔たりがあるとは思いませ もう一方の自治体の代表である地方議会、ここに立法権 んが、入り口の地域主権改革という名前あたりで今つか を分権していく。日本は法治国家ですから、国会でいろ えちゃって。地方分権でいいじゃないかといったような いろな法律をつくることによって物事を規律しているの こともあって、なかなか進んでいかない。これは早く早 ですが、自治立法権を確立していくということは、取り く成立してほしいと願うしかありませんが、そこに書い も直さず各自治体の条例制定権を拡大して条例に委ねて ている出先機関改革、これが1つ今年の暮れまでにアク いく。ここをもっと広げていくことが大事です。国会が ションプランをつくるということになっていますので、 多くの仕事をやっていますが、その仕事の7、8割ぐら 四国地方整備局ですとか、農政局、運輸局、経済産業局 いは、地方議会のその中の仕事で解決をしていこうと、 等あるわけですが、こういった出先機関の見直しをする。 こういうことだと思います。 こういうことについてのアクションプランが今年つくら れると思います。 この部分がなかなか意識されてなくて、原口プランの 中にも国会をそういうふうに地方議会に切り替えていこ これは、県との関係でいろいろ影響が出てくるかと思 うという議論というか、そういう形跡が見られないとい いますが、内容的には仕事をやめるのかどうか、要は国 うところがあります。先ほど聞きましたら、今日は議会 がやめるのかどうかということだけではなくて、もし国 の議員先生方もお見えになっているということでありま がやめて、地方がそのまま引き続きやる必要があるとす すが、ぜひ永田町改革をして、国会の仕事を地方議会で れば、お金を地方に渡す。そして職員も身分として国の 2 0 1 0 No. 2 調査研究情報誌 1 1 えひめ地域政策研究センター 設立1 0周年記念講演会講演録 地域主権改革と地方政府のあり方 職員が自治体に移るということを前提のものになるわけ はないと思いますが、しかしどうもこの間の討論聞いて ですので、実際のアクションプランを作成するのはいろ いましたら、小沢さんもいろいろその点については批判 いろな問題が出てくる。8月いっぱいに各省庁が、出先 されているので、もうあまり5割っていうことは言わな についての自己仕分けということを行った報告を見ます いのではないかと思うのですが、菅さんも「いや、5割 と、ほとんどがすべて出先機関改革にノーの答えになっ は無理ですよ」とか言っていますが、どうもあの口調で ています。これは、当然予想された部分でありますが。 すと2∼3割ぐらいの削減はいけるなと思っている感じ したがって、秋に事業仕分けのような形で、出先機関仕 もあって、要は相場観として、全体として現在の総額の 分けをやると聞いていますが、このあとアクションプラ 7割ぐらいでもいいのじゃないかというのが、何かでき ンをどうつくっていくのか。当然のことながら、これに つつあるような気がするんですよね。こうなると大変な ついては自治体として県民生活・市民生活が損なわれる ことで、数字が先行して一括交付金が議論されたら大変 ことのないように、しっかりと意見を言っていく必要が なので、そのあたりはまた自治体の皆さん方もきちんと あるのだろうと思います。 した議論が行われるように今後活動されたらいいんでは ないかと思います。 そしてもう1つ、これは最近、民主党の代表選で話題 になりました一括交付金化ですね。これは、小沢さんが 要は、皆さま方が、この一括交付金化で今1番気になっ 国のマニフェストを実現する上で、財源が大変足りない ているのは、総額がどういうふうに決められるのかより ところをこの一括交付金化によって生み出すような話を もむしろ、個別の自治体にどういう基準で配られていく したものですから、本当かなということがいろいろクロー のかだと思います。基本の文書には主観基準と客観基準 ズアップされました。 『5割でもできると私の親しい首長 とあって、徐々に客観基準を大きくしていくといってい が言っている』と小沢さん言っていました。