結核事例集 平成20年度厚生労働科学研究費補助金(地域健康危機管理研究事業) (主任研究者 北川定謙) 「健康危機管理体制の評価指標、効果の評価に関する研究」結核研究班作成 研究分担者:永井伸彦(秋田県横手保健所) 研究協力者:白井千香(神戸市保健所・保健福祉局)、成田友代(東京都福祉保健局)、吉 田道彦(品川区保健所)、永井仁美(大阪府茨木保健所)、山田敬一(名古屋市北保健 所)、阿彦忠之(山形県健康福祉部)、加藤誠也(結核予防会結核研究所) 事例1 「大学での大規模集団感染事例」 事例2 「複数県で頻回に自己退院を繰り返した多剤耐性結核事例」 事例3 「事業所で発生した大規模集団感染事例」 事例4 「派遣社員を初発患者とする結核集団感染事例」 事例5 「若年多国籍集団と航空機内同乗者に接触者健診を経験した事例」 事例6 「職場健診未受診および受診の遅れから結核集団感染に至った事例」 様式2 事例1 大学での結核集団感染事例 DO(行ったほうがよい) ○患者の症状がひどかった時期に密閉度の高い教室での集団感染が疑われた事例である。 ○濃厚接触のあった親戚、学生のみならず、出入り業者からも患者が発生した。 ○本例は国内で大きな集団にQFTの有用性を明らかにしえた初めての事例である。 ○患者の菌株は近隣都市でも複数検出されている。 ○菌の遺伝子検査により、初めて相互の関連性が特定できた。 ○概要 初発患者は大学生で平成○年12月上旬に咳、痰で発症。翌2月上旬に肺結核と診断。こ の間に換気の悪い部屋で多数の学生・教職員と接触。発病者24人、潜在性結核感染症 134人に及ぶ集団感染となった。 ○初動 発生届受理後患者への初回面接を実施、患者所在地を管轄する保健所から本人に関する 情報を入手した。また、当初から大学と連携し、結核専門家を交え接触者健診を進め た。 ○健診・経過 接触のあった学生・教職員を「濃厚接触群」220人、を「非濃厚接触群」369人とし、 QFT・ツ反応検査を同心円方式で実施した。ツ反検査で明らかな2峰性、右方変位を認 め集団感染と判断した。濃厚接触群から計16人、非濃厚接触群から2人のあわせて18人 の患者が発見され、診断約1年にも同大学関係者が2人、家族・親戚4人が発病した。ま た潜在性結核感染症治療者は134人に及び、うち6人が発病した。発病者24人中、6人 にRFLP検査を実施し全員が初発患者のパターンと一致した。患者発生2年後には出入り 業者からも結核患者が発生しRFLP検査の結果、本事例と一致した。この業者は健診を 実施しなかったにもかかわらず健診を行ったと虚偽の申告を大学側に行っていた。 ○潜在性結核感染症の治療 登録は大学所在地の保健所が行っていたが、内服者の管理を大学が行うのか保健所が行 うのかもあいまいなまま服薬支援を行っていた。この結果①治療中断者が多数出た、② 携帯電話による連絡確認DOTSを基本としていたため電話番号の変更による連絡不能例 が多数出た、③CCでのメール送信によるアドレス流出などの問題が発生した。 1)接触者健診では動線を把握し、綿密な調査を行い記録を残す ①患者の動線は必ず把握する 感染性が高い場合には患者の動線を確認して感染が起こりうる場所を確認す る。 ②調査記録は必ず残す 環境調査やどのような根拠で健診を進めたのかは写真・文書での記録を必ず残 す。 本例では初動時の調査記録が不十分であり、後に健診範囲の拡大が困 難となった。 2)学校等で結核患者が発生したときには、施設側と協力して対応を図る ①初動時から施設と協力して調査を進める 施設内の動線の把握や職員・学生への周知には施設側の協力が不可欠であるた め、施設責任者を含めた会議を持ち方針を決めていく。 ②情報は関係者で共有し、役割分担も明確にしておくが重要である。 DON'T(行わない) 1)職員・学生以外の健診状況を確認しない 施設が大きな場合には常時出入りしている業者の発病も考慮し、その健診結果 の確認を行う。本件では後に出入り業者から大量排菌の発病者が発見された。 2)複数の患者を対象とした E メール DOTS を行う 潜在性結核感染症者へはE-メールによる連絡確認DOTSを行っていたが、C.C による同時複数配信をしていたため、個人のメールアドレスが他者に知れてし まった。