思春期の子どもの生きることへの意味づけ : 絵本の共有体験の構造化

思春期の子どもの生きることへの意味づけ
人間科学部研究年報 平成 25 年
思春期の子どもの生きることへの意味づけ
−絵本の共有体験の構造化についての試み 第一報告−
The Meaning of Life for Adolescents in Relation to the Experience of Reading
Picture Books − A First/Preliminary Report −
谷川 賀苗
Kanae Tanigawa
Key words: the meaning of life, Adolescents, Experience of reading picture books
Summary:
The long-term plan of this study is to relate childhood reading of picture books with the
cognitive development and current perception of the meaning in life in adolescents. However, this paper, as the first report of the long-term project, reports on the extent of
picture book reading and the strength of associated memories. Usually children read picture
books with the help of an adult. Through this reading together experience, gradually children
start reading picture books themselves after having learned the alphabet. In this way, children
have many opportunities not only to encounter picture books but also to experience psychologically warm feeling of togetherness and security as they interact with caregivers. A number of junior high school students (all boys)were asked through the medium of a
questionnaire to recall their picture book experience when they were small children. Many
students listed picture book titles and recalled what they remembered and enjoyed about
those books. Students also remembered the pleasant feelings that they felt when books were
read for them by parents, grandparents, or kindergarten teachers.
This first report makes it clear that picture book reading experiences are remembered
not only in terms of book content but also in psychological feelings of wellbeing engendered by
the activity. Future study will focus on this latter psychological aspect in more detail.
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人間科学部研究年報 平成 25 年
I研究目的と背景
1. 思春期の子どもの生きることへの意味づけ
人間は一生涯を通して、
「生きる」ことを意味づけるという行為を日々重ねている。この世に生
を受けて僅かな年月である幼児も、自分と関わる環境、自分を取り巻く社会との関係を意味づけ