あれ岩手の ますが、客観基準といえば人口、面積のような話になり 私の後任の知事かもしれませんが、私は5割はないだろ ます。やればやるほど地方交付税に近くなっていくわけ うと。小沢さんにそういうおべんちゃらを言うといかん ですが、まさか同じようなもので第二交付税のようなも と思うのですが、ご承知のように社会保障が全体の2 1兆 のをそのままつくるっていうわけじゃなくて、何か事業 円のうち7割ぐらいありますし、教育費2. 3兆のうち1. 6 をやる上での工夫があるのだろうと思いますが、このあ 兆は義務教育に充てているわけですし、安易に5割とか たりがすぽっと議論から抜け落ちている。それにしても バナナのたたき売りじゃありませんから、そんなこと言っ 暮れまでには決まるわけです。来年度の予算の中で、投 ちゃいかん。公共事業とかいろいろ工夫があってしかる 資的経費については一括交付金化するというのが約束に べきですし、分権改革の文脈で言えば、事細かに使い道 なっていますので、この点についてはきちんとした議論 を決めるっていうことではなくて、自治体の自由な判断 を絶えず監視しながらやっていく必要があるだろうと思 にするというのは大変大事ですし、それを大いにやって います。 いただきたい。結果として、総額が圧縮できればそれも 大いに結構。 それから来年度予算。今言ったように、一括交付金化 もその中に含まれますが、特に地方財政対策としていえ 1 2 総額の圧縮は大変大事なことですが、最初から国の足 ば、交付税の問題が大きいだろうと思います。今年度に りない財源の当てにこういうものを使ってほしくない。 ついては何とか政権発足直後ということで、昨年の暮れ 打ち出の小槌みたいにはしてほしくないというのは、皆 の予算編成のときに、民主党が地方交付税を1兆円積み さま方も一緒だと思います。ですから、5割ということ 増しをして、これは結局国の借金が原資になっています 2 0 1 0 No. 2 調査研究情報誌 えひめ地域政策研究センター 設立1 0周年記念講演会講演録 地域主権改革と地方政府のあり方 が、それで1 7. 5兆の地方交付税の総額ということを確保 そして分権の課題ですが、今までもいろいろ申し上げ してあります。来年度に向けては、この間の概算要求基 ました。1つは、二元代表制のあり方がここでもう一度 準見ますと、一応1 0%削減のところから外して、社会保 議論になってくるだろうと。というのは、先ほど言いま 障と地方交付税は外して、そして前年と実質上同額を確 したけど、阿久根市の問題があります。それから、名古 保すると、こういうことになっていますので、一応1 7. 5 屋市の問題がある。それから、大阪の橋下知事が「議会 兆が確保されるような、そういうことなのかなとも思っ 内閣制」なんていうことを最近唱えていまして、議会が たりするのですが、あそこに「実質上」という余計なも 非常に無責任だと。何でもかんでも反対をしたり、予算 のが書いてあって、どうもあのあたりがくせ者ではない でも非常に無責任なことを言うと。もっと議会の議員の か。 皆さん方に、特に予算編成に責任を持っていただかなけ りゃいかん。ですから、議員さんを副知事だとか各部長 今これだけお金足りない。しかし景気対策で年内に補 さんに、市で言えば副市長さんや部長さん等に議員さん 正が必要になってくるだろう。これは予備費なのかどう に入ってもらって、予算編成にもっと責任を持ってもらっ か議論があると思います。先ほど言ったように、とにか て、それで一緒になってつくっていくような、そういう く、昨年のマニフェストを実行するとなれば、膨大なお 格好にできないかということで、政府に地方行財政検討 金が足りなくなるということで、しかもそれは社会保障 会議というのがあるのですが、そこに議会内閣制の提案っ 関係や子ども手当をはじめ、一旦そういったものもやり ていうのを出してあります。これについての検討が行わ だすと、サービス水準っていうのは下げられないわけで れるということになっているわけであります。ですから、 すから、来年以降もずっとそれが効いてくる。