電子媒体を利用したDOTSを行う場合には個人情報の取扱への十分な 配慮が必要である。 3)患者管理を施設にのみ任せる 大学、保健所の役割分担が不明確なまま服薬治療を行っていたため治療中断、 卒業後の追跡困難例が多数でた。役割を明確にし保健所が責任を持ってDOTS を実施することが重要である。 ○経過観察 在学中は相互に連携し健診、経過観察を進められたが、卒業後追跡が困難となるケース が続出した。卒業後の追跡手段を考慮した健診計画を作成しておく必要があった。 ○参考文献 船山ほか:大学での結核集団感染におけるQuantiFERON(R)-TB-2Gの有用性の検討、 結核、 Vol.80 No.7: 527-534, 2005 1.患者の動線を把握する。長期間経過を追跡する。判断根拠のわかる記録を残す。 2.初動は迅速に、施設とも緊密に連携を行いながら調査を進める。 3.規模が大きい場合には外部の結核専門家の協力も求める。 4.患者の管理は施設に任せず、保健所が責任を持って行う。 5.電子媒体(メールなど)を用いた連絡を行う場合には情報の漏洩に配慮する。 様式2 事例2 複数県で頻回に自己退院を繰り返した 多剤耐性結核事例 多剤耐性結核事例 ○患者はホームレスであり過去に結核の診断を受ていた。 ○多剤耐性であり少なくとも13都府県、30以上の病院で自己入退院を繰り返していた。 ○保健所・福祉事務所の対応、自治体間の連携、情報共有のあり方が問題となった。 ○探知 警察に保護されたホームレスの40代男性が、「自分は肺結核でガフキー9号である」と自 己申告したため、結核専門病院に救急搬送され、即日入院となった。入院時、肺結核G 10号であった。 ○初動 連絡を受けた保健所では入院当日にケースワーカーと保健師が医療機関を訪問した。し かし、この時点では既往歴の十分な聴取ができず、ケースワーカーはN95マスクを着用し ていなかった。患者は入院5日目に自己退院し以後行方不明となった。 ○接触者健診 自己退院2か月後には多剤耐性結核であることが判明した。警察ではマスク着用がなかっ たがリスクが極めて低いため接触者健診不要と判断した。 ○情報共有 患者は再び当自治体に現れたが、再度自己退院したため過去に登録のあった自治体に照 会をかけ、患者の情報の収集を行った。この結果13都道府県、のべ30以上の病院でご く短期間に入退院を繰り返し、病院をホテル代わりに使用していた実態が明らかになっ た。一方、患者の既往歴を丹念に追跡した保健所はなくいずれも放置されていた。患者 が再度現れた時に関係行政機関や近隣自治体への情報提供のあり方がわからなかった。 ○福祉事務所との連携 ある自治体では福祉事務所と保健所との連携がなかったことから金銭や金券の支給を 行っていた。 DO(行ったほうがよい) 1)患者の生活歴・生活パターンは確実に把握する DOTSを考慮し誰が見ても支援内容・根拠がわかるよう記録に残す。 2)患者との信頼関係の構築を第一に考える 接触者検診を考慮した情報収集を最初に考えていたため患者支援が後回しになった。 患者へは思いやりを持って接し、信頼関係の構築に努めるべきである。 3)福祉・消防・警察など保健以外の部署とも連携し定期的に教育を行う 常に連携を図り随時相談できる体制や出張講座等により教育を行っていくことが大切 である。 4)日頃から医療機関や近隣自治体と連携を図り情報提供のあり方を検討しておく 結核の既往がある場合には可能な限り当時の管轄保健所に確認する。 患者の治療状況やコンプライアンスについては当時の管轄保健所に必ず確認する。 DON'T(行わない) 1)過去のビジブル情報を鵜呑みにする 担当者は直接確認することなく、過去のビジブル情報を漫然と書き写していた。 過去のビジブルに情報が記載してあっても内容を直接患者に確認することが重要であ る。 2)不審・不明な点を放置する 結核の既往があるにもかかわらず治療内容・経過を十分把握せず対応していた。 このため、多剤耐性であることや他都市での対応・治療状況の把握が大きく遅れた。 3)保健所のみで対応を判断する 本例は当初患者既往歴の把握が不十分で、多剤耐性結核ということも判明していな かったため通常の結核として保健所のみで対応していた。