ようと日々の生活の中で模索している。近年の乳幼児期についての一連の研究から、子どもは生
まれた頃からすでに高度な認知能力を兼ね備えているということが報告されている(野村、2010;
関、2011)。今後この時期の子どもの能力について理解が深まることにより、人間が生きることを
意味づけることの始まりについて謎に光があたると期待される。
本研究においては、人間が一生涯を通じて行なう「生きる」ことへの意味づけについて、思春
期時代を生きる子どもを対象に、
「絵本」をキーワードとして考えたい。幼い頃、絵本を読んでも
らった体験は、成長する時の流れの中で、どのように子どもの心の成長に意味づけられているの
だろうか。
トルストイ(1971)は、思春期を生きる子どもについて、この時期の子どもが抱える問題を観
察力、洞察力、想像力を駆使して描いている。この時期の子どもにとって「生きる」ことは「生
きぬく」とであり、自己の前の発達課題というハードルを、内面を育みつつ越えようと模索する。
このことは、時として容易なものではなく、寄り添ってくれる周りの大人の理解と協力を得なが
ら、次に続く青年期への歩みを進みながら形成されつつある自己と対峙してゆく。このような思
春期の子どもの発達課題について、河合(2006)は児童文学を紐解きながら、作品の中に、問い
と解決の処方箋があると述べている。
幼い子どもは、大人による絵本の読み聞かせを通して絵本と出会う。この子どもは、読み聞か
せを通して、絵本に描かれる豊かな物語と出会い、絵本を読んでくれる大人との関係性を深めて
ゆくという時間を重ねる。社会的動物として、人間はことばと出会い、さまざまな体験を積み重
ねて、自己に気づき、自分とは誰なのか、自己の生きる意味とは何かを自問しながら、生涯をか
けて自分の物語を紡いでゆく。幼い子どもの絵本の読み聞かせという「共有体験」を、絵本に描
かれた物語の主人公と自分を一体化させ、やがて自分自身の物語を創る歩みを「生きる」ことに
ついての意味づけという視点から明らかにすることは、人間が物語との出会いを通して自分自身
の発達をより積極的に受け止める可能性という文脈の中で重要な取り組みと位置づけることがで
きる。
2.子どもと絵本の出会い~絵本の読み聞かせという「共有体験」の意味づけの構造化
幼児期の子どもは、取り巻く環境から様々な刺激を受け、この環境と主体的に交わることを通
して、心と体を育んでゆく。幼児を取り巻く発達環境の一つとして絵本という文化財を考えた場
合、子どもは、絵本を一人で眺め絵を愉しむこともあるが、一般的には、この時期の子どもは、
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思春期の子どもの生きることへの意味づけ
日々の生活時間の中で身近にいる大人に絵本を読んでもらうことを通して、絵本の楽しみ、様々
な絵本との出会いを広げてゆく。
幼児期の絵本の読み聞かせの意義については、これまでさまざまな研究が行なわれている。
Bus, et.al.(1995)は、母親と子どもが一緒に絵本を読むことを通して、子どもの言語発達やリテ
ラシーの発達が促されると指摘する。幼稚園児を対象とした研究では、定期的な読み聞かせを行
なった幼稚園児の群は、定期的に読み聞かせを行なわなかった群と比較して、お話作りの作業に
おいて、優れた成績をしめしたと報告されている(山本、1990)。谷川(2011)は、家庭における
読み聞かせの調査から、幼児期に絵本を読んでもらった時間は、子どもにとって基本的な対人関
係の基礎を作ることの一つの側面であり、この時期の子どもの心の発達に、必須ではないが、大
切な時間であると報告している。また、斉藤・内田(2013)は、幼児期の絵本の読み聞かせと母
親の養育態度が与える影響を取り上げ、子どもに対して共感的な母親は、絵本の読み聞かせにお
いて、子ども自身に考える余裕を与える関わり方をすることが多く、子どもに対して強制的な養
育態度の母親は、絵本の読み聞かせにおいて、トップダウンの説明が多いという傾向があるとい
う結果を見出している。幼い頃の絵本との出会いは、子どもが絵本を通して大人との心のふれあ
い、言葉の世界への楽しみを広げるものととられることが出来る。
近藤(2010)は、
「共有体験」を他者との「体験の共有」とその際の互いの「感情の共有」が構
成要素であるとし、この「共有体験」を繰り返し経験することで、子どもは自尊感情を育むこと
ができると述べている。絵本の読み聞かせという「共有体験」と思春期の自尊感情の関連は、
九鬼(2013)が、自尊感情を育てる実践に役立つとして、絵本をリストしたものがある。例えば