となれば、 この議会内閣制、これ橋下知事の1つの案でありますが、 今は社会保障や地方財政対策を削減の対象から外してい 首長と議会の関係をどういうふうに今後考えていくのか、 ますが、暮れには必ずもう1回そこのとこに立ち戻るだ これがこれから地方自治の大きなテーマとして浮き上がっ ろうという気がします。そして、とにかく「実質上」確 てくるということだと思います。 保してればいいんだなということで、例の臨時財政対策 債、自治体の借金である臨時財政対策債を地方交付税に この点については、代議制が今の日本の制度の大前提 振り替えるなんて話がまた出てこないとも限りませんか になっていて、先ほど言いましたように二元代表制とい ら、この来年度予算について暮れまでいろいろとよく見 うことで、住民が直接すべてをやるのではなくて、代表 て、各地方団体としてきちんと意見を言っていく必要が 者をそれぞれ選んで、その代表者の人たちにいい仕事を あるのではないか。 してもらう。これでいいと思うのですが、一方で非常に 人口が少なくなっている村、東京都の青ヶ島村が今2 0 0人 当面この3つが、暮れに向けて大きく動くところ。も 切るような状況になってきていますけど、これはちょっ ちろん金がすべてじゃありませんが、とにかくこの代表 と極端な例としても、人口1, 0 0 0人未満の村とか、岩手で 選挙終わると暮れまであっという間にきて、物事がわっ も5, 0 0 0人未満の町村があって、あるいは合併して増えた と決まるようなことがありますので、今日おいでの県の ところが今また人口減で1、2万を切るとかいうとこが 皆さん方、あるいは市町村からも大勢来ておられるとい 出てきています。ですから、そういう人口が非常に少な うことでございますが、来年度予算編成にかかわる大変 くなってきたところは、当然のことながら何も全部地方 重要なポイントでありますので、よくよく何かおかしな 自治法で決められているような仕組みで、教育委員会を ことがあれば、強力に意見を言っていく必要があるだろ 別にするとか、議会をこうするとかいろんな決まりじゃ うと思います。 なくて、そこは柔軟に住民の代表がかなり直接民主制に 2 0 1 0 No. 2 調査研究情報誌 1 3 えひめ地域政策研究センター 設立1 0周年記念講演会講演録 地域主権改革と地方政府のあり方 近いような形で議論してもいいのではないか。もっと選 は、だいぶ不満が多い。左側に4つ書いてありますが、 択肢は増やしていってもいいのではないかという気はし 地方議会議員選挙の投票率が結果として非常に低下傾向 ます。そういったところを別にして、ごくごく一般的な にあって、これは来年の4月にまたこの数字が出てきま ところ、人口が何万人、十数万人、あるいは数十万人と す。統一選挙のときに。今は5 0%ちょっと。4年ごとの いったようなところの自治制度っていうのは、代議制、 統一選挙ごとの数字を見ていますと、5 0%の前半まで下 基本は二元代表制をベースにしていくべきだと思います。 がってきている。さすがに5 0%を割ると大変問題になる のだろうと思います。ただ、これは大事なことを今まで 先ほど言った橋下さんの提案っていうのは、二元代表 自治体っていうのは本当にやれるだけの役割もありませ 制を一元的にするところに近いような、そういう案です んでしたから、住民の関心が薄くなるのであって、逆に ので、一・五元制なんていわれている。要するに、首長 言うとこれから分権が進んで、議会が非常に大きなこと の下に議員さんが指揮・命令権のもとに入るような、そ を決められるようになれば、自動的に関心が上がってい ういう格好になりますので、今の現行憲法では二元代表 くわけなので、分権をこれからきちんと進めるというこ 制を前提にしているので、本当に憲法上認められるか。 とにかかっているのだろうと思います。 現行憲法の範囲の中で、ぎりぎりやれることとして一・ 五元制を追及していると言っていますが、そういう案が 2つ目、議会改革の取り組みがごく一部の自治体にと 今後出てくるとも限らない。それはそれで全体として良 どまっている。そして、3つ目に書いてありますような くなればいいわけですが、私はむしろ二元代表制の中で、 一部自治体では長と議会の間で住民不在ともいえる対立 それだけ議会に責任を持ってもらいたいのだったら、首 がずっと進んでいってしまっている。