早い時期に福祉や本庁と連 携しできるだけ多くの情報を収集するべきであった。 ○転帰 患者はその後他自治体で入院中に事故死したとの連絡が入り本件を終了とした。 ○参考文献 吉田ほか:複数県で頻回に自己退院を繰り返した一例: 保健師・看護師の結核展望; 81,40-46,2003 常に最悪の事態を想定し対応することが重要である。このためには基本的なことであるが 1.患者と良好な関係を構築し、直接正確な情報を聴取すること。 2.関連機関とも情報交換のできる体制を構築し結核の教育を行っておくこと。などがきわめて重要 である。 4.まとめ‐ 様式2 事例3 事業所で発生した大規模集団感染事例 DO(行ったほうがよい) ○初発患者は咳がひどい時期もマスクの着用なく仕事を継続していた。 ○密閉度が高い職場環境が感染の拡大に大きく影響したと考えられた。 ○当初、初発患者はINH耐性と聞いていたが、後にINH感受性を確認し た。 ○本例は職場での集団感染事例であるが、QFT陰性者の取り扱いにも注意 が必要なことが明らかとなった。 1)探知後は、関係機関と連携し、必要な対応を迅速に行う。 当初から患者所在地保健所・職場と連携を行うことで円滑に健診が行えた。また職場と の協力体制により患者・LTBI治療者の内服の管理、定期外健診の継続ができた。 2)QFT検査を積極的に活用する。 60歳未満へのQFT検査が潜在性結核感染症の治療対象者の適切な選定につながっ た。 3)健康教育では、定期健診の重要性を強調する。 この事例を受けて、職場での咳エチケットや定期健診が徹底強化された。 ○探知 ・初発患者は都内に勤務する会社員。 ・平成△年8月頃から咳、痰で発症。耳鼻科受診も風邪と診断され以後 放置。症状改善ないため同年12月近医内科を再受診し肺結核と診断(G 8号、bⅡ2)。 ○初動 ・保健所は発生届受理後、患者管轄地保健所・職場と協力し接触者健診 を実施。 ○健診 ・有症時に気密度の高い室内で接触があった職員29名を「濃厚接触群」 とし23人にQFT、29人に胸部X線検査を実施した。 ・接触者健診の結果、QFT陽性・擬陽性15人であったが →2人の発病者と13人の潜在性結核感染症治療対象者が出た。 ・発病者は濃厚接触群から、6ヵ月後健診で1人、1年後健診で1人。 ・潜在性結核感染症(LTBI)治療者は13人。 →RFPによる6ヶ月間の治療を行った結果、発病者はなかった。 ○資料 ・現場で役に立つ QFTのQ&Aと使用指針の解説(平成20年7月改訂)森 亨監修 財団法人結 核予防会 ・結核の接触者健康診断の手引き 第2版 平成17~19年度厚生労働科学研究(新興・再興感染 症研究事業)「効果的な結核対策に関する研究班」(主任研究者: 結核予防会結核研究所長 石川 信克)「効果的な患者発見方策に関する研究」分担研究者 山形県衛生研究所長 阿彦 忠之 2007.7月 DON'T(行わない) 1)関係保健所への連絡を後回しにする 初発患者は居住地域の病院に入院していたため、患者面接実施保健所と職場管轄する保 健所が異なっていた。そのため、保健所間でのコミュニケーションが十分とれず職場へ の初動対策の遅れが問題となった。 2)あいまいな点は不明確なまま調査を進め、記録も行わない 当初患者はINH耐性との情報を入手していたいたため、RFPによるLTBI治療を行ってい たが後にINH感受性であることが明らかとなった。これは口頭でのやり取りのみによる 情報の行き違いの結果によるものであった。菌検査などの重要な情報は公文書での記録 を残しておくべきであった。 3)QFTの結果を総合的に判断することを怠らない 経過観察の時点でQFT陰性者から患者発生があったが、経過観察対象者から除外してい たため早期の発見に至らなかった。QFT陰性者からの発病もあることを常に念頭に置 き、集団感染が疑われる場合にはQFT陰性者の経過も追跡する必要があった。 4)健診結果の説明を一人ひとり丁寧に行うことを怠らない QFTの結果説明を個別ではなく、集団を対象に行ったものがあったため職場ならびに職 員から不信感をもたれることになり、以後の健診を進めにくくなった。 ○QFTは感度89%,特異度98%と精度の高い検査であるが・・・ →陽性者が多発、集団感染疑いの場合には陰性であっても経過観察が必要である。 ○職場での接触者健診では患者・職場との信頼関係の構築に努める →本事例では一時的に職場との連携が不良になったが、その後職場の不安や希望を聞くことで 再び良好な関係を築き健診を進めることができた。 様式2 多剤耐性結核事例 事例4 機械部品工場の派遣社員を初発患者とする結 核集団感染事例 1)非正規職員への健康診断の不徹底に対する指導 当該事業所(派遣先)と派遣元の双方に定期健診必要について指導。 →派遣社員も定期健康診断の対象として実施することとなった。 ○患者は派遣社員であり、定期健康診断の対象とされていなかった事例。 ○患者本人は保険未加入、長期間の咳嗽や体調不良が続きながらも受診をせずに勤務。 ○製品の品質向上のため、外気の流動を遮蔽していた事業所であった。 ○探知 患者は30歳代男性。派遣社員。咳嗽が続いていたが喫煙によるものとして放置。 前年12月ころより体調がさらに悪化するも、保険未加入でもあり受診せずに勤務。 6月になりさらに体調悪化したため、医療機関受診し結核と診断(G10号、bⅠ3) 即日入院加療となり保健所に届出。 ○初動 担当保健センターから接触者健診を担当する保健所への依頼に1ヶ月かかった。依頼を 受けた保健所では、すぐに現地疫学調査を実施し、事業所の責任者と協力しながら接触 者健診を進めた。 2)結核菌の解析結果の利用 聞き取り上、接触がないと答えていた患者についてもRFLPが一致。 再度さらに詳しく聴取すると、短時間の接触があったことが判明。 科学的な結果を用いることで健診範囲の拡大や健診勧奨をする際にも説得力が増す。 3)対象者の不安の軽減 複数の患者発生があったことより、従業員の間では不安が増強。 適宜、健康教育をおこなったり、健診の経過について説明したりすることで、 不安の解消とともに健診への理解・協力も進んだ。 4)外部委員を含めた評価委員会の開催 随時、外部委員を含めた評価委員会で解析・検討。 保健所担当者の考えのみで方向付けとなることのないように努めた。 1)患者・健診対象者の発言をそのまま信じる 患者との接触状況について、「接触なし」と回答していた人が発病。 本人からの聞き取りに加え、事業所内での動線をよく知る人物からも聴取する。 ○接触者健診 濃厚接触者15名を対象として開始。この健診中に別の従業員2名の発病を確認したた め、健診対象者を28名に拡大。なお2名の発病者のうち1名は初発患者との接触がな いとのことであったが、後のRFLPが一致したため、接触なしとされていた従業員まで健 診対象を広げ、最終的には117名におよんだ。 2)担当機関同士の連携が遅い 届出を受理した保健センターと接触者健診を実施する保健所が同一ではない場合、 健診を必要と判断するまでにどうしても時間を要する。 第一報を早めに入れることが重要。 ○情報共有・会議の開催 保健所内集団健診検討会を実施し、本事例は発生時から最終方針決定まで7回開催。 結核解析評価委員会(外部委員4名含む)でも報告・検討を行った。 3)予防内服者が行方不明 潜在性結核感染症治療者のうち複数名が退職となり、連絡先不明となった。 健診時等に転居や退職時の連絡依頼をしておく。(連絡先として携帯電話を聞く) ○不安の解消 事業所内で複数患者の発生があったことより、従業員の中に不安がひろまり、全従業員 を対象に健康教育をおこなった。また健診の経過についても、従業員へ随時報告をし た。 ○定期健診の指導 派遣元と派遣先に定期健康診断の必要性を説明・指導し、派遣社員についても定期健康 診断の対象者となった。 常に最悪の事態を想定し対応することが重要である。このためには基本的なことであるが 1.本人のみではなく、状況をよく知る人物からの正確な情報を聴取すること 2.派遣社員や期限付き社員の雇用は増える一方であり、定期健康診断の未徹底や理解不足に対して 十分な指導をすること。また、普段より事業所向けの啓発が必要 様式2 事例5 若年多国籍集団と航空機同乗者に 接触者健診を実施した外国人肺結核患者の事例 ○患者は外国人講師、勤務先では若年多国籍集団と接触し定期健康診断がなかった。 ○高額所得者であるが、日本の健康保険は未加入であり、結核の入院治療に拒否的。 ○勤務先と結核発病直前に利用した航空機の同乗者を対象に接触者健診を実施。 ○厚生労働省、外務省、CDC等の協力を得て国内多数の保健所に健診依頼をした事例。 ○探知 患者は40歳代女性。高蔓延国(インド)から5年前に来日。職場では講師として 若年多国籍集団(12~17歳)に接していた。結核と診断される2ヶ月位前から咳症 状あり。日本→米国→英国を旅行し、日本に戻り発熱と体調悪化のため医療機関を 受診、肺結核と診断(排菌あり、XP上空洞)され保健所に届出。 ○初動 患者本人および家族も入院治療を拒否。医師と保健師が何度か自宅を訪問し、説 得に当たり、3日後に同意し結核病棟に入院(18日間)。接触者健診は若年者の集 団との接触がある勤務先を対象として、責任者と協力しながら接触者健診を進め た。さらに、保健師は本人の海外旅行(日本→米国→英国とその逆コースを経由) を把握していたが、本人は拒否的で入院の説得だけで精一杯でどの航空会社を利用 したか聞きだせず、結局、退院後に本人の気持ちが落ち着いてから聞き取った。 ○健診 ①勤務先の濃厚接触者60名(12~17歳)を対象として健診を開始。 ・発病者1名、潜在性結核感染者6人が発見→小規模感染と判断。 ・健診対象者をさらに70名に拡大して実施した(計130人)。 →この2段階目の集団からは患者・感染者の発見なし。 ②有症状期間に利用した飛行機の特定について ・該当の航空機の利用は8時間以上のフライトの為、航空会社日本支社に説明 →海外本社の了解が得られず、厚生労働省からCDCを通して本社に連絡、 搭乗者の名前とパスポート番号を得た。 ・外務省では厚生労働省から感染症法の対応依頼により同乗者リストを作成。 ・日本国内の同乗者について全国22か所の保健所に47人の接触者健診を依頼 →3人が潜在性結核感染症の治療となる。 ・国外の健診対象者とその必要性については、CDC及び各国の判断に委ねた。 ○資料 ・Tuberculosis and AIR TRAVEL,GUIDELINES FOR PREVENTION AND CONTROL SECOND EDITION WHO/HTM/TB/2006.363 ・結核の接触者健康診断の手引き 第2版 平成17~19年度厚生労働科学研究(新興・再興感染症研 究事業)「効果的な結核対策に関する研究班」(主任研究者: 結核予防会結核研究所長 石川信克) 「効果的な患者発見方策に関する研究」分担研究者 山形県衛生研究所長 阿彦 忠之 2007.7月 1)外国人へのツ反応検査では硬結による判定も検討すべし。 対象者の出身国は結核の蔓延国であったり、先進国であったり、BCG接種も 一律には行われていないこともある。→国際的な基準としての硬結の活用 2)各種文書の英文作成と通訳の確保すべし。 保護者向けの英文説明書(日本語併記)を作成、随所で通訳を必要とした。 多言語対応が望ましいが、最低限、英語での対応ができるようにする。 →この配慮が安心感や信頼関係の構築につながる。 3)国際線航空機同乗者における接触者健診では、 厚労省と積極的に連携し対応すべし WHOの「8時間以上のフライトの場合、排菌患者の座席列を中心に 前後計5列について健診を勧める」というガイドラインに沿った対応が必要である。 厚生労働省に早期に報告し、調整に関わってもらうべきである。 4)通常の健康管理の必要性を説き、健診体制を導入 この事例を経験したことで、本人の勤務先で職員の定期健診が導入された。 外国人の組織では日本の法律や通知文を理解されていない場合がある →機会を捉えて指導! 1)患者の社会的背景を考慮せず、接触者健診を強行しない なれない土地での疾病の治療は不安! 接触者調査などは今までの行動をとがめるような思いを患者に抱かせることもある。 まずは患者本人との人間関係を構築して心を開くことに努める。 2)言語や文化の壁を乗り越える努力を怠らない 言語文化的かつ社会経済的な背景の理解に努める。 自治体内の外国人への対応が可能な部署との連携やNGOとの協力が必要である。 3)国外の対応は保健所では無理だからといって、厚生労働省への相談を怠らない 国際路線にかかわる感染症対策は結核でなくとも対応する機会がある。 厚生労働省に相談すれば、外務省、CDC、WHOなどと連携することができる。 