ソーラパネルでフィールドサーバを 長期安定運用するための基本設計 深津 時広 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構,〒305-8666 茨城県つくば市観音台 3-1-1 要旨 ソーラパネルでフィールドサーバを長期に安定運用するためには,消費電力に応じたソーラパネルのサイズを 試算する必要がある.まず消費電力を抑える工夫のひとつとして,強制通風管の計測前運転をどれくらい短くで きるかを求めた.また単に間欠駆動で消費電力を抑えるだけでなく,メイン CPU で各個別要素を必要な時のみ稼 働させる手法について述べた.ソーラパネルのサイズを試算するにあたり,計算式および実測データの両面から 評価したところ,概算で消費電力 1Wh の機器に対して 15W 前後のソーラパネルが必要という目安を算出した. これを基に,ソーラパネルを用いたフィールドサーバの長期運用試験を行った. キーワード フィールドサーバ,ソーラパネル,消費電力,アスマン式,省エネ制御 緒言 稼働システムを除き,1 時間に 1 回といった定期的なサ ンプリングで十分であるため,非計測時に電源を落とす ことで消費電力を抑えることができる. 近年,フィールドサーバ(深津・平藤 2003)をはじめと このとき,計測時間をできるだけ短くすることが望ま する野外計測システムの利用が盛んになっている.フィ れるが,気温や湿度などを精度よく測定する場合,強制 ールドサーバは ZigBee などの従来のセンサネットワー 通風によってセンサ値をある程度安定させる必要がある. クとは異なり,ネットワークカメラによる画像情報の取 そこでこの時間がどの程度必要か,実験を行った. 得や Wi-Fi/3G によるデータ通信,アスマン式強制通風計 測などを実現するため消費電力が大きい.そのため当初 は商用電源を利用した設置を基本としていたが,多くの 場所への設置が要望されるにつれ,ソーラパネルによる 運用が行われるようになった.このとき,十分な発電容 量のものを用意できるのであれば問題ないが,コストや 設置スペースなどの制約があるため,長期に安定運用す るためにはデータの収集間隔などを含め設置前に様々な 検討が必要となる.そこで本研究では,消費電力を支配 する間欠駆動時の電源 ON 時間や省エネ駆動のための個 別機器制御手法,発電・充電量を推定するためのソーラ・ バッテリの実測評価,これまでの運用事例データに基づ く標準的な設計指針,などについて述べる. 図 1. 強制通風による計測データの変化 図 1 に,1 時間機器を休止させた状態から強制通風を 開始したときの計測データを示す.データは 2012/7/4 の 間欠駆動時の強制通風時間 茨城県つくば市のものであり,フィールドサーバ II を用 いた.このときの外気温 28.3 度であり,指数関数で外気 消費電力を如何に抑えるかがソーラ駆動時において重 要であり,その基本的な手法のひとつが機器を間欠駆動 させることである.農業分野では,異常監視などの常時 温に漸近すると仮定した場合,近似曲線の時定数は 109 秒であるため,5%以下で計測値を漸近させるには,少な くとも時定数の 3 倍の 327 秒は稼働させる必要がある. 個別要素の電源制御手法 タイマ回路などを用いて機器全体を間欠駆動する場合, 時刻補正をしないと計測間隔がずれる,内部メモリが毎 回初期化される,などの不具合が生じる.そこでメイン CPU の電源を落とさず 1 時間に 1 回計測を行う場合,ど のような省エネ手法が考えられるか検討した. 標準的なオープンフィールドサーバでは,メイン CPU (Arduino),メイン回路(含む Ethernet Shield),通信モジュ ール(Wi-Fi/3G),ファン,カメラの各消費電力は 12V に 対して,0.03,0.12,0.2,0.15,0.25A である.このとき, 計測前 5 分間ファンを稼働,計測後ファンを止めて通信 モジュール・カメラを 5 分間稼働し,データ取得・送信 を行いつつ NTP で時刻補正する手法を提案する.このよ うにすることで,安定してデータ取得を行いながら消費 図 3. 20W ソーラの 12V17Ah バッテリへの充電の様子 なお,対象のバッテリは 12V17Ah (20 時間率: 0.85A の 負荷で 20 時間後に 10.5V)であり,一般に 11.5V で負荷遮 断されるため,実際に利用できる容量は約 60% (満充電 時 13V,電圧変化は比例と仮定)の 122Wh となる. 電力を平均 1Wh まで抑えることができた(図 2). 実証試験 平均消費電力 3.6Wh のフィールドサーバ 2 台を,40W および 50W のソーラパネルで宮城県古川市にて運用し たところ,2013/1/1~3/31 の 90 日間で,72 日および 78.5 日稼働できることが確認された(図 4). 図 2. 個別要素を電源制御したときの消費電力の変化 ソーラパネル・バッテリの実測評価 必要な消費電力の概算が済んだら,設置場所でどれく らいの電力を発電できるかを検討する必要がある.発電 図4. フィールドサーバ長期運用試験(50W ソーラ時) 2 量は一般的に,その地域の日射量データ(MJ/m ),ソーラ パネルの容量(W),取り付け角度補正,温度などのロス 率で試算できる.ソーラパネルは季節・緯度などに応じ 謝辞 て角度を付けることが望ましいが,設置条件の制約から 必ずしも最適な角度にはならない.またソーラパネルの 本報告は,農水省「食料生産地域再生のための先端技 容量も,実際はメーカによってばらつきがある.そこで 術展開事業・土地利用型営農技術の実証研究」 , 文科省 「気 ソーラパネルの発電量を実測し,評価を行った. 候変動適応研究推進プログラム・地球環境変動下におけ 図 3 に 2 種類の公称 20W ソーラパネルを用いた充電実 る 農 業 生 産 最 適 化 支 援 シ ス テ ム の 構 築 」, 総 務 省 験の結果を示す.実験は 2012/11/22-25 に茨城県つくば市 「SCOPE・地域農産物ブランド化を支援する分光型クラ で行った.同じ容量でも,バッテリの充電量が 14%程度 ウドセンサネットワークの農圃場「現場」実証試験」に 異なることが確認された.またこのときの日射量は平均 よる研究成果に基づく. 2 2 で 2.1kW/m ・day(7.56MJ/m ・day),定格容量が公称 20W のソーラは AM1.5,放射照度 1kW/m2,モジュール温度 25 度で 20W の出力であることから,ロス補正を 0.7 とす 引用文献 ると 1 日で約 30Wh の発電量となる.この試算の場合, 深津時広・平藤雅之(2003)圃場モニタリングのためのフィー 対象のバッテリは約 4 日で満充電となりほぼ一致する. ルドサーバの開発,農業情報研究,12(1):1-12.
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