首長と議会のねじ 長の部下に入るということじゃなくて、むしろ議会が、 れは当然あってしかるべきですし、お互いの意見を前向 特に予算については減額修正の権限しかないんですが、 きに修正しながら一定の結論を得るというのが大前提で 場合によっては増額修正のようなこともあり得る。ただ すから、対立していることをただ単におかしいと言っちゃ し、これ野放図に認めると、もう増額増額みたいになっ 駄目なので、そうすれば癒着を推進するような話になっ て財政がパンクしちゃってしまうので、仮に増額修正す てしまうので、そこは気を付けなければいけないのです るときは財源をきちんと明示するといったような厳しい が、明らかに阿久根もそうですし、名古屋も事実上そう 限定を付けた上で、一部そういうことも認めていくよう なっていますが、感情的なもつれで対立を繰り広げてい なこと。国で検討している地方行財政検討会議の今の検 る。対立というか、議会と首長のこういうねじれのとき、 討案の中には、そういうような首長と議会の権限を純粋 大原則は住民の生活を人質に取っちゃいかん。生活に大 分離させるような案から、橋下知事が言っているような 首長の下に一部議員が入るような議会内閣制のような案 まで3案ぐらい出ていますけれども、拙速ではなくよく 検討したらいいのではないかと思います。 そして、先ほどの資料の中で、原口プランの次に、こ れも横長で付けてございますが、 「議会改革について」と いう資料があります。この議会改革について、議会の先 生方にはよく努力をしていただかないと、多くの国民・ 有権者のアンケートを取ると、議会の今の活動について 1 4 2 0 1 0 No. 2 調査研究情報誌 えひめ地域政策研究センター 設立1 0周年記念講演会講演録 地域主権改革と地方政府のあり方 事な予算はきちんと通さにゃいかんというのが大原則だ と思います。そのためにも大前提として議会から住民へ と思うのですが、どうもそうではなくて、阿久根に至っ の報告会を開くとか、陳情などを市民・住民からの議会 てはもう全部が全部専決処分で予算までやっちゃってい への政策提案だととらえて、それをただ単に聞き置くだ る。もしおかしなものが入っていても議会が全然チェッ けではなくて、きちんと処理をしていくといったような クしてないので、これは予算編成が危険だと思うのです 基本的な活動の繰り返しが大事になってくる。定例議会 ね。ですから、ルールにも反していますし、おかしなこ の前に議会として各会派を超えて、みんなで住民の意見 とになっている。 を聞く。どういう審議をしてほしいかを聞いた上で議会 において審議をする。そして、それが終わって条例にま それから、議員の皆さんにとってみれば大変耳の痛い とめる、議決をして決議にまとめるといったものを議会 ことだと思うのですが、報酬・手当・政務調査費のあり 報告会として、きちんと市民に返していく。議員さんの 方について批判がある。確かにおかしな政務調査費の使 場合には、議員さん個人の後援会・後援者とは常日頃接 い方がよくやり玉に挙げられます。一般の方も、おかし していますが、議会としてはなかなかそういう機会を持っ いなと思われることと思います。アンケートを取れば多 ているところが少ないので、そういう議会活動も必要に 分これらの経費は、みんな高いと言うのだろうと思うの なってくるだろうと思います。 ですが、一方でやはり減らすだけが能ではないので、当 選した後2 4時間3 6 5日、常に住民のいろんな陳情をこなし 二元代表制のことをいろいろ申し上げたのですが、こ ていかにゃいかんということになれば、減らされるだけ れからますます制度論というものについても住民を基本 じゃもうこれはやっていけません。東北でいうと福島の に据えて、きちんとした議論が必要になってくると思い 矢祭町は、議員さんの報酬を日当制に、議会開催の日だ ます。そちらの資料の中で、地域経済の活性化、それか けと限定した。あれは財政も大変厳しい中で、みんな納 らグローバル化対応というのが書いてあります。