一保健所での対応では限界があるので必ず、厚生労働省と相談すべきである。 外国人への対応は、言葉の壁から遅れがちになる。 危機管理としての一歩が踏み出せず、対応が遅れるようなことがあってはならない。 航空機を介した接触者健診の評価はひとつの自治体では不可能である。 航空機同乗の接触者健診の実施状況や実績(発見患者数や感染者数)について 保健所が連携して集計する体制を望む。 (様式2) 事例6 職場健診未受診および受診の遅れから 結核集団感染に至った事例 ○初発患者が、発病前年の職場健診で胸部X線検査が要精検であったが放置。 発病年には職場健診を受けず、症状出現後も医療機関を受診せずにいた事例。 ○スーパー従業員という接客業で対人接触の多い業務であったことも集団感染の要因であ る。 1)QFTを積極的に取り入れ早期発見・早期治療につなげた。 2回目の接触者健診以降、広く対象者を拡げQFT検査を導入し感染者の発 見に切り替えたことで、その後の発病者の発生を食い止めた可能性がある。 2)日頃からの定期健診の確実な実施に向けた体制を支援できた。 産業医の配置を指導し、受け入れられた。今回のケースも職場健診で要精査 でありながら未受診であったことから、確実な受診に向けての体制づくりの一 環となった。 ○探知 ・初発患者はB市に居住する40代男性(スーパーマーケット勤務)。 ・平成18年10月中旬頃から咳、発熱が続き、体重減少10kg、全身倦怠感が見ら れた。 ・翌1月中旬に医療機関受診し肺結核と診断(G6、bⅠ2pl)。 ○初動 ・保健所は発生届受理後、患者への初回面接を実施、所内対策会議において、 接触者健診の対象者を決定し、その実施を進めた。 ・健診の対象を家族(患者・妻・子2人、両親の6人家族)及び 職場(従業員数136人)同僚とした。 1)塗抹陽性患者が登録された時点では、集団感染の想定が十分できていな かった。 接触者健診で、発病者や感染者が明らかになっていく中で、集団感染になっ ていることに気づくのが遅れてしまった。初発患者の届出があった時点で、職 場等の状況調査を踏まえて集団感染等危機を想定した対応を取るべきであっ た。また、年度をまたぎ、担当者の人事異動の際に十分な引き継ぎができず、 それまでの感染者数など十分把握できていなかったことも反省点である。 ○健診 ・最も濃厚に接触している家族5名と職場関係者90名の計95名に対し、 胸部X線検査を実施(29歳以下の者はツ反応検査と胸部X線検査)。 ・家族より発病者1人(胸部X線所見(Ⅲ)のみ)、感染者1名が判明した。 ・職場の濃厚接触群からは、 登録時に発病者1人(胸部X線所見(Ⅲ)のみ)、感染者4人。 6ヵ月後健診で発病者1人(培養陽性)、感染者8人が発見。 1年後健診では、濃厚接触者以外に全従業員に対象を広げて実施 →感染者4人が新たに発見。 ・発病者4人と潜在性結核感染症17人の集団感染であった。 3)接触者健診対象者について、家族・職場以外の交友関係を十分把握して いなかった。 感染経路・感染源の推定が不十分であった。特に、初発患者の家族と職場関 係だけを対象にしたが、その他の交友関係も聞き出し調査の必要性を検討すべ きであった。 2)集団感染対策検討を内部関係者だけで行った。 集団感染対策検討会を所内だけで行い、外部関係者や専門家の参加がなく、 健診方法や積極的疫学調査に多角的な視点が欠けた。 4)接触者健診の未受診者への働きかけが十分とは言えなかった 接触者健診未受診者が数名出てしまった。受診勧奨を徹底すべきであった。 ○資料 ・結核の接触者健康診断の手引き 平成21年改訂版 平成17~19年度厚生労働科学研究(新興・再 興感染症研究事業)「効果的な結核対策に関する研究班」(主任研究者: 結核予防会結核研究所長 石川信 克) 「効果的な患者発見方策に関する研究」分担研究者 山形県衛生研究所長 阿彦 忠之 2007.7月 塗抹陽性肺結核患者が発生した時点で、集団感染等の想定を常に念頭に入れて対応 すべきである。また、接触者健診対象者を把握するため、家族や職場以外の交友関係 の調査も漏れなく実施しする必要がある。
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