『てん』(2004)という絵本は、お絵描きの嫌いな女の子ワシテが、画用紙に「てん」と一つ描く
ということについて、先生がこれを貴重な作品と位置づけ壁に飾るという物語である。先生が、
一人一人の子どもの心や才能をみごとにカリスマ(賜りもの)と捉え、子どもの成長を見守ると
いう作品である。絵本の読み聞かせと子どもの自尊感情の育みを取り上げた実践研究について検
討した研究はこれまであまりとりあげられていない。絵本の読み聞かせを、感情を共有する体験
と捉え研究を広げることは、幼児期の読み聞かせの意義を発達的視点から深める可能性を示唆す
ると思われる。
3.目的
本研究は、幼児期の絵本の読み聞かせの必要性、重要性についてのこれまでの諸研究を踏まえ
て、生涯発達的な視野から絵本の読み聞かせの意義について検討する。
思春期の子どもは、幼い頃、お母さんや身近に寄り添ってもらった大人に読んでもらった絵本
について、どのような思い出を心に納め、言葉を用いて物語としてそのことついて語ることがで
きるのだろうか。幼児期の感動は、言葉を操るという言語発達レベルの限界から、表現として充
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分に表わすことは容易なことではない。言葉を操り、自分の内面をある程度表現できる年齢に達し
ていると考えられる思春期の子どもに、幼児期の絵本との出会いについて問う作業は、幼児期の自
分と出会うことであり、自分自身について新たな発見に繋がると考えられる。また、絵本を読んで
もらった体験を思い出すことで、幼い頃に育まれた他者との関係性への確認・確信にも繋がると思
われる。思春期から青年期にかけて、自己との出会いが一層意識的に行なわれ、「Who am I」と
いう自分探しの旅路をスタートさせる時期に、幼い頃の絵本との出会いの時間についての振り返
りは、思春期の子どもの心の理解への可能性として捉えることが出来るのではないだろうか。
II. 絵本の共有体験の構造化の試み
1. 導入
今回の研究は、中学生の幼い頃の絵本の共有体験についての構造化を目的とした研究の予備調
査的位置づけとして実施された。
中学生が、幼児期の絵本の読み聞かせをどの程度また、どのような内容を振り返り、言語化で
きるかについての先行研究があまりないため、これらについての実態を知るためのベースライン
調査と位置づけで行なわれた。
幼児期の子どもにとって、絵本を読んでもらったことについての心の揺れは、言葉を操るとい
う言語発達レベルの限界から、表現として充分に表すことは難しい。幼児期に読んでもらった絵
本やその時間の思い出について、思春期の子どもがどのように言語化するのかを明らかにするこ
とを通して、発達的な視点から、幼児期の子どもにとっての絵本との出会いについて考える。
2. 方法
1)対象
大阪市内にある私立の男子中学校に協力を募り、研究の参加を得られた中学生を対象とした。
具体的な学年と人数は次のとおりである。
中学 1 年~ 3 年生の各学年 1 クラス(学年主任の先生が担任をされているクラス)の生徒を
対象に実施
①調査時期 2011 年 10 月 23 日~中学 2 年生と中学 3 年生
2011 年 10 月 24 日~中学 1 年生
②対象者と人数 中学 1 年生 41 名
中学 2 年生 46 名
中学 3 年生 44 名
合計 131 名
③調査実施について クラスの担任の先生により授業中に実施
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思春期の子どもの生きることへの意味づけ
3. 結果
①幼児期に読んだ絵本で特に印象に残っている絵本についてについて
具体的な絵本のタイトルを挙げた人数については表1の通りである
表 1 幼児期に読んだ絵本の冊数
学 年
0冊
1冊
2冊以上
中学1年生
2名
10 名
29 名
中学 2 年生
13 名
26 名
7名
中学 3 年生
1名
30 名
13 名
合 計
16 名
66 名
49 名
全体の 7 割強の中学生が、幼い頃に読んだ(あるいは自分で読んだ)絵本について、1 冊か
ら複数の絵本のタイトルを記述していた。複数冊の記述には、6 冊以上の絵本のタイトルを思い
出していた回答も見られた。
②幼児期に読んだ絵本のタイトル注1(上位 30 冊)
幼児期に読んでもらった絵本で特に印象に残っている絵本名は、一人の生徒が 1 冊から複数
冊上げる場合もあり、さまざまなタイトルが記述されていた。表2は、中学生が挙げた絵本のタ