ここは 得の上でやったということですから、それはそれで1つ 地方分権の非常に大きな課題であって、やはり分権って の行き方だと思うのですけれども、ちょっと考えてみる いうのは1つの手段にすぎませんので、それをどう生か と議会が開催のときだけ議員さんが仕事してもあんまり していくのか、地域でどう生かしていくのか、地域経済 いい仕事はできないので、むしろ報酬は報酬としてきち がそのことによってどう活性化するかといったとこに答 んと確保した上で、それに見合うだけの仕事をきちんと えを出していくのが本当に1番大きなこと。ところが、 してもらうということが大事なのだろうと思います。 今の地域経済が非常にグローバル化している中で、一自 治体の中で答えを見つけるということが難しくなってい 右側のほうに少し活動の数字書いていますけれども、 るのも一方で事実。ですから、なかなか分権がきちんと 夜間議会とか土曜休日議会等を開くような工夫をされた 感じ取れない。国民にとっても地域の人にとっても分権 り、議会の開催日程も含めていろいろ工夫をしてもらう。 が何のために必要なのかということを、すとんと胸に落 もちろん大部分は平日にやらざるを得ないので、それば ちるような形で理解してもらえない、そういうことになっ かりで済むわけじゃありませんが。それから、議会基本 ているのではないか。これは、地域地域の経済状況、そ 条例の制定、私もあちこちから依頼されて、いくつか手 れからグローバル化の状況というのは異なっていますの 伝っていますが、大事なことは議員間で討議をする。執 で、あくまでも分権というのは手段ですから、目的では 行部に質問をして、執行部をチェックするというのは大 ありませんので、その上での創意工夫というのをぜひそ 事なのですが、基本は議員間討議をして、それで議会と れぞれで考えていただきたいという気がいたします。 しての態度を決めていくということが大変重要なとこだ 2 0 1 0 No. 2 調査研究情報誌 1 5 えひめ地域政策研究センター 設立1 0周年記念講演会講演録 地域主権改革と地方政府のあり方 そして、地方におけるアクターと書いていますが、1 0 これは、支援の税制も少しずつですが広がってきまし 書いてあります。基本は、1 0番目の住民でしょうけれど た。NPO は地縁ではなく活動目的を同じくする人達の1 も、地方に非常に大きな影響力のあるアクターとすれば、 つの集まりということ。環境をはじめ、さまざまな住民 首長、それから地方議員、そしてマスコミ。マスコミで 運動を仕掛けていく母体として NPO が今活動している。 どういうふうに伝わるのか。外部にどういうふうに愛媛 既存の上の(1)から(7)までの利害調整システムの の情報が発信されるかというのは非常に重要なことです 中では、非常に新参者であり、アウトサイダー的なとこ から、発信されやすいようなさまざまなデータなりを適 があるのですが、こういうところもだんだんに政策形成 切にマスコミの皆さん方に提供していくというのは大事 に寄与してくるし、影響力も出てくる。私は、ここで言っ だと思います。そして自治体職員。岩手でもそうですが、 ている8番目と9番目、地域コミュニティと NPO、こう やはり地域で仕掛けていく上では、どうしても職員の皆 いったところが今後のさまざまな地域活動の中心として、 さん方が発火点になって、いろいろな力をそのあたりか まさに大きな6で書いていますが、公共分野の仕事の中 ら巻き起こしていくということが大事です。それから、 心的な担い手としてもっと活躍して欲しい。そういう気 大学、シンクタンク。地域での共同研究センターのよう づきというか、そういう動きを自治体の行政の皆さん方 なものを大学が設けて、そして地域の技術・人材を磨く にいろいろとやっていただくということが、地域を元気 ということ、そういう例が以前に比べてずっと多く見ら にしていく上で非常に重要ではないかと思います。 れるようになってきました。このシンクタンクは、まさ にこのえひめ地域政策研究センターが、その役割を愛媛 この間、淡路島でシンポジウムがありました。