客室乗務員と看護師との連携による心肺蘇生

第 11 回日本臨床救急医学会 ランチョンセミナー開催
飛行中の AED 初成功事例
客室乗務員と看護師との連携による心肺蘇生
元日本航空 健康管理室 主席医師
(株)JALUX JLSS 医療顧問 大越 裕文
2007 年11月30日、日本航空グループJALWAYS の機内
で突然の心停止を起した男性が、 客室乗務員とたまたま乗
り合わせた看護師さんの連携によるAEDを用いた心肺蘇生
により救命されました。機内での除細動成功例は、過去にも
ありましたが、生存退院例は今回が初めてとなりました。
航空機内搭載までの経緯と影響 日本航空が最初にAED の機内搭載を検討したのは1997
年にさかのぼります。きっかけとなったのは、オーストラリアの
航空会社であるカンタス航空がAED の機内搭載の有用性を
発表したことでした。しかし、当時の日本では AEDが殆ど認
知されていなかったことから、AEDの搭載は見送られました。 (左から)大越先生、JALWAYS 榊さん、自治医科大学病院看
護師 吉田さんのご主人と吉田さん、慈恵医科大学教授 小川先
一方、欧米の航空会社は次々にAED 搭載を開始し、2001
生、JALWAYS 深谷さん
年 4月アメリカ連邦航空局はアメリカ国籍の航空機へのAED
搭載を義務化しました。事実上、AEDは機内医療機器のグ
ローバルスタンダードとなったわけです。
救命例
そこで、AED 搭載の是非についての検討を再度行いまし
救命されたのは、68 歳の日本人男性です。胸痛を訴えた
た。その結果、8 年間で心臓疾患が原因と推定される心停止
ことから、酸素吸入を受けていましたが、終了後に突然意識
例が21例発生し、うち15 例においてその発症が目撃されて
を消失しました。すぐに機内アナウンスによりドクターコール、
いました。すなわち、AEDの機内搭載により救命できる可能
AED の準備が行われ、AEDによる除細動が行われました。
性のある心停止例が存在していたことから、2001年10月より
乗務員は、訓練と同じように慌てずに迅速な対応が取られて
AEDの搭載を開始しました。
いたようです。なお、ドクターコールに協力して頂いた看護師
AED の機内搭載を決定後、客室乗務員のAED 使用につ
さんは、新婚旅行中であり、医療関係の会社に勤務している
き厚生労働省と協議を開始しました。その結果、客室乗務員
ご主人がドクターコールに対して“ここに看護師がいます”と
も医師が不在の場合に限り、AEDを使用することが認めら
手を上げたとのことでした。ご主人も人命救助に多大な貢献
れました。AED 搭載後わずか3 ヵ月後という異例の速さでし
を果したことになりました。1回目の除細動により意識を回復
た。日本航空のAED の機内搭載と客室乗務員のAED 使用
されましたが、3 時間後、再び意識を失いました。AED の電
許可は、救急救命士の除細動使用に関する制限の緩和、一
客パッドは装着されたままでしたので、直ちに2 回目の除細動
般人のAEDの使用認可に大きな影響を与えました。
が行われ、意識もすぐに回復しました。1時間後、成田空港
に着陸し、
救急隊により病院に搬送されました。退院された後、
AED 搭載プログラムの概要
救命された男性から看護師さんにお礼の電話があったそうで
す。
機内で、迅速にAEDを用いた心肺蘇生を行うために、種々
の対策が必要となりました。
病院外での救急医療は、多くの困難を伴います。ご協力い
●AED の音声メッセージを日本語と英語のバイリンガルメッ
ただいた看護師さんからも、ドクターコールの方法の見直しや
セージに改良。
地上との連絡方法の見直しなどの指摘を受けました。救急体
●AEDから生ずる電磁波の運航危機への影響の検証。
制をより良いものにしていくためには、成功不成功に関係なく、
●客室乗務員によるAED 使用の緩和の働きかけ。
もっともっとAED
使用例の検証を行うべきでしょう。さらに、
●心停止が発生した時の対処法に見直し。機内アナウンスシ
健康リスクを抱えたの方々が安全に旅行を楽しんでもらうため
ステム使用による乗務員間の連絡の短縮化と通路での心
に、地上医療支援体制を含めたさらなる救急体制の確立と急
肺蘇生。
病人予防対策の強化が急務と考えます。
●客室乗務員に対するAED 教育。
●救急医療機器・医薬品の充実。
最後に、ご協力いただきました日本航空、JALWAYS の関
●AED 使用例の評価。
係者の皆様に深謝いたします。
●ホームページ等による情報提供。