イトルの上位 30 冊である。今回の自由記述による回答から、中学生の子どもは、幼児期にたくさ
んの絵本に出会っていることが明らかになった。今回の思い出す絵本のタイトルについての自由
記述から、子どもの絵本との出会いを量的に把握することができたことを踏まえて、今後の調査
では、幼児期に読んでもらった絵本のタイトルを限定し、子どもがそれらの絵本からどのような
メッセージを読みとっていたかを問い、子どもの発達と絵本の内容の関連について理解を深め
たい。
注 1 本のタイトルはアンケートに記述されたままのものを載せた。
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表2 中学生が幼児期に読んだ絵本で印象に残っている絵本
(上位 30 冊)
絵本のタイトル(上位 30 冊)
はらぺこあおむし
ぐりとぐら
三匹のこぶた
バムとケロのおかいもの
桃太郎
かいじゅうたちのいるところ
アンパンマン
からすのパン屋さん
いけいけヒロキ君
エルマーの冒険
ノンタン
さんびきのやぎのがらがらどん
浦島太郎
おおきなかぶ
きかんしゃトーマス
おしいれのぼうけん
イソップ物語
かさこじぞう
てぶくろをかいに
そらまめくん
いやいやえん
じごくのそうべい
はじめてのおつかい
おだんごパン
しろくまちゃんのホットケーキ
かちかち山
かばんうりのガラコ
赤ずきんちゃん
金のおのと銀のおの
ヘンゼルとグレーテル
③読んでもらった絵本について、心に残っていること
中学生が、幼い頃に読んでもらった絵本についてどのようなことを思い出すのかを自由記述で
詳しく記述されているものをケースとして取り上げ、その内容を検討した。絵本について思い出
された内容は、具体的な絵本に言及しているもの、また、読み聞かせ全体について記述されてい
た。表3、4、5は、学年別に幼児期の絵本の思い出の自由記述のケースである。一人の生徒が、
複数の絵本を挙げ、特に全体にわたり絵本の思い出を記述したケースや、1 冊の絵本について思
い出すことを記述したものもあった。複数冊を挙げ全体として思い出を記述したものは、その内
容を今回は取り上げた。また、1 冊についてのみ思い出を記述したものについては、同じタイト
ルで、個々の生徒が記述したものをまとめた(文章の最初に*を付けたものは、それぞれが別の
生徒による記述である。)内容については、今後の研究において、幼い頃の絵本の思い出について
の意味づけという視点から、ナラティヴアプローチを用いた質的分析によってその特徴を明らか
にする予定である。
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思春期の子どもの生きることへの意味づけ
今回の予備的研究においては、中学 1 年生から 3 年生の記述内容を全体として眺めた場合、特
に学年による特徴が見られなかった。絵本についての思い出から、子どもが絵本を読み聞かせて
もらいながら、絵本の主人公と自分を一体化しているような絵本の世界の広がりが読みとれた。
中学 1 年生から 3 年生を通して、『はらぺこあおむし』『ぐりとぐら』についての思い出が記述さ
れていた。『はらぺこあおむし』は、あおむしの成長をエリック・カールという絵本作家が多色を
用いて鮮やかに描いたものである。この絵本は、子どもに命の育みを見事に伝えている。『ぐりと
ぐら』は、作者たちの幼稚園での先生として子どもに接した経験をもとに生み出され、知恵を絞
り何かを生みだすことの喜び、そしておいしいものを仲間と分かち合うという共有体験を子ねず
みを主人公に描いたものである。中学生は、10 年の年月を経ても、幼い頃のこれらの絵本につい
て印象に残る絵本として思い出していた。今回の予備的な調査において、絵本の思い出について
の記述内容から、この研究が目的とする、絵本の読み聞かせが「共有体験」として中学生が思い
出していることが明らかになった。今後の研究においては、この「共有体験」について、どのよ
うな感情の体験であったかについて、理解を深められる方向で検討を重ねてゆきたい。そして、
絵本の読み聞かせをとおして、どのようなことが幼児期の心を耕し、さらには自尊感情の育みに
どのように関連しているかという構造化への可能性を探りたい。
表3 読んでもらった絵本について心に残っていること(中学1年生)
絵本のタイトル
心に残っていること
こぶとりじいさん、桃太郎、アンパンマン
トーマス、ぐりとぐら
同じ絵本を何十回も読んでもらったことがあった。内容を
覚えていても読んでもらった
ぐりとぐら
*二人で色々とやり遂げて行くところがかっこよかった。
*ぐりとぐらががんばっているところ
*ぐりとぐらのホットケーキが美味しそうだった。
三匹のこぶた
*三匹の子豚の中で一番努力して家を建てた豚が家を壊さ
れなかったこと。
*子豚たちが作る家などがとても面白かった。
*努力すれば、身も守られるということを知った。また、
適当でもならない、普通でも行けない、突起していないと
通用しないということが諭された。
エルマーの冒険
いろいろな動物が出てくるのが面白かった
トーマス
トーマスは、まず第一に機関車がしゃべるのが面白かった
です
とけいのほん
長針と短針が針を運んでいるのがおもしろかった
アンパンマン
アンパンマンがとても勇敢で、空を飛んだところがおもし
ろかった
ぐりとぐら、トーマス、アンパンマン、ミッ
フィー、くまの子ウーフ、ムーミン
どの絵本も沢山のキャラクターが登場し、ユーモアが芽生
えた
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人間科学部研究年報 平成 25 年
(続) 表3 読んでもらった絵本について心に残っていること(中学1年生)
おむすびころりん
おむすびがころころ転がっていくところがおもしろかった
桃太郎、浦島太郎、三匹のこぶた、カチカチ
山、かぐや姫
どうぶつでもいろいろいるのだなぁと思った
かいじゅうたちのいるところ
かいじゅうと子どもが一緒に遊んでいるところがおもしろ
かった
さんびきのやぎのがらがらどん
弱い者は、普通のものに頼み、普通のものは強い者に頼む
という、絵本にして社会の厳しさを滑らかに表現出来てい
るところ
おだんごパン
おだんごパンは、言葉を巧みに、誰にもたべられなかった
が、最後にキツネに食べられるのがおもしろかった。
バムとケロ、かばんうりのガラコ
バムとケロとかばんうりのガラコは、同じ作者が書いてい
て、同じ場面でも次のページと今のページではかわってい
るものなどがあって、それを見つけることがとても楽し
かったです。細かいところまで書いていたのも好きでした。
かいけつゾロリ
ゾロリがいろいろな所に旅するところがみていて楽しかっ
たです
エルマーのぼうけん、エルマーとりゅう
エルマーと 16 匹のりゅう
エルマーが動物島に行き、子どものりゅうを助けるはなし
で、その続編がある長編冒険絵本でした。エルマーとりゅ
うが生活していくところがハラハラして面白かったです。
いやいやえん、黄色のクレヨン
子どもをテーマにしてかわいらしい文章が書かれていた。
表4 読んでもらった絵本について心に残っていること(中学2年生)
ジャックと豆の木
ジャックが豆の木を登って、降りる時には巨人から追いか
けられて逃げる時にはハラハラした。
はらぺこあおむし
空腹のあおむしが食べ物をどんどん食べて、太ってゆく
ようすがおもしろかった。絵本の食べ物の絵に穴が開いて
いた
11 匹のねこ
* 11 匹の猫がだれもいない家に住むことにしたが、家の持
ち主の豚が帰って来た。猫たちは、自分たちで家をつくる
ことにしたが、風で飛ばされてしまい、それを見ていた豚
は最後に自分の家に猫たちを入れてあげた場面
* 11 匹のねこが色々な出来事に巻き込まれながら楽しん
でゆく物語
いけいけヒロキ君
*ヒロキが人間との関係に苦悩するところがおもしろい
*ヒロキとアケミの恋愛を客観的に分析するところが見ど
ころだと思う
かいじゅうたちのいるところ
*絵が暗くて、かいじゅうたちが不気味でこわかった
*まず不思議な世界観に心がひきこまれていきました。小
さい頃読んだため、怖がるきもちもあったけれど、最後の
結末がおもしろかったことが心に残っています
がんこちゃん、はらぺこあおむし、ボブとぶー
ぶーズ
キャラクターがおもしろかった
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思春期の子どもの生きることへの意味づけ
(続) 表4 読んでもらった絵本について心に残っていること(中学2年生)
エルマーの冒険
表紙が印象的だった
地下鉄ができるまで
幼稚園の時、よく借りていた。僕は鉄道がすきだったので、
鉄道ができるまでの道のりを楽しんでいた
日本まんが昔話
いろいろな昔話がたくさんあつまっていたので、毎晩たの
しみだった。特に浦島太郎や三枚のおぶたが印象に残って
いる
ぐりとぐら
ぐりとぐらがお料理する話
浦島太郎
最後にもらった箱を開けたらどうして年をとったのだろう
とずっと疑問に思っていました。
おおきなかぶ
おおきなかぶが抜けるところ