私は今、 で果たしていると思うのですが、こういうところを使っ 東大で教えていますので、相棒の東大農学部の生源寺先 て様々な産業的な動きを起こしていくというのも大事で 生と一緒に行きまして、2日ほど淡路島の中を調査しな す。 がらシンポジウムに臨んだのですが、ため池が淡路島の 中に2 2, 0 0 0ある。実は、香川県にはため池が多いなと思っ あと、個別の商店をはじめ事業者、各種団体。この7 ていたのですが、淡路島が日本一っていうのはちょっと 番目あたりが、今まで既存のシステムの中で活動してこ 知りませんでした。兵庫県にため池が4 0, 0 0 0ぐらいあっ られた団体、あるいは活動主体だと思います。その次の て、そのうち2 2, 0 0 0が淡路島にある。あそこは、飲み水 地域コミュニティ、それから NPO って書いてありますが、 も農業用水も含めて全部そこに頼っていたということで、 地域コミュニティのところのかっこして(結) 、これ岩手 それだけあったということなのです。明石海峡大橋がで でよく「結」 (ゆい)って言うのですが、地域共同体です きて、飲料水のほうは全部神戸市内から水道管で送られ ね。沖縄のほうに行くと「ゆいまーる」なんていうこと るようになったのですが、玉ネギをはじめ大農業生産地 で、昔から古くからあるもの。先日、滋賀に講演に行き ですから、農業用水はため池に頼っている。要は、その ましたら、あそこは「惣」っていって、 「物」っていう字 ため池、ため池から出ている水路、それからポンプをは の下に「心」って書いて「惣」 、3, 0 0 0ぐらいあって、今 じめとするさまざまな施設、そういったものが実によく は随分少なくなってきたといいながら、まだまだ地域共 手入れされているということを地域に入っていろいろ見 同体の役割も大きいと言っていました。町内会、老人会 て強く印象を受けました。 とかありますが、こういう地域コミュニティ、これは非 常に地域性が強くて、まさに地縁でお互いつながってい るところですが、新しいものでは NPO。 聞きましたら、水利組合が非常によく発達していて、 そこで用排水路等をきちんと手入れしているからという ことで、これも古くからの地域共同体の1つ。何も水路 1 6 2 0 1 0 No. 2 調査研究情報誌 えひめ地域政策研究センター 設立1 0周年記念講演会講演録 地域主権改革と地方政府のあり方 の手入れのためだけに活動しているのではなくて、そこ 得なくなった。これまでは、自治体のほうでお金の使い が1つの基盤になって、さまざまなほかの活動もそこを 道を決めるというのが普通ですから、そういうトラブル 単位に行われているので非常に活発だと。昔は、都市部 があるとだいたい市役所が怒られるのですが、そのとき に学べということだったのですが、最近は逆に神戸市内 は住民の皆さん方に使い方を委ねていたので、逆に住民 からも視察がいっぱい来ていて、農村に学べということ。 の皆さん方が市長さんのほうに謝りに来て、申し訳ない 地域共同体の機能をよくみんな見に来ますよということ と。ただ、必ず解決するからということで戻っていって、 を言っていました。古くからのそういう共同体があると 半年ぐらい侃々諤々の議論をした上で、防護壁をもっと ころは、大いに使えばいいと思います。しかし、今は東 高くし、ルールを決めて、見回りの人まできちんと当番 京では、下町も含めてそういう共同体のようなものの機 を決めて、それで再開をした。再開したときにまたお礼 能が低下して、私はマンションに住んでいますが、防犯 に来られたそうですが、その後は非常に好評で使われて 上表札を出さないような仕組みになっています。ですか いるという話を聞きました。 かんかんがくがく ら、まったく近所の人は分からないのですけれども、そ ういうところが随分増えてきています。 それをきっかけに、そのコミュニティが、防犯のこと をどうしようかとか、ごみ出しについてもこの地域はこ そういう現状で、じゃああんたの言う地域共同体とか ういうルールにしようかとか、いろんな議論が協議会を コミュニティっていうのは、一体どうなるのだというこ 中心に輪のように広がってきつつあるというのですね。 とですが、この間大阪の池田市に講演に行きました。池 ですから、今は7 0億の1%分の7, 0 0 0万を委ねるっていう 田市は人口1 0万人ぐらいの、伊丹空港のすぐ脇の大阪府 ことですが、市長さんは、来年度は1. 5%、1億をちょっ 内の市ですが、市民税7 0億のうちの1%、ですから7, 0 0 0 と超えるまでに増やしていって、将来的にはできれば5 万を小学校区単位、8, 0 0 0から1 0, 0 0 0人ぐらいの1つの単 億ぐらいまでの使い道を地域に委ねられるようにしたい 位、これが1 1小学校区あって、そこに全部分けて、1カ という話をしていました。 所7 0 0万ぐらいなのですが、毎年その使い方は、地域コミュ ニティ推進協議会というのがあって、そこの人たちの議 名古屋の河村さんはあちこちで暴走しているのですが、 論に委ねている。そういうことで、何とか地域共同体も 地域委員会をつくると言っています。その委員の一部は、 どきのようなものの活動を活発にしていくというか、興 公募した委員候補者の中から選挙で選ぶとかいうんです していこうと、そんなことを大阪府市長会の会長の倉田 よね。ですから、議会の機能とのかねあいをどうするか さんという市長さんですが、それをやっている。 ということもあって、議会と対立しているのですけれど も、池田市のは以前からあった町内会を母体にしていて、 去年もその地域コミュニティ推進協議会の推進員の研 まだまだ試行錯誤中ということであります。これも発案 修に呼ばれ、今年もこの間行ってきました。試行錯誤が は職員の皆さん方からということで、浦安をはじめほか いろいろあるのですが、やはり税金の使い方を任される の自治体でもそういう工夫をしている所があって、それ と、日本人っていうのはきまじめでいろいろ考えます。 を池田市でもやってみましょうよということで、市長さ ある協議会では、空いている土地があって、バスケット んも「よし、じゃあやってみようか」ということで、ま ボールのコートを整備するということを決めて、そのお ず議会と相談して、議会のほうからも住民がそうやって 金で整備して使い始めたら住宅密集地域なもんですから 決めたことについては、議会で何か言うことはしないと すごく人気が高い。夜中まで子どもたちが使うので、周 いうことでやり始めたようです。相当準備も必要ですが、 りの住宅の人たちが音を上げて、それで結局閉じざるを まさに冒頭言った共助の仕組みを何とかもっともっと生 2 0 1 0 No. 2 調査研究情報誌 1 7 えひめ地域政策研究センター 設立1 0周年記念講演会講演録 地域主権改革と地方政府のあり方 かしていこうという取り組みだろうと思います。そのた 私、大臣やっていて本当に強く感じましたのは、とに めに、市民税をある種呼び水として使っているようなも かく東京選出の国会議員って多いんですよ、東京2 3区な のです。 のですが、東京選出の国会議員は、選挙区は2 5区に分か れていて、とにかくそれだけで2 5人、小選挙区でいる。 ぜひそういう取り組み、成功しているものも失敗して それに東京比例選出の国会議員っていうのは1 7人いて、 いるものもあります。池田市でも、うまくいかなかった 東京だけで4 2人。さらに神奈川1 8、埼玉1 5、千葉1 3ですか。 ところが逆に経験を積んで成功に持っていった。1 1ある ですから、ブロック別にしても、あのあたり歩くと、あ 地域自治区でも先を行っているとことそうではないとこ のあたりって永田町ですが、歩くと首都圏の国会議員ばっ といろいろ差があるようですが、だんだんみんなのレベ かりいます。愛媛も確か小選挙区4だと思います、岩手 ルが上がってきたと市長さんは言っています。ぜひ、職 も4なのですが、本当に数の力にはかなわないなと思っ 員の皆さん方は、新しいアイデアをどんどん出して地域 たのですが、それはここに書いてあるように、とにかく 住民を巻き込んで、どういう形でいい地域をつくってい 三大都市圏のほうが人口多いわけですから、これ1票の くか、その発火点になっていただきたい。