かいけつゾロリ
最後の最後まで何が起こるかわかないところがおもしろ
かった。
表5 読んでもらった絵本について心に残っていること(中学3年生)
チロヌップのきつね
戦争に巻き込まれた狐の親子が可哀そうだった。
バムとケロのシリーズ
*話にユーモアがあり、面白く絵も斬新で良かった。
*地獄に落とされた人が苦しい試練を受けさせられるが、
どれも簡単にクリアすることが面白かった。
グリム童話、イソップ物語
*実際にない世界を感じて面白かった。
*ユーモアが溢れて面白かった。
*つると猫がビンの中に入った飲み物を飲もうとして猫が
失敗するところを見て何故考えてこうどうしないのだろう
と思った。
おおかみと三匹のこぶた
最後にみんなが仲良くなるのが良かった
はらぺこあおむし
*色々な工夫があって面白かった。だんだん大きく成って
ゆくのがリアルだった。
*あおむしがどんどん成長してゆくところが面白かったで
す。
*本の絵がカラフルで面白かった。
*主人公のあおむしが色々なものを食べて大きくなってい
くところが面白かった。
*いもむしが道を歩いて行くところ
*成長というものを知りました。
*どんどん成長しておおきくなるところがすごいと思い、
面白かった。
*ただの絵本ではなく、あおむしがごはんを食べて大きく
なっていくところや、穴があいていくところが面白かった。
桃太郎
*どんどん仲間を増やし、遂に鬼を倒したところが面白
かった。動物が話をするのが面白かった。
*桃太郎が何故、桃から生まれたのか。
金のおのと銀のおの
*正直な人には良いことが起こり、正直でない人には悪い
ことが起こること。
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(続) 表5 読んでもらった絵本について心に残っていること(中学3年生)
ねずみのチョッキ
ゾウにチョッキを着せられ、伸びてしまいねずみは泣いて
しまったのですが、最後にゾウの鼻にチョッキをかけてブ
ランコとして遊んでいました。心が温かくなった気がしま
した。
ブレーメンの音楽隊
動物たちが、人間の棲みかを力を合わせて奪い取る所が印
象に残っている
うさぎのみみ
絵らがとっても美しかったことと、親うさぎから子うさぎ
が一匹取り残されるところがなんか考えされられた。
浦島太郎
海の中に行く展開と海から変えると 100 年を経ていたこと
ノンタン
自分をその絵本の主人公の立場に置き換えて読んでもらっ
たりしていたので面白かった。
チムひとりぼっち
主人公が船長や色々な人に出会い、その人たちと別れを告
げた後、母親と再開したシーンがとても良かった。
ぐりとぐら
二人で協力して何かを達成するのがすごいと思った。
小さくてもできることは無限に有るんだと嬉しく思った。
ケーキみたいなものを作ったこと。
シリーズをたくさん親が買ってくれていて、よく読んでい
たことが印象に残っています。
当時は何度も読んでもらいたくて面白かった。
ぐりとぐらが森の仲間といっしょにホットケーキを作って
いるのがなんか良かった。
話の展開が面白かった。
夢の広がるお話だった。
アンパンマン
なんでもやっつけてくれる安心的なもの。
かさこじぞう
じいさんの優しさに感動しました。
ピーターパン
ピーターパンとフック船長との戦闘シーンが印象に残って
います。
手ぶくろを買いに
子ぎつねの悲しさが心に染みた。
④主に絵本を読んでもらった人
幼児期に絵本を主として誰に読んでもらったかということを自由記述で回答を求めた(表6)。
全体の約 8 割が、幼児期に親や祖父母また幼稚園・保育園の先生といった大人に絵本を読み聞か
せてもらったと回答している。今回の調査ではその時の思い出については特に回答を求めること
はなかったが、今後の研究課題において、共有体験の視点から、絵本を読み聞かせの時間がどの
ように子どもの心に映るのかを問い、思春期の自尊感情との関連を検討する必要性があると考え
られる。絵本に描かれた感情を他者とどのように共有するかを問うことにより、共有体験の意義
づけが、生涯発達的な視点から検討できると思われる。
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思春期の子どもの生きることへの意味づけ
表6 幼児期に絵本を主に読んでもらったか(人数)
学年
誰にも絵本を読んでもらわなかっ 親、祖父母、幼稚園・保育園の先
た(無回答を含む)
生など(単・複を含む)
中学1年生
2
39
中学 2 年生
11
35
中学 3 年生
4
40
合計
17
109
4. 考察と今後の課題
今回の研究報告は、中学生が幼児期に出会った絵本についてのアンケートで、特に、幼児期の
絵本についての思い出を取り上げ、共有体験の構造化の第一報告とする位置づけで分析を行なっ
た。 幼い頃の絵本の読み聞かせについての記述内容を読みとるという作業から、幼児期の子ど
もが絵本と出会うことを発達的にどのように意味づけられるかについて注目した。記述の内容は、
心に残る絵本、それ(それら)について思い出すこと、誰に絵本を読んでもらったか、その時の
心地よい感情について言及されていた。質的な内容を記述から読みとるという研究法により、中
学生の幼児期の絵本の思い出の内容の語りは深く言及するには限界は認められるものの、今回の
調査の記述内容から、中学生にとって、幼児期の子どもの絵本との出会いは、10 年の月日の流れ
の中で思い出の引き出しに絵本の内容、読み聞かせてもらった大人との関係性という内容で納め
られていることがわかった。絵本の内容では、絵本の主人公が努力した良い結果に結びついた、
命が育まれることへの驚きと感動、友だちや仲間と力を合わせて取り組むことの大切さなどに言
及していた。また、絵本を読み聞かせてもらったことについては、何度も繰り返し読んでもらえ
たことの心地よさ、誰かに絵本を読んでもらえる喜び、安心感について記述されていた。これら
の記述内容を踏まえて、今後の研究では、記述内容について質的分析を行ない、読み聞かせの意
味づけの構造化を明らかにしたい。
今回の調査実施では、クラスにより、調査実施前に担任の先生から生徒に対し、調査テーマが
説明され、幼い頃に読んだ絵本について考えておくようにと課題を出されていた。集計において、
クラス間での記述の内容に影響が認められた。今後の研究においては、調査実施前の教示の統一
を検討をすることが望ましいと考える。
今回の報告書においては、中学生が幼児期を絵本という文化財との出会いを思い出す作業、す
なわち幼児期の子どもにとっての絵本という視点から自己の意味づけ、自己の語りを取り上げた。
幼児期の絵本との出会いを通して、絵本について思い出すことは、幼児期の自分の立ち座につい
て意味づける作業であり、少なからず絵本との出会いは、自分に寄り添う他者との関係性の確認
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人間科学部研究年報 平成 25 年
をする作業でもあった。 本研究は、幼児期の子どもにとって絵本との出会いについて取り上げ
たが、中学生が幼児期の自己を絵本の思い出とともに意味づけるという生涯発達の視点からまた
新たなこの研究分野への広がりの可能性も広げることに導かれた。
語りについてのアンケートでの利点と限界を今後の研究計画でより明らかにしながら、幼児期
の絵本の読み聞かせという「共有体験」についての構造化と、思春期の自尊感情との関連につい
て今後の研究課題を見つめてゆきたい。
<引用文献>
Bus, A.G. & van IJzendoorn, M.H. & Pellegrini, A.D 1995. Mothers reading to their 3-year-olds : The role of
mother-child attachment security in becoming literate, Reading Research Quarterly, 30, pp. 998-1015.
河合隼雄 2006.心の扉をひらく,岩波書店.
近藤卓 2010.自尊感情と共有体験の心理学,金子書房.
九鬼種乃 2013.自尊感情を育てる実践に役立つ絵本リスト,pp98-103. In 近藤卓,子どもの自尊感情をど
う育てるか,ほんの森出版.
野村庄吾 2010.乳幼児の世界,岩波書店.2010.
齋藤有、内田伸子 2013.幼児期の絵本の読み聞かせに母親の養育態度が与える影響:「共有型」と「強制
型」の横断的比較,発達心理学研究,24、2,pp. 150-159.
関 一夫 2011.赤ちゃんの不思議,岩波書店.
谷川賀苗 2011.子どもと絵本:絵本リスト『絵本の扉』1はどのように家庭で受け止められているか,帝
塚山学院大学人間科学部研究年報,13,pp. 59-72.
トルストイ 1971.少年時代,岩波書店.
山本茂 1990.読み方教育における多読の試み(1),香川大学国文研究,15,pp. 23-31.
レイノルズ,P 2004.てん,あすなろ出版.
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