アンテナ感度 格差じゃないですけれども、今後これはどうしようもな を高くした上でいろんなことを地域で実践していく、そ い。ですから、どうしたって国のほうで出てくる政策っ んなことをぜひ取り組んでいただきたい。財政は確かに ていうのは、やっぱり東京基準でこれから出てくる。だ 厳しいかもしれませんけれども、縮小均衡だけは決して からこそ、地方分権でいろいろな自分たちの創意工夫を やるべきじゃありません。地域にどんどん出ていって、 出していかないかんと思います。ただそれにしても、制 新しいことに取り組むということが大事ではないかと思 度つくるのは国会議員でありますし、そういった意味で、 います。 四国は四国でもっとお互いに広域に連携して、国会議員 同士が力合わせていくというふうに仕向けるのが大事だ 最後に、詳しくは説明しませんが、上のほうに人口の と思いますが、それにしても全体の数は足りない。 推移、下に GDP の予測を描いている表があります。2 0 5 0 年の日本は GDP がずっと下がってしまいます。上のほう 今日は市長さん方が何人かお見えになっているとお聞 の人口の推移、これ2 0 0 5年中心の表になっています。1 9 9 5 きしています。県議の先生方もいらっしゃると思います。 年っていうのは、私が知事に当選したとき。その頃は、 それから、市町村議会の先生方もおられると思いますし、 まだ地方圏のほうが人口多かったのですが、もう今2 0 1 0 何よりも県職員の皆さん、それから市町村職員の皆さん 年ですから、とうに三大都市圏のほうが人口多くなって 方、非常に大勢の人たちおられると思いますが、やはり います。それぞれに人口が減っていくのですが、その差 国政、国会議員に頼っていると、どうしても東京基準に が拡大する。愛媛も、それから私が知事をしておりまし なってしまいます。そこは、地域のわれわれがきちんと た岩手も財政厳しいし、人口減に見舞われているという 力を合わせて、積極的にいろんなことを言っていくとい 意味では共通点があると思うんですね。愛媛っていうの うことが大変大事です。そのことによって地域を、経済 は、観光面での素晴らしい財産もいっぱいありますし、 を良くしていく。雇用の場をうんと広げて、地域を強固 農業も盛んですし、ずっと岩手よりも素晴らしい財産い なものにしていくということが大事だと思います。私も ろいろお持ちだと思いますが、それにしてもこういう状 2年前に大臣していたときに、今治造船やタオルの生産 況の中で、これから県土を良くしていかなければならな 者の皆さん方と意見交換をした記憶がございます。地域 い。 の素晴らしい資源をお持ちのこの愛媛が、こういった政 策研究センター、こういったシンクタンク、知的拠点を 1 8 2 0 1 0 No. 2 調査研究情報誌 えひめ地域政策研究センター 設立1 0周年記念講演会講演録 地域主権改革と地方政府のあり方 中心にして、いろいろなアイデアをこれから出されて、 そして素晴らしい将来を築いていくことを大いに期待を いたしたいと思います。 こういう場を与えていただきました麻生理事長さんは じめセンターの皆さん方、そして大変尊敬申し上げてお ります加戸知事さんはじめ皆さん方に重ねて感謝を申し 上げたいと思います。今後のこの愛媛地域の発展を心か ら祈念をいたしまして、私の話を以上にさせていただき たいと思います。どうもご静聴いただきまして、ありが とうございました。 〔平成2 2年9月9日 於:松山全日空ホテル〕 Profile 増田 寛也(ますだ ひろや) 1 9 5 1年東京都生まれ。東京大学法学部を卒業後、建設省(現:国土 交通省)入省。1 9 9 4年に退官後、1 9 9 5年から岩手県知事を3期務め、改 革派知事として手腕を発揮。その後、安倍内閣・福田内閣で総務大臣 を務め、地域格差の解消に積極的に取り組む。 現在は、野村総合研究所顧問、東京大学公共政策大学院客員教授と して、言論活動を通じて、地方を元気にするための提言を行っている。 2 0 1 0 No. 2 調査研究情